この悪の蔓延る都市に正義を   作:ライ

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一話での、神様の口調を少し修正しました。

補足
・彼女の【ファミリア】には女性しかいないという原作を既に破っている事からわかりますように、本作はオリジナルルートですので、ご容赦ください。
・タグがないのはドキドキ感を味わって欲しいためなので、これもご容赦ください。


神の恩恵

「──アストレア様……どこに向かってるんですか?」

 そんな言葉がアストレアが握っている手の主から発せられた。

 なんとなく繋いだ手を離すのが惜しいという衝動に駆られ、今もなお繋いだままであった。

 そんなアストレアは目的もなく道を歩いていたわけではない。

 眷属──とってもいい子な──を見つける事ができたからには、早速その子に【神の恩恵】を授けてあげたいのが()としての心情だった。

 神の恩恵を授けなければ、本当の意味で【ファミリア】とは呼ばないからだ。

 なので、一刻も早く二人きりになれる場所──宿へと向かっていた。

 

 ──ん? 宿……?

 アストレアの足は止まった。

 

 ■

 

 彼女が下界に降り立ったのは四日ほど前だった。オラリオに向かっているという馬車に乗せてもらい、半日ほどでオラリオに到着する事が出来た。さらに、心優しい商人だった事もあり、一〇〇〇ヴァリス程のお金も貰った。

 この時までは何事も順調に進んでいるのだと、疑いもしなかった。

 だが、オラリオに着き、都市の現状を見てその考えは吹っ飛んだ。

 正義の女神であるアストレアは自らの動く理由が必要な都市だと、半刻も経たずに把握したからである。

 そこからは流れるような動きで行動を始めた。

 近くの宿に一泊三〇〇ヴァリスで泊まり、眷属集めを開始した。

 

 本当は自分の手で今すぐにでもどうにかしたいという気持ちでいっぱいであったが、下界に降りるにあたって『神の力』を使ってはいけないというルールがある。

 握りしめた拳が跡になるくらい、彼女は悔しかった。

 いっそのこと『神の力』を使ってしまおうかとも思ったが、闇はかなり深くそれでいて広く蔓延していると悟り断念する。

『神の力』は地上では必殺と呼んでも差し支えないものである。トランプで言うところのジョーカーであるが、使えるのは一度きりで使ってしまえばアストレアは天界に送還されてしまう。

 ──少なくとも今は時期ではない。

 

 ならば、と。自分の意思を組んでくれるような子供が必要だ、と思い至るにそう時間はかからなかった。

 元より、下界には正義──とまでは言わないが、自らの欲望ではなく誰かの為に動ける子供に出会うためというものがあった。

 

 アストレアはそんな思惑の元、オラリオで【ファミリア】に入ってくれそうな子供──条件に一致する──を勧誘しようとしたのだが、これがなかなか見つからなかった。

 考えてみれば、至極当たり前のことである。

 現在のオラリオはそれはそれは暗い、暗黒期と呼ぶに相応しい有様であった。そんな場所に暮らしていれば、性格が曲がった者が増えるに決まっていた。そのような事情でオラリオに住んでいる者は候補外に分類するしかなかった。

 次に、オラリオでひと旗あげようとやってくる冒険者──見習い──をアストレアは狙った。

 だが、これはアストレアの【ファミリア】に誰も入っていないという事や、アストレアの名前が下界にあまり広まっていないという事で性格以前の問題であった。

 

 そんなこんやしていたら、三日などあっという間に経ってしまい金なしのアストレアは宿から放り出される事になった。

 ちなみにこの三日の間、自由に使えるのは百ヴァリスのみという極貧だったので極々最低限の食事しか摂っていなかった。

 ふらふらの彼女は噴水がある広場に心の赴くままにしていたら着いていた。

 死ぬくらいならと、しばらく掃除をしていないような濁りきった水を飲もうとしたところで彼女は運命の出会いをした。

 

 ■

 

 宿という単語を思い浮かべて、現状を全て思い出したアストレアは眷属にした少年──エトの方をゆっくりと振り返った。

「……お金、貸してくれませんか?」

 そして、お金を強請った。

 神とはとても思えない所行だと自らでも自覚していたが、無いものはないのだから仕方なかった。

 

