ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

22 / 66
ヘブンズ・ドアー

広瀬康一と間田敏和。新しい創作ネタを手に入れるため、ぶどうヶ丘高校の学生達にスタンドを発動させ、

記憶を見ていた岸辺露伴は気がついた。

 

「なんだこれは......ここだけ書体も字体もなにもかもが違うじゃあないか......気持ち悪いな」

 

どこかでみたことがあるような気がすると首をかしげる。そうだ、新興宗教にハマっていた人間を取材して回っていた時に見たものと同じだと気づく。なんの脈絡もなく教祖の言葉や経典の言葉が差し込まれ、薬による酩酊状態から来る幻覚なんかまさにそれじゃないかと。ただあくまでも本人の思考に基づくため、ここまでちがうのは見たことがなかった。ここだけ一人称が僕なのだ。余計にういて見える。こういうときは前後の文書に関係ある人物がスタンド使いとして考えていい。

 

「ふむ......汐華初流乃......生命を作り出すスタンド......記憶にまで影響が出るのか?......どういうことだ.....前後に脈略がない。興味深い......非常に興味深いぞ......!」

 

パラパラパラと間田敏和の人生をめくる。

 

「アナフィラキシー......」

 

露伴は棚から分厚い医学書を開き、該当のページを探り当てる。

 

「ここだな」

 

食物アレルギーを引き起こすことが明らかな食品として、卵、牛乳、小麦、そば、ピーナッツ、えび、かにがあげられ、この7品目は食品衛生法において特定原材料として食品表示が義務づけられている。また、あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、バナナの18品目についても、原材料として含まれる場合は可能な限り表示することが推奨されている。一般に食物アレルギーは乳幼児で発症することが多く、その後、年齢とともに減少していく。食物アレルギーの特殊型として、原因食物摂取後に運動などの二次的要因が加わりアナフィラキシー症状をきたす食物依存性運動誘発アナフィラキシーという病態がある。小麦が原因となる場合が多く、運動により多量の抗原が吸収されるためとされている。

 

「乳幼児期か......」

 

ほかにもアナフィラキシーを引き起こす可能性のある虫さされとしてはハチが最も代表的であり、中でもスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチが重要だ。ハチ毒に対するアレルギー反応がない場合は、局所症状は数日で改善するが、ハチに一度刺されてハチ毒に対する抗体ができている場合は、再度ハチに刺された後5~10分以内にアナフィラキシーを起こすことがあるのだ。また、ハチ毒の成分は種類によって異なりますが、スズメバチ類とアシナガバチ類の毒成分は類似しているため、アシナガバチに刺された経験がある人は、初めてスズメバチに刺された場合でもアナフィラキシーを生じる可能性がある。

 

「2回目ならやはりハチの記憶を辿るべきか?」

 

薬によるアナフィラキシーの多くは、ペニシリンなどの抗生物質、アスピリンなどの解熱鎮痛剤、医療機関で検査に用いられる造影剤などによるもの。また、薬を作るときに使う安定化剤などの添加物によってもアレルギーを起こすことがある。この他、卵アレルギーのある人が塩化リゾチームを含んだかぜ薬を服用すると、アレルギー症状があらわれることがある。これは交叉反応と呼ばれ、卵アレルギーのある人が塩化リゾチームに対してもアレルギー反応を起こすというもの。

 

「風邪薬!そんなのもあるのか」

 

ゴム製品でアナフィラキシーを起こす場合もある。ゴム手袋や風船などには天然ゴムが使われている。天然ゴムの原材料に含まれるラテックスというたんぱく質がアナフィラキシーの原因となる。また、もともと花粉症を持つ人が果物に対してもアレルギー反応性を示し、口腔粘膜を中心とした浮腫、違和感を始めとする症状を生じることがある。これを口腔アレルギー症候群と呼ぶが、このような場合には果物のほかにラテックスにも交叉反応を示すことがあり注意が必要。

 

「うーむ、掃除の時間もみてみるか」

 

