ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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第2話

1999年2月上旬、TG大学病院から退院した僕は、生活拠点を警察官の家族が入所する公務員社宅に移ることになった。官舎は会社の寮のようなもので、すべての住人が警察官である。

 

僕が目を覚ました最初の日に説明に来てくれた刑事が、今の僕の保護者になった。家族がいない独り身であることが大きな要因らしい。どうもこの官舎は旦那の年功序列で奥様方の序列も決まってしまうようだ。それに嫌気がさした妻に当たる人はもういないようだ。だから実質2人ぐらしになる。

 

僕たちが住む部屋には警察からの直通電話が玄関にあって、直接召集がかかることもあるのを何度か目撃している。管理人室もあるが、人が集まる場所だ。僕の事情はすでに知れ渡っていたようで、父親や母親の顔をした人たちによく声を掛けられた。独身者や単身赴任の人も混じって、一緒に食べたり飲んだりしたこともある。

 

官舎では、どうやら僕が一番年上のようで(おそらく子供が大きくなると官舎から出て、マンションや一戸建てに移るからだ)、子供の面倒をみたり、一緒に遊んだりすることが多くて、感覚的には施設にいる時とあまり変わらなかった。一緒に相手をしてくれたのは、休みの警察官だった。

 

いつもいるのは警察官だった。官舎は警察署と非常に近いこともあり、数週間もすれば僕はすっかり制服姿の警察官に見慣れてしまった。転校の手続きが終わったと彼に聞かされたのは、昨日のことである。今日から僕は、官舎から一番近いぶどうヶ丘学園の中等部に転校することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杜王町は東北地方にしては温暖で、あまり雪が降らないし、雪が一週間以上残っていることは少ない。晴れの日が多いから日中は暖かいけど夜になると急激に気温が下がってしまう。この寒暖の差によって生み出される濃霧の通学路は、一段と冷え切っていた。

 

吐き出される息は真っ白で、霧の中にきえていく。すっかり凍り付いている歩道を歩くより、踏み固められていない雪道を歩く方が安全なのはどこも同じようだ。さくさくと雪柱を踏みしめながら歩いていた僕は、ちりんちりんと軽快な音を立てて近付いてくる自転車のベルに思わず立ち止まる。

 

振り向くと霧の中でぼやけていた明かりがまっすぐこっちに向かってきた。おはようさん、としわがれた声が僕を呼ぶ。おはようございます、と返すと、初老の警察官が僕に会釈した。この人は夜勤明けのはずだから、今日は休みのはずだ。自転車から降りた巡査は、自転車を押しながら僕のところに歩いてくる。

 

 

「おうおう、今日から初登校か?わしの孫も中等部に通ってるからなあ、道はよく知ってるぞ。案内してやろう」

 

 

「大丈夫ですよ、転入試験を受けた時にあの人と一緒に道を確認しましたから」

 

 

「行きはよいよい、帰りは怖いっていうだろう。片桐がいつ現れるか分かったもんじゃあないんだ。どうせ送り迎えをしてもらう約束をしときながら、ちゃっかり内緒で出てきたんだろう。また犠牲者を出すのが嫌だから、一人でなあんて、いらない気遣いしなくていいんだよ。ちっとは大人を信用しろ」

 

 

帰ってきたら覚悟しろ、官舎のヤツラにドしかれされちまえ、と意地の悪い笑みが浮かんだ。夜勤明けの老体に鞭打って正解だった、まだまだわしは現役だと巡査は笑う。なんで分かったんだと問いかけたところで、刑事の勘だとどや顔で返ってくるに違いない。

 

僕は肩をすくめて観念することにした。東方巡査は僕がぶどうヶ丘中等部に転校することを進めた警察官だ。施設の子供が公立から私立に転校する前代未聞の提案には、ずいぶんと関係者のあいだで意見が分かれたらしいけど、僕に制服を提供してくれた蓮見っていう先人がいたからわりとすんなり話は通った。

 

僕が片桐から身を隠すなら同じ公立より私立の方が欺けるのは事実だ。それに期間限定の転校だ。養父が死んだことで司法に没収されていた彼の資産が僕に相続されたことも後押ししたことになる。資金面の問題が解決した時点で、ある程度の態度の軟化は予想できた。

 

東方巡査には僕より2つ上の孫がいるらしく、なにかと僕のことを気に掛けてくれた警察官でもある。同じ敷地内にある高等部に進学が決まっていると話に聞いている。東方は珍しい名字だ。どこかで会うこともあるかもしれない。僕を引き取ると名乗りを上げた人でもある。

 

さすがに家族がいる人間が僕を引き取るのはあまりにも危険だから即刻却下されたけど、東方巡査は最後まで渋っていた。世話焼きな性分なのだろう、わざわざ中等部まで同行しようとするくらいには。

 

 

「学生服に着られてるじゃあないか。わしの孫はこれくらいあるぞ、お前は小さいなあ」

 

 

けたけたと東方巡査は笑う。右手の位置からすると195センチくらいあるらしい。いくらなんでも盛りすぎだろう。成長期が過ぎたとはいえ、日本人でそこまで身長がある人間はなかなかいないだろうに。

 

高等部に進学した先人から譲ってもらった学生服は丈が長いが、成長期ならいちいち気にする必要はないだろう。すこし大きめの学生服をきているのは事実だから、なおさら身長が強調されるのかもしれない。僕は肩をすくめた。

 

 

「いいんですよ、これでも半年で5センチ伸びたんだ。まだまだ成長期だから伸びますよ。僕の父親は195センチあったらしいので」

 

 

もう顔さえおぼろげな母親の口癖のようにつぶやかれていた言葉のひとつだ。今となっては信憑性はまるでない。息をするように嘘をつく人だった。きっと僕にも下地としてその性質は受け継がれているに違いない。

 

そうかそうかと東方巡査は頷いた。絶対に信じていない目だ。今に見てろと思いつつ、僕らは誰もいない進学路を進んでいく。定年まじかの巡査とぶどうヶ丘中等部の学生という奇妙な組み合わせを訝しむ通行人は、今のところ一度もすれ違っていなかった。

 

 

「そういや、カッコいいブローチ付けてるじゃねえか。どうした、それ。前の制服じゃあ付けてなかったろ?」

 

 

東方巡査が指差したのは、僕の学生鞄や制服、結わえている髪、いたるところに付けているテントウムシをモチーフにしたアクセサリーのことだろう。胸ポケットに付けていた一つを外して僕は手のひらにのせた。

 

 

「施設長がくれたんですよ、お守りだって」

 

 

「テントウムシがお守りだ?」

 

 

僕は小さく笑った。施設に入ったばかりのころ、スタッフが読んでくれた絵本は宗教の逸話が題材にとられた絵本ばかりだったことを思い出す。聖書の一端や賛美歌くらいなら片手間で歌えるくらいの教養はある。施設をでてから日曜日のミサは無縁だ。

 

施設長の出身国ではテントウムシは宗教的な意味合いを含んでいる。昆虫は悪魔だと断じる人たちは、天国の席を予約しに行ってくれる、太陽に向かって飛ぶ神の使いだけは昆虫扱いしたくないから、特別扱いしている。

 

聖母マリアの使いなんて、仰々しい名前が施設長の国では付けられている。だからテントウムシモチーフのアクセサリをくれたのだろう、体にテントウムシがとまると幸せがやってくるらしいから。

