ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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シアー・ハート・アタック

(汐華初流乃......!)

 

私の頭の中では行きつけだったサンジェルマンに二度と行けなくなった恨みを向けるべき少年の顔が浮かんでは消えている。

 

(空条承太郎......!)

 

行動範囲を著しく制限してくれた男の姿がチラついている。爪は長くなる一方であり、そのうち衝動にかられて我慢できなくなる予感がしてしまう。無意識に私は爪を噛んでいた。

 

彼女との別れから数日、私の生活圏にはチラホラとあの男が教えてくれたスタンド使いばかりが目につくようになってしまった。平常心で通り過ぎたり避けたりすれば案外バレないものだが、スタンドを見える人間がスタンド使いだと知った今となっては迂闊な行動がとれなくて余計にイライラしてしまう。

 

帰宅した私はため息をついた。いつものルーチンワークをこなしているはずなのに体が一向に休まらない。熟睡出来ないのは紛れもなく奴らのせいだった。

 

「クソっ......どうすれば......」

 

机に広げてあるこの街に潜むスタンド使いのデータを眺めみて、考え込む。さいわいなのは私の敵ばかりではないことだ。最近連絡が取れなくなった女からはだいぶ汐華初流乃について情報を得ることができた。

 

生体探知は非常に脅威だ。私が私と証明できるものをなにかひとつでも汐華初流乃に渡した瞬間に、私はどこにいようが逃げられなくなるのだ。ここの自宅を特定されたが最後、私のものは入手し放題となる。困る。それは非常に困る!変装しようが整形しようが私の体が私である限り、汐華初流乃の能力からは逃げられなくなってしまう!

 

「......隠してしまうか、それとも渡すか......」

 

あらゆる可能性を模索しなければならない。自宅に隠してあるスタンドの矢を差し出して、善良な市民として守ってもらう......?ダメだ、スタンド使いだとバレる確率が飛躍的に上昇してしまう。ただでさえイラつくヤツらと接点を持てばいつかはボロがでるのだ。

 

一撃で仕留められなければ、私のスタンド能力が爆弾だとバレた瞬間に全てが終わる。なにせ汐華初流乃、東方仗助と回復を得意とするスタンド使いが二人もいるのだ。生存者からの証言はダメだ......仕留め損なった死体からすら情報を入手されてしまうのだから。

 

それにあの男が猶予とした日と約束を破ることになった瞬間に、私は二つの勢力から常に狙われることが確定してしまうのだ。それはあってはならない。絶対に。

 

「..................見つからなければいくらでもやりようはある......なにか......なにかないか......?」

 

私はざかざかとスタンド使いたちのデータの一覧をめくりながら、食い入るように見つめ続けた。

 

そして、一人のスタンド使いに目が止まる。

 

 

 

 

 

 

 

私は悪夢を見ているのだろうか、という顔をして、大神照彦は病室のベッドに横たわり長いこと沈黙している。いつか因果応報が訪れる予感はあったが、よりによって趣味が悪いと自重めいた笑みさえ浮かべている。

 

「それじゃあ失礼しますね、大神さん。ところで、さっきからそのメッセージカードを熱心に見ているが、どうかしましたか?」

 

私が問いかけた瞬間に、我に返ったらしく激しい動揺がみてとれた。

 

「......!いや、なんでもありません。お見舞いに来てくださったのに、すいません」

 

「突然押しかけたのは私の方ですから」

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

世間が建築業界のえぐい違法の数々にシビアな目を向け始めている中、大神照彦の事務所もまた過去の不正がばれないように戦々恐々としているのは知っている。

 

カメユーを会場にした商談会はここ一番の仕事場だったのだからなおさらだろう。そこのイベントにかかわる会計事務に食い込めたのはなによりだ。わざと必要な領収書を渡さず、お詫びにとここに堂々と来ることが出来たのだから。

 

見舞いの品に紛れ込んだ脅迫状を読んでいるところに遭遇するとは思わなかったが、私はそのまま病室をあとにした。

 

カメユーに向かう途中で私のところに電話がかかってきた。

 

「これは私に与えられた、当然の罰なのか」

 

そう、大神照彦はいった。私は笑いをこらえるので精一杯だった。あの男が提供してくれたデータどおり、大神照彦はスタンド能力さえ除けばただの人間だった。

 

