多忙と別作品執筆に付き大変お待たせしてしまいました。
申し訳ございません。
この甘々梨子ちゃん回で許してくだせえ。
「洗剤は買った、後は・・・」
今日の松浦玲士は沼津へ買い出しに出掛けてるのだ。
天気もいいのでかな姉は今頃海の中だろう。
商店街で買い物を済ませた僕はいつもならすぐにバス乗場に向かうところであるが、今日は違った。
「よーし、いいもの当ててかな姉をびっくりさせてみせるんだから」
僕が向かったのは商店街の真ん中に設けられた特設テント、そして手にはチケット。そう、福引きである。
おいしい旬の食べ物や家電、商品券などたくさんの賞品があるが、もちろん狙うのはなんとも素晴らしい温泉旅館のペア宿泊券である。
もしかな姉と二人きりで行けたらどれだけ素晴らしいことであろうか。近くの商店街で和服でショッピング、温泉後で卓球(得意じゃないけど)二人で布団の中で寝るまで思い出を話し合う、ああ、幸せな妄想がどんどん膨らんでいく。
「ああ、かな姉かな姉・・・」
「れ、玲士君?どうしたの・・・?」
振り返るとワインレッドの美しい髪の人物がその場にいた。梨子ちゃんである。
「や、やあ梨子ちゃん。もしかして梨子ちゃんも?」
「うん、お母さんにお使いを頼まれたの。一枚だけだけどね」
「えらいねぇ梨子ちゃんは」
表面上は世間話でやりすごしているが内心は冷や汗ものだ。まあ商店街の真ん中で妄想癖を炸裂させている僕が悪いのだがまさか知り合いに見られていたとは思わなかった。てか絶対変って思われてたよね今!?女の子の間で広まるうわさは恐ろしいものであるから油断はできないのだ。
カランカランとハンドベルが鳴り響く音で現実に戻される。どうやら何か当たったようである。
「そうだ、お先にどうぞ」
「そんな、玲士君が先にいたんだし・・・」
「いいよいいよ、どうせ僕なんて何て当たりっこないから」
「それじゃあ・・・」
こうして僕は梨子ちゃんの後ろに並ぶことになった。
「そういえば、もし一等が当たったらどうする?」
「うん、お父さんと母さんにあげるつもりだよ」
「僕は当然かな姉さ」
「あはは、やっぱり・・・」
順番になり梨子ちゃんはチケットを渡し、取っ手を握り抽選機をゆっくりと回していく。
「「あっ!!」」
まばゆいばかりの金色に輝く球が抽選機から排出されたのであった。
「それで、このティッシュの山はなに」
「すみません・・・」
あの後僕は梨子ちゃんに負けじと持てるお小遣いを振り絞ってやったのだが無念なことに当りは出なかった。そして今かな姉のお叱りを受けているということである。
「まったく玲士は・・・。何度も言ってるでしょ、よく考えてお金を使わなきゃダメだって」
「だって、梨子ちゃんが目の前で1等出したから僕だって・・・」
「こら、言い訳しない」
「はぁい・・・」
僕はおとなしく引き下がる。こういう事に関しては僕は昔からかな姉に頭が上がらないのだ。
「まあこれくらいにしよっか。それにしても本当に当たるもんなんだね」
「ほんとほんと」
きっと今頃桜内家は幸せに包まれているのだろう。そんな事を思いながら一日を終えようとするのだった。
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「あのあのっ、玲士君・・・」
「ん??どうしたの梨子ちゃん?」
数日たって福引のことが頭の片隅に追いやられていたある練習終わりに梨子ちゃんが話しかけてきた。
「この間の福引の事なんだけどね」
「福引?そういえばお父さんとお母さんにあげるんでしょ」
「うん、本当はそうだったんだけど・・・。二人とも忙しいみたいで予定が合わなくって・・・」
「ほうほう。そりゃこまった」
「だっ、だからその・・・」
そういうと梨子ちゃんは急に言葉に詰まりあたふたしだす。一体どうしたのであろうか?
