承太郎の連絡により、スタンド使いたちは学校をいろんな理由をつけて休み、社王グランドホテルに集められていた。互いに知らない顔もいくつかあったが、仗助や康一が詳しかったものだから情報共有は滞りない。みんなが揃う頃には第1発見者たちはすでに行動を開始していた。
承太郎が立てた計画はこうだ。まずはハーヴェストが社王町中の硬貨とその場所の変に曲がっていたり、溶けていたりするものをなんでもいいから物体を持ち帰る。そこでだいたいのエリアを特定する。
次にジョルノがゴールド・エクスペリエンスでその毒素から生命を作り出し、生体探知を利用して虫食いの子供たちの場所をピンポイントで特定する。
あとは最低2人でペアを組んで、それぞれの虫食いの子供たちを撃破していく。
承太郎と仗助がすでに親達と交戦経験、そしてハーヴェストが被った被害の実例があるおかげで、それぞれのスタンドの対策を講じることができる。少なくてもたかがねずみと侮ることなど、承太郎と仗助がいかに苦戦し死闘を繰り広げられたのかを聞けば、出来るわけもなかったのである。
虫食いの7から9匹の恐るべき子供たちの討伐にジョルノが宛てがわれたのは、昨日ハーヴェストが1番被害を蒙り、ジョルノと矢安宮が腕を溶かされた1番規模がでかいと思われるエリアだった。
「社王町に地下街がなくてよかった......もしあったらスピードワゴン財団に封鎖してもらわなきゃあならないからな」
「代わりにアーケード街がたくさんあるど.....色々反対とかあったってママがいってたど」
「おかげでエルパルに行くだけでいいんだからよかった、よかった」
「バスに乗ろうジョルノ。いっちゃうど」
「そうですね」
ジョルノ達が目指しているのは社王町の玄関口である駅。東北地方最大の都市S市の代表駅である。ジョルノが生まれた1985年に羽田空港便が廃止されてからは、新幹線が輸送を独占的に担っており、当駅の新幹線利用客は1日平均4万人以上となっている。
東北地方最大のターミナル駅となっている。「ショッピング、食事、ホテル等の施設も充実し、文化の発信基地としての役割も担う駅」として、東北の駅百選に選定されるほどだ。
「1日4万人か......もし地下鉄から被害が拡大したら最悪だ......バイオハザードも真っ青だな」
「涼しい顔して怖いこと言わないで欲しいど......」
重ちーはぼそりと呟く。
ジョルノは動物のお医者さんでも目指しているのかというくらい、ネズミに詳しい。承太郎とかいう人がジョルノに頼んだのもそれが大きいのだろう。
事実ジョルノはすでに駅の飲食エリアが怪しいと睨んでいた。ドブネズミは冷蔵庫裏・食器棚の背面などに住処を作り、湿気を好むため、水回りに近い場所が多いらしい。
「どうやって探るんだど?」
質問すれば暇つぶしがてらに教えてくれた。
ねずみが見せる動きの特徴として、壁際・家具のすぐ傍を通り、部屋の隅から隅へと移動する、というものがある。部屋の中央を横切っていく、というような動き方はほとんどしないということだ。
この「部屋の隅を移動する」という点についてはどのねずみにも共通している。狭いすき間などにも、好んで入り込む。
このため、ねずみが家にいることを示す痕跡、通称ラットサインは、大半が壁際や家具の側面などに集中する。これはねずみの存在を確かめたり、移動ルートを特定するのにも役立つし、粘着シートや捕獲トラップなどを仕掛ける際も、参考にすることができる。部屋の真ん中に置いてもねずみがそれにひっかかることは少なく、ねずみが移動する隅に置くのが効果的だということだ。
しかもねずみは動き回りながら尿をするという性質がある。そのため、ねずみが通ったあとには尿の跡が残っていく。人間のものに近い刺激臭がするので、その発見は容易だ。
