ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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ゴールド・エクスペリエンス2

春は残酷な季節だ。

 

春を残酷と感じるのは、始まりは痛みであるからだ。始まりが痛みであるのは、過ぎ去って還らないものを後ろに残して始まる、そのことが「痛い」のだ。

 

人生は過ぎ去って還らないけれども、春は、繰り返し巡り来る。一回的な人生と、永遠に巡る季節が交差するそこに、桜が満開の花を咲かせる。人が桜の花を見たいのは、そこに魂の永遠性、永遠の循環を見るからだ。それは魂が故郷へ帰ることを希う(ねがう)ような、たぶんそういう憧れに近いのだ。

 

始まりを繰り返すことの痛みは、終わりへ向かうことの痛みでもあるだろう。花は儚いと人は言う、自分の人生がそうであるように。

 

 

 

あまりにも暇すぎて、暮らしの哲学を読んで助けを待っていた僕は顔を上げた。肩の痛みがだんだん激しくなってきていて、方向と移動速度から助けにきてくれた人が呼び鈴を鳴らしてくれたことがわかったからだ。

 

ドラァッという乱暴なノックがして、豪快にドアが破壊、粉砕、玉砕する音がした。きっと歪ながらもぎりぎり原型を保っているドアが出現するに違いない。かすかに仗助先輩の声が聞こえてくる。口笛なのは気の所為だろうか。こっちは身動き出来なくて困っているのになんて人だ、全く。

 

「おーい、ジョルノー!生きてるかァ!」

 

「なんとか生きてます、大丈夫。一食や二食抜いたって人は死なない。君のご自慢のパワーとスピード、そして治癒力で僕のスタンドを無力化してくれ」

 

声を張り上げないとなかなか届かない。お隣と真下が独身の警察官でよかった。今、ご近所迷惑なんて考えていたら僕は即身仏になってしまう。

 

「いつからラピュタになったんだ、この部屋はよォ!」

 

「ついさっきですね」

 

「ついさっきだァ!?んだそりゃ、無茶苦茶だな!つーかこの惨状で呼んだの俺だけ?」

 

「真っ先に思いついたのが君だったんですよ、仗助先輩。家から出たいってあれだけいってたじゃあないか。感謝してくださいよ」

 

「ま、まァ......正直、ラッキィ!って思ったぜ?それにありがたい限りだけどよォ......想像以上に話が拗れちまってピリピリしてるし......でもこっちもすげえな別の意味で」

 

「他の人に連絡を入れようとしたら、電話線から受話器まで百合に変えられてしまいまして」

 

「うわっちゃー、悪戯にしちゃすぎてんじゃねーの?」

 

「もっといってやってくださいよ、仗助先輩。ゴールド・エクスペリエンスのやつ、完全に反抗期なんだ。もはやどの生命にカウンター能力が備わっているかわかったもんじゃない」

 

「あー、切れたら静かになってくタイプかァ......お前そっくりだわ。容赦のなさとか」

 

迂闊に殴れないじゃねーか、と仗助先輩の困ったような声が聞こえてくる。

 

「今どの辺にいんだよ?」

 

「部屋から一歩も出られない......スズメバチに追い立てられましてね。起きたらこうなっていたんですよ」

 

「こりゃまたすげーなァ......鳩でも捕まえてくれと言われるかと思ったぜ」

 

玄関の扉を閉めてチェーンをかけた仗助先輩は靴のまま入ってくる。無理もない、靴下で入ったら怪我をする。

 

「んだこりゃ、ここだけ植物園かよ」

 

「あれですよ、ガラス玉の中で循環する生態系のやつ」

 

「あー、やけに金がかかる趣味の......なんだっけ、名前思い出せねえや」

 

植物が朽ち果てていくときの微かな青臭い、植物の髄から溢れる匂い。あたり一面に夜気で凍りついた木のにおいが立ち込めていた。日差しが当たるところには若葉の匂いと湿った土の匂い。

 

その花はまばゆく日に照らされてすーんとした香りが辺りにただよい、熟した麦が香ばしい匂いを放つ。斧による鋭い切口から官能的な甘さのまといつく匂いをたてている生木の香りが熟れている。橘の花が、折からむされて芳香を伝える。

 

香りの坩堝なのだ、不愉快にならない程度には。

 