「ど、どうしたの梨子ちゃん」
「だからっ、そのっ、れ、玲士君とい、いきたいなって・・・」
最後の方は小さくなってやっと聞き取れるほどであったが梨子ちゃんの言いたいことは理解した。
あまりの衝撃に思考が固まり頭の上に?の文字が浮かぶ。
「・・・ほえ??」
「だからその・・・玲士君と・・・」
「えっ・・・僕と??」
そう聞き返すと梨子ちゃんは顔を真っ赤にしながら頷いた。
「えっ、な、なんで僕?」
「あのっ、そのっ、だ、だから・・・」
話すにつれてますます梨子ちゃんの慌て具合は増していく。
「れ、玲士君はいっつも良くしてくれたり、いろんな相談に乗ってくれたりしてくれるからそのせめてものお礼というかなんというかで別に玲士君が嫌だったらいいんだけど・・・。やっぱり、嫌だよね私みたいな地味な娘となんか・・・」
「わかったわかった、とにかく落ち着いて梨子ちゃん」
ものすごい早口で話す梨子ちゃんを僕は何とか落ち着かせる。
「よ、要はあの福引の旅行を一緒に行ってほしいってこと・・・?」
すると梨子ちゃんは再度顔を赤くして頷いた。
「えっ、ぼ、僕なんかでいいの?千歌とか曜とか善子ちゃんとかじゃなくて?」
「う、うん・・・」
どうしてなのか、全く訳が分からない。もちろん三人とも梨子ちゃんと喧嘩などしている様子もないので、普通なら行かない理由がない。
「ほら、玲士君はいつもAqoursのために頑張ってくれてるし、少しでもお礼がしたいなって・・・」
「そんなそんな、僕は当然のことをしてるだけで、お礼されるほどの事じゃないよ。それに僕なんかと行ったって楽しくもなんともないよきっと」
確かに梨子ちゃんのご好意はありがたいがいくら何でも温泉旅行なんて身に余る。
「こら玲士、またそういうこと言って。梨子ちゃんを困らせないの」
「果南ちゃん!」
どうや近くで話を聞いていたかな姉が入ってきた。別に僕は困らせてるんじゃないんだけど・・・
「せっかく梨子ちゃんが誘ってくれたんだし、行かないと悪いよ」
「で、でも・・・」
かな姉はどういうわけか僕に行くように勧める。
「玲士もあんなに羨ましがってじゃん」
「か、かな姉なんでそれを・・・」
「そうなの玲士君?」
かな姉の言葉に反論のしようがなくなってしまう。
確かに羨ましがっていたのは事実だが、わざわざそれを言わなくたっていいじゃないかと思ってしまう。一体かな姉はどうして僕をそんなに行かせようとするのであろうか。
「た、たしかにそうだけど・・・」
「なら、断るのも失礼だし行ってあげなって。それに、千歌と曜とだけ遊んで梨子ちゃんだけ断るなんて不公平だよ」
「たしかに・・・」
別に梨子ちゃんだけを省いたつもりはないが、確かにかな姉の言う通りだ。
「僕でよければご一緒させてもらおうかな」
「あっ、ありがとう玲士君!」
すると梨子ちゃんはさっきまでの様子とは打って変わって満面の笑みを浮かべる。僕と行くことがそんなに嬉しいのかなぁ。
「あと、さっき言ってたけど、梨子ちゃんは地味な娘なんかじゃないよ。とっても素敵な人」
「はわわわわ!?」
「まったく玲士は・・・」
またもや顔を真っ赤にして慌てた様子を見せ、反対にかな姉はあきれたような目で僕を見ている。一体どうしたのであろうか?
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「いやー、やっぱり聞いてたけどいい風情だねぇ」
「うん、すごく趣深いっていうか」
こうして温泉街に到着した僕と梨子ちゃんはとりあえず宿に向かった。
「おみやげどれにしようかなぁ」
「もう玲士君ったら来たばかりなのに」
「いっけね」
かな姉やAqoursの皆や梨子ちゃんのご両親などあげるべき人はたくさんいるから今のうちから考えないといけない。
ちなみに梨子ちゃんのご両親には事前にお礼を言いに行ったのだが、なぜかお母さんは『いいのいいの~、それよりうちの梨子をよろしく頼むわね~』とにこにこしていた。
なにが『よろしく頼む』なのかよく分からなかったが、旅行中に面倒を見てくれということなのだろう。
梨子ちゃんの方がしっかりしているからどちらかと言ったら僕が面倒を見られる方なんだけどなぁ・・・
そうこうしているうちに今晩泊るお宿に着いた。調べたところにあると歴史ある立派なものであるようで、中に入るといかにも歴史のありそうな和風建築が出迎えてくれた。
「ご連絡承っております。本日ご宿泊の松浦玲士様と『松浦』梨子様ですね」
「はわわわわっ!?!?!?」
「へ・・・?」
あまりに突然の事なので思考が追い付かない。何とも心臓に悪い間違いだ。
すぐさま誤っている旨を伝えると相手もすぐに謝罪し事なきを得た。どうやら連絡の段階で取違があったようである。
「ま、松浦梨子、松浦梨子・・・」
梨子ちゃんは名前を間違えられたことがよほど恥ずかしかったのか何かを言いながら顔を真っ赤にしている。そんなに恥ずかしいかなぁ?
