むせかえるような花の匂いに目を覚ましたオレの前には、信じらんねえ光景が広がっていた。見渡す限りの蒼い空と綿菓子をちぎったような白い雲、青々とした緑のアーチには、むせかえるようなバラの大群がひしめき合っている。
いろんな色のバラがある。蒸し暑い夏の日差しが照りつける。太陽は真上だ。かさかさの口の中に違和感を覚えて、ぺっと吐き出すと、葉っぱが飛び出してきてぎょっとする。
オレがぶっ倒れていたところは、どうやらユリの花畑のようで、数えきれないほどのユリが延々と咲き誇っているのが見えた。なだらかな丘に広がる花畑。寝っころがっていたオレの形通りに、ぼっきぼきに折れている、見るも無残な形になっているユリがある。
いつもの癖でスタンドを呼び出したオレは、いつものように傍らに姿を現した相棒にほっとする。よかった、スタンドが使えなくなっちまったわけじゃあねえんだな。元通りの形に復元してくれたスタンドを退散させて、とりあえず、そそくさと芝生が続いている遊歩道に移動した。
ずいぶんと整備されている庭園だ。区画ごとに迷路のように背の高い緑色のアーチが道を作っている。こんなとこ、小学校の遠足いらいだぞ、なつかしいな。でも、今はそっちに脱線するわけにはいかないんだよ。
すっかり土っぽい私服から砂ほこりとユリの葉っぱ、花粉を乱暴に払いながら、まだまだ頭がぼんやりしちまってるオレは、一体何があったんだよ、全然わかんねえぞ、と頭を抱える羽目になった。
「………どうなってんだよぉ、くっそ」
絶叫する気力すらわかねえと、口元が無意味に笑っちまうことを今知った。オレはこんなところに来た覚えはねえし、行かされた覚えもねえ。気付いたらここにいたんだ、わけわかんねえぞ、なんだよそれ。
足元にあった石ころを思いっきり蹴り飛ばしながら、はああ、と大きくオレはため息をついた。ぼんやりとした記憶がやっとのことで目を覚ました。いや、あった。ここに連れてこられる理由がたった一つだけあったこと、たった今思い出したんだよ。
「スタンド使いだったのかよ、あの子」
思えばオレの傍で待機してたであろうスタンドをまっすぐに指差して、おにいちゃんたち、と口にした時点で警戒すべきだったのかもしんねえなあ。オレがおんぶしてる変なおにいちゃんと口にした時点で、おかしいと判断するべきだったんだろうなあ。
オレのスタンドに気付いたのは、今のところジョルノとあの子だけだったわけだから。でも、生まれて初めてオレ以外にスタンドが使える奴にあったばっかだって言うのに、ああそうですか、気を付けます、なんていう訳にはいかねえだろうがよ。
ジョルノもオレもスタンドが何なのか、なんてはっきりと知ってるわけじゃあねえ。スタンドが使えなくても、スタンドは見えるっていうやつがいたって、あーそうなのか、って信じちまうレベルなんだから。
その結果がこれだけどな、笑えねえ、笑えねえよ、くそが。オレの頭の中では、うわああああんって大泣きしている女の子の悲鳴がリフレインしていた。
お兄ちゃん、死んでくれる?なんて、とんでもねえことをほざきやがった女の子。あまりにもぶっとんだ発言に頭がオーバーヒート起こして、理解することを全面拒否やがったせいで、状況把握すんのがおくれちまった。
どういう意味だー?と問いかける前に、女の子はおやつまだー?とでも聞くような気軽さで続けやがった。
「わーい、わーい、うれしいなー!×××のお友達になるってことは、死んでくれるってことだもんねえ!仗助お兄ちゃんもずーっと一緒にいてくれるんだー。ねえー、早くー早く死んでよー、ねえねえ早く死んでよー、ねえ早くー。ねえ、なんで死んでくれないのー?あたしの言うこと聞いてくれないんだー!仗助お兄ちゃんのうそつきぃ!」
女の子はジャックには×××のお友達しか会わせてあげないんだからって頬を膨らませて怒る。もちろんオレは断った。速攻で断った。なんだって死ななきゃいけねえんだよ、意味分かんねえから。
あたりまえのことをいっただけだってのに、まるで意地悪したこっちが悪い、みたいな態度で女の子のきらきらした大きな目がうるうるになっていく。あたしのいうこと聞けないの!?やだやだやだやだ、そんなのやだぁ!っておもちゃを買ってもらえない子供みたいなダダのこね方するもんだから、そのあたりでようやくオレはこいつは普通じゃあねえと気付いた。
女の子はわんわん泣きわめく。まるでパパとママでもよんで、怒ってもらうんだから、とでも言いたげに、思いっきり声を上げて泣きわめいた。薄暗い公園の中で女の子のわがままが溶けていく。
「うえーんっ!仗助お兄ちゃんが意地悪するー!ひどいよー、ひどいよー、仗助お兄ちゃん酷いんだよー!仗助お兄ちゃんがねー、あたしが死んでねっていったのにねー、死んでくれないのー!うえーん、うえーん。仗助お兄ちゃんとずっと一緒にいたいのにね、だからお願いしたのにー!」
お兄ちゃんのうそつきぃー!というリフレインがとまらない。ぐるぐる回る女の子のわがままに、いいかげんプッツンとしちまいそうになった時、あたりが真っ暗になっちまったってわけだ。
そして気付いたら、どっかの植物園にいた?いやいやいや、意味分かんねえぞ、なんだよこの脈略の無さ。見た目は子供頭脳は大人の名探偵だって、じっちゃんの名に懸けて頑張る高校生探偵だってもっときっちり伏線はるだろ、普通。なんだよ、この超展開。打ち切り寸前の漫画じゃあねえんだぞ。
