1995年10月21日、双葉千帆は小学6年生の頃、家出をした際に不良に絡まれ、蓮見琢馬に救ってもらった過去がある。 以来彼女はその記憶をずっと忘れずにいた。 高校1年の入学式当日、町立図書館茨の館にて蓮見琢馬と再会するも、彼は過去の出来事を否定。 彼が自分を救ってくれた少年ではないかと思いながらも、友人として交友を深めていく。
そこまでは知っていた。
僕はあの日、あの時、彼と一緒に不良に絡まれていた少女を助けたことがあったからだ。母親の遺体を発見したあの日、次の日にでももう一度行って母親の遺体を見つけ出し、通報すると決めてから僕は彼と共に施設に向かっていた。川沿いの道をひたすらに歩いていたのだ。
その先で僕達は両親の喧嘩に嫌気がさして、とは今まさに知ったけれど彼女と出会った。正しくは彼がいきなり動いたから僕がおいついた頃には彼は珍しく善意の第三者として仲裁という名の制裁をしているところだった。僕は止めなかった。
彼は人生で1番の絶望のさなかにあった、たまたまその八つ当たりとして不良が犠牲になったとしてもやむを得ない。それが双葉にとって少女漫画に出てくる女主人公の運命の人のようなドラマティックな邂逅だっただけだ。
化け物に襲われて生き埋めにされかけた双葉に僕は「忘れた方がアンタのためだ」と率直に警告した。そこに親密さもなにもなかったはずだ。第一僕は1度も双葉に友好的な態度をとったことなどないのだから。なのに双葉が目の前にいる。隣には平然としている無表情で無機質な目をした青年。
「......今、なんていいました?双葉千帆......アンタはいつから自殺志願者になったんだ?」
ひどい、と非難めいた眼差しを向けられるが一言いいたくもなる。
「アンタもアンタだ、琢馬......アンタの行動はまったくもって矛盾してるじゃあないか。百歩譲ってアンタたちが勝手に首をつっ込むのは構わない。でも、僕を巻き込む意味がわからない」
「詳しくは蓮見先輩に聞いて。私はあなたも一緒じゃないと嫌だと言われたからここにいるの」
「......琢馬」
「面白いことに巻き込まれたい気分なんだといってたのはお前だろう、ジョルノ」
「あれは僕のこれからにおいて大切だから前のめりなのであって、断じてそういう意味じゃあない」
「違うのか?1人でも多く見つけたいんだろう?」
「..................はあ」
僕は観念したことを教えるために大袈裟に肩を竦めてみせた。やったあ、とガッツポーズしている姿はせめて僕に見えないところでやってもらいたいものである。
「どうして一度は死にかけたのにわざわざ首をつっこみにいくのか。なんのためか聞いても?それ次第で僕は断る権利があるはずだ」
「取材させて欲しいの」
「取材」
「そう、取材」
尊敬する作家か漫画家か映画監督の座右の銘みたいな言い方で双葉はいった。事実は小説よりも奇なりって言葉がある。
《Truth is stranger than fiction.》
世の中の実際の出来事は、虚構である小説よりもかえって不思議であるという意味だ。英国の詩人バイロンの言葉であり、社会の偽善を痛罵風刺し、生の倦怠と憧憬をうたいあげ、ロマン派の代表者となった彼らしい言葉だ。欧州各国を放浪、ギリシャ独立戦争に参加して病死。
物語詩「チャイルド=ハロルドの遍歴」「ドン=ジュアン」、劇詩「マンフレッド」などが有名である。双葉の個人的な見解を付け加えるなら、そんな事実こそ最高のエンターテインメントだよ、って意味なんだという。作者が実際に体験した現実を物語にしてるから面白い。そんなリアリティが欲しい。
「将来の夢……と言うと笑われそうだけど、私はね、小説家になりたいと思ってる。自分の書いた作品が書店に並んで、遠く離れた家族がそれを手にとってくれる、かつて過ごした日常を思い出してくる。 それはとっても嬉しいなって――そう思って本気で小説家になりたいと思うようになったの」
「......ありきたりだけど、嘘はついてなさそうだな......」
「だから余計にタチが悪い」
「そうそれだ」
