アリスのスタンド、サウンド・ガーデンは、いつでも真夏である。なぜならこの空間型スタンドのモデルは、太平洋に面した外国人専用避暑地にあるからだ。ここに別荘をもつには、夏の一ヶ月間はそこにすまなければならないルールがある。
そのため、アリスは毎年8月になるとこの別荘を訪れていた。だから、むせ返るようなバラの香りが広がる庭園付きの洋館は、アリスにとっては夏の思い出なのだ。アリスがS市にやってきたのは去年の4月である。
宗教関係者である両親の都合で、移住してきたのだ。S市在住のアメリカ人宣教師によって明治期に建てられた別荘は、邸宅になった。
しかし、3週間前に起こったアンジェロによる陰惨な一家心中事件のせいで、アリスは死んだ。アクア・ネックレスに操られ、一時的にスタンド使いになった父親の影響で血の発露が起こり、スタンドが発現した直後に死んだ。邸宅で死んだ。
スタンドのヴィジョンは、本体の精神が大いに反映されている。死にたくない、と彼女は思った。だから逃げるための彼女だけの世界が生まれた。最愛の両親と夏の1ヶ月を過ごす別荘というイメージの中で、スタンドは誕生した。この時点では、ただの空間型スタンドだった。
主と決めた人間のために、いつでもどこでも出現する真夏の別荘である。でも彼女は死んでしまった。本来なら本体が死亡した時点でスタンド能力は失われるのだが、不幸にもアリスのスタンドは、本体の死後に自立型のスタンドに移行してしまったのだ。
もうこの時点でアリスの意思とは関係なく、主のためだけに存在する意志ある別荘である。不幸にもスタンドの中で死んでしまったアリスが、このスタンドの初めての住人になったものだから、サウンド・ガーデンは幽霊となったアリスを主と認定した。
そのせいでアリスはどこにも行けなくなってしまった。サウンド・ガーデンの外に出ても、主の不在を感知した別荘が迎えに来てしまう。一人にしないで、というアリスの叫びに応じて、最愛の両親の幽霊までそこにいる。幽霊の姿は死んだ時の姿である。
アリスを守ろうとして、悲惨な最後を遂げた人たちがまともな状態で幽霊になっている訳もなく、アリスと意思疎通できる幽霊は皆無だった。幽霊になってしまったアリスは、誰も見つけてくれない世界にひとりぼっちになり、寂しい、と思うようになる。
友達が欲しい、と思うようになる。主のお願いを聞き入れた瞬間から、サウンド・ガーデンは主と同じ存在である幽霊を探して、S市をアトランダムに移動するようになったのだった。
「だからよー、ここは幽霊だらけなんだぜ」
な、アリス、と笑う仗助に、バラの庭園の主であるアリスは、にっこり笑って、うん、と頷いた。そ、それは見ればわかるよーっと康一は悲鳴をあげる。さらっというなよ、こえーだろ、と億泰が体を震わせた。かわいいでしょ?って笑うアリスの足元では、車に轢かれて死んだとしか思えない犬が、わふわふとじゃれついている。
抱き上げてニコニコ笑うものだから、ぞぞぞぞぞっとしてしまうのは無理もなかった。ぽたぽたたれている赤いインクはなんだ。だらりとおなかからのぞいてるモザイク必須のグロはなんだ。そもそもおぞましい音はどこから聞こえてくるんだ。いろいろツッコミどころはあるのだが、そんな大怪我をしている犬を前にしても治療しない仗助が意外だったのだ。
聞いてみれば、さすがに幽霊までは直せねえよ、実体ねえだろー、と仗助はいう。なんでそんな平気なの、と康一はいう。もうなれちまったよ、数時間もここにいればよ、と仗助はどこか遠い目をしていった。
アリスは3人のお客さんを案内できてよっぽど嬉しいのか、ずっとはしゃいでいる。それだけなら微笑ましいのになあ、と康一はためいきだ。見慣れないお客さんに興味津々の幽霊の動物たちが跋扈する庭園である。
和製ホラー映画もびっくりのモンスターハウス、ホラーハウスになっているのに、なんでアリスは平気なんだぁ?、と億泰は思った。というか、このアリス・ランドという女の子は、敬虔な宗教家の一人娘だったにもかかわらず、あまりにも幼すぎる女の子である。
純粋というか、無邪気というか、いい意味でも悪い意味でも子供であり、7歳とは思えないほど真っ白な女の子である。どういう環境で生きてきたらこんな精神性が生まれるのか、考えるだけでゾッとするのは気のせいか。アリスがいうお友達は、7歳の女の子がお友達というには、あまりにもぐろすぎる。
このサウンド・ガーデンに連れてこられるお友達は、基本的に死んでしまった動物たちである。交通事故とか、いろんな理由でS市で死んでしまった動物たちが、幽霊になった瞬間にそれを探知したサウンド・ガーデンが出現し、アリスが回収する。幽霊の姿は死んだ当時の姿だ。
おかげで見た目がものすごくグロいことになっている。スプラッタ映画も真っ青な光景が、夏真っ盛りなバラの庭園で繰り広げられているのだ。げんなりしないほうがおかしい。それを慣れですませるってどういうことだ。億泰と康一は顔を見合わせた。
