ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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スーパーシスター1

想いがほとばしる感じであふれ出すのが勢いある字体から伝わってくる。じっと人の目を見つめ切々と縷々と思いの丈を訴えるのは、きっと喉からはらわたを引きずり出すような覚悟が必要に違いない。いくら言葉で打ち明けても、そこにあったギリギリの心情は半分も伝わらないだろうと半ば諦めにも似た心境で言葉が綴られている。

 

彼女が求めているのは、自分の感情を僕にしっかり送り届けるという、ただそれだけのことだ。それは小さな固い箱に詰められ、清潔な包装紙にくるまれ、細い紐できつく結ばれている。そのようなパッケージを彼女は僕に手渡しした。そのパッケージを今ここで開く必要はない、と少女は無言のうちに語っていた。その時がくれば開けばいい。あなたは今これをただ受け取るだけでいい。

 

その綺麗な外装を外せば、ラブレターというにはあまりにも乱雑で、気持ちの排泄物のようになってしまったものがある。恋愛感情はこじらせすぎると吐瀉物になるのかもしれない。彼女は、ずっと、この感情を嘔吐したかったのかもしれなかった。

 

女心はシャワーのお湯みたいなものだと僕は認識している。あるときは冷たく、またある時は火傷をするくらい熱く、そしてそれは高いところから低いところへ自然の法則に任せて、待っているあの人のところへ流れて行く。

 

あるいはカメラのシャッター。姿が視界から消えても、脳裏には異性が鮮明に残る。全体像が克明に記憶されて、その肖像は、いつまでたってもぼやけそうにない。

 

ラブレターと呼ばれるだろう、その手紙には、翳りのない宝石のような瞳でわたしを見て欲しかったと書いてあった。どうしてもそれを自分のものにしたかった。宝石と、その台座をと。長いあいだずっと変わることなく僕が意識の中心にいて、ひとつの大事なおもしの役割を果たしているのだと。

 

僕にとってクラスメイトにすぎない少女は、そばをたまたま行き過ぎていく淡い影に過ぎない。友達として始まった関係だ。それがどこかの時点で彼女の中で性質を変えたのだろうとわかる。

 

僕を見ているだけで、胸は重く厳しく締めつけられて、ふたつの壁のあいだに挟まれて身動きがとれなくなった人のように、そのまま進むことも退くこともできない。肺の動きが不規則でぎこちなくなり、生ぬるい突風の中に置かれたみたいにひどく息苦しくなる。これまでに味わったことのない奇妙な気持ちをどうにかしたいとあがいているのが読み取れる。

 

僕の率直な視線は、少女から身体のあらゆる力をもぎ取り、持っていってしまったようだった。なんという視線だろう。それは研ぎ澄まされた鋼の長い針のように、彼の胸を一直線に刺し貫いていた。背中まで突き抜けそうなくらい深々と。

 

 

しわくちゃになっているのは泣いたあとだろうか。指でなぞった僕は、そこにラブレターを強要された痕跡とそこに横たわる悪意を感じとった。こんな形であなたに想いを伝えたくなんかなかったのにと書いてある気がした。僕がこの世界で1番忌み嫌う、たんなる余興や好奇心のためだけに攻撃して笑いものにしている有象無象の残虐な遊びを見出した。

 

「......そういえば重清君がいってたな......最近タチの悪い遊びが流行っていると」

 

重ちーもラブレターをもらった時に気づいたらしくひどく憤慨していたのを思い出す。先生を誘導して現行犯が発覚し、ホームルームを潰して部活や放課後を生贄に捧げるほどの徒労を強いた癖に主犯格の女はまだ懲りていないらしかった。

 

「......むりやり書かせておきながら振らせる。笑いものにする。胸糞悪くなる話もそうそう無いな」

 

ターゲットの少女か、呼び出された男子生徒か、どちらを笑いものにしてもいいようによくねられたシンプルながら悪意満点のシチュエーションだ。

 

「罰ゲーム......だったかな......。僕を指定したのは......いや、させられたのかな」

 

少女がいつも威圧的な笑いの真ん中にいることを僕は知っていた。きっとこの文章そのものでさえ検閲が入っているに違いない。なんて屈辱的で卑劣なものだろうかと目眩がする。集団でなければトイレにいくことも意見をすることも出来ない癖になにをしているんだろうか、と呆れすら湧いてくる。