双葉の眼差しは揺るがない。あの時、こんな場所に放り込まれる前の自分の境遇。 そんな中、自分はどう動いて、誰と出会って、何を感じたか。どういう会話をして、どこでどういうケガを負ってしまったか。
もちろんそんな呑気なことをしていたら人殺しの犯人とか、そういう人にあっさりと刺されて死んでしまうと思う。でも、やらずにはいられない。なにか『私が生きた証』を残したい。そう思った。
「だから僕達を巻き込みたい」
「助けてくれたから」
双葉はいう。きっと生き残ることは出来ないだろうと自分のことながらわかっている。そうなれば作品はきっと未完成のままどこかに放り出されてしまう。それでも、一秒でも長く、一文字でも多く、この現実を物語にしたい。
「なるほど......実に面白い考え方だ。頭が痛くなってくる」
僕は彼を睨んだ。彼は微動だにしない。双葉は話し続ける。
決して間違った行為だとは思わないと双葉は断言した。テンションが上がって話を続ける双葉を彼は止めない。 双葉はあるいは喋り続けているといった行為に夢中になっている時は時間を忘れられるし、何より邪魔されたくないものなのだ。だから先に話をへし折っていたのに。気づいたら引き返せない程どっぷりと事態に巻き込まれていることに気づく。
「なるほど、いつもこうして巻き込まれているわけですか」
「そうだ」
「......案外悪くないと思ってる顔だ」
「なんの話だ」
「なんでもない」
僕は双葉が取材したいという奇妙なことについて耳を傾けることにした。
小学校の頃から仲がいい3年生の順子がドッペルゲンガーに悩まされているらしい。
「知らない男と一緒に歩いてたり、知らない服を着てたり、噂になっているらしいの」
それも目撃されるたびにどんどん過激になっていき、とうとう親が目撃してしまったために心当たりもないのにしこたま怒られた挙句門限を設けられしまったという。
「ずいぶんとアグレッシブなドッペルゲンガーですね。深層意識とかそういう線はないですか?」
双葉は顔を赤くして、順子先輩はそんな人じゃあないと否定する。
ドッペルゲンガーは自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、自己像幻視とも呼ばれる現象である。自分とそっくりの姿をした分身、第2の自我、生霊の類だ。同じ人物が同時に別の場所、複数の場合もあるが、に姿を現す現象を指すこともある。
ドッペルゲンガー現象は、古くから神話・伝説・迷信などで語られ、肉体から霊魂が分離・実体化したものとされた。この二重身の出現は、その人物の「死の前兆」と信じられた。
18世紀末から20世紀にかけて流行したゴシック小説作家たちにとって、死や災難の前兆であるドッペルゲンガーは魅力的な題材であり、自己の罪悪感の投影として描かれることもあった。
ドッペルゲンガーの人物は周囲の人間と会話をしない。本人に関係のある場所に出現する。ドアの開け閉めが出来る。忽然と消える等があげられる。
「でも、その順子は知らない男と話してたし、いったことない場所でデートしてたし、普通にしてたらしいから......」
「そこまでくるとただの別人じゃあないか 」
「ううん、違うんです。だってこれ、写ルンですで撮ったんだけど、同じでしょう?この時順子は塾にいってたの、電話したから間違いないと思う」
「............もうそこまで調べあげてるんですか......危なかったんですね、琢馬」
「僕の気持ちがわかったか」
「危なっかしいのはよくわかりました」
「なによう、2人して......」
拗ねた様子を見せながらも双葉はネタ帳を広げる。
「ドッペルゲンガーじゃなくて、ホートスコピーじゃあないのか?」
彼はそういって横槍を入れる。
ドッペルゲンガーより奇妙で複雑な自己幻視がホートスコピーである。これは極端にまれなかたちの自己像幻視で、本人とその分身のあいだに相互交流がある。相互交流は友好的な場合もあるが、敵対的なことのほうが多い。さらに、どちらが「オリジナル」でどちらが「分身」なのかに関して、ひどい混乱が起こる場合もある。
というのも、自己意識が一方から他方へ移る傾向があるのだ。初めは自分自身の目で世界を見ていたのに、そのあと分身の目を通して見ることがあり、そのせいで彼──もう一人のほう──が本当の人間だと思ってしまうこともありえる。
