ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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ドリーム・シアター2

「琢馬、君に質問があります」

 

「なんだ」

 

「赤ん坊っていうものは、お腹の中から外の音や母親の声なんかを聞いているものなんですか?」

 

瞬きをした彼はゆっくりとうなずいた。

 

「なるほど、僕以外に答えようがない質問だな」

 

「はい。世間では胎教なんてものが流行ってるそうですが、君に聞いた方がいいと思ったんだ」

 

「これは僕の主観でしかないし、お前は信じるも信じないも自由だが僕にとっては事実だ」

 

そう前置きした上で、彼は語り始める。

 

赤ん坊は母親のおなかの中にいるときのことを覚えているという神秘的で素敵な話がある。胎内記憶というそうで、3人に1人の子どもが覚えているのだとか。どうやら、4歳以降になると、徐々に忘れていってしまうため、言葉が話せるようになってくる3歳くらいの頃に覚えているか尋ねてみるのがいちばん聞きやすいそうだ。

 

「僕も聞いたことがあります」

 

「先生たちの常套句だったな、神は見ている」

 

「宿命論というやつですね」

 

彼はうなずいた。

 

3歳の男の子がパパとママの結婚式を上から見ていて、「このうちの子どもになりたいと思ったから、ママのお腹の中に来たんだよ」と言ったのだそうだ。なんと母親の心を震わせてくれるロマンチックなお話だろう。もし自分の子どもが「ママの子になりたくて来た」なんて言ってきたらと思うと、柄にもなく泣いてしまいそうだ。

 

「僕には夢物語ですらないな。実感とは別にして、0歳の初期の、親が2時間おきに起きてミルクをあげねばならない死ぬほど苦労したときの記憶はきれいさっぱり忘れておきながら、胎内の記憶はあるなんて変じゃないか」

 

 

子供を産んで産婦人科から退院するとき、お祝いとして、息子の手形と写真がのったアルバムと、赤ちゃんが生まれてくるまでを描いた可愛い絵本をもらう。こうした大人の描いた絵本こそ、元凶だ。

 

こうした絵本の中には大体、赤ちゃんがママのおなかの中ですくすくと育ち、産道を通って出てくるまでのストーリーが描かれている。おなかの中で水にぷかぷか浮かびながら、一様に「あったかいなあ」「気持ちいいなあ」というようなことを言い出す。

 

終盤になると、耳が発達してくるので「パパとママの声が聞こえるぞ」とか言い始め、最後は、狭い産道を頑張ってぎゅうぎゅうと通り、誕生。

 

大多数の子どもは、3歳になるまでにそういった絵本を読み聞かせられる。そうした「親が話す子どもが生まれるまでの過程」が頭に残り、自分の胎内記憶として刷り込まれるのではないか、と彼はいった。

 

「客観的に観測できる僕から言わせれば笑い話にもならないな」

 

彼は憶測する。そもそも、生まれたての赤ちゃんは「眠い」という感覚さえ自分ではわからない。眠る前にぐずるのは、眠気を不快に感じるためだ。それより小さな子が、「冷たい」「温かい」という言語も知らずに、当時の体の感覚だけを3年間も覚えていられるものだろうか。

 

「ジョルノは覚えているのか?」

 

僕は首を振った。

 

「まさか」

 

「僕は話を耳にしたことがある」

 

「どんなです?」

 

3歳になった息子にママのおなかの中にいたときのこと覚えてる?と聞いている母親を見かけたことがあるらしい。すると、返事は覚えてるよ。どんなだった?ママの声聞こえた?と質問を続ける母親に、息子はママは、まーくん痛い痛いって言ってたという答えが。あったかかった?冷たかった?と聞くとすごい冷たかったと。

 

「それで?」

 

おなかのトンネルを通り抜けるとき、どうだった?と聞くと大変だったという答えがあったが、母親は笑っていた。それはないね!まーくんは帝王切開っていって、ママのおなかをチョキチョキ切って生まれてきたから、狭いトンネル通ってません!ひょいっと抱かれてラクチンして出てきましたー!と得意顔で本当のことをバラすと、あ、そうなの。じゃあ、それだねと適当に返されていた。

