かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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第二話 その7

「美味しいね。この焼きそば!」

 

昼下がり、俺と真と雪歩ちゃんは青空の下校庭の出店で買った焼きそばを片手にベンチで昼食を食べていた。校庭の端っこにあるベンチはちょうど校舎の影になっており少し涼むには格好の場所となっている。五月とはいえここまで綺麗な晴れ間だと少し暑い。それにお祭り騒ぎも相まっているのだ。日陰のほうがすごしやすい。

 

「うん、本当に美味しいね」

 

割り箸で焼きそばを一口つまみ口に運んだ雪歩ちゃんが真の意見に賛同する。

 

「確かにうまいな」

 

俺も一口食べる。うん、確かに美味い。いい感じにソースが効いているし、それに学園祭という雰囲気もあって美味しく感じた。

 

「あっ、そういえば雪歩、このあとはどこを回るの?」

 

午前中は6つある校舎のうちの半分の3つを回った。いわいる一般棟とよばれる校舎だったらしくて、普通の教室や職員室それと事務室なんかが入っている校舎だった。そこを回って改めて思う。

 

この学校でかすぎだと。だって考えてみろ。校舎3つが丸々ほぼ全部教室だぞ。三学年ごとに一つの校舎が割り振られているとか。どこの漫画だよ……。と突っ込んだ俺は決して悪くはないはず。

 

色々雪歩ちゃんから聞いていくうちに分かったけどこの学校単位制をとってるらしい。要は大学とほぼ同じ制度だ。必修というものも確かに多いらしいけどそれ以外は比較的自由に時間割を組めるのだとか。すげーよなマジで。ちなみにうちの中央高校は時間割がしっかりと学校側で組まれてた。どこの高校も大抵というかほぼそうだと思う。一応クラスという枠組みはあるのだが時間割が合わないとかざらにあるとか。まぁ単位制だと普通はそうなるよね。

 

まぁそんなこんなで午前は一般棟を回ったわけだ。ちなみに一般棟では格クラスごとに喫茶店や展示、お化け屋敷なんかやってた。これは普通の高校と同じらしい。雪歩ちゃんのクラスは喫茶店をやってた。コスプレでもウェイトレスさんがやってるのかなーと期待したけど、制服だった。そりゃそうか男の人は滅多にこれないとか言ってたもんな。女子同士でコスプレしても誰も得はしないのだろう。少しだけ雪歩ちゃんのウェイトレス姿を見たかったのだが、見れないものは仕方がない。

 

制服姿の雪歩ちゃんを見れただけでも満足である。

 

「えーとね、午後は実習棟と部活棟を回ろうと思うんだ」

 

なんと言ってもこの学校広い。午前中の3時間とか4時間を使っても軽く一般棟とグランドを見て回ることしかできなかった。

 

「そう言えば、昨日は一般棟しか回ってなかったよね! 楽しみだ!」

 

「うん、昨日は私もクラスのお手伝いとかあって時間もあまりなかったし、ライブもあったから回れなかったけど、今日は大丈夫だよ!」

 

どうやら一通り回ったと言っていたけど回ってない棟もあるみたいだ。広いししょうがないだろう。

 

昼の日光を浴びた運動場では昨日と同じように野外ライブをやっていた。端っこのここまで音が聞こえてくる。有志のバンドなのかな……。

 

昨日の軽音部の演奏に比べて少しだけ音が荒いような気がする。俺よりは遥かにうまいけど……。

 

でも、楽しそうな音だな。とても楽しそうな音だ。演奏を楽しんでいる。いいね、こういうの。何だか青春を感じる。

 

俺たちの演奏もこんな感じで周りに聞こえていたのだろうか? それなら非常に嬉しい。

 

「どうしたの、兄さん? 遠い目をして、何か考え事?」

 

いつの間にか真が雪歩ちゃんの方から俺の方を見ていた。

 

「いや、特に何でもないよ」

 

「そう、ならいいけど。あまり無理はしないでね。昨日も調子悪そうだったし」

 

「そうですよ、お兄さん。無理しないでくださいね」

 

