かくも日常的な物語 作:満足な愚者
この方向性がいいように行けばいいんですけど……。
感想返しは近日中(多分、明日)に必ず。
本当に更新が遅れたことすみせんでした。
ミーンミンミンミーン。ガラス窓越しに蝉時雨が聞こえてくる。時は7月、季節はジメジメした梅雨が終わり夏真っ盛り。
梅雨前線さんの方も後半は前半頑張りすぎたのかばててしまい、水害を引き起こす事はなかった。何とも朗報である。雨が終われば太陽の季節だ。梅雨が明けて一週間と少し、太陽がギラギラと照りつけ気温も上がり、ついに今週からは蝉まで鳴き始めてきた。本格的な夏の訪れ。
高校時代までは夏は大好きな季節だった。だけど、今では少しだけ夏の暑さが体に堪える。年をとったと言うべきか大人になったと言うべきか……。
今年は孟夏になりそうだと、今朝のニュースで言っていた。ただえさえ、地球温暖化云々と言っているのに、それに加えて孟夏とはやめて欲しい。
そんな暑さの中でも、もちろん学校が休みになるわけもなく俺はいつも通り大学に来ていた。数年前の誕生日に真からもらった腕時計を見る。時刻はてっぺんを少し回った程度、昼休みだ。数日に一回、俺たちはいつものメンバーで集まることがある。場所はゴールデンウイーク前に会議をした、語学なので良く使われる小教室。何をするというわけでもないが、駄弁ったり飯を食べたりとやってたりする。高校時代と違い皆で授業を受けたり集まったりする時間が減ったためにミズキが大学一年の時から呼びかけて、今や恒例となったことだ。
「あっちぃー。勘弁して欲しいぜ。本当に……」
隣の長机に半身で腰掛けていたミズキがぐったりと机に体を預ける。格好も夏物に変わりスタイルの良さがよく分かる服装になった。目に良いのか悪いのか。変な妄想してると鉄拳が飛んできそうだし。
「一応クーラー効いているはずなんだけどね……。暑いねこれは……」
ヒロトが苦笑いで答える。この暑さの中でも少しだけ爽やかなところがイケメンっぽい。暑いと言いつつ顔は涼やかだ。
クーラーは一応ついては居るのだが、本当に気休め程度、貧乏国立大学のそれもあまり使われない教室だし、仕方がないといえばないのかも知れない。特にミズキは今入ってきたばかりだしな。外の暑さをひきずっているのだろう。
「まぁ昨日より三度、最高気温が高いからな暑く感じるのも致し方あるまい」
俺から見て後ろ斜めの席で昼食のおにぎりを頬張っていたSSKが何時ものように淡々と答える。淡々しながらも額には汗が浮いていた。そういえば彼も暑さは苦手だったな……。
「にしても、お前は本当に平気そうだよな」
ミズキがくだりと顔を俺の方に上げる。
「まぁ、暑さには強いからね」
夏は好きだ。暑さも前に比べれば弱くなったとはいえ、未だに冷房なしで扇風機だけで寝れるし、ミズキやSSKに比べると強いと言ってもまだまだ全然問題ない。
「この時期だけは本当にお前が羨ましいぜ……」
そう言いながら顔をまた下げるミズキ。
「ところでご飯は食べたの? ミズキと君は?」
ヒロトが購買で買ってきたビニール袋の中からパンを取り出す。
「あぁ、今日は喰う気がおこらねぇから抜くわ」
「俺は2限が空き時間だったからその時に食べたよ。ミズキ、ご飯抜くのは良くないよ。いくら暑いからって」
「うるせぇよ。こんなクソ暑い中で飯とか食ってられるかよ」
机に突っ伏せながら言うミズキ。どうやら顔をあげることすら億劫みたいだ。
「そう言えば、今月は試験だけどみんな大丈夫?」
水の入ったペットボトルのキャップを回しながらヒロトが言う。
試験か……。はっきり言って思い出したくなかった。今学期は授業中寝てばっかりだったような気
がする。やばいな……。
「俺は言うまでもなく問題ない」
二個目のおにぎりの封を開けると淡々と答えるSSK。
そりゃそうだ。彼が受からないなら誰も受からない。