 そんな事を言われたエトは困ったような顔を浮かべる。

「──今は手持ちが少ないのでちょっと……後でなら──」

 アストレアはエトが何か話していたが、それも聞かずにとある一言に疑問を抱いた。

「……手持ちが少ないっていうのは、嘘ですよね?」

 エトの体がビクっと動いた。

 アストレア──というよりも、神は下界で『神の力』を使うのは禁止されているが、子供の嘘を見抜くくらいなら力を使わずともできる。

 そして、エトが嘘をついたのがわかった。

 ──でも、仕方ない。

 けれど、アストレアは怒ってはいなかった。自分のお金を人に貸したくないのは人としては当然の感情である。ましてや、オラリオに観光のようなものをしに来ていたエトは買いたい物もあるのは当然だ。そんな時にお金を誰かに貸したくはない。

 だが、そうなると『神の恩恵』を安全に刻む場所がない。うーんと、悩んでいるアストレアにエトが声をかけた。

「す、すみません。あの、嘘をつくつもりじゃなかったんです。でも、その……」

「ええ」

 今のエトの言葉に嘘は感じ取れなかった。だから、彼女はエトの言葉を待った。

「……お金、持ってないんです」

「ええ……ええ⁈」

 懺悔している子供を見守る、神様的な雰囲気が一気に吹き飛んでしまった。

「一ヴァリスも?」

「……はい」

 消え入るような小さい声で肯定される。

 

『手持ちが少ない』というのはお金を多く持っていると嘘になり、お金を持っていない時も嘘になるとアストレアは学習したのだった。

 

 ■

 

「なるほど。オラリオに来て早々災難だったですね」

「いえ、このくらいは日常茶飯事ですよ。アストレア様の方が大変だったんじゃないですか。ろくにご飯も食べれないで」

 お互いがお互いを慰め合うという謎の時間を数十分堪能して、ようやく二人は話を戻した。

「えっと、神様達って嘘がわかるんですか?」

「ええ。子供達の嘘くらいなら、間違いなくわかります」

「そのですね……言い訳ですけど、言っていいですか?」

「どうぞ」

「……アストレア様がお金に困ってそうなのはすぐにわかりました。お腹空かせてましたし。なので、お金がないって言ったら悲しむのかなとか思ってしまって……だから、後で……いえ、とにかくすみませんでした」

 

 嘘ではない。

 と、アストレアはわかった。

 つまりは優しい嘘というものだった。自分のために嘘をつかせてしまったというのに、アストレアは何故か少し嬉しかった。

「……でも、できるだけ私には本当の事を話して下さい……家族なんですから」

 少し照れくさいような気がして、アスタリアの声は少し小さくなった。

 けれど──

「はいっ」

 エトの返事は、子供のように元気だった。

 

 事実、子供なのだ。

 年齢はたしか十四と言っていた。話し方や身長でもう少し上の年齢のような気もするが、やはり所々子供っぽいところは現れる。

 アストレアとしてはもっと甘えてくれた方が嬉しかったりするのだが、この歳の男の子はそういったことが苦手ということを知っているので無理にお願いしたりはしなかった。

 

「アストレア様? 聴いてますか?」

「えっと、何ですか?」

「今日の寝床の話です。今からお金を稼ぐというのは割と難しいと思うんです」

 それはアストレアも同意見だった。

 すでにお昼はとっくに過ぎている。今からバイトを探して、且つすぐに働かせてくれる場所など見つけられる気がしない。加えて、エトは知らないが今のオラリオは治安的な事情により、バイトを募集しているところがかなり少ない。

 よってお金を稼ぐのは難しいという彼の意見に賛成だった。

「ですが、寝る場所は絶対に必要です。街中で寝たりしたら、身ぐるみ全て剥がれます。……アストレア様はこの辺では廃屋とか廃墟とか、とにかく人が居なそうな場所を知ってますか?」

「そうですね……第七区画や後は少し歩くんですが、古い廃墟同然の教会がある場所とかは知ってます」

 雑草を探していたら見つけたとは、流石に教えられなかった。

 

「なら、その教会の方に行きませんか? 第七区画という場所はわかりませんが、教会の方が人が少なそうなので」

「ええ。それは構いません。ですが、そこで何を?」

「何って、そこで寝泊まりするんですよ」

「え?」

 

 ■

 

