ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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レッド・ホット・チリ・ペッパー2

「動物保護センター、シェルター、保健所にも問い合わせてみましたがサクラはいないそうです」

 

「そっか、なら行くしかないね」

 

先にマウンテンバイクで先行してくれる康一先輩だったが、サクラは遊んでくれていると勘違いしているようで社王町をいったりきたりしていた。おかげで今度保護者にお小遣いを前借りして自転車を買おうとこころに誓うくらいには走らされた。息を切らしながら僕はようやく康一先輩においついた。

 

「ここですね」

 

犬が中に入りたそうにしているのは廃屋だ。

 

古い自動車が二台雨ざらしになっていた。どちらの車にもタイヤはなく、ボンネットは開けられて内蔵をひきずり出されていた。

 

今にも落ちそうな看板がある。昭和40年代にタイムスリップしたかのような店構えだ。二階建ての雑居ビルは築四十年以上。ひび割れが目立つ煤けた煤けた外壁には触手のようなツタがびっしりとからみつき不気味な雰囲気を醸し出している。入り口に猫の死骸が転がっていたが陰気な風景にオブジェのようになじんでいる。

 

見るからに骨董品な建物だ。階段も手すりも各部屋のサッシも赤茶色に錆び付いている。細いヒビが毛細血管のように走る壁は汚水が染みこみ、淀んだ色に染まっていて新築当時の色彩が判別できないありさまだ。

 

「こんなとこにレッド・ホット・チリ・ペッパーが?」

 

「少なくても、ここから電気は通ってなさそうだし、まだサクラといると思いますよ」

 

「そうだよね、急ごう」

 

夜の色に包まれて暗く年取った大きな獣のように陰気くさい。年季の入った木造の建物には店名すら表示されていない。昔ながらの古ぼけた色合いのビルである。決して大きくはない。くすんだ窓ガラスやカーテンの黄ばみやひびの入った外壁の様子から、その古さが伝わってくる。

 

しかし廃墟とは違う。朽ちかけたコンクリートの中に生き物の息遣いが含まれているのを、確かに感じ取ることができるからだ。くすんだ寮の外観のなかで、窓ガラスだけは陽射しを受けキラキラときれいに見えた。

 

「サクラ、いるのかい?」

 

絞り込み全てのガラスを失った窓枠のペンキはすっかりはげおちて変色し、壁は各所でぐずぐずに崩れ落ち、鉄扉は赤く錆び、石壁には落書きがある。

 

もう何年も前から人の住んでいないような荒れがにじんでいる建物の肌を探りながら先に進んだ。家が、腰がくじけたように崩れる。ブック・エンドを不意にはずした書籍のように、家々が倒れる。少し歩いただけでこれだ。

 

のっぺりとしたコンクリートの壁には冷凍倉庫に使われていたころの名残りの配線や鉛管がもぎり取られたままところどころにぶら下がっていた。

 

様々な機械やメーターやジャンクション・ボックス、スイッチのあとには、それらがまるで巨大な力でむりやりむしりとられたかのように、ぽっかりと穴があいていた。

 

ほとんどの窓は錆付いたようにぴったりと閉じられ、わずかに開いた窓からは色あせたカーテンがのぞいている。

 

壁や扉や天井の鉄板があちこちはずれていたので、中に入ると、まっすぐに通り抜けてゆく風の動きを感じることができる。見上げると、はさみで切り抜いたような空が、所々に見えた。

 

近づきがたい暗さが漂っていた。夜目で見てもガラスが割れているのは分かったし、壁にはスプレーで落書きがされている。

 

「うへえ」

 

康一先輩がうめく。

 

「すごい匂いだな、鼻が曲がりそうだ」

 

棚と、檻がいくつか並んでいる。棚はだいたい割れてるし、檻も蓋が開いている。階段は、埃が積もっているがそこまで古くはなさそうだ。やっぱり意外と頑丈な階段だ。

 

ペットブームの裏で、猫や犬が子を産みすぎ、自宅で飼い切れなくなって手放してしまう多頭飼育崩壊が目の前にある。

 

何匹分ものフンや尿の始末に困った揚げ句、掃除そのものをあきらめて、「ゴミ屋敷」化したのだ。

 

家の中は猫のエサの袋が散乱し、大量のフンと尿にまみれている。

 

玄関に入った途端、強烈な刺激臭が鼻を突く。エコーズによる換気がなければ瞬く間に病気になりそうだった。

 