連絡手段だったはずの電話やパソコンといった類のものは、すべて花に変えられてしまっている。白い百合は大きく、瞑想に耽る異国の小さな動物のようにもったりしていた。ダリアに似た花もあった。機転のきかない中年女性を連想させるいかにも鈍重な花だった。花はいくつもの黄色い細かい花弁をつけている。

 

懐しい草の匂いが鼻をついた。ずっと昔のピクニックの匂いだ。五月の風はそのように時の彼方から吹き込んできた。どうやら窓まで草木に変えてしまったようだ、ゴールド・エクスペリエンスは。

 

「外からバレたらまずいな」

 

「外にはまだ出てねえけどさ、時間の問題じゃねェの?」

 

「できれば人目につくまでになんとかできませんか?」

 

「あーくそ、ねずみの件といい、みんな俺に頼めばなんとかなると思ってるだろ!その通りだけど疲れるぜ!」

 

悪い気はしねーけどさ、たよられてるから嬉しいし。ボソッとやけにでかい本音を照れ隠しにいいながら、仗助先輩がクレイジーダイヤモンドを発動させたようだ。カウンターがどこに仕込まれているかわからない。なにが植物になっているかわからない。そう伝えたからか、仗助先輩は慎重に進行の邪魔になるものだけを元に戻しているようだった。

 

「ゴールド・エクスペリエンスの本気っつーか、暴走っつーか、はっちゃけっつーか......とにかくすげえなァ」

 

「全くだ、おかげで完全に鼻がイカれました」

 

百合とさんざしの匂いとだけ判って、あとは嗅覚が慣れない。何の花とも判らない強い薬性の匂いが入れ混って気分が悪くなるくらいに刺激する。木々の若芽のくさむらが、垂れた房々をもたげてほのかに揮発性の匂いを発散するものだから、まさに混沌だ。

 

「ジョルノー、どこだ?」

 

「ここです」

 

「待ってくれ、そこまでたどり着けねえんだけど」

 

「だから呼んだんですよ、君を。下手したら二度と出られない気配がしてきたので」

 

「質量保存の法則ガン無視だもんなァ......こりゃすげえ」

 

僕がいる部屋に向かうにつれて、行く手を遮るように蔦が生い茂っている。

 

仗助先輩がラピュタといったのはまさにその通りで。滅びの呪文により破壊されるはずが、樹木の根っこが張り巡らされて飛行石ごともっていってしまったあのあれなのだ。蔦や根が目の前にあるのだ。

 

さっきまで僕もなんとか出ようと足掻いていたのだが、死んだ皮膚である爪までアゲハ蝶として飛んでいってしまった。人間指は爪がないと力が入らないのだ。おかげで細かい作業が全くできない。

 

下手したら髪の毛や歯まで逃げ出してしまいそうだったから、僕は抵抗を辞めているのだ。ゴールド・エクスペリエンスが本気になったら僕はダルマ状態になってしまう。能力を当てにして体を張りすぎたせいだ。さすがにそこまで言えないので、僕は仗助先輩を待つしかないのだ。

 

「うへえ......どっかにカメいねーだろうなァ?」

 

「スズメバチはいましたが......どうでしょう」

 

「それも嫌だ!」

 

根が、老いた蛇の肌のように灰白色に乾いてささくれだって、しぶとくうねっている。木の根が静脈のように小道に浮き上がっている。場所をつたえてくる仗助先輩に、その先だと告げる。クレイジーダイヤモンドがあるべき姿に戻すにつれて、なにかが落下する音が近づいていた。

 

「うっわ、びしょびしょじゃねえか......下の階やばくね?」

 

「さすがにわかりません......」

 

「うわあ......」

 

椿のトンネルは長年の風雨に晒されて土を奪われたせいか、椿の幹の下から曲がりくねった裸の根が幾本も顔を出し、からまり合っている。仗助先輩は自慢のブランドの靴が汚れたとぼやいた。しかもその表面は雨に濡れてなまめかしく、浅川はふと巨大な怪物の腸の中を走り抜けているかのような感覚に陥ってしまう。気持ち悪いとのこと。

 

「ゴールド・エクスペリエンスはあれか?ジブリでも見た?」

 

「どうでしょう?最近見てませんね」

 

「金ローやらねえもんなァ、最近」

 

足音が聞き取れるくらい近づいてきたようだ。

 

「なあ、まさか木の中にいるとか言わねえよなァ?」

 

「なんでです?」

 

「古い根っこがさ、庭土の上にもりあがってんだよ。でっかいコブみてーなのがぼこぼこしてて腫れてる。人一人分くらいありそうな感じの」

 