来て早々予想外の事に見舞われたが、なんとか切り抜けて部屋に向かうことにした。
「やっぱりすごいんだなぁ」
部屋に入ると畳の良い香りが鼻孔をくすぐる趣がある和室で、窓から見える景色もまるで一枚の絵画のような非常に美しいものである。
僕たちは荷物を下ろして一息つくことにした。
「なんかぴったりだね、梨子ちゃんと日本間って」
「どういうこと?」
「うーん、なんて言うんだろう。日本間の落ち着いた雰囲気と梨子ちゃんの奥ゆかしい感じがすごい似合っているというかなんとういか・・・。」
「もう!玲士君!!」
すると急に梨子ちゃんが大声を出したので驚いてしまう。僕は何か悪い事を言ったのだろうか。
「へ??」
すると梨子ちゃんが我に返ったような様子になり急にあたふたし始める。
「だから、そのっ、玲士君はいつもいつも私も褒めてくれるから私には勿体ないというか、私なんか全然奥ゆかしくないよ!」
「そうやって慌ててるとこもかわいいよ」
「もう知らない!」
すると梨子ちゃんはそっぽを向いてしまった。女の子の考えることは複雑怪奇だ。だって本当にかわいいんだけどなぁ。
しばらくすると梨子ちゃんは機嫌を直してくれ、温泉に入ろうということになった。
無論温泉は男女別々なので僕たちは分かれ、浴場に向かう。やっぱり有名な温泉宿ということで非常に立派である。どうやら時間帯が少し早かったからか、男湯には誰もいなかった。
「はふぅ~」
僕は簡単に体を洗い、檜でできた大きな湯船につかる。
「ほんとに僕でよかったんだろうか・・・」
しばらく湯につかっていると、ふとそんなことが頭に浮かぶ。
どうして梨子ちゃんは僕を選んだのだろうか、どうしてかな姉はあれほど僕に行くことを勧めたのか、考えてみればこの旅行には疑問が尽きない。
かと言って、それを梨子ちゃんにいちいち聞いたり追及したりするのもせっかく誘ってくれたのに失礼だし、この疑問を解消するすべがないのである。
今頃湯船につかっているであろう梨子ちゃんはどんなことを考えているのであろうか、そんな事を思いながら女湯を隔てる壁に目を向けるのであった。
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「いや~、それにしてもいい湯だったねぇ」
「うん、お夕飯もとってもおいしかったし」
お風呂から出た僕たちは、部屋にて一旦用意されていた夕食を食べた後出かけるためにロビーに向かった。
「そういえば、浴衣すごく似合ってるよ」
「そっ、そうかな・・・、ありがとう。玲士君も似合ってるよ」
お風呂から出た僕たちはは入る前とは違って旅館から貸し出された浴衣を着ている。梨子ちゃんの長いワインレッドの髪に桜色の浴衣がよく似合っている。
「さあてかな姉へのお土産も探さないとね」
「もう玲士君ったら来た時もおんなじこと言ってたじゃないの」
そんな会話をしながら僕たちはすっかり日の落ちた温泉街へと繰り出していった。
通りは大勢の人でにぎわっており、沿道のお店からのオレンジ色の明りと共に賑やかな声が聞こえてくる。
そこで僕たちは射的をしたり、美味しいデザートを食べたりと楽しみを満喫した。
そして最後に訪れたのは名物となっている温泉街を貫く渓谷を一望できる広場である。
「梨子ちゃん、今日はありがとね。こんな素敵な所に招待してくれて」
改めて僕は今日のお礼を言う。
「私も玲士君が喜んでくれて嬉しいわ」
「それで、お礼と言っては何だけど」
僕は満を持して、隠し持っていたあるものを取り出して梨子ちゃんに渡す。
「これって・・・!」
僕が手渡したのは桜の飾りが付いた髪飾りである。