自己像幻視(autoscopy)の場合とちがって、分身は本人の姿勢や行動を受け身でそのまま映し出しているとは解釈されない。ホートスコピーの分身は、限界はあるものの、やりたいことを何でもできるのだ(あるいは、まったく何もせずにじっと横たわっていることもある)。
1935年に提唱されたホートスコピーという言葉は、その後は必ずしも有用と見なされてはいない。オートスコピーとはっきり二分されるものではなく、連続性やスペクトルがあるものと考えられる。自己像との関係に対する意識は、ごく弱いものから非常に強いものまで、無関心から強烈まで、さまざまな可能性があり、その「現実味」の感覚も同じようにまちまちなのだ。
ホートスコピーという用語が考案される一世紀前の1844年、医師のA.L.ウィーガンが悲劇的な結果を招いた極端なホートスコピーの症例を記述している。
私が知っていた、ある非常に知的で感じのいい男性は、目の前の<自分自身>を認識する力を持っていた。そしてよく<彼の分身>に愛想よく笑いかけ、そのたびに相手も笑い返してくるようだった。これは長年楽しみとジョークのタネだったが、最終的には痛ましい結果を招いた。
彼は次第に自分が、[もう一人の自分]に取りつかれたのだと思いこむようになった。このもう一人の自分は頑固に彼と言い争い、彼にとってひどく悔しいことに、彼を論破することもあった。論客として自らたのむところのあった彼は、そのことにひどく傷ついた。彼は常軌を逸していたが、監禁されることも拘束されることもなかった。
しまいに、いら立たしさに疲れ果てた彼は、生きて新しい年を迎えまいと決意し──借金をすべて返し、毎週の請求書を別々の紙にくるんで──12月31日の夜にピストルを片手に持ち、時計が12時を打つと同時に口にくわえて発砲した。
分身、ドッペルゲンガー、半分自分で半分別人というテーマは、文学者にとって非常に魅力的であり、たいていは死や災難の不吉な前兆として描かれている。
場合によっては、エドガー・アラン・ポーの『ウイリアム・ウィルソン』のように、分身は目に見える具体的な罪悪感の投影であり、その罪悪感が耐えがたいほど強くなって、最終的に本人が分身に殺意を抱き、気づくと自分自身を刺している。
ギ・ド・モーパッサンの『オルラ』に出てくるもののように、分身は目に見えず実体もないのに、それでも存在の証拠を残す場合もある(たとえば語り手が水差しに入れておいた水を飲む)。
モーパッサンはこれを書いた当時、しばしば自身の分身を見ていた、つまり自己像幻視を起こしていた。友人の語ったところでは、「帰宅するとほとんど自分の分身が見える。ドアを開けると、肘掛け椅子に自分がすわっているのが見えるんだ。見た瞬間幻覚だとわかる、しかし、異常なことじゃないか?冷静な頭の持ち主でなかったら、怖くてたまらないだろうね」。
モーパッサンはこの時点で神経梅毒をわずらっていて、病気がさらに進行すると、鏡に映った自分を認識できなくなり、鏡のなかの自分にあいさつし、おじぎをし、握手をしようとしたと言われている。
人を苦しめるのに目に見えないオルラは、そのような自己像幻視の経験から思いついたものかもしれないが、まったく別物であり、ウィリアム・ウィルソンやドストエフスキーの小説に登場するゴリャートキンの分身のように、本質的には18世紀末から20世紀初頭にかけてはやった、ゴシック文学のドッペルゲンガーにほかならない。
現実世界では、ホートスコピーの分身は──ブラッガーらによって報告されている極端な症例はあるが──それほど悪意はないようでもある。温厚なものや、前向きで品行方正なものもある。オリン・デヴィンスキーの患者の一人は、側頭葉発作にともなうホートスコピーを起こして、その症状をこう説明している。
「夢のようでしたが、私は目が覚めていました。突然1メートル半ほど向こうに自分が見えました。私の分身は芝刈りをしていたのですが、それは私がやっているべきことだったのです」。この男性はそのあと10回以上、発作の直前にそのような症状を経験し、発作活動とは関係なさそうな発症も何度かあった。1989年の論文にデヴィンスキーらは次のように書いている。