そこから一心不乱に岸辺露伴は間田敏和の記憶を読みあさる。受験勉強を控えた学生のごとく、単語のひとつひとつを目を皿にするようにして探し回った。

 

「全く疲れる作業だ......こういう時ばかりは検索機能が欲しくなるなァ......興味が無いことを調べるほど苦痛なものはない。特に読むに値しない人間の記憶を読まなきゃ行けない時はなおさら」

 

あんまりだと間田は思ったが言葉にできない。

 

しばらくして、そこに一度もスズメバチに類する昆虫に刺されたことがないこと、似たようなアレルギーがある訳でもないと気づいた露伴は興奮している自分に気がついた。

 

間田は何故か経験がないにもかかわらず2回目のスズメバチのアナフィラキシーを起こしているのだ。

 

「君に直接の興味はないが、この記述に興味が湧いたッ!これは是非とも取材しなければ......!!」

 

ビリビリとそのページを破り捨て、露伴は康一のページから汐華初流乃の単語を一心不乱に調べ始めた。

 

「× × × ジョルノ......ああくそ、名前が2つ入り交じりなのが面倒くさいなァッ!」

 

懸命に調べていた露伴は、ふむ、と考え込む。

 

「どうせ康一くんの記憶は根こそぎもらうんだからじっくり調べるとするか......」

 

だいぶ薄くなってしまった。体重が25キロくらい減ってそうだが、問題ないだろう必要な犠牲だ。

 

「生命を作り出す......柴犬、蝶、すごい......凄いじゃあないか......知り合いになれれば目の前で再現してもらえるかもしれない......これはいいぞォ......!しかも環境がいい......まるでアメコミのダークヒーローみたいだ......ほんとにすごい......凄いよ康一くんッ!汐華初流乃から友情を感じているだなんてここの記述が特にいい!素晴らしい!!」

 

ぶつぶつぶつと呟いていた露伴はふと違和感に気づいた。《今ハチに刺されたような気がしてきた》のだ。ちらと時計を見るとあの変な文書を見てからきっちり10分たっている。ある可能性に思いいたり、また間田敏和の記憶を辿りはじめた露伴は、その文書の10分後に間田がアナフィラキシーで倒れていることに気がついた。

 

アナフィラキシーで恐ろしいのは、喉が腫れ上がるために奥の空気の通り道が塞がれること、不整脈やショックであり、死に至ることである。この記述では死ぬことは無いがだいぶやばいところまでいくようだ。いそいで病院に行かなくては死ぬらしいから。

 

「しゃがれごえ......うまく......こえがだせない......のどのつまり......まちがいない......ぼくにもこのきじゅつがてきおうされている......!まずいな......このままだとどうきにめまい......そしてきぜつ......」

 

露伴は電話がある部屋に移動した。

 

「まさか......まさかあれをよんだから......ぼくのからだもスズメバチのアナフィラキシーを......?かんちがいしているのかっ......!?はざまだのようにっ......!!」

 

死ぬことは無いと間田でわかっているとはいえ、記憶を覗き見るだけで発症するとは相当強いスタンドだ。

 

「すばらしい......すばらしいぞッ!せかいはひろいなあ......これはそうさくいよくがわいてきたぞッ!!」

 

とりあえず救急車をよぼう、と露伴は電話をかけることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個室に持ち込んだ画材を駆使して今月分をまとめてこなす傍ら、露伴はどうやって汐華初流乃に近づこうかと考えていた。

 

オートバイや自転車を欲しがるくらい金欠らしいから、アルバイトを欲しがっていると間田敏和か広瀬康一を通して接触を測ってはどうだろう。一度会いさえすればヘブンズ・ドアーでどうとでも......ここまでかんがえてダメだなと思い直した。

 

