お久しぶりです。アニメ放送中に出したかった・・・
これはある夏の日、突然僕が体験した不思議なふしぎなお話。
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視界には雲一つない青い空と、眩しい太陽。照りつける日差しの暑さと水の冷たさでようやく意識がはっとする。
口の中のしょっぱさと、手から伝わってくる感触からここが砂浜だという事がわかった。
「僕は……」
「あっ起きた! 大丈夫!?」
誰かが私に声をかけてきた。起き上がろうとすると海水が目に入ってよけい視界が鮮明でなくなる。
「あっ、タオルこれ使って!」
手探りでタオルを受け取って顔を拭う。ゆっくりと目を開けると視界には白い砂浜と広い海の景色が広がる。
頭がぼーっとする。今がいつで自分が何でここにいるのか全く思い出せない。
「キミ、大丈夫!? どこか怪我してない!?」
先ほどから僕を気に掛けてくれる優しい声。
ゆっくりと顔を向けた先に会ったその声の主は、
「……かな……姉?」
紛れもない僕の姉、松浦果南その人だった。
「かな姉……」
「名前言ってなかったね。私はカナン! このあたりでメカニックやってるんだ!」
「……へ?」
「キミ、このあたりで見ないけどどこから来たの? 格好も珍しいし、もしかしてトカイ?」
「かな姉、何を言って……」
状況が理解できない。
今僕の目の前にいる人物は顔も、声もかな姉その人だ。でも、何かが違う。
先ほどから言っていることがおかしいし、着ているのは今まで見たことないような変わったデザインの服。大きなポケットにはたくさんの工具が入っている。
そもそもうちはダイビングショップだし、状況があまりに変だ。
「キミ、名前は?」
「玲士、松浦玲士」
「マツーラ・レーシ? ん〜聞かない名前だなぁ……。お家どこ?」
言っていることの意味が分からない。聞かない名前も何も、僕はひとつ屋根の下で暮らしているかな姉の弟だ。
冗談を言うにしてもあまりにもおかしい。
「ど、どこって、淡島……」
「アワシマ? う~ん、聞いたことないなぁ……」
「聞いたことないって、だってあそこ……に……」
そう言いながら指さして示した先に有ったのは異様なものだった。
僕が指さした先に、確かに淡島はあった。
しかし島全体がうっそうとした木々に覆われており、見えるはずのマリンパークや我が家であるダイビングショップが見る影もない。
そして何より全体的に雰囲気が暗い靄のようなものに包まれている。
「あれはワーシマー島だよ。マリしか住んでいないはずだけど……」
「鞠莉姉⁉」
「あれ、マリのこと知ってるんだ。ちょっと怖いイメージがあったけど、実際会ってみたらすっごくかわいくていい子でさ。私もたまに遊びに行ってるんだ」
「へっ……何を言って……」
先ほどからだがいよいよ言っていることががおかしい。
『怖いイメージ』『実際に会ってみたら』なんて冗談でも絶対に言うはずがない。
もしかしたらこの人は僕の姉である松浦果南ではないのではないか。
そんな絶対にありえない考えまで頭に浮かびだしてきた。
「おーい! カナンちゃーん!」
後方からよく響く明るい声がこちらに近づいてきたに振り向くと、見知った顔の人物がこちらに近づいてきた。
「あっ! 千歌ぁ!」
クローバーの髪留めにぴょんっ、と立つ髪の毛。かな姉と同じく奇妙な服装を除けばその声も容姿も間違いなく千歌である。
その顔を見た瞬間僕ははっとした。
そうだ、もしかしたらこれはAqoursの皆が僕が慌てているのを見て面白がっているドッキリかもしれない。
淡島もきっと鞠莉姉がよくわからないけど、どうにかしているんだろう。
もしドッキリなら千歌のことだからきっとボロを出すかもしれない。
そんな一抹の期待を胸に僕も千歌の方へ駆け出す。
「千歌ぁ! 僕のこと……」
「ふぇっ? お兄さん……あーもしかして前にうちの旅館に泊まったことありますか?」
目の前にいる千歌、らしき人はあどけない顔で純粋な疑問を浮かべたようすでこちらに問いかける。
「泊まるも何も昔から……」
言葉が続かなかった。
ほぼ毎日見ているはずのあの歴史ある和風建築な旅館は、面影を残しながらも大きく形を変えていた。
全く意味の分からない。道行く人の服装もみたことのない変わったものだし、よく見ると周囲の地形自体が異なっている、何が何だかわからない。