てっきりジョルノのときみたいに、スタンドが攻撃してくるもんだとばかり思って、スタンドを出そうとしたけど暗闇に飲まれるのが早くて間に合わなかったんだよ。感覚的にはそんな感じだ。
たしかに女の子の爆発した感情に従って、暴走気味なスタンドらしきものがオレに襲い掛かってくる感覚は確かにあったんだ。でも、その暗闇の先には初夏の植物園が広がっている。
なんだそりゃ。あー、だめだ、さっぱりわかんねえ。どういうことだ、オレは死んだのか?いやいやそんな訳ないだろ、こんなかたちであの世にいくなんてまっぴらごめんだぜ。死ぬのは布団の上でひ孫に囲まれて死ぬって決めてんだから。
さあて、どうすっかねえ、とオレは蒸し暑い初夏の日差しの中で、途方に暮れた。ぼーっとしてても埒が明かねえ。とりあえず、誰かいないか探してみるとすっか。迷路のセオリーと言うことで、緑色の壁に手を当てたオレは、その先をずんずん歩いていくことにした。
そういやこれって迷路の入り口からやらねえとてんで意味がないんだっけか。まあいいや、そん時はそん時だ。オレにできることは、目についたバラの花をぽっきり折って、芝生に落っことすことだけだ。
迷路はどんどん中央に近付いていった。ようやくたどり着いた真ん中には、ログハウスが立っていた。どんどんどん!ドアを叩いてみる。呼び鈴はついてない。がんがん叩くタイプの板もないし、鉄製のライオンの口や金具もない。っつーことはだ、こうやって呼び掛けるしか、ないわけだな。
「ノックしてもしもぉーし、誰かいませんかぁー!」
ドアノブをぐるんと回すと、かしゃりという音がした。ドアには鍵がかかってない。不用心だなぁー、と思いながら、こそっとだけ部屋の中を覗いてみると中は真っ暗で誰もいない。真昼間だってのにカーテンが閉められてる。しっかたねえなあ、と何のためらいもなくオレはログハウスに不法侵入を決めた。
怒られたらそん時はそん時だ。見慣れない光景でも、ここにいるのは事実なわけだし、周囲の状況がどうなってるのかを確認しないことには始まらない。情報を得るには人を捜すのが一番だからな。ちゃっかり正当化しながら、オレは思った。爺ちゃんだけは勘弁な!
「鍵もかけないでお出かけなんて不用心だぜー、アンジェロが社王町を徘徊してるかもしれないってのによぉ。強盗が入ったらどうすんだ。っつーわけでぇ、オレが守ってやるから心配すんな」
誰もいないのはわかってるけど、ついつい口に出てしまうのは後ろめたさが消えないからだ。驚きの白々しさに浮かんでくるのは苦笑い。
もしオレがこのログハウスの住人だったら、てめえ人んちに堂々と侵入してくるたぁいい度胸だなあ、こんなところで何してやがる、ふざけたことぬかしやがったらタダじゃあ置かねえからなぁ!って怒鳴り込むに違いない。
殺気びんびんでスタンド使って殴り付けて、速攻で警察に電話だな、間違いない。願わくばここの住人達が温厚な人でありますようにって思いながら、オレはしっつれいしまーすって勢いよく扉を開けた。
「あ゛ー」
オレは扉を閉めた。何だ今の。ホラー映画やホラーゲームなんかでよくある、声を出さないでのどだけ震わせると出てくる、地を這うようなおっそろしい声が聞こえた気がしたのは気のせいか。意を決してオレはもう一度だけ扉を開けた。
「あ゛ー」
「すんませんでしたぁ!」
ばたあん、と大げさに扉を閉めたオレは、明らかにこっちに向かって歩み寄ってきていた黒い影とばっちり目が合ってしまい、必死でそいつがログハウスから出てこないよう扉を外側から押さえつける。なんだよ、今の。
目がなかったぞ、目が。あるべきところが真っ黒で、底なし沼が2つ並んでたんだが、あれはなんだよ。口も鼻も真っ赤にこびり付いた血がだらだら垂れ流しなんだけど、なんだあれ。まるで内側から出血したように、ありとあらゆる穴から出血している凄まじい光景だった。
やっべえ、夢に出るぞ、あれ。スプラッタ映画も真っ青だ。マジモンを見ちまったと悟ったオレはどんどん血の気が引いていく。真昼だってのにどうしてゾンビがここにいるんだよ。ああそうか、太陽の光を浴びると蒸発するから、わざわざカーテンをしめてガムテープで目張りするほどの徹底ぶりを見せてるわけですね、どうでもいい伏線回収ありがとうございました。
はあ、とため息をついたオレはどうしようと頭を抱える。スタンドで殴ってみるか?ゾンビでも一応は人間だったわけだし、スプラッタ顔だって元に戻れば見れるようになるかもしれねえよな?そこまで考えて、ゾンビに触れなきゃいけないことを思い出したオレは首を振った。
無理だ無理。いくらオレでもさすがにあれは無理。噛みつかれたら死ぬ。主にオレの精神が。そうこうしている間に、内側からだむだむと叩いてくる音がする。勘弁してくれよぉー。
唯一の救いは今が昼間ってことくらいだろう。もしこれが夜だったらと思うと身の毛がよだつ。今回ばかりは意味の解らない空間に感謝した。その時だ。ちょうど反対側の方から、声がしたのは。
「やっと見つけた」
オレは即座に戦闘体勢に入った。かすれながらも叫ばれた声は、もとの声色が分からないくらい疲弊している。
「中にいるんだろう?」
問いかけてはいるものの、確信に満ちている。最悪だ、今度は何だよ、くそ。オレは舌打ちした。
