かくも日常的な物語   作:満足な愚者

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更新おくれてすみません。

何時の間にかお気に入りが750件を突破していました。

本当に嬉しい限りです。これかもよろしくお願いします。


第二話 その4

「よし、ここら辺んでいいか」

 

そう言ってミズキが立ち止まる。手にはお茶のペットボトル。俺とヒロトが集合時間に間に合わなかった罰として買いに行かされたものだ。黒色の深く被っていたキャップを肩から下げていた何処かのメーカー品であろう高級そうなトートバックへと入れるミズキ。サラリと腰まで伸びている赤い髪が揺れる。

 

場所は更衣室からだいぶ歩いたところ。砂浜の端っこといってもいい位の場所だった。人は流石にここまで来るとあまりいない。残念ながら美希ちゃんが去って行った方向とは真逆なので、もう今日は会うこともないかも知れない。今度会える機会があることに期待したい。

歩いた理由は至極単純ミズキが人が多いところは鬱陶しいと言ったから。俺もヒロトもSSKもその意見に賛成し、ここまで歩くこととなった。ミズキもヒロトもその容姿だけで注目を集めるからな。SSKはただ人が多いのが嫌いなのだろう。俺も似たようなものだし、黙って賛成票を投じておいた。

 

それにしても流石ヒロトである。延々と人が少ないところまであの重そうなクーラーボックスを文句の一つも言わずに運ぶなんて人がいいにもほどがある。

俺なら文句の一つも言いたくなるところだ。容姿に加えてこの性格だからこそモテるんだろうなー。もしも、俺が女性だったら惚れている自信がある。それかヒロトが女の子なら告白して振られている自身まであるね。

 

ヒロトは涼しげな笑顔のままクーラーボックスを白い砂浜の上にドンっと下ろす。白濱は観光地だけあり、砂浜の美化に力を入れているのか、来る人のマナーがいいのか分からないが、多くの人が来ている割に砂浜にゴミは少なかった。俺たちもゴミの扱いには十分に注意したい。

 

「流石にここまで来ると人も少ないね」

 

パンパンと手を叩きながらヒロトが言う。サングラスを上にあげ、青色の水着を履いている茶髪のイケメンは爽やかな笑みで言う。キラリと効果音がつきそうだ。

 

「あぁ、人が多いと視線がウザくて仕方がねぇからな」

 

ミズキがやれやれといった様子で肩をすくめる。口調は穏やかだ。今日はいつにもましてご機嫌みたい。

 

確かにここに来るまでは凄かった。俺とSSKの大股4歩前ほど前を歩いていた二人はすれ違う人や近くにいた人の視線をチラチラと集めていた。あずささんや美希ちゃんと同じように流石にジッと見つめている人はいなかったが、それでも視線を集めるだけでも凄い。

 

ーー理想のカップル。

 

ミズキとヒロトが一緒に歩いている場面を見るとこの言葉がすぐに頭の中に思い浮かぶ。高校時代、出会った当初からそれは変わらなかった。いい男を体現したヒロトと美女を体現したミズキ。二人が並んで歩いていると絵になる。とてもお似合いだ。だから、俺は二人が並んで歩いていると必ず少し後ろに下がるようにしていた。SSKがいるならいいけど、三人で並んで歩くとどうしても完成された絵の邪魔をしている気がしてならなかった。自分が場違いな様な気がした。主人公の中にモブがいるような、そんな感じ。だから俺はミズキとヒロトと三人で歩くのを極力避けた。

 

ヒロトとミズキには似ているところもある。二人とも告白されても必ず断っているし、恋人がいると言った噂を聞いたこともない。ミズキとヒロトが付き合っているのではないかという話もあったのだが、本人はあっさりと否定している。

 

多分だけど、これからもそれはずっと変わらないような気がする。ミズキとヒロトは、このまな発展することもなく、ずっとこの関係が続く。

ヒロトとミズキだけではない、俺とSSKを含めたこの四人の関係はずっとこのまま。そう思ってしまうのはきっと俺がそう願っているから。この四人だけではない。真も含めてもこの関係は永遠と変わって欲しくなった。

 

「にしても、暑くねぇのか?」

 

ミズキがこちらを見ながら言う。薄い半袖をきているミズキと半袖を着ているヒロト、上には何も着ずに不健康的に白い肌を晒しているSSK、それに対して俺は真っ黒のパーカーを着ている。いくら暑さに強いと自信がある俺でもうっすらと汗をかいていた。

