かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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文章を書くとは難しいことですね。大変ですけど面白いです


第二話 その11

「あぁー、楽しかった」

 

体育館を出て開口一言目の真の言葉である。

あの後、真とヒロトは体育館にあった運動部の種目をすべてやっていった。俺と雪歩ちゃんはやったりやらなかったり。俺は真とヒロトみたいな体力はもうないのだ。昨日の演奏だけで死にそうだったのに。時というものは怖いものだ。

 

「でも、流石真ちゃんだね、どの競技でもすごく上手だったよ」

 

「そうかなぁ、そういわれると照れるね。でも、僕よりもヒロトさんのほうが凄かったし」

 

体育館でやったどの種目でも真はうまく万遍なくこなしていった。運動は得意なのは百も承知だけど、あそこまで出来るとはね……。真の運動神経もずば抜けていたが、ヒロトのはそれの少し上を行っていた。本人曰く、運動神経も才能も真の方が上らしい。ただ、亀の甲より年の功、年齢が上の分経験の差が出ているとか何とか。俺には二人とも運動神経がいいって言うことしか分からないけど。

 

「いや、真ちゃんの方が凄いよ。空手以外のスポーツを部活もやってないのにあそこまで出来るなんてね」

 

「えへへ、ありがとうございます、ヒロトさん!」

 

「しかし、ヒロトも流石だよな。あんだけ綺麗なシュートを打てるだなんてな」

 

「まぁ、中学と高校の時に少しだけかじっていたからね。やっていれば誰でもできるさ。それに君もしっかり決めたじゃないか」

 

全国大会にいったのをかじった程度と言うのかは甚だ問題だけど。

それに俺のシュートはたまたま入ったに過ぎないけど、ヒロトのは完全に実力だ。

 

「そうだよ、兄さん! 勝負にも勝ったし、カッコ良かったよ!」

 

結局勝負は俺と真の勝ちとなった。あのあと4球目を失敗し、残りの1球となったが、最後の5球目にどうにか決めることが出来た。その結果、5-6で俺と真がヒロトよりも1本多く勝利となったのだ。

 

俺が最後の一球を決めた時、真は凄く喜んでいた。雪歩ちゃんもそれなりに褒めてくれた。別に大したことはやってないのだけど、二人の様子を見ていたら、決めれて良かったと思った。

 

「さて、次はどこに行くの?」

 

真は手に持っているジュースを開けながら、言う。真がヒロトにお願いしたのは、フリースローのパーフェクト達成した景品であるジュースを俺たちに一本ずつ配るというものだった。もともと配るつもりだったであろうヒロトは喜んで了承、俺たちに一本ずつジュースを配った。兄としては真がこんな風に人のことを思いやれる子になって嬉しいことこの上ない。兄貴に似ずに本当に良かった。色々な意味で。

 

貰ったのはお茶が二本と炭酸飲料が二本。俺と雪歩ちゃんがお茶を選び、ヒロトと真が炭酸飲料を選んだ。

 

俺もペットボトルの風を切って一口飲む。体育館の熱気で少しだけ汗ばんだ身体に冷たいお茶は美味しい。さっきまで女子バスケ部の女の子たちにお願いしてクーラーボックスで冷やしてもらっていたためにキンキンに冷たくなっていた。

 

「うんとね、次は部活棟に行こうと思うんだ」

 

真の言葉にお茶を一口飲んだ雪歩ちゃんが答える。

 

部活棟か。言葉の響き的に部活動の部室が集まっているんだろうな。これだけ大きい学校だし、色々な部活があるんだろうな。少し楽しみだ。中央高校にも部活動はたくさんあった。全校生徒が強制で部活に入部しなきゃいけないのが校則で決まっていた。何しろ全校生徒が何処かの部活へ必ず入っているのだ。それでは部活生は多くなる。結果的に部活動の数も同窓会の数もやたらめったら多い混沌とした学校になった。色々な意味で中央の部活は有名だった。数が多いという意味やらゲテモノの部活が多いやらで。俺たちもそんなゲテモノの部活動に名を連ねていた。部活と同窓会が多すぎてどんな部活があるのか全部を言える人間は少ないんじゃないかな。同好会は部室を持っていなかったし、部室の数がそのまま部活の数じゃなかった。

 

その中央高校も部活棟は一個だった。でもここは二棟もある。部活の数もそれだけ多いのだろう。

 

「そうだ! ヒロトさんも一緒に行かないですか?」

 

「うーん。俺もちょうど行こうと思っていたけど……。雪歩ちゃんは大丈夫?」

 

「あっ、はい。ヒロトさんにはどうにか慣れましたしぃ」

 

