ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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アンダーワールド1

アメリカ合衆国では毎年160万人もの未成年が家出をしており、その多くは短期間で家に帰るものの、三分の一は最初の四八時間のうちに売春させられる。はじめて売春を行う時点の平均年齢は13歳である、と聞いたことがある。だから13歳にして初めて家出をすることにしたドナテロ・ヴェルサスが家から持ち出すために心血を注いだのは現金でも通帳でもなく銃だった。

 

なにせアメリカ合衆国は行方不明事件が非常に多い国だ。年間の行方不明者は約90万人、そのほとんどが子供たち。状況から判断して自発的な家出でないと考えられるものは約3万件。失踪した人物が危険な状態にあると考えられるケースが約12万件あるらしい。こういった行方不明者の大部分が子供で、計算上、アメリカでは1日に2000人以上の子供が、行方不明になっていることになるそうだ。

 

アメリカで子供の行方不明者が多発する原因は、誘拐、家出ばかりではなく、家族による誘拐も多く、離婚が多いアメリカでは、親権調停の前に、あるいは親権を持っていない側の親が自分の子供を連れ去ってしまうというケースが多いのだそうだ。

 

ほかにも、チャイルドポルノのために誘拐される子供も多い。このように、行方不明事件が多発する背景には、家庭の崩壊、倫理が働かなくなった社会など、現代が抱える矛盾があるという。知ったような口を聞くコメンテーターの発言が不快でドナテロはテレビを見るのをやめた。

 

アメリカの映画やTVドラマで、牛乳パックに行方不明の子供たちを捜す広告が載っているのをみたことがある人は多いはずだ。

 

その広告には、行方不明になった子供の写真、氏名、生年月日、身長、体重、髪と目の色、性別、最後に目撃された場所と時間が書かれている。ヴェルサスは義理の父親もきっとこの牛乳パックの広告を考案し、アメリカ法務省の協力を得て行方児童の発見活動を行なう非営利団体NCMECに届けを出すと知っていた。

 

ドナテロ・ヴェルサスは生まれてこの方不幸の連続だった。エジプトのカイロで連続女性誘拐殺人事件に巻き込まれていた母親が死んで10年になる。たくさんの女性を囲い込み子供を産ませて気まぐれに殺していた男は、ドナテロが3歳になったころにその場で殺されたという。

 

エジプト政府に保護された彼は、母親がアメリカ合衆国オレンジ州オーランド出身だったためにアメリカ国籍を与えられてアメリカ人になった。エジプトを旅行中に突然失踪して警察に届けを出していた実家に戻されたのだが、母親が既婚者であり本来の旦那との間に娘がいた時点で彼の家庭環境が劣悪になることは運命づけられたのかもしれない。

 

愛する妻の血をひいている一方で、妻を誘拐して無理やり孕ませた畜生の血も流れている子供。突然できた忘れ形見。旦那と姉と母方の親戚の感情は複雑怪奇なものとなった。衣食住は保証され、学校にも通わせてもらい、なに不自由無い生活が送れたがそれだけだった。ドナテロには愛情というものが向けられたことが1度もなかった。

 

義理の父親、あるいは義理の姉と同じ苗字を名乗ることは許されなかった。養子縁組を母方の親戚も義理の父親もしなかったのだ。よってドナテロは戸籍上は家族が誰もいない、空白だらけの身の上となった。

 

養育はしてくれるが家族になってくれる人間が誰もいなかった。それは3歳から10年間蓄積されてきたささやかなものから大規模なものまでドナテロの性根をねじ曲げるには充分な歳月だった。

 

いっそのこと施設か教会に預けられた方がまともな生活を送れただろうが、ドナテロの周りには誰一人そう提案する人間はいなかった。それは愛情ではなく世間体と莫大な金のためだと知ったのは、家出を決意して金庫なんかをひっくり返していたときだ。

 

スピードワゴン財団というとんでもないところからの基金だった。国際的な犯罪により犠牲となった母親、あるいは孤児になったドナテロに支払われていた。つまり金により有無を言わさず養育されてきたのだ。ふざけるなと思った。

 