 

「まぁ、暑いけど日焼けするの嫌だし」

 

「日焼け止め塗っとけば大丈夫だろ。見てみろオレの白い肌」

 

そう言いながら近づき腕を俺の方へバッと出すミズキ。白い肌が日光を反射している。

 

目のやりどころに困るとはこのことだ。完璧と言っていいまでのプロポーションを持った彼女が目の前にいるのだ。いくらまだ上にシャツを羽織っているとはいえ男なら思わずジッと見て見たくなる。シャツも薄いのだし。しかし、それをやってしまうと最後グーが飛んで来ること間違いなし。わざわざ県外まで来て殴られるのは御免蒙りたい。

 

それに長年付き合っている友人だ。水着姿も何度も見ている。そんな友人が気になるほど子供ではない。ごめん、やっぱり嘘。気になるのは気になります。

 

「ははははははは……」

 

とりあえず、目線をそらして笑って誤魔化す。

 

「この暑さでパーカーを着る奴の気は知れんが本人が大丈夫なら別にいいだろ」

 

SSKが抑揚の少ない声で言う。顔は完全に暑さでやられていた。暑さが大の苦手と公言している彼らしい。

 

「うーん、まぁいいか……。熱中症にだけはならない様に気をつけろよ。プレイボーイと違って何だかお前は最近すぐにぶっ倒れそうな顔してるしな」

 

「心配してくれてありがとう。熱中症には気をつけるよ」

 

口は悪いがミズキは仲間を思いやる優しさは持っている。長年彼女と付き合わないと見えてこないが彼女は仲間を非常に大切にするのだ。その優しさで突発的な行動は是非とも控えて欲しいのだが、これから先もそれが叶うことはなさそうだ。

 

「べ、別にお前のことを心配してるんじゃねぇよ。お、オレはただ熱中症で倒れられたらせっかく来た海が台無しだと思っただけで!」

 

顔を赤らめながらミズキはワタワタと言う。機嫌そこねちゃったかな……。

 

「まぁ、彼が暑さに強いことはみんな知ってるし、厚着もいつも通りじゃないか。そんなことより遊ぼうよ、ミズキ」

 

サーっと一つ海風が吹く。暑く火照った体には気持ちがいい。ヒロトが茶髪の髪を風にゆだねながらミズキに促す。

 

暑く高く照った太陽の日差しを浴びながらミズキは羽織っていた薄いシャツを脱ぐ。髪と同じ赤いビキニ。それはもう、完璧なプロポーションとだった。本人が完璧だと言うだけのことはある。俺の数少ない語彙力だとそれしか言えないことが悔やまれる。10人いれば9人は心を惹かれる容姿、それがミズキという人間だ。

 

「それもそうだな! よっしゃ、お前ら今日は遊ぶぜ!」

 

今日一番の笑顔で彼女はそう言った。

 

カラン。肩から下げていたバックから音がする。

青い地平線の向こうには白い大きなわたあめみたいな入道雲。夏が加速していく……浜風に吹かれながら俺はそう思った。

 

 

 

 

 

「よっしゃ! 行くぜ!」

 

青い空に緑のボールがふわりと上がる。スイカ柄をしたボールはやがて上へと向かう力を失いゆっくりと落下していく。そのボールの動きに合わせるようにトンと飛び上がった赤の彼女はしなやかな腕の動きでそのボールを打つ。まるでそのスポーツをやっているような洗練された動きだった。

 

スパンッ! と音を立てて飛んでもないスピードで砂浜に書いたラインの内側に落ちるボール。

 

どこをどうやればビニールで出来たボールであそこまでスピードが出せるのか……。聞く機会があれば聞いてみたいものである。

 

俺たちが今、やっているのは見てもらったとおりビーチバレー。クーラーボックスからミズキが取り出した何故かキンキンに冷えたスイカ色のビニール製のビーチボールと簡易的に作成したコートで俺たちは遊んでいた。チームはジャンケンのグーとパーで決めた結果、ミズキとSSK、俺とヒロトといった結果。ゲーム形式は10点先取の5セット。先に3セット先取した方の勝ちというもの。

 

「やれやれ、さすがミズキ。いきなり飛ばしてくるね……」

 