 

僕の好きなジェフ・ベックを悪魔の音楽だからと許してくれなかった人たちの言葉をうのみにできるほど、僕は子供じゃない。まあ、いいじゃあないですか、と僕は東方巡査にいった。

 

 

「テントウムシはおてんとう様の虫です。幸福をよぶんですよ」

 

 

「目をつけられないようにしろよ。お前が通ってたところと違って、ぶどうヶ丘は素行が悪い奴らが多いからなあ。こっちにきたばっかの時は、大人しい格好だったってのに、ずいぶんと派手な格好になったな、おい」

 

 

「あんまり触らないでください。セットするの大変だったんですから」

 

 

「たあく、ガキが一人前に色ボケやがって。わしが若いころはみんな丸坊主だったってのに、野球やってるやつですら五分刈りにもしやがらねえ。つまらんなあ」

 

 

横着にも静電気をはらんだ手袋越しに、わしゃわしゃしようとしてくる老人に辟易しながら、僕はひたすら覚えたばかりの道を歩いていた。中学生は施設から月に5000円の小遣いをもらえる。今の僕は養父の遺産があるから、散髪屋から美容院に切り替えるくらいの経済的余裕がある。施設にいるときと官舎にいるときで振る舞いが違うのは当たり前だろう。

 

ただでさえ僕はイギリス人の父親の遺伝を後天的に受け継いだ、外国人のような外見をしている。日本人のような恰好をしているとかえって不自然だと、違和感しか感じないとクラスメイトや施設の仲間に言われ続けてきた。外国人の振る舞いを強いているのはあちらである。便乗してなにがわるいんだろう。

 

ブレザーだった前の学校はともかく、学生服をきっちり着込んだ僕は、保護者役の大人が肩を叩いて慰めの言葉をかけてくるほど絶望的に不似合なのだ。ぶどうヶ丘中等部は校則がゆるめだ。大丈夫だろう。

 

どいつもこいつもかわいげがないのう、と孫にも反抗期が来ているらしい心配性の老人がため息をついていた。おちゃらけている割に、時折この人は眼光が鋭くなる。伊達に30年以上警察官をしてきたわけではないのだろう。僕は自転車を止めた東方巡査に合わせて足を止めた。忠告に耳を傾ける。

 

 

「1998年の10月下旬から、お前の養父みたいな死に方しやがる奴が多すぎるんだよ、この街は。目と耳が内側から破壊されて死んじまう。病気か事故かとマスコミ連中は騒いでるが、わしらは犯罪とにらんどる。ナイフでトドメをさしたのはお前の養父だけだったからな。あれで味をしめたんだろうさ。死んだあとから内側を食い破られてたのはそいつだけだ。生きたまま食い破る方法でも思いついたんだろうさ、アンジェロをとっとと捕まえて吐かせねえとやばいことになる。頼むから捕まるような真似はしてくれるなよ」

 

 

「わかってますよ、約束だ。僕は死なない」

 

 

「そのわりに体張るような真似しやがるから困るんだ。頭も回るし、まわりのこともよく見てる。直観力や推理力はびっくりするくらいだってのに、なんだってそこだけ抜けてんだ、お前は」

 

 

東方巡査は呆れている。今さらだ、と僕は笑った。人を食ったような笑みをしやがって、かわいくねえなとぼやかれる。命の尊さを学んでこなかった子供が生命を生み出す能力に目覚めることの残酷さを知っているのは、きっと僕だけだ。

 

僕にとって命そのものはとても軽いんだ。路傍の石と変わらない。命が尊くて大切だと思うのは、僕が大切だと思っている人間だけに向けられるものだと14年間生きてきた中で僕は自覚している。

 

神様を信じる宗教によって設立された児童養護施設で生きてきたことで、それを自覚するのがあまりにも早かったのは幸福なのか不幸なのか僕には分からない。僕のこころもちなんてしらない東方巡査は、さあいくぞとふたたび歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずきいん、と首の付け根にある星形の痣がうずく。またか、と肩を抑えた僕は眉を寄せた。母親が唯一褒めてくれた痣だ。父親と同じ位置にあるというくだらない理由で、はしゃいでいた。まただ。

 

東方巡査と会うたびにこの痣がうずくのはどうしてだ。ざわざわしていて気持ち悪い。初めは気のせいかと思っていたが、こっちに引っ越してきてから違和感が顕著だ。時折ひどくうずくときがある。近くに何かがいることを警告しているようにずきずきするのだ。

 

しばらくじっとしているとなくなる。でも今回はずいぶんと反応がつよくなってきている。そのうずきの原因の距離や方角まで感覚的に分かる異質さは初めてだ。なんだろう、これ。

 

いつまでたっても歩こうとしない僕をみて、どうした?と心配そうに東方巡査が振り返る。すると、どごっという音がして、東方巡査のにぶい呻きが聞こえた。驚いて顔を上げると、かわいらしい布に包まれた箱が布製の袋から飛び出した。

 

どうやらお弁当箱らしい。東方巡査の脳天に直撃したそれは、自転車もろとも盛大に音を立ててひっくり返ってしまった。絶句して振り返った僕は、思わず硬直してしまった。見上げるほどの巨体が僕を見上げていた。

 

 

「こんのバカくそじじぃっ!」

 

 

耳をつんざく罵声が響き渡った。今にも死にそうな声で、じょうすけ?!という声が地を這っている。

 

 

「おふくろのこと、とやかくいえないじゃあねえか!朝っぱらから何してんだよ、おい!」

 

 

さっぱり事情がつかめない僕は立ち尽くすしかなかった。ただわかるのは。

 

 

「おい、そこのてめえもだ!うちのじじいになにしやがった、てめえ!警察官の癖に中学生に手を出すとか何考えてんだあっ!」

 

 

なにやら盛大に誤解されているということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方巡査が突然お弁当箱を投げつけてきた家族を、必死で仲裁しようとしているのだが、じじいは黙ってろの一点張りで取り付く島がない。じょうすけ、と東方巡査によばれた彼は、180センチくらいある中学生とは思えない体格に恵まれた青年だった。

 

3年間使い込まれた学生服は独自のアレンジがなされており、高等部に進学しても継続して愛用されることがうかがえる。制服の左袖にある♂マークと♀マークが組み合わされているイカリは、プリンスと呼ばれていた男が改名前に好んで使ったマークのはずだ。

 

洋楽が好きなのだろうか。リーゼントという典型的な不良の格好をしていなければ、その違和感は無かったに違いない。東方巡査の孫なら日本人だと思うのだが、ずいぶんと目鼻立ちが整っている。顔立ちや顔のパーツからして親近感がわくのは、どこか異なる国の雰囲気を持っているからだろう。

 

僕が後天的な変異をする前と同じ、ハーフ特有の黒髪とのミスマッチ感がどこか似ているからかもしれない。その額に浮いている青筋がなければ、もっと温厚に話ができたと思うのだが、残念だ。僕は日が昇り始めたことで、ゆるやかに解け始めたアイスバーンを踏みしめて、ゆっくりと後ずさりした。

 

転校初日からトラブルに巻き込まれるのは不本意だ。なぜ彼がここまで激高しているのか、さっぱりわからない。見当違いのとんでもない勘違いをしていることは分かったが、どうしてそういう結論に至ったのか、聞いてみようと思った矢先だった。

 