ねずみは部屋の隅を移動する習性があるので、フン尿もそうした場所に残り、ラットサインとなることが多い。フンの大きさ・形状はねずみの種類によって異なるため、そこからねずみの種類を推定することができる。
「注意しなくちゃいけないのは、虫食いの子供たちがスタンド毒を克服しているかもしれないってことだ」
重ちーはぎょっとした。
ジョルノがいうには、近年では都会を中心に毒エサの効かないスーパーラットというネズミが急増しているらしい。報告されているネズミ被害の大半がこのスーパーラットによるものだという地域もあるほどだ。
スーパーラットとは、毒への耐性を持ったクマネズミのことをいう。クマネズミはもともと運動能力が高く警戒心の高いネズミであるため、駆除がしづらいネズミだ。ネズミは一世代ごとの寿命が短いうえに一生で何度も子供を産む。そのため、毒エサを食べても生き残ったネズミ同士が子供を作ることで毒に強い耐性を持ったネズミが産まれてくることになる。
普通のネズミが毒や寿命で減っていく中、スーパーラットは出産のたびに増えていく。スーパーラットが出現した場合は、ネズミの胃液と反応して毒ガスを作る薬品であるリン化亜鉛を使用する必要がある。
ただし、リン化亜鉛は劇薬指定物であるうえ、子供やペットが誤飲してしまう危険性も伴う。ただでさえ捕獲が難しいとされるスーパーラット、無理やり捕獲を試みるより、専門家に依頼するのが確実に駆除できる方法だと言える。スタンド使いでなければの話だが。
「ドブネズミだって同じことが出来てもおかしくはないですよね」
「ひょええ......ネズミ怖いど......」
「ハーヴェストのおかげで絶対に近づかなきゃいけないわけじゃないのが有難いですよ。ありがとうございます」
重ちーはにへらと笑ったのだった。
「ところでジョルノ、あの農場から市内って遠いけど、ネズミ達はどうやって行ったんだど?」
「うーん......あんまり考えたくないけれど、たぶん、あちこちに餌場を作ったんじゃあないかな」
「うげげっ......」
「もしかしたら、ああいう、シャッター街とか......」
「......なあ、ジョルノ」
「はい?」
「............そういえば、やけに静かだど、このあたり」
「言われてみれば、一人もいないですね」
ジョルノは眉間にシワを寄せた。シャッター街とはいえど、井戸端会議をしていたり、椅子を出してのんびりしていたり、老人達はそれなりに日常を過ごしているものだ。この辺りのシャッター街は古くからやっていることも多く、通学路にもなっている。商店と住居が一体化しているタイプの場所なのだ。
「どんなスタンドか、見てみた方がいいかもしれないな」
「そうだど、いこう」
ジョルノは重ちーにハーヴェストの先行を頼みながら、自分も入ることにした。重ちーが狙われたらたまらないから、護衛がわりに犬を置いておく。
「異臭がする......」
シャッターが蝶になり、あたりに飛んでいく。
「魚屋......たしか、ドブネズミは魚や肉が好きだったな......人間で狩りの練習をしていたかもしれないが......」
ジョルノはぶわっと立ち込めた異臭に顔をしかめた。魚という魚が中途半端に食い尽くされ、冷蔵庫に穴が空いている。
「すごい食欲の個体だな......」
ハーヴェストがミツケタゾ!と口々に叫んでいる。嫌な予感しかしないが、ジョルノは意を決して冷蔵庫の穴を覗いて見た。
「これはッ......」
案の定、そこには魚屋の店主と妻と思われる人間がドロドロに絡み合い、溶け合い、えげつない形に固定化していた。ジョルノが驚いたのはそれではない。その塊がところどころ透明になっていたからだ。
「......たしかに、あるな。宙に浮いてる訳じゃあないみたいだ」
