かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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もうそろそろストックが切れますのできれたら週一更新になりそうです。すみません。


第二話 その6

全てのものには其れ相応にふさわしい場所があると思う。例えば文房具なら机の上や引き出しの中だったりとか筆箱の中だったりとか相場というものが決まっている。

 

それは生き物にも当てはまる。例えば、魚なら水の中。クマだったら山の中、ってな風な感じだ。その生き物が本来生きていくべき場所である。それと同時にそれ以外の場所にいるといわゆる場違いと言われるものになる。

 

つまるところ、何が言いたいのかと言うと、俺がここに今こうしているのは場違いな感じがして甚だ心が落ち着かないということだ。

 

俺が今いるのは、昨日に引き続き南女子高校。これまた昨日に引き続き本当に青い雲ひとつない空だった。これだけ気持ちがいい晴れが続くと色々な意味で嬉しい。基本的に雨よりも晴れがすきなのだ俺は。でも天気はいいけど気分はいまいちだ。

 

周りを見渡すと、花の女子高生達のきゃっきゃと黄色い声が聞こえる。

 

「ん? どうしたの、兄さん? そんなキョロキョロして。もしかして可愛い子でも探してるの? 兄さん、それはダメだよ! 女の子と一緒に回ってるのに他の子のこと気にするなんて!」

 

「いや、ただ俺がここにいるのが場違いなような気がして……」

 

南女子高校文化祭二日目。昨日ミズキが言っていたように男の人はほとんどと言っていいほど皆無だ。

 

「そんなこと気にしなくていいよ。だって許可証持ってるんだし」

 

そういって、俺の首にぶら下がった許可証を指差す。

 

昨日のライブの報酬はこの許可証だった。

 

ミズキ曰く、この南女子高校文化祭には男性はほとんど行くことができないらしい。入れるのは、親族もしくは工事や作業の従業員のみだとか何とか。

 

確かに周りを見渡しても男性はちらほらしか見えない。しかも、全員年齢が俺よりも上の方々が多い。きっと親御さんなんだろう。

 

首から紐で胸元までブラされげている通行許可書をもう一度見る。

 

「ほら、兄さん! 行こっ! 雪歩も待ってるよ!」

 

そう言って俺の二の腕あたりを掴み駆け出す真。

 

その勢いに転びそうになるも、何とか持ちこたえて彼女と一緒に駆ける。

 

特徴的なくせ毛がヒコヒコと揺れる。相当機嫌がいいみたいだ。

 

「真、そんなに走るなよ」

 

ただただ俺はそんな真に引っ張られるだけだった。

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所の校舎の前に向かうとすでに雪歩ちゃんが待っていた。服装は紺に近いセーラー服。よく似合っている。

 

俺みたいに馬子にも衣装じゃないところが流石だ。と言うか制服が似合うっていいよね。

俺なんて高校の制服とか着られていた節があったからな……。

 

制服が似合って顔とスタイルがと雰囲気が重要なんだよな。

 

俺は3年間着た制服でさえどこか着慣れないような節があったし……。

 

ミズキやヒロトは言うまでもなく、どんな服を着ても似合う。

 

二人とも着崩す形で着てたな。美形って得だよね……。本当に。

 

SSKですらそれなりに似合っていたよな、そういえば。

 

まぁこればっかりはどうしようもないし、どうする気もない。そもそももう、制服着る機会もないしね。

 

「真ちゃん、お兄さん、おはようございます」

 

そういってぺこりと頭を下げる雪歩ちゃん。礼儀正しい子だ。

 

「雪歩ちゃん、おはよう」

 

「雪歩、おっはよー!」

 

「真ちゃん、今日も元気いいね」

 

「そりゃ、そうさ、僕は元気がとりえだからね!」

 

そういってにっこりと微笑む真。こうして見ると本当に雪歩ちゃんと仲がいいみたいだ。

 

本当に赤羽根さんに任せて良かった。たとえアイドルとして大成しなくても、この仲間とこの経験はきっと未来の、人生のためになるはずだ。

 

「とりあえず、雪歩。今日はどこ回るの?」

 

「えーとね。今日も一通り回ろうと思うけど大丈夫?」

 

「うん!全然平気だよ! 兄さんもそれでいいよね?」

 

「うん、それで大丈夫だよ」

 

それで大丈夫というよりも、俺はこの学校の生徒でもなんでもないし、こういうのは一番ここに詳しい雪歩ちゃ

んに任せるしかない。

 