 

ルーズリーフを破ったやつじゃなくて、ちゃんとした便箋のたたみ方をしているルーズリーフ。ジョルノ君へと書いてある文面。前から思っていたが、少女は字が綺麗だ。

 

僕は体育館裏に向かった。

 

「志帆さん」

 

僕が呼びかけると、ずっと俯いていた彼女はとうとう死刑宣告を受けた冤罪の囚人のように絶望し切った顔をしていたのだが。弾かれたように顔を上げて僕を見た。明らかに混乱していた。有名人にいきなり名前で呼ばれたファンクラブ1桁のミーハーな女の子のような反応をしている。メガネがズレていて、ヘアピンが取れかかっていることすらわからないくらい、狼狽しているのがわかる。

 

「こんな所にいたのか、帰ろう」

 

有無を言わさず手を伸ばす。

 

「え......え......××××君......?」

 

「やっぱり忘れていたな?ジョルノでいいって言っただろ?ほら、はやく。ドゥ・マゴでお茶するって約束しただろ」

 

「あ、あの、えっ......えっ......!?」

 

即興の演技が出来る度胸があったらトイレの個室に閉じ込められて水をぶっかけられたりしないだろうな、と僕は他人事のように考えていた。重ちーが心配して時々話しかけている関係でたまに話す程度だった僕は、少なくても焼却炉あとで隠れている女子生徒たちよりはずっとマシだと考えていたのだ。

 

僕はそのまま帆波志帆を体育館裏から連れ出し、本当にドゥ・マゴに連れて行ったのだった。帆波は何度も何度も僕に頭を下げていた。

 

「ありがとう......ほんとにありがとう......ジョルノ君......」

 

「で、今度はなんの本を人質に取られてたんです、あんた?」

 

「万葉集の初版本なの。やっと大学から借りられたのに」

 

「だから、なんだって毎回そんなに大事な本を学校に持ってくるんです?無駄じゃあないか、やつらにつけ入る隙を与えるなんてバカのすることですよ。ほら」

 

「あ、あれっ、いつのまに!?」

 

「そんなことどうだっていいじゃあないか」

 

僕がため息をつくと帆波は息を吹き返したような顔でありがとうございますと頭を下げた。首は痛くならないんだろうかと心配になるレベルだ。

 

「あの......ジョルノ君......その......」

 

「ああ、これ?返した方がいいです?」

 

「うん、返して、ごめん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

ラブレターを大切に大切にしまい込んだ帆波は涙を拭う。

 

「なにか奢るよ、なにがいい?」

 

「ひとつ?」

 

「お小遣いピンチなの、ひとつでお願い」

 

帆波に拝まれて僕は仕方なく期間限定のいちごのスイーツで妥協したのだった。

 

「ところでそれの返事、いります?」

 

「ううん、いらない」

 

「そうですか」

 

「うん、まだ恋する自分に酔っていたいから、まだいいよ。ジョルノ君のことちゃんと好きになったら考える」

 

ある程度打ち解けた瞬間に饒舌になり、懐く性質がある帆波はなるほど重ちーと仲良くなるはずだと僕は思った。

 

「わたしね、自分の中に何かが芽生えるのを感じてるの、今。たとえて言えば、気持ちのいい春の夜、あまりよく知らないけれど好意を持っている男性と待ち合わせをしていて、どこに食事に行こうか、飲みに行こうかと考えながら電車に乗っているときのような浮かれた感じ?今晩やれるかやれないかとかまったく考えなくても、そのひとの整った立ち居ふるまい、わたしのために装われた服の柄とかコーディネートコートとか笑顔とかをみていると、まるで遠くの美しい風景を見ているように、自分の心までもがきれいになったような気分になれる感じがするの。ずっと失われていたそういううきうきするの」

 

「それはもはや妄想では?」

 

「それがいいの、面白いから」

 

「そうですか。よかったですね」

 

「うん」

 

僕はスタッフが持ってきてくれたケーキに集中することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

カセットテープとは、磁気テープをプラスチックケースに収めた、オーディオ用メディアのことである。フィリップス社が開発した。コンパクトカセットが正しい名称だ。

 