億泰の家を幽霊屋敷と勘違いしていた時には、自宅前が幽霊屋敷とか怖くて寝れなくなるだろ、勘弁してくれよって怖がってたのに。あー、と頭を掻いた仗助はアリスを見た。なあに?ってアリスはこてんと首を傾ける。
「っつーか、前より増えてねえか、アリス」
「うん!お友達、どんどん増えてるんだよ、仗助お兄ちゃん。今度、教えてあげるね!」
うふふ、とアリスは笑う。犬をおろしたアリスの服は、汚れひとつない。幽霊どうし、やっぱり触れているわけではないようだ。でも、今日は違うの、ってアリスは笑う。ついたよーって前を指差した。目の前には洋館がある。見上げるほど大きな屋敷にみんな口を開けて固まった。
いこいこ、お兄ちゃん、と手招きするアリスは青いスカートを翻しながら、軽快な足音を立てながら真っ白な階段を上っていく。獅子の顔をした銅の呼び鈴が鎮座する扉は、盛大にブッ壊れていた。強行突破した跡がありありと残っている。
あ、これお兄ちゃん達が遊びに来た時のだね、とアリスは笑う。何があったんだろう、と二人は思った。あ゛、と声を上げた仗助は、やっべーって顔をしながらアリスを見る。気まずそうにごめんな、と言いながら、クレイジー・ダイアモンドを発動させた。
とりあえず、チェーンロックがかかる程度には復元された扉である。すっごーい、仗助お兄ちゃん、やっぱり魔法みたい!と無邪気に喜ぶアリスを見ていると、さっきのギャップが薄らいだ気がして、ほっとしてしまう康一なのだった。
そんなこと知るはずもないアリスは、はやくはーやーくー!と催促は止まらない。どんどん先に行ってしまう女の子は、螺旋階段の向こう側に消えてしまう。レッドカーペットを3人は慌てて追いかけた。
扉をあけると、清楚で上品なデザインの子供部屋が広がっていた。ベッドやカーテン、机、洋服タンス、ランプに至るまで、すべてがしろと水色、そしてピンク色のパステルカラーで統一されたやわらかな雰囲気部屋である。どうやらここはアリスの部屋のようだ。
高校1年生の野郎どもが入るには少々勇気がいるファンシーな空間に足を踏み入れた仗助たちは、中央に置かれているベッドに人形が寝ていることに気がついた。仗助たちがやってきたことに気がついたアリスは、ベッドのシーツを折りたたむ。そこには60センチはありそうな大きなお人形が寝かされていた。
「ミカちゃん、ミカちゃん、お客様がいらしたわ。起きて?」
まるでおままごとをする女の子である。微笑ましさがここにある。
「昨日お話したでしょ?仗助お兄ちゃんよ。なんでも直しちゃう魔法が使えるすごいお兄ちゃんなの。それでね、今日は、億泰お兄ちゃんと、康一お兄ちゃんも来てくれたんだ。いっしょにあそびましょ?」
とんとんと肩を叩く。アリスはあれ?と首をかしげた。
「ミカちゃん、寝てるの?起きて、起きて」
一見するとお母さんごっこをしているアリスである。かわいいなあと見ている二人がいる一方で、アリスがミカちゃんって言うたびに、驚いたような顔をしてお人形をじいっと見る仗助である。もしかしてアリスが紹介したい新しいオトモダチってのは、この西洋人形のことだろうか。
散々グロテスクなオトモダチを見せつけられてきた億泰と康一はほっとする。なんだ、アリスにも可愛いところがあるじゃないか、まだ子供らしいところがあるじゃないか、と安堵する。しかし、アリスが幽霊であることを知っている仗助は、ここに西洋人形がある意味を悟って、おいおい、とつぶやいた。異彩な予感しかしないのは、きっと気のせいではない。
「なあ、アリス」
「なあに?仗助お兄ちゃん」
「なんでここにこの人形があるんだ?前まではこんなのなかったよなあ?」
「うん、そうよ。だってこの子、昨日、私がしまっちゃった子なんだもの」
「・・・・・・アリス」
「なあに?」
「お前、いつからものを触れるようになったんだ?」
「なにいってるの?仗助お兄ちゃん。私はお化けだよ?死んじゃってるんだよ?仗助お兄ちゃんたちにサワレナイのは、変わらないわ」
「じゃあなんで、こいつが、ここにあるんだよ」
仗助はベッドに寝かされている西洋人形を注意深く見つめた。おままごとをしているのか、一緒に寝るために置かれているのかは知らないが、このベッドに寝かされているのは、ビスクドール、陶器人形である。
仗助の言ってる意味がよくわからないのか、康一は首をかしげる。億泰は、おい、どう言う意味だあ?って聞いてきた。仗助は人形を見つめたまま言うのだ。表情は真剣である。警戒感をにじませていた。
「アリスから聞いたんだけどよー、幽霊ってのは、おれたちが考えてる以上にめんどくせえもんらしいぜ。空を飛べるわけじゃあない。壁をすり抜けるわけじゃあない。たしかにおれたちにアリスは触れねえが、こういうベッドなんかにも触れねえらしい。幽霊には幽霊のルールがあるんだってよ。じゃあ、聞くがよー、人形に触れることができねえアリスが、どうやってこいつをここまで持ってきたんだ?」
あ、と二人は声を上げる。どういうことだろう?って聞いてくる3人に、アリスは不思議そうにいうのだ。