やっぱりこの人たちは僕の知っているかな姉や千歌ではないのではない。
それに、ここは僕の知っている内浦ではない、どこだか全くわからない。
「えっあっ……」
「大丈夫!?」
一気に体の力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
かな姉と千歌、らしき人が何か言葉をかけてはくれているが内容が全く耳に入らない。
混乱と悲壮感といろんな感情が頭の中で激しくうごめいて、どうしていいかわからない。
もしかしたら僕は一生家に帰れないのかもしれない、もう二度と皆に会えないのかもしれない、そうどんどん悪い方向に考えて呼吸が荒くなる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
その言葉とともに、体が柔らかい感触に包まれる。
カナンさんが僕を抱きしめてくれたのだ。
かな姉にハグされた時と全く同じ安心感につつまれる。
「大丈夫、私たちが助けるから」
そして僕はしばらくの間声をしのんで泣いた。
「……ありがとうございます。こんな見ず知らずの僕を……」
「別になんてことないよ。この町はみんなで助け合っているからね」
その後僕は一通りの自己紹介と自分が知っていることを話した。
どうやらここは『ヌマヅのウチーラ地区』というところで、カナンさんが仕事で海に出ようとした所、砂浜に漂着していた僕を見つけたらしい。
当の僕はというと、相変わらず何でこんなことになったのか全く思い出せず、どういうわけか今日が何月何日なのかすらもわからない。頭でも打ったのだろうか。
「でも、これからどうすれば……」
「あっ! カナンちゃんレーシくん! いい方法があったよ!」
「「良い方法?」」
三人で考えていると、突然チカさんが声を上げた。
「うん! こーいうときは占い屋さんに相談してみるのはどうかな」
「占い屋さん、ですか?」
「うん。とっても頼りになるんだ。きっとレーシ君の役に立つと思うよ」
「いいね! 私が送っていくよ!」
どうやら二人の話を聞くにその「占い屋さん」は困りごとを何でも解決してくれるとヌマヅの人たちから頼りにされているらしい。
普段は占いはそんなに本気にしないタイプの人だが、こんな状況なら藁にもすがる思いだ。
僕はカナンさんに連れられて『占い屋さん』の元へ行くこととなった。
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「ここがヌマヅ……?」
「うん! 私もたまに買い物に出てくるけどここでは何でも揃うんだ!」
カナンさんに連れられて「ヌマヅ」の町にやってきた。
そこは商店街の建物の配置などは僕の知っている「沼津」とおおよそ同じであるが、やはり建物の雰囲気や道行く人々の服装がことごとく違う。
それに看板やポスターも、文章と思われる部分の所々にある漢字らしきものが辛うじて読めるくらいで他は全く未知の記号に置き換わっている。
遠い外国に来たようだがどこか懐かしい知らないようでどこか知っている、とても不思議な気分だ。
「よし! ついたよ」
「ここが占い屋さん、ですか……?」
カナンさんに連れられてやってきたのは大通りから少し外れた住宅街の一角にある建物。
『占いのお店』と聞いていたからもっと仰々しいもと勝手に想像していたのだが、実際は入口にある看板がなければお店とは気が付かないくらい周りと同じ普通の建物だ
「うん。何でも屋さんみたいな所もあるから、みんなから頼りにれてるんだ。確か名前は……なんだっけ。まあいいや」
それと、話していてわかったが、やっぱりカナンさんはやっぱりかな姉と似ている。細かいところを気にしないところなんかまさにそうだ。
僕は恐る恐る玄関のチャイム、ならぬ本物の呼び「鈴」のひもを引っ張る。
「クックック! よく来たわね迷える子羊よ!」
軽快な足音がしたかと思うと勢いよく扉が開き、そしてこれまたよく見知った顔の人物が現れた。
「おお! 善子ちゃん!!」
「ヨシコ……? 私はヨハネよ?」
カナンさん曰く、善子ちゃんによく似たこの人はヨハネさん。例によって変わった格好に右手には奇妙な杖を持っている。