 

「絶対にとは言えないが、やっぱり、子どもってのは、大人が話していることを胎内記憶という自分の経験として話しているんじゃないか」

 

「3、4歳くらいの子どもは、純粋な上に想像力が豊かなので、きっと何事も本当のことと思うことができますしね」

 

「謎のまがいものの記憶が強く刷り込まれ、確立されているということだな」

 

「回りが真実を言っていたのなら、あながち間違いでもないというわけですか。なら、もしも、赤ん坊が......2、3歳の子供がなにかを見たり聞いたりしたことというのは、忘れないものなんでしょうか」

 

「答えはイエスだ、ジョルノ。ノーなら僕はスタンドの力に目覚めちゃいないし、頭の暴走に振り回されたあげくに自殺してるし、復讐なんざ考えるわけがない。僕の頭が特異な性質を持っているだけかもしれないが、人間リミッターがあるから忘れてるだけで本来記憶というものは限界がないんだ。そう、僕はリミッターが生まれたときから故障してるだけで、みんなそうだ」

 

「なるほど」

 

僕はうなずいた。

 

「謎のまがいものの記憶が強く刷り込まれるとしても、それが客観的で信憑性あるものばかりだとすれば、再現が可能というわけですね」

 

「理論上はそうだな」

 

「ありがとうございます」

 

「ジョルノ」

 

「はい」

 

「僕がスタンド使いだと知ったときみたいな顔してるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「億泰先輩、資料お返しします。ありがとうございました」

 

「よお、ジョルノ。上がってくかあ?」

 

「はい、実は億泰先輩にお願いがありまして」

 

「またかよ」

 

「はい、またです」

 

「なんだよ?」

 

「実は僕の父親、ディオ・ブランドーについて調べたくなりまして。空条さんはまだ資料持っていってはいないですよね?」

 

「おう、こないだ聞いてみたけど、まだ時間がかかるからって保管しとくよう頼まれたぜえ」

 

「そうですか、よかった」

 

「......気持ちはわかるぜ。オヤジさんのことやっぱり気になるんだろォ?仗助がいってたからよ......」

 

「......人に無断でなにを勝手に話してるんだ、あの人は」

 

「んん?あ、やっべ、ジョルノには内緒なって言われてたんだった。アンジェロの野郎に写真をビリビリに破かれちまったこと、忘れてくれよォ」

 

「嫌です」

 

「ジョルノ......お前......」

 

「だから空条さんには秘密にしてください、DIOに関する資料を僕が見ていることは。それでチャラでいいですよ」

 

「わかったぜ、こいよ」

 

「はい」

 

「一回承太郎さんが来てたんだけどよォ、だいぶ多いらしいぜ。ほら、な?」

 

書庫に案内された僕はこっからここまでだと大雑把に説明されて目を丸くした。形兆先輩の執念が垣間見ることが出来る所蔵量だ。いや、虹村が観測ができるスタンド使いだったが故に僕の母親と僕の監視を兼ねていたからこそ、なおのこと報告書のやりとりが膨大になり、結果としてこれでも精査されたものばかりが残っているようだった。

 

「億泰先輩」

 

「んー?」

 

「しばらく通ってもいいですか?」

 

「おう、いいぜえ。どうせ俺と親父しかいねーからなァ、いくらでも来ていいぜ」

 

「ありがとうございます」

 

僕はこの日から億泰先輩の屋敷に頻繁に出入りするようになったのだった。空条さんがスピードワゴン財団にこの資料庫を全て持っていってしまったが最後、僕は二度と今考えていることが出来なくなってしまうのだ。やるなら今しかない。そう考えていた。

 

僕はどうしても知りたかったのだ。

どうしてDIOは、僕の父親は僕を殺さなかったのか。肉の芽を無効化してしまうスタンドに目覚めつつあった僕を生かしたのか。空条さん側、そしてDIOの配下だった者達の情報を総合したのち、自分の記憶を見ることで判断することにしたのである。

 

「待ってたぜ、お客さん。近いうちに来るとは思ってたがずいぶんと早かったな」

 