キラークイーンで爆弾に変えていたうちの社員の名刺を爆破して重症を負わせただけで屈服した。

 

私がまだなにもいっていないのに、大神は勝手に懺悔を始めたのだ。

 

「私はずっと悪夢を見ていた。自分の過去に隠された罪の重圧に耐えきれなかったのだ」

 

何故この男にもスタンド能力が目覚めたのか私には検討もつかなかった。私と同じようにスタンドの矢でスタンド使いになったというのに、電話の向こうの男は直ぐに死んでもおかしくないという印象しか受けなかった。

 

「私は一人の女性の人生を理不尽に終わらせた。一人の赤ん坊の人生を狂わせた。もし私が死んだら、自分は天国には行けないだろうという実感はあった。この悪趣味な依頼はその報いなのか」

 

私はそうだとも違うとも言わなかった。メッセージカードにかかれた言葉だけが私の要求だ。ひたすらに続く沈黙に耐えきれなくなったのか、大神照彦は私のいいたいことが分かったようで、憔悴し切った声を出す。

 

「娘だけはッ双葉、双葉千帆だけは助けてくれッ!!私のことはどうなってもいい!なんでもする!私はなんでもする!だから!だからァッ......千帆だけはァッ......!!」

 

すすり泣くような声だった。

 

「あなたがどこの誰かなんてのはどうでもいいんだ......そんなことは問題じゃあない......頼む......頼むから、千帆の父親として……いわせてくれ......これだけは守ってくれ......千帆にだけは手を出さないでくれ!」

 

一人の女を殺して一人の子供を天涯孤独にしたとは思えないような迫真の言葉だった。世界で一番愛する娘が命の危険にさらされる可能性を知って、全てをなげうってでも救おうとする素晴らしい父親の言葉だった。幸せな家庭という私が共感出来る価値観をもっていながら、なぜか大神照彦という男の主張は私にはかすりもしなかった。

 

「あの子は......千帆は......不思議な力目覚めたこともない、普通の、ほんとうに普通の子なんだ......!喧嘩なんかしたこともない子なんだ……人を傷つけるなんて、できない子なんだ……!あの子が......あの子が、あなたに狙われたらどうしようもない!!」

 

大神はそれでも続ける。最愛の娘を救う方法は、もはや私に懇願するしかないとしっているのだろう。

 

「頼むッ!千帆をッ!!頼むッ!!!」

 

大神は何度も何度もそう叫ぶ。最愛の娘を守るために、大神はすべてを投げ出す覚悟だと教えてくれた。この瞬間に大神照彦の未来は私の手中に収まった。私に食い潰される運命となったのだ。

 

そして私のもくろみ通り、私吉良吉影の家は次の日から誰にも知覚されなくなってしまったのだ、郵便配達などの一部の例外を除いて。私は対象外のようでその発動範囲には自由に立ち入ることができた。

 

やはりこの男、昔の愛人関係を精算したり、不正に気づいた人間を消したりするためにスタンド能力を乱用しているらしく、成長が著しくなっている。私が落し物さえしなければ、私の家は誰にも見つかりはしないのである。

 

ようやく私は安定した睡眠をえることが出来るようになった。

 

ありがたい程親切者だが会っていると、憂鬱なほど不快になって来る人間。なぜこういう人間ほど、自分がどれだけ他人を不愉快にさせているのかわからないのだろうか。ことごとく共通項であるせいか、ひとたび目に付いてしまうとムカムカして仕方がない。

 

言うことすること一ツ一ツが何か思わせぶりな言いかたにきこえてくる。本当はいい人なのだけれども、けちでしつこくて、する事が小さい事ばかり、私はこんな人間が一番嫌いだ。

 

非常にすまない気持ちで今度会ったら優しい言葉をかけてあげようと思っていても、こうして会ってみると、シャツが目立って白いのなんかも、とてもしゃくだったりする。

 

遠くから考えると、涙の出るようないい人なのだけれども、会うとムッとする温情主義、こいつが一番苦手なのだ。

 

ここ最近、巡り会う女性という女性がほとんどこのタイプだったから、これまでにないほど私はイライラしていた。

 