透明ななにかが混ざっているのだ。一体なにが?仗助から透明になるスタンドに目覚めた赤ちゃんを拾ったせいで、親を探すのに四苦八苦していると愚痴を聞かされていなければジョルノも気づかなかったに違いない。
その赤ん坊は生後半年ほどであり、オムツもなにも着ていなかったが丸々と太った元気な赤ちゃんだそうだ。その時点でジョルノは自分のように虐待されたり置き去りにされたりしたわけじゃないんだろうなと思っていた。赤ん坊にだって感情はある。大声で泣くのは愛されていた証だ。仗助たちがくる寸前までその子はたしかに親に愛されていた。
散歩か買い物かわからないが、オムツを変えていた時になにかがあったのだ。スピードワゴン財団が全力で探しても見つからない時点でなにかがおかしいのだ。痕跡がないのだ。なにも。最初は不幸にも事件か事故に巻き込まれたのだろう、と仗助たちは考えていたが、それでも見つからない。
アンジェロは時期的に合わない。音石は赤ん坊をつれた父親、あるいは母親にはいっていないという。ならば、形兆か今の持ち主にやられたのだろう、とジョルノは考えた。その先で生き残り、なんらかの事故か事件に巻き込まれ......。
「まだわからないけれど......連絡した方がいいな......」
ジョルノはハーヴェストたちと共に魚屋を後にする。そして重ちーに公衆電話を探そうと告げたのだった。
エキチカフロアは全域リニューアル工事のため本日より閉店しております。リニューアルオープンは6月下旬を予定しております。ご不便をおかけいたしますが、ご理解いただきますようお願い申し上げます。
「なるほど、こうやって人払いしてるわけか。スピードワゴン財団も考えるなあ......」
ジョルノがシャッターの前に貼り付けてある張り紙を見て呟く。
「えーっと......魚屋さんみたいに酷い目にあってる人はいないってことだど?」
「うん、そうだと思うよ。客はね」
「......お客さん?」
「そう、お客さん。そうだ、ハーヴェストに通り道を塞ぐよう伝えてもらえませんか?」
「あー、逃げたら大変だ!わかったど!」
ジョルノのゴールド・エクスペリエンスにより頑丈なシャッターは花びらのように散っていった。
入ってすぐの所にはS市の銘菓はもちろん、東北6県を代表する銘菓店が集結しているブースがある。
訪れたお客さまには、旅の良き思い出を、地元のお客さまには、馴染みの味や新しい発見を。リニューアルにより日常的にご利用いただける商品を多数取り揃えました。そんな看板がかかっていた。
おみやげ通りには飲食ゾーンもあるようだ。進んでいくとスイーツゾーンのようだ。
「......肉食だから、手前だな」
ジョルノは先に進むことにした。
「ゴールド・エクスペリエンス」
シャッターが復元される。
「ジョルノッ!?」
「逃げ出したら意味がないでしょう?」
「だけんど......!」
ジョルノはいうのだ。ねずみの駆除は、棲みにくい環境を作る「環境的防除」を重要視しなければいけない。そうしなければ殺鼠剤や忌避剤を使用する「化学的防除」や、機器類を用いる「物理的防除」の効果が半減してしまう。
逆にいえば、「環境的防除」を中心にすれば、「化学的防除」と「物理的防除」の効果が相乗的に働く。
その「環境的防除」の3つのポイントは、エサを与えないこと。巣をなくすこと。通路を遮断すること。
この3つのポイントを徹底すれば、ネズミは必ず防除できる。一般的にこのような施設では、ねずみの被害が拡大することは少ないが、共用部分の縦貫通孔や、上下に通じる電気ケーブル、ガス・水道などの管はネズミの移動経路になるから、塞いでおく必要がある。各階層で塞いであるかをチェックしなくてはならない。
ハーヴェストによりこれは完了した。