世間話程度の話題として、一言二言交わしたつもりだったのに、ぶちっという堪忍袋の緒が切れる音がしたのは、気のせいではなかったらしい。ちょっとこいよ、と人目につくのがいやなのか、彼は僕を裏路地に呼んだ。

 

 

僕は思わずテントウムシのブローチを手にしていた。彼の背後からスタンドが出現したのである。養父のもつ洋楽を模した人型のスタンドと系列が同じなのかはわからない。ただわかるのは、彼が敵意を持って僕に攻撃しようとしていることだけだった。頭部には数本のパイプが突き刺さっていて、身体のいたる所にハートマークがあしらわれたデザインが目を引いた。

 

 

「ラララララララァ!ドラアアアアッ!」

 

 

そこに躊躇は微塵もなかった。周りが見えなくなるほど逆上した彼は、容赦なくスタンド能力を見境なく発揮して、僕に殴り掛かってきたのである。無数の拳が僕に向かって繰り出された。そっちがその気なら僕も応戦せざるを得ない。

 

スタンドにはスタンドでしか対抗できないことは、半年前に嫌というほど学んでいる。生まれろ、生命よ、生まれろ。そして僕を守れ。僕と彼の間にイバラの防壁が生まれる。スタンドに絡みついたイバラが動きを拘束する。本体に動き回られても困るので、同様に拘束させてもらった。

 

僕を殺そうと悪意を持って攻撃してきたなら、あっけなく蔦はずたずたに破られるだろうが、純粋にぶんなぐろうとしただけらしいスタンドの動きなら辛うじて抑え込める。これが養父と彼の違いだ。あの時の死闘の影響か僕の作り出す生命は、ずいぶんと強靭で頑丈になったように思う。

 

瞬発力とスピードだけなら段違いで向上している。スタンドは成長するものだと僕は10年間この力との付き合いで学んできたから知っている。彼はスタンド同士で戦ったことがまだないのだろう。心の奥底では手加減をしているあたり、優しさが垣間見える青年である。

 

間髪で攻撃を防ぎ切った僕だったが、あまりの爆発力を伴ったパワーのごり押しに負けて後退せざるを得なくなる。さいわい僕のスタンドの方がスピードが上のようで、展開するのはこちらの方が早かった。まさか寸前に止められるとは思っていなかったらしく、スタンドと彼の瞳孔が大きく開かれる。

 

ほう、と一息。優しさが垣間見える分、なんで攻撃されるのか僕はさっぱりわからなかった。東方巡査に言わせれば、人当たりもよくて親しみやすく温厚な性分だと聞いていたのだが。

 

 

「落ち着いて、僕の話を聞いてくれませんか?僕は君と戦うつもりはない」

 

 

僕の言葉に肩を震わせた彼は、るせええ!と唾を飛ばして怒鳴りつけてきた。

 

 

「てめぇ、なあにけろっと自分は関係ありません、みたいな澄ました顔してやがんだ、ああんっ!?」

 

「だから話を聞いてくださいと言ってるでしょう?無駄なことは嫌いなんだ、何度も言わせないでください」

 

「今俺の頭のことなんつったぁぁ!けなしやがっただろうがぁ!俺はなあ、俺のグレートな髪型にケチ付ける野郎は、ぶちのめすって決めてんだよォ!お前が何モンだろうとぜって、ゆるさねえー!お前がなんだろうが関係あるかぁ!」

 

「は?」

 

「コンのやろぉ!鼻で笑いやがったな、ごらぁ!」

 

「……僕はただ、君より僕の髪の方が整っているなといっただけだ。このあたりではその髪型がまだ流行っているのかと確認しただけじゃあないですか。悪気があっていったわけじゃあない」

 

「だあれの頭が絶滅危惧種だってえ!?遠回しに古くせえっつってんじゃねえっ!」

 

 

植物がスタンドによって弾き飛ばされてしまった。そして、なぜか煽りに煽る結果となってしまった彼の猛攻が開始されることになる。僕のスタンドは射程範囲が2メートルが限界の近距離タイプであるにも関わらず、パワーは遥かに彼に劣っている。

 

実体を伴わないスタンドである以上、純粋な殴りあいに持ち込むことは不可能だ。体格的に考えても170をぎりぎりこえたばかりの僕の細身な体では、純粋な殴りあいなんてかないっこない。パワー負けするのは目に見えている。隆々とした肉体を持つ人型のスタンドはまっすぐに僕に向かって突撃してくるのだ。

 

たまったものではなかった。ラッシュしてくる拳。威力を高めるために叫ばれる咆哮は彼の怒りをあらわにしているようだった。これ以上はぼくも受けきれない。本気を出すことは気が進まないのだが。僕は彼の射程から逃げるために飛びのいた。

 

 

「忠告はさせてもらいますよ。これ以上、僕に攻撃は加えない方がいい。特に体は、絶対に攻撃しないでください。2度はいわせないでくださいよ」

 

 

防戦一方にしても仕切り直しは必要だろう。彼のスタンドは僕にしか見えていないあたり、あの人の本と同じだ。でも僕が生命を注ぎ込む対象である物質は誰もが目に出来るモノであるためか、僕が育む命は誰もが目にする。目立つのは間違いなく僕の方だ。

 

これが朝方で良かったと今さらのように僕は思う。大きく振りかぶってくるスタンドを間髪でさけた僕の視界が一気に上昇する。冬の間は植物の成長速度が格段に悪くなる。春から夏にかけてならもっとイキイキとしているのだが、バランスを保つには虚弱だ。

 

移動するだけなら十分だ。ぐおん、と行き場をなくしたスタンドの強烈な一撃が大木に叩き込まれた。それと同時に崩れ落ちる彼に僕はため息をついた。

 

 

「1度でいいことを2度いわなけりゃいけないってことは、そいつは頭がわるいんだ。何度も言わせないでくださいよ。言ったでしょう?僕に攻撃しないでくださいと。何もしなけりゃ無害なんだ。こいつは自分の意志を持っている生き物なんだ。自分で考えて生きている。そいつに危害を加えたから、アンタは危害を被った。それだけだ」

 

 

雪玉でもぶっかければ頭が冷えるだろうか、と思いながら、僕は彼を見下ろした。舌打ちをしながら彼はうめいた。ご自慢の髪形がずいぶんと変わってしまったようだ。セットするのも大変だろう。

 

木々は生い茂り、季節外れの花が咲く。目立つのは嫌いだ。さっさと枯れてしまえ、と僕は過剰に生命エネルギーを足場に注ぎ込む。枯れ木は石になればいい。何事もなかったかのように雪道の通学路には、やたら綺麗な石が残る。

 

 

「だからやめろっていったんだ。こいつは僕に忠実で、アンタの攻撃はそのままアンタに返って来るんだ。もうやめてくれません?命取りになりますよ?」

 

 

一瞬僕を見失ったらしい彼は、あわててあたりを見渡している。そして影が伸びていることに気付いて、まぶしそうに僕を見上げた。ぐらり、と足場が揺らいだのは僕の予想以上に枯れ木がしおれ始めたからではない。なんだ、これは。みるみるうちに質量を失っていく木々は圧縮されていく。

 

僕は校舎の塀に飛び乗った。真っ白な通学路に真っ黒な石ころがしみのように転がっている。僕はあまりの衝撃に動揺を隠しきれない。僕はまだ死ねとまでは命じていないのに。元に戻ってしまった。僕が生み出した生命が元に戻ってしまったのだ。ただの石ころに戻ってしまったのだ。