汐華初流乃はその奇妙な境遇ゆえにスタンド使いを常に警戒している人間だ。なにせ正体不明の黒服なんてどこの秘密結社だみたいな男が目的不明のままスタンドの矢を持って姿を消して、社王町に潜伏しているらしいのだから。そんな奴に接触を測るのだから、こちらもそれなりの態度で応じなければならない。なにせ汐華初流乃は生命を生み出すスタンドなのだ、しかもある程度の知能を操作することも可能だという。売れっ子作家ゆえに取材にいける期間も限られている露伴からすれば、いくら出したって構わない人材なのだ。ワシントン条約とか輸入規制とかめんどくさいものを一切気にしないで思う存分スケッチ出来るのだとしたら、それはもう夢のような話なのである。

 

第一、汐華初流乃はもうひとつ能力を隠している可能性があるのだ。広瀬康一のようにスタンドが成長することだってあるだろう、ただでさえ秘密主義のようだし。うっかり今回のようなことになればまた病院送りである。

 

広瀬康一をまた家に呼びたい露伴からすれば非常にこまるのだ、それは。

 

それに汐華初流乃は岸辺露伴のファンじゃないから波長が合わない可能性が高い。レ・ミゼラブルや青い鳥のような絶望の中に一筋の光を見たり、社会の矛盾に屈折した思いを抱きながらたくましく生きたりするようなストーリーは露伴の作風とはかすりもしなかった。

 

つまり、露伴は汐華初流乃の頭の中をヘブンズ・ドアーで見ることが出来ないから、汐華初流乃に話してもらう必要があるのだ。いつもの手段が使えないとわかった瞬間に、なんで僕がこんなことしなきゃあいけないんだ、と思いもした。だがせっかく入院になったんだからなにかしら得るものがなければもったいなくていけない。さいわい考える時間はたくさんあった露伴は、汐華初流乃の能力について考えた。

 

生命に能力を付与することが出来るようになった、なんてどうだろう?カウンターなんて意味のわからない能力を付与できるんだ。共感とかそれっぽい方向で進化した、あるいは変化した。ありうる話だ。汐華初流乃はスタンド使いなのにスタンドに刺されているのだから。矢に刺されただけでヘブンズ・ドアーを得た露伴からすればありうる話である。

 

問題は汐華初流乃にもメリットがないと応じてくれないだろうということだ。広瀬康一のようにお人好しが人の形をして服を着て歩いているような人間ならこんなに悩むこともないだろうに、汐華初流乃は懐かない野良猫みたいないけ好かない性質をしているとみた。こちらの真意をすこしでも暴いてやろうと伺ってばかりのクソガキなのだ。

 

間田敏和は双葉千帆という将来有望な小説家の卵に取材を受けたことがあるようだが、彼氏とかおまけがくっついてくる。しかも女子高生に20歳の漫画家がわざわざ病院の個室に呼び出すなんて怪しすぎる。事案にも程がある。どのみち怪しまれるのは前提にした方がいいに違いない。

 

 

色々考えた末、露伴は正攻法でいくことにしたのである。

 

 

「やあ、よく来たね、汐華初流乃君」

 

 

その第一声に汐華初流乃は僅かに眉をあげた。あらゆるアンテナを張り巡らせ、まんじりともしないであらゆる物音に耳を澄ます。それでいて焔のような警戒心を消さない。心がハリネズミのように警戒心の棘を張っているのがわかる。警戒心を壁のように張りめぐらせているから、豆腐のように慎重に扱う必要がある。

 

近所のおばさんがえさやりをしているせいですっかりうろつくようになった野良猫のようだ。勝手に入り込んで漫画をひっくり返して猫の手スタンプを押しまくる困ったやつ。一回ヘブンズ・ドアーで入らないという1文を入れられないか試そうとしたとき、あの手この手で来るように試したことを思い出す。結局あの時は猫にそこまでの知能がなかったから諦めたが、目の前にいるのは猫ではなく人間だ。吸血鬼を父親に持つというにわかには信じ難いものの、日本語が通じる人間なのだ。

 

二人の眼は犬のようにお互いを見ることを、警戒し合っている。ヘブンズ・ドアーの傘下にある広瀬康一は甲斐甲斐しく露伴の世話を焼こうとコーヒーを出してきた。不審そうな目が汐華初流乃から広瀬康一に向けられる。やはり怪しまれているようだ。

