ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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エジプト展覧を見に行こう2

「お前たちに恨みはないがその命もらいうける~~~ッ!」

 

学芸員の男はいきなり仗助先輩に斬りかかった。抜き払って、そのまま切り下ろす無造作な太刀筋。だがしかし、気合い充分の刀撃だ。殺意しか感じない。

 

「うおおっ?!やっぱ完全に正気を失ってるぜッ!」

 

仗助先輩は素早く飛びのいてこれをかわした。まさに紙一重だ。警戒して、距離を置いた位置で立ち止まっていたから避けることができたのだ。仗助の額から赤いしずくが垂れた。薄皮一枚分、かわしきれなかったようだ。

 

「あっぶねえ!」

 

「まずはお前だァ!しねえええい!」

 

ざくっと嫌な音がした。

 

「あ」

 

僕はこの瞬間に学芸員の冥福を祈ることにした。仗助先輩の自慢のリーゼントに深深とナイフが突き刺さり、硬い音を避けながら傷がはいったのだ。

 

「フフフフフ......ちょこまかちょこまかとすばしっこい小僧だな......そのハンバーグみたいな髪型に感謝するんだな......今度は切り落としてやろうかァ!」

 

男は笑う。仗助先輩はその挑発に答えない。男はそれだけ怖がっているのだと勘違いして、舌先をチロリとのぞかせ、上唇をなぞった。

 

「ガキのくせに堂々たる物腰、年齢以上のものがある......これはあの男を思い出させる!」

 

嬉しそうにつぶやいて、にやあ~と笑う姿に、僕はため息をついた。片手を腰に当てる。

 

「ジョルノ......手ぇ出すんじゃあねえぞ。こいつは俺の敵だ」

 

「出しませんよ、心配しなくても」

 

じり、と仗助先輩が歩みを進める。

 

「気に入ったぞ、その冷静沈着さ......」

 

「それは冷静じゃあない......頭が怒りでいっぱいなだけだ......」

 

じりじりと仗助先輩はにじり寄って間合いを詰める。

 

「だが、それももう憶えたッ!」

 

言い放ちざまに男は身を躍らせた。フェイントも交えた白刃の連撃が風を切る!

 

「ドラァッ!」

 

仗助先輩のクレイジーダイヤモンドの繰り出したスタンドの手甲が、刀を弾き返した。

 

「ヌウッ!貴様ァ、そいつは......まさか、スタンド使いかッ!」

 

男が驚きの声を上げる。どうやらDIOの協力者じゃあなさそうだ。もしあいかわらず行方がわからないスピードワゴン財団職員の手引きでここにいるのならこんな間抜けな言葉を吐かないはずである。

 

「ドララアアアッ!」

 

「うぎぃっ!?なんというパワーだッ!」

 

用心深く、後ずさりながら問い詰めていた男などものともせず仗助先輩は男を殴りつける。吹っ飛ばされたものの、持ちこたえた男はやや前傾姿勢で刀を構え、仗助先輩の動きに合わせて回りこむ。

 

「ククククク......その動き......当ぉぉ然ッ......」

 

仗助先輩の肩が壁にぶつかった。いつの間にか壁際に追い込まれていたのだ。

 

「覚えたぞオォオッ!」

 

そう言って大上段から下段に刀を振り下げると、男は下からすくいあげる一撃を仗助先輩目掛けて放った。仗助先輩もすかさず応戦の構えを取る。

 

「クレイジーダイヤモンドッ!」

 

「なにィッ!?」

 

今度弾き飛ばされたのはクレイジーダイヤモンドのガードのほうだった。仗助の腰から肩にかけてが、ガラ空きになる。

 

「俺のスタンドは『冥界の神アヌビス』の名を持つこの刀!貴様のスタンドの動きとスピードは、 さっきのでキッチリ取り込んだッ!」

 

アヌビス神の刀身が仗助先輩の体をまっぷたつに横断した。

 

「───────!?」

 

体は何ともなかった。血も出ていなければ、かすり傷ひとつついていない。完全に殺られた、そう思ったのだが。仗助先輩は目の前の男を見やった。

 