 

唯一の違いといえば、彼の人型のスタンドにぶん殴られたことだけだ。どうやら彼のスタンドはものを直す力があるらしい。まいったな、これじゃあ時間稼ぎができないじゃあないか。いくら僕が攻撃したところで自分で自分のケガを回復されてしまっては意味がない。

 

僕のスタンドはあの人や養父、彼のように実体を伴っていないのだ。一考しないとあまりにも相性が悪すぎる。僕は彼を注視することにした。さいわい彼はここまで登ってくる手段がない。しかし、数分経ったが、彼は立ち上がる素振りをみせない。

 

 

「もしかして、君のスタンドは自分のケガは治せないんですか?」

 

「……ああ、スタンドってのがこいつのことならそうだぜ。オレは自分のスタンドで自分のケガは治せない。くっそ、だいぶん効いたぜ」

 

 

声色が大分落ち着いてきている。どうやら冷静になったらしい。僕はテントウムシのブローチを植物に変えて、そのまま彼の前に降りた。

 

 

「そういえば、まだ名前を名乗っていませんでしたね。僕はジョルノと呼んでください。××(今の保護者の苗字だ)ジョルノです。今日からぶどうヶ丘中等部に転校する1年です」

 

「……まじかよ、中等部?てっきり俺くらいかと思ったぜ。外人は大人びてんのな。おれは東方仗助っつーんだがよぉ、3年だ。いや、なんつーかよ、俺も悪かった」

 

「はい、僕も悪気はなかったんですけど、すいません」

 

「ジョルノっていったか、おまえなぁ、そういうところが……」

 

「老け顔で悪かったですね」

 

「あー、いや、なんでもねえ。頭のことになると、我を忘れちまうっつーかあ、なんでだろうなぁ、はは」

 

 

バツ悪そうに頭を掻いた彼は、急所に打ち込もうとした渾身の一撃を、勝利を確信して無防備だったところに叩き込まれたわけだから、こんな状態になるのも無理は無かった。常人なら死んでるはずだ。スタンド使いの所以たるや。恐ろしいものだ。

 

 

「つーかよぉ、コロネのお前にだけはいわれたくねえぜ」

 

 

僕は微笑んだ。

 

 

「アナフィラキシーってご存知ですか?あれってハチだけじゃないんだ」

 

「冗談だよ。つーか植物だけじゃないのか、お前が造れるの」

 

「今は冬じゃあないですか。冬眠したり、寿命が尽きたり、動きが鈍かったりするからだめなんですよ。春になったらカエルとかカメとか作りたいんですけどね」

 

「カメは止めろ」

 

 

爬虫類は苦手らしい彼は、今が冬で良かったと心底安心したように笑った。

 

 

「ところで、どうして僕と東方巡査に怒ってたんです?」

 

「あー、ありゃじいちゃんが悪いんだ。去年の10月くらいから、あからさまにおかしかったからよォ。若いねーちゃんが好きそうなデザートをひっきりなしに買ってきたり、テイクアウトの差し入れを職場に持って行きだしたトコから怪しかったんだ。2月に入ってからは召集かけられたわけでもないのに帰りが遅かったり、早番でもないのに出勤が早かったりしたからなぁ」

 

「……それはすいませんでした。まさか僕のことをあの人が話していないとは思わなかったもので」

 

「昔っからじいちゃんは仕事の話はしないからな」

 

「東方巡査は僕が3か月ほど入院してたときに、よくお見舞いにきてくれたんですよ。僕がこのあたりに引っ越してきたのは2月なんです。ちょっとストーカーに狙われてまして。巡回のついでによくご一緒させてもらってたんです。そうか、東方巡査ってもてるんですね。50代ですよね?」

 

「ちげえよ、気持ち悪いこというもんじゃあないぜ。ただの枯れたじじいだ。おふくろが60代の爺さんに惚れて今の俺がいるんだ。他の女だってほっとかないかもしれないって、おふくろが考えるのも無理ないんだよ。あれでも結構男前だからな、じいちゃんは」

 

「ああ、なるほど。なんかすいませんでした」

 

 

かまわねーよと東方仗助は笑う。ふらふらの足取りで立ち上がる。お弁当を元に戻さなくてはいけないとぼやいている。もうスタンドの姿は無い。僕は追いかけてきた東方巡査にどう説明したものかと頭を悩ませることになったのだった。

 

 

「それよりジョルノ、そろそろスタンド引っ込めてくれねえか?殺気がみなぎってて怖いんだけどよぉ」

 

「なにを言ってるんです?僕のスタンドは人型じゃあありませんよ?」

 

「は?本気で言ってんのかよ、俺のスタンドは見えてるのに?ほら、悲しそうな顔してるじゃねえか。冗談でもそんなこというもんじゃあねえぜ?」

 

 

彼に言われて振り返る。今まで気配を感じるだけだった亡霊が、ほんの少しだけ輪郭がわかる程度のヴィジョンとして写っているのが見えた。とはいっても、具体的な造形はもっぱら彼だよりになるのだけれど。黄金色のテントウムシがモチーフとなっているらしい人型のスタンドが、どうやら僕のスタンドのビジョンらしい。

 

僕を優しく抱きしめている半透明の腕の持ち主は、彼が言葉を交わすたびに攻撃を仕掛けようと殺気をみなぎらせているらしい。輪郭を視線でなぞれば、細い腕がある気がする。見えてるわけではない。

 

彼曰く温かく包み込むようによりそっているスタンド。なんだそれは。それじゃあまるで。その先は僕は紡げなかった。11年間共にいたスタンドを誰かと重ねるなんて滑稽なことがあっていいわけがない。

 

 

「仗助は僕の敵じゃあない。だから戻るんだ」

 

 

名残惜しそうに、黄金色の風が僕の頬をなぜる。気配が散見した。

 

 

「2つも下なのに呼び捨てたあいい度胸じゃねえか」

 

 

納得いかなさそうな仗助に僕は笑った。

 

 

「外国ではファーストネームが普通なんですよ」

 

「そういやずいぶんと日本語が上手だな、ジョルノは」

 

 

生まれも育ちも日本だし、苗字は違うし、僕の本名はハルノだけど、いちいち説明するのが面倒で僕は勘違いを訂正することはなかった。東方巡査が僕のことを話していないのなら、余計なことを言ってアンジェロの件に巻き込むわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仗助、アンタ今日どっか出掛ける予定あったっけ?」

 

「んー?あー、今日はべっつにこれといった予定はねえけどよー、それが?」

 

「あたし、今日は新年会の集まりがあってねえ、帰ってくるのが遅いのよ。父さんも今日は夜勤で遅いみたいだし?アンタのためだけにご飯作っとくのも面倒だから、何か適当に買ってきてくれる?」

 

「別にかまわねーけどよぉー、今月の小遣い使っちまったから、もう金ないぜ?」

 

「そんなこったろうと思ったわよ、全く。お金なら渡すわ、はい、これ。カメユーの惣菜でいいから、適当につくろっといて。よろしくね」

 

「そんぐれーならかまわねえけどさ、おつりはどーすんだよ?」

 

「それくらいお駄賃にあげるわよ」

 

「よっしゃ、やりい。なんか喰いたいもんあっかな、じーちゃん」

 

