かくも日常的な物語 作:満足な愚者
気づけばこの作品も一年が経ちますね。早いものです。ここまで長く続けてこれたのもひとえに皆さんのおかげです。今年もまたお願いします。
夜。それは季節によって異なる。
例えば春なら静かに穏やかな始まりの香りのする新しい夜。夏なら雑踏に包まれた熱帯夜。秋ならば虫の音色と満月が照らし、夏の疲れを癒してくれる夜。そして、冬なら……冬ならきっと夜は全てを終わらせるような静寂の夜。
そして、今夜もそんな夏の夜のイメージにピッタリな熱帯夜だった。時刻は日が落ち切って一時間ほど、一般の家庭では夕飯時を少し過ぎた頃だった。俺たちはファミレスに来ていた。俺たちと言うのはいつも通りのミズキ、ヒロト、SSKに俺を含めての4人組。普段俺達で集まる時は大学にある小教室を使うのが通例でファミレスに来ることなどないのだが、今日は俺たち以外にもお客さんも来るためここに集まることとなった。
「しっかし、ファミレスなんか久しぶりに来たぜ」
店内一番奥にある窓側のBOX席の窓枠とシートのヘリに腕を預けながら横にドンと座るミズキ。夏らしい薄手の服を着ている彼女は惜しげも無く白い肌を出している。もはや見慣れたミズキの格好なので特に意識もしない、と言いたい所なのだが何を言ってもその男以上に男っぽい性格と男勝りの口調さえなくせば完璧ななのがミズキだ。つまり、容姿だけとってみれば非の付け所がない。そんな彼女を少しでも意識するなと言う方が無理なのだ。
「そうだね。こうして皆でファミレスに集まるのは高校以来かな」
ヒロトが柔和な笑みを浮かべながら答える。夏の暑さなんかどこ吹く風の爽やかさである。
「正確には高校三年生の11月9日以降だな」
淡々と話すSSKは始めて会った人なら機嫌でも悪いように感じるだろう。ただこの変人に限ってはこれデフォルトな話し方なのだ。
「そういえば、最近は集まるって言ってもいつもの教室かミズキの家か俺の家だからね」
高校時代も集まると言ったら部室かミズキの家が多かった。完全下校までは部室で駄弁ったりして、それ以降や休みの日はミズキの家や俺の家に集まるのことが多かった。それにヒロトは他校の生徒でしかも家も遠かったし、SSKの部屋は基本的に機械やらよく分からない物が多すぎるため人が集まるにはむかない。だからこそ俺の家やミズキの家が多かった。
「あぁ、そうだな。なんだか懐かしいな」
ミズキが懐かしむようにつぶやく。
「そうだね。なんか大分、昔のような感じがあるよね」
ヒロトが頷きながらそれに返す。
「あの時からもう既に5年以上の時間が経った。俺たちの歳から言って、大分前といっていいだろう」
確かに俺たちが生きてきた約20年に比べると5年という歳月は長いのかもしれない。あの時から5年か……。歳をとったな……俺たち。
「お前ら将来はどうするんだ? 大学生活も残り一年と少しだが……」
唐突にミズキが切り出した。
「うーん、俺は普通に就職しようかなって思ってるよ。商社か外資系で働ければ働きたいね。海外で働ければ凄く楽しそうじゃない?」
ヒロトが言う。確かにヒロトの性格ならビジネスマンに向いてるな。まぁ何をやっても持ち前の正義感と性格で成功しそうなやつだ。将来、正義の味方になると言われても不思議となれるかもと思うのはヒロトの人間性がなせる技だ。
「でも、お前英語出来ないだろ」
ケラケラとミズキは笑う。
「まぁ、今は勉強中さ。そりゃミズキやSに比べたらまだまだだけど、俺もそれなりに勉強しているんだ」
「ほう、それは楽しみだな。まぁ、お前みたいな色男はどこにいっても成功しそうだけどな」
「確かにヒロトほどの人格ならどこに行っても通用する」
「あぁ、ミズキもSもありがとう」
ミズキもSSKも笑みを浮かべながら言う。冗談を言うことがあっても仲間を大切に思う気持ちは強い。ミズキはもちろん、あのSSKですらそうなのだ。
「確かにヒロトなら海外でも十分成功しそうだね」
もちろん、俺だってその気持ちなら誰にでも負けていない。
「ありがとう。君に言われたら間違いなく成功できるような気がするよ」
「おいおい、そりゃあどう言うことだぁ? オレ様の言葉は信用出来ないってことか?」
ニヤニヤとミズキはテーブル上にあったおしぼりを袋のまま弄びながら言う。もちろん本心ではなく遊びで言っている。