「先に行っておくけど、誰もいないふりをするのは無駄だからやめるんだ。誰かがいるのは既に解っているんだ。僕以外にいるのは君しかいない。チェックメイトだ、諦めてくれ」
まじかよとオレは思った。はったりにしてはずいぶんとドスの利いてる嫌な言い回しだ。そうとうイラついているのがわかる。はったりにしても事実にしても、きっと声の主は迷うことなくこっちに直進してくるだろう。
何をされるかわかったもんじゃあねえ、どうする、逃げるか?ログハウスの住人が開け放たれてしまうけど、奇襲を掛けられるよりはずっとましだ。心の中でカウントを始める。5.4.3。
「×××、今度は君が鬼です。かくれんぼは終わりにしよう」
オレは思わずそっちに顔を出した。
「ジョルノ!?ジョルノじゃあねえか、どうしたんだよ、お前!」
「なっ、ど、どうして君がここに!?そんな馬鹿な、どうして、てっきり×××だと思ったのに!」
「なんであの子とかくれんぼなんかしてんだよ、ジョルノ」
「それはこっちの台詞ですよ、仗助。なんだってログハウスの扉にへばりついているんです?」
「そりゃあ、あれだよ、このログハウスにとんでもねえ奴がいるんだよ!だから」
「ああ、君も見たんですか」
「って、へ?」
「僕はかれこれ半日ここにいるんです。多分、君より状況把握が出来ていると思うんだ。だからいいますけど、大丈夫ですよ、仗助。ログハウスにいる彼は無害です。なにもしてきません、いや何もできないんです。ほっといても大丈夫ですよ」
「いや、いやいやいや何言ってんだよ、ジョルノ、お前」
「僕だって知りたくなかったけど、知っちゃったんだから仕方がないじゃあないですか。彼は×××の父親で、見ての通りすでに死んでいるニンゲンなんだ。普通の死に方じゃあない。仗助も東方巡査から聞いてるんじゃあないですか?内側から爆発するみたいに、ありとあらゆるところから血を吹き出して死ぬ、変な死に方をしてる人が多すぎるって」
「そういやあ、そんな話も聞いた気がするけどよぉ」
「だから彼は僕たちに何もできないし、僕らも彼には何もしてやれないんです。彼は幽霊だ。僕たちと同じようにこのガーデンに閉じ込められているんです。僕がここに連れてこられた時、×××はかくれんぼをしようって言ったんだ。だから僕はずっと×××を捜して隅々まで探したんですよ、出られるところがないかの確認もかねて。まあ、このザマですけどね」
「かくれんぼかぁ、ずいぶんとかわいらしいお願いじゃあねえか。こっちなんか友達になってくれって言われたぜ、死んでくれる?ってな」
「それはずいぶんと情熱的なアプローチですね、仗助。しかし、困ったな。僕のスタンドは建物や乗り物内部にいる生命を探知することができるんですが、誰かまで特定することができないので早合点してました。このガーデンは一見外の世界に見えるんですが、僕が生命探知を使えるあたり、どうやらとても広い空間のようなんですよ。×××はどうやらこのガーデンがスタンドのようなんです」
「そんなことまでできるのかよ、便利だな。しっかし、確かにそれはやべーぜ、オレたち以外に生きてる奴が一人もいないってことじゃあねえか」
「そうなんですよ、今このガーデン内に×××はいないようです。自由に出入りできるみたいだし、どうやって会えばいいんだろう」
はあ、とオレとジョルノはため息をついた。
「そういえば、どうして仗助はここにいるんです?」
「どうもこうもねえよ。おめえの保護者さんに頼まれて、はるばるここまで助けに来てやったんじゃあねえか。なあにがストーカーだよ。アンジェロなんてやっべえやつに狙われてんなら、なんだってオレに相談してくれなかったんだ。ダチを助けんのに理由がいるかよ、ばかやろうが」
ジョルノはあっけにとられてぽかんと口を開けた。なおさらイラついてオレは舌打ちする。安く見られたもんだぜ、東方仗助って男をよ、侮辱する気かてめぇ、とうなるように睨みつけると、ジョルノは観念したように大きく肩を落とした。君って人は、とあきれ顔が苦笑いに代わる。
「今度はオレの番だぜ、ジョルノ。てめえ、あの公園に何しに行った。ついでにあの中学生は誰なんだよ」
僕の負けですね、とジョルノはぼやいて、すぐ後ろを振り返る。
「紹介します。TG大学付属中等部の元生徒であるKさん。みてのとおり、幽霊です。アンジェロにバラバラにされて、まだ見つかってないらしいんですよ。だから地縛霊といった方が正しいのかもしれませんがね」
オレはいよいよ言葉を失った。
はっはっは、と荒い息を吐きながら走ってくる動物の影に目をやると、雑種の野良犬が生垣の向こう側から姿を現した。くうん、と鼻を鳴らしてオレとジョルノに近付いてきた茶色の野良犬は、よく見ると歩き方がいやに不自然だと気付く。
怪我してやがんのか?もとは飼い犬だったのか、古ぼけたさびている首輪をしている野良犬が、こっちに尻尾を振ってやってきた。すんすん、と足元の匂いを嗅いで確認してるのを見下ろした。野良犬がたどってきた足あとにだらだらと赤い跡が続いている。
ぽたたと犬から滴り落ちる流血は緑の芝生に血だまりをつくってしまう。ぎょっとしてよくみると、そいつは生きているのが不思議なくらい、目を背けたくなるような大けがをしていた。尻尾のあたりから抉り取られた肉がのぞいている。骨や皮がだらりと垂れさがり、ずるりと体の内部にあるものがずり落ちそうになりながらゆれていた。