「いえ、僕はもっと奥です」

 

「そっか、よかった」

 

僕はここです、と目の前の木々を叩いてみた。染み込んだ春の日が、深く草の根にこもっているのが僅かな隙間からうかがえる。カウンター能力が付与されていたらしく、どっかと僕は尻もちを着いた。眼に入らぬ陽炎を踏みつぶしたような気分になる。見上げた先には、木の根が、養分を吸う毛根の吸いあげる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束のなかを夢のようにあがってゆくのがみえる。

 

養分を吸い上げる木の根はたこのように、いそぎんちゃくの食糸のような毛根をあつめて、その液体を吸っている。切り崩された赤土のなかからにょきにょき女のももが生えていた。

 

「......スプラッタな光景がありますが、全部ゴールド・エクスペリエンスの仕業なので安心してください」

 

「あのよ......わかってても木々にしれっと紛れ込んでる人体とか触りたくねーよッ!どこの暗黒小説だッ!」

 

たまらず仗助先輩はさけぶ。

 

だんだん目の前の木々の壁が薄くなっていく。そのうち枝や蔓枝だけが残り、大樹の幹を捕えた綱のように、ぐるぐる巻きに巻きながら攀じ登っている蔓だけになっていく。弓弦のように張りきっていたそれは、払いのければあとはただのカーテンだ。

 

「......仗助先輩」

 

「どうした、ジョルノ」

 

「少しまずいかもしれない」

 

「なんだって?」

 

「体の一部が昆虫化し始めてる」

 

「もっと早く言えよ!!」

 

仗助先輩はあわててかけこんできた。

 

僕から発生した巻蔓は、空の方へ、身を悶えながらもの狂おしい指のように、何もないものを捉えようとしてあせり立っている。かすかに凌霄花のうぜんかずらのにおいがした。

 

「うっげえ......ぐろいなあ、おい。大丈夫か?」

 

「なんとか」

 

「間に合ってよかった!あーくそ、よかったー!」

 

クレイジーダイヤモンドが僕を修正してくれる。爪などがあるべき場所に戻っていくのがわかる。

 

「......おめー、知らないうちにあっちこっちが治せたっつーことは、ゴールド・エクスペリエンスで埋めてやがったな?」

 

「パーツを、ですね」

 

「ゴールド・エクスペリエンスが切れた気持ちがわかる気がするぜ」

 

「なんのことです?」

 

「ここまで危害加えられてんのに、なあにがゴールド・エクスペリエンスのイタズラだよ。お前のスタンド、ほんとよく似てるよなあ」

 

仗助先輩はゴールド・エクスペリエンスを呼びつけるよういった。

 

「ダメなんです、出てこない」

 

「まじか、重症だな。ここ数ヶ月で思ったんだけどよォ......アンジェロや音石がいなくなってから、おめー感情を表に出したか?」

 

「どういう意味です?」

 

「なんつーか......スタンドってのは精神状態が反映されるって承太郎さんが言ってただろ?」

 

「はい」

 

「あの赤ちゃんのお母さんが誰かに殺されてるってわかってから、様子がおかしいぞ」

 

「そうでしょうか?」

 

仗助先輩はうなずいた。

 

僕は爽やかな性格の中に隠れた熱い魂をもつ、難しい性格だと臆面もなく仗助先輩はいうのだ。一応優しいけど、怖い。ある程度根性というか、我慢のできる人じゃないと多分ジョルノの性格にはついていけないと思うと。

 

敵への容赦の無さはNo.1だ。でも善悪の分別はジョルノなりにあるんだろう。人格が完成しすぎている。それから、冷たさも感じる。仲間を手駒のように扱う冷たさの一歩手前って感じ。

 

冷酷ってわけではないんだけどすごく冷たいイメージがある。全てに達観しすぎていて後半なんかもう人間味を感じない。信頼してる人間とかは何があっても守るけど、自分自身のことは盤上の駒としてみてるような気もする。

 

覚悟が決まった時の爆発力の中でも

手段を問わずに完遂する、成し遂げる為なら何でもする方面ではNo.1だと思う。信念に則った黄金の意志みたいな。

 

黄金の精神を軸に持っているけれど、それを外れない範囲ならどこまでも合理的冷酷になれる。

 

原動力は情熱だけど、幼少期の経験からか冷徹さと合理性が言動に表れがちな感じ。動揺したり、態度が丸かったりと十分に年齢相応な面もあるんだけど、エグいときには本当にえげつないから、そっちが印象強くなる。

