七宮 梅雨先生の「Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』」とのコラボ作品です!
七宮先生の作品はこの作品を書くにおいて大変参考にさせていただいております。
明くんは玲士くんとかなり違った人物なので書くのが難しかったのもありますが、新鮮で面白かったです。
七宮さん、コラボの申し出快諾していただき本当にありがとうございます。
それではどうぞ!
「おはようございます、今日はよろしくお願いします」
そう言って連絡船から降りてきた奥山明は頭を下げる。
その大柄でがっしりとした体は、対岸から向かってくる船のデッキにいるときからよく見えた。
「明くん、今日はよろしくね!」
「よろしく」
彼は今日、わがダイビングショップの臨時店員として働いてもらうこととなった。
最近このあたりがテレビで紹介されたらしく、その影響か我がダイビングショップにもひさしぶりに団体で予約が入ったのだ。
無論多くの人がこの内浦、淡島に訪れてくれることは喜ばしい限りだが、人員の少ない我が家としては大変だ。うちの家族だけでは到底対応しきれない。
そこでかな姉が彼をスカウトしたのだが、僕がそれを知ったのは一昨日の夕食の時であった。
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「なんせ今度のお客さんはかなりの大所帯なんでしょ、団体なんて久しぶりだし、不安だなぁ」
夕食の折に話題が出た。
「ほら、そんなに心配しないで。なんせ協力な助っ人を呼んだんだから」
「助っ人???」
助っ人と言ってもダイビングというのは素人ができるものではないので、呼ばれる人も限られる。
Aqoursでかな姉と同じくらい泳ぎが得意な曜のことだろうか?しかし今度の日曜は高飛び込みの大会と言っていたからそれはないだろう。
一体誰であろうか?
「ああ、玲士には話してなかったっけ。奥山君だよ。空手やってるから体力もあるし」
「奥山君だと・・・」
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奥山明は私と同じくAqoursのマネージャーであり、私がいない時間はいろいろと助かってる。
彼は過去に色々あったと聞いているが、別にそれ以上詮索する気もないし、私の中での彼の評価に何ら影響するものでもない。
それに彼は武道を嗜んでおり、体力的にも問題なくまさしく適任と言えるだろう。
しかし、気になるところがひとつある。
当然ながら奥山明は「男」である。
かな姉が「男」を家に招くことは弟である僕にとって看過できるものではない。しかもかな姉は彼の事を話すときはいつもより頬が緩み、機嫌も良くなる。かな姉が良ければそれで良いと僕は思っているが、それでも複雑な気持ちだ。
そしてその気持ちも晴れぬまま今日を迎えたのである。
「それで、かなっちまずは何を・・・」
「ちょっと待てなんだその呼び方は」
「玲士さん顔が近いです顔が」
早速奥山の口から飛び出した衝撃の言葉に思わずかれに詰め寄る。
いくら同じAqoursのマネージャーといえどもかな姉をそんなように呼ぶことは僕にとって容認できるものではない。第一そんな呼び方僕が許可した覚えはない
「どうしたの玲士、顔が怖いよ。お客さんの前でそんなんじゃ駄目だからね」
明の呼び方もさることながら、それ以上にかな姉がその呼び方になにも疑問を持ってない方が僕にとって衝撃だ。
「だってかな姉、『かなっち』なんて呼びかた・・・」
「私がそう呼んでって言ったから良いの」
「なぬ!?」
今度はかな姉の口から発せられた衝撃の言葉に絶句する。これまた初耳だ。いくら同じAqoursのマネージャとはいえこれほどなれなれしく接されるのは僕としても納得がいかない。
「な、なんで・・・」
「いいじゃん、そんなに気にしなくても。そんなことより準備するから二人ともこっち来て」
かな姉についていき父さんと母さんがもう既に準備をしていた。
「あら、あなたが奥山君ね。いつも果南から聞いてるわ、今日はよろしくね!」
