とある暗殺者の一方通行   作:戸塚うさぎ

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駄文


アサシン アクセラレータ

高級ホテルは時として金持ちの住居になる。金さえ払えば部屋の掃除はもちろん、様々なサービスを受けることが出来る。

この男、ジョーラ・ビッジャッオもその一人。彼はギャングの幹部であり、部下にヤクを裁かせ儲けている。彼を殺せるものはこの街にはいない。街を支配するボスを後ろ盾に持ち、多数の凄腕の部下を常に率いているからだ。そんな彼はでっぷりとした体を震わせながらホテルのエレベーターに乗っていた。エレベーターから出るとカメラの前で止まる。

「俺だ。開けろ」

するとカメラのマイクから返事がした。

「もうちょい顔をよく見せてくだせえ」

急いでいるというのに融通がきかない部下に舌打ちしながらカメラを睨みつける。

ピー 電子音が鳴り自室のドアが開けられた。

「遅かったじゃない」

「すまない。すぐやろう」

赤色のドレスを着た娼婦が部屋の奥から出てきた。ジョーラは女の腰に手を回しベッドに連れて行く。

「1時間誰も部屋に入れるな」

「ルームサービスもですかい?」

「当たり前だ!」

どいつもこいつも腕は良いのに空気が読めない馬鹿ばかりで頭が痛くなる。

部屋の外に5人、部屋の中に3人の部下を警備させている。部屋の外はエレベーターと非常階段がありエレベーター前に一人、非常階段に一人、別室にこの階の監視カメラを使っている一人、ベランダに二人いる。

「ジョーラの兄貴の奴、幹部のルブラ・ガトーの縄張りでやらかしたらしいぜ」

「しかもさっきホテルの支配人に部屋にだれか近づかせたら殺すって言ってやがったな」

「俺たちも殺されるんじゃね、転職時かあ」

部屋にいる三人の部下たちが酒を飲みながら話している。ジョーラは女に夢中なのでサボっているのだ。

『おい、サボってないで仕事しろ。定期連絡だ、こちら異常なし』

『カメラも異常ねえ』

『外も同じだ』

「あいよ、ご苦労さん」

それぞれが無線機を使用して連絡をよこした。部下の一人、マックスは耳元の無線機を使って返答した。

マックスは内心安心していた。ギャング同士はお互いの縄張りを侵してはいけない。これは暗黙のルールであり破った場合どんな報復が来るか分からない。ジョーラのミスでこちらも心中になるなんてまっぴらだった。だが報復してくるということは相手もそれなりの覚悟が必要だ。あいにくこちら側には数々の戦争に参加し功績を挙げている兵隊8人。部屋の外から侵入したら蜂の巣、ベランダからの侵入も出来ない、部屋に外からグレネードを打つにしてもここはホテルの最上階、同じ高さのビルもないし、ヘリコプターで来て事を大きくするほどルブラ・ガトーも頭が悪くない。そんなことをしてジョーラを暗殺失敗すればボスの顔に泥を塗りこの街にいられなくなる。しかしマックスは酒を飲んでも不安は拭えなかった。マックスの勘が危険信号を鳴らしている。

『おいエレベーター内のカメラの映像が消えた。誰か来るぞ警戒しろ』

『蜂の巣にしてやるぜ』

「油断するな、応援を一人行かせる」

『分かった。だがもう来るぜ、エレベーターのランプが最上階まで一直線だ』

「もしかしたら迷った客かもしれない。銃口向けて追い出せ」

『おう。ちょうど来たぜ・・・中に誰もいない?隠れてやがんのか?調べてみよう』

「おい待て!」

ズドン マックスが静止した瞬間銃撃が無線機越しに聞こえた。

「応答しろ!」

『・・・・』

「くっ!お前ら様子を見に行け!俺は兄貴に逃げるよう説得する!」

指示された二人はエレベーターに向かった。

『おい!死んでるぜ』

『ちょっと待てエレベーターの非情口が開いて・・・』

ズドン!ズドン! 銃声が聞こえエレベーターの様子を見に行った二人の無線が聞こえなくなった。

「兄貴!侵入者だ!今すぐ逃げるぞ!」

「そんなの蹴散らせ!こっちは忙しいんだ!」

「俺の勘で分かるんだ!奴は危険だ!監視カメラから安全な道を選んで逃げるぞ!」

ジョーラに無理やりバスローブを着せ部屋から出て別室に移動する。

カメラ室に入ると監視していた男が死んでいた。全てのカメラの映像は消えていた。

「おい!お前ら何してたんだ!」

「今は黙っててくれ兄貴!おい!非常階段どうだ?」

『足音がする。一人みたいだ。奴もこっちに気づいてるのか近づいて来ねえ』

「分かった俺も行くから待ってろ!ベランダ班はそのまま待機だ!」

『了解』

「兄貴!ピストル渡すんで自室に戻っててくだせえ!こっちで片付けてくる!」

「おう頼んだぞ!」

マックスは非常階段に向かった。

「クソ!?また殺されてやがる!」

非常階段を警備していた男は首を切られ死んでいた。危険信号がさらに鳴っていく。マックスはあたりを警戒した。

ーーーどこに隠れてる!?