触りたくないと思ったのは初めてだ。手より上はすべて手の付属物であり、手の存在価値を高めるためそれ以上でもそれ以下でもないただの物体。女性という形から手を一刻も早く解放してやりたい、という衝動にかられるのは初めてだった。だが私はいつも以上にイラついていたし、この世から間違いなく消し去ってしまいたいと考えていた。

 

「キラークイーンッ!」

 

絞殺してから切断する手間すら惜しかった。手を切断してから爆殺して虚空に消えた女、そして残された手を見つめてみる。

 

あれだけ燻っていた怒りは収まり、ようやく私は平常心を取り戻していた。

 

「......ようやく、だ。ようやく手に入れた」

 

息を吐いたとき、思いのほか気が抜けていることに気づく。口元が吊り上がるのがわかる。実に1週間もの間彼女が手に入らない絶望的な状況に耐えてきたが、ようやく手に入ったのだ。

 

しかしまあ、大神照彦の愛人はどうしてこうも手に必要なケアを放棄するような頭の足りない女ばかりなのだろうか。発狂したのか神経がイカれた女が唯一許容範囲だったから、ハンドクリームなりケアの方法なりをさせるように仕向けていた。

 

ようやく手にした彼女は私の審美眼にはとうてい届きそうにないものだが、ようやく連れて歩くに値する彼女とすることが出来た。残念ながらそれ以上の関係になるには30年近く手入れを怠ってきた女の歴史を見るようで気分が高まることはなかった。

 

「クソっ......いつまで私はこんな生活をしなくてはならないんだ......!」

 

罵声は大神照彦の別荘で響き渡るだけだった。

 

 

 

 

 

 

空条さんに召集された僕達はぼよよん岬周辺にある別荘地帯に向かっていた。

 

「吉良吉廣。こいつの家にこれから向かう」

 

回し読みしろと言われた写真と調査報告書によれば、この男はかつてDIOの部下として空条家を監視していた億泰先輩の父親がこの町に引っ越したのとほぼ同時期に生活拠点をこちらに移しているという。

 

父親の目的はさだかではないが仗助先輩の家と目と鼻の先だったこと、僕の囲われていたアパートから半径1キロ内にあることから僕達の監視も兼ねていたのではないかという。仲間がひとりやふたりいてもおかしくはないはずだ。

 

「俺の家を監視していた関係で、吉良吉廣のスタンド名は不明だが能力はわれている。写真の中に入り、同じ写真の中にあるものに干渉することができる能力だ。攻撃したり、邪魔をしたり、な。形兆がスタンドの矢を持っていたんだ、我々に渡るのを惜しんでこいつが横取りした可能性がある」

 

想像の域は出ないが、と前置きをして空条さんはいうのだ。日本におけるスタンド使いを探す任務を持っていたかつての配下達が仲間割れしているのではないかと。

 

吉影家は吉廣の父の代で落ちぶれてしまったが、息子が金に困らない程度にまで立て直していること。『弓と矢』を億泰先輩の父親が譲り受けた時期はDIOが復活して水面下で活動していた時期であること。

 

以上から『弓と矢』を譲られた彼らが条件として、エンヤ婆の依頼で多額の報酬と引き換えに、日本のスタンド使いの適合者を探していたという可能性は十分に有り得る。

 

この時、自身には末期ガンで余命がない事は知っていた筈なので、息子の為に少しでも金を残そうとしたと言ったところだろうか。

 

「待ってください、末期がん?」

 

「まさかもう死んでるんすかァ?」

 

「でも息子さんがって」

 

「そうだ。1987年この男は戸籍上死んでいるから、俺は相見える事はなかった。だがこいつは写真の中に入れば実質不死身だった。身代わりをたてたかもしれないし、カメラに魂を抜かれたのかもしれねえ。この町に潜むDIOの協力者の中ではかなりの古参なのは間違いないからな、億泰たちの例を見れば捨ておけん」

 

「......空条さんはあの襲撃者はブラックウォーター・パークの使い手ではなく吉良吉廣って男だと考えているんですか?」

 

「スピードワゴン財団職員の中に紛れ込んでいたのは間違いない。写真の中にスタンドの矢を持ち込んで隠し、職員に写真から攻撃した可能性も考えられる。あのスタンド使いだと矢を持ち去る方法がないからな」

 

「あー、たしかに!あの時、俺たち船ん中探し回ったんだけどよォ、見つからなかったんだぜェ」

 