もうこの変な格好をしているくらいではさして驚かなくなった。それに僕の知っている津島善子ちゃんに関しては、普段からこんな格好をしていてもおかしくはない。
「はっ!! それはトカイの服! もしかしてこの私の噂を聞きつけて! 」
いきなりヨハネさんは目をキラキラと輝かせて私の手を取って握る。
「えっ? 都会⁉へ?」
「実はねヨハネちゃん」
混乱している僕に変わってカナンさんが事情を説明してくれた。
「えー、じゃああなたは本当に迷える子羊ってこと?」
「迷えるっていうか、本当にここがどこだかわからないというか……」
「それならこの町の占い師ヨハネに任せない!! このヨハネの占いを持ってすれば造作もないことよ!!」
ヨハネさんは得意げに胸をたたく。ここら辺も善子ちゃんと全くおんなじだ。
「ありがとうございます。頼りになる占い屋さんと聞いていなので」
「当然よ! 占いの館シュリーレン!覚えて帰ってね!さあさあ中に!」
「お、おじゃましま……ひゃい!」
ヨハネちゃんに続いて建物の中に入った僕の目に入ったのは僕の背丈ほどの大きさの犬とも狼ともつかない大型の獣。
ふさふさの毛並みに鋭い目、そして口を開けるたびに見える大きな牙。
今まで変な事には慣れてきたが思わず声が出てしまった。
「あっ、この子はライラプス。大丈夫、怖くないから」
「うんうん、それにしてもレーシって意外に怖がりなんだね。かわいいとこあるじゃん」
「ううっ……」
よく見ると驚いた表示に咄嗟にカナンさんの腕をつかんでいた。
かな姉にやる分にはいつもやってるので何てこともないが、カナンさんは一応初対面の人なので少々恥ずかしい。
「じゃあ、準備するからちょっと待ってて」
「じゃあ、私は来たついでだしいろいろと見ておくよ」
「えっあの……」
そしていつの間にか部屋には僕とライラプスの一人と一匹だけとなってしまった。
実のところ僕、松浦玲士は犬があまりと得意ではないのだ。
千歌のところのしいたけだけは別だが、それ以外はどういうわけか吠えられたり追いかけられたりとなかなかに縁が無い。
そういうわけでなるべく僕はライラプスと目を合わせないように視線を泳がせていた。
『うーん、私ってそんなに怖く見えるのかなぁ?』
「へっ? 怖い……あれっ?」
声がしたのでどちらかが戻ってきたと思ったが、周りを見回しても誰もいない。
『それにしても、この子……なんだかとっても不思議な子だなぁ』
「えっ? あれ?」
他のお客さんが来たのかと思ったがやはり誰もいない。しかし絶対に気のせいなどではない。
『ん? もしかして?』
いや、いた。『一匹』
『キミ……私の声が聞こえてるの?』
「えっあっ! いっ、犬がしゃべった!」
唯一部屋にいた『一匹』ライラプスが、じっとこちらを見ながらその大きな体でこちらに近づいてきた。
『すごいね! もしかしてキミも魔法が使えるの?』
「えっ? マホウ? 聞こえるというか、なんか頭の中に直接……? うーん、分からない」
先ほどから訳の分からない状況が続いているが、魔法なるものまであるとは驚いた。
『大変だったんだね。キミって、もしかしてカナンの親戚?』
「うーん、親戚というか……僕の姉さんによく似てるんだ。どうしてわかったの?」
『野生のカンって言えばいいのかな。キミからはカナンに近い匂いがするから。あと、ワーシマー島の匂いもする』
「臭い? もしかしてなんか……やっぱ臭う!」
たしかに言われてみれば先ほどから妙に気になる感覚が鼻をつく。
もしかして海水で濡れた服がまだ生乾きになっていたのだろうか。
『ああ、たぶんそれはヨハネが焚いてたお香の匂いだと思うよ。まったくヨハネったらいつも……』
どうやら話を聞くに、この世界のヨハネちゃんは善子ちゃんに似てちょっと手のかかる女の子らしい。
『でも、見えてヨハネは善い子だからね』
「うん、それは知ってる。僕の知ってる人ととっても似てるから。その子もとっても善い子」
『でもちょ〜っと子供っぽい』
「そこもおんなじだ」
先程までは怖く見えていたライラプスだが、よくよく見ればつぶらな瞳がとてもかわいい、撫でさせてもらうとふさふさとした綺麗な毛並みがとても気持ち良い。
「待せたわね! 準備できたわ!」
すると奥の部屋からいかにも占い師といった格好のヨハネちゃんが出てきた。
そしていよいよヨハネちゃんの占いの準備が整い、いよいよ