「時間がありませんでしたから」

 

「そうかい」

 

「はい。チケットを買っても?」

 

「ああ、どうぞ」

 

僕は誰もいない映画館に入るのだ。そして、上映を待ち侘びる。案の定対象の持つ記憶を媒介に生成される映画の舞台はエジプトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビでしか見たことがない豪華絢爛な宮殿を思わせる世界が広がる。

 

1,087の客室から構成され、中東で最大の宮殿の1つ。部屋は、2つの同じ20階建ての建物。宮殿とメインエントランスは地上階に位置しており、フロントと管理エリアを収容するため宮殿の屋根には、ナイル川やセントラル・カイロに面する野外劇場がある。

 

中を探検してみると、まさに宮殿の雰囲気を味わえる。とくにカジノの上の階のあたりがすごい。しかし、真夏の服装で薄着だと宮殿全体の冷房が寒くて耐え難い。部屋の中では一度も冷房を使わなかったが、寒くてベッドで毛布に包まっていなくてはいけないだろう。

 

とくにベーカリーショップでサンドイッチを食べたときはセーターがほしそうなほどぶるぶる震えている人間をみかけた。侍らせている女性を孕ませて子供をつくるためには倍以上の人間が必要となるのだ。吸血鬼ならば外に知られないよう細心の注意を払っていたはずだから当然といえば当然だろうか。

 

「一体ここで、何があったんだ?」

 

ぶち割られた大型ガラスのショーウインドウ。 へし折られたマネキンたち。破壊されたサングラスの残骸。 女性のものと思われる左腕の残骸。 そして、あちこちに見られる血溜りの池。

 

まるで自動車でもつっこんだような凄惨な現場が、僕の目の前に広がっていた。 なにもいない、無人な空間だが、ほんの数分前に、この辺りで何かが起こったことだけは間違いなかった。

 

「まだ近くにいるかもしれない……」

 

ここにはもうなにもない。そしてここにいたであろう人間の影も、人外たちの姿も一人も見つけられなかった。 僕はもう少しだけ、付近を探索することにした。

 

「僕がここにこれるってことは、来たことがあるはずなんだ、僕は。覚えちゃいないけれども」

 

1歳くらいの記憶を膨大な情報で補完することにより、この前来たときより遥かに詳しい映像の中に僕はいることができていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりかな、ハルノ」

 

流暢なイギリス英語が紡がれるはずがどう聞いても日本語だ。どうやらドリーム・シアターは日本語版か字幕版か選ぶことができるようで、支配人は気を利かせて日本語版を放映してくれているようだった。

 

僕は内心の驚きを隠しながら、すぐさま振り向いた。 視線の先にはこちらを見下す大きな男がいた。いや、男の視線は幼い僕に向けられている。

 

「返してくれないか?」

 

「やー!とーさんあそぶー!」

 

僕は大きな金髪の男と二人きりにもかかわらず物怖じせずしゃくりあげ、愚図る幼い僕を緊張した面持ちで暗闇を見詰めていた。男の姿ははっきりとは見えず、わずかに輪郭が分かる程度だ。

 

「それを返してくれたら遊ぼう」

 

「おそとー!」

 

「そうだな、遊ぼう。外で」

 

その闇の中から優しげな声が響いてきた。

 

「2歳まで生き残るだけでなく............同じ交渉の場に立たせるために、なにをすべきかわかっているとは......」

 

「…......父さん」

 

僕の声が、わずかに上擦る。もちろん男には、DIOには届かない。

 

「―――そうか、知っているのだな」

 

視線と微笑みは幼い僕のものだ。

 

「う?」

 

どういう意味か説明しろと幼児だけに許されたやり直しが命じられる。DIOの態度は、心のうちにするりと入り込まれるような感覚に陥りそうになり体は自然と強張った。幼い僕は平然と首をかしげている。なんのためにそれを見ているのか忘れるほどの衝動が、今僕を襲っていた。

 

DIO。ディオ・ブランドー。目の前にいるのは、失われた写真の男に間違いない。そう、自分の血が叫んでいる。

 