 

顎を引き、身体を固くし、警戒態勢に入った汐華初流乃に、露伴は肩を竦めた。非常な神経を働かせて、広い屋内の空気を隈なく探っているのが手をとるようにわかる。公然にはできない理由からの警戒をふとした行動から漏れてはならないと潜行的になっている。

 

「はじめまして、僕はぶどうヶ丘中学の汐華初流乃です。康一先輩に誘われてアルバイトに来ました......」

 

「ああ、康一君から話は聞いてるよ」

 

「一応聞きますがどこまで?」

 

「すべて、と言った方がいいかな。康一君が知ってることはだいたい

知ってると思ってくれて構わない」

 

ちら、と汐華初流乃は広瀬康一を見る。お見舞いとアルバイトに誘うと書かれてしまっている彼は矛盾した行動が取れないために、汐華初流乃が岸辺露伴を警戒していると気づいた途端に口が止まらなくなった。冷や汗が浮かんでいることに気づいたようで、汐華初流乃は思案している。目敏いヤツめ。

 

汐華初流乃はやはりピンクダークの少年を読まない人間だった。

 

広瀬康一が語る岸辺露伴。その超絶漫画作成能力(コマ線・効果線は一瞬で素早く正確に描く、ペンの一振りで飛ばした墨汁でベタ塗りを完璧に仕上げるなど)により、19ページを4日で仕上げることができる。

 

漫画は、金や名声のためではなく「読んでもらうため」に書いている。そのためにリアリティのある題材を常に求めており、そのためにはどこへだって行くし、どんな無茶も平然とやる。事実、作中での彼の行動原理の根幹には「漫画を描く」事が前提として存在したため、おそらく世界が滅亡しようとも命ある限り、彼は漫画を描き続けるだろう。

 

そんな話を聞いて、ベッドの露伴に問いかけた。

 

「そんなに技術があるのなら、スタッフやアシスタントはいらないじゃあないですか。なんだって僕みたいな素人を誘ったんです?」

 

「決まってるだろ、スタッフもアシスタントもお呼びじゃあないからさ。用があるのは君だ、汐華初流乃くん」

 

「なんのです?」

 

「君の生命を生み出すスタンドってやつがみたいんだ、僕は」

 

「なんだって?」

 

「スズメバチに刺されたせいでアナフィラキシーにかかってしまってね、取材に行けなくなってしまったんだ。福井県の山奥にある絶滅危惧種の植物とそれに纏わる民話を聞きに旅館の予約をしていたんだがキャンセルしなくちゃいけなくなった。もちろん、それなりの金額は払わせてもらう用意は出来てる。どうだい?マウンテンバイクを買うくらいの金額は準備しているつもりなんだが」

 

「......どうやって知ったか聞いても?」

 

「虹村形兆とかいうやつにスタンドの矢でさされたんだよ。ここに越してきたころだ」

 

「............デッサンでも描くんですか?」

 

「そうだ。図鑑を写生したって意味が無いとは思わないかい?僕はその植物の存在する空間を描きたいんだよ。平面じゃあない、360度、X軸もY軸もZ軸もすべてだ。最近じゃあパソコンを使ってそれなりを再現できるが、所詮はそれなりだ。現実には到底及ばない」

 

「どこかで聞いた話だ......」

 

汐華初流乃は双葉千帆を思い出したのか、どこか遠い目をする。長い長い沈黙の末、いいですよ、というどこか投げやりな言葉が返ってきた。

 

「悪い人じゃあなさそうだ」

 

「ならば念押しに僕のスタンドについて説明しようじゃあないか。君は口が固そうだ」

 

ひとしきりの説明を聞いた汐華初流乃は小さく笑った。

 

「もう知っているとは思いますが、僕はスタンド使いだ。ゴールド・エクスペリエンスという生命を生み出すスタンドをもってる。初めて見る植物に関してはよく知らなきゃできない。なにか資料はありますか?」