 

周りを傷つけて憚らないが、人を惹きつける。他者の犠牲を省みない。仲間の死とかには結構感情的で避けようとしてる。むしろ、結構自分自身が犠牲になることで最終的に仲間が勝利するパターンばかりだ。まあ、そういう場合でも結局自分自身も助かるように計算しての行動。つかみどころがなくて計算高いってイメージ。

 

「ズバズバ言いますね」

 

「まあ聞けってば。ジョルノは怒ったら冷静に理詰めになる感じだろ?そのうち怒りはどっかいっちまうと思ってるが、実はそうじゃあないとしたら?」

 

「まさか、ゴールド・エクスペリエンスが溜め込んでいるとでも?」

 

「いやー、どっちかっつうと精神が不安定でスタンドの力がやばいのをうまくガス抜きしてる感じじゃねーの?」

 

「それにしてはずいぶんとイタズラが過ぎますね」

 

「お前が発散するのを待ってんだろ」

 

「なんだって?」

 

「ゴールド・エクスペリエンスはそんなやつだろ?わりとさ」

 

「そうです?」

 

「本人が自覚出来てねえからこんなことになってんだろーが。今回のだって、俺に助けを呼ぶのはOKなんだろ。だってスズメバチもなにも攻撃してこなかったしよォ。今のゴールド・エクスペリエンスなら犬や猫どころじゃねえ、もっともっとヤベー奴をつくったってちっともおかしくはないんだぜ?」

 

「......」

 

「納得がいかないって顔してるなァ......そうだ、ジョルノ。今から出かけようぜ」

 

「えっ、いきなりなんです?」

 

「納得はあらゆるものに優先するんだって顔してるからよォ......ほんとはまだって承太郎さんには言われてるけど、まあいいや。ジョルノにあわせたいやつがいるんだ。っていっても俺も会うのは初めてなんだけどな。いこうぜ」

 

「???」

 

よくわからないまま、僕はカバンをもって官舎を後にすることになる。なお、水も合わせて生み出された生命と判定されるようで、物取りにあったかのような大惨事を除けばご近所付き合いに支障が出そうなものはなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーソンの近くにある地図にはないはずの小道。そこには、いつの間にか少女が立っていた。仗助先輩くらいの美少女である。髪はオールバックで、ワンピース姿という服装をしている。隣には愛犬だというアーノルドという犬がいた。

 

「仗助先輩......彼女は?」

 

「康一に聞いたんだけどよォ......この人は杉本鈴美さん。アリスと一緒で幽霊らしいぜ」

 

「!」

 

「康一......露伴ちゃんの友達だったわね......ということは友達なのかしら?」

 

「露伴ちゃん?」

 

「私、15年前に死んでいるのよ」

 

彼女はたんたんと身の上を語り始めた。今から15年前に、殺人鬼が杉本家に押し入り、家族と愛犬と共に杉本鈴美は殺された。 享年16歳。

 

「私がここにいるのは、まだ殺人鬼が捕まっていないからよ。それどころか、被害者は更に増え、この町は他の町の7倍以上の行方不明者が出ている。この「振り向いてはならない小道」に、殺人鬼に殺された人の魂が空を上っているわ」

 

なるほど、この世に未練があるから、自ら進んで地縛霊になっているというわけか。

 

「あなたといい、康一君といい、幽霊をあっさり信じてくれるなんて思わなかったわ」

 

「二度あることは三度あるといいますからね」

 

「アリス・ランドって子は気の毒ね、スタンドのせいで成仏できないなんて」

 

「ここが幽霊の通り道ならサウンドガーデンもいそうなものですが、いないんですね」

 

「ここはスタンドではない冥府とあの世の境目だもの。あの世にとどまらせようとする力と引きずり込もうとする力は相反するわ。出会わないのが運命なのよ」

 

「なるほど、そういう星の巡り合わせってわけか。ところで仗助先輩、彼女と僕をあわせたのは一体?」

 

不思議に思って仗助先輩に視線を投げると、なにやら写真を杉本鈴美さんに見せているところだった。次の瞬間に彼女の眼差しがきつくなる。

 

「ええ、ええ、この前天に登っていったわ、間違いない。体の半分が吹き飛んでいて、血だらけで、最後まで赤ちゃんのことを心配していたわ。まだ死ねない、まだ死ねない、死にたくないって」