「さあねえ、夜勤だから適当にすませて帰ってくんじゃあないかしら?あんたに任せるわよ。じゃあね、行ってくるわ」

 

 

おう、いってらっしゃい、とひらひら手を振ってお袋を見届けたオレは、くあ、と大きく欠伸をして、今にも折れちまいそうな音を立てる首を回した。昨日の帰りに取りに行ったばかりの予約していたカセットは、ゲーム機に刺さりっぱなしだ。

 

朝飯、昼飯を食べる以外はずーっとリビングのテレビとソファを独占してぶっ続けでやりっぱなしだからか、ずいぶんとゲーム機が熱を持っている。これはちょっと冷やしてやった方がいいかもしれねえな。

 

大変お気の毒ですがセーブはお亡くなりになりましたっていうトラウマBGMを流されちゃあ、12時間のプレイ時間が台無しだ。今日は早く寝ろとせっついてくる爺ちゃんの時代劇にテレビを占領されないとなれば、早く晩飯を買いに行った方がいいに決まってる。

 

シナリオ的に佳境に入ったことだし、すっかり充血しちまってる目を休ませるのもいい頃合だろう。カセットをゲーム機にさしっぱなしにして、踏んづけないように所定の位置に戻したオレは、おふくろが残していったお札を財布に入れて出掛ける準備を始めた。

 

よっしゃ、やりい、万札じゃあねえか。手持無沙汰だったのか、ずいぶんと太っ腹な出費だ。これは安い惣菜を適当に買い集めて、残りの取り分を大きくした方が臨時収入も大きくなるってもんだぜ。これなら来月まで我慢しなきゃいけねーかなあ、とがっくりきていた新作のゲームも手に入るって寸法よ、やったね。思わぬ臨時収入に上機嫌になったオレは、さっそくカメユーに出掛けることにした。

 

 

社王町駅前にある東日本最大のチェーンデパートにやって来たオレは、食品売り場に直行すると適当にカゴの中に好きなものを放り込む。ありがとうございましたー、と営業スマイルなパートのおばちゃんを通過したオレは、カメユーとプリントされた袋をひっさげてデパートを後にした。

 

さあてどうすっかなあ、せっかく懐があったけえってのに、お札を崩さないといけないっていうのは、無性に無駄な出費になっちまう気がして困る。タクシーが楽だけど高いんだよなぁ、というわけで結局オレはいつもの通学路に使ってるバス停に直行した。

 

3番のバス亭に並ぶことにする。持っててよかった定期券。こういう時は学生っていいもんだぜ。休日と平日は時間編成が微妙に違うもんだから注意しないといけないとはいえ、中学校3年間通い続けた通学路だ。さすがにバスが来る時間なんて感覚的に分かってるもんだ。オレが並び始めて間もなく定禅寺行きのバスがやって来た。よっしゃ、どんぴしゃ。

 

 

サラリーマンやOLの姉ちゃん、買い物帰りの婆ちゃんたちにまぎれて、そそくさと乗り込んだオレは、たまたま開いていた席に乗り込んだ。どさっと足元に買い物袋をおいたオレは外を眺めることにする。たちっぱなしは地味にきついから助かったぜ。

 

しばらくするとバスは走り始めた。社王町を象徴する並木道は、イベントの会場になることも多い道路だから、歩道が広々と整備されてて歩きやすい。散策しながら帰るにはもってこいの場所だ。北に延びている駅前通りを進んでいくと、この並木道はS市の真ん中から杜王町を東西に貫いている定禅寺通りにさしかかる。

 

そこをまっすぐに通って西公園通りを走ると広瀬川を渡る。そうすっとオレが住んでる住宅地が見えてくる。さあてついでに買った攻略本でも読むかねとビニル袋を探ったオレは、素知らぬ顔で集中し始めた。

 

しばらくバスに揺られていると、ぴんぽんと下車を知らせるベルが鳴る。何度目になるか分からない停車。ちらと先頭の電光掲示板を見上げると、これからある春先のイベント情報が流れていく。えーっといまどのへんだ?降りて行った人たちと入れ替わりで、同じくらいの人数が乗ってくる。

 

ようやく今いるバス停の名前が表示されて、ネクストが表示された。まだまだ先だな、と時間を確認したところでずいぶんと目立つ金髪が目に入る。どこか空いてないかと視線が泳いでいた。美術室に飾ってある石像がしれっとした顔で服を着て歩いているのはずいぶんと人目を引くもんだなあ。

 

 

「よう、ジョルノ」

 

 

突然名前を呼ばれて驚いたのか、びくっと大げさに肩を揺らした後輩は、こっちだこっち、と軽く呼ぶとオレを確認して、ほっとした様子で顔をほころばせた。なんだってそこまでビビってんだ、こいつ。

 

私服であうのはお互い初めてとはいえ、こいつのコロネ三連結はそうそう見間違うもんじゃあねえ。三つ編みでテントウムシの髪留めで結い上げてあるとなれば、間違いなく外人の後輩しかない。まあグレートな髪形をしてるオレも一発でわかるのは同じだけどな、あはは。

 

どっかに出掛ける途中らしいジョルノは、オレの近くに寄ってきた。もう座る席がねえからたちっぱだな、こりゃ。

 

 

「あれ、仗助じゃあないですか。どうしたんです、どっかにお出かけですか?」

 

「オレか?オレはお袋に買い物頼まれちまってよぉ、もうカメユーで済ませたところだぜ。今から帰るとこなんだ。そういうお前こそなにしてんだ?」

 

 

ほら、とカメユーの袋をぶら下げると、このバスが通学路なんですねとジョルノは笑った。

 

 

「ちょっと調べものですよ、図書館で本を借りてきた帰りなんです」

 

「図書館だあ?勉強かなんかかよ、真面目だねえ、お前。なんだってせっかくの休日をわざわざ図書館で過ごさなきゃなんねーんだか。なに借りたんだ?」

 

「たいしたものじゃあないですよ」

 

 

見せてくれたのは、ずいぶんとファンタジィ趣味な題名ばっかりだ。小学生以下の子供が読みそうな絵本とか、ヨーロッパの翻訳された童謡とか、とりあえず題材はぜんぶ同じだ。ヴァンパイア。吸血鬼。なんだそりゃ。

 

中学生の男子が読むような本じゃない。えー、意外とお前そういう趣味なわけ、と笑ってやるとジョルノはしれっとした顔で笑いやがる。

 

 

「僕の知ってる話を捜したら、こういうのしかなかったんですよ」

 

 

原文で書かれた吸血鬼の話をみせられて、うへえとオレはげんなりした。つまりこの英文で書かれた吸血鬼の話を元ネタに書かれた日本語のファンタジー小説を片っ端から借りてるわけか、こいつ。

 

なるほど、ジョルノは外人だもんな。日本語で書かれた祖国の伝承とか気になっちゃうお年頃なわけだ。それはわかった。言いたいことはわかった。でもなんで英語で書かれたファンタジーを見せられなきゃなんねーんだよ、とあからさまに嫌がって見せると、ジョルノは何がおかしいのか声を上げて笑った。

 

吸血鬼の伝承を考察してる論文とかまで借りちゃってるのをみるとさすがに引くぞ、どんな中学生だよ。茶化しながら指摘するとジョルノは表情を落っことして、ぞっとするような真顔で返してきたから、返答に困ってしまった。

 