「刀がスタンドだと......?んだそりゃあ!んなのアリかよッ!」

 

「あっさり殺してはもったいない。貴様の全てのパワー、スピード、能力・・・憶えさせてもらうぞ」

 

「相手の力を取り込んで憶える。それがてめーのスタンド能力か?」

 

「透明になってすり抜けることもできるみたいです、仗助先輩!」

 

仗助先輩はげ、という顔をする。こちらの力量を憶え、次からはそれを上回るスタンド。やっかいな相手だ。

 

「クックククク・・・ククク」

 

男が忍び笑いをもらし始めた。

 

「それだけじゃねえんだぜ、この刀」

 

「なんだって?」

 

「今、俺は斬ったと思うか?それとも斬らなかったと思うか?」

 

「なにを言ってんだよ、てめー?」

 

「ちゃあ~んと斬ってるんだぜえぇぇぇッ!ただしッ」

 

「!?」

 

僕達は背後に不穏な気配を感じ取った。振り向くまでもなかった。それはすぐに僕達に向かって倒れ込んできたのだ。

 

「斬ったのはお前の体じゃあねえぇッ!体を透かしてッ!斬ったのはその後ろの棚だあぁぁッ!」

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!」

 

その機を逃さず男が仕掛けた。なぎ払う一閃!だが仗助先輩は構わず男に殴りかかった。

 

「なにいっ!?」

 

アヌビスの一撃は虚しく空を切った。頭上をたくさんの蝶が舞う。

棚が音を立てて倒れるはずが跡形もない。アヌビスは驚いて声を上げた。

 

「今のは一体......そうか、それがお前の能力かッ!上手くかわしたな!しかし、その動き憶えたぞッ!」

 

男のごたくにはつきあわず、仗助先輩は追撃をしかける。だが避けられてしまい、カウンターで制服が破かれてしまう。

 

「仗助先輩、こっちです!」

 

「くっそー!めんどくせーなあ!」

 

仗助先輩は地をけって駆け出した。闘ったところで、こちらの手練手管を憶えられてしまうだけならば、そんな敵と闘っても無駄だ。僕は無駄なことが嫌いだった。それを汲み取ってくれたらしい。

 

そこへ壁が襲いかかってきた。

 

「!?」

 

「なんだと!?」

 

咄嗟に見えた鏡の向こうに男の姿があった。その後ろの壁が切り取られている。向こう側から壁を斬って切り払ったのだ。

 

「クッ!」

 

「んなのありかよっ!」

 

進路を絶たれた。壁越しに、全ての面という面が倒壊してくる。クレイジーダイヤモンドが咄嗟にその壁を押し返し、元に戻っていく。僕らはその穴をくぐり抜けた瞬間に部屋は溶接されていった。

 

「ぐえっ!」

 

金属が弾かれる音がする。どうやら透過するにはタイムラグがあるようだ。

 

「ありがとうございます」

 

「それはいいけどよぉー、どうする?早いとこ何とかしねーと騒ぎになっちまうぜッ!」

 

相談しようとした矢先、近くの窓ガラスを割る音がした。男が建物の外のベランダを通じてこちらの通路に飛びだしたのだろう。

 

「ちったあ待てよ、早すぎッ!」

 

「このオレの勝ちだッ!逃げても無駄だったな!死ね、小僧ッ!」

 

かけてくる学芸員。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!生まれろ、新しい生命!」

 

僕はあたりに四散したガラス片を植物に変える。

 

 

「なにいィッ!樹を......蝶の次は......これはッ!お前が生やさせたのかッ!?それが貴様の能力!?」

 

向こうから斬りつける体勢をとっていた男は目を丸くした。

 

「それがどうしたというのだッ!こんなものォォォ、すぐにィィッ!切断!ブッ倒してやるウウウウ!」

 

アヌビスの斬撃が美しい弧を描いた。樹の幹を右から左へと切り払う。

 

「う?」

 

切断面から静かにズレて、地面に転がったのは男自身の上半身だった。内臓がはみ出しもしない、鮮やかな切断面だった。

 