「なんかねー、このお人形、だっこできたの!だから連れて帰ってきちゃった。昨日ね、見つけたのよ。とっても綺麗だったのに、捨てられていたの。かわいそうだからね、寝かせてあげているのよ。この子ね、ペンキでいたずらされていたのよ」
「いたずらって?」
「このあたりがね、真っ赤なペンキで汚れていたの。それにとっても趣味の悪いお洋服着て、雨でびっしょびしょになってたから、そのお洋服捨てちゃった。このお洋服もリボンも、ママがお人形さんのおめかしするの好きだったから、そこから持ってきたのよ。真っ赤なペンキ、よごれてたから、落とすの大変だったんだから」
「・・・・・なあ、その洋服ってのは、まだ近くにあんのか?」
「え?うん、あるよ?そこのゴミ箱」
ゆびさされた先には、パステルカラーのゴミ箱がある。覗き込んでみれば、どこかで見たことがある小さな洋服が突っ込まれていた。
「ところでよー、なんでその人形、包帯なんかしてんだ?」
「そういえばそうだよね。どうして?アリスちゃん」
「やっぱ、あれか?怪我してるから?」
「それなら、その場所を包帯でまいてやるだろ、ふつー」
「もちろん、そこもくるくる巻いてあげたわ。ちょっと壊れてたから。おててと足まで巻いてるのはね、このお人形、とっても壊れているからよ。きっと、前の持ち主に、いじめられていたんだわ」
アリスはかわいそうなお人形さんと怒っている。見せてくれ、と言われたので、彼女はお人形の右手にまいてある包帯をとってみせた。
それはとても不思議な光景だった。陶器で出来ているはずのお人形の手のひらから腕に当たるところまで、たくさんの小さな穴があいているのだ。その穴の周りはブツブツのように膨れ上がり、真っ赤になっている。まるで予防接種のあと腫れ上がる腕のようだ。
それが複数箇所である。なんだか蓮の花を見てしまったような、気持ち悪さがあった。どうしてこんなに小さな穴がたくさん空いているのに、陶器で出来ている腕が割れないのか理由はよくわからなかった。これは包帯でまいてあげたくなる。
「お兄ちゃん達を連れてきたのはね、この子、ミカちゃんって言うんだけど、おしゃべりできるのよ。今は寝ちゃってるみたいだけど。だから、お話させてあげようと思ったのになあ」
残念そうにアリスはミカちゃん人形をみる。どこかにボタンが仕込んであって、それに触るとおしゃべりする機能でも付いているんだろうか。でも、どっからどう見ても、かなり年季が入っているビスクドールである。陶器人形である。アンティークといっても差し支えない。
プラスチック製の安物だったら、ボタンが入ってるんだろうなあ、で済んだのだが、どうもそれは違うらしい。ミカちゃんミカちゃん言ってるが、アリスは外国人だ。人形に名前をつけるなら、もっと外国人っぽい名前にするだろう。ましてや、この人形はフランス人形なのだから。
聞いてみれば、やっぱり人形が名乗ったらしい。助けて助けてと泣いてるから、連れてきたらしい。時間を聞いてみれば、昨日の4時頃だったようだ。
「なあ、アリス」
「なあに?」
「その人形、貸してくれねーか?治してやるよ」
「ほんと!?」
「おう、そんなに怪我してちゃ可愛そうだもんなあ」
「ありがとー、仗助お兄ちゃん!よかったね、ミカちゃん!」
アリスは喜び勇んでミカちゃん人形を抱き上げる。7歳の女の子が抱きかかえると、大きく見えるそれは、60センチもある白亜の西洋人形。ふわふわとした金色の長い髪。絹のように白い陶器の肌。抱き上げられたことで、透き通るように青い瞳が目を覚ます。
その頭のてっぺんを青いリボンがカチューシャのようにちょうちょ結びされている。そして、真っ青なワンピースを着ている。白い靴下と青い靴を履いていた。まるでアリスの生き写しのようである。60センチはありそうな大きな人形を抱っこするアリスは、微笑ましいけれど、全く同じ洋服を着ているせいで不気味に見えしまう。
お気に入りなの、ってアリスは笑った。受け取ると、結構な重さである。やっぱり陶器製は重い。仗助はスタンドを発動した。
痛々しい注射のあとが消えた。
「ありがとー、仗助お兄ちゃん!あれ?お腹のところ、直してくれないの?」
「おれの能力じゃあ、ないものを元に戻すことはできねーんだよ、ごめんな、アリス。もし直しちまったら、こう、無理やりくっつけちまうんだ。そしたら、きっと、コーンなふうにまがっちまうぜ。それじゃあ、かわいそうだろ?」
「じゃあ、なくなっちゃったところがあったら、くっつけられるの?」
「おう」
「じゃあ、じゃあ、今からお外に行きましょう、仗助お兄ちゃん!このこのかけら、いっぱい転がってる場所、アタシ知ってるわ!」
「おー、そりゃいい。じゃあ、行こうぜ」
「うん!」
仗助からアリスに渡ったミカちゃん人形は、ふたたびベッドに寝かされる。そんな様子を傍目に、康一は仗助を見上げた。
「仗助君、さっきからどうしたのさ。なんか様子がおかしいよ?」
「この際だから話しとくけどよー、注意したほうがいいぜ」
「え?なにを?」
「だからよー、あの人形のことだ」
「ミカちゃん?」
「ああ」