始まって一発のサーブから俺の反射神経の外をいく玉である。一歩も動けなかった俺を横目にいつも通りの笑みを浮かべるヒロト。

 

「どうした、お前ら、一歩も動けてねぇじゃねぇか?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべる赤の彼女。余裕たっぷりとはこのことである。

 

「最初だから、様子見だよ」

 

表情こそは笑顔だが目が笑っていない。集中している証拠だ。ミズキとヒロトはともに負けず嫌いだ。どんな小さな勝負でさえ、勝負と名のつくものは全力で勝ちにいく。ミズキとヒロトほどじゃないが、俺もSSKも負けるのは嫌いだ。勝負はいつだって勝ちたい。

 

「そうかそうか、じゃあ次行くぜ!」

 

ボールを頭上へフワリとあげ、助走の勢いそのまま上に飛んだミズキは先ほどと同じように洗練された動きで腕を振り下ろす。

 

またもや豪速球。でも、先ほどと同じように地面に着くことはなかった。

 

「トス頼むよ」

 

ボールの軌道を目で追うだけで手一杯な俺に声をかけたヒロトがヘッドスライディングの要領で砂浜に飛び込みボールを上げる。やはり中学時代にバスケで全国大会に出場した運動神経はだてじゃない。

 

「あぁ、任せてくれ」

 

上がったボールの下へと潜り込みオーバーハンドパスの要領でトスを上げる。バレーなんて高校時代の体育でやっただけだが、トスを上げることくらいはどうにか出来る。

 

「ナイスパス」

 

いつの間にか体制を整え終えていたヒロトがボール合わせてジャンプをして、そのまま相手のコートに叩き込んだ。芯を叩かれたボールはミズキのサーブと同じく、ビニールで出来たボールとは思えない速度で線の内側に落ちる。

 

「さすがヒロト」

 

「君もいいトスだったよ」

 

そう言って拳をコツンとぶつける。頼もしい味方である。

 

「どうした、ミズキ? 一歩も動けてないけど?」

 

ニヤリとミズキに向かって笑いかけるヒロト。してやったりと言った表情。

 

「やってくれるじゃねぇか、色男……」

 

顔も口調も笑っているだが、ヒロトと同じく目が笑っていない。向こうも本気だ。

 

「たまにはミズキにも負けてもらわないとね……」

 

「言うじゃねぇか……。だが残念、今回もオレたちの勝ちだぜ」

 

ジリジリと目線で火花が見えそうだ。何にせよビーチバレーは始まったばかり、でもやるからには全力で勝ちに行きたいと思う。それと俺が心配なのは、この戦いでボールが持つかどうかがである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、次は野球しようぜ!」

 

バレーが終わり砂浜や海で各自しばらく色々と涼んだり、泳いだりした後、ミズキがクーラーボックスのからカラーバッドと白いカラーボールを取り出して言う。あのクーラーボックス本当に何が入っているんだろ。キンキンに冷えたビーチボールとこれまたキンキンに冷えたカラーバッドにカラーボール、間違いなくまともな用法で使われてはいない。今のままだとクーラーボックスというよりオモチャ箱と言った方がしっくりくる。

 

「おっ、いいね」

 

海に入って濡れた髪をタオルで拭きながらヒロトが言う。海で泳いでいたのはミズキとヒロト。二人ともスイスイと魚のように泳いでいた。泳ぐのがあまり得意ではない俺にとっては羨ましいことこの上ない。SSKは肩まで海に浸かり涼をとっていた。ジーっと海に浸かっている姿はまるで温泉にでも入っているかの様にも見えた。ちなみに俺は下半身までしか海に浸かってなかったりする。理由は簡単、パーカーを濡らしたくなかったから。パーカー濡らすと重いし、洗濯も大変だしね。

 

「よし、今回はちょうど昼時だし、負けたチームが勝ったチームに昼飯を奢るってことでどうだ?」

 

腕時計で確認すれば12時を5分程度過ぎた時間帯。昼食にはちょうどいい時間だ。ミズキの意見に残りの三人が同意を示す。

 

「よし、お前ら異論はないようだな。それとチームか……。そうだな、さっきと同じでどうだ?」

 

