お待たせしました千歌ちゃん回です。
「ねえねえ果南ちゃん、今度の土曜日って空いてる?」
練習が終わり、帰りのバスを待っていると千歌がかな姉に話しかけてきた。
「うん、お店の方は父さんたちが対応してくれるから、大丈夫だよ」
「じゃあ、うちに泊まりに来ない?玲士くんと一緒に」
「ちょっと待て何で僕の予定を聞かないんだ」
唐突に僕の名前が出てきたので思わず割って入る。
「だってどうせ玲士くん予定ないでしょ」
「なっ、人を万年暇人みたいに言うな。千歌だって練習がない日は部屋でごろごろしてるじゃないか」
確かに僕は週末にこれと言って予定がないことが多いが、さもそれが当然みたいに言われるのは不本意だ。
思わず言い返してしまう。
「違うもん!千歌は毎日旅館の手伝いしてるんだよ!」
「僕だってお店の手伝いしてるんだぞ」
「こら、千歌に玲士。全く、二人はいつもこうなんだから」
だんだん会話がヒートアップしてきたので見かねたかな姉が止めに入ってきた。
これは昔からなのだが、僕はどういうわけかいつも千歌と張り合ってしまうのだ。
「別にいいでしょ玲士。予定ないのは本当なんだし。それにしても、千歌の方から誘うなんて何かあったの?」
「この間泊めてもらった時のお返しだよ!なんたってうちは旅館だからね」
「ありがとう、楽しみにしてるよ。玲士も良いでしょ」
「うん・・・」
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そして土曜日。練習を終えると約束通りかな姉と僕は準備を整え十千万へ向かった。
「二人とも十千万旅館へようこそ!」
十千万の前では旅館用の着物に身を包んだ千歌が待っていた。昔から見慣れた姿だが、普段よりも落ち着いて見えとてもよく似合っている。
「千歌、今日はよろしくね」
「たっぷりお返ししてもらうんだからね」
「もっちろん、じゃあさっそく二名様ごあんなーい♪」
意気揚々とした千歌に連れられ旅館に入っていく。
「あら~、果南ちゃんに玲士君いらっしゃ~い」
旅館に入ると高海家の長女、志満さんが出迎えてくれた。とてもやさしい人で昔からよくお世話になっているのだ。
「志満さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、この間はありがとね。そういえば、千歌ったら家ではいっつも玲士君の話するのよ~」
「わわっ、志満姉・・・」
「そうなのか千歌?」
「せ、世間話だよ・・・。ほ、ほら早くいくよ」
さっきまで元気だった千歌が途端におとなしくなる。それにしても他の内で自分のうわさがされているとなるとなんだか少し気恥しいものである。
そして僕たちはそのまま2階に上がり千歌の部屋に通される。
そして、部屋に入った瞬間に違和感に気づいた。
「本日のお部屋はこちらでございます!」
「あれっ千歌、布団が・・・」
千歌の部屋にはベッドがあるのだが、なぜか布団が3枚敷いてあるのだ。
「もしかして、他に誰か呼んでるのか?」
「うんうん、玲士くんと果南ちゃんだけだよ」
「じゃあ、何で布団が・・・」
「今日は千歌も布団で寝るの!いいでしょ?」
「別にいいけど、そんなに気張らなくてもいいんだよ千歌。私たちは本当のお客さんじゃないんだし」
「まあ、気張ってる千歌はそれはそれで好きだから良いけど」
「果南ちゃん、玲士くん・・・」
かな姉は千歌に対してそう優しく語り掛ける。確かに今日の千歌はいつもとは少し違うようだが、気張っていたのか。それにしてもこんなことをすぐに見抜けるかな姉はやっぱりすごい。本当エスパーなんじゃないかと思ってしまうほどだ。
「こぉらぁ玲士!またうちの妹をたぶらかしてぇ~!」
「わわっ!美渡さん」
すると突然後ろの襖が開き、そこから出てきた千歌のもう一人の姉である美渡さんに頭をわしづかみにされた。
美渡さんは志満さんとは正反対な活発な人物で、昔はいろんなことされてよく泣かされたものだ。
「お前は内浦中の女をくらいつくす気か!」
「な、何を言うんですか!?」
一体何を言うんだこの人は。確かに僕は浦女に出入りしてるから女子と話すことも多いが決してそれはやましい意味ではない。ほんとですよ!
「むー、美渡姉、玲士くんの悪口は許さないよ!二人は大切なお客さんなんだからね!」
すると横にいた千歌が美渡さんの腕をつかみにかかり、引っ張って隣の部屋まで押し戻そうとする。
「おわっ、千歌!」
「お客様の邪魔です!あっ、二人は夕食までごゆっくりー」
しばらくの押し合いへし合いの後、二人は隣の部屋へと消えていった。
「かな姉も見てないで助けてよ」
「ごめんごめん、ちょっと面白くって」
「そんなぁ。それにしてもかな姉、僕ってそんなに変かな?」
「まあ、ちょっとね」
その後しばらく千歌の部屋で過ごした後、夕食のために食堂へ向かう。普段ならできないそうだが、今日はたまたまお客さんも少なく、食堂の予約もないから特別だそうだ。
「うわっ、すごいな・・・」
夕食は旅館とあってとても豪華だ。きっと板前の千歌のお父さんが腕によりをかけて作ってくれたのだろう、後でお礼言わなきゃな。
「二人が来るから今日は特別だよ。こんなんなら毎日二人が毎日来てくれればなぁ」
「おっ、千歌ったらいきなり大胆なことを言うな~」
「あらあら千歌ちゃんったら~」
すると志満さんと美渡さんがなぜだかニヤニヤしだした。特に千歌が変なことを言ったわけでもないのにどうしてだろうか?