「なんでだよ?ただの人形だろ?」
「あの人形、普通の人形じゃあねえ。おしゃべりできる上に、アリスがさわれるってことは、スタンドかなんかだぜ、きっと。おれの力じゃあ、怪我は治せても、病気は治せねえからな。いきなり喋らなくなったのは、あの人形が弱っちまってるっていう証だ。それに、ミカちゃんってのは、昨日誘拐された女の子とおんなじ名前だぜー、二人共。しかも、そこに突っ込まれてる洋服は、その子のガッコの制服だって爺ちゃんが言ってたんだ。こりゃー、やべーぜ」
アリスに案内される形で、仗助たちは一旦、サウンド・ガーデンから外に出た。
アリスがミカちゃん人形を発見したその場所は、仗助たちがうすうす感じていたとおり、事故現場と目と鼻の先にある裏路地だった。ミカという女の子が誘拐された事故現場付近は、黄色いテープで張り巡らされ、たくさんの警官たちが出入りしている。パトカーが置かれていて、交通整理におわれている。
物々しい雰囲気は相変わらずだった。無理もない話である。ここのちょうど反対方向、100mもない距離の先は、10歳の女の子の遺体が路肩に遺棄されていた現場である。こちらもまた黄色いテープが張り巡らされ、パトカーがたくさん止められている。
こちらは大きなビニルシートで覆われていて中を伺うことはできない。こちらにはまだ野次馬やマスコミの姿が見えるから、近づかないほうがいいだろう。人目を縫うようにアリスに案内される形で裏路地にたどり着いた仗助たちは、嫌な符号を見つけ出す。
どちらも7歳の女の子が標的になっている。しかもひとりで帰っていたときを狙って行われている。どちらも誘拐犯は女性である。極めつけに、児童誘拐事件と児童殺人事件が100mもない距離で発生していることになる。これは同一犯とみて間違いない。
タチの悪い凶悪犯が近くにいるかもしれない。それを悟った康一は、その凶悪犯がスタンド使いかもしれない、という最悪の事態にならないことを願うしかなかった。アリスに案内された、ミカちゃん人形が放置されていた場所を考えると、どれも虚しい願いになりそうではあったけれども。
「こんなに近くだと、もう回収されちゃったんじゃないかなあ?」
「ここいらにはゴミ収集車はこねえぞ?康一」
「ちがうよ、警察にさ」
「警察にかあ?」
「うん、そう」
「大丈夫だろーよ。それならその人形も回収されてると、おれは思うぜえ」
「そう言われるとそうなんだけどさ、真っ赤なペンキに、白い陶器のかけらでしょ?場所が場所だし」
「それなら大丈夫だと思うぜ、康一、億泰」
「なんでだよ?」
「どうして?仗助くん」
「あの人形は普通じゃあない。普通の人間には見えてねえはずだぜ。きっと、あの人形はスタンドで作られたもんだと思うからよー、今もそこにあると思うぜ」
ここよ、というアリスのあゆみが止まった。よく手入れされた生垣のそばに立っている電信柱を指差す先には、粉みじんになって散乱する陶器の破片がちらばっていた。ミカちゃん人形に塗られていたという赤いペンキは、そのあたりから流れ出たように水溜りになった形跡がある。
どうやらミカちゃん人形から出てきた液体も、スタンドの一部にみなされるらしく、一般の人は見えないようだ。普通なら後片付けをする警察官に見つかって、ゴシゴシこすられているだろうから。たたた、とミカちゃん人形を抱えたままアリスが走り出す。
そして、近くにしゃがみ込むと、ひとつひとつ粉末になっているものまで拾おうとしたので、仗助が制した。大丈夫だぜ、と仗助は笑う。お願い、ミカちゃんを元気にしてあげて、ってアリスは人形を抱っこしながらお願いした。まかしとけって、と笑った仗助は、スタンドを発現させる。
スタンドが触れた白い陶器の破片は、すべて、もとの形状に戻ろうと動き始めた。驚くべきことに、真っ赤なペンキもその中に吸い込まれていく。しばらくして、青いワンピース越しにラインを確認したアリスは、とっかかりもなく、すべてキレイに戻っていることを確認して大喜びする。
よかったね、ミカちゃん!と抱っこする。心なし、ミカちゃん人形の顔色が大分よくなった気がした。微笑ましい光景に和んでいると、さきほどまでされるがままだったアンティーク・ドールに変化が現れた。
体を持ち上げると、自動的に瞳が開く構造だったビスクドールが、寝かせたわけでもないのに、目を閉じたのだ。ぱちぱちぱち、と数回瞬きをする。それを目撃してしまった康一は、え、と一瞬動きが止まる。気のせいかと思っても、今度はあたりを確認するように首が左右にゆれている。
う、う、うごいてるーっと反応した康一の声に驚いたらしく、ミカちゃん人形は康一を見上げた。どうした?とすぐ隣の億泰が聞いてくるので、ミカちゃん人形が動いた、てる、っていうか動いてるよ、いま!、とひきつった顔で伝えるのだ。
つられてみた億泰は、不思議そうに見上げるミカちゃん人形を目が合ってしまい、カエルが潰れたような声を出して距離を取る。二人の反応に気づいたアリスが、今度こそ大喜びで仗助にお礼を言うのだ。ミカちゃんが元気になったよ、ありがとう!