「ゲエェー!な......なにしやがっ......や、ガハッ!」

 

男の口から豪快に赤がぶちまけられる。

 

「クレイジーダイヤモンドッ!」

 

絶命せずに動きつづける男に危機感を感じたらしく、すさかず仗助先輩が刀をはじき飛ばした。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアアアッ!!」

 

「ギエエエ───────ッ」

 

刀が、男の体が、美術館の壁にめり込んでいく。元に戻っていく過程で、全てが融合していく。男の血さえもが壁に吸い込まれてしまった。

 

「逃げたのは無駄なんかじゃない......広い場所が必要だっただけだ......そう、僕達が充分に戦えて、アンタが壁の中にいるために必要な、壁がね」

 

「あっ、あぶねえ......マジでどうなるかと思ったぜ」

 

「仗助先輩、急ぎましょう。さすがにまずい!警備員がくる!」

 

「そうだったァー!面倒なことに巻き込まれる前に逃げようぜッ!」

 

遠くから足音が聞こえてくる。僕達は一目散に逃げ出したのだった。

 

「い......生命を生み出し、攻撃をそのまま跳ね返す能力......元に戻す力......たしかに憶えたぞ......」

 

男が断末魔のうめきを上げたのは、僕達がいそいで反対側の通路から逃げ出したあとだった。

 

「アヌビス神......だと......まさか本当にそういったのか、そいつは!」

 

「そうなんすよ~!」

 

公衆電話の向こう側で空条さんの驚きの声がする。

 

「ナイル川に沈めたはずなのに......なんでだ......」

 

「......え、まさかDIOの手下だったんすか?」

 

「スタンドといっても、本体は500年前のキャラバン・サライというエジプトの刀鍛冶の男で、とうの昔に死亡している」

 

「ええッ!?死んでるだって!マジっすか!」

 

「ああ、スタンドのみが彼の作った刀剣の中に宿っており、自らを握った者を剣士として操る妖刀だ。とある博物館の倉庫内に保管され続けていたところをDIOに持ち出され、その恩義からDIOに忠誠を誓っていた」

 

僕は息を飲んだ。

 

「戦闘では、戦うごとにパワー・スピード共に強さを増していくという驚異的な戦闘能力を持ち、策や術を使わない正統派のスタンドだ。しかも鞘がなかったんだな?」

 

「刀も先の方だけっすね。鞘も展示されてなかったし」

 

「そうか......奴は手にした人間の精神を支配することが出来る......!壁に埋め込んだ程度では通りかかった人間が取り出すだろうな」

 

「や、ヤバくないっすか!?今美術館警察が張ってて中は入れないっすよ!」

 

「ああ、まずいな......非常にまずい。今ニュース速報で流れ始めている......!こっちが警察署にいって話をつけてみるから待ってろ」

 

「まじでお願いします、承太郎さん!」

 

「よく知らせてくれた。ありがとう、二人とも。そのエジプト展てのもきな臭いな、調べてみるぜ。じゃあ後で連絡するから今回は帰れ」

 

ココで手を引くのは......と仗助先輩と僕は粘ったものの、警察案件になってしまった今となってはただの学生である僕達に出る幕はない。

 

残念だが僕達に出来るのはここまでのようだ。

 

 

 

 

壁にめり込んでいた本体の傍らで、妖刀アヌビス神の思念が立ち昇る。警備員、警察官、そして通報した1階フロアのスタッフ、館長たち。ものものしい雰囲気で黄色いテープがはられて行き、カメラのフラッシュや話し声が騒がしい。

 

新たなる剣の使い手を呼び寄せなくてはならない。あの小僧たちのパワーと動き、精神力はしっかりと取り込んだ。その能力も憶えた。使い手さえ誰でもいい。通りかかって我が刀身さえ手にすれば、次は負けない!