僕にとっては大事なことなんですよ、君にとやかく言われる筋合いはありませんよね、っていきなり突き放すようなことを言われてしまうと、どっかで地雷を踏んだんだろうなあとは思うけど、さっぱり分からん。なんでそこでマジ切れするんだよとちょっと焦ると、まあ嘘ですけど、としれっと笑いやがった。なんだこいつ。

 

とりあえずおちょくられてるのはわかったので、一発お見舞いしてやった。いきなりはなしですよ、いきなりはって生意気な後輩はその場に沈んだ。

 

 

しばらくして復活したジョルノは、ちらりと電光掲示板に目を走らせる。そう言えば、図書館の帰りってことは、これからジョルノも家に帰るってことだ。この路線沿いに家があるってことだよな。なんだよ、通学路同じなのか、知らなかったぜ。

 

もしかして、案外家が近かったりしてな。ちなみにオレはジョルノが通学してるところを見たのは転校初日の一日だけだ。いつだってこいつは保護者の兄ちゃんに車で送り迎えしてもらってる。本人曰く厄介なストーカーに付き纏われているせいで、学校や住んでいる場所まで変えなきゃいけなくなっちまったらしい。

 

おかげで部活もアルバイトも出来ないと辟易している様子のジョルノは、放課後のチャイムがなると速攻で帰ってしまうらしい。あわただしく校門を走っていく金髪は3年の教室からもよく見えるから噂はかねがねってところだ。転校初日に保護者の兄ちゃんに内緒で一人で行動したことがよっぽど響いてるらしい。まあ、自業自得だな。

 

ぶっちゃけこいつの場合、そこまで過保護にならなくったって、スタンドがあるからそのストーカーってやつもぶっ飛ばせる気がするんだけど、それは大人の事情ってやつなんだろう。詳しい話は何も教えてもらってないが、ジョルノはもともとあんまり自分のことは話さない。

 

 

「お、もうそろそろか?」

 

「そうですね、僕は次のバス停で降ります」

 

「へえ、ここらへんに住んでんのか、ジョルノって」

 

「………いえ、僕は大手町のあたりなので、もっと先ですね。これからちょっと寄る所があるんですよ。じゃあ、失礼しますね」

 

「へえ、大手町か。川を越えた先の住宅地がオレんちなんだよ。案外近いんだなあ」

 

「そうなんですか?ああ、だから東方巡査は……。そうだ、今日ここであったことは内緒にしてもらえませんか?実はこっそり出かけてるんですよ。みんなの気持ちは有難いんですけど、ずっとこの調子だと窮屈でしかたなくて」

 

「おいおい、まーた怒られるんじゃねえのかよ、大丈夫かぁ?何の用事かは知らねえけど、はやく帰れよ?」

 

「分かってますよ」

 

 

じゃあ、また月曜日に学校でってジョルノはそのまま鞄を片手に降りてしまった。またなーって手を振ってるオレに気付いたのか、軽く頭を下げたジョルノは、きょろきょろとあたりを見渡して誰かを捜してるみたいだった。友達と遊ぶ約束でもしてんのか?

 

降りる人間は少ないエリアだからか、あっという間に人の入れ替えは終わってしまい、バスの扉が閉められる。アナウンスが流れ始めて、バスは出発してしまった。ジョルノはようやく目的の人間を見つけたらしく、ゆっくりと歩みを始める。同じ年くらいの男子生徒だ。

 

あの制服はたしか結構金持ちの中学校の制服だった気がする。ジョルノがどっから転校してきたのかまではさすがに知らなかったこの時のオレは、転校前の仲のいい友達との再会を喜んでんのかと呑気に自己完結して、攻略本をよむ作業に戻ったのだった。

 

バス停から降りて、いつもの通学路を通って家に帰ってきたオレは、ぶっ通しでゲームをしていた。もちろんジョルノのことなんかすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

保護者の兄ちゃんから電話がかかってきたのは、その日の夕方のことだ。ジョルノが家に帰ってないんだけど、行方が分からない。なにか知らないかと電話が入った。もちろんよぎるのは昼間の出来事だ。どんだけ過保護なんだよ、この兄ちゃん、と思いつつ、オレは知らないっすねーとジョルノとの約束を守る方向でしれっと嘘をついた。

 

なんか思い出したら連絡するっすよ、と約束だけ取り付けて、受話器を置いた。ちょうどスタッフロールがおわったゲーム画面が目に入る。最速クリアを達成した高揚感と前の日から徹夜でゲームをしていたことで、妙なテンションになっていたのは事実だ。

 

こういうとき、無性に自慢したくなるのはゲーマーの性ってやつだ。ダイヤルを叩いて友達に長電話を決行しようとしたんだけど、何度か前科があるせいでろくに話を聞いてくれない。面白くねえなあ。あらかた友達の電話番号を並べ終えてしまったオレは、ちょっと意地になっていた。

 

どうすっかなあ、と思った時、またジョルノの保護者の兄ちゃんから電話がかかってきた。今度こそ、いよいよ狼狽しているのがわかる。この兄ちゃんとジョルノの関係まではしらないけど、親類なんだろう、全然似てないけど。さすがにこうも何度も電話を掛けられると困ってしまう。うぜえなあもう。

 

こっちのイライラなんかお構いなし。3度目の電話がかかって来た時には、どうやら爺ちゃんにまで連絡が行ってしまったらしく、ジョルノを捜してくれと頼まれてしまった。はああああ?なんで中学生が夕方家に帰らないくらいで捜索届を出すくらい大騒ぎしてんだよ、こいつら。

 

さすがにここまで来ると、事情を聞かないと動く気になんかなれっこない。そう思って興味本位で詳細を問いただしたオレは、ジョルノがおかれていた状況があまりにもぶっ飛んでいて閉口せざるを得なくなる。受話器をおいたオレは、青ざめていた。バス停に向かうことになったのは、いうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1994年(平成6年)て言やあ、オレはまだ10歳だから、小学4年生だったころの話だ。地元の小学校は自由登校だったってのに、その年からどういう訳か保護者同伴の集団登校になっちまって、ずいぶんとメンドクサイことになった覚えがある。

 

今までだったら遅刻すれすれまで家でだらだらしてたのに、決まった時間にお袋と一緒に集合場所まで行かないといけなくなったから、さっさと準備しろって発破かけられる日が続いた。

 

放課後なんて一緒に帰る友達がいないと先生から苦い顔をされたし、4時と5時の下校時間帯が決まっていて、その時間帯を過ぎると次の時間帯まで勝手に下校することができなくなっちまった。低学年はたいてい4時に帰る。高学年は5時や6時にみんなでまとまって帰るのがそのうち習慣化した。

 

近所の人たちや保護者たちが見守り隊なんてのを結成して、横断歩道や人目の付きにくいところに立ってるのが当たり前になった。どうせ一時的なもんだろうと気楽に考えていたら、結局オレが卒業するまでその奇妙な方向転換は続いたように思う。

 

時々通ってた小学校の下校時刻にかち合うと、ランドセル背負った小学生が集団下校をしながら、さよーならなんて笑顔で歩いていくのが目につくときがある。どうやら集団登校だけじゃなくて、集団下校まであたりまえになっちまったらしい。

 

なんだって自由に友達と帰ることができなくなっちまったんだろう、と思ったもんだったが、まさか5年ごしのその疑問が解決するたあ、思わなかった。

 

 