「どうやって判断したんです?」

 

「なにってそりゃあ、ジョルノが気絶させりゃスタンドは解除できるっていったからよォ、片っ端からこう、ぶん殴って」

 

「ぶん殴るって、億泰君......まさかそのせいで操縦できなくなったんじゃ......?」

 

「いや、それはない。レッド・ホット・チリ・ペッパーが操縦席で好き勝手してくれたから時間の問題だった。どのみち音石の居場所を特定する必要があったからな」

 

「そうそう、パニックになられても困るからよォ」

 

「ほんとォ?」

 

億泰先輩たちの話を聴きながら、僕は仗助先輩をみた。

 

「大丈夫です?」

 

「ん?......あー、わりい、なんだっけ?」

 

「ひどい顔していますよ、仗助先輩。地獄の4者面談に挑む前みたいな顔をしている」

 

「あはは......そりゃそーだろぉ......だってよぉ、俺たち全然知らなかったんだぜ?あの家、俺んちと目と鼻の先なんだ。最悪殺されてたかもしれないなんて、ちょーこえー」

 

「そうですね、それは間違いない。僕達は驚くような幸運の積み重ねの先で生きている」

 

「ようやく実感が湧いてきたっつーかァ」

 

僕は頷いた。仗助先輩を見ているとかつて通り過ぎてきた日々が思い出される。そこにはぼんやりとした感情と事実があるだけだ。

 

施設に入ったばかりのころは何回も死にかけたあの日々を夢を見た。その度に体を固くしてとびおきた。いつも汗をかいていた。そしてその後は眠りそびれて、朝いちばんに朝刊を取ってきてはすみずみまで読んだりした。

 

TVのニュースをおびえながら見たりした。心配に濃い色が加わり、いつも何となく肩が重い。明日はだらだらと今日の続きで、先のことを考えても楽しくない。そんな毎日だった。義父の有罪が確定したことに安心して幸運を噛み締めてきた。

 

今の仗助先輩は、かつての僕のように空条さんの話も億泰先輩たちのじゃれあいも、僕の忠告すら遠いものになっている。表面に薄い膜ができていて、それを透かさないことには何も見えなくなってしまっている。あらゆる妄想が 悪霊のように訪れているのだ。

 

ずっと昔、子どものころの仗助先輩に戻ってしまっているに違いない。

 

僕の眼差しに気づいたのか、ばつ悪そうに仗助先輩はほほをかいた。そしてぼそぼそと語るのだ。僕が基本的に傍観者、あるいは無関心な第三者からはみ出さないことを知っているから気楽なのだろう。

 

仗助先輩は昔、暗闇を見つめていると、人の顔が浮かび上がってきそうな気がして、電気の消えた部屋で気軽に目を開けることはできなかったらしい。隣で寝ていた母の顔も、じっと見ていると表面があぶられたマシュマロみたいにじんわりと変化してきて死に顔に変わっていく気がして、見ていられなかったという。

 

それを思い出してしまったらしい。まわりに浮かんでいる何かと何かが小さく衝突した加減によって、くじかれて、なぜかとんでもない不安のなかに放り出されたような気持ちにもなって、立ちつくしてしまうという。

 

「ジョルノはどうしてたよ、こういうとき」

 

「君の方が詳しいのでは?」

 

「まあ、そりゃあ......なあ。でも平気そうだし」

 

「......参考になるのかはわかりませんが。それはいつもほんの少しのことなので、それがしゅっと渦を巻いて消えてしまうまで、だいじょうぶ、だいじょうぶ、と念じるんです。目をつむったりひらいたりして息を整えたりして色々なものを逃がしてやる。そうすればだいたいなんとかなりますよ」

 

「それってさ、誰に教わったんだ?」

 

「はい?」

 

「すげえ優しい顔してるぜ、ジョルノ」

 

「覚えている限り、一番最初の記憶ですからね。残念ながら誰かは覚えてないけれど」

 

「へーえ」

 

「なんですいきなり」

 

「いやあ、ジョルノも子供らしい所があるんじゃねーかと思ってさ」

 

いきなり手のかかる後輩扱いしようとしてくる仗助先輩から逃げるべく、僕は空条さんのところに駆け出した。

 

 

 

 

 

 