彼の分身はつねに透けていて、全身像で、等身大より少し小さい。患者とはちがう服を着ていることが多く、患者とちがう考えや感情を抱いている。分身はたいてい患者自身がやっていなくてはならないと思う活動をやっていて、彼は「あいつは私の罪の意識です」と言っている。
「でも順子先輩は普通の女の子よ。テニス部に所属していて、同じ部活の彼氏がいて、デートの惚気をたくさん聞かされているんだもの」
遠回しに友達を精神障害を疑われたことが気に食わないのか、双葉は食い下がる。
「んん......?じゃあ、誰に取材するつもりなんです?その順子先輩て人はまともなんでしょう?」
「私が取材したいのは、この人なの」
さしだされた写真を見て僕はようやく彼が協力者として僕を指名した理由を悟った。
間田敏和。ぶどうヶ丘高校3年C組の生徒。 身長は自称165cm。獅子座。テニス部所属。
長いボブカットに猫のような目をした、如何にも根暗そうな学生だ。マンガが大好きで学校のロッカーにマンガを置いている。本人のスタンド曰く「パーマンを知らないやつとは会話したくねー」とのこと。
性格は執念深く陰湿そのもの。かなり暴力的だが小心者でもあるため、身動きが取れない相手にしか手を上げる事ができない。弱い者をイジめると胸がスッとして気分がいいらしい。
「......まさか一人で行くつもりだったんじゃあないでしょうね?」
双葉は目を逸らした。
「もし、双葉千帆のドッペルゲンガーが出現したとして。その存在を君は殺せますか、蓮見琢馬」
「......答えが出なかったから、止めたんだ。無粋なことを聞くもんじゃあない」
「そういうわりに、もし僕がドッペルゲンガーだとしたら躊躇なく殺そうとするんでしょう?」
「なにを当たり前のことをいうんだ、ジョルノ。ドッペルゲンガーはスタンドまでコピー出来ないらしいじゃあないか。僕のスタンドに即死性はないが、対応できたかどうかで本物と偽物の区別がつく。僕もお前も手の内は互いにわかり切っているんだから」
「そうですね」
「今からリクエストを決めておくか?」
「インフルエンザなんてどうです?」
「春も半ばなのにか?」
「リアリティが足りないと双葉に怒られそうだ」
「全くだ」
「ところで僕はまだ中学二年生なんですよ、琢馬。高校に入ってもいいんでしょうか?」
「だからわざわざテニス部に向かうだろう、ジョルノ。テニス部は中等部と交流試合があるからな。双葉と同じように先輩の応援にきましたという顔をしていればバレないものさ」
「無表情のアンタにだけは言われたくありませんがね」
テニス・コートからはシャンパンを抜くようなラケットの音が愉快そうに聞こえてくる。ボールがポンポンと乾いた音を立ててネットを飛び越えているのが見えた。
「蓮見先輩!汐華くん!こっちよ!」
フェンスの向こうで順子先輩とやらを応援している双葉が手を振っている。軽く頭を下げた僕の隣では愛想笑いすら忘れた疑惑がある能面がそこに歩いていく。女子部員のスカート目当ての男子生徒たちからは恨めしそうな眼差しを向けられるが、おいでと言われているのだから問題ないはずだ。
「今、順子先輩が勝ってるところなの」
ラブフィフティと審判が告げるものの興味が無いため意味はわからない。黄色い、あるいは野太い声援の最中、取り残されたように沈黙している僕たちはこれ以上ないくらい浮いていた。やることといえば男子部員たちの確認だ。
「今、順子先輩にスポーツドリンクを渡したのが彼氏さん」
なるほど、傍からみたら仲を裂く余地がないくらいラブラブな雰囲気がある近寄りがたい人種だ。双葉が意固地になって浮気は絶対にありえないと断言するだけはある。これで浮気が真実だとしたら相当猫かぶっていることになる。間田とは真逆な印象だ。
「あれが間田敏和って人」
クレーコートの向こう側で練習に勤しむ男子部員の中でもボール拾いのような雑用を押し付けられている先輩がいる。