思わずしゃがみ込んだオレはそいつを直してやろうと手を伸ばす。なんで普通に歩き回ってんだ、こいつ。普通ならあまりの激痛に歩けないだろうに。オレの力だとすでに失われているところを補完することは出来ない。むりやり空いている大穴を塞いで、不自然な形でへこんだ体に茶色の体毛が覆ってくれるくらいの応急処置しかできない。
出血多量で死ぬことはなくなるはずだ。大人しいそいつは逃げようともせず、オレが手を伸ばすのも気にしないでわんわんと鳴いていた。よーし、いい子だ、と抱き上げようとしたオレの手は、そいつをするりと通り抜けてしまった。
あれ、と一瞬固まったオレを貫通する野良犬。興奮気味に体を揺らして飛びかかろうとするが、何度やってもオレから通り抜けていく。ぽかんとしているオレに、さっきからずっとオレと犬の様子を見つめていたジョルノが静かに笑った。
「これでわかってくれました?仗助。僕がさっき言った意味。僕と仗助以外にこのガーデンには生体反応がないってのは、こういうことなんですよ」
彼は僕たちに何もできない代わりに、僕たちは彼に何もしてやれないという言葉の意味をようやくオレは理解する。×××の父親もこの野良犬も死んじまったときの姿のままで、死んだことに無自覚なのか、それともここから出られないせいなのか、ふらふら彷徨ってる幽霊ってわけだ。
いくら触れたものを治す力があるオレでも、さすがに実体がない幽霊やスタンドを直すことはできっこねえ。目の前で血みどろになってる野良犬を見つめるオレは、伸ばしかけた手を膝に当てた。見てるだけしか出来ねえってのは歯がゆい。
ぷちりと咳き込むような、強烈な香りを放つバラのアーチから、一輪ぶちりとへし折ったジョルノの手からアゲハチョウが生まれた。ひらひらと飛び始めた遊び相手を発見した幽霊の犬は、オレの身体をすり抜けて、一目散にアゲハチョウのもとへと飛んでいく。
わんわん、と元気よく走り回る野良犬なんて気にすることもなく、アゲハチョウはジョルノがへし折ったバラの群生に止まって羽を休めている。お、おう、と頷いたオレは立ち上がった。冷や汗をぬぐいながら、オレは乾いた笑いをこぼした。
なんつー涼しい顔してとんでもねえこと言いやがるんだ、こいつは。しれっとした顔でジョルノは、感想はどうです?とでも言いたげに腕を組んで生垣に背を預けている。
「とんだホラーハウスだなァー。まじで幽霊しかいやがらねえってか?」
「ええ、そうです。こいつの他には、首が飛んでる猫とか、足がちぎれてるイタチとか、ぺしゃんこにつぶれてる癖にうるさいカラスがいましたね。きっと交通事故で死んだ動物たちなんだ」
「なぁんか、あれだな。ここまでくると笑っちまうぜ。×××はなんだって幽霊ばっか閉じ込めてんだ」
「ニンゲンの幽霊は父親だけのようですしね、他には誰もいないみたいだ」
「まあゾンビよりよっぽどましだぜ」
「ゾンビならきっと治せますよ、仗助のスタンドで」
「ばっかいうなよ。ケガは治せてもゾンビ状態は治せねえだろ、多分」
「そうですか?なんにもできないよりはいいって顔してますけど?」
「まあそりゃーそうだけどよー、触りたくねえよ」
「たしかにそうですね。ゾンビだったら、こいつらの匂いはバラの匂いだってきっと誤魔化せない。でも、ゾンビの方が僕はよかったですよ、正直。死体を捜す手間が省けますからね」
しれっと公園に向かった理由を口にしたジョルノに、まじかよとオレはつぶやいた。ジョルノがいうには、アンジェロの犠牲者であるバラバラにされて埋められた少年の遺体を探し出すことが目的で、事件現場に足しげく通っていたらしい。
ジョルノのスタンドは物体に生命力を与えて、生き物にすることができる能力を持っている。その生き物は本来の持ち主のところに向かう性質をもっていて、遺体を見つけたら一度すべて生き物にしてみて、どこか遠くに行こうとする個体だけを捕獲するつもりだったらしい。
遺体の主はすでに土に還っているため、普通なら今こうやって野良犬の幽霊とじゃれているアゲハチョウみたいに、その場所から動くことはない。その生き物にとって本来の主は大地と同化しているからだ。もともといたはずのところに納まろうとする個体の性質からかんがえて、空に舞いあがる個体はアンジェロのものを媒介にして生まれたと考えるのが妥当だ。
言ってることはわかる。でも、なんで死体からアンジェロのものが出てくるんだよ。指紋とか足あとなら雨に流されてきえちまってるかもしれないし、骨だけになってんじゃねーの?5年前だろ?5年間も放置されている死体なんて見たことないけどよ。
「13年たってても、髪の毛が残ってたりするんだ。5年しかたってないなら、残ってるもんですよ。それに骨や歯は残るんだ。アンジェロは結構ムゴイことをして、バラバラにしたみたいだし、アンジェロに繋がるものなんて、捜せばいくらでも出てくる。だから隠したと僕は思ってます。2人の犠牲者はあっさり見つかったって聞いてるので」
「おっそろしいこと考えるなあ、おめー。よくそんなスタンドの使い方思いついたな。まるで死体を見たことがあるような口ぶりじゃあねえか。まあ、証拠を見つけてやりてえ気持ちも分かるけどさ、いくらなんでもぶっとびすぎだろー」
「そうですか?僕はアンジェロの行方が知りたいだけですよ。聞きたいことがいろいろあるんだ」