日本では、70年代から90年代初期にかけて録音ができるオーディオ用メディアの主流であった。レコードと共に音楽などのコンテンツの販売にも多く利用された。かつてはレコードに匹敵するダイナミックレンジを持つメタルテープやハイポジション、高級ノーマルテープなどが販売されていたが、CDなどのメディアに押されて現在ではノーマルポジションのベーシックなモデルのみが細々と製造・販売されているのみである。

 

僕が見たのもずいぶん久しぶりだった。保護者の警察官が愛用している車についているのがカセットテープに対応しているからかもしれない。音声は調子が悪くて雑音が大きかった。どうやら劣悪な環境で再生したらしい。

 

電池が切れかかっているカセットテープは音が細くなり、ツツン、ツーンと不細工な響きを残して何も聞こえなくなる。埃をふいてやると僅かながら復活して背景からは音楽が、泡のように浮かんでは消えていく。DJはノンストップでポップソングを流しているようだ。やがて鳴っていたラジオを止めて、音声が流れ始める。ラジオが与えてくれる音楽や笑いやスポーツがもっとも身近で安価な娯楽だ。

 

昼間のラジオ番組は主婦と高齢者を主なリスナーと設定して作られている。出演している人々は気の抜けた冗談を口にし、意味のない馬鹿笑いをし、月並みで愚かしい意見を述べ、耳を覆いたくなる音楽をかけた。そして誰も欲しがらないような商品を声高に宣伝した。まるで噴き井戸から無限に溢れる音のように、ラジオはよくお喋りしている。

 

「......いったいなんだ?」

 

カセットテープには延々とラジオがやかましく煎りつくように鳴っている。メカニズム化したセレナーデが活字のように唸っている。騒音化した夜の曲だ。ザワザワするのは僕の心がせいているからだろうか。

 

「......4月16日、ジョルノ君と初めて話した」

 

声が怯えきっている。青ざめた声だ。

 

「......4月17日、日直を京ちゃんに変わってもらって、またジョルノ君と話した」

 

彼女は歯を鳴らすような声で言った。その声には追い詰められた者が発する独特の響きがあった。不安にせき立てられるように、思い出すのも恐ろしいように首を埋めて言うようなくぐもりがある。言葉がかすかに震えて、自信がなさそうに響く。

 

「助けてよ」

 

口がわなわなと震えている。おびえた、犬のような悲鳴に似た哀れな声が日付と僕と会話したり見かけたりしたささやかな日常の一ページを語っている。不安をひたすらに弱々しい声を出して訴えている。

 

しゃべるというのではなく、喉の奥にある乾いた空気をとりあえず言葉に出してみたといった風だった四音節以上の言葉はうまくしゃべれないらしかった。

 

言葉が急に固い木片にでもなったかのように咽喉につっかかる。声が、氷を頬張ったように咽喉につかえた。断水になっていた水道の水が久しぶりに空気をおしのけて出てくるときのように、言葉がうまく出てくれないらしい。喋る言葉がぎごちなく、沈黙の中からそのつどどぎまぎと投げ出すようだ。

 

「終わった、のか?」

 

1週間分だった。

 

それから毎朝1週間分の日記もどきのカセットテープが届いた。口が感電したように痺れ、先の言葉が続けられないのか、思いの切実さを嘲笑うようにして、するすると言葉が先滑りしてしまう。彼女は時折泣き出してしまった。

 

7つ溜まったところで僕は帆波に尋ねた。

 

「最近、カセットテープ使わなかった?」

 

「なんのこと?放送部にリクエストでもあるの?」

 

不思議そうに聞いてくる帆波に僕は肩を竦めた。一応ゴールド・エクスペリエンスで調べてみたがどこにも行かずふらふらしてしまう。

 

「スタンドか?」

 

どんどん近づいてくる日付のカセットテープ。なんの意味があるのだろうか。気持ちの悪い心地しかないのだが。舌が膨らんでもつれて、口の中を塞いでいるような感覚で言葉が出てこない彼女は、喉が引きつって声が出ないとすすり泣く。

 