実は先程二人で入ったお店で売られていたものである。梨子ちゃんは気に入ったようだが高いからという理由で結局買わず仕舞いに終わったのだ。
「でもそれ結構高かったんじゃ・・・」
「僕がここに来れたのは梨子ちゃんのお陰。だからこれくらいなんて何ともないよ。さっ、着けてあげる」
「ありがとう!」
髪飾りを着けてあげたことなどないので、少しばかり時間を要したが、なんとか上手いこと着けることができた。
「どう・・・かな?」
「うん、とっても似合ってるよ」
髪飾りを着けた梨子ちゃんは、まるで桜のつぼみがまた一輪咲いたかのごとくいっそう美しいものであった。
僕たちはそのまま特に景色が良いという渓谷に架かる橋の真ん中まで移動した。
眼前に広がる渓谷からは湯けむりが立ち込め、ライトアップされていることもあってとても良い雰囲気を醸し出している。
「綺麗だね」
「うん、すごく幻想的」
「こんな景色をかな姉に見せてあげられないなんて勿体ないや。そうだ」
僕はスマホを取り出してその光景を写真に収める。
「よし撮れてるぞ」
僕が画面を確認していると梨子ちゃんが僕の浴衣の袖をくいくいと軽く引っ張ってきた。
「ねえ玲士君、せっかくなんだし一緒に写真でもどうかなって・・・」
「いいね、やろうやろう。でも誰かに撮ってもらわないとね、ちょっと頼んでみるよ」
そう言って僕が道行く人に声をかけようと歩き出す。
「待って!」
すると後ろからに呼び止められた。振り返ると梨子ちゃんが先ほどとは明らかに違う様子でこちらを見ていた。一体どうしたのだろうか。
「人呼ばなくて大丈夫だから・・・」
「へ?」
そして僕の方へと歩みより、腕を引っ張って僕を引き寄せて肩と肩が触れ合った。
「り、梨子ちゃん?」
そして梨子ちゃんは僕の困惑をよそに左手で僕と腕を組み、スマホを持った右手を斜め上に掲げた。
「こうすれば、二人だけでも撮れるでしょ」
そう小声でささやいた後、カメラのシャッター音が鳴った。
ここまで来てやっと梨子ちゃんの行動の意味が分かったのと同時にその突然の行動にドキッとしてしまう。
いくらAqoursのお手伝いさんをしているとはいえ、かな姉(と勝手に抱き着いてくる鞠莉姉)以外の女の子とここまで密着するようなことは初めてだ。
しかもそれを梨子ちゃんがやったというのだから驚かないはずがない。
「ふふっ、びっくりしちゃった?」
「ちょっとね。もしかして、さっきから考えてたのって・・・」
「ばれちゃったか」
梨子ちゃんは少しあざとっぽく笑った。
「でも、どうして急に」
「そんなの決まってるじゃない」
そして梨子ちゃんは一呼吸置き僕の目をまっすぐと見つめた。
「だって、玲士君との思い出を残したかったからに決まってるじゃないの」
「梨子ちゃん・・・」
その言葉にどういうわけか僕は何かに打たれたような感覚を受けた。
一緒に旅行した証を残す、何ともない普通の事かもしれないが、その言葉にどういうわけか僕は一種の感動に似た感情すら覚えてしまう。
その言葉の裏にある梨子ちゃんの、ある種の何かに対する決意のようなものを感じ取ったのかもしれない。
それがどんなものか僕にはまだわからないが、いずれ分かる時が来るのであろうか。
「ありがとう。さて、一通り楽しんだことだしそろそろ宿に戻ろうか」
「うん!」
僕たちは旅館への帰り道を歩く。
僕の隣を行く梨子ちゃんの姿は今日一番の美しさであった。
誤字脱字、文の乱れがありましたらご報告お願いします。
他作品共に多忙ながらも時間を見つけて執筆していきますので何卒よろしくお願いします。
それではまた次回