室内が一瞬静まりかえる。この世界のヨハネちゃんならもしかして本当に魔法が使えるかもしれない。
ただならぬ雰囲気に胸の鼓動が高まる。
「いくわよ」
「ごくり」
そしてヨハネちゃんによるよくわからない呪文の詠唱が始まった。
側に座っているはライラプスはじっとこちらを見ている
そして
「だだだだだだっ!!」
「ダ──クネ──ス!!!」
「わーっ!」
一瞬の出来事だった。
ヨハネちゃんの言葉とともに眼の前にある水晶玉がまばゆい光を放った。
そして次の瞬間、目の前の景色がぐにゃりと曲がり、ぐるぐると渦を巻いたかと思うと、深い深い穴の底へ突き落されるような感覚に襲われる。
全く自分の中でも理解ができない。
深い深い海の底に沈んでいくような感覚の中、先ほどまでの光景が走馬灯のように流れる。
そしてそのまま、僕の記憶は途絶えた。
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「んっ……」
目が覚めた。辺りは先ほどと違って涼しくて心地よい。
「んあっ、起きた」
よく聞きなれた気の抜けた、でも優しい声が隣から聞こえる。
「おはよ玲士」
周囲を見渡せばいつもの砂浜、いつもの景色。
そして目の前にいるのはいつもの服にいつもの髪型。紛れもない僕の知った姿のかな姉である。
その瞬間頭の中に一斉に情報の波が押し寄せた。
思い出した。 いつもの練習が終わった後、善子ちゃんが居残り練習をしたいとのことだったので僕とかな姉が一緒に練習に付き合っていたのだった。
なぜ今まで思い出せなかったんだろう。
しかし先ほどのショックがまだ抜けていない。この人が本当にかな姉なのか、はたまたカナンさんなのか、大丈夫だとは思いながらも僕はある質問を投げかける。
「あ、あの……う、うちって、どこにある?」
「淡島だよ」
「何屋さん……?」
「ダイビングショップだよ。寝ぼけていないでそろそろ時間だから帰るよ」
ここは僕の知っている内浦、そして紛れもない僕の姉、松浦果南だ。
そう気づいた瞬間、言いようのない安堵感に包まれる。
思わずかな姉に飛びついた。
「こらー、いきなりくっつくなー」
「やだ! くっつく!」
いつもと同じ反応、同じ感触同じ匂い、やっぱり僕にはかな姉がなくてはならない存在だ。
「あらリトルデーモン、起きたのね」
聞き馴染んだ振り向けば、お団子髪がトレードマークのいつもの練習着姿の善子ちゃんの姿があった。
「あっヨハネ……じゃない、善子ちゃん! 善子ちゃんだ!!」
「ちょっ、なによいきなり! それになんでわざわざ言い直すのよ!」
先ほどのかな姉の時と同じくどうしようもなく感動してしまった。
「おお、善子ちゃん善子ちゃんー」
「何度も何度も善子言うなー!」
何度も聞いたような、だけどどこか安心するやり取り。
やっぱり僕にとってはかな姉、Aqoursの皆との日常が一番なのだと改めて実感する。
「あのっ! ふたりとも」
すると善子ちゃんは一転してに改まった様子を見せる。
「……今日は、私のために付き合ってくれてありがと。本番は絶対絶対成功させるから!」
真っ直ぐな瞳でこちらを見つめている。
善子ちゃんは堕天使だけど、真面目で努力家でとっても優しい善い子なんだなと改めて実感する。
「何を言ってるんだい。善子ちゃんのためなら協力なんて惜しむもんか」
そしてそれに応えて皆を助けるのが、僕の役割だ。
「うん!何でも言ってね。それにしても、やっぱり善子ちゃんはまじめな善い子だなぁ」
「うんうん偉い偉い。よしよし善子ちゃん」
「だから善子言うなー!」
「はいはい。ほら玲士、そろそろ時間だから……ありゃなんか付いてる」
ふいにかな姉は僕の袖口まで手を伸ばし、そこについていた何かを取った。
「まったく。どこでこんなのつけてきたんだか」
そこには灰色の太く長い毛のようなものが数本、ボタンに絡まるようについていた。
「これ……なんだろう。犬でも触ったの?」
「これって……? あっ!」
掌の毛束は一陣の海風が空へと運んでいった。
空に消えていく様子を見てふと思った、あれは本当に夢だっのだろうか。
もしかしたら、またあの不思議な世界の不思議な人達に逢えるのかな。
どうも僕にはそんな気がしてならなかった。
第二弾は早いうちに出します。
そして今年もよろしくお願いします。