「おう!よろしくな!」
両親はかな姉と同じく明朗快活。いつもは内浦と沖縄にある店を行き来していていてどちらかが不在ということも少なくないが、今日は団体が来るということなので戻ってきたというわけである。
「はい、玲士のスーツ。今日はしっかり頼むよ」
そう言ってかな姉から少し暗めの緑が買った色の僕用のスーツを渡される。
「玲士さんも潜るんですか?ちょっと意外です」
「何を言うんだ、僕だって 店の一員なんだから当然さ」
「こら、そんなこと言ってると奥山君に抜かされるかもよ。二人でそこのボンベ運ぶの手伝って」
「「はーい」」
お客さんが来るのに備えて家族皆で機材を用意したり準備を整える。
明くんは初めてだというのに、言われたことをそつなくこなしている。かな姉が言ったことが現実になりかねんな・・・
そして、お客さんがやってくると、予想通り休む間もなく働くこととなった。僕も久しぶりに何度も潜ったり、陸の上でお客さんに潜り方やスーツの着方などを教えたりと大忙しとなった。
「奥山君、お客様の案内お願い!」
「わかりました。はい、皆さんご案内しますので私についてきてくださーい」
「玲士!フィンあと二組持ってきて!一つはサイズ小さいやつ」
「待って、今行く!」
「すみません、これはどこに・・・」
「はい、これはですねまず・・・」
休みなく動き回っているのに疲れた様子一つ見せず、お客さんからの質問にてきぱきと答えている。
おのれ明くん、中々やるな・・・さすがかな姉の見込んだことはある。
「玲士、奥山君、ちょっと落ち着いたから休んでていいよ」
「ありがとうかな姉。後はお願い」
「ありがとうございます」
僕たちはいったんお店の中に戻って椅子に腰かけ一息ついた。
「お疲れ明くん。すごいんだね、やっぱり武道やってる人は体力も違うなぁ」
「玲士さんだってすごいじゃないですか。正直な話、あんなに体力あるなんて思ってなかったです」
「まあ、多少は。本当よく言われるんだよねぇ~」
確かに僕はそんなに身長も大きくないし、色白だからよく体力ないって思われることも多い。それどころか1年生に間違われることさえある。昔からの私のコンプレックスだが、かな姉との身長差が少ないからハグしやすいという唯一にして最大の利点があるから何とも悩むところである。
「二人ともお疲れ~」
母さんがスポーツドリンクのペットボトルを持ってきた。
「ありがとう母さん」
受け取ると直ぐに蓋を開け、喉が渇いていたので一気に半分ほど飲み干す。明くんも同様だ。
「それにしても明君、初めてにしてはなかなかやるわね」
「いえ、それほどでもないですよ。果南さんや玲士さんに比べたらまだまだです」
「そんなことないわよ。体力もあるし、お客さんの対応もできてたじゃない。いっそのとこ家で働いてくれないかしら?住み込みでもいいわよ♪」
「なっ!か、母さん何て事を言うのさ!」
母さんの突飛な発言に危うく持っていたペットボトルを落としそうになる。いくら明くんと言えどもかな姉が家族以外の「男」が一緒に暮らすことは容認できるものではない。
「あら?玲士だっていつも言ってるじゃない、『家にもう一人ぐらいいてくれたら楽になるのにな』って」
「うぐぅ・・・確かに言ったけど・・・、これ以上人を雇ったらお小遣いが減っちゃうじゃないか・・・」
「まあ、いつも忙しいって言ってますから」
その後もお客さんへの対応は順調に進んだ。
お客さん全員が陸に戻り、後は着替えて帰るだけとなった。いつもは泳いだ後も笑顔なかな姉の顔にも疲れの色が見えている。
しかし、最後の最後に事件が起こった。それは一瞬の出来事だった。
「すみませーん・・・あっ!」
調度店の入り口の前にいるボンベを抱えたお客さんが足を滑らせ、その拍子にボンベが手から離れ宙に浮いた。
その様子は僕の目にスローモーションのようにゆっくりと映る。
しかもタイミング悪くボンベが落ちるであろう階段の下にはかな姉がいる。
「かな姉危ない!」
「「果南!」」
僕があっけにとられてると何がが横をサッと通りすぎた。
明くんだ。
僕もそれにつられて動き出す。