ま、マジで生きてんだな、それ、と引きつってるのは仗助だけじゃないはずだ。ミカちゃん人形はアリスに抱っこされていることを理解したのか、その腕を握り返す。アリスは笑顔で話しかけ始めた。ミカちゃん人形の視線は相変わらず周囲をきょろきょろしている。
「はじめまして、だよ、ミカちゃん。みんな、アリスのオトモダチなの。このお兄ちゃんがね、仗助お兄ちゃん。ミカちゃんを治してくれたの、仗助お兄ちゃんなんだよ。すごいでしょ。それでね、そのお兄ちゃんが康一お兄ちゃん。あのお兄ちゃんが億泰お兄ちゃん。仗助お兄ちゃんと一緒に、こうこーってとこにかよってるオトモダチなんだって」
ほら、ほら、あいさつしよ、ってアリスは仗助たちのところにミカちゃん人形を寄せてくる。無邪気な女の子幽霊の好意を無下にすることもできなくて、みんなひきつった顔のまま、よう、とか、おう、とか、やあ、とかいいながらひきつった笑みを貼りつけた。
こくり、と頷いたミカちゃん人形は、仗助たちを見上げた。陶器越しに発せられる声は、思った以上に幼い。アリスくらいの幼さを残した女の子の声である。
「ミカ、です」
紡がれた言葉はそれだけだった。ミカちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだよね、とアリスは笑う。言葉が通じることにほっとする。言葉が通じないと、未知への恐怖が大きくなるから、会話ができるのは大事なことだ。ぱちぱち、瞬きをしたミカちゃんは、いうのだ。
「ここ、どこ?」
「ここかあ?ここはおめえが捨てられてたっていう道路だぜ」
「億泰くん、そんな直球な」
「え?だってよー、ほかに言い様がないだろ」
「でもさ、言い方って大事だよ?ほら、今にも泣き出しそうじゃないか」
「え?あ、わ、わりい。おれもそういうつもりで、言ったわけじゃあないんだぜ?」
あわてて弁解する億泰だったが、ミカちゃんが今にも泣きそうな顔をしているのは、どうやら別のことが要因らしかった。
「ここ、いや、かえる、いや、いや、いや、かえして、おうちかえして」
アンティーク・ドールの瞳ににじむものがある。透明な液体がつう、と頬を伝った。ごめんね、ごめんね、ここミカちゃんのイヤな場所だったのね、おうち帰りましょう、とアリスが赤ちゃんをあやすように抱っこする。
よしよしと慰めながら落ち着かせようとする。でも、ここが捨てられていた道路だと気づいてしまったミカちゃんの悲痛な叫びは止まらない。かえして、おうちかえして、とわんわん泣き始めたフランス人形に、アリスは困った顔をした。おうち、かえろっか、とスタンドを呼び出す。サウンド・ガーデンが暗闇の扉をあけた。
「いやあーっ」
ますますぐずり始めてしまったミカちゃん人形である。アリスはますます困ってしまったようだ。おうちってどこなの?サウンド・ガーデン、わたしのおうちじゃだめなの?と聞いても、ミカちゃんはふるふる首を振るだけである。
身長がおおきい仗助と億泰をみると、あきらかに怖がっているのがわかるため、ちょっと近づくのも気が引けた。ばたばた暴れるミカちゃん人形に、話しかけたのは、康一だった。
「山本ミカちゃん」
ぴたり、とミカちゃん人形の動きが止まる。
「もしかして、って思ったけど、あたりみたいだね。君の名前は、山本ミカちゃん。ちがう?」
あれだけ暴れていた人形がおとなしくなる。こくり、とうなずいたミカちゃん人形は、わあん、と泣き出した。今度はアリスにすがりつくような泣き方だ。康一は仗助と億泰をみた。あたってしまった。できればあたって欲しくなかった。行方不明の女の子の名前は、山本ミカちゃん、7歳の女の子である。
サウンド・ガーデンに引き返した仗助たちは、アリスの部屋で詳細をきくことにした。
土砂降りの雨の中、一直線に突っ込んできた白いワゴン車にはねられた少女は、数メートル先に飛ばされた。黄色い傘が飛ぶ。ランドセルが転がり、教科書とペンケースが散乱する。骨がわれ、肉がさけ、だくだくと赤色が広がっていく。
どんどん冷たくなっていく体を優しく抱き上げてくれた腕の中で、彼女は目を覚ました。何度もミカとよんでくれたのは、みたこともない、しらないおばさん。たくさんのタオルを押し当て、応急処置をしてくれた。今から病院に連れて行く、と白いワゴンの男にまくし立て、大丈夫よ、だからがんばって、といいながらおばさんは少女を載せ、車で走り去った。