口を開いてもかすかに声帯が震えてひぃーという掠れた音がするだけだ。声は舌の上で止まり、別人のように聞こえる。顎は震え、歯と歯はうまくかみ合わず言葉にならない。

 

無理やり言わされているのはわかる。

 

「やはり帆波の声だな......」

 

あの日から恋人だと早合点した女子生徒たちはちょっかいをかけるのをやめているようだから、僕は噂を放置しているのだが。

 

その声は、痰に絡まれたようになって二三度上ったり下ったりしたまま、咽喉のどの奥の方へ落ち込んで行った。

 

すっかりカセットテープの彼女はノイローゼになっている。しゃべれたときとまったく同じ思考をしていた。

 

たとえば、足を踏まれれば、「痛い」とはっきり言葉でいう。TVに知っている場所が映ればまるで口に出しているようにいう。それを音声にしたことで、微妙な変化が起こってきた。言葉の後ろに広がる色が見えてきたのだ、と電波じみたことを少女はいい始めた。

 

僕が(てんで記憶はないが)優しく接しているとき、ピンクの明るい光のイメージでとらえた。(やはり覚えがないが)言葉やまなざしは、落ち着いた金色、道端で猫を撫でれば、手のひらを通して山吹色の喜びが伝わってきた。そう感じて生きていると、言葉の持つ強烈な限定性が押しつけがましく思えた。

 

まだ幼かったから、肌身で知ったのだろう、そのときはじめて表現するはしから逃げてゆく言葉というものに、深い興味を持ったのだ。瞬間と永遠を同時に含む道具。伝えたい言葉は心の回転とはうらはらに、体はどんどんマヒしてゆき、届かなかった。それがもどかしくてたまらないというのだ。わけがわからなかった。

 

「......重清君、帆波さん、最近変わったことはないかな?たとえば、そうだな、スタンドの矢でいられた、みたいな」

 

「ううーん、知らないど?帆波さんになにかあった?」

 

「いや、思い過ごしかもしれない」

 

「そっかあ。もともと帆波さんは、図書室や保健室でよく本を読んでるど?最近はもっと色々読んでるど。なんか、怖い話とかみすてりーが好きだっていってたど」

 

今の時期によくある麻疹みたいなものだと僕は思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 

「引っ越してくる前からそんな感じだったど」

 

「ひっこして?」

 

「そうそう。お父さんがケープヨーク発掘からやっと帰ってきたって喜んでたど」

 

これがカイロなら警戒のひとつでもしたがグリーンランドだ。国の名前を聞いた瞬間に僕は興味をなくした。

 

「そういえば、どうして帆波さんはいじめられているか知ってる?」

 

「......チラッと聞いた話だと、帆波志帆って人が昔もいたらしいど。ママが言ってた......引っ越していった友達にいたって」

 

「たまたまでは?」

 

「よく似てるっていってたど。ママのママの友達にもよく似た人がいたって」

 

「親子なら似るのでは?」

 

「名前まで一緒はおかしいど」

 

「噂が本当なら確かにそうだな......根も葉もない噂なら可哀想だな。とんだとばっちりじゃあないか」

 

「ママの友達の帆波さんは怖い人だったらしいど」

 

「どんなふうに?」

 

「好きな人に恋人が出来たら怒って夜中に押しかけてきて、鍵もチェーンもかかってたのにぶち破って、家族までみんな半殺しにしたらしいど」

 

「なかなかアグレッシブな人だったんですね」

 

「もともと妄想入りがちで嘘つきな人だったらしいど」

 

僕の脳裏には山岸由花子先輩がどういうわけかチラついた。

 

「でも!オラたちの友達の帆波さんは、そんなことする人には見えないど」

 

「そうですね。それについては同感です」

 

帆波志帆について奇妙な噂があるとわかった僕は、それが本当かどうか調べることにした。生徒会室にある卒業アルバムを確認しに行くため、職員室に向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

 

「......ここまでそっくりだと不気味だな」

 

僕の前には重ちーの母親、そして祖母の卒業アルバムが並んでいる。目を皿にして探し回った結果、たしかにいずれの年にも帆波志帆は存在していた。

 

「メガネ、ヘアピンに違いはあっても髪型なんかは同じだな......ただよく似てる親子にすぎない可能性もある」

 