「さすがSSK。ミズキも聞くまでもなさそうだね」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってんだよ」
顔を下げたままミズキは言う。ミズキもSSKも高校時代は全国模試で上位の方に名前があった、学力の方は本物だ。俺と同じ大学にいること自体がおかしいのだ二人とも。
「君はどうだい?」
「はっきり言っていつも通りだけど、少し危ないよ。寝てばっかりだったしね。今学期」
「ったく、授業中に寝るくらいなら家で寝た方がいいだろ。俺みたいにな」
「ミズキと違って授業に出ないと単位取れないんだよ」
「でも、寝てたら意味ねーじゃねぇか」
むくりと顔をあげてジト目で辛辣な言葉を投げかけてくるミズキ。いやはや、正論すぎて返す言葉もない。
「うん、そうか、もうすぐテストか……。よし、お前ら久しぶりに勉強会でもしようか! ヒロトもやばいんだろ?」
ミズキが体を上げながら言う。勉強会、そう言えば大学一年生の時にもやったな、確かミズキの家で。
「ははははは。ばれたか、今学期は少し厳しいんだ。出来れば助けて欲しい」
「ふむ、俺は問題ない」
頭の後ろを掻きながら苦笑いで答えるヒロト。珍しいな、いつもなら何やかんやで試験はパスするのに。
「よし、SSK。皆の予定が空いてるのはいつだ?」
「ふむ、来週の月曜日なんかどうだ。確か全員空いてたはずだ」
彼の言葉に全員が頷く。
何故、彼が俺たち全員のプライベートを知っているのか。
それはSSKだから。つまり、そういうことなのだ。
「よし、それじゃあ来週の月曜日、勉強会な! 場所は……。そうだ、お前の家で!」
急に元気に動きになったミズキは俺に向かって指をさす。うちのリビングなら冷房もあるし、全員入るだろう。それにいつもミズキの家を使わせてもらっているし、今回くらいはいいだろう。
「うん、構わないよ」
とりあえずはそう言って頷くこととする。俺の了承を皮切りに全員一致で月曜日の勉強会が決定となった。本日の昼休みの会話の主な話はこれで終わり。
後はいつも通りの生産性のない取り止めのない話、例えばヒロトが最近よく迷子になってるグラマーな美人とよく出会うとか、ミズキが先日ラーメン屋でやたらめったらな量をペロリと完食して帰った細身の銀髪女性を見たとかそんな話だ。そしてチャイムと同時に各自授業に向かった。
廊下に出ると真夏を体現したような蝉の声とむあっとした暑さが体を覆った。それだけで少し嬉しくなる。やっぱり夏は好きだ。
そんなことがあった日の帰り道。空はまだまだ明るい。冬ならすでに暗くなってもおかしくない時間だが夏になって日が落ちるのが遅くなった。気温も昼間よりは幾分か涼しくなってはいるはずだが、まだまだ暑く、ただ歩いているだけでもうっすらと汗ばむ陽気だ。耳触りなセミの合唱も止む気配はなく体感温度の上昇に拍車をかけている。
そんな中俺は大学帰り道にあるスーパーに立ち寄っていた。目的は言うまでもなく買い物。このスーパーは値段も安いし、時たまセールもやっている。今日はセールの日、食費だってただじゃないのだ。抑えられることはキチンと抑えて行きたい。
「えーと、鳥肉鳥肉と。あとは、おっ! 牛肉も安いじゃんかっていこ」
チラシに乗っていたセール品をカゴに入れる。授業が終わり、夕方からだったが、どうにか目的の品は手に入れることが出来た。それに思いもよらず牛肉も安く買うことが出来た。今日は肉づくしでもいいかな。
夕方でさらにセールがある日、スーパーの中はいつもよりか少しだけ人が多く、混雑している。夕飯の買い物をしている主婦やその連れの子供何かがよく目に付く。この時間はそんな客層が多い。
買い物カゴを覗き買い忘れがないかチェックする。あまり買いすぎて重くなるのも嫌だが、買い忘れがある方がもっと嫌だ。安いうちに必要な量だけを買うのが主婦の基本。まぁ主婦ではないけど。
買い忘れは……おっと、牛乳を忘れていた。
牛乳置いてあるのは確か逆の端だったな。そう思い出し体の向きを変えた時、ポンっという衝撃がお腹の当たりを襲った。