「わわっ、そういう意味じゃないよ。私はただ単に・・・」
「何を言ってるんだ?」
「あはは、やっぱりうちと違ってにぎやかだなぁ」
にぎやかな夕食の後、僕はそのままお風呂に向かった。
「ふう、温泉っていいなぁ~」
十千万の温泉は地元でも有数の規模を誇る名湯だ。
温泉はやっぱり良い。体も心も癒される。千歌はつくづくうらやましいと思う。
すると、戸が開いて人が入ってきた。よく見ると千歌のお父さんであった。
昔から千歌のお父さんは旅館で板前をやっており、寡黙な職人さんだ。あまり話したことがないが、昔は旅館に預けられたときにはよくお世話になったものだ。
「あっ、あのっ、今日はありがとうございます。わざわざ泊めていただいたりして」
「いや、ゆっくりしていってくれ・・・」
「ありがとうございます」
あまり話したことのないせいかどうも会話がぎこちなくなってしまい、そのまま温泉に浸かったまま無言の時間が続いた。
「千歌をよろしく頼む・・・」
すると突然、千歌のお父さんが僕に声をかけてきた。
「は、はい」
「よろしく頼む」かAqoursのマネージャーとして頑張らなきゃ、そう思いながらさらに深く温泉に浸かるのだった。
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「ねえ千歌」
玲士がお風呂に行ってしばらくした後、私ははいよいよ千歌に対してあの話題を切り出す。
「なあに果南ちゃん」
「千歌って玲士の事、どう思ってるの?」
「ふぇ、玲士くん!?」
突然の質問に千歌は明らかに動揺したそぶりを見せる。やっぱり私の思った通りだ。
「ええと玲士くんは優しくって頼もしくて、みんなの事をよく見てくれて・・・」
千歌は玲士のいいところを次から次へと言っていく。これはもう間違いない。
「なるほど、やっぱり好きなんだね、玲士の事が」
「か、果南ちゃん!?」
一瞬にして真っ赤な顔になった千歌は、しばらく口をパクパクさせた。かわいいなぁ。
そして、数秒の沈黙ののちにこくりとうなづいた。
「ごめんね、玲士が千歌の気持ちに気づいてあげれなくて。私も言ってるんだけど、玲士は人の好意に鈍くって」
「・・・いいよ、だって、そこも含めて玲士くんだもん」
「私から伝えた方がいい?もっと他の人の気持ちに・・・」
「それはだめ!!!」
千歌の威勢に思わずのけぞってしまう。
「だって、だってそんなのずるいじゃん・・・玲士くんにはじぶんできづいてもらわないと・・・だから!」
「わかったよ千歌。何も手出しはしないよ、がんばってね」
「うん!」
元気な笑顔を見せる千歌に、私もつられて笑顔になるのだった。
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「こら玲士くん、朝だぞー」
「かな姉あと5分・・・」
「果南ちゃんじゃないよ。玲士くんったらお寝坊さんだなぁ」
ああそうだった、今日は千歌の家に泊まってたんだ。
「ああ、わりゅい悪い」
僕は起き上がり大きな欠伸をしながら答えた。
「もう朝ごはんできてるよ、早く早く!」
千歌に連れられて僕は食堂へ向かった。それにいてもつくづく千歌のやつは元気だなと思う。朝が弱い僕から見たら羨ましいものだ。それにしても昨日は風呂上りはやたらと千歌の様子が変だったら何かあったんだろうか?
「おっ、すごいな・・・」
食堂にはかな姉がもういて、テーブルの上にはこれまた豪華な朝食が並んでいる。
「こら玲士、遅いよ」
「ごめんごめん。それじゃいただきます」
席に着いた僕は真っ先にみそ汁を吸う。
「このお味噌汁、早起きして千歌が作ったんだよ!どう?」
「うん、かな姉の作る味にそっくり。おいしいよ」
確かに味はいつも飲んでるかな姉特製みそ汁と同じだ。かな姉が微笑浮かべてることからきっっと一緒に作ったんだろう。
「やったぁ!」
千歌はよほどうれしいのか得意げな顔をして喜んだ。よほどうれしいのか頭の毛もぴょこぴょこ揺れている。
「こ~ら~千~歌静かにしろぉ!」
「げっ、美渡姉!?」
そこに美渡さんが割って入りまたまた大騒乱が始まった。
「うちもこんな風に賑やかだったらいいのにね」
その光景を見ている僕にかな姉が耳打ちしてきた。
「うん、でもこれはちょっと賑やかすぎるよ。でも、元気でいいもんだね」
いつもと違うにぎやかな朝もいいんもんだな、そんなことを想いながら僕たちは高海家での朝を過ごすのだった。
お読みいただきありがとうございました。誤字や文のみだれ等があったら報告お願いします。
次回は梨子ちゃんか曜ちゃんかは未定です。