犬たちは部屋の中で自由に動き回っていて、天井裏にも上っている。大量のゴミ、そしてフンや尿……清掃作業員を投入しても、まとめるのに1日かかるほどの量のようだ。

 

劣悪な環境で過ごしている犬たちだがエサだけは十分に与えられていたため、痩せている様子はない。

 

「どうしたんだ?」

 

犬は困ったようにうろうろうろうろしている。

 

「まさか、こいつら全部がサクラとか言わないだろうな?」

 

犬はその場に座り込んでしまう。僕達は顔を見合わせた。

 

「サクラはいったいどれなんだ......」

 

「まさかスタンドで増殖した......?どうしてサクラはそもそもここに?レッド・ホット・チリ・ペッパーがアジトにしてるわけでもなさそうだし......」

 

「スタンドだとしたら、捕まえれば消えるはずだ。サクラは逃げるためにスタンドに目覚めたんだから、追いかけてちゃ意味が無い。どうします、康一先輩」

 

「よーし、一か八かやってみようか、ジョルノくん」

 

康一先輩はまず飼い主が来ていたセーターを出した。少なくとも丸一日着用した衣類がなおいいらしい。迷子犬が匂いを感知しやすくなるので、着ていた時間が長ければ長いほど良いとのこと。

 

その衣類品を放置した。そしてサクラのお気に入りのおもちゃを一緒に置いた。

 

ついでに水の入った皿を置いた。

 

「こんなんで来るんですかね......?」

 

「まあまあそう言わずに。サクラは普通の犬より賢いんだ。きっとわかるよ。僕んちの犬で効果があったんだからきっと」

 

「なるほど」

 

こうして僕達はいったん1階に降りて様子を伺うことにした。

 

「......ほんとだ」

 

「やっぱり飼い主が恋しいんだよ」

 

「スタンドに知能があっても犬は犬ですね。本能には勝てないってわけか」

 

「じゃあ行こうか、エコーズ!頼んだよ!」

 

飼い主がよくサクラを呼ぶのに使っている犬笛を再現した擬音が階段に張りつけられる。

 

それに気づいたサクラが寄ってくる。

 

「捕まえた」

 

僕はサクラの首輪にリードをつけた。

 

「さあ、来るんだサクラ」

 

康一先輩から餌をもらったサクラはしっぽをぶんぶん振り回してオネダリしている。

 

「レッド・ホット・チリ・ペッパー、いるんだろう?観念して出てきたらどうだ?億泰先輩との戦闘で死にかけだそうじゃないか。電池で動くペースメーカーにいたって時間稼ぎにしかならない」

 

「サクラはペースメーカーがないと生きられないんだ。その電気を横取りするなんてどうかしてるよ!」

 

「ここには電気が通っていないようだ。死にたくないならでてこい、命だけは助けてやる。僕はアンタに聞きたいことがあるんだ」

 

康一先輩は心臓の音をサクラに貼り付ける。僕はすかさずゴールド・エクスペリエンスを起動した。一時的にペースメーカーがわりとして擬音がはりついている間にペースメーカーのリードからサクラの肉体に変化させる。これで逃げ場を失ったスタンドが出てくるはずだが......。

 

「......でてこない」

 

「まさか偽物!?」

 

「ちがうよ、捕まえたって消えないんだから!」

 

「一体どういうことだ......?」

 

「まさか!」

 

僕達は2階にかけあがることにした。

 

「助かったぜェ、サクラァ!お前は俺の恩人だ!そーだよなあ、お前がそのスタンドに目覚めたのは俺のおかげだもんなあ!」

 

たくさんいたサクラの分身は全て消えうせ、そこにいたのは電気をたっぷり蓄えたレッド・ホット・チリ・ペッパーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい機会だからちょいとばかし、理科の勉強を教えてやるぜ、汐華初流乃ッ!」

 

レッド・ホット・チリ・ペッパーは誰も頼んでいないのに講釈をたれはじめた。

 

「もし人間が光速で動いたらどうなると思う?」

 

例えで言うと、新幹線。時速100~200㎞からは息苦しさが現れ始め、時速300㎞は、痛みが生じるそうだ。時速400~500㎞は、皮膚に傷が現れ始め、時速600㎞からは、筋肉が悲鳴を上げる。人間の身体は、光の速さには、耐えきれない生き物だ。だから光の速さ、光速が1億㎞だとすると、人間の身体は消滅してしまう。

 