 

岸辺露伴が心の中でガッツポーズをしたのは覚えがある限りではこれが初めてだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の時期、露伴先生の家のドアには「カメ実験中」と書かれたお手製の看板がかかっている。これがかかっている間、仗助先輩は絶対にこない。

 

「これがないとうっかり見られたら説明が面倒だからな。必要経費さ」

 

ここのところ、ぶどうヶ丘高校を中心に興味本位な来訪が増えていると迷惑そうに露伴先生はいっていた。

 

たしかに見た人が詳しい場合、通報されるに違いない。ワシントン条約をガン無視した光景が広がっているからだ。

 

ワシントン条約とは、正式には「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、1973年、ワシントンで採択されたことから通称「ワシントン条約」といわれている。この条約は、国際取引によって生存を脅かされている又は絶滅してしまう恐れのある野生動植物を保護することを目的とした条約で、日本をはじめ世界の約170カ国が加盟している。ちなみに日本は1980年批准だ。

 

この条約の本文に規制の対象となる動植物のリストが付いていて、このリストは「附属書」と呼ばれ、規制が厳しい順に「附属書I」「附属書II」「附属書III」にわかれている。

 

ワシントン条約に基づき、動植物の多くのものが輸出入の規制対象となっており、この条約で定めた機関の発行する書類等(輸出許可証、輸入承認証など)がないと輸出入することができない。

 

日本への持ち込みが規制されているものとしては、動植物、加工品や製品に別れている。僕が露伴先生に頼まれるのはもっぱら動植物だった。持ち込んではいけないものと持ち込むのにとてつもなくめんどくさい手順を踏まなくてはいけないもの。大雑把にいえばこの2種類にわけられた。

 

なぜか大怪我で病院に逆戻りしたこともあったが、今は休載しているとはいえ自宅療養にきりかえている。そしたら途端にゴールデンウィークや土日は必ず露伴から電話がかかってくるようになった。どうやら康一先輩からごっそり奪った記憶の中に僕が二学期になったら公立の中学校に転校すること、また施設に戻ることが書かれてあったようだ。僕にまだ自由時間がある間に、このリストにある動植物全てをコンプリートしたいにちがいないと疑っている。

 

僕からすれば貴重なアルバイト先なのだが、康一先輩たちは決まって嫌そうな顔をしている。特に金額をアップするからと言われて張り切って出した爬虫類地獄に襲われた仗助先輩はしばらくの間口を聞いてくれなかった。康一先輩もずっと露伴先生のスタンドの餌食になってるのに助けてくれなかったことを怒られた。まさかの裏切りと根に持っているのかもしれない。億泰先輩の提案でお詫びにイタリアンレストランに時々に行くはめになってしまい、なかなかお金が溜められないのはカツアゲに当たるのではないだろうかとそろそろ東方巡査に相談しようか考え始めているころだった。

 

「やはりデッサンは本物を並べて描くにかぎるなァ......!」

 

毎回ものすごいスピードで消費されていく筆記用具。そしてスケッチブック。なにも知らなければこれがスタンドだと思うだろう。普通に書いた場合は何倍もかかることを美術の先生から嫌というほど学んでいる僕は純粋に凄いと思うのだ。こないだ出会ったイタリアンレストランのシェフは、熟練の腕がスタンド能力として開花したパターンだったし、スタンドの矢にいられなくても露伴先生は遅かれ早かれスタンドに目覚めていた気がする。

 

それにしたって、最適な気温と湿度、そして餌を提供されて我が物顔でのそのそ歩き回るマダガスカルホシガメがこの瞬間世界で一番幸福なボールペンなのは間違いなかった。

 

ここにくると僕は最初に図鑑と露伴先生が集めてきた資料を読み漁り、ゴールド・エクスペリエンスを発動させる。やり直しが利くためか、お気に入りの模様が出るまでリテイクが入るため、意外と根気がいる作業だった。ゴールド・エクスペリエンスの訓練になるし金になるからいいけれど、今度からはよく内容を吟味してから請け負うことにしようと考えた。