彼女の母親とおなじ、妙齢の女性だった。お母さんとダブってみえた。しかし、おばさんは、白いワゴン車が見えなくなるところまで走ると、急に車を止めたのだ。そして、鍵をポケットに入れ、傘をさして車から出る。
もうろうとする意識の中で、彼女が覚えているのは、ドアを開ける音。土砂降りの雨粒がふりかかり、冷たいなあという感覚だけがあった。そのとき、彼女は何も見えなかった。ただ、透明な何かに首を掴まれる感覚だけが襲ってきた。ぎりぎりぎりと締め上げられる。
呼吸ができないほど、締め上げられたという。おどろいて目を開けると、満面の笑みをうかべて微笑んでいるおばさんがいる。傘をさしたまま、少女を見てわらっている。透明な腕に締め上げられ、クラクラとし始めたころ、その圧迫感に掬い上げられた。首を絞められたまま持ち上げられた、とそのときは思った、と少女は言う。
違和感に気づいたのは、くるしい、いたい、たすけて、という感覚がなくなったこと。そして浮遊感だった。そして彼女は気づくのだ。ぐったりと体を投げ出して、後部座席のシートに横たわる7歳の女の子に。目を閉じて、まるで死んだように眠っている自分が真下にいることに。
体を見た少女は気づくのだ。体がすけている。すべての風景が体越しに見える。幽体離脱を強制された少女は悲鳴を上げた。しかし、幽霊体になった少女の声を聞く人は、おばさんしかいない。ここでようやく、少女はおばさんの横にいる真っ青な服を着たアンティークドールに気づくのだ。
年季の入ったビスクドールは、土砂降りの雨にもかかわらず、濡れもしない。ただじいっとこちらを見つめていた。そして、その人形から伸びる異形を目にした時、おぞましい何かがにたりと弧を描いた。体が作り替えられたのは、その時だ。
上から型でもとるように、どろどろな何かが降ってきた。それは幽霊になっている彼女にまとわりつき、すっぽりとおおってしまった。まるで上から蓋をするみたいに、隙間なく覆われてしまった。気がつけばぞっとするほど冷たくなっている自分の体に置かれた人形になっていた。
そして、彼女はみていた。女の子の体に入っていく、もうひとつの幽霊体を。やめて、やめて、かえして、といくらすがっても許してもらえず、彼女は人形の姿のまま、おばさんの家に連れて行かれたという。
そして、放り込まれたのは、たくさんの西洋人形が並ぶ部屋だった。真っ赤なカーペット。黒いグランドピアノ。家族の写真が飾られた一室である。人形にされたのが自分だけではない、と悟ったのは、すぐだった。話しかけてくれた女の子の人形があったからだ。
不思議なことに、その子もミカという名前だった。7歳の女の子だった。ボロボロだった。にげて、とその女の子はいった。人形が傷つけられると、体も傷がつく。体に傷がつくと、人形も傷がつく。だから、もうすぐ私はしんじゃうの、と悟ったような笑みを浮かべる女の子だった。
体と精神があんまり離れてしまうと、体は死ぬ。だから魂は人形にして、家においておく。すると死なない。逃げないとずっとこのままだって、いわれたという。犠牲者はわたしだけでいい、と言い残して、人形の歩き方を教えてくれた。
走り方、歩き方、ジャンプの仕方を教えてくれた。窓の鍵を開けてくれたのはその子だった。あとは、言われた通りの道のりで歩いていくだけだった。
「おと、お、さんに、あいたい、よお。まだ、しに、たく、ないよお。おねが、い、たす、け、て」
仗助たちは立ち上がる。その家に案内ヨロシクなと言われた人形は、こくりと頷いた。さあ、出かけよう。扉を開けた仗助たちを待っていたのは、バラ園に広がる無数の人形たちだった。
霧ヶ峰涼子は、生まれながらにして常に自分が周りから注目を浴びていなければ発狂する性質を持って生まれたスタンド使いである。
発現するに至った契機である彼女のもつヒステリーは、子どものときの性的な事象が関係していると精神科医には言われた。その時の診断によれば母親との愛着関係に失敗したあと、父親を求めにいき、そこで性愛的な情緒が刺激された。
もともと神経の発達に問題があったところに愛着障害、夫婦が不仲であるがゆえの機能不全家庭という境遇、そこに性的外傷などの外傷体験を受けることにより、恐怖に凍りつくトラウマを負ってしまい、ヒステリーに罹かってしまった。
彼女はそこまでズタズタに客観的な自分を見せつけられ、真正面から受け止めることを拒否して、狂言癖が悪化した。結果として最後のチャンスだった療養を失い、解離症を併発。