「義理のとーちゃん殺された上に、スタッフの兄ちゃんまで殺されてんだ。ジョルノがそう思うのも無理ねえけどよ、そう思い詰めんなよ」
「……仗助はなにか勘違いしてませんか?僕は復讐なんて考えてませんよ。警察に捕まってしまう前に聞かなきゃいけないことが山ほどあるんで困ってるんです」
「ほんとかぁ?今のおめーの顔、はっきりいってマジやべーぜ?正直、ここにきてよかったって心の底から思えるくらいにな。もし目の前にアンジェロがいたら、何の躊躇もなくスタンド使ってぶっ殺しちまいそうなくらい、殺気だってるぞ、ジョルノ」
「……否定はしません。無駄なことは嫌いなんだ。でも、そうですね。僕にそのつもりはなくても、きっとアンジェロはそのつもりで来ると思います。そしたら今度は言い逃れできなくなりますね」
「おいおい、何言ってんだよ、ジョルノ。ちっとは落ち着けって、な?」
ジョルノはなにもいわないまま目を細める。君は優しいんですね、とこぼしたあと、静かに言葉を紡いだ。これを聞くとアンジェロから命を狙われる可能性がありますが、とわざとらしい前置きが入る。
これを聞いたら戻れなくなりますよ、なんて言い訳がましい牽制をしてくる後輩に、オレは笑い飛ばしてやった。ジョルノは笑う。僕はずるい人間なので分かっていいましたけどねなんて、心底嬉しそうな顔をしてやがるくせに、うそぶいた。
「去年の10月21日、僕はスタンド使いになっていた養父に襲われました。目の前でスタッフを殺されて、土砂降りの雨の中、ようやくたどりついた堤防で殺し合いをしたんです。養父は僕を誘拐する気でした。仗助のスタンドみたいに、近距離型のパワータイプで、僕のスタンドは防戦一方でした。だから、堤防を決壊させて、僕と養父は濁流にのまれました。ここから記憶は曖昧なんです。分かるのは、10年前の養父は普通の人間だったのに、スタンドが使えるようになっていたことくらいだ。スタンドっていう言葉を聞いたのはその時です。間違いなく養父はスタンドという力を誰かからもらった。そして、情報を得ていた。そうとしか考えられない。仗助、君ならどうします?普通の人間は太刀打ちできないスタンドを持った相手がこの町に潜んでいるとして、バカげた妄想に苦しんでいる可哀想な中学生として、大人たちに護ってもらうことが一番だと思います?」
「……おいおい」
「スタンドが使える君だから話すんですよ、仗助。そうじゃなかったら、誰が話すもんですか。頭がぱーんってなった人扱いされるじゃないですか。僕はアンジェロは養父と同じように、スタンドが使えると思ってます。警察は僕の誘拐事件は二人が共謀してて、僕は狙われてると考えてる。間違いない。スタンドが絡んでることを除けば完璧にあってる。だからあの人たちが僕を守ろうとしてくれるのは正しいことです。あたりまえのことをしてるだけだ。だから、どうしろっていうんだ。ただ見ているだけなんてまっぴらごめんなんですよ、僕はね」
「……マジで言ってんのか、ジョルノ」
「ええ、もちろん。養父が包丁で殺されたと聞いてから、僕は確信したんだ。いくら濁流から這い上がった瀕死寸前の状態でも、自力で這い上がれる精神力が残ってる以上、養父はスタンド使いです。普通の人間に殺されるほど軟な男じゃありません。でも殺された。アンジェロがスタンド使いと考えるのが自然です。体の内部から爆発したみたいに、体のあらゆるところから出血した状態で見つかった。アンジェロは実験したんですよ、養父で。味を占めて、町中でさわぎを起こしてる。今日でたしか3人目ですか?×××の父親を含めるともっといそうな気がしますけど。だから、僕は知りたいんだ。なんだって今さら僕を誘拐するなんて馬鹿げたこと考える奴がいるのか、知りたいんですよ。何もわからないままなのは絶対に嫌です」
たったひとりでここまで突き止めたあげくの行動だったとは思わなかったぜ、とオレは心の中でぼやいた。大人しそうな面してるくせに、ずいぶんとぶっとんだ野郎だ。これでホントに13歳なのかよ、中学1年生とは思えねえぜ。にい、とオレは笑った。
わかった、わかった、お前が言いてえことはよーくわかった。ホントに聞いてましたか?といぶかしげな表情に、おう、とさっきの話をかいつまんで繰り返してやると、そうですけど、と納得いかなさそうにジョルノは口をとがらせている。
きっと想像していた反応と違ったんだろう。肩透かしを食らったような顔をしてる。さっきまでびっくりするくらい大人びてたくせに、若干すねてるあたりは13歳らしい表情が垣間見えるあたり、まだまだガキだなと思えてなおさら笑えた。
普通だったら父親と母親の家族とのつながりは、どんな両親だったとしても思い悩むもんだと思うけど、ジョルノは恐ろしいほど自分と他人をわけて考えることになれてやがる。自分は自分、親は親、だからなんです?とでもうそぶいてそうなスタンスをもってるのは間違いなさそうだ。
だから、損得勘定なしに動いてくれる人たちがいるとそのスタンスだけじゃ処理しきれなくなって、どうしていいのか分からなくなってしまうんだろう。美術室の肖像でも、そういうところは違うんだ。だからオレは言ってやった。
「じゃあオレも噛ませろよ、せっかく話をきいちまったしなあー、ほっとけねえだろ」