挑発するような笑みを浮かべて俺とヒロトに視線を向ける赤い彼女。先ほどのビーチバレーは2-2の同セットのまま5セット目にもつれ込む接戦となった。5セットは9-9のままデュースになり、その結果12-14で俺とヒロトは惜敗した。何とも惜しい試合であった。

 

「よし、それでいこう! ヒロトもそれでいいよな?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。さっきの借りはしっかり返させてもらうよ、ミズキ」

 

そんな挑発をされて降りるほど男を捨ててはない。勝負に乗るだけだ。

 

こうしてバレーのチームそのままに第二回戦の野球が始まった。

 

本来野球とは18人でやるスポーツである。今いるメンバーは4人。一チーム分のメンバーもいない。つまりルールも勿論変則的なものとなる。4人でルールを決めた結果このようなものとなった。

一試合5回。延長はなし。(同点の場合は各自自腹で昼飯)

2アウト交代。

守備はピッチャーと外野。

ノーバウンドでとれば勿論アウト。

ピッチャーが自分より前でボールに触ったら例えゴロでもアウト(取れなくても体の一部に触れさえすればアウト)。

ランナーは透明ランナー。

外野の後ろにラインを引きそこをノーバウンドで越えればホームランとする。

以上のルールのもと試合の火花は切って落とされた。

 

試合が始まって早くも四半刻が過ぎていた。日は暑く照っており気温も相変わらず高い。砂浜も日光で焼けていて素足の裏から熱が伝わってくる。

 

イニングは最終回の5回裏1アウト満塁。ミズキとSSKチームの攻撃。点数は9-8で俺たちが一点リードをしていた。しかし、一本出れば同点、ホームランなら逆転というピンチだった。

 

赤い彼女は不敵な笑みを浮かべながら左のバッターボックスに入る。ピッチャーの茶色髪の青年はさっさとマウンドのプレートを払うような動きで足元の砂を払う。その動きはさながら大投手のようだった。

 

「悪いけどミズキ。今度の勝負は俺たちがもらうよ」

 

「はっ、抜かせ色男。オレに敗北という言葉はない」

 

クルクルとバットを体の前で二回転させた後に腕とバットを一直線に伸ばし俺のほうへピンと向ける赤い彼女。ホームラン宣言である。

 

茶色の彼はその動きを涼しい笑みで見送りながらゆっくりとフォームに入る。ワインドアップでゆっくりと腕を上へと上げ、半身を向きながら太ももを直角に曲げる。そのまま足を前へと踏み出したと同時に腕を思いっきり振りぬく。勝負は一瞬で終わった。結構なスピードで投げられたボール。そのボールの芯の少し下をお手本のように綺麗なレベルスイングで叩きぬいた赤の彼女。

 

ボールは綺麗なスピンを描きグングンと伸びいく。俺の頭上を遥かに越える一撃。明らかにホームランだ。この瞬間、俺とヒロトチームの二連敗と昼飯の奢りが決定した。

 

 

 

 

「ボールどこだろ?」

 

見渡す限りの白い砂浜に人。ミズキが打ったボールは俺の頭上を遥かに越えていたため、探すのも大変だ。どこまで飛ばしたんだよアイツ……。カラーボールでやわらかく、当たったとしても怪我する心配はない、とは言え人に当たっていたら謝らないといけないし、なるべく早く見つけ出したいところだが、白い砂浜で白いボールを探すのは中々に困難な作業だった。視界の右端でヒロトもボールを探してるようだが向こうも見つけ出せていないようだ。SSKとミズキは道具の片付けをやっている。昼食はどうやら海の家で食べるらしく一回遊び道具を片付けるようにした。

 

何度見渡しても白い砂浜が広がっている。人も結構増えてしたし、もしかしたら誰かが持っていったのかも知れないな……。誰にも当たっていなければボールの一つや二つ全然もっていってもらって構わないんだけどな。

 

そんな感じで半ば諦めかけながらキョロキョロと砂浜を見ていたとき視界に丸い物体が見えた。

 

あっ、ボールかな……。そう思って近づいてみると何やら違う様子。カラーボールしては茶色いしなにやらモゾモゾと動いている。

 

「キュゥ?」

 

愛らしい目に特徴的な前歯。可愛い顔をしてこちらに首をかしげている。

 

――――――ハムスター?

 

何でこんなところに……?

 

再会だけではなく、新しい出会いもどうやら今日はありそうな気がした……。


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