近辺の地理に通じていない訳では無いのに、僕達は二度ばかり角で立ち止まり、自信なさそうにあたりを見回し、電柱の住所表示を確認する。やがて歩調がいくぶん速くなる。見覚えのある地域に戻ってきたのだ。

 

区分地図を広げてみたが、地図は地球儀と同じ程度にしか役に立たなかった。

 

自分の家のある方向を指さそうとしたが、いったいそれが正確にどちらの方向に位置しているのか僕にはわからなくなっていた。奇妙な角度に折れまがった曲り角をいくつも通り抜けてきたせいだ。

 

「......あっれぇ......おっかしいな」

 

「この辺だよね?」

 

「ああ、そのはずだ」

 

「間違えたとか......ねえよなあ」

 

「いえ、間違いありません。でもたどり着けない。みんな揃って方向音痴になってしまったんだろうか」

 

断片が混じりあってしまった二種類のパズルを同時に組み立てているような気分だ。どこか違う世界にまぎれこんで、別世界に踏み込んでしまったような。さして激しくはなかったけれど、まるで体が幾つかの別の部分に分断されてしまったような異和感を僕に与えつづけていた。

 

味噌汁の、砂が抜けきっていないあさりを噛みしめて、じゃりっときた時と同じ、ものすごい違和感だ。僕はしばしば感じる。断片が混じりあってしまった二種類のパズルを同時に組み立てているような気分だ。

 

「おかしい......おかしすぎる」

 

「まさか、スタンド攻撃か?」

 

「ぼよよん岬がすぐそこなのに車も人もすれ違わないなんてやっぱりおかしいよね」

 

みんなの言葉に僕は息を呑む。ここは双葉の父親がもつ、愛人を監禁するための別荘からは距離がある。あのスタンドのせいかとも思ったが、今から僕達がいくのは吉良邸だ。対象からは外れるはずだ。

 

まさか......まさか、そんなことがありえるのか?脳裏にある可能性が浮かんで、僕はそれだけしか考えることが出来なくなる。心当たりがあったものの、確証がえられなくて僕はひどく困惑した。

 

たしかにあのスタンドは、双葉照彦のスタンドは一般人が知覚出来ない、あるいはスタンド使いが近づけない、それもかなり広い射程範囲をもつ遠隔操作型、そんな能力だったはずだ。だが対象は人間だったはずだ。生き物は対象外、だから僕のゴールドエクスペリエンスによる生体探知が有効だったのだ。

 

もし、もしもだ。双葉照彦が協力しているとして、吉良家にたどり着けないとしたら、その家にいるのは誰だ?あのスタンドの対象は誰だ?息子は普通に社会人をして一人暮らしだと空条さんはいっていたというのに。まさか成長したことで物体を対象にすることが可能になったのだろうか。

 

そしてなによりも。双葉照彦は生まれながらのスタンド使いではなかったのか?まさかDIOの協力者?そうでないならなぜ吉良吉廣に協力している?わからないことが多すぎる。なによりも空条さんが把握していない時点でDIOとは関係ないはずではなかったのか?

 

いつもなら円滑に情報共有するはずだが、僕は迷ってしまった。双葉照彦が敵ならば蓮見琢馬について語らなければならなくなる。僕はどうしたらいい?

 

無駄だとはわかっていながら僕は言葉にするのが遅れた。

 

「......あの」

 

「なんだ。そんなに言いにくそうな顔をしなくても心配するな、ジョルノ。目的地が見つかったぞ」

 

「!」

 

空条さんが指さす先には、インターホンの音色までどことなく気品がある御殿のような広壮な邸宅が立っていた。名札は出ていないようだ。門の先を覗いてみる限り、間取りが旅館のように入り組んでいる屋敷だ。億泰先輩の屋敷も大きかったが、吉良邸もなかなか大きい。DIOの協力者だっただけはあるだろうか。

 

蔦の絡まるレンガ造りの西洋建築は、よくいえば文化財的な価値を持った豪邸。悪くいえば朽ち果てつつある過去の遺物のようだ。インターフォンの反応はないがドアが開いている。あまりにも不用心で僕達は顔を見合わせた。

 

「明らかにおかしい......あれだけかかったのにあっさり見つかるなんて......空条さん、これは」

 