心配されるとは情けない。昨日は確かに少しだけ体調が悪かったが、この程度で心配されるとは、俺もまだまだだ。それにもう、体調も戻った。いくら昨日、疲れてたって一番の心配をかけてはいけない相手に心配をかける真似をするなんて……。

 

「ごめんな、昨日は心配させて、もう大丈夫だから心配しないで」

 

「うん……。でも、体調が悪かったらすぐに言ってよ」

 

「あぁ、分かったからそんなに心配するな」

 

そう言って残りの焼きそばを胃の中に掻き込んだ。食事も時間が勝負なのである。

 

 

 

 

「それじゃあ、真ちゃん、お兄さん、行きましょう!」

 

昼食のゴミを処分したあと、雪歩ちゃんが言う。ゴミ箱は運動場の中央付近にしかないため、俺たちがいる場所は人口密度も高くザワザワと喧騒に包まれていた。お祭りとはかくあるべきだよね。うん。

 

「うん、行こう!」

 

真がノリノリで答える。とてもいい笑顔だ。

 

すると周りから「きゃー」とか「凄いカッコいいよ!」とか「わ、私、目があった!」とか「あんなイケメン始めて見たよ!」とかとか、そんな黄色い声が当たり中から聞こえる。

 

うん、誰であろう、そのイケメンとは我が妹、菊地 真、彼女のことを指す他ない。彼女の格好はいつもと同じように俺のお下がりである。言うまでもなく男物だ。

 

もともと体型的にも女っぽくない真が着てるのだ。それに髪も長くはないし、顔立ちも中性的、そりゃあもう完璧な美少年だ。イケメンだ。俺よりもよっぽど男っぽい。本人には言わないけど、殴られるし。

 

思えば、今日最初にここにきた時に感じた注目されたような感じもほとんどは真に向けられた視線なのかもしれない。というか多分そうだろう。

 

SSKが言っていたけど、真には女性のファンが多いらしい。真はまだ有名じゃないため無論その数は少ないけど、その少ないファンの中でも圧倒的に女性が占めてるとか。この光景を見るとそれも頷ける。

 

俺としては、ファンがいることだけでも嬉しいものである。

 

雪歩ちゃんも俺の横で「うわー。流石、真ちゃん。既に人気者だね……」なんて呟いていた。

 

真本人はそんなことは気にも止めてないのかそれとも気づいてないのかは知らないけど、早く行こうよ! 兄さん、雪歩! なんて歩き出している。

 

何だか鈍感系主人公みたいだな……。ふと、そう思った。主人公か……。

 

俺には決してなれないもの。どんだけ望もうと努力しようと主人公というもにはなれない。でも、俺の周りには主人公みたいなやつばかりだ。真にしろ、雪歩ちゃんにしろ、春香ちゃんにしろ……。それにミズキやヒロトなんかもそうだな。むしろヒロトなんて性格的にも顔的にも主人公にピッタリだ。

 

SSKは……。あいつは主人公ってキャラじゃないな。それに本人も否定するだろうし。

 

俺にできることは、願うことだけかな。

 

願わくば、この主人公の物語がハッピーエンドで終わりますように……。バッドエンドなんか誰も望んでいない。そう誰も望んでバッドエンドになんかしないんだよ……。

 

「真ちゃん、ま、待ってよぉ〜」

 

雪歩ちゃんは歩き出した真の後を追う。そう言えば、真は次の目的地である実習棟と部活棟の場所を知っているのだろうか……?

そう言うのも彼女っぽいな。

 

思わず笑みがこぼれる。

 

これだけ広い学校だ。一度離れ離れになると苦労するだろうな……。こんな女子が多いところで離れ離れだとある意味ストレスで胃に穴が空きそうだ。

 

雪歩ちゃんを追うために歩き始める。五月晴れが当たりを明るく照らす。いつの間にか別のバンドに変わったのかボーカルの声が先ほど違う、そんなバンドの音楽、それと雑踏が運動場を包む。屋台からフランクフルトを焼いた香ばしい香りやかき氷のシロップの甘い香り、そんな多くの香りが漂う。

 

あぁ、祭りにきたんだな。

 

そんな当たり前のことを改めて感じた。




後書き
梅雨にまつわる話を書きたいんですけどなにかいい話題を探してます。書きやすい季節のはずなんだけどな……。

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