僕が空条さんや仗助先輩を探知できるように、幼い僕はきっとその血によってこの男がどこにいるかも感知することができた。だから興味を引くために勝手に私物を持ちだし、読めもしない文字を読んでいる。それが日常だった。

 

そのことに、僕はひどく動揺した。いつもの僕ならさんざん読み漁った資料を背景とする知識からDIOという男を観察し、どういう人間かすぐに見抜いていただろう。だが僕は冷静さを欠いていた。

 

これまで、僕は家族というものにあまりに縁が薄かった。縁がなさ過ぎてよくわからないのだ。DIOは死に、母は病死し、養父はアンジェロに殺された。すべてが僕を蔑ろにしてきた。ほんのわずかな親愛の情を示しているDIOに僕はひどく動揺している。

 

それゆえ、幼い僕はもちろん観客でしかない僕は目の前の男の邪悪さに気付くのが遅れてしまった。

 

『天国』へ行く方法の研究と書かれたノート。幼い僕からDIOに手渡されたノート。

 

「さあ、いこうハルノ」

 

「んー、いく!」

 

手を取り、歩き出す幼い僕とDIO。手袋越しなのはすでに覚醒前のゴールド・エクスペリエンスが僕の中にあることに気づいていたからなのだろう。僕はじっとそれを見つめていた。

 

「......ずいぶんと空想じみたタイトルだな......吸血鬼も聖書を読むのか」

 

「中華思想の聖王の方が正しい、訂正しろ」

 

「!?」

 

戦慄が走った。ドリーム・シアターは支配人が手心を加えなくては登場人物は僕の過去通りの動きしかしないはずなのに、DIOは歩みを止めて背を向けたままいうのだ。僕は1歩も動けなかった。

 

「毎晩読み聞かせてやっただろう、忘れたのか?」

 

唄うようにDIOはいう。

 

< 第1節 >

必要なものは 『わたしのスタンド』である『ザ・ワールド』。我がスタンドの先にあるものこそが 人間がさらに先に進むべき道なのである。

 

「ダメだ、聞いてはいけない」

 

< 第2節 >

必要なものは 信頼できる友である。

彼は欲望をコントロールできる人間でなくてはならない。権力欲や名誉欲 金欲・色欲のない人間で彼は人の法よりも 神の法を尊ぶ人間でなくてはならない。いつかそのような者に このDIOが出会えるだろうか?

 

「これは呪詛だ」

 

< 第3節 >

必要なものは 『極罪を犯した36名以上の魂』である。罪人の魂には 強い力(パワー)があるからである。

 

「僕は思い出すべきではなかった」

 

< 第4節 >

必要なものは 『14の言葉』である

 

「らせん階段」 「カブト虫」 「廃墟の街」 「イチジクのタルト」 「カブト虫」

「ドロローサへの道」 「カブト虫」 「特異点」 「ジョット」 「天使(エンジェル)」

「紫陽花」 「カブト虫」 「特異点」 「秘密の皇帝」

 

わたし自身を忘れないようにこの言葉をわたしのスタンドそのものに 傷として刻みつけておこう。

 

「これはDIOが僕の魂に、記憶に、刻み込んだ呪詛だ」

 

< 第5節 >

必要なものは 『勇気』である。わたしはスタンドを一度捨て去る『勇気』を持たなければならない。朽ちていくわたしのスタンドは 36の罪人の魂を集めて吸収。そこから『新しいもの』を生み出すであろう。

 

「生まれたもの」は目醒める。信頼できる友が発する 14の言葉に知性を示して…『友』はわたしを信頼し わたしは『友』になる。

 

「だから......DIOは......ッ」

 

< 第6節 >

最後に必要なものは 場所である北緯28度24分 西経80度36分へ行き…......次の「新月」の時を待て……

それが『天国の時』であろう……。

 

「僕を生かすために日本に母と送ったのだとしたら......ッッ!!」

 

聖書になぞらえた言葉たちに、その本を信じている人々に育てられてきた僕は意味がわかってしまう。

 