「よし、始めるか」
ジョルノは静かに侵入を開始した。
「ギギギッ」
それは不快なねずみの声だった。警戒しているようだ。威嚇だろうか。おそらくジョルノがここにいることはバレバレなはずなので、ゴールド・エクスペリエンスは発動したままで進む。
「ん?」
どうやら重ちーが援護してくれているらしい。無数のハーヴェストがジョルノの足下を通り過ぎ、声がした方へ這い上がり、その全身を覆い尽くす。うち数匹が食らいつき、短い腕をドスドスッと突き刺した。
「いない......?」
ハーヴェストたちは困惑している。立ち退いた先には誰もいないでは無いか。
「やはり早いな......」
ふとジョルノは振り向いた。ゴールド・エクスペリエンスのヴィジョンを出現させ、瞬時に臨戦態勢を取った。後ろの声の主に、今にも殴りかかろうとした。
ゴールド・エクスペリエンスが蔦を張り巡らせて、なにかをはじき飛ばす。だが、連打だ。とろけ始めた蔦はそこから切れてしまい、だいぶ減速はしていたものの、ジョルノの腹部に、鉛のような衝撃が走る。
何かが飛んできた形跡はないが、ジョルノが腹部を見るとなにかがめり込んでいた。ジョルノは唇を噛み、痛みに耐えながら拳を突き出す。 それは蛇になり、ジョルノの体に噛み付く。どろり、と溶けていくはずだった体はそれだけで止まる。舌打ちをしたジョルノは、また拳をかかげた。蛇は一度鉛玉に戻り、次は猫になった。
ジョルノの異変に気づいたらしいハーヴェストも支援に走るが、顔面めがけて飛んできたはずの鉛玉の反対側には誰もいない。弾いても、ジョルノの肩、足、そして顔。無茶苦茶な方向から飛んでくる。ゴールド・エクスペリエンスがそのたびに鉛玉を新たなる生命に変更していくが、攻撃がやまない。
ハーヴェストはなぜか見つけられない敵に困惑している。
無秩序な軌道で鉛玉がまるで鉛のように飛んでくる。音もない。法則もない。気付くのはいつもダメージによるもの。ネズミには……気配がまるでない。
ハーヴェストの拳によってえぐり取られ、真っ赤な血が噴水のように噴き上がるはずのねずみはたちまち姿を消してしまうのだ。
(どういうことだ......鉛玉を充填する気配がないぞ......)
疑問に思いながらも、ジョルノはゴールド・エクスペリエンスで乱打する。一瞬でもはやく耐性持ちの生命に変えなくてはならない。すると、再びジョルノの顔面目掛けて、鉛のような威力の鉛玉が飛んでくる。避けようとした先で、鉛玉が奇妙な軌道で足にめり込んだ。そのせいでのけ反り、ジョルノは倒れこむ。
「逃がすかッ……!」
ジョルノは今まで生成してきた生命、ねずみの天敵であるネコたちに命じる。そしてほぼ同時に転がりながら、体を起こし距離をとる。
「やっとみつけたッ!」
ゴールド・エクスペリエンスが拳を振りかぶり、数メートル離れた先のねずみ目掛けて全力で殴りかかる。ジョルノには届くという確信があった。だがねずみには当たっていない。命中しない。ジョルノは目を見開いた。まるで蜃気楼のようにねずみの体がすり抜けたのだ。
「またかッ......一体何の能力なんだ、一体……」
ジョルノに狙いをすましたかのように、鉛玉が迫る。避けるが異様な角度で跳ね返った。ジョルノは即座に対応し、また無力化しようと殴りかかる。
「また......すり抜けたッ!」
ジョルノの腹部に鉛玉がめり込む。すり抜けた鉛玉ではない。何故か真後ろ、つまりは背中。いつの間にか背中に鉛玉が突き刺さる。
「チッ……。舐めたまねをしてくれる!」
(でも……。居場所も分からないんじゃ戦い様がない。見える場所にはいない......?いや…......音も聞こえない。ただの幻じゃあなさそうだ。まるで別の場所から聞こえているようだ。どんな能力だ?)