ジョルノの保護者の兄ちゃんが重い口を開いたのは、ちょうど小学生の下校時刻を告げるチャイムの音がオレの家まで響いてくる夕暮れ時のことだ。片桐安十郎、通称アンジェロという極悪非道な殺人鬼がジョルノを狙っているというぶっ飛んだ事実を聞かされたオレは、もちろん理由を聞いた。

 

日本犯罪史において破られることがないと思われた犠牲者の数を現在進行形で更新し続けている連続殺人犯。ニュースで死刑囚が脱獄したと連日報道されてるのを、苦い顔をして爺ちゃんが見ていたから名前だけは知ってる。

 

1964年生まれのこの男は、この杜王町で生まれ育ったらしく、目撃情報や監視カメラの映像から、実はこの町のどこかに潜伏している可能性が高いことを知らされた。なんだって爺ちゃんがジョルノにあんだけ入れ込むのかといえば、理由は簡単だ。

 

アンジェロの初犯は12歳、小学校6年生つー筋金入りの悪党だ。当時は少年法の関係で未成年は逮捕もされないし、実名報道もされないけど、それすら生ぬるいと言わしめるほどの重大犯罪をやらかしたアンジェロを補導して施設送りにしたのは、他ならぬ爺ちゃんだった。

 

これで品行方正な人間に生まれ変わればよかったけど、実際は20年間を刑務所と犯罪のどっちかで過ごすとんでもねえ人生を送りやがった。日本全国を転々としながら、あらゆる犯罪に手を染めるどうしようもない、胸糞悪い野郎になっちまった。

 

そして、1994年の3月、S市内の子供たちが集団登校を強いられることになった事件をこいつは起こしやがった、というわけだ。

 

 

1994年3月、3人の中学生たちを誘拐したアンジェロは、そのうち2人を口に言うのも憚られるような所業で惨殺して、金品を奪う。そして、3人目の少年を殺害した後に、その親が金持ちであると知ってから、身代金誘拐に見せかけて両親に電話を掛けるという悪魔のような行動を起こしやがった。

 

身代金を受け取るときに逮捕されたアンジェロは、犯行を自供したものの、バラバラにされた3人目の少年の遺体はまだ見つかってないらしい。このアンジェロも逮捕されるまでには、いろんな騒動を起こしたらしく、そのさなかに警察官の一人が刺殺されている。

 

 

「同僚だったんだ。正義感の強い、いいやつだったのに」

 

 

5年前の事件だというのに記憶が風化しないのは、きっと初めて担当した事件だったからだろうとぼやいた兄ちゃんの声は、今にも泣きそうな位震えていた。ジョルノの保護者役をかって出たのは、その罪滅ぼしでもあるんだと懺悔室にいるみたいに告白は続いた。

 

 

「私たちが悪いんだ。あの時、あの男を殺していれば、あの子はバカげた妄想に囚われることなんてなかったのに」

 

 

引き金を引けなかったことを後悔するように、苦悶の声は受話器越しに震えていた。1998年10月、絞首刑が執行されたアンジェロは、20分間生き続けるという異常事態に見舞われて、死刑執行が延期された。

 

その翌週、ある男と共に脱獄して今に至る。ここまで話されたオレは、嫌な予感がした。ジョルノは3か月ほど入院してたと言ってなかったか。沈黙するオレに、お察しの通りだよと兄ちゃんは苦笑いする。

 

 

「10年前に実の母親とその恋人である男から虐待とネグレクトを受けていたあの子は、戸籍すらもらえない瀕死の状態で保護されたんだ。それに加えて、その恋人はベビーシッターの女性を殺害してる上に、数えきれないほどの犯罪に手を染めてたもんだから、そいつも服役してたんだ。アンジェロと同じ監獄に。そして、脱走した。去年の10月21日、あの子は誘拐されそうになったんだ。そのせいで、今みたいに送迎してた児童養護施設のスタッフを目の前で殺された。その時のショックで、あの子は養父を殺したのは自分だという捏造した記憶に苦しんでいるんだ。本当は共犯であるアンジェロに刺殺されたんだ。何度言っても話を聞いてくれない。仗助君だったよな?仲良くしてくれてることはあの子から何度も聞いてるんだ。これからも仲良くしてやってほしい。そして、これは友達である君にしかできないお願いだ。絶対に一人にならないでくれと伝えてくれないか?」

 

 

オレが青ざめるのは時間の問題だった。あわてて今日の昼ごろ、図書館帰りのジョルノとバスの中であって、途中下車したことを白状したオレに、やっぱりそうかと中堅警察官はためいきをついた。刑事の勘は敵に回すといいことないぜ。

 

他に気になることはないかと告げられたオレは、ジョルノが中学生のトモダチと会ってたみたいだとバス亭での光景を思い出しながら告げると、それはありえないと断言されてしまった。

 

ジョルノがぶどうヶ丘学園の中等部に転校したことは、前通っていた公立の中学校には伝えていないし、その危険性はジョルノが一番知っているからありえない。その中学校の名前を告げられたオレは、悪寒に背筋を凍らせた。オレが見た金持ち中学校とは全く違う名前だったからだ。

 

じゃあ誰だ。あのバス停でジョルノと会ってた中学生は誰だ。オレがその中学生の着ていた制服を必死に思い出しながら告げると、絶句する警官の声がする。そんな馬鹿な、ありえない、と今にも崩れ落ちそうな声が聞こえてくる。辛うじて聞き取れたのは、その制服を着ている中学生は、この世に存在しているはずがないということだった。

 

 

「5年前の事件のせいで、風評被害を恐れた中学校側が設立50周年という名目で、制服のデザインを男子生徒も女子生徒も大きく変更しているんだ。私立の学校だから定期的にデザインを変更しているものだが、5年前のあの日からあそこの中学校は一度もブレザーを採用していないんだよ」

 

「じゃ、じゃあ、ジョルノが逢ってたのって、誰なんだよ」

 

「わからない。でも、あの子がそのバス停で降りたのは、多分アンジェロの事件について調べるつもりだったんだろう。すぐ近くにある公園の森の奥が3人の少年たちが犠牲になった事件現場なんだ。ありがとう、仗助君。あの子の居場所がわかった。これからそっちに急行するから、君は家にいるんだ」

 

「ば、ばっかやろー!ダチが危ない目にあってるってのに、そんなことできるか!」

 

「君のいうことはわかるよ。でもアンジェロは連続殺人犯なんだ。君はまだ中学生だろう、無茶をするもんじゃあない」

 

「うるせえ!」

 

 

あ、ちょ、おい、という制止の言葉すらイラついて、乱暴に受話器を置いたオレは、うちを飛び出した。時計を見たら、ジョルノが降りた停留所に向かうバスの発車時刻が迫っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレがバスに飛び乗った時にはすでに傾き始めていた太陽は、一人で停留所に降りたころにはすっかり西側の高層ビル群に沈んでいた。青色や紫色が溶けるように消えていき、赤色や黄色が散乱しはじめる。

 

空も山も川も道路も森もすべて真っ赤に染めていく夕焼け空は、薄く広げた雲がぼんやりと灰色がかった赤色に染まっていた。ジョルノのことを見かけなかったか、と通りがかりの人に声を掛けてみる。

 

やっぱりコロネに三つ編みのポニーテール、そしてテントウムシのアクセサリを付けた学ランはとっても印象にのこるらしい。何人かに話を聞いてみると、すぐに目撃情報は集まった。あっちにいった、こっちにいった、とこの辺りに詳しくないオレに、わざわざ指差しして説明してくれる人もいる。