雪歩ちゃんは昨日と今日でヒロトとは普通に話せるようになったみたいだ。本人はそう言っているが少しだけぎこちない。でも、ほぼ初対面の男の人相手にここまで喋れるようになったのは大きな進歩だと言える。

 

「それは、良かった。それじゃあ、俺も一緒に回ろうかな」

 

「うん! それがいいです!」

 

真とヒロトのコンビか……。悪くないな。相性もお互いにスポーツ好きだし、人もいい。顔も美形だし、お似合いだ。このまま引っ付け。以外とマジで。ひっついて欲しい。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

キャップをキュッと閉めた雪歩ちゃんはが言う。立ち止まっていると視線が痛い。俺じゃなくて真、ヒロトに当てられている視線だけど、小市民の俺には注目は毒である。注目されてるのは俺じゃないけど。

 

「よし、行こう!」

 

「そうだね、そろそろ行こうか」

 

真、ヒロトの順に答える。

 

「それじゃあ、雪歩ちゃん、案内よろしくね」

 

雪歩ちゃんが歩き始める。そのすぐ後ろに真、少し離れて俺とヒロトが続く。体育館の雑踏に背を向けて部活棟へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、いっぱい部活あるね」

 

部活棟は一般的な校舎と同じ部屋が横並びになっていた。それぞれの扉にはプレートが掲げられている。俺たちが始めに訪れたのは部活棟1と呼ばれるところだった。雪歩ちゃんも詳しいことは知らないらしいけど部活棟1は文科系が中心で部活棟2は運動系が中心らしい。ちなみに部活棟2は運動系がほとんどなので文化祭では一般公開されてないとか。つまりこの部活棟1ですべて回ったということになるわけだ。

 

「たしかに多いな」

 

真の言葉にヒロトが続く。

 

パッと見ただけでここ一階だけでも中々の数の部活があるみたいだ。プレートの数がたくさんある。有名なところで言えば、文化部、文芸部、園芸部、天文学部、書道部、美術部などなど。

 

ところで文化部と文芸部ってどう違うんだろう? 誰か俺に教えてくれないかな。だいたいの文化部の部活は展示をやっているみたいだった。天文学部なら星の動きを観察した結果とか美術部なら作品の展示など。

 

真には少しに合わないかなと思ったりもしたが、本人は至って楽しそうだ。俺はさっきの体育館よりこっちの方が好きだ。人も少ないし、落ち着いている雰囲気だし。高校時代まではザワザワガヤガヤした雰囲気の方が好きだったのにな。これも大人になったということだろうか。

 

雪歩ちゃんはやはりというべきかこっちの雰囲気が好きらしい。落ち着いている雰囲気だしね。雪歩ちゃんは。

 

美術部の作品を見ている様とか本当に絵になった。

 

二回に上がると見たことがあるような部活に紛れてちょいちょいとマニアックな部活が目にはいる。オカルト研究部、UMA研究会、未確認飛行物体報告所などなど。というか上の三つってすべて同じじゃない? どう違うのだろう。

 

ちなみにオカルト研究部は黒魔術の発動条件とかいう中二病フル全開の展示を行っていた。中学の時にこんな部活があったら迷わず入部するだろうな……。誰だって男の子なら魔術に興味がある時があるのさ。今は流石にないけど。

 

真も雪歩ちゃんもうーん、と苦笑いだった。ヒロトはヒロトでなかなか面白いね、とニコニコだったけど。

 

そんな少しおかしな二階を見て回り三階に上がる。部活棟は四階建てだ。残すところはこの三階と四階のみ。

 

時刻はもうそろそろ東の空が赤くなる時間帯。少し早く回れば一般公開の時間内には回れそうだ。これだけの部室のすべてを回るのは無理そうだし、面白そうなもの、興味があるものだけを回ることにしよう、という雪歩ちゃんの意見をみんなが了承し面白そうな部活だけ回ることとした。

 

にしても三階はマニアックな部活が立ち並んでいる。幾何学研究会、畑部、焼き魚研究会、杉の木の子。なんだよこの学校。上の二個はまぁ分からんこともないこともない。でも、焼き魚研究会とか杉の木の子って何だよ。焼き魚研究会とかむちゃくちゃ気になる。

 

他の三人の了解をとって中を覗く。焼き魚研究会は白身魚と赤身魚の焼き方の違いや、焼き方あう食べ物とか展示していた。味のデータがグラフ数値かされてたり、栄養が云々とか難しい言葉で書かれていた。まともに研究しててなんとも言えない気分となった。

 

そんな三階の廊下を歩いているとある部室の前で声が聞こえてこた。ヒロトと体育館であった時点でこの展開も薄々予想はしていたが、当たったら当たったで微妙な気分である。兎にも角にも俺たちの文化祭巡りは退屈しそうにないことは間違えない。


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