 

僕は想像するだけで悲しくなった。

 

「きっとあいつの仕業なのよ」

 

「犯人が誰か知っているんですか?」

 

「わかるわ、だって私をころした殺人鬼ですもの」

 

「なんだって!?」

 

僕の反応に嬉しそうに彼女は笑うのだ。

 

「私はずっと待っていたわ、15年間。あなたたちのような人たちを。あなたたち生きてる人間が町の誇りと平和を取り戻さなければ、意味が無いの。耳を傾けてくれる人がいて、嬉しいわ」

 

そこに浮かんだ涙を見て、僕は無意識に拳を握りしめていた。仗助先輩に指摘されてようやく気づくのだ。

 

「行き場のない憤りとかよォ、ぶつけ先が見つかってよかったじゃねえか」

 

僕はバツが悪くてなにもいえなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1989年からDIOの協力者が事件や事故に巻き込まれる、もしくは消息不明となりスピードワゴン財団の手腕をもってしても追跡できない。なんとも不気味な案件が山のように連なり始めていた。

 

DIOの協力者は世界中の経済界をはじめとした様々な分野に根深く入り込んでおり、排除する訳にも行かず監視をするのみで手をこまねいていることもよくあった。ゆえに、その監視対象がことごとくいなくなるのは財団側として危機意識を抱くのは当然である。

 

それが水面下で行われている暗殺あるいは仲間の勧誘だと気づいたのは、スピードワゴン財団職員の恋人が内通者の1人だと判明したからだ。

 

スピードワゴン財団が組織を挙げてDIOの協力者を暗殺する人間を追いかけている中。男はいくつかの候補地から決行地点を選び、世界中を移動しながら必要な特注の狙撃銃、偽造の身分、偽パスポート、衣装や小道具、入出国経路などを抜かりなく用意し、暗殺と行方不明の手引きを遂行していた。

 

スピードワゴン財団は全国の国境やホテルから毎日届けられる入国者・宿泊者リストを洗い、何度も追い詰める。その度に彼は寸前で逃げ、何度も偽造パスポートを取り替えて変装を変える。その途上においては、ホテル以外の宿泊場所を巧みに得るなどして、時間を稼ぎながら標的を目指す。

 

当初、汐華初流乃にDIOの協力者の居場所を聞き出そうとしたスタンド使いの男は、その男ではないか、と言われていた。スピードワゴン財団職員に成りすますという大胆不敵な犯行にもかかわらず、未だに見つからないからだ。だがここまでみつからないとなると、手引きした男と任務を遂行した男がいることになり、背後に組織を感じざるをえなくなる。

 

それはあたっていた。

 

スピードワゴン財団が見つけられないのは無理もない話だ。そのスタンド使いは初めから存在していない。ただしくは本体とスタンドの組み合わせはあとから生成されたものであり、本体はすでに出国しているからである。

 

その男と接触した後、行方不明という自由を勝ち取る恩恵を預かるかわりに、なにかを失った男がここにいた。

 

今なおジョースター殲滅の闘志を燃やす男の名はジョンガリ・A。推定12歳にしてDIOに心酔し配下となったのだが、監視に優れたスタンド故に別の国に潜伏していたため、DIOのために戦うことなく全てが終わってしまった哀れな男だ。同年代のボインゴたちとは異なり、エジプトに残れなかったことを嘆き、悔やんでいた。

 

10年振りにジョンガリと再会した支配人は随分と雰囲気が変わったように思った。

 

「軍人か......なかなか頑張ってるじゃあないか、ジョンガリ坊や」

 

久しぶりにあった少年は復讐に闘志を燃やしたまま青年となっていた。10年はそれだけ人を変えるのだ、見た目も心も。アメリカの軍人となっていたジョンガリは休暇もかねてこの街に訪れているという。普通なら京都あたりが観光のセオリーだろうに、わざわざ東北地方なんてディープなところを選ぶ時点で支配人は目的がわかっていた。

 

「俺を殺しに来たか?ジョンガリ坊や」

 

「お前がDIO様を裏切って日和見に走ったのは知ってるぜ。だがまだ殺さない。お前には利用価値があるからな」

 

「利用価値ねえ......23のクソガキにんなこといわれるとは思わなかったが......まあ本気なんだろうな。お前はやると言ったらやる男だ。そういう目をするようになった」

 

支配人はジョンガリを見つめる。

 