「あっ、雪歩ちゃんは何かこの文化祭でやることはないの? クラスの手伝いとかさ」

 

文化祭といえば何か出し物をクラスや部活でだすのが一般的だろう。この南女子の文化祭はそれなりに本格的であり、出店も沢山ある。ちなみに雪歩ちゃんと待ち合わせしているこの校舎の向こう側が運動場となっており、そこに多数の出店がある。昨日演奏したライブ会場も運動場だ。

 

やっぱり、この学校って大きいんだよな。南女子とはお嬢様学校で有名で俺でも名前くらいは知ったけど学校がここまで大きいとは知らなかった。

 

まず校舎だけでも6つあるとこが凄い。我が中央高校の倍だ。

 

それにうちの高校よりも綺麗だ。そりゃうちは公立でこっちは私立でお嬢様学校だ。それでも比べてしまいたくなる。

 

「えーっと、クラスの手伝いは昨日やったから大丈夫ですよ。お兄さん!」

 

ぐっと、拳を握り締めながら言う。

 

「そうか、それは俺としても嬉しいけど、俺たちと回って大丈夫なの?」

 

クラスの子とかと一緒に回ったりしなくて大丈夫だろうか? 俺と真は部外者もいいとこ。と言うか俺に限ってはこの首からかかっているこの証明書がなければ文字通りつまみ出されるレベルなのだ。

 

「はい、大丈夫です。私も真ちゃんとお兄さんと回りたいですしぃ。真ちゃんも私が誘ったんですから!」

 

雪歩ちゃんがそこまで言うのなら俺からはいうことはない。

 

「そう、それじゃあ案内よろしくね」

 

「よし! それじゃあ早速行こう!」

 

そういって校舎に入っていく真。

 

おいおい……。お前が一番に入っても何も分からないだろ。まぁ昨日回ってるみたいだったけど、大丈夫なのか

な。

 

「兄さん! 雪歩! 早く早く!」

 

真のせかす声が校舎の中から聞こえてくる。

 

「くすっ、真ちゃん本当に今日機嫌いいですね」

 

雪歩ちゃんが笑いながら言う。

 

「そうだね、本当に機嫌がいいよ」

 

俺もつられて笑う。

 

「あっ、お兄さん。昨日は本当にお疲れ様でした。ライブかっこよかったですよ!」

 

雪歩ちゃんは笑顔のまま俺の目をみていう。照れる……。これだけかわいい子にかっこいいといわれたら誰でも照れると思う。

 

まぁでも昨日のライブは明らかにミズキが目立ってたし、かっこいいと言えばヒロトの方が数百倍もかっこいい

し。

 

俺は完全にオマケ扱いである。まぁ、なんにせよ。

 

「ありがとう。そういわれると嬉しいよ」

 

それが本心だろうとお世辞だろうと、嬉しいものはやっぱり嬉しいのである。それにやっぱり雪歩ちゃんみたいな美少女から言われると嬉しさも何倍にも増す。真からも昨日帰ったあと、散々今日の兄さんはかっこよかったよ!って言われて嬉しかったけどやっぱり身内以外から言われても嬉しいものだ。

 

「雪歩! 兄さん!二人でなにしてるのさ! 早く行こうよ!」

 

真が校舎の入り口から顔だけだして、俺たち二人を呼ぶ。だいぶ楽しみにしているみたいだ。

 

俺も楽しみだ。他校の文化祭なんてステージジャックとかでしか行ったことないし。何よりジャックが終わったら問答無用で知らん高校の先生から怒られるのだ。当たり前といえば当たり前すぎるけど。ミズキとヒロトが盛り上げ上手でライブは上手くいくのだが上手くいこうが、どれだけ盛り上がろうが学校側からすれば迷惑極まりないのである。それでも警察に突き出されたりされなかったのはライブが盛り上がったこととミズキ達のカリスマ性があったからであろう。

 

とにかく俺もこんな風に違う学校の文化祭を楽しむことができることが嬉しいのだ。まぁ先ほどから周りの女子高生の奇妙な視線が痛いけども……。

 

やっぱり若い男がこの文化祭にいるのが珍しいみたいだ。それに雪歩ちゃんがアイドルやっていると知っている子も何人もいるだろうしね。

 

これ以上、真をまたせるのは色々とまずそうだ。

 

雪歩ちゃんを見ると向こうも同じことを考えていたのか目があう。お互いに笑う。

 

そして、真のあとを追って校舎に入る。

 

校舎に入る前に上を見上げる。太陽の光に反射した綺麗なレンガ茶色の校舎だった。


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