彼女は、衰弱、頭痛、視覚障害、感覚喪失、麻痺、意識の途絶、幻覚、言語障害などに苦しんでいた。彼女は、二つの意識状態を持っており、それは突然切り替わり、一方は、悲しげで不安そうで、品の高い教養がある、あたかも正常にみえる人格。他方は、幻覚があり、下品な態度や卑猥な発言をする病的な人格がいて、交互に出てくるようになった。
半端な時期に精神科に通うのをやめたため病名は付かなかったが、おそらく特定不能の解離性障害、あるいは境界性パーソナリティー障害と呼ばれる精神疾患をかかえていたのである。
取り繕うことを覚えた彼女を止める人間はいなくなってしまった。
独身時代は身体の内側に情動的人格部分を持っているせいで、あたかも正常に日常生活を送ろうとしても、外からの精神的ストレスにより、自分が自分でいることを保てなくなる。最初のうちは相手に合わせようとしていても、やがて無理に合わせていることに耐えられなくなる。
ストレスが高まり、交感神経系が過剰になると、内側の激しい怒りの感情のコントロールができず、攻撃的になり、自分の意志に反して四肢が動くなど、人間関係をことごとく失敗していく。そのため、あまりよくない状況が安心で、嫌な結果になっても想定通りで、自分は幸せになれないという結末を演じていた。
金持ちな境遇がその失敗を全てなかったことにしてきた。
結婚してからはこの結末を抑え込むために子供に衝動を向けるようになっていく。ただでさえ他者を思いやれる心の余裕がなく、相手と自分が違うことが脅威で、自他の区別があまりできていない幼い精神をもつ母親が、まともな育児など出来るはずもない。
自分を理解してくれていないと適当に扱われているように思って、子供を罵る。また、子供が自分の思い通りに動いてくれないと、イライラしたり、話を聞いてもらいたくて、自分のことを分かってもらえていると安心できたりする極端な行動ばかりになっていった。
何からも汚染されずに、自分と同一視する子供を守ろうとして、徹底的に何でもやり、完全無欠さや高みを目指した。
自分であって自分でない部分や、衝動や本能により、自分でない自分に動かされたりしても、いつも標的は子供だった。理性的に振る舞う自分に対して、勝手に手が動いたり、勝手に口が暴言を言ったり、内側の衝動をコントロールできなくなるのだ。
霧ヶ峰は今、まさにヒステリーに陥っていた。ヒステリー性の癇癪や感情の爆発は、交感神経系に乗っ取られて、過覚醒のときに生じる。このとき、理性で情動的人格部分や四肢の身体反応をコントロールしようとしても、頭と身体が別々の方向を行動しようとするので、ストレスがかかり続けて、身体が耐えきれず苦しくなる。
頭と身体が合致してしまうと、ゾワゾワするような不快な身体感覚が取り憑かれ、過覚醒から凍りつく瞬間は、最悪な出来事が起きていたり、嫌な記憶が蘇っているときなので、ヒステリー性の金切り声をあげて騒ぐしかなくなる。
フラッシュバックや悪夢などで、過覚醒や凍りつく間を生きている人は、自分が自分でなくなる狂気や錯乱状態のなかにおり、社会生活を送るだけの技能を欠き、不適切で無力な行動をとる。
今、彼女の中にあるのは、献身的な介護の対象である我が子を失うことへの恐怖だけだった。目の前の高校生たちが我が子を取り上げようとしていることしか分からない。どうしてそう思うに至ったのかすらわからない。自分のことがよく分からない。
「返して」
些細な刺激に対しても、興奮しやすく、感情が激変して、自分で感情をコントロールできなくなる彼女は、今、まさに限界にいた。
「かえしてよ、ねえ」
感情が昂ぶりすぎて気分の振れ幅が大きくなり、金切り声をあげる。もはや警戒心の過剰さが視野狭窄を引き起こし、危なっかしい行動を取るしかない。
「いじわるしないで、おねがい」
だから声が幼くなる。身体の痙攣や手足の痺れ、運動麻痺により、うまく行動できずに駄々を捏ねて泣き叫び始める。
「もうわるいことしないから、やめて、やめて、いじめないで」
やがて彼女は逃げ場所がなく、選択肢もなくなると、頭が真っ白になって、身体は凍りつき、悪魔が取り憑きはじめる。
この悪魔は、痛みを食べて成長してきたものだ。悪魔の方が本来の自分に取って代わって生活を送るようになり、悪魔は痛みによって成長するため、自分を満たそうとせず、自分を傷つけたり、人に軽蔑されるようなことをする。