ばしばしジョルノを叩いてやると、気管に入ったのかげほげほと激しい咳き込みが聞こえた。なんでそんなに嬉しそうなんですか、あんた、とジョルノは涙目で呻いている。付き合ってやるよ、死体捜し。あれだな、線路の上とか歩くんだろ?と聞いてみると、スタンド・バイ・ミーじゃあるまいし、とジョルノは大きくため息をついた。
「で、そこのKってやつとはいつ逢ったんだよ」
ガーデンにいる幽霊は、死んだときの姿のままだ。身体のあらゆるところから出血したせいで、言葉を話す器官が死んでしまった×××の父親がいい例だ。さっきからオレたちのあとをゆっくりとついてくる足元が透明に透けている中学2年生の少年は、さっきから一度も口を聞かない。
ジョルノ曰く、歯が全部抜かれてる上に、のどが酷い状態だから、喋りたくないそうだ。口を開けると失神しかねない状態がこんにちは、だと聞いたオレは即答でジョルノに通訳をお願いすることにしている。
ジョルノと一緒にいた時は、ありえないほど平然としていたから話したけど、オレはふつーの感覚をもってる人間だから、怖がられたくないらしい。オレがみるといつでも真正面しかみれない。真後ろはちょっとお見せできない状態。トラウマになって、悪夢に出てもおかしくないレベルの大惨事が広がってるらしい。
ますますジョルノが死体を見慣れてる疑惑がわいてきたぞ、おい。ジョルノは首をかしげて疑問符をとばした。いらねえところでずれてやがるぞ、こいつ。
「僕が休みになると現れるので、もしかしたら、と声を掛けてくれたんですよ。これならすぐに見つけられると思った矢先に、×××と会ったんです。どうやら×××はKに用があったらしいんですが、僕が見えると分かるやいなや僕に標的を変更したらしくて。スタンドで逃げようとしたんですが、間に合いませんでした。展開のスピードだけなら僕以上ですね。攻撃性能が皆無なのが唯一の救いです」
「ジョルノのスピードで間に合わねえんなら、オレなんて無理にきまってるだろー。あー、だからオレがスタンドを見せても驚かなかったわけだ。ついでにジョルノでスタンド使いは幽霊が見えるかもしれねえって学んじまったわけか」
「そうみたいですね。すいません、仗助」
「そうそう、これだよ、これ。なんだ、ジョルノもちゃんと謝れるんじゃねえか。いいぜー、これでチャラにしてやるよ」
どういう意味ですか、と不機嫌になったジョルノをさておいて。さあ、本格的にこのガーデンから脱出できる方法を捜すとするか。オレ達は迷路の庭園を抜け出すべく、ひたすら外側の道を歩き続けた。しばらくすると、ジョルノのスタンドでは突破できなかったという重厚な扉を備えた洋館が現れたのだった。
「ジョルノのスタンドもやっぱラッシュ出来るんじゃねえか」
「仗助のスタンドを見て、僕も出来るんじゃないかと思って、練習がてら頑張ってみたんです。なんだか不思議な感覚ですね」
「そーかあ?何にもないところで、いきなりべっこべこにドアが潰れちまうより、スタンドがラッシュしてるのが見えてる方がいいだろ。何が起こってんのか分かりやすくていいじゃねえか」
「僕は何も見えてない方が慣れてるんだ」
洋館の重厚でレトロな扉が、べっこべこに潰れていた。全体的にオレのスタンドが打ち込める回数以上のへこみがあるのは、きっとジョルノのスタンドがスピードに特化してるからだろう。へこみが浅いのはきっと単発の威力は大したことないからだ。
パワーがなくてもスピードと回数があれば補える。ラッシュは得意みたいだな。まーオレのスタンドのラッシュには負けるけど?ラッシュのスピードとパワーの単純な掛け算だけなら圧勝だからな。ジョルノのスタンドを真っ向勝負の殴りあいをしたことはないけど、多分オレのスタンドが勝つだろうなあと思うと笑っちまう。
ジョルノの場合、そういう状況になる前にさっさと距離取るために逃げちまうそうな気がするけどな。それでも、今のジョルノのスタンドが持ってるパワーは、せいぜい腕をへし折るくらいの威力しかない。全体的にゆがんでるけど破壊できるほどの威力はない。
隙間さえできれば大木に変化する植物によって破壊できるから、今はこれでいいんですとジョルノは悔しそうだ。
仗助、あとはお願いしますってすっかり白旗を上げたジョルノに、おー、いいぜ、と笑ったオレはスタンドを呼んだ。じゃあ見てろよ、これがお手本ってやつだ、と自慢げなオレにスタンドもやる気十分、勢いよくドアを玄関フロアまで吹っ飛ばした。
おまけ効果でジョルノとオレのスタンド攻撃で原形をとどめないほど破壊されたドアは、もう二度と役目は果たせないような歪な形にゆがんで修正される。ぜってえ玄関のスペースとあわねえな、これ。オレのスタンドの力はそんだけ器用な真似はできねえんだよ。
もちっと慎重にやればできるけど、ぶっちゃけめんどいからやらねえ。さすがですね、とつぶやいたジョルノは、オレとスタンドをみて軽く拍手しながら入ってくる。コツとかあるんです?と聞いてくるから、感覚的なことしか言えないオレは、どう説明すっかなあ、と頭を掻いた。
初めて会った時、ジョルノはスタンドを知ってたくせに、自分のスタンドが見えてなかった不思議な奴だった。今でも相変わらずジョルノはスタンドがぼんやりとしかみえてない不思議な奴だ。オレはスタンドが見えるようになってから、この力が使えるようになった。
だからオレからすると、ジョルノが物体を生き物に変えるたびに、スタンドがその物体をぶん殴ってるのが見えている。でも今のところジョルノはその実感がわかねえらしい。オレが指摘して初めて、そうなんですか、と気付くような有様だ。てんでちぐはぐだろーそれ。