そしてドナテロ・ヴェルサスは家出を決意する。ドナテロがいなくなれば金が入らなくなる。そうすれば間違いなくヴェルサス家の人間、あるいは義理の父親たちは血眼になって探すだろう。それでは困るのだ、絶対に見つからない方法を探さなければならない。だからドナテロは家出にあたり用意周到な計画を行った。

 

まず、義務と世間体だけで親でいようとするやつらを家族と考えるのをやめた。あれこれ指図ばかり、すぐあれば暴力、気に入らないことがあればすぐ怒鳴る親がいる家にはなるべくいないようにしはじめた。自分の家は、ご飯と寝る、風呂だけの空間と割り切った。学校が終わったら、すぐに家には帰らず、友だちの家や図書館、喫茶店で時間を潰す。

 

義父への言い訳は「勉強に集中したい」「図書館でたくさん調べものをして将来就きたい仕事を考えている」などなんでもでっちあげた。たまに古本屋にでも行って、好きなマンガを立ち読みした。

 

夜家に帰ったら、ご飯を食べて風呂に入って、すぐ部屋に入って寝る。早ければ21時に寝た。そして4時5時と誰よりも早起きして、親が起きるまでは家で過ごす。親が起きそうな時間になれば、外へ出て行って、また友だちの家や図書館、喫茶店へ。朝早すぎてまだ開いていない場合は、公園へ行ったり、コンビニでマンガを立ち読みして時間を潰した。

 

何かと否定しかできない親元にいたら、疲れ切ってしまうからだ。かといって金も社会性もある親という存在は非常に立場が強いので、まったく無視した行動をしたら、「出ていけ」だのと言って子どもが無力であることを思い知らせようとしてくる。中学生であるドナテロは親に依存せざるを得ない立場だった。親の機嫌を伺わないといけないからめんどくさいことこの上なかった。

 

親というのは、偶然の元でくっつかされた存在であって、敵であることもある。ドナテロにとっては不運にもそうだった。自分の身は自分で守るしかなかった。本来、子を守るはずである親が敵であるという現実こそが非常に強い害悪だったのだ。

 

今後の人生を決める、大きな選択として新しい環境を求めて飛び出す、今の環境に耐える、どちらの選択をとるかによって、その人の人生を大きく左右する。このまま飛び出さずに辛い環境に耐えていたら、弱弱しい自分で物事を考えられない情けない人間になっている予感があった。

 

「中学生なんだから今は勉強しな。」とか「社会に出たことのない甘い考えしかできない子どもが。」など、自分より少し長生きして働いている人たちから説教を受けてきたがなんでこんな長い間、自分の時間を奪われないといけないのか。

 

一番大切なのは、自分がこう生きていきたいと思う意志で、そこから自分の人生が決まる。周りの意見に流されて、何も考えずに年を食って、いつしか自分自身も周りの意見に同調しているほうが、よほど考えが甘いと言わざるを得ない。

 

中学生で家出したい。それはドナテロにとって自我の芽生えだった。自分の人生は自分だけのものであり、自分の人生は自分だけが決めていい。誰も味方になってくれないならば、自分だけが味方になればそれでいい。

 

「オレはこんなところで終わらない!オレだって幸せになる権利はあるんだッ!」

 

それがドナテロ・ヴェルサスの宣言だった。

 

完璧な家出をするために、ドナテロは自分に3つの規則を課した。ひとつ、犯罪を犯さない。ふたつ、家出していると誰にも言わない。みっつ、誰も信用しない。

 

隣の州の都会に出奔したドナテロは

さいわい体格に恵まれている。ドナテロを中学生と判断できる人間はいなかった。予め調べていた格安ホテルに問題を起こして休学になったから家族の勧めで旅をしていると話した。

 

もともと親からの愛情を受けずスレた子どもに育ったドナテロが紳士的で育ちがいい少年を演じるのは反吐が出るほど嫌だったが、連れ戻される訳にはいかなかった。罪を犯しても連れ戻されてしまう。

 

「大人」というものを全く信用しておらず、また誰かから命令されたり説教をされることも極端に嫌っていたドナテロだが、新たな生活をする上で仕事を探すのはホテル生活が長引いて精神的余裕を消費しないためには緊急の課題だったのだ。

 