明るい世界を見ることが辛くて、喜びを与えず、自分の得た幸せを壊そうとするのだ。そこにはもう霧ヶ峰涼子の姿はない。
「返せっていってんだろうが、誘拐犯!!通報するぞ、コノヤロウ!」
ここまでネジ切れても断じて自分は狂ってなどいなかったのだと霧ヶ峰涼子はいう。一瞬間といえども、狂った事は無い。狂人はたいてい自分の事をそう言うものであるとしても。
「返してちょうだいよ、ねえ、ミカちゃんを返してちょうだいよ。あの子がいないと私は、わたしは、わたしはああああ!!」
人形から這い出してきた異形に仗助達は顔を引き攣らせた。
「やっべえ、なにがなんでも人形に近づくんじゃねえぞおめえら!ミカみてえにお人形さんになりたくなかったらなあ!」
「言われなくてもわかってるよ、仗助くん!」
「いくらなんでも数が多すぎねえか!?」
そこからは大乱闘である。
やがて敵と味方は、見る見るうちに一つになって、気の違ったようにわめきながら、人形たちをめぐって、無二無三に仗助達は打ち合い始めた。
静かな月の下ではあるが、はげしい音と叫喚の声とが、一塊になった敵味方の中から、ひっきりなしにあがって来る。殺戮し合う人形の団塊は叫喚しながら不気味な色をこびりつかせながら延び、縮み、揺れ合いつつ次第に小さくすり減って行く。全身に謎の液体を浴びて仗助達は人形たちを倒してまわった。人影と見れば、双方からぶつかって退治した。
蹴りを入れるにあたって何よりも大事なのは、ためらいの気持ちを排除することだ。相手のいちばん手薄な部分を無慈悲に、熾烈に電撃的に攻撃する。一瞬のためらいが命取りになる。
「お、おい見ろよ、億泰!」
「どうしたの、仗助くん?」
「ありゃ、なんだ?」
仗助が一番最初に気づいた異変が感染するように広がっていく。異形がなにかをとりこみ、大人しくなっていくのが見えたのだ。
「お兄ちゃんたちに意地悪しないで!!」
「アリスちゃん!」
「ありゃあまさか......」
「その、まさかみてーだな、はは」
乾いた笑いがもれてしまう。バラの庭園を我が物顔で闊歩している不気味なアリスのお友達が人形に取り込まれることでただの人形に戻っていっているのだ。いや、中にいるのが低俗幽霊の寄せ集めだからだろうか、うようよと自由気ままに歩いたり走ったり空を飛んだり呻いたりし始めたのである。
所詮は動物の幽霊だ。生前の行動以上の知能は持ちえないらしく、女がいくら命令しようとも微塵も聞きやしないのだ。
「そ、そうか、あのスタンドは魂を閉じ込めるスタンドだから、幽霊も有効なんだ!ありなんだよ、仗助くん!」
「あー、なるほど!つまりここはあのスタンドにとって天敵ってわけか!」
「つまり......えーっと、ぶっ飛ばせばいいわけだな!」
「そういうことだ!」
仗助と億泰は腕まくりした。触れてはならない脅威のスタンドも本体を防衛してくれるはずの人形たちがただの呪われた人形に成り下がった瞬間に役に立たなくなる。つまり、今、目の前のヒステリックに叫ぶ女は無防備そのものだった。
「よくもあんな小さいやつをひでー目に合わせやがったな、このゲスが!」
「そうと決まれば話がはええ、ここからは俺たちに任せろ!」
3人の間には、ほとんど人間とは思われない、猛烈なつかみ合いが始まった。打つ。噛む。髪をむしる。しばらくは、どちらがどちらともわからなかった。
女の断末魔が響き渡った。
本体 霧ヶ峰涼子
スタンド能力 ソラリス
「破壊力」E
「スピード」A
「射程距離」D
「持続力」A
「精密動作性」D
「成長性」E
戦闘不能(リタイア)
対象の魂をビスクドール(陶器人形)に閉じ込めることで、肉体と魂を分離して管理出来るスタンド。霧ヶ峰涼子は病弱な娘、霧ヶ峰ミカを介抱する献身的な母親でいるためにわざと病気にさせていた。その病気により娘が死ぬことで社会的立場が失われることを恐れた霧ヶ峰は娘の魂を似たような背丈、年齢の少女の体に閉じ込めることで延命していた。
人形が破壊されると肉体の持ち主は死ぬため霧ヶ峰は保管している。肉体への損傷は人形となった本人に向かう。人形は自律型で触れたものや近くの魂を閉じ込める効果があり、幽霊とは相性が悪い。増えるにつれて射程範囲が狭くなる。
サウンドガーデンにいるたくさんの低俗霊を人形が取り込んでしまい無効化され、仗助たちに倒された。