ただしくは20年前に帆波という苗字の女子生徒は二人いて、そのうちのどちらかが母親の可能性が高い。

 

「ああ、それはね、お姉さんの方ね」

 

「!」

 

「私、妹さんと同級生だったのよ」

 

弾かれたように顔を上げると、そこに居たのは内密に頼むわねとささやく生徒会室顧問の先生がいる。どうやら双葉に付き合ってこの町の怪奇について調べて回っている僕を覚えてくれたようで、特別にと教えてくれた。

 

「帆波さんは双子で、姉がアグレッシブで妹が大人しい性格だったの。恋人でもない好きな人の家を特定したり、傷害事件を起こして周りを振り回したりしていたのは姉の方ね。妹さんはペットに農薬を混ぜて殺せと言われて出来ないと罵られたり自殺ごっこを強要されたり可哀想な子だったわ。ただ似すぎていたものだから話しかけるまでどちらかわからない。そのせいで遠巻きにされたのよ。でも、姉は事故で死んだわ」

 

「!?」

 

「よく自殺の振りをして驚かせていたから、ある意味自業自得ね。自殺の練習をよくここでしていたわ。事故はここじゃあないけど紐が絡まって死んでいたのよ」

 

僕は今いる棚の前で先生をみる。

 

「そうよ、そこで」

 

「妹はどうなったんです?」

 

「可哀想にお姉ちゃんが、お姉ちゃんが、って発狂していたわ。先生が何人も押さえ込んでむりやり病院に担ぎ込まれたのよ。すっかり正気を失ってしまってね。少しでも逃れるためにわざわざ左利きになったのに、やっぱり姉のことが吹っ切れなかったみたい。彼女は転校してしまってそれきりよ」

 

「......だから、帆波さんはいじめられているんですか。姉に似ているから」

 

「子供は親のいうことが真実だと盲目的になるものよ。いくら私達が諭したとしても学校に躾を押し付けている時点でろくな人生送れないわ」

 

もちろんオフレコでねと先生はいう。僕は帆波姉妹について調べて回ることにした。

「そんなに気になるなら記事を見たらいいわ、図書室の。アーカイブにあるから」

 

先生は帆波妹に相当入れ込んでいるような臭いをかんじとった。

 

帆波姉はだいぶ頭をやられた電波だったようだ。惚れっぽくて尽くすタイプだったようで、男をダメにする女性だったらしい。勝手に好きになった人間を恋人呼ばわりして、その扱いをしろと要求していた。これに対しやめてくれと断ると無視する。

頼まれてもいない旅行を予約しさそいをかけ、拒否し続けると住所を的確に言い当てた。そして真夜中にいくと宣言する。

 

身の危険を感じた男は断りのメールを送信すると同時に警察に連絡、0時に出動できるように待機してもらい、自身もアパートの自室を監視できる位置へと隠れた。そして同日深夜、帆波姉は本当に訪れたのだ。さらにバッグから取り出した警棒でドアを殴打、破壊。男は警察に通報し、飛び出して武器を取り上げようとするが反撃を受ける。 そして繰り広げられる破壊・暴行行為。

 

「ほんとに新聞沙汰になってるのか......」

 

未成年だから伏せられてこそいるが、20年前の事件ゆえによく調べれば容易に特定出来てしまうガバガバっぷりである。さすがは芸能人の住所が平気でのっていただけはある。

 

「これが帆波夏帆......帆波志帆の姉か」

 

まだ未成年の色恋沙汰のもつれ軽く見られていた時代である。男の方が非難される論調が散見する記事を見ていくと、そのうち姉が事故死したと書いてある。住所が載っていた。

 

「......波止場......」

 

それは倉庫街。僕がかつて億泰先輩の父親に連れていかれて肉の芽を植え付けられるはずが失敗し、家政婦である彼女を義父に殴り殺されたときに連れてこられた場所だ。ドリーム・シアターで支配人の息子にころされかけた舞台でもある。なんとなく因果を感じながら僕は下駄箱に向かう。

 

「......」

 

調べたばかりの住所が書かれた紙が書いてある。筆跡は覚えがない。左手でかかれたもののようだ。

 

 

 

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