光速と言うのは、光の速さだと言う事で、熱がこもった光の速さだ。例えば、原子じゃない流れ星、光速だと言われる、速さの中で、いずれ無くなり燃え尽きる。そこに産まれたものは、原子じゃなくても、形が存在する事で、存在するものは光の速さには耐えきれない。

 

「お前が作り出せる質量をもった生き物でェッ!光速で動けるやつはいないッ!つまりお前のスタンドは俺には止まって見えるんだよォッ!!これは正しいぜ!なんせ俺がわざわざ調べたんだからなアッ!」

 

「なるほど......スピードは勝てないわけですね、今のアンタには......」

 

「この絶望感を前にしてもなんでもありませぇんみたいな顔すんのがムカつくんだよ、てめェェエエ工!!」

 

「そんなこと言われたって仕方ないじゃあないか。僕はこういう体質なんだ」

 

「じゃあいつまで耐えられるかッ試して見ようじゃあねえか!」

 

ゴールド・エクスペリエンスとレッド・ホット・チリ・ペッパーの発動はほぼ同時だったはずだ。だが康一先輩がジョルノくん!!と叫んだ時には僕の体が弧を描き、宙を舞う。

 

1回、2回、3回までが数えられる回数だった。目が回るほどバウンドするとそのまま蹴飛ばされたのか勢いのままに、サッカーボールのようにごろごろと転がっていく。 コンクリートの壁に激突し、ようやくおさまったエネルギー運動。 ひどい有様だった。一瞬で僕の体はボロボロだった。

 

「ジョルノくんッ!」

 

「来るな!」

 

「でも!」

 

「来ちゃあいけない、康一先輩。アナタはサクラをレッド・ホット・チリ・ペッパーから遠ざける大事な役目があるじゃあないか!」

 

「ッ!」

 

「またサクラと一緒に逃げられたら無駄足になってしまう。すこしでも可能性は潰すべきだ」

 

擦り傷、切り傷、打撲に内出血。 左腕は大きくダメージを負っている。力なく垂れ下がり、右腕で肩を庇うしぐさをする僕を康一先輩は固唾を飲んで見守っている。

 

転がった際についた傷から血が滲み出る。顔の頬からじんわりと真っ赤な液体が滲み出た。

 

乱暴に学生服の袖でこすり、そして鋭い視線でレッド・ホット・チリ・ペッパーをにらみつける。

 

僕が転がった距離は部屋の隅っこだ。そのちょうど向かいにやつはいる。対照的な二人に言葉はない。 沈黙の中、睨み合う。傍で光っていた街灯が一度だけ、バチッと火花を散らした。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!」

 

「無駄だっていってんだろォッ!」

 

レッド・ホット・チリ・ペッパーが猛然と向かってくる。目に痛い輝きはフル充電した証だ。それすら確認できない速さで迫まってくる。

 

僕は迎え撃つ体勢に入る。ギリギリのタイミングを計るように瞬きすら許さない、まるで居合い切りの達人がするかのような集中。 瞬間、二人の体より影が飛び出す。

 

「かはッ───────!」

 

電気が走る。感電だ。感電したのだ。ちゃちな拷問の方が生ぬるい強烈な熱、そして衝撃が僕を襲う。あとから音が空気が爆発したかのように響き渡り、鼓膜を破壊しようとしてくる。それが何度も繰り返される。なんども、なんども、数えるのすら億劫になるほど繰り返された。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!」

 

「馬鹿の一つ覚えみてーに!通電でろくな思考が働かなくなっちまったかあ?」

 

スタンド同士の激突というにはあまりにも一方的なぶつかり合いだった。拮抗しているように見えて、実力は歴然としていた。 それは互いの表情が物語る。康一先輩が心配そうな顔で見てくるものだから余計にわかる。わかり切っていた。この戦況は明らかに僕が不利だと。

 

僕は唇を噛みしめ、麻痺してしまった四肢を叱責しながら立たせる。手に走る痛みに顔をゆがませる暇はない。裂傷が走ろうが、体中にあざ、擦り傷が出来ようが、僕の実力不足からくるダメージの蓄積にすぎない。代償は体力であって精神力であってはならないのだ。

 

やはりレッド・ホット・チリ・ペッパーは強敵だ。直接的なパワー、スピードではとてもではないが敵わない。 僕にできることは機械的に戦闘を続けることのみだ。

 

隙を見せることなく、ジワジワと相手の体力、精神力を削り取っていく。放電させて弱体化させるのが目的なのだ。僕が倒れた瞬間にゴールド・エクスペリエンスの能力は解除され、サクラと共にまた逃げだされてしまう。それは困るのだ、最低限の役目は果たさなけれはならない。空条さんたちの信用に応えるために。