「それにしたってなあ、ジョンガリ坊や。なにしてたんだ?これは軍人という経歴も含めて言ってるんだが」

 

「どういう意味だよ」

 

「10年間も一体アンタ何やってたんだ、と聞いてるんだ。だってそう言わざるを得ないだろう?軍人になってるヒマがあったらさっさと空条承太郎の一人や二人殺しちまえばいいものを。何こまねいてる。......いや、何を企んでる?」

 

支配人は違和感をぶつけるのだ。ジョースターの血統にとどめを刺す時、ジョンガリの人生はやっと始まる。それほどまでに心のささえだったDIOを奪った空条承太郎が憎い。

この、あまりにも重々しい言葉は、これまでジョンガリがずっと心の支えなしで生きてきて 、そして長年の恨みをやっと果たせるっていう万感の思いが込められている。

 

だが、DIOが死んでからもう10年が経つ。ボインゴみたいに新しい人生を歩もうとして頑張っているとか、ポルナレフや空条承太郎みたいに新しい敵と対峙して戦いに生きている、ならいざ知らず。

 

ただの軍人として生きていながら、呑気に世界中のDIOの協力者に空条承太郎の復讐を持ちかけて賛同しなければ殺すなんて遠回りしなくてもいいだろうに。そんなにDIOを殺されてショックならさっさと空条承太郎を殺しに来ればいい。そう、支配人はいった。

 

空条承太郎が気づいていないのだから、なにもしていないのはわかる。そう付け加えた。

 

「よく知ってるな」

 

「そりゃこの街に潜んで何年になると思ってる。腕がなきゃスピードワゴン財団に目をつけられてるさ。それなりのつてはある」

 

空条承太郎が高校生のころ。いや、結婚したとき、赤ん坊が生まれたとき。復讐なんてものは、そういう幸せの絶頂で殺すのがセオリーだろう。なのにジョンガリはずっとずっと何もしなかったし、していない。

 

いや、あれからずっと殺ろうとしていて、ことごとく失敗して10年だったら笑うが、軍人だ。スナイパーだ。武器はあるし腕はあるし、いつだって殺れるはずだが、やらないのだ。だからこそ支配人は問いかけるのだ。

 

「何を企んでる?ジョンガリ坊や」

 

ジョンガリは不敵に笑うだけだ。

 

「まだだ、まだ時期じゃない」

 

「お前にしちゃずいぶんと慎重だな」

 

「慎重にもなるだろ、俺だから」

 

たしかにジョンガリのスタンド『マンハッタン・トランスファー』は空気の流れを読み、あるいはその銃撃の反射の中継地となる能力だ。ゆえにコンプレックスがあった。

 

ホル・ホースは自分のスタンド銃でスタンド弾を自由に撃てたし自由にそれを消すコトが出来た。だからエジプトに残れたし、ジョンガリは残れなかった。同じ盲目のンドゥールもまたジョンガリより優れていたから残れたのだ。

 

ジョンガリ・Aはちゃんと銃を持ち込んで組み立てないといけない。そしてスタンドを撃つコトも出来ない。明らかに監視と暗殺に向く能力だった。出来ることは「風や空気の動きを感知する(人や物の動きがわかる)」ことと、狙撃衛星として弾道を変えること。

 

「スタンドを強化するために入隊か......熱心なこったな。しかし、そこまでお前狂信者じゃなかったように思うんだが、俺の記憶違いか?」

 

「そうだな、記憶違いだ?なんせ10年振りだからな、会うのは」

 

「そーかい、ならそういうことにしておこうか」

 

10年にも及ぶ恨みのチグハグさに疑問は覚えるものの、ジョンガリが口を閉ざしたために支配人は会話をきりあげた。

 

「で、今更この老いぼれに何の用だ?」

 

「汐華初流乃と接触しているな?」

 

「......驚いたな、もう掴んでやがるのか」

 

「いずれドリーム・シアターをつかってもらう時がくる。それまでせいぜい営業するんだな」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「医療ミスで息子がしぬな」

 

「......誰の入れ知恵だ、ジョンガリ坊や」

 

「何の話だよ」

 

支配人はためいきをついた。

 

「あれ、閉館しないんですか?」

 

今年を最後に閉館すると書いてあったはずの張り紙がなくなっている。B級ホラー映画にハマったのか、最近足繁く通うジョルノが聞いてくる。

 

「常連客に熱心に口説かれちまってね、俺もなかなか焼きがまわったなァ」

 

 

 

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