粘土質の地面に真砂土を撒いたイエロークレーでテニスボールのバウンドが高く弾む。持ってこいとでも言われたのか、順子の彼氏がヤジを飛ばしていた。それに気づいた女子部員たちがくすくす笑っている中、順子がそちらにかけより彼氏になにかをいっているのが見えた。
どうやら庇ったのか、みっともない真似はするな、と怒ったらしい。カチンときたのか、間田敏和を指さしてなにかまくし立てている。我に返ったらしい順子はなにやら弁明しているが怒った彼氏はテニスラケットで順子をぶん殴るとその間出ていってしまった。
あたりが騒然となる。
「いくぞ、ジョルノ」
「ええ」
間田敏和が騒ぎに乗じてテニスコートから順子の彼氏をおいかけて行くのが見えたのだ。双葉は順子の介抱をするために慌ててフェンスから入ろうと走っていってしまった隙をついて、僕たちは先を急ぐ。
「ここから入れる」
部活に使うためか内庭を通り、校舎に続く道は開けっ放しになっていた。
「間田...... 間田......ああ、これか。ほら、ジョルノ」
「いいんです?」
「外に出られなくなる。ああいうタイプは勝手に他人の外履きを使えないやつだ」
余程慌てていたのだろうか、外履きが置きっぱなしだ。僕は間田とかかれたそれらを拝借してツバメにした。
「ぎいやあああああッ!!!」
惨たらしい叫び声だった。叫び声がこだました。ツバメが驚いて本来の持ち主のところに行くのを躊躇するほどだ。その声は、白燃鉄を打つような響きを帯びて、鋭く僕達の耳を貫いた。
そのツバメがテニス部に割り当てられている更衣室に侵入していく。
「......これはッ......!」
「............」
自分のラケットをつかって一心不乱に自分の頭をぶん殴っている順子の彼氏がいる。だがツバメはその先に向かうのだ。
「痛えよォ......痛えよォ......やめてくれよォ......謝るから、謝るからあああ」
ぼこぼこになっていく順子の先輩は僕達をみて助けてくれえ!と叫ぶがどうやら自分の体を制御することが出来ないらしい。
ツバメが旋回する。僕は奥を見た。
「だっ......誰だっ!!」
そこにはもう一人の順子の彼氏と間田敏和の姿があった。彼氏はあいかわらず自分の頭を血塗れにすべくテニスラケットでぶん殴り続けている。ばちん、とはじける音がして、彼氏は気を失ってしまった。
「何をしているんです?」
「畜生、バレちまったか!誰もいないと思ったのに!」
等身大のポーズ人形を自分のネームプレートがついたロッカーに押し込もうと準備していたらしくロッカーは開けっ放しだ。ひどく動揺しているようで、なにかがひっくり返って僕の周りに散らかった。
「み、み、み見るんじゃねえ───────ッ!」
慌てて間田敏和は写真をかき集める。そこには様々なシチュエーションの順子が写っている。どうやらこの男がドッペルゲンガー事件の犯人らしい。
「バレちまったなら仕方ねえ......ここで消えてもらおうか!?」
間田敏和の声に応じて順子の彼氏が姿を変える。
「そんなバカなッ......僕がもう1人いるだとッ......!」
「形兆から話は聞いてるぜ、汐華初流乃ッ......!」
「ここからは僕が相手です」
「なるほど......順子のドッペルゲンガーというのは、君のスタンドか、間田敏和」
「そう、俺のスタンドサーフィスは等身大の人形に憑りつき、人形に触れた者の姿、仕草、声紋を全てコピーするスタンドだ!スタンドまではコピーできねえがパワー・スピードはそこそこ高い。 てめーのゴールド・エクスペリエンスに負けるいわれはねーぜェッ!!」
「ッッ......!?」
コピーされたせいだろうか、僕は順子の彼氏のように体の自由が効かなくなっていた。もうひとりの僕が手をあげると、僕もあげる。どうやら数メートル以内でサーフィスと向き合うと同じ動作しか取れなくなるようだ。
その際の動作は鏡写しとなり、サーフィスの右腕が動けば、ぼくの左腕が動く。また向き合うと言ってもお互いを認識する必要はなく、サーフィスがコピー元の姿を視認していればいい。また動作させる部位はある程度サーフィスが指定可能であり、サーフィスの支配下にあっても一寸も違わぬような動作をするわけではない。
「さあ、殴り合いと行きましょうか」
たらり、と僕は冷や汗がつたった。