今までの不幸な人生の分、ハングリーさ、世の中への恨みと憎しみ、幸せを掴もうとする向上願望はとても強いドナテロはタフな少年だった。ただ理不尽なほどに不幸で間の悪い少年だった。

 

「ちくしょう、オレがなにをしたってんだ!なんでオレが盗んだと疑われんだ!」

 

ようやく住み込みのアルバイト先とホテルを確保したと思ったら、ウォルマートに潜り込んで数日盗み食いを繰り返した悪がきの模倣犯だと疑われた。さいわいアルバイト仲間が冤罪だと証言してくれたから警察に突き出されずに済んだが、1度でも疑われることはドナテロにとってはその町にいられないも同然だった。

 

「オレは負けねえぞ......絶対に......絶対にだ!オレは幸せになるんだッ!」

 

幸せになりたいと願いながら具体的にどうしたらいいのかわからない哀れな少年は叫ぶしかないのだ。疑われてはもういられない、と庇ってくれたアルバイト仲間にだけ明かして、ホテルを引き上げたドナテロは次の町に行くべく駅に向かった。

 

格安ホテルのメモを広げて公衆電話から予約をする。わけアリ達が集うホテルは案外気安くOKしてくれた。前金で一括払いしてくれる成人男性に見えるドナテロはこういったホテルにとっては上客なのだ、この上なく。

 

「よし、いくか」

 

頭に叩きこんだ乗り換えと徒歩を駆使してドナテロは新たな拠点に転がり込んだ。また新たな仕事を探さなければならない。また1からやり直しである。ドナテロは舌打ちをした。

 

人にぶつかった。

 

「あ、申し訳ありません。考え事をしていまして」

 

ドナテロはすぐさま紳士的に謝った。

 

「まちなぁ~」

 

「ごめんなさい」

 

「だーかーら待ちなっていってんだよぉ。髭生やしてるし髪伸びてるしわかりにくいけど......おまえ、ドナテロ・ヴェルサスだな?」

 

「誰のことでしょうか?」

 

「しらばっくれんなよ~俺はよーく覚えてるぜえ、ドナテロ様よぉ~DIOが死んでからこっちは散々な人生送ってるっつーのに能天気に家出なんかしやがってぇ!ムカつくんだよぉ~!」

 

ドナテロは殴られた。

 

「うっかり事件に巻き込まれて死んでもいいよなァ~生きてつれもどせとは言われてるけど五体満足でまともな状態でとはひとっことも言われてないもんなぁ~!」

 

ドナテロは男の影が伸びるのを見た。

 

「フフフフフフフそろそろいいかな?弱い者いじめ......大ィィィ──好きッ大きい声じゃあいえねーがな......おれは弱い者をイジめるとスカッとする性格なんだ......フヘヘヘヘ自分でも変態な性格かなァと思うんだがね......DIOに雇われたせいでオレの顔も人生もめちゃくちゃなんだよぉ......だからお前の顔も人生もめちゃくちゃにしていいよなぁ?」

 

「だれだ、おまえっ」

 

ドナテロの声は明らかに幼くなっていた。

 

 

 

 

 

 

ドナテロ・ヴェルサスは生まれ落ちた瞬間から空条承太郎のスタープラチナにより解放されるまで肉の芽の支配下にあった。よってアレッシーのセト神で3歳まで若返った場合、そこにいるのは高熱にうなされながらスタンドを無意識に暴走させてしまう肉の芽を植え付けられた3歳の子供である。

 

髪の毛を変形させて生成し、相手の脳に食い込むように打ち込まれた肉の芽は、実の息子であろうともDIOに対してカリスマを感じるようになり、彼に従うようになる。3歳の子供にとっては自由意志はあってないようなものなので、本来あるはずの自分中心がDIOと自分中心の世界となる。

 

DIOがなぜ裏切る可能性のある人間でも反抗してくる相手でもない赤ん坊にまで植え付けられたのかは謎のままだ。心からDIOに心酔して従っている者達と比べると子供はその無邪気さによって信頼できないと考えていたのかもしれない。

 

肉の芽自体の栄養源は寄生対象から得ているため、常に記憶はあいまいでぼんやりとしている。放っておくと対象は脳を肉の芽に食いつくされて死ぬ。

 