 

「ッ!」

 

一瞬混乱が起きた。攻撃が一瞬やんだのだ。しかしその糸のように細い集中力の切れ目は、この実力差で消耗しつつあった僕にはこれ以上ないほどの支援だった。

 

「これ以上は......これ以上は無理だよ、ジョルノくんッ!僕のスタンド、エコーズの力じゃあ......」

 

康一先輩のスタンド、エコーズの擬音がなんとかしのぎ切ってくれたらしい。すさまじい空気の流れが放電を加速させて、あたりに散開させてくれたようだった。

 

「ありがとう、康一先輩ッ」

 

僕は笑った。

 

「この一瞬さえあれば十分だッ!ゴールド・エクスペリエンスッ!」

 

隙を見逃さず叩きこまれた一撃は、

レッド・ホット・チリ・ペッパーを的確に捕えた、はずだった。

 

「だから言ってんだよ、おせぇんだってよォ!」

 

僕は捕まったことを悟った。脳を揺さぶられ、平衡感覚を狂わされる。 血が花びらみたいに散っていった。

 

ぽいっとゴミみたいに捨てられた僕は、膝から崩れ落ちる。体が糸の切れたマリオネットのように倒れていく。レッド・ホット・チリ・ペッパーを逃がすまいと伸ばされた手が足元にすがるように空を切る。とたんに体力気力の糸が切れた。棒っきれのように横たわる。床はホコリと腐敗の匂いがした。身体が突然後へ反って、仰向けに倒れたなり動かなくなった。

 

康一先輩がひたすらに耐えて耐えて耐えながら好機を伺い、隠し持っていた能力が発動した。空を切った一撃。追撃のようにレッド・ホット・チリ・ペッパーの手が僕にたたきつけられる刹那、ビル全体が「ヤメロォッ!!」と叫んだ。

 

「なっ......なんだァッ!?」

 

コンクリートが崩れ始める。まるで

水を含んだ角砂糖のように崩壊する。

 

「レッド・ホット・チリ・ペッパー、アンタの敗因は1人で戦ったことだ」

 

ゴールド・エクスペリエンスでひたすらに植え付けられ、僕が時間を稼いでいる間に張り巡らされた雑草。長年放置されていた建物は阪神・淡路大震災で改定された耐震性には遠く及ばない。だからこそあっけないくらいに壊れるのだ。康一先輩の怒りを込めた叫びを受けたエコーズの攻撃くらい。

 

僕達はもろとも倒壊に巻き込まれた。

 

「ジョルノくん!」

 

......もちろんこの声が僕の生き埋めを助けてくれるのも折り込み済みだ。

 

「康一先輩、アナタのそういうところ、僕は誰よりもかってるつもりなんだ。だから今すぐレッド・ホット・チリ・ペッパーが逃げたと伝えてくれ、時間がない」

 

「ええっ!?どうやって逃げたの!?」

 

「君の自転車でだよ......残念だけど......ほんとに残念だけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

康一先輩の手を借りてなんとか生き埋めから免れた僕は、サクラと共に波止場に向かったが全ては終わっていた。

 

なぜか全身ずぶ濡れで僕よりよっぽど満身創痍な仗助先輩たち。なにがあったのか聞く康一先輩の顔を見るなり笑う元気は辛うじてあるらしかった。

 

スピードワゴン財団職員に連行されていくウェーブがかかったロングヘアー、顔の左側に稲妻状の模様を描いている男が僕とすれ違う。ピチピチの白色のズボンに、胸元を開けた服と黒のジャケットを着用し、袖には右腕に←AC、左腕にはDC→という文字のアクセサリーを付け、服全体に十字型と輪っかの形をしたアクセサリーで飾っている。

 

こいつがレッド・ホット・チリ・ペッパーのスタンド使い、音石明だった。

 

仗助先輩曰くギターをこよなく愛するロッカー、19歳。夢はウルトラ・スーパー・ギタリストになって激しく熱く生きること。

 

虹村形兆によりスタンド能力を引き出されたスタンド使いの一人。スタンド能力が成長した後、彼を殺害して「弓と矢」を強奪した張本人。

 

調子にのりやすいが反省すると強いタイプであり、僕のことをスピードワゴン財団職員の偽物から聞いたためにヒットアウェイ戦法に切り替え、仗助先輩たちは大いに苦戦したらしい。

 