「ああ、そうだな。俺たちは招き入れられている。罠に違いねえ。だが他に行くべきところがないのも事実だ、ジョルノ」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつですか」

 

「そういうことだ」

 

大きな玄関から中へ。まず目に飛び込んでくるのは、古い映画のセットかと見紛うような、赤絨毯の敷かれた大階段だ。広間には、西洋式の甲冑やら象牙やら鹿の剥製やらが飾られ、住人の趣味の悪さをこれでもかと誇示している。

 

邸宅は、周辺の慎ましい二階建て住宅を圧倒する存在感を示している、他を圧するがごとき豪勢なお屋敷がデンと建つ。

 

西洋館が角地面を吾物顔に占領している。この主人もこの西洋館のごとく傲慢に構えているんだろうと、門をはいってその建築を眺めて見たがただ人を威圧しようと、二階作りが無意味に突っ立っている

 

目に沁みるほど鮮やかな色彩が広がっている。目がチカチカする。寝起きで見るには、ずいぶんと目に優しくない配色だ。どれもこれも襟首はすり切れ、裾の糸はほつれ、生地自体も薄くなっていたが、そのくせ色が妙に明るいせいで、その印象はまるで寂れてしまった遊園地のようだった。

 

来客用においてあるアラビア風のお菓子は、ピンク、ブルー、グリーンとその色にちょっとたじろいでしまう。

 

魂を売り飛ばした金の亡者はこんな感じなんだろうか。遊んで暮らせるほどの資産が透けて見えるようだ。

 

金持ちになるには少しばかり頭が要る。金持ちであり続けるためには何も要らない。人工衛星にガソリンが要らないのと同じでグルグルと同じところを回っていればいい。だがこの家主はあまり回りたくないらしい。

 

があああん!

 

後ろで豪快な音がして、後ろを振り返ると重厚な扉が誰もいないのに閉じていた。飛び上がった康一先輩と億泰先輩がスタンドで攻撃するのはほぼ同時。明らかに手応えはあった反応なのだが、僕らは目を見張った。

 

そこには二人がかりの攻撃にビクともしない扉があるのだ。仗助先輩と空条さんが今度はラッシュをかける。どうやら相当強固な扉のようだ。最後に僕がゴールド・エクスペリエンスを発動して、扉そのものを生命体に変えてしまおうとしたのだが変化がない。

 

僕の体感的にいえば生命エネルギーをそそごうとしても跳ね返されてしまう。どうやらすでにこの扉は何らかのスタンドの対象であり、ほかのスタンド能力および物理攻撃は効かないという能力のようだ。シンプルにこの屋敷の中に僕達を閉じこめるという能力だろうか。

 

軽く説明すると、考えるのがめんどくさくなってきたのか、億泰先輩が先に進めばいいんだなと即答する。ずかずかと先に進もうと歩き始め、康一先輩と仗助先輩が追いかけていく。慌てて追いかけようとした僕を空条さんが引き止める。

 

「おい、ジョルノ」

 

「はい?」

 

「さっき、なにをいいかけた?それによっちゃ......俺はこれからの対応をかんがえなくちゃあならねえんだが。教えろ」

 

「......」

 

「ジョルノ」

 

「ひとつ条件があります」

 

「なんだ」

 

「この屋敷にはひとりの男が関わっている可能性がある。僕はその男に復讐を目論んでる人間を知っている。極めてプライベートであり、スタンドの矢には一切関係がないこと、いわば家庭裁判所の管轄だということを保証します。深入りしないでやってくれませんか」

 

「いいだろう」

 

「え」

 

「安っぽい感情だと断じる気はねえ。すべては復讐するために。自らの手を血で汚し、人の心を捨てて獣のように。そうやってやり遂げたやつを俺は知ってる」

 

「......」

 

「意外か?」

 

「復讐を繰り返したところで、憎しみの連鎖が続くだけ、と綺麗事をいう人とは思っていませんよ。ただそんなこと関係ないと言われると思っていただけで」

 

「復讐ってのは開いた傷口と同じだ。でも糧にしないと生きられねえやつもごまんといるだろう。お前はくだらない理由でかばい立てするような人間じゃないことは知ってるからな。そこまでいうならってことだ」

 

「ありがとうございます」

 

「ただ、この信頼をうらぎるんじゃねえぜ、ジョルノ」

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