「そういうことじゃないさ。ミズキだって分かってるだろ。彼のこういう時の言葉は信頼できるってね」
「まぁな。こいつの言うことは間違えねぇよ」
無駄に厚い信頼を寄せられているようでむず痒い感じがする。そもそも、ここにいるメンバーが失敗する未来が見えないだけなのだが。
「天パーはどうするんだ?」
「俺か……」
SSKはそこで机に置いてあった水を飲み、一呼吸おく。
「俺はとりあえず海外に留学かな……」
意外といえば意外だが、納得すると言われれば納得するものだった。実家を継ぐのかな、やっぱり。
「へぇー、医学かい?」
ヒロトのその言葉にSSKは少しだけ考えるとふと言葉を発する。
「医学もそうだが、哲学と心理学も学ぼうとな……」
「へぇー、ついに後を継ぐって決めたか……。それと哲学ってなんだ、お前には一番似合わない学問だろ」
確かにミズキの言うとおりSSKに哲学とか心理学とかは似合わない。常に我関せずの態度のSSKが他人の心理なんか勉強するとは一体なんの心変わりがあったのだろうか。
「別になんでもない。ただ……優れた医術や専門的な医学の知識だけじゃ人の命を救うことは出来ないと悟ったまでだ」
「なんだそりゃ?」
「まぁ、なんてことない。気にするな。それよりお前はどうなんだ?」
「オレかぁ……」
ミズキは腕を組み一瞬だけ俺を横目で見ると目を瞑る。
「……うーん、未定だなぁ」
ミズキこそ意外中の意外だ。ミズキのことだからずっと前から自分の向かうべき道を決めていると思ったんだけどな。
「ミズキのことだから高校の時から進路決まっていると思ったんだけど」
俺と同じ思いだったのか、ヒロトが意外そうに言う。
「いやさ、オレって何でも出来るだろ。だからこそ何しようか悩むんだよ」
そう言うことをおくびも出さずに言うのは何ともミズキらしい。確かにミズキは何でも出来る。俺なんかと違い頭脳明晰、容姿端麗なミズキだからこそ、そういった悩みがでてくるのだろう。俺なんかは一生でてこない悩みに違いない。
「ははははは。ミズキらしいじゃないか」
「ふむ……」
納得したように笑うヒロトに顎に手をおき考える仕草をするSSK。SSKのその真意を俺が知ることになるのはこれから少し先のことになる。
「なんだぁ。天パー、何か言いたいことあるか?」
「いや別に何にもない」
「なんだよ、それ? それよりお前はどうなんだ?」
SSKから顔を俺の方へ向けるミズキ。
「俺か……。俺は……」
俺はどうすればいいんだろう。SSKの様に勉強ができるわけでもヒロトの様にスポーツができるわけでもない。それにミズキのように生きにくい世の中で意地を通す自信もない。それに俺にはもう……。
「………………」
何かを言おうとそう思った時、ヒロトが窓の外を見ながら言った。
「雑談はここまでだね。来たよ、お客さんが」
ヒロトが指差す窓の外を見れば横断歩道の向こう側に3人のお客さんの姿が見えたのだった。
「久しぶりだな、春香に雪歩に千早。元気だったか?」
今日のお客さんとは真の仕事仲間でありライバル、そして友人でもある春香ちゃんに雪歩ちゃんに千早ちゃんだ。レッスン終わりに来てもらうため765プロから近いこのファミレスを利用させてもらった。しかし、三人ともレッスン帰りとは思えないくらいに元気な顔をしている。若いっていいなぁ、と改めて思う瞬間であり歳をとったなと実感する瞬間でもあった。
「お久しぶりです。ミズキさんにヒロトさんにSさん。お兄さんはこの前あったばかりですね」
そう言いながら春香ちゃんは微笑む。
「なんだぁ? お前いくら相手がいないからって妹の友達に手を出したのかぁ?」
いくらなんでも全くもって酷い言いようだ。いくら彼女が出来ないからと言って妹の友達にまで手をだすほど餓えていないのだ。まぁそれはミズキも分かってからっている。
「そんなわけないだろ。俺が春香ちゃんみたいな可愛い女の子にモテるとおもってるのか? もし、モテるのならとっくの昔に彼女を作ってるよ。春香ちゃんたちとはあれだ、この前、真と一緒に料理を教えただけだよ」
まぁ、教えたといっても春香ちゃんと真はもう俺が教えるレベルじゃないほど料理の腕はある。結局、教えるというか一緒に料理をしたような形になった。
