ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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作業員を探そう2

承太郎がドナテロを伴ってやってきたのは、吉良という表札がかかった邸宅である。

 

「アンダーワールド、この家の記憶を掘り返せ」

 

ドナテロの呼びかけに応じて、アンダーワールドが姿を現した。

 

「イツ位の記憶ダ?」

 

スタンドが話しかけてくる様子に承太郎は驚く。どいつもこいつも似たような反応するなァ、と呑気に考えながら、ドナテロは会話を続ける。

 

「6月から7月までの期間だってよ」

 

「ほぼ1ヶ月ジャアナイカ......随分ナ量にナルけどイイのかナ?」

 

「仕方ねえだろ、吉良吉影ってやつがいつから居なくなったかわかんねえんだからよ」

 

「ナラ、探すノハ君の仕事ダ、ドナテロ」

 

「めんどくせえな......なんかこう、写真と同じやつがいたら自動的に調べられたり出来ねえのかよ」

 

「無茶言ワナイデ欲しイナ......便利にシタカッタラ、君が成長スべきだよ。君の仕事ダ、ドナテロ」

 

「何でもかんでもそれ言えば、いってやったみたいな面すんのやめやがれ、ムカつくんだよ」

 

ドナテロの手元にはたくさんの文字が浮かび上がっている。適当に抜き出したドナテロは、この家の記憶を再生し始めた。

 

朝、不在

昼、不在

夜、不在

 

「ダメだなこりゃ、もういねえ」

 

すぐに再生をやめて、その日から1週間ほど前を選択する。

 

朝、不在

昼、不在

夜、男が訪問

 

「1度見せてくれ」

 

「お?見つけたか?」

 

「いや、吉良吉影ではない男が来訪したようだ」

 

「そりゃ気になるな、アンダーワールド、再生しろ」

 

「ヤレヤレ......スタンドづかいが荒イナア......」

 

「いいから黙ってやれ」

 

アンダーワールドは部屋全体を当時のものに再現していく。そこにいた男をみて、承太郎は眉を寄せた。

 

「どうした?」

 

「写真は撮れるか?」

 

「ああ、大丈夫だぜ。もう試したからな」

 

「そいつは助かる。どうやら俺が知らねえDIOの手下だ」

 

「へぇ......こいつがねェ」

 

まじまじとドナテロは吉良吉影と話している男を見た。

 

「会話の内容からするに、なんども会ってるみてーだな」

 

「......ドナテロ、君のスタンドの掘り起こせる記憶に限界はあるのか?」

 

「ナイな、ドナテロ」

 

「先に答えるんじゃねえよ、馬鹿野郎。明らかに重労働の気配がするじゃあねえかッ!」

 

「エッ」

 

「そいつは朗報だな、吉良吉影とこの男の取引をつぶさに追いかけることが出来るってのは」

 

「ほらァ......いやな笑い方だ......スピードワゴン財団の諜報部共のあくどい顔そっくりじゃねえかよ......」

 

「君の治療費と相殺でどうだ」

 

「何度も言われるけどよ、高すぎじゃねえか?」

 

「保険に入っていない君がアメリカ最高の医療を受けたんだ。まだ払いきれないらしいぞ」

 

「マジかよ......救急車呼ばなくてよかったぜ......」

 

「君が望むなら学費や生活費をそのスタンドの仕事で相殺してやれるんだがな」

 

「それも何度も聞いてる。でも俺に支払われてる基金をまずは使わせるべきだろ」

 

「ヴェルサス家に訴訟を起こしたところだからな、まだ時間はかかる」

 

「......へ、ざまぁ見ろ」

 

「じゃあ、このホテルに滞在して観光する間にかかる費用は全部相殺でどうだ」

 

「それもいいけどよォ、まずは肋骨とか治してーんだけど」

 

「ああ、それなら心配いらないな」

 

「まじかよ、すげえなスピードワゴン財団」

 

ドナテロは感心しきりである。

 

「ところで義理の兄に麻酔なしで直されるか、痛みなしでまた折れる可能性を秘めながら治療されるのとどっちがいい」

 

「エエエ......なんだよその嫌な2択は」

 

「事実だからな、仕方ない」

 

「まじかァ......」

 

雑談をしている間に、吉良吉影と男の会話は終了し、男は出ていった。

 

「こっから虱潰しかよ、めんどくせえな」

 

「いや、先にこの1週間のうちに吉良吉影がいなくなる直前を探してくれ。今回はそれが目当てだからな」

 

げ、とドナテロはうめいた。

 

そこからは気が遠くなる作業だった。まとめて借りたレンタルビデオをひたすら鑑賞する作業だった。それもチラ見して違う場合はすぐにリセット、次に行くという面白みが微塵もないものだ。さすがに途中から飽きてきたのかドナテロはあくび混じりである。

 

承太郎は寝ないよう釘を刺しながら食い入るように部屋中を眺めては、何かを考えているようだった。何十回目か考えるのも億劫になってきたころ、ようやく承太郎からこれにしようと指示がでた。そこにいたのは作業員の男だった。