貧民街に暮らし、人間を止め、闇の世界の住人となり、人間の脆弱さ、綻び、暗黒面を知り尽くしたDIOが聖書の文言通りなわけが無い。

 

そこで考えられるのは「天国」という現象をDIOが求めているということだけだ。あまりにも抽象的な言葉だ。DIOは、あくまでも「自分(だけ)が天国へ行く事」の付属で人類が救われると考えているように思えてならない。

 

空条さんに倒されてしまったDIOは、ザ・ワールドというスタンドを捨て、進化させ、天国を作り出し、行こうとしていたのだ。

 

天国がどんな世界なのかはわからないが、天国は神の場所だ。つまりはそういうことなのだろう、と僕は解釈した。

 

天国は神が用意した場所だ。その瞬間に世界は神の配下となる。世界を自分の権限で繰り返す、なんてあくまで支配権は神じゃないか。DIOは神をも超越したいのか。

 

「..................参ったな、この言葉はいくらでも解釈できるじゃあないか。世界中に信奉者がまだまだいるのに、どうしてくれるんだ」

 

まず初めにDIOが考えたのは、多分天国に行く方法ではなく、神になる方法やそれを越える方法だったはず。天国に行く方法というのは、神になる方法でもあった。失楽園的なあれで考えると、DIOは石仮面により永遠の命を手に入れたから、あとは善悪の知恵のみ。神様と同等になる。

 

DIOが初めに手に入れたのは知恵の果実ではなく石仮面で手に入れた永遠の命、つまり生命の果実。

 

だから、一番初めに研究をしたのは、自ら手にした生命の樹についてだろう。DIOはタロットカードを暗示するスタンド使い達を集めたと空条さんはいっていた。セフィロトの樹というのはタロットにもつながりがある。それによって、自らの持つ永遠の魂をより確実なものにしたのだろう。

 

あとは善悪の果実だけだ。

 

DIOとジョースターの血族の因縁を考えたら答えは出たようなものだが、ようするにジョースターを根絶やしにして神になりたいというDIOらしい目的があったようだ。

 

「......吸血鬼とジョースターの血族、そして天国......まさかね。ありえない......」

 

否定しきれないのは、僕はまだDIOという男を知らないからなのだとわかる。

 

「ようするに解釈次第でどうともなるものを巡る争いに巻き込まれる可能性があるじゃあないか......」

 

僕は深深とため息をついた。いつの間にかDIOと幼い僕はいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どういうことか説明してもらおうか」

 

どかりとソファに座ったまま空条さんは問いかけてくる。

 

「興味無さそうな顔してたわりにDIOについて調べてるそうだが」

 

「実はですね、あの後よく考えてみたんですよ。僕は脊椎バンクの被験者が誰か聞いてるわけでも、養子に出される前の生家はどこか聞いてるわけでもない。父親について知りたいと思うのは普通だ。違いますか?」

 

「......やれやれだぜ。よくもまあ、そんな思ってもないことをベラベラと次から次から思いつくもんだ」

 

僕は無言のまま笑った。同じくらいのあいだ無言のまま僕を睨みつけていた空条さんはコーヒーに口をつけた。

 

「僕がDIOについて気になったのは事実ですよ。これからの僕をもってDIOの後継者かジョースターの血族か、それとも半端な有象無象か確かめると言ったのは他ならぬアンタだ。つまり、これからの僕の人生にはスピードワゴン財団の監視があるわけじゃあないですか。それがどういうことか考えてみたくなったんですよ」

 

「ほう......そうか。なら、ひとつ見せてやる。お前のDNA鑑定の結果が出たぞ」

 

「!」

 

「お前の母親、ジョナサン・ジョースター、そしてディオ・ブランドーの血が流れている。お前がDIOの子供の中で唯一DIOがジョナサンの体に馴染む前に生まれた。ゆえに肉の芽が埋め込まれたのもお前の母親だけだ」

 

「普通ならジョナサン・ジョースターと僕の母親の血が流れるはずだからですか」

 

「ああ。だがそうじゃあなかった。ジョナサン・ジョースターの血液型はA型、DIOは吸血鬼だ。血液型などあってないようなものだが子供を産むとなれば同じ血液型になり最適化した可能性がある。お前の母親はB型もしくはAB型だ」