「あはははははは。確かにそうだよなぁ。お前がモテるわけなかったよな。まぁ心配しなくてもいき遅れたら俺がもらってやるからよ」
「ミズキがその時までいき遅れているとは思えないけどね」
相手がいない俺とは違い、ミズキの場合は相手が多すぎて相手を選べないのだ。いき遅れることなんてよっぽどのことがない限りないだろう。まぁミズキの場合は性格がもんだいなのだがそれも慣れればどうってことない。いっそ、ヒロトとできればいいのに。ミズキとヒロトで美男美女カップルの誕生である。
「痴話喧嘩はその辺りにしておけ、姫の友人の前だぞ。久方ぶりだな、天海春香、萩原 雪歩、如月 千早」
我関せずといつも通りSSKは言う。
「な、な、な、何が痴話喧嘩だ!」
珍しいことに顔を真っ赤にして否定するミズキ。珍しいものが見れた反面、そこまであからさまに否定しなくても、とすこし寂しい気持ちがある。釣り合っていないのは分かっているが冗談でもそう言われると男は嬉しいのだ。
「お久しぶりです、Sさん、ミズキさん、ヒロトさん。お兄さんはあの撮影以来ですね」
そう微笑みを浮かべながら雪歩ちゃんは言う。その笑みはとても柔らかいものだった。苦手な男の人、おれやSSKやヒロトがいるにもかかわらずその笑顔が出来る様になったのを見ると自分のことみたいに嬉しくなる。
「おぉ、雪歩! 良い笑顔で笑えてるじゃねぇーか! これは可愛いな! なぁ、お前らもそう思うよな」
「うん、確かにミズキの言う通り素敵な笑顔だと思うよ。君もそう思うだろ?」
ヒロトが頷きながら言う。
「確かにね、雪歩ちゃんのその笑顔は可愛いと思うよ」
言ってから思ったけど本当のことでも可愛いと言う言葉を本人の前で言うのは恥ずかしいものだった。思春期の中学生じゃあるまいし。自分で自分を苦笑いする。ヒロトのように涼しい顔してそんなセリフを言えたのならいいのになぁ。
「えっ! え……えっ! わ、わ、私はちんちくりんでダメダメなんですぅ!」
言われた本人の雪歩ちゃんはというと顔を真っ赤にしてわたわたと手を振ると最終的には下を向いてうつむいてしまった。どうやら本人はまだ言われ慣れていないみたいだ。
「雪歩ったらまだ慣れないみたいね。皆さん、お久しぶりです」
そんな友人の姿をみて少し笑いながら千早ちゃんが言った。
「如月さんも久しぶりだね。元気だった?」
「はい、おかげさまで。お兄さんも毎回料理教えていただいてありがとうございます。お兄さんの教えが上手なおかげで少しずつ料理のデパートリーが増えてきました。家でも少しずつですけど自炊やってみて料理が面白いと思えてきました」
ヒロトから俺へと顔を向けると千早ちゃんは言う。千早ちゃんは手先が器用で教えたことをスポンジが水を吸収するようにすらすらと飲み込み覚える。全くの初心者だったのにいまでは簡単な料理くらいは一人でできるようになるまでになった。
「いやいや俺の教えがうまいんじゃなくて千早ちゃんが手先が器用なんだよ。それに料理が楽しくできているならなりよりだよ」
美味しい料理をつくるのも大事なことだが、それよりもなにより自分が楽しめないと意味はない。料理が美味しいことより、楽しく料理をすることや、心を込めて料理をする方が何倍も何十倍も大事なことなのだ。
「まぁ挨拶で友好を深めるのも悪くはないが、とりあえず座ってもらって料理を注文したほうがいいのではないか?」
「確かにその通りだな。春香達はそっちのボックス席に適当に座ってくれ」
横並びに並んでいるボックス席を指差すミズキ。そしてアイドルの皆が座り終わったのを確認するともう一度口を開く。
「まぁ、とりあえず食べたいものを何でも注文してくれ。もちろんお金はオレたち持ちだから気にしないでいいぞ」
「あぁ予算も今年度の分は余裕がある。遠慮せずに頼むといい」
SSKもミズキに続き言う。
「あの、予算ってなんですか?」
それぞれの注文が終わった後、春香ちゃんは言う。その疑問に俺は答える。
「予算っていうのは俺たちのグループも一応会費を集めててね、それの話だよ。SSKが一番初めの会費で株やって予算は潤っているんだけど、極力それは使わないようにやっていっているんだ」