「はわっ、すっすみません。よそみしてました!」
ふと前をみると一生懸命に頭を下げる少女が目に映る。どうやら彼女とぶつかったみたいだ。
「いやいや、こちらこそごめん。っと言うか俺がいきなり方向転換したから悪いんだし、君は悪くないよ」
「いえいえ、私がよそ見さえしなければぶつかりませんでした!」
オレンジがかった髪を頭の上の方でツインテールに結んだ少女は一回顔をあげた後もう一度頭を下げる。
これはやめて欲しい。周りからみたら俺が少女を虐めている他見えないだろう。
「いやいや、君は悪くないよ。悪いのは俺だしね。だから、顔をあげてよ」
「うっうー、ですけど……」
しぶしぶと言った様子で顔をあげる少女。優しい子だな。
「大丈夫大丈夫、気にしないで。それよりも君の方は大丈夫?」
「はい、私は大丈夫です!」
ホットパンツに髪と同じくオレンジ色がメインの薄い長袖。声も元気があって明るい子だ。
「それは良かった。あと商品も大丈夫? ぶつかった時に卵とか入ってたら割れっちゃてるかもしれないし」
そこまで強くぶつかったわけではないけど、卵ならあたりどころさえ悪ければ変な衝撃でヒビでも入っているかもしれない。
「あっ、それは大丈夫です! 割れるようなもの入っていませんし!」
少女の持っていたカゴをみれば数多くの同じく袋が目にはいる。
もやし……?
確かにもやしもセール品に入っていて安かった。俺も二つほどカゴに入れてるし。それでもあそこまで買いためるかな。
……余計な探索はよそう。人は人なのだ。もしかしたら、もやしが異常に好きな子なのかもしれない。もやしは安いし、俺もよく買う。炒めてもよし、味噌汁に入れても良しで以外に万能だしね。
「そう、それは良かった。それじゃあ、俺はいくね」
「あっ、はい」
そういいながら彼女と別れる。
「ありがとうございましたー」
スーパーを出ると空は少しだけ赤みがかかっていた。それでも暑さは相変わらず、自動ドア出た瞬間中の冷房が効いた店内との違いに少し驚く。どうやら今日は熱帯夜になりそうだ。
ふと帰り道を見ればヨタヨタと大きなビニール袋を掲げてあるく小さな影。オレンジ色のツインテールが目にはいる。そりゃそうだ、いくら何でももやしとはいえ、あれだけの量を買えばビニール袋いっぱいにはなるし、当然重くなる。そんな彼女を見てくすりと笑みがこぼれる。少女の困っているところを見て笑うような与太者じゃない。真の小さい時を思い出したからだ。一緒に買い物に言った時は「ボクが持ってあげるよ!」と袋を持ちたがっていたな。米なんか買った日はまだ重いからと断ったりしたんだが、どうしてもと言って聞かずに持たすとあんな風にヨロヨロの動きになったっけ。本当に懐かしい。今じゃもう戻らないあの日々が。
「手伝うよ」
気づけば、少女の横に立ち袋を持っていた。少女は横を見ると「えっ……!?」と驚いか顔をする。
「ごめんごめん。荷物を取ろうってわけじゃないし、女の子が持つにしては大変だろう。途中まで手伝うよ」
「いえいえ、そそそんなの悪いですよ!」
少女はブンブンと効果音がつくくらい首を振る。
「さっきスーパーでぶつかった謝罪ってことで。それに昔の妹に似てて何だか放っておけなくて」
「妹さんですか……」
「うん、今はもう大きくなって高校に通ってるけどね」
「へぇー、そうなんですかー。あと荷物を持ってもらうのは悪いですよ、やっぱり。それにおにーさんも荷物あるじゃないですか」
「うんうん、気にしないでよ。こう見えても力はあった方なんだ」
結局最終的に彼女が折れた形で彼女の荷物を半分ずつ持つことなった。これが俺と少女のファーストコンタクト、オレンジ色の彼女との再会は少し後の葉月のことなる。
結局少女を家まで荷物を一緒に運んだあとの帰り道、一歩間違えたら変質者として警察に突き出されてもおかしくなったことに気づきおかしくなりそうになったのは本人以外知る由もない。