どういう経緯でスタンドが使えるようになったんだか。スタンドに話しかける時も見当違いの方向を向いたあとで、なぞるように視線が泳いで、ようやくスタンドのいる所を把握してるみたいだから、ぼんやりとしかみえてないんだろう。
黄金色のテントウムシがモチーフになってるスタンドは、無表情ながら本体の様子をみているのは、オレの感覚でいうとさびしそうに見えた。オレのスタンドは見えるし、後ろからついてくる無口な中学生幽霊だって見えるくせに、なんで自分のスタンドだけみえてないんだか謎すぎるぜ。
なあ?本体に認識されてないって不思議な感じがするだろ?と投げかけるオレの視線に気付いたのか、さっきからずっとジョルノの傍らに佇んでいたスタンドがゆるりと姿をけした。ジョルノの意志とは無関係に姿を現してるときがあるのはなんでだろうなぁ。
ジョルノはスタンドを制御出来てるし、使い方はオレよりずっとうまいってことは、暴走してるわけでもなさそうだ。やっぱわかんねえな、スタンドってのは。オレのへたくそな説明に耳を傾けながら、ジョルノはなんども頷いている。
洋館は無人だった。幽霊の一人も居やがらねえ。こんなにでかいシャンデリアがゆれてる洋館なら、お抱えのメイドさんとか執事のおじさんとかいそうなもんだけど、ただっぴろいだけで何もない変な館があるだけだ。
グランドピアノがある防音の音楽室、豪華絢爛な食堂、見たこともない石造りの大浴場、お雇いのコックが腕を振るってそうなキッチン。螺旋階段の向こうは両親の寝室と子供部屋がひとつ、あとは客人用の部屋がいくつか。
そんでスタッフ用の部屋があるだけだ。かつんかつんと二人分の足音が響く洋館を巡っていたオレたちは、ようやく最後の部屋に辿り着く。
「問題はここですね」
「ここだけカーテンが全開だったもんなあ」
ひらひらと真っ赤なカーテンが翻り、内側にある白いレースのカーテンが揺れていた二階中央のリビングと思われる部屋が扉の向こうにある。ここ以外のドアや窓、すべての出入り口は丁寧に施錠されてたってのに、ここだけわざとらしく鍵が開けられてた上に、窓が全開だったのが外から見えたわけだ。明らかにおかしい。ぜってーなにかある。
これで何も無かったら肩すかしもいいとこだ。オレたちはあたりを警戒しながら、慎重にきしみを上げる扉を開いた。目に入った光景に、思わず僕たちはあわてて駆けだす。無駄と思いながらも人工呼吸をしようとして、空を切った右手にオレは舌打ちをした。
「………なんだよこれ」
「………知りませんよ、そんなこと。知りたくもない」
「同感だぜ、まったくよぉ!」
瓦礫に覆われた床に仰向けで横たわり、ぐったりとしているのは女性だった。口からは血が流れている。傍には薬の空瓶があった。目立った外傷はない。あったとしてもオレたちは何もできない。この女の人も幽霊だ。
きっと薬で死んでしまったから、ぼんやりとしたこん睡状態でずっと目覚めないままここでぐったりとし続けているんだろう。永遠に。さすがに気分が悪くなったオレたちは、窓から顔を出して深呼吸した。すると、その窓から見える庭園の真下に、オレたちがずっと探していた女の子がいる。
「×××!」
ジョルノが叫ぶ。やあっとみつけた!と大きく響き渡ったジョルノのこえに、驚いた顔をして×××はこっちを見上げた。隣にオレもいることに気がついた×××の顔はどんどん曇っていく。あーあ、ととっても残念そうに口をとがらせて、肩をすくめた。
「上がればいいのね」
×××は、勝手知ったる我が家とでもいいたげな身の軽さで飛んでくる。大きな屋敷の一番外側の部屋の窓から入って裏庭にでて、ガタが来ていた勝手口から屋敷にはいっていった。しばらくすると×××がきやがった。さすがにオレとジョルノが階段のところで止める。ガキが見ていいもんじゃない。
「今は入っちゃだめだぜ、×××」
「大丈夫よ。仗助お兄ちゃん。ママが死んじゃったことは知ってるもの」
「ホントですか、×××」
「ええ、知ってるわ」
×××は笑っている。
「ママがいなくなってさびしい?ママがいなくなって泣いたの?いっぱい聞かれたけど、あたし、知ってるの。ママは事故じゃないこと知ってるの。お巡りさんはお薬を飲みすぎて死んじゃったって言ってたけど、あたまの中で血が出てるって言ってたわ。息が詰まって死んじゃったのよ、ママは。首はきれいだったから、首を絞められたんじゃないっていうの。うそばっかり。だからうそつく人はきらいなの。だってパパだもの」
「パパってあのログハウスにいた人っすか」
「×××のパパは、ママを殺すまでのパパなの。ログハウスに閉じ込めてるあの人はパパだけどパパじゃないわ。だってパパじゃないんだもの。うそばっかりつくの。変なことばっかり言うの。だからきらい。死んじゃった人は棺に入れられるんだっていってたのに、ママはずっとここにいるんだもの。だあれもお墓に入れてくれないの。かわいそう」
×××はログハウスを見つめて、あっかんべーしたあと、オレたちの方に向き直った。×××は話してくれた。パパは「わたし」っていうのに、ママを死なせたパパは「おれ」っていってたこと。「くそったれ」「きをつけろ」「こしぬけやろう」「まぬけ」「ぽりこう」「またころしにくるぞ」って乱暴な言葉ばかりを×××に投げつけてきたこと。