SSKのおかげで予算は多くあるが、それをなるべく使いたくはない。いくら儲けたのかは知らないが極力自分たちが払った会費で活動するのが俺たちの方針である。それは大学生になった今でも相変わらずだった。むしろ、高校時代よりも活動が落ち着いて予算も余っている状況だった。ミズキもイベントは好きだが極力お金は使わないイベントを選ぶからな。高校時代は路上ライブとかで活動資金を稼いだり、皆で共通のバイトをしたりとよくやってたもんだ。
「へぇー、そうだったんですか。そういえば皆さんって高校の部活動で知り合ったんですよね? 何か役割とか決まているんですか?」
春香ちゃんの向かいに座る千早ちゃんが言う。横に座っている雪歩ちゃんは未だに顔が少し赤い。復活するにはもう少し時間がかかりそうだ。
「役割か……。うーん、決まっているといえば決まってるし決まってないと言えば決まってないかな。まぁ確実に確かなことなのは副リーダーはミズキでリーダーは彼だよ。高校の時はミズキが副部長で部長が彼」
そう答えながらヒロトは俺に手を向ける。
「それと……。俺とSSKは肩書きみたいなのはもってないね。まぁ、やることは皆同じなんだけどね」
「まぁな、肩書きなんてあってないもんだな」
「へぇー、お兄さんがリーダーって言うのは何か訳でもあるんですか?」
「春香ちゃん。それはただ俺がその部活を作ったからだよ」
そう何で俺なんかがこのメンバーでリーダーや部長をやっているのか言うと高校時代、部活を俺が作ったからという理由だけだったりする。うちの高校は全員部活動を導入しており、絶対に生徒は部活動に所属することが決まっていた。そして、その代わりといえばあれだが部活動の申請が通りやすかった。おかげで部活動の数はとてつもない数となり、新しい部活動が出来ては消え出来ては消えという感じだった。
「そういうことだったんですか! それと、学校の先輩からお兄さん達の話を聞いたんですけど、凄いですね!」
「あっ、私も先輩に聞いたんですけど凄かったですぅ。文化祭でも一番盛り上がっていましたし」
いつの間にか復活した雪歩ちゃんが言う。顔はまだ少し赤い。
ウチのグループは色々とやってきているからなぁ。何と言っても橘 ミズキその人がいるのだ。話題性には事欠かせない。そのミズキに加え容姿端麗なヒロトと変人オブ変人のSSKまでいるのだ。目立つなと言う方が無理な注文だった。
「まぁ色々とやってきたからね。特にミズキは」
そう言ってヒロトはクスリと微笑んだ。
「何いってんだ。それはお前らも一緒だろ。本のすこーしだけ、俺の方が目立つだけであってな。お前ら各自も十分色々やってんだろ」
ミズキはあまるでそれが心外かというように話す。しかし、そう言われると俺まで目立つことをやっていたみたいな言いがかりだ。
「ちょっと待て、SSKはあれだしヒロトも十分目立ってたけど俺は違うだろ」
中肉中背、黒目黒髪と何も目立つところのない俺は自分で言うのも悲しいが特徴ない人と言っても問題ないだろう。特にこんな濃いメンバーに囲まれたらそうだ。
「ははははは、何行ってんだよ」
「ははははは、何言ってるさ」
ミズキとヒロトは笑いながら共に言う。
「「こんなグループのリーダーやっている時点でお前(君)は、十分に目立っているんだぜ(よ)」」
その言葉に皆が笑う。そう笑顔で言われればその様な気がしないこともなかった。が、やっぱり違う。ミズキたちほど目立つことなんか俺はしていないのだ。
「例えばどんなことしていたのですか?」
「うーん、いっぱいあるよ。例えば体育祭の時とかね…………」
そうやって料理が来るまでの間、短いながらも談笑が始まった。ふと、窓の外を見上げると、大きな満月が一つ黒の海に浮かんでいた。
「さて談笑に花を咲かせるのもいいが、もうそろそろ本題に入った方が良いだろう。時間も時間だ。いくら夏休みと言っても高校生をあまり遅い時間まで拘束することはまずい」
テーブルに注文した料理が並びしばらくたった時だった。SSKがドリンクバーでついできたブラックコーヒーを飲む手をとめ淡々と言う。
「確かにそうだな。それじゃあ本題に入るぞ。まぁ、今日来てもらったのは春香たちもすでに知っているとは思うが来週の真の誕生日を祝うためのパーティについてだ」