 

警部の兄ちゃんをそれとなく待ってみたけど、やっぱり来ない。じれったくなって、オレは一足先にジョルノを捜しに行くことにした。戻ってこないという不穏な情報まで得ちまったのは誤算だった。ジョルノはアンジェロの事件の舞台になった公園を目指して出掛けたらしい。

 

不気味なのは、誰もいなかったことだ。誰かって?オレが目撃したジョルノと一緒にいた中学生のことに触れてくれる人のことだよ。

 

 

どんどん伸びていく黒い影がオレを追い越していく。部活帰りの学生たちの話し声が遠い。通学路からわざとらしく外されている歩道は、近所の人たちからも倦厭されているらしく、人通りが極端になくなった。

 

どうやらアンジェロが脱走したニュースのせいで、5年前の悪夢を思い出す人たちは自然と憩いの場を避ける傾向にあるらしい。不審者注意の古ぼけた看板。今にも真っ暗になりそうな、ちかちかしている蛍光灯。むらがる小さな虫たち。薄暗い公園。真っ黒な森は人通りがあってもわからない。

 

ろくに整備されていない、雑草が生え放題の路地を曲がれば、それこそ公衆トイレのあたりは格好の死角になっている。こりゃあ、確かに近付きたくねえよなあ、不気味なことこの上ない。想像を絶するスポットにちょっとだけびくびくしながら、オレは先に進んでいった。

 

警部の兄ちゃんが言ってた事件現場はこの先にあるはずだ。しっかし、雰囲気あるなあ、もしここで肝試しがあるならこの上ないスポットだろうぜ。真っ黒な髪の長い女が立っていたら、それこそちびっちまう自信がある。あちこちに潜む闇が余計にこっちの不安を掻き立てる。

 

どうでもいいことを考えながら、オレは先に進んでいった。ジョルノのやつも勇気あるぜ、よくこんなとここようと思うもんだ。昼だっていやだぜ、こんなとこ。

 

空を見上げれば、一番星が見えていた。気付けば、すっかり日が落ちて、あたりは文字通り真っ暗になっていた。おーい、ジョルノ、と叫んだものの、森に吸い込まれてしまう。まあ聞こえる訳ねえか、と苦笑いしたオレが前をみると、薄い光の下に誰かいる。

 

 

「………っ!?」

 

 

思わず足が止まっちまう。びくっとして後ずさりしたオレは、ジョルノ曰くスタンドを呼び出すことにする。幽霊にスタンドが有効なのかはしらないけど、いないよりはましだろ、ずっと。オレの傍らで警戒しているスタンドをみると、ちょっとだけ安心するってもんだ。

 

もう一度前をみると、そこにはしゃがみ込んで泣いている女の子がいた。えぐえぐ嗚咽がきこえてくる。かわいそうに、体を震わせている。ぺたん、と白いソックスと赤い靴をなげだして、スカートが汚れるのなんて気にしないで、両手に顔を当ててなきじゃくっているのがわかった。

 

こっちのことなんか気にしないで、わんわんないている。さすがにちょっとかわいそうになったオレは、ちょっとバツが悪くなって頭を掻いた。なんだってこんな時間にこんな小さな女の子がこんなところでないてんだ。オレの脳裏によぎったのは、刑事の兄ちゃんが教えてくれたジョルノの過去だ。

 

このあたりに公衆電話は見かけない。これはバス停がある停留所まで戻って、警察に通報した方がいいんじゃねーかな。幽霊と見間違ってしまった罪悪感から、オレはすっかり恐怖心が抜けていた。スタンドを退散させて、オレは女の子に声を掛けた。

 

 

「どーしたんだ?こんなところでよぉ」

 

 

真っ赤な顔をした女の子が顔を上げる。ひく、ひく、としゃっくりしながら、オレを見上げた女の子は、ぞっとするほど色の無い目をした外人の女の子だった。

 

 

「あたし、×××」

 

 

最初は日本語だったってのに、舌足らずな割に流暢な英語が飛び出した。ぶっちゃけ英語が大の苦手なオレ。リスニング能力なんて期待されるのがおかしい。全く聞き取れない。

 

リスニングの小テスト並みにびっくりするほど、女の子が言ってることがわからない。オレはあいまいな返事しかできなかかった。

 

 

「ねえねえ、お兄ちゃんたち、どこから来たの?」

 

「おにいちゃんたちぃ?」

 

「だって、そうでしょ?お兄ちゃんがおんぶしてる、変なお兄ちゃん」

 

 

指差す先にはスタンドが待機してた場所がある。まさか見えてんのか?この子。

 

 

「ねえねえ、お兄ちゃんたち、どこから来たの?」

 

「お、オレはその、定禅寺のあたりから」

 

「ふうん、そうなんだ。おにいちゃんの名前はなんていうの?」

 

「仗助、東方仗助っすよ、よろしくな」

 

「仗助お兄ちゃんね。仗助お兄ちゃんはこの公園気に入った?」

 

「え?」

 

「あたしね、ここでよく遊んでるの。だあれも遊んでくれないからつまんないの。

 ねえ、仗助お兄ちゃん、あたしのお友達になって?ね!いいでしょ?」

 

 

子どもの気分はころころ変わる。さっきまで泣いてたのに、すっかり忘れてしまった女の子は、にっこりわらってオレに近付いてきた。

 

 

「まあ、それくらいならいいっすよ」

 

「ありがとう、仗助お兄ちゃん」

 

 

これでまた×××のお友達がふえたの!と女の子は大喜びで跳ね回る。よかった、これならなんとか言いくるめれば警察への連絡も楽そうだ。

 

 

「なあ、ジョルノってやつみなかったか?」

 

「じょるの?」

 

「そうそう、ジョルノ。××ジョルノ。オレァ、そいつを捜しに来たんだよ。いつまでたっても帰ってこないって、みんな心配してっからさ、迎えにきたんだけどよぉ。金髪で、くるくるしたものが3つ並んでる前髪したやつ、しらねえ?これくらいの身長なんだけどさ」

 

 

きょとりとした女の子は、にぱって笑った。

 

 

「ジャックのことね。仗助おにいちゃん、ジャックのお友達なのね」

 

「はあ?ジャック?」

 

「うん、そう、ジャック。お伽噺にでてくる悪い巨人を倒した男の子に似てるから、ジャックってよぶことにしたのよ。小さなお豆からお空まで届く大きな樹を造っちゃう男の子だから」

 

「あー、もしかして、ジャックと豆の樹か?」

 

「うん、そう!ジャックがいうには、悪い巨人をダビデっていう男の子が倒しちゃうお話がもとなんだっていってたわ。ダビデでもよかったんだけど、ジャックの方がにあってるもの。だから、ジョルノはジャックなの」

 

「その様子だとジョルノがどこ行ったか知ってるって口ぶりっすね。よかったら教えてくれないっすか?」

 

女の子がオレの学ランの袖を掴んで見上げてくるので、どーした?って声を掛けた。

 

「いいよー、そのかわりに、×××のお願い、聞いてくれる?」

 

「なんすか?」

 

「えっとねー、あのねー、ふふ」

 

 

女の子はわらった。

 

 

「あのねー……お兄ちゃん、死んでくれる?」

 

 

世界が暗転した。

 

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