「んん~~なーんか違うな~!それに気づくって、オレってエラいねええ!フラフラで今にも死にそうなクソガキなんて、ぜんっぜん面白くねえ!よーし、もうちょっとだけ戻すかあ」

 

アレッシーはそう言ってちょっとだけドナテロの年齢を引き上げた。具体的には肉の芽が抜かれてすぐくらいのころである。

 

「おれ......おれ......なんで、わすれてたんだ......」

 

次第に若返るために思考はまだ正常であるドナテロは肉の芽の影響から解放されて自我を取り戻して笑うのだ。

 

「おやじは......DIOは......ただの殺人鬼なんかじゃあない......吸血鬼だ......時間を止められるスタンドだ......天国......そうだ、いつもおれたちはベッドの上で子守唄を聞いていた......!」

 

そこには羨望してやまない愛情がたしかにあったことを自覚した子供の歓喜があった。

 

「あいつらとは違う......おれは......おれたちは......たしかにあいされていた......DIOに......父親に......あいされてたんじゃねえか......!」

 

肉の芽による歪んだ認知を愛情と錯覚する。10年間飢えすぎたものが初めからあって、すでに失われていたものだったという事実は、ドナテロ・ヴェルサスには致死量の劇薬だったのだ。

 

我ながら浅ましく感じるほどの歓喜である。動物的なむき出しの卑しさ、餓鬼のような貪欲さ。全身欲望でぐりぐりになりながら、ドナテロはその天啓に酔った。

 

「おやじに出来て......おれにできないことは......ないはずだ......!スタンド......おれにも......なにか......かならず......なにもかもオレのためにあるはずのものが......!」

 

ドナテロは生まれながらに自らの欲望に貪欲だった。他者を利用してでも成し遂げようとする野心があった。

 

ドナテロの脳裏にはDIOからの電話をうけて日記帳に落書きすることをやめてなんて書いてあるか読もうとする一歳年上の兄がいた。腹違いの兄だった。一緒に読んでいたらDIOが帰ってきて無理やり取り上げようとしたものだから日記帳を蝶に変えてしまった。

 

その日からDIOの態度は急変し、兄は居なくなってしまった。あれがもしスタンドだとするならば、兄を庇おうとして見て見ぬふりをしていた血濡れの女と血みどろの世界とDIOを出現させたあれは、夢ではなくスタンドだったのではないだろうか。

 

思い出せ、あの時DIOはなんと言っていた?高笑いしてドナテロと兄を、ハルノを見下ろして、なんと言っていた?さすがは我が息子と言っていなかったか!?必要だと言ってくれていなかったか?思い出せ思い出せ思い出せ、あの時ドナテロはなにを願っていた?

 

DIOに恐怖して過去に戻りたいと願ったはずだ。それは間違いなく父親であるはずのDIOが吸血鬼だと知ったあの瞬間、女を食料にしていると知ったあの瞬間に戻ればハルノとドナテロは助かるという根拠もない自信があったはずだ。

 

どろどろに溶けていく理性と本能がかつて意味もない全能感に満たされていた自分を思い出させていく。あの時のドナテロ・ヴェルサスの生命は吸血鬼に養われていた細胞と同じように豊富で、旺盛で、貪慾であった。野獣が鶏でも貪るような意地汚さがあった。

 

人は身に病があると、この病がなかったらと思う。その日その日の食がないと、食ってゆかれたらと思う。万一の時に備えるたくわえがないと、少しでもたくわえがあったらと思う。たくわえがあっても、またそのたくわえがもっと多かったらと思う。

 

かくのごとくに先から先へと考えてみれば、人はどこまで行って踏み止まることができるものやらわからない。その果てしない欲望こそがドナテロ・ヴェルサスの原点だったのだ。

 

「やっぱりこれくらい生意気なほうがいいッ!オレってばえらいねェ~」

 

アレッシーはぶつぶつ呟いているガキに笑うのだ。 13歳の精神が弱体化し、3歳と同じになれば無力化も同然だ。あとはいい感じにボロカスに痛めつけて連れ戻せばいい。楽観的にそう考えていた。

 

ドナテロが一目散に走り出した時、にやあという嫌な笑みをたたえたままアレッシーは追いかけはじめた。

 

 

 

 

 

 

「どこ、ここ?おじさん、だれ?」

 

 

ドナテロ・ヴェルサスは混乱していた。いつもの宮殿ではなくなんで何で僕はこんな所にいるんだろう?何で、僕はあんな恐いおじさんに追いかけられないといけないんだろう?