 

アヌビス神の横を通り過ぎようとした鑑識の男が不運にもその存在に気づいてしまう。血濡れのナイフが壁にくい込んでいる異様な光景に周囲がざわつく。

 

だが子供もあわせて12人も犠牲になった殺人事件のナイフが見つからないとなれば、これしかない。一体どうすればコンクリートの壁にめり込むのかわからないが、大事な証拠品だ。トンカチやドリルを使って警官たちはそれを取り出し、しまいこんだ。

 

すぐさま精神を支配しようと考えたアヌビス神だったが、ふと考えるのだ。あの小僧たちはいずれもなかなかあなどれない能力だった。しかも連携されたら面倒だ。また挑むにしても、できれば使い手はスタンド使いが望ましいのではないだろうか。

 

そうそう都合良くこの辺りに他のスタンド使いがいるなど、無理な相談かも知れないが、チャンスはまだあるはずだ。アヌビス神は大人しくパトカーに運ばれていった。アヌビスの思念が目に見えぬ殺意は波紋となって、警察署の周囲に広がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......空条さん、アヌビス神を見つけられたかな......」

 

インターネットを調べてみるが、社王町の警察署で殺人事件があったというニュースはない。明日の新聞やテレビ待ちだろうか。今夜最後の更新を読み終えた僕はパソコンを閉じて自室に向かった。

 

ガチャガチャと鍵をあける音がする。彼が帰ってきたようだ。ずいぶんと遅かったからなにかあったのだろうか。話を聞けないだろうかと玄関に向かおうとした僕は。

 

「ッ───────!?!」

 

右足に強烈な痛みが走る。僕のスリッパと靴下を貫通し、まるで植物の新芽のように刀が生えているではないか。とっさに抜こうとするが、先に抜かれる。ぐじゃり、と捻られたせいでだくだくだくと血がしたたり、僕は悶絶した。刃先が海面にのぞくサメの背びれのように廊下を泳ぐ。

 

たまらず僕は転倒した。その先にも刃がある。ざしゅ、と足の甲が縦に切り裂かれた。部屋の床に転がった僕の周囲の壁や床を自由自在に刃が泳ぎ回る。床が揺れる。僕はなんとか避けようとするが先回りされてしまう。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!」

 

反応したのは血だけだ。あたりに蛍が四散する。これはただの刃ではない。スタンドだ。スタンド能力の配下、あるいはこれそのものがスタンド能力!

 

次の瞬間、僕は足元が不自然に揺れた気がした。轟音をたてて部屋の床が抜け落ちる。僕は脚の痛みをこらえて跳躍した。ゴールド・エクスペリエンスで縄を作ろうとしたが、根付こうとした蔦の一体化するはずの場所まで刃が切り落としてしまう。

 

舌打ちをした僕はまた飛んだ。廊下にはぽっかりと穴があいている。僕は目を見開いた。急遽変更した着地先まで脱落していくではないか!

 

「チッ、しまった!また先回りをッ!」

 

刀の主は脱出先を読んでいたのだ。僕の身体が宙に浮いた。一瞬の無重力感。そして絶望的な落下の衝撃が遅いかかる。

 

僕は悲鳴を残して下の階へと落下した。体が砕け散ってしまいそうな程の痛みにたまらずうめく。しかしすぐに身を起すしかない。頭をかばって、ゴールド・エクスペリエンスで真っ直ぐに向かってきた殺意をはじき飛ばした。ゴールド・エクスペリエンスがまたはじき飛ばした。どうやら刃は生きているようだ。

 

「なるほど......今度は1人の時を狙ってきたってわけか、アヌビス神。実に懸命ですね」

 

真上だ。抜けた天井の闇の中を飛ぶ音がする。僕達が住んでいる階の穴から、アヌビス神の小刀を持った誰かが僕に襲いかかる。その頭上高くで白刃が青白くきらめく。なんの躊躇もなく振り下ろされた一撃は落下速度も加えて威力は充分だ。人を一刀両断できるのだから。

 

「無駄ァッ!」

 

ゴールド・エクスペリエンスが拳を繰り出す。闇が裂け、僕の指が4本第1関節指から切り落とされた。繰り出した拳の先が無くなっていた。切り落とされたのだ。血が吹き出す。僕は痛みに耐える。