ジョルノはこの瞬間に、まるで茂みのように結界を作りあげる。
「これでひとまず。アンタの攻撃は無力化した……」
鉛玉が迫る。ジョルノはその軌道を追わず、ゴールド・エクスペリエンスで軽くいなす。
「何度やってもッ!その攻撃は無駄だッ!」
しかし、次の瞬間、脇腹に衝撃が走る。ジョルノはダメージを受ける。
「何故……だッ......ゴールド・エクスペリエンスが……違う方向に.....」
ジョルノは気づく。ゴールド・エクスペリエンスが違うところを防衛したのは、角度をねじ曲げたからだと。このねずみは対象の角度を変える能力があり、光の角度を変えたことで蜃気楼が発生したのではないかと。
「成程……」
そして、確信するのだ。ねずみは複数いると。角度を変えられる突然変異と虫食いのような能力のねずみとに分かれていると。
「チッ……」
反射的な行動を制限されたジョルノは、既に意味をなさない蔦の結界を解除し、ラッシュするが、そのすべての鉛玉を防ぐことは不可能だった。
「グゥ……ッ!」
体中のダメージが蓄積し始め、視界を覆い隠していく。立つ事すら厳しいほどのダメージだ。
そのすべてをジョルノはあえて体に受ける。まるでサンドバッグのように全ての攻撃を受けた。
「…………やっと……。分かった……そこに……いるんだな……お前は……」
その拳は頬を抉らんばかりに、ねずみの体に直撃する。ジョルノの拳はようやく届いた。
「たしかに全部受けるしかないな、お前の攻撃は。だから分かったんだ、一度角度を変えられても、二度は変えられない……」
ジョルノは血を吐きながらも、立つ事を止めず。拳に力を入れる。
「そう、お前には無理なんだ。対象の真後ろをあてることだけは......。だから僕のゴールド・エクスペリエンスをねじまげて、むりやり当てていたんだ。その時だけは無防備になるから絶対にでてこない」
ギギギッとねずみの悲鳴があがった。次の瞬間、ハーヴェストたちが襲いかかる。生成した鉛玉から生まれた耐性持ちの天敵たちが誘導しているのだ。
恐るべき子供たちはハーヴェストに蹂躙され、自ら生成した毒から生まれた食物連鎖の先に食べられてしまった。
「これで、一体......!」
変化球を失ったねずみたちの攻撃が途端に単調なものとなる。
「飛んでくる方向さえ分かればこちらのものだ!」
なにせ毒を帯びた鉛玉というプレゼントをくれるものだから、あとはそれに案内させるだけなのである。いくらスタンド使いでも本体に無数のハーヴェストたちが襲いかかればなすすべもない。どうあがいてもねずみは、ねずみでしかなかった。
「これで、2体目......ッ」
最後はハーヴェストたちに塞がれている通気口から逃げようと必死なところを猫に食べられてしまった。
「これで終わり、か?」
ハーヴェストたちが歓声をあげる。
「あとはスピードワゴン財団に頼んで、ここに殺鼠剤をばらまいてもらえば完了だな」
気づけばスタンドの溶解は最小限だが傷だらけだ。治療するにしたってここは不衛生すぎる。場所を移動しなければならない。
「ありがとう、ハーヴェストたち。うん?いや、やめた方がいい。ここの個体は死肉が好きらしいからな、さすがに仗助先輩でも僕でも生き返らせることはできないよ」
ネズミが鎮圧されたあと、ジョルノたちはスピードワゴン財団による感染症などの検査を受けることになった。頭のてっぺんからつま先まで調べ尽くされ、食品工場以上に徹底的に清潔にされた。社王町で一番清潔なのではないかと思うくらいだ。
仗助は虫食い以上に生成された人間の煮凝りをクレイジーダイヤモンドで治す作業に追われ、最終的にはしばらく豆腐はみたくないと軽い四角恐怖症にかかってしまった。
そして。
「ジョルノ、お前が見つけた透明な遺体だが、DNA鑑定の結果ジジイが見つけたあの赤ん坊と親子関係が認められた。母親のようだ」
身元が判明した赤ん坊を親元に返せるかどうかスピードワゴン財団が調べた結果がジョルノの手元にある。駆け落ち同然で結婚した男に逃げられ、必死でシングルマザーをしていたらしい母親。
それぞれの実家などを当たってみたが、たった1枚の報告書を見れば芳しくないことは直ぐにわかった。スタンド能力に目覚めていなければ、ジョルノの施設に預けられることになるだろう。
一歳未満の養子縁組はいつの時代も人気だ。だが、現状不安になっただけで周りを透明にしてしまい、ジョセフ・ジョースター以外に懐いていないとなるとそうはいかない。これからどうするのかはゆっくり考えるそうだ。