 

ぶかぶかの服を引きずって必死に逃げる3歳の幼児の脳裏で走り抜けるのは戸惑いと困惑、そして絶望感だ。目の前にいたはずの緑の目をした髪と頭が一体化している男が訳の分からない透明な生命体とこちらを見下ろしていたのを覚えている。怖くなって逃げたのを覚えている。

 

何故そんな物を着ているのか思い出せないが、なんとなく自分で着ていたような気もする。裾を踏んづけて何度も転びそうになりながら、必死でドナテロは走る。助けてと叫んでも誰もいないのか誰ともすれ違わなかった。

 

 

ドナテロたちの世話役にたくさんの女性や男性がいたはずなのにだ。あの宮殿とは似ても似つかない質素な作りの廊下を走る。途中で窓から逃げようとしたが高すぎて届かない。両脇に扉が並んでいるが、鍵がかかっているのか重くて動かす事も出来ない。

 

ただただ、心臓は早鐘のように鳴り響き、それがあのおじさんに聞こえるのではないかと思い、さらに激しく心臓がうつ。

 

「はぁーはぁーはぁー」

 

どれだけ走っただろうか、とうとう突き当たりまで来た。必死で隠れる所はないかと探す。わずかに開いた扉があった。体を滑り込ませる。誰もいない。

 

 

置きっぱなしの旅行カバン、口笛をふく女の人の声、ドナテロはとっさにクローゼットの中に隠れた。嬉しさのあまり涙が出て来た。まだ中に入ったままの荷物をかき分け奥の方に潜り込む。もちろん閉める事も忘れない。完璧だ。絶対に見つかる筈が無い。そう思い、息を吐こうとした、瞬間。

 

「いやあああああッ!」

 

 

女の人の声が聞こえてきた。心臓が大きく跳ねる。おじさんが部屋に入ってきたのだ。女の人が酷い目にあっているのだ。悲鳴が鳴り止まない。ドナテロは耳を塞いだ。おじさんにバレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんようバレませんように!!

 

ドナテロは息を殺す。じっとうずくまる。早く行ってしまえ、そうしたら逃げてやる、絶対にここから逃げてやる。少年の決意を嘲笑うかのようにクローゼットがあいた。

 

 

「みいつけたぜ、ドナテロ様よお~~!」

 

 

クローゼットから引き摺り出されたドナテロはさっと青ざめた。恐怖に染まった眼差しで、ただ一点を見つめる。そこにはAXと文字の刻まれた斧を振り上げている男の姿があった。不自然なまでに広がっている髪なめちゃくちゃに凹んでいる顔は、殺人鬼と化したピエロのように滑稽故に恐怖を引き起こす。斧が振り下ろされ、ドナテロは咄嗟に足をひっこめた。

 

 

「フフフフフ~~、逃がさないよぉ~~かくれんぼはもうおしまいだぜぇ、ドナテロさまァ~~~~」

 

絶望的な、処刑宣言が下された。

 

 

アレッシーはにやにやとした笑いでドナテロを見下ろす。サングラスの向こう側に透けている両目はどこまでも冷ややかだまるで、屠殺寸前の豚を見る肉屋のように慈悲がない。

 

「ぼ、ぼくを、ころすの......?」

 

 

「んひっ、どうしよっかなぁ~~~やめとこっかなあ~~!どうしようっかなぁ~~」

 

斧が振り下ろされる。ざくり、と真横のフローリングが両断された。どさり、と荷物が瓦礫に変わる。

 

「そうだぁ、命乞いしろよぉ~~ドナテロ様よぉ!う~~ん、俺様ってばやーさーしーい~えらいねぇ~~」

 

絶望が全身を回る。身をよじる事さえ出来ない。

 

「逆らうんじゃ、ねぇ。ガキのくせに、むかつくぜ!!」

 

アレッシーの持つ銃が火を噴いた。

 

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