慎重な性格も持ち合わせており、本当は自身のスタンドのパワーがスタープラチナを超え完全に勝てるまで潜伏したかったらしい。だが僕たちの妨害で思った以上に電力を消費してしまったせいで全力を出せなかったと怒っている。

 

想定より弱体化してなかった。もっと体力を消耗させろと怒られた、理不尽である。

 

空条さん曰くスピードワゴン財団が今まさに自宅や活動していたライブハウス、スタジオなんかを調査しに向かっているらしい。

 

「出やがったぞ、偽物が」

 

「なんですって!?僕が目的ではないんですかッ!!」

 

「音石に話を聞こうとした瞬間に出やがった」

 

「......なんてことだ」

 

いきなり世界が真っ暗になったと職員がパニックになった。そして転覆。億泰先輩と空条さんが音石をぶっ飛ばし、仗助先輩がジョースターさんを助けたとのこと。

 

なにを思ったのか、音石はそれきり貝のように口が固くなってしまったらしい。

 

不穏な空気を残しながらも社王町は5月を迎えた。一応一件落着なのだろう、音石がいってた窃盗総額5億円とスタンドの矢、弓が行方不明という点を除いては。

 

すっかり安全地帯はないと悟った音石は沈黙を守っていたものの、死闘の果てに窃盗と殺人未遂。転覆の罪まで加わると知るとたまらず口を開いたらしい。残念ながら自白剤と億泰先輩、空条さんの脅迫にもかかわらず僕達の持っている以上の情報はなかったが。

 

とりあえず僕は日常に生還することが出来た。

 

「康一先輩......いいかげん機嫌を治してくださいよ......」

 

「いいじゃあないか、べつに。僕が怒ってたって、君にはなんにも関係ないんだから」

 

「マウンテンバイクについては謝ったじゃあないですか」

 

「そういうんじゃないんだ」

 

 

康一先輩は未だにうつむいたままだ。

 

「……僕が勝手にイライラしてるだけなんだ。ジョルノくんが原因じゃあない」

 

「そんなこと言って恨めしげに見られても」

 

沈黙のさなか、やっと康一先輩が重い顔を上げる。涙は止まっていた。そう感覚として理解できた康一先輩はまたも俯こうとしたが堪えた。

 

「言って欲しかったら言うべきだ。日本人はそういうところがいけない」

 

お互いの視線がかち合う。一触即発とはいかないが、決して穏やかなものではないのを感じ取った。

 

「君も日本人じゃあないか」

 

「ハーフです」

 

「戸籍上も育ちも日本人じゃあないか、しかもその顔で日本語しか喋れない」

 

「たしかに」

 

僕はためいきをついた。

 

「この際だから言っときますが、僕が黙ってるのは今に始まったことじゃあないはずだ。アナタのエコーズが近接戦闘が苦手なことを責めてるわけじゃあない。言わない方がいいから黙ってただけだ。よく言うじゃあないか、沈黙は金なり」

 

「そんなこといって、なにかあったら置いてくよね」

 

「お望みならはっきり言いますが、僕は仗助先輩じゃあない。世界で1番やさしい能力じゃあない。場合によっては君が足手まといだから……置いて一人で行くことだってある」

 

威圧するような口調ではない。しかしその言葉の重みが康一先輩を沈黙させる。

 

「僕が……弱いから......」

 

「弱いというのがスタンドの強さを言っているのか、康一先輩の性格を言っているのか、それ以外のもっとぐちゃぐちゃしてるなにかを言ってるのかはわかりませんが、悪くないと僕は思ってる。でもそうだな、確かに康一先輩を置いていくと思います」

 

淡々と事実のみを述べる僕に対して康一先輩は怒りを覚え始めたようで唇をかみ締めた。

 

「僕はいつだって色んなものを置いてきたし、置き去りにされてきた。身軽にならないと死ぬしかなかったからだ」

 

「でも今はそうじゃあない。それはわかってるはずだよね、ジョルノくん。そんな君が一人で行っていつかぺしゃんこになったとき、手を差し伸べてくれるやつが居ないのは寝覚めが悪すぎるじゃあないかッ!」

 

「全滅するよりはマシだと思うんだけどなァ......なんだって仗助先輩といい空条さんといい、億泰先輩まで......似たようなことばかりいうんだか......」

 

「こういうのは皆まで言わせるもんじゃあないよ、ジョルノ君」

 

僕は肩を竦めた。

 

「さあ、行こうか。学校に遅れちゃうからね」

 

 

 

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