ガタン 階段下から音が聞こえた。慎重に覗き込む。

ーーー誰もいない

ズドン 背後から銃声が聞こえた時はもう遅かった。

 

××××××

 

ジョーラ・ビッジャッオは焦っていた。金に目が眩んでルブラ・ガトーの縄張りで商売をしたのが間違いだったと後悔していた。

「ボスにバレないように片付けなければ」

ジョーラはベッドの上で震えながら呟いた。

ズガンズガンズガン 突然ベランダの方からマシンガンの音が鳴った。寝室と外を隔てる壁も打ち砕かれ穴だらけになった。

「はあはあはあ」

ジョーラは間一髪で逃れた。そのまま自室の武器室に向かう。

「こんなピストルじゃ無理だ!へへへこいつで殺してやる!」

両手にマシンガンを構え自室から出口にベランダに行った。

「死ね!」

ズドドトドドドドドドド 先ほど穴を開けられた壁に向かって連写した。

カチカチ 全弾打って球切れを起こした。

「死んだか?」

「動くな」

「!?」

背後からジョーラのクビにナイフが当てられた。

「武器を捨てろ」

がしゃん ジョーラは武器を捨てた。

「お前、ルブラの手先か?」

「答える義理は無ェ」

「命だけは助けてくれ」

「それを決めるのは俺じゃない」

すると目の前を娼婦の女が通った。

「私帰ってもいいかしら?」

「帰れ。俺は女子供を殺さない」

「ジョーラ楽しかったわ」

ジョーラは動けず目だけで別れを告げた。

「お前はこの電話の相手と話すだけでいい」

「ルブラか?」

「話せば分かる」

プルルルルル ジョーラは背後の暗殺者に電話を耳に押さえつけられた。

『ジョーラか』

「ボ・・ス・・!?」

『今回の件はやってくれたな。こっちもサツと揉めたくねえのよ。・・・だから大ごとにはしない、質問に答えろ。・・・ルブラの縄張りで稼いでる奴の名前を言え」

「・・・マーク・ミーヤ。裏ではサソリと呼ばれてる」

「確かか?」

「ああ嘘じゃない」

「次はお前にナイフを突き刺してる男に変われ」

「おいボスが替われって」

背後の男は何度か相槌を打つと電話を切った。

「お前のボスから伝言だ。30秒後ろを振り向かず数えたら街から出て行け」

「ああ」

ジョーラは命が助かった安堵感で復讐など考えなかった。ボスを敵に回せば街の中では生きていけないことはわかっていた。

ジョーラは首元のナイフが離れた後もおとなしく動かず30秒後背後には何もいなかった。

 

××××××

 

旧学園都市第七学区にある割烹「門」 、夫婦二人で経営している小さな店でメニューはなく頼まれれば何でも美味しく作る店。その真ん中のテーブル席に座る黒いニット帽を被り黒いコートを羽織り黒いチョーカーをつけた男、肌は白く目つきは隈があるせいでさらに悪く目の色は赤い。彼の名前はアクセラレータ。そして向かいの席には金髪サングラスにアロハシャツを着た男、土御門元春。

「おーい舞花、こいつにブラックコーヒー持って来てくれ」

「土御門ブラックはやめろォ。・・・ミルクはねェか?」

「はは、やっぱりミルク持ってきてくれー!・・・変わったな」

「互いにな」

「あれから20年経ったんだにゃー」

「ああ」

20年前、学園都市が崩壊した。原因は学生の9割が学園都市を離れたからだった。第三次世界大戦を皮切りに色々な問題が学園都市で浮上し生徒や親族が安心して暮らせる環境がなくなった。統括理事長だったアレイスターは時代の流れだと悟り学園都市を手から離した。学園都市の最先端技術は外部に公開される前に全て消された。超能力は大人になるにつれなくなり現在、学園都市第1位だったアクセラレータはベクトル変換ではなくベクトル感知まで落ちた。レベル5だった者たちは多少能力を持っているが他の元生徒たちは完全に能力は消えていた。力の衰えた学園都市を日本政府や海外の資産家、研究者また隠れ家にちょうどいいと思った裏社会の人間たちが学園都市を支配していった。

「どうぞ」

「サンキュー」

アクセラレータはミルクを一気に飲む。

「はあ、土御門ォ。仕事の裏事情は聞かねェが今回の件は大丈夫なのかァ?」

「安心しろこれは完全にボスからの命令だ。ジョーラの敵討ちなんて来ないぜい」

「ならいいが」

奥の席に老人が座っている。彼は目深にベレー帽を被りずっと下を向いている。

「今回も貯金か?」

「ああ頼む」

「次の仕事も頼むぜ」

「分かった」

アクセラレータは店を出て帰路を行く。街並みな昔よりも寂れてどこを見ても浮浪者やギャング、物をねだる子供、売り子の少女たちが多種多様な人種がいた。

アクセラレータの仕事は暗殺だ。だから目立たないようにいつも色物のメガネをかけて目つきを見て喧嘩を売ってくる奴らから避けている。家は少し高い家賃のマンションの一室。階段を上りながらアクセラレータは思い出していた。20年前、確かに彼に家族と呼べる人たちがいた。しかし月日が流れアクセラレータは再び一人で暮らすようになり土御門から依頼される仕事をこなしている。ほとんどか殺しの依頼だった。今でも彼の心の中にはラストオーダーという少女がいる。彼女を思い出すたびに湧き上がる抑えられない感情。もっと一緒にいたかった。そんな感じで自分の部屋の階に上がると一人の少女が踊り場に座っていた。アクセラレータはその少女を見て固まった。なぜならその12,3歳くらいの少女はラストオーダーに似ていてさらにたばこをすっていたから

 

 

 

 

 

 


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