「あの、本当にここで寝るんですか? 長椅子しかないですよ?」

「長椅子があるんですよ?」

 この意識の違いはアストレアが天界で豪奢な生活をしていたせいなのか、エトが果てしない貧乏だったせいなのか。

 それはともかく、アストレアは枕がない就寝など一度も経験したことがなかった。

「アストレア様、自分たちはお金がないんです。あまり我が儘言わないでください」

「ご、ごめんなさい」

 なんとなく謝ってしまったアストレアだった。

 

「完成です」

「おおー!」

 長椅子を対称に置いたり、持っていた荷物を重ね合わせたりして出来たベッドらしきものがアストレアの目に映っていた。

 ベッドっぽいものではあるが、他人が見たら確実に違うと言うであろうモノであったが、二人で一生懸命作ったという思い出補正でアストレアには紛れも無いベッドに見えていた。

 

「では、『神の恩恵』を刻みます」

「お願いします」

 エトはうつ伏せになり、アストレアがその上に跨っていた。

 鍛えられているという感じではないが、筋肉はそこそこついていて男の子の体だななんて事をアストレアは『恩恵』を刻みながら思っていた。

 最初の眷属だからというわけではないが、一文字一文字丁寧に、心を込めて刻み込んでいった。そして……。

「──できました!」

「ホントですか!」

 エトも『恩恵』を刻むという事にテンションが上がっているようで、アストレアの股の下でもぞもぞと動く。

 そんな彼を見て、女性の接し方について二、三言いたい事があったが一先ず飲み込み、次の動作に移る。

 

 アストレアはエトが持っていた針で指の先を刺し、その血を彼の出来たてホヤホヤの恩恵へと滴り落とす。

 皮膚に落下する──事はなく、波紋を広げてエトの背へと染み込んでいった。

 

 こうする事により、『神血』を媒介にして対象の能力を引き上げる事ができる。

 勿論、無条件で能力を引き上げる事などはできない。その者が経験した事が体に蓄積されたモノ──『経験値』の分のみである。

 つまり、食材は眷属が集めて、神が料理をするというようなものだ。

 今回は『恩恵』を刻み込んだばかりなので、【ステイタス】──『神の恩恵』の簡単な言い回し──も真っ白な筈だと思い、能天気にしていたアストレアだったが。

「……《スキル》が……それも二つも……」

 エトの中に奇妙な『経験値』があったので取り出して刻み込むと、《スキル》が発現した。

 アストレアは発現した《スキル》を注意深く見る。

 

幸運不運(ラッキー・アンラッキー)

 ・幸運になる。

 ・不運になる。

 

 これが一つ目のスキルであったのだが、アストレアはリアクションの取りづらい《スキル》だなぁと内心思った。

 制限があったり、もっと飛び抜けたものならばまだしも、効果内容が曖昧すぎて良いスキルなのか悪いスキルなのかすらわからない。

 エト曰く、彼は運が悪いらしいので、不運というスキル内容はわかるのだが、幸運というのはどこからやってきたのだろうか。本人が自覚していないだけで、運が良かったという事なのだろうか。

 アストレアは一人で悩んでいても仕方ないので、とりあえず後で本人に聞こうと思い、第二のスキルへと目を移した。

 

限界突破(リミット・ブレイク)

 ・限界を超える。

 ・精神が肉体を凌駕した時、能力値補正。

 ・補正値は意志の強さに比例。

 

 アストレアはなんとなく、直感する。

 ──《レアスキル》……ですね。

 他の冒険者の《スキル》を見たことは当然アストレアは無かったが、神としての勘がそう告げていた。

 限界を超える。というまたしても曖昧な語句に頭を悩ませる。

 そもそも、なんの限界を超えるのだろうか。

 何事も限界が存在していないようで、存在している。

 人間が走る速度や持ち上げる事のできる重さ──などなど、挙げればキリがない。

 何に対する限界突破なのかで、このスキルはレアスキルにもゴミスキルにもなり得る。

 アストレアは珍しいであろう《スキル》が発現して嬉しい半分、不安な気持ちが半分というような心境だった。

 一度、大きく頭を横に振ってエトに話しかけた。

「《スキル》が発現してましたよ」

「《スキル》……ってなんですか?」

 そこからなのかぁとアストレアの肩はガクッと落ちた。

 

 




彼女──アストレア様は暗黒期だと言っていますが、実際は暗黒期(序盤)です。
もっともっと、オラリオは暗くなります。
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