彼は一瞬にして持っていたアクアラングを横に投げ捨て、とっさにかな姉を伏せさせ、間一髪のところでボンベをかわした。
僕は渾身の力を振り絞って跳躍し、地面に落ちる寸前のところでボンベをキャッチする。
「よしっ!」
そしてそのままの勢いでボンベを抱えたまま地面にぶつかる。
「玲士!大丈夫!?」
「玲士さん!」
「「玲士!!」」
かな姉や明くん、両親が駆け寄って来る音がする。
抱いているボンベを支えにやっとのことで起き上がる。
ああ、よかった。かな姉が無事で。
そう安堵した途端、一日の疲れがどっと出てくる感覚に襲われ、立ち上がったはずなのにその場にへたり込んだ。
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「明くん、今日は本当にありがとう。手伝いだけじゃなくて、かな姉を守ってくれて」
結局彼は両親やかな姉の勧めで泊まっていくことになり、。最初かな姉は3人で自分の部屋で寝ようと提案したが僕が頑なに反対したので僕の部屋で寝ることとなった。
「いえいえ、かなっち・・・」
「果南さん」
「・・・果南さんが無事でよかったです。玲士さんは大丈夫ですか?」
「ただの掠り傷だからそんなに気にしなくていいよ。全然痛くない」
「それにしてもあんな無茶してキャッチしなくても・・・」
「あ、あのボンベ結構高いんだぞ。これ以上僕のお小遣いが減ったらかな姉と出かけられなくなるじゃないか」
「は、はあ・・・」
そんな風に他愛もなく今日のことを振り替えるが、僕の心は暗かった。
自分にとっての一番大切な人を自分で守ることができなかった。
それが僕にとってはなによりも悔しかった。
無論かな姉を助けてくれた明くんには感謝してもしきれない。
しかし、あの時かな姉の一番近くにいたのは僕だったのに、すぐに動くことができなかった。
それが僕の心の奥底に引っかかったままだ。
「やっぱり、駄目だね僕は・・・」
そんな気持ちから、自然にそんな言葉が口から漏れてしまった。
「なにがです??玲士さんも今日は十分頑張ってたじゃないですか」
「えっ、いや・・・その・・・僕はかな姉のことは口ばっかりで全然ダメだなって・・・ほら、さっきだって奥山君みたいにとっさに動けなかったし。僕はいつもかな姉に守ってもらうばっかりで、大切な人なのに守ってあげることができない自分がなんというか・・・僕も明君みたいに強かったらなぁ、って・・・」
身長も同年代の男子に比べてそんなに高くなくて細身。おまけに気も弱く、たがら何かあるといつもかな姉の背中に隠れて、震えながら泣いていた。
だからいつも思っていた。僕がもっと強かったら、男らしかったら、かな姉を守ってあげられるのにな、と。
僕がそこまで言うと明くんは僕の瞳をじっと見つめる。細い 色から放たれる目の鋭い眼光に思わず少しのけぞってしまう。
「玲士さん、あなたは今のままで十分果南さんを守れてますよ」
「えっ?」
しばらくの沈黙の後に返ってきた予想もしてなかった返答に少し驚いてしまう。
「あなたが果南さんを想うその気持ちこそ、なによりも果南さんを守ることになるんです。だから、果南さんを守る事に関してはあなたに敵う人はいません。さっきだって、一番先に叫んだのは玲士さんでしょ。あの忙しい状況の中でも常に果南さんの事を気にかけてられるってだけで十分すごいことです
「だから、果南さんの事に関してはあなたに任せます。しっかり守ってあげてください。一緒にいられるだけで幸せなんですから」
「明くん・・・」
彼は、まっすぐ僕の眼を見てはっきりそう告げた。言葉の重みが違う。
「でも・・・、決して俺みたいにはならないでください・・・。あなたのその純粋さは時として恐ろしいものになりかねませんから・・・」
『純粋さは時として恐ろしいものになりかねない』
その言葉は僕に言い知れぬ不安を与えた。
実際、自分でもかな姉を盲信しすぎなんじゃないかと思うことがある。
盲信ほど恐ろしいものはない。自分は、大好きな人のためなら手段を選ばないような人間になってしまっていないだろうか?