×××がきれいにしてあげたけど、ママを死なせたパパは、草や紫色の葉っぱをママの上にばらまいて笑いながら、ママの鼻にハサミでひっかき傷をつけたこと。ママの唇が紫色で、指でなぞりながら面白かったって笑ったこと。
おまえは汚れているから、ごみクズだといわれたこと。ママを死なせたパパのことを誰かに話したら、ベルトでひっぱたくといわれながら、殴られたこと。
おれまがって、折れているハサミは女性の足元から見つかった。×××のいうところから切り傷がでてきて、オレとジョルノは×××にかける言葉がみつからなかった。×××のパパとママの間に何があったのかはしらねーけどよ、×××はちっちゃいくせに賢すぎる。
子供が見るもんじゃねえのに、それを止めてくれる人がいなかったってことは。もう嫌な予感しかしなかった。ぎりと手の平に力が入る。女性は皮膚が裂けるくらいちっちゃな傷がたくさんあって、どんな扱いをされたか嫌でも分かる。
ずっとひとりぼっちで、誰も聞いてくれない話を来てくれる相手がいてくれてよっぽど嬉しいらしい。×××はしゃべりまくっていた。
「あたし、みたのよ。パパがママにお薬を無理やりのませてたの。それでね、あたしものまされたの。くらくらしちゃって気を失っちゃった。気が付いたらね、ママはずっとこうなってるの。パパは真っ赤になって死んじゃった。あたしのおうち、たくさんの人がいたのに、みんな死んじゃった。パパからへんなお兄ちゃんが出てきたの。それでママの傷の中に入ってきたのよ。ママがお耳が痛くなっちゃうような大声で、暴れてたの。おかげでこんなにちらかっちゃった。それからママは目が覚めないの。あたしの中にも入ってきたのよ。とっても痛かった。痛い痛いって泣いたのにやめてくれなかったのよ。ひどいでしょう?」
そうですね、とジョルノはいう。よくがんばりましたね、と笑うと、×××はえへへ、えらいでしょー、泣かないの、女の子だからってママにいわれてるもの、と胸を張る。きっとパパがスタンド使いに体を乗っ取られた状態でスタンドを使ったことで、×××のパパは一時的にスタンド使いになったんだろう。
そんでもって、×××はパパの影響でスタンドを使えるようになっちまったというわけだ。アンジェロとジョルノの義理のとーちゃんの話を聞く限り、スタンド使いっていうのは周りにいる人もスタンド使いになるらしいからな。
死にかけた×××がスタンド使いになるのはありえることだ。オレもスタンドが使えるようになったのは、死にかけた時だからな。えらいっすねと褒めてやると、うふふと×××は笑う。
「ねえねえ、ジョルノ、仗助お兄ちゃん。どうしても死んでくれないの?死んでくれたら、ずーっといっしょにいられるのに」
むう、とほほを膨らませて拗ねている×××に、オレとジョルノは首を振った。
「さすがにまだ死にたくないっすよ、わりいな、×××。せめてじじいになるまで待ってくれよ」
「僕もまだ死ぬ予定はないんです、残念だけど」
ジョルノは静かに笑った。
「Kもちょっと待ってもらえませんか?僕たち、まだ彼に用事があるんですよ。それが終わったら、Kと相談してください」
「つまんなあーい、ジャック、つまんないわ。あたし、ここからでられないのにい。このガーデンの入り口近くからうごけないのに。どうして意地悪するの?」
「幽霊がいる所にランダムでジャンプするスタンドを扱えるようになってからまた来てください、×××」
「むー、ジャックの意地悪。あたしもガーデンがどこに行っちゃうのか分かんないの、知ってるのにそんなこというのね?」
「ええ、だからまた逢えたら遊びましょう。かくれんぼでも、鬼ごっこでも、いくらでも遊んであげるさ」
「ちょっと待ってくれよ、ジョルノ。×××のスタンド暴走してんじゃねえか、どうして助けてやらねえんだよ」
「君だって分かってるんじゃあないですか?仗助」
「そりゃ、そうだけどよ。でも×××はオレの袖を掴んだんだぜ?信じられねえよ」
「スタンドからの感覚は僕たちにも伝わるんですよ、仗助。×××が掴んだのは君の学ランの袖じゃあない。その部分に位置する君のスタンドの腕なんですよ。スタンドの暴走を何とかするなら、本体である×××を気絶させるなり、制御する手伝いなりできますけど、本体が死んでるとなるとどうしようもないじゃあないですか。×××の努力しか道は無いですよ」
そんなにいうなら、×××を撫でてあげたらどうですか?なんて鬼畜な煽りをしやがるジョルノに、くすくす×××は笑っている。オレがのばした手は、×××の頭をすりぬけた。
サウンドガーデン
本体:7歳の金髪少女
破壊力:E
スピード:A
射程範囲:B
持続力:A
精密動作:E
成長性:E
西洋庭園の空間型スタンド。彼女の父親がアンジェロのアクア・ネックレスの効果で操られ、一時的にスタンド使いになったことで、血の発露により死後スタンド使いになる。支配下に置かれた父親は突然発狂し、洋館の人々を惨殺し、一家心中を図った事件として大騒ぎになるのも時間の問題。スタンドは自立型の空間スタンドとして、幽霊の彼女を現世に縛り付けている。孤独が嫌いで友達を求める彼女の心に反映してか、ずっと一緒にいてくれる幽霊がいる所にアトランダムで出現する。ここから出るには、彼女とかくれんぼをして見つけてあげることが条件となる。