「......問題は、母親になにがあったかということですね」
「そうだ。仗助が直してくれた遺体を検分してみたんだが、脊椎損傷による出血多量だ。数時間は生きていたと思われる。あのアーケード街に向かって這いながら助けを求めようとしたが、透明なために誰にも気づかれず死んだらしい。仗助たちは気づかなかったようだが......そのあと虫食いの子供に運ばれたようだな。おそらくは爆発かなにかに巻き込まれたのだろう」
「爆発ですか」
「調べてみたが、あのあたりで爆発による事件や事故は起こっていない」
「......不気味な事件ですね」
「全くだ......この街のどこかにあの赤ん坊の母親を殺したスタンド使いが潜んでいるのかもしれねえ......」
承太郎はやりきれないのか帽子のつばを抑えた。ジョルノは知らないがアメリカに残してきた妻と子供のことが胸を去来していたのである。
じっと報告書を見つめていたジョルノだったが、意を決したような顔で承太郎を見上げた。
「あの赤ん坊が母親に死ぬ直前まで愛されていた。これは捨て置けない事実です。空条さん、犯人探しをするというのなら、手伝わせてください。是非」
「......ジョルノ、お前......」
ジョルノは母親に恵まれなかったから母親の無念は正直よくわからない。だが飛来明里という自分の身を犠牲にしてでも子供を生かそうとした母親。そして蓮見琢馬というその子供が辿っている数奇な運命をそばで見守り続けている自覚がある。
あの赤ん坊が蓮見琢馬のようになるかはわからないが、可能性は潰しておくべきだと考えたのだった。ほとんど衝動的な考えだ、いつものジョルノであればここまで直情的になりはしない。
その変化を見逃す訳もなく、静かに見つめていた承太郎はゆっくりと頷いたのだった。
「大丈夫ですか、重清君」
「おー、ジョルノ!来てくれたんだ......うれしいど!」
「すいません、僕が気づくべきでしたね。相手がねずみなんだからそもそも感染症のウィルスを警戒すべきだった」
「それは仕方ないどー......オラもまさかこれがスタンドじゃないとは思わなかったど」
そこには僅かにただれた跡があり、周りが赤くなっているのがわかる。
重ちーはどうやら感染症にかかってしまったようだ。スピードワゴン財団により大学病院に担ぎ込まれ、それなりの治療をすることになってしまった。
9匹いた虫食いの子供たちを特定するのに、たくさんハーヴェストが彼らに接触した。スタンド毒の中には人間を苦しめる方向に進化した個体もいたらしかった。
発症初期には発熱、頭痛、腹痛、嘔吐、筋肉痛等のインフルエンザに類似した症状を示した時点で治療されたのが幸いである。そのまま放置していたら発熱と同時に咳が出始め、その後、胸腔中に浸出液が急速に貯留して呼吸困難とショックによって高い死亡率が報告されている病気だったようだ。
「これ、お土産のサンドイッチです」
「ありがとうだどー!」
「どれくらいかかりそうなんです?」
「えーっとォ......1ヶ月くらい?オラの病気、いろんなとこに教えなくっちゃあいけないらしいんだど......なんか大事になっちゃって......」
どうやら重ちーがかかった感染症はこのあたりで感染例がなかったらしい。しかも政府に報告が義務付けられている感染症のため、スピードワゴン財団といえども隠し通すことはできなかったようだ。
さすがにハーヴェストがなかなかフィードバックされない性質があるとはいえ、限度はあるとのことである。退治するためとはいえ、ジョルノと共に長い間あの空間にいたのだから無理もない。曝露する表面積の違いなのだろうか。
「ママもパパも心配させちゃったけど......オラ、これでいいんだァ......みんな、これで安心できるど」
「たしかに、そうですね。違いない」
にへらと重ちーは笑ったのだった。
ねずみA
能力:仗助たちの戦いを見ていた子供が学んだことで発現したスタンド。物質の運動する方向を変えることが出来る。これで身を隠したまま自分の居場所を撹乱したり、兄弟の鉛玉を打ち込んだりすることが出来るようになった。さらに、人間の手足を機能させなくする事も可能。 だが一度曲げたものをもとにはもどせず、一度解除しなければならない。
ねずみB、ねずみCは虫食いの劣化版のスタンドであり、闘争本能にかける。いずれのねずみも死肉が好きなようだ。