 

「ワハハハハハ!素拳で刀に挑むとは笑わせるなァ~!そんなに驚くなよ~!家族だろォ~~~?」

 

床を転がる僕の前に降り立った襲撃者が刀を握りながらいうのだ。絶対にしないであろういやらしい笑みを浮かべて。

 

「その命......もらいうけるぞ、ジョルノ!その力を全て覚えるまで、精一杯あがくんだなぁ~~!」

 

それから僕の防戦一方の戦いは始まった。同居人であり、僕の保護者でもある警察官に憑依しているアヌビス神は、あのときの学芸員みたいに殺してみろよと笑うのだ。

 

「できるか?出来ないよなあ?大事な大事な家族だもんなあ?初めてできた理解者だもんなあ?」

 

「知ったような口をッ」

 

「なんだよ~もう終わりかぁ~~?ならもう用済みだァ~~~!死ねィッ!」

 

彼はうなりを上げながら床を走り、僕に遅いかかった。僕は床に飛び散っている血に生命エネルギーをそそぎ込む。すさまじい勢いで樹木が出現した。その上を蔦が幾重にも生えていき、より強固な盾となる。

 

「愚か愚か愚かものオォオッめがぁッ!命を与えて攻撃反射その手はもう」

 

アヌビス神は僕の渾身の盾をいとも容易く透過した。

 

「憶えたのだァああ!俺には通用しないいいッ!!」

 

「愚か者はお前だ、アヌビス神」

 

「ぬ?」

 

僕は笑った。本体操作と透過は能力をきりかえる必要があり、一瞬ではあるがタイムラグがある。この時間差を僕は狙っていたのだ。

 

ぶしゃあああ、と水が吹き出す。

 

「ぬおおっ!?」

 

空を斬った先に僕はいない。そこにあるのは洗面所、そして蛇口だ。切り落とされた水道が勢いよく辺りを水浸しにしていく。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!」

 

「なんのつもりだぁああ~~?」

 

ギリギリ後ろへ飛び、僕の衣服が切り裂かれた。僕は歯を食いしばった。今の一撃はなんとか逃れることが出来たがさっきの手へのダメージは深刻だ。左手から血がしたたる。人差し指と親指しか残っていない。

 

「上手くかわしたな。フフ......しかし、いつまで避け切れるかな?」

 

上体を起した彼がにじり寄る。

 

「アアアアアアーッ!」

 

刀が出た。一撃ごとにアヌビスの刀勢は鋭く激しくなっていく。

 

「ほおら、さっきみたいにやれよ~~こいつを真っ二つにしてみろよ~~~ジョルノ~ジョルノ~ぎゃははははッ!」

 

空振りを繰り返しながら彼が警告を発した。

 

「俺様は精神を操り、使い手から使い手へ時を越えて生きるスタンド!そして」

 

アヌビスの剣先がついに僕の肩口をかすめた。

 

「戦った相手のパワーを取り込み、進化する!一度戦った相手には絶っ」

 

彼が腰を落とした。来る!僕は直感した。今までの攻撃を超えた最強の一撃だ。

 

「対に負けんのだあッ!」

 

突き!一直線のそのスピードを僕はかわせない。アヌビスが直撃した。僕の腹をつらぬいた刃が真っ赤に色を変えて、その背から突き出る。僕の吐いた血が彼の顔に落ちる。びしゃりという音がした。

 

「仕留めたりィ~ィ!」

 

僕はそのまま後ろに倒れた。彼は剣を引きぬくため、その傍らに片膝をつくと、 ついでに僕の横顔に悪魔の形相の笑みを近づけた。

 

「ヒィヤハハハハーッ!」

 

目をカッ開き、発情した犬のように大口から舌をダラリと垂らしてあえぐ。

 

「ぎゃあああッ!」

 

アヌビス神は悲鳴を上げて床に転がる。僕は水を吐き出した。鉄サビの味がするからだ。いつしか床は赤褐色となっている。

 