 

そうして出来上がったのが、対の2匹である。最大甲長40センチメートル。メスよりもオスの方がやや大型。背甲はドーム状に盛りあがり、上から見るとやや細長い。甲板の成長輪は明瞭。項甲板はやや大型。後部縁甲板は鋸状に尖ってやや反りあがり、左右の第12縁甲板は癒合する。背甲の色彩は黒や暗褐色。ちなみに「星のカメ」という意味があるらしい。

 

移入者による保護区内も含む違法な焼畑農業や農地開発による生息地の破壊、人為的に移入されたカワイノシシイヌによる幼体の捕食、食用やペット用の乱獲などにより生息数は激減しているカメだ。

 

今は露伴先生に好き勝手されている可哀想なボールペンでもある。

 

「よしよし、ここだ。このアングルがいいぞっ!陰影が最高だ!初流乃くん、ここで止めてくれ!」

 

「このまま3分40秒止まるんだ」

 

「いーや2分30秒でいい」

 

「だそうだよ、2分30秒」

 

「よーしよしよしいいぞォ!普通の亀ならこうはいかない!ずーっと張り付いて何週間かに一度してくれるかしてくれないかの絶妙な傾げ方だっ......!」

 

ここまで褒めてもらえるボールペンを僕は見たことがないし、これからも見ることはないだろう。

 

「終わりだ!できたぞ、初流乃君!!」

 

「解除しても?」

 

「もちろん!お疲れ!」

 

この瞬間にカメはボールペンとなる。拾い上げた僕はカバンのペンケースを漁った。

 

「いつも君の私物でやってもらってすまないな」

 

「いえ、万が一外に逃げ出しても、僕のものなら追いかけることが出来ますからね」

 

「ああ、そうだったか。しかし、君の生体探知は本当に便利だな。康一くんの記憶で見たが大活躍じゃあないか。そうだ、君探偵にでもなれよ。汐華初流乃探偵事務所っていい看板になりそうだし」

 

「取材に来る気満々じゃあないですか」

 

「当たり前だろう、探偵は閑古鳥が定番だからね。いや待てよ......?ペット探しに浮気調査、うん、定番どころはだいたい君のスタンドでカバー出来るじゃあないか。適当にいったわりにはなかなか名案じゃ.....」

 

僕の気持ちを代弁するかのようなタイミングで呼び鈴が鳴る。舌打ちをした露伴先生はいつものように無視を決め込もうとしたが、今回の依頼人はだいぶんしつこいようでなかなか鳴り止まない。イライラし始めた露伴先生がどんなやつが来ているんだ、あまりにも失礼なやつならヘブンズ・ドアーで二度とこないと書いてやると考えているような顔で出ていった。いつものことだ。

 

僕はそろそろ帰ろうと準備を始める。

 

「噂をすればなんとやらだ」

 

さっきとは正反対に上機嫌な露伴先生がやってきた。

 

「汐華初流乃くん、君に依頼人だ」

 

「はい?」

 

「ジョルノ、手伝ってくれ」

 

「......まさかまたですか」

 

「そのまさかだ、ジョルノ」

 

「また?なんだ、初流乃君。君、もう探偵ごっこやってるのか?」

 

「そんなんじゃあないですよ」

 

「たしかにそんなんじゃあない。千帆が巻き込まれやすいだけだ」

 

「ああ、間田に取材してた女子高生か」

 

「そう」

 

「今度はなんです?」

 

「時間になってもこない」

 

「すっぽかされただけでは?」

 

「父親の愛人に拉致された可能性がある」

 

「またずいぶんと衝撃的な出だしですね。ドラマならまた次回だ」

 

「来週には死んでるだろうな」

 

「......アンタ、最近双葉の扱い変わってきましたね」

 

「そうか?」

 

露伴先生が口元をつりあげる。

 

「面白いことになってるじゃあないか......僕も混ぜてくれよ。どうだ、アルバイト代弾んでやるからさ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。