もし僕が幼いころの明くんと同じような状況になったら、誰かが危害を加えようとしてかな姉の身に危機が迫ったら、僕はどうしていただろうか。
もしかしたら、僕も明くんと同じことをしていたかもしれない。
そう考えると言葉に表せないような複雑な感情が沸き起こってしまう。
「まあ、その時は俺が殴ってでも何しても全力であなたを止めますから」
「・・・ありがとう明くん」
そう僕の瞳をまっすぐ見つめて話す彼の姿はとても頼もしく見えた。
「そういえば、実は会ってみたいなって思ってるんだ、明くんのお姉さんたちに。まだ会ったことないからね。その時は明くんも一緒に・・・ね?」
彼の姉はあのSaint Snowの鹿角聖良と理亞。実は松浦玲士は彼女たちに会った事がないのだ。Aqoursのお手伝いをさせている身としてぜひとも会ってみたいと思っているのだ。
「玲士さん・・・あなたはそう簡単に言いますけど、例え俺が会いたいと思っても、姉さん達は俺の事なんか受け入れてくれないですよ。『もう私達に関わらないで』って。だから・・・」
さっきとは打って変わって僕を見る目が一段と細くなり声のトーンも下がる。
あんたなんかには俺の気持ちなんか分かるもんか、わかってたまるか。
彼の表情からそう言わんとしてる事がわかった。
『二度と関わらないで』
人を殺めてまで守った愛する家族から発せられたその言葉は今も彼の心に外れることのない鎖となって絡みつき、『人殺し』という背負った十字架と共に今なお彼を苦しめ続けている。
私みたいな人間には想像もできない苦痛だろう。
「でも、相手を信じて、自分の気持ちを正直に打ち明けてみればいいんじゃないかな?ずっと辛かったこと、自分の事を受け入れてほしいことを」
「玲士さん・・・」
「もちろん、今の明くんにはすごく難しいと思う。それはわかってる。でも、自分の正直な気持ちを心から伝えて、本気でぶつかってみる。そうすれば相手ももわかってくれる。僕はそう思ってるんだ。それでもダメな時は・・・」
「・・・ダメなときはどうするんですか」
「思いっきりハグしてみる!」
僕がそう言ったとたんに明くんは間の抜けた顔になった。喧嘩したり、お互いの心が離れそうになった時はハグをする、そうすればどんな相手とも繋がれる、かな姉からの教えだ。
「あなたが果南さんの弟だってことを忘れてましたよ・・・」
彼は頬を少し緩ませてそう言った。
「もしかして、玲士さんもかなっ・・・んさんと何かあったんですか?」
「まあ、ちょっとね」
確かに彼の言うとおりなのだが、別に今話すことでもない。
「二人とも起きてる?」
するとノックの後に部屋の扉が開き、パジャマ姿のかな姉が現れた。
「玲士、明くん、ちょっと来て」
「かな姉?何?」
かな姉に言われるがまま僕と明くんはかな姉の方へ向かう。
「どうしたの?」
「ハグッ!!」
かな姉はいきなり両手を広げてそのまま僕たちをまとめてぎゅーっと抱き締めた。
「うわっ!?かな姉!?」
「果南さん!?」
「玲士、明くん、今日は本当にありがとね!」
そのままかな姉は一分以上僕たちを抱きしめ続けた。これほど長いハグは久しぶりだ。
「か、かな姉、どうしたのさ急に」
「だって今日は二人ともすっごく頑張ったから。今日は本当にお疲れ様!せめてものお礼だよ!嫌だった?」
かな姉は屈託のない無邪気な笑顔で僕たち二人の頭を撫でる。
「い、嫌なんかじゃないもん!で、でも明くんがいるし・・・」
「そんなに気にすることじゃないでしょ。せっかく泊まるんだからやっぱり三人で寝ようよ。こんな機会滅多にないんだし。いいでしょ?」
「ええっ!?だって・・・」
「俺は別に構いませんが」
「ほら、明くんも良いって言ってるんだし」
「か、かな姉がそんなに言うのなら・・・」
かな姉があまりにも言うので渋々納得するのだった。
「布団出すから待ってて!」
そう言ってかな姉は布団を取りに戻った。
「明くん」
「はい?」
「改めて今日はありがとう。そしてこれからもよろしくね」
かな姉が去った後、僕は改めて明くんに今日の感謝を伝える。これからも頼りにしてるよ、僕と同じAqoursのマネージャーとして、そして守り人として。
「どういたしまして。またいつでも手伝いに来ますよ」
「あともうひとつ」
「今度はなんです・・・?」
「カナ姉ニヘンナコトシタラショウチシナイカラナ」
「はいはいわかってますよ」
その時の彼の表情は今日一番の優しい顔であった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ふらんどるの書く明くん、いかがでしたでしょうか?
七宮さんの方でもコラボ作品が投稿されてるのでされているのでそちらも是非ご覧になってください。
最後に、七宮さん、今回のコラボ本当にありがとうございました。
それではまた、次回。