 

「なるほど」

 

「1994年、イギリスで一人の少年が生まれた。彼は目立たない赤ちゃんだったが、よちよち歩きの頃、両性具有者だとわかった。だいたい両性具有という診断は、停留睾丸と思われていたものが卵巣と卵管と子宮の一部であることが判明した場合に確定する。さらに行われた検査で、彼の体のいくつかの部分は遺伝的には女性であり、その残りの部分は父親の遺伝子を引き継いだ男性ということになった。要するに、それぞれ異なる二つの精子によって受精が成立した二つの卵子が子宮内で融合して、一つの胚となった時に創られたと考えられる。ここまで奇妙な体じゃなくてよかったな、ジョルノ。これは偶然にも世界でも珍しい形で生まれたが、お前はそうじゃあない」

 

「だからこその肉の芽......」

 

「そうだ、気味が悪い話だがな。つまりお前は双生児が融合したような状態というわけだ。キメラ遺伝子というんだが。体の一部がそれぞれジョナサン・ジョースターとDIOならばモザイク遺伝子というんだが、どうやらお前は融合しているパターンらしい。世界で40しか例がない極めてまれな遺伝子だ。テメーが調べてる以上隠すのはやめだ。率直にいうがまともな人生を送れるとは思わねえ方がいい」

 

「参考までに、僕以外のDIOの子供はどうなんです?」

 

「他の子供たちはいずれも年齢的にジョナサン・ジョースターの体にDIOが馴染み切ったあとに生まれた。遺伝子的には母親とDIOの血が流れていることになる」

 

「......つまり、肉の芽は使われなかった」

 

「ああ」

 

他の子供たちがどうしているのかふと気になったが空条さんの眼光が鋭くなった気がして詮索をやめた。

 

「お前はスピードワゴン財団にとってもDIOの協力者たちにとっても無視できない存在ということだ。どう足掻いてもな」

 

「そうですか......残念ですよ、とてもね」

 

「お前も気づいているかもしれんが、背反する2つの力が幼子にぶち込まれるわけだ、正常な状態で生まれたのはお前だけだジョルノ」

 

「............まあ、そんな気はしていましたよ」

 

「だからこそ俺はずっとお前とお前の母親を探していたし、お前たちを監視していた人間を倒さなきゃならねえと考えていた」

 

「殺さなくて安心してますか?」

 

「意地汚ねえとわかってんならきくもんじゃあねえぜ」

 

「いえ、それくらい考えることも変わるのかなと思ったんですよ。結婚というものは」

 

「............」

 

空条さんは指輪を隠すように握りしめてしまった。

 

「僕以外にDIOの子供に接触は?」

 

「それを知ってどうする?」

 

「アンタと話す上でなにが必要かずっと考えていたんだ。ひとつだけ警告させてほしい」

 

「なんだ、言ってみろ。それが値するかは俺が考えてる」

 

「『天国へ行くための方法』」

 

空条さんの眼光が鋭くなる。

 

「テメェ......どこでそれを......ッ」

 

「思い出したんですよ、夢の中で。僕はDIOに子守唄代わりに聞かされていたんだ。それはまるで呪詛のように僕の記憶、魂、そして体に刻みつけてあるんだ。それが僕だけなのか、確かめた方がいい」

 

「......そう、だな」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして空条さんはいうのだ。

 

「なにが望みだ」

 

僕は笑った。

 

「ジョウサダのサイン入りのCDが」

 

ジョウサダファンの彼が絶賛していた名盤を手渡すとますます空条さんの眉がよった。

 

「ジョルノ......テメェ......人の事おちょくるのもいい加減にし」

 

空条さんの苛立ちを助長するようなタイミングで電話が鳴り響く。舌打ちした空条さんは足音で怒りを顕にしながら受話器をとった。耳をそばだてようとしている僕に気がついたのか、じろり所ではない殺気が僕に向けられる。肩を竦めた僕はすっかり冷めてしまったコーヒーだったものを一気に飲み干す。