ミズキは机中央に置いてあった皿からポテトを一つつまんで口の中に放り込むと続ける。今日、春香ちゃんたちに集まってもらったのはミズキの言ったとおり真の誕生日パーティについてだった。今年は真がアイドルデビューしたからか、ミズキがやけに張り切っている。予め、春香ちゃんたちには参加できると言う返事はもらっているのだが、パーティで何をするのとか、何をしたいのかやらプレゼントの話し合いとかをしたいと言うことでこう言う場を設けさせてもらった。
「いつもなら俺の家でやるんだが、今年は普段より派手にいきたいと思う。まぁそんな気ぃ詰めた話でもなんでもないから食べながら気軽に聞いてくれ、意見とかあったらどんどん言ってな。とりあえず、SSK詳細を」
「ふむ、まず日時だが8/28日に行う。姫の誕生日より一日早いが、これは---------」
SSKとミズキの司会の下、話し合いというよりも談笑に近い会議が始まった。
ファミレスから出た後、もう時間も時間だと言うことで春香ちゃんたちを家まで送って行くことにした。家の場所的にSSKとヒロトが春香ちゃんと千早ちゃんを送り、俺とミズキで雪歩ちゃんを送ることにした。そして、雪歩ちゃんを送った後の帰り道。夜の道をミズキと俺で二人で並んで歩いていた。
雪歩ちゃんの家が都心から少し離れた閑静な住宅街にあったためか周りに人はおらず街灯が申し訳ない程度に並んでいるだけ。セミもすでに鳴きやんでおり、代わりによく分からない虫の声が辺りに響く。
「……………………」
「……………………」
そんな中俺たちはただ何も言わずに同じペースでゆっくりと歩く。お互いにもう短い付き合いではない。バツの悪い沈黙ではなく、心地よい静寂だった。
何分そうして歩いただろうか。ミズキが唐突に口を開いた。
「あ、あのさお前ってさ本当に彼女とかいないのか?」
その顔は熱帯夜の影響で少し赤く、額には薄っすらと汗が浮かんでいた。
「うん、いないよ。そもそも、俺に彼女なんて出来るわけ無いじゃないか」
言ってて悲しくはなるが、それが本当のことだがらたちが悪い。
「そ、そうか。ならさ、気になるヤツとかいるのか?」
気になるヤツね……。さて、どう答えるべきか。少し考える。俺自身について、そしてこれからについて。
「うーん、ヒミツだ。ミズキは?」
考えた結果がこれだ。まぁただ分からなかったということだけだが。
「お、オレか!? オレはそのあれだ! あれだよ!」
何があれかは分からないがとりあえず少し戸惑っていることだけは分かった。もしかして、あれか。とうとうミズキにも彼氏でも出来たか?
高校時代から告白を玉砕しまくって早6年。そんなミズキの彼氏ならさぞかし、カッコいいこと間違いないだろうな。少し相手の男性を羨ましく思う。もしかしてヒロトか? それならお似合いだし、納得もできる。むしろ早くくっつけと思っているくらいだ。
「……………………………」
それからまた静寂が訪れる。乾いた熱い風が吹き少し汗ばむ。夏の暑さは八月後半も容赦なしだ。
結局ミズキの言わんとしていたことは何なのか分からない。まぁ、本人が話さない以上無理に聞こうとも思わない。ミズキとは長い付き合いとはいえ特別な付き合いでもなんでもないのだ。
それから何分たっただろうか?
電灯に切れかけた一本の街灯のしたでミズキはふと立ち止まった。そこだけ少し薄暗い。疑問に思いミズキを振り返れば彼女は少し深く息を吸い込み、そして吐き出すとまるで意を決したかの様に話し始める。
「あ、あのさ今日は月が----」
と、ここまで言って彼女は止まる。そして、彼女は首を二回ほど振ると斜め下を向き小さく何か呟いた。
「どうかした?」
「いや、なんでもねぇ。今日は月が満月だなぁと思ってな……」
空を見上げればファミレスの窓から見た光景と同じく、満月がポツンとまるで俺たちを見守るように浮かんでいた。
「そっか……」
「おう、それよりも来週の真の誕生日パーティ、全力で成功させような!」
「あぁ。ミズキたちがいれば間違いなく成功できるよ。頑張ろうな」
「照れること言ってくれるじゃねぇか!」
それから先はお互いに分かれるまで会話がとぎげることはなかった。
八月ももう半分が終わっていた。
この作品が始まって一年と言うことで番外編や間話に使える話を募集します。多くは書けませんが出てくるキャラとシュチュエーションさえ書いてもらえば何でもOKです(季節や時期は問わない)。R15やR18でもかける範囲でOKです。R作品は本編とは分けますが。