「こいつは土壌中に普遍的に存在するバクテリアだ。水田の取水口付近、コンクリート構造物の漏水箇所など、湧水量及び移動量が少ない場所で大量に繁殖し、サビ色のドロドロとした沈殿物を生成する。水面に油状にみえる鉄の酸化被膜をつくることから油の流出事故と錯覚されることがある。鉄を食べて活動する鉄バクテリアだ」

 

「て、鉄を食べるだとぉっ!?」

 

「ただし食べると言っても、直接鉄を捕食するという意味ではなく、鉄を酸化させ、そのエネルギーで代謝し活動しているという意味だ。つまり」

 

僕はアヌビス神を踏みつける。

 

「なッ!?貴様、まだそんな力が!?」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アアア!」

 

ゴールド・エクスペリエンスの怒涛のラッシュを浴びて、アヌビスは粉々に砕け散った。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ、奴を拘束しろ。破片を通して操られちゃたまったもんじゃあないからな。そして鉄バクテリアにつけてやれ。この方が早くただの鉄の塊になるからな」

 

「そ、そんなことまでバレてやがるのかァ......ッ!ち、ち、ちくしょおおっ!」

 

「さあ、どうやってナイル川から日本に来たのか、誰に運ばれてきたのか、教えてもらおうじゃないか。空条さんたちがくるのは少々時間がかかるからね」

 

 

 

「大丈夫か、ジョルノ」

 

「僕は大丈夫ですが、官舎が大惨事ですね」

 

「......こいつはすげえな」

 

ガスの配管と水道が接触したせいで混入、ガス入りの水が爆発したというカバーストーリーが流布する官舎は一時騒然となった。僕の保護者は爆発に巻き込まれて病院に緊急搬送され、僕はどさくさに紛れてアヌビス神の残骸を回収した。

 

鉄バクテリアにより表面がさびつき、鉄の塊になる運命のそれは触れても錆とバクテリアの層が鞘の役目をはたし、実質無力化した。僕の連絡を受けてかけつけてくれた空条さんは、スピードワゴン財団職員と共に密封されたトランクの中にアヌビス神の1番大きな破片は回収した。スタンドの一部という判定になるらしく、ゴールド・エクスペリエンスで一気に回収が出来ないのは面倒だが仕方ない。

 

下手に人間を寄せ付けたらこの破片により人間の精神を支配しかねないので、全てが錆に覆われるまでは立ち入り禁止だ。出来うる限りの生命エネルギーを注いでいるから、タイタニック号のように30年という途方もない時間がかかることはないだろう。水たまりほどの水がないと鉄バクテリアが生息できないため、わざと現場は水浸しなままだ。

 

「すごいですね、対応が早い」

 

「例の爆弾魔に手引きしてる奴がいることは判明してるからな。俺たちの仕事は増える一方だ」

 

「それはお気の毒に」

 

「今に始まった話じゃあない」

 

空条さんは肩を竦めた。そして僕は慌ただしくスピードワゴン財団職員の出入りする現場の近くで鉄バクテリアを繁殖させながら、アヌビス神から聞き出したことを空条さんに伝えるのだ。

 

「なるほど......発見は偶然だが、ここに来たのはDIOの協力者の手引きか」

 

「電気漁なんて流行っているんですね」

 

「異常を探知して地引き網で引き上げてみたら発見か......こいつはもともと盗品だったのを忘れていたぜ」

 

「まさか自らの意思で美術館に戻るだなんて」

 

「修繕や手入れは1級品の待遇が受けられるからな」

 

「なるほど......」

 

「誰が協力者なのかはこれからの調査が待たれるが......ゾッとするぜ」

 

「そうですね。これからアヌビス神はどうするんですか?」

 

「そうだな......海に沈めてもレアメタルがなんだと掘り返されちゃ意味が無いからな。やはりコンクリートかなにかに幽閉して管理していくしかないだろうな」

 

「下手に放置しても危険ですもんね」

 

「鉄サビはあくまでも応急処置にすぎねえからな。ちょっとした偶然で鉄の部分が出ちまえば意味は無い」

 

「そういうことだ」

 

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