 

その刹那、すさまじい光と火花が視界隅に走る。瞼に残像が残るほどの衝撃で、たまらず僕は立ち上がる。

 

「空条さん!」

 

ぐうっという男のうめき声が聞こえたからだ。慌てて近づくとこれ以上近づくなと言外に強いられてしまう。焦げ臭い匂いと立ち上る黒い煙。僕は咄嗟にゴールド・エクスペリエンスを発動して丸焦げになった電話を蝶に変えたが、机の上あたりをフラフラとしているだけだ。

 

「チィ、遅かったか......僕が電話に出ていれば......」

 

「電気より早く動くことが出来ればの話だぜ」

 

「さすがにそれは無理ですね」

 

「やれやれ、ますますこの街から離れられなくなったぜ」

 

「ルームサービスを呼びますか?」

 

「検証が先だ。どう思う」

 

僕は注意深く電話を観察した。

 

「ホコリがずいぶん溜まっていたみたいですね。劣化してた可能性もありますが......」

 

焦げ付いたところを指でなぞるように追いかけていった僕はモジュラープラグに目をつけた。それは電話線などの信号線をまとめて接続する場合に用いられる端子のことであり、電話、FAX又はLAN等を接続するのに用いられる。

 

モジュラージャックとは、モジュラープラグの受け口となる部品だ。電話線の差し込み口は、大半がこの形をとっている。モジュラープラグ及びジャックの材質は、ともに難燃性の合成樹脂である。

 

電話機に接続されているモジュラープラグとジャックが埃まみれになり、結露した窓の近くに設置されているためにしけっていたのだろうか?指で触れた限り湿っている訳では無いらしい。

 

「トラッキング現象じゃあなさそうだ。単純に電気による発火ですね」

 

「スタンドはシンプルなほど強いからな」

 

「なるほど」

 

おそらく許容電流を超えたせいで発火したのだろう、と僕は考える。許容電流とは、規格上電線などに流すことのできる最大の電流である。

 

物体には電気抵抗があり、その物体に電圧をかけて電流を流すと抵抗によって発熱する。電線などの導体にも小さいながら抵抗があり、その発熱によって絶縁被覆が溶解すれば電気は短絡したり、場合によっては発火する。

 

電話線のように低電圧の機器であっても、電気が存在している以上は、火災の原因になる可能性は必ずあるのだ。

 

「空条さんが丸焦げにならなくてよかった」

 

「俺を見くびられちゃ困るんだが」

 

「だって形兆先輩と同じような状態になりかけてましたよ。引き込まれかけたんじゃあないですか?感電してやけどしてるでしょう、空条さん。雷に打たれたみたいな音してましたよ」

 

「いや、警告だった」

 

「警告」

 

「ああ、ここから出て行けと言うシンプルな警告だ。こちらのスタンドはもちろんジョルノがいることも把握しているらしいな、新たなスタンドの矢と弓の持ち主は」

 

「そうですか......」

 

「テストや受験がうんざりだと言っていたから学生かもしれないが」

 

「......」

 

「ジョルノ」

 

「はい」

 

「次が知りたければスタンドの矢と弓の回収に協力しろ」

 

「......ッはい!」

 

食い気味に答えた僕に空条さんはニヤリと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドリーム・シアター

 

本体 DIOの手下だったが妻を殺され見限った男

 

破壊力 - E

 

スピード - C

 

射程距離 - C

 

持続力 - A

 

精密動作性 - B

 

成長性 - E

 

映画館の姿をしたスタンドであり移動能力はない。対象がチケットを買い、映画を見始めると発動し、対象の記憶からエピソード記憶を選択して上映することができる。あくまでも記憶を映像化するため、対象が知らないことは描写されない。

 

また、その映画の登場人物として複数を中にいれることが出来る他、対象を観客としていれることも出来る。中に入れられた人間が負った傷は現実でも適応される。

 

再生中スタンド能力も再現できるかどうかは対象の記憶の鮮明さに左右される他、自分が登場人物の行動を変えることもできるがあまりにも不自然な行動はエラーとなる。

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