 

「よかった」

 

「は?よかった?よかっただと?アンタ何言ってるんだ、殺人鬼が岩になっちまったんだぞ」

 

「俺はジジイから最悪の事態を聞かされていたからな、安心したってわけだぜ。教えてやる、最悪は回避されたからな」

 

承太郎は語り始めるのだ。岩人間の存在を知ってから、ジョセフを初めとした古参のスピードワゴン財団職員が一様に危惧していたであろう最悪の事態を。

 

かつて人類とは違った進化を遂げた、「闇の種族」と呼ばれる存在がいたという。個々の頭部に備わった、己の地位や力を示す角(触角)が特徴で、古代において鬼や悪魔、あるいは神と認知されてきた者たちであり、人とは比較にならないほどの寿命・知性・肉体を兼ね備えている。DIOが吸血鬼になったきっかけでもある「石仮面」も彼らの発明した物。

 

「まさか、このおっさんが?」

 

承太郎は首を振った。

 

一度の睡眠で2千年も眠り、その際に柱と一体化して眠るため「柱の男」と名付けられた。かつては女性もいたようだが『究極生命体』へと至る野望を抱いたカーズを抹殺しようとして逆に滅ぼされ、カーズ、エシディシ、そして当時はまだ赤子だったワムウとサンタナの4人のみが生き残った。そもそも食物連鎖の頂点に座す存在であった故、繁殖力自体は低かったらしい。

 

そして時は流れ、エイジャの赤石と呼ばれる宝石を巡って、ジョセフ・ジョースターら波紋戦士たちと死闘を繰り広げることとなる。

 

普通の生物と同じように口から食べ物を摂取することもあるが、彼らは全身が消化器官であり、相手に触れるだけでその部分を削り取って「食べて」しまう。 特に強い力を宿す吸血鬼を好み、石仮面で吸血鬼を量産して捕食していた。

 

腕の関節を外して回転させて竜巻を起こしたり、顔を粘土のように潰して曲げてみせたり、ダイナマイトを飲み込んで腹の中で爆発させても平然としていたりと、もはや常識というもの自体が無意味に思えるほどの身体能力を持つ。彼らの前では、武器はおろか生半可な波紋さえ意味を成さない。

 

一応、吸血鬼と同様に紫外線に弱いが、即死するわけではなく石化してしまうのみ。また、弱い波紋程度ならばその皮膚で易々と弾いてしまうが、エシディシ曰く「強い波紋を受けると死ぬ」らしい。 人間が通常の静電気で死ぬことはなくても、電流が大きいと死ぬのに似たようなものである。

 

しかし、彼らが石仮面を被った場合はその限りではなく、人間とは逆に紫外線を完全克服してしまうために波紋攻撃が全く通用しなくなるばかりかその気になれば波紋をも練れるというチート性能を得る。

 

戦士としての誇りや同族への思いやりを忘れない気高い一面を持ち、敵ながら彼ら4人それぞれが非常に魅力的な奴らだったという。

 

「俺は直前まで柱の男が隕石とぶつかって岩になる奇病が生まれたのかと思っていた。その場合、感染源の男は柱の男に食われた形になる。復活さえありえただろうが......こいつはどうみてもただの人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

承太郎から吉良邸にくるよう言われた仗助とジョルノは、ミキタカと別れを告げてやってきた。結局、絶対にミキタカのスタンドがバレないようにするという条件のもとジョルノは仗助に譲る形となった。

 

バレた場合はスタンドか宇宙人かを調べるためにヘブンズ・ドアーを使ってくれと頼むことになった。上手く行けばジョルノのアルバイト先が増えるし、仗助も紹介料を折半してもらうことになったのだ。双方不満はたらたらだったが、承太郎からの呼び出しはお小遣い稼ぎよりも急務である。

 

「なんだか物々しい雰囲気ですね」

 

「完全にヤーさんの集会じゃねえか......」

 

黒服の男達が空を見上げているのは異質といっていい緊迫感があった。ジョルノたちの到着に気づいたらしく、彼らは一礼して奥に促してくる。

 

吉良邸に入ると、空条承太郎と仗助もジョルノも見覚えがない外国人の少年がいた。

 

「待ってたぞ、二人とも」

 

「いきなりどうしたんですか、空条さん」

 

「誰っすか、そいつ」

 

「吉良吉影の行方を調べられるスタンド使いだ。アメリカから緊急来日してもらった」

 

「まじで?こんなにちいせえのに?」

 

日本語は喋ることが出来ないようで、生意気そうな双眸が細められ、仗助を見上げてくる。どうやら半笑いだったために馬鹿にされていることがニュアンスでわかったようだ。

 

ジャパニーズアニメや漫画で見たことがある不良はほんとにいるんだなという言葉が理解出来たのはジョルノと承太郎だけだ。仗助は吐き捨てるように紡がれた英語がネイティブすぎて聞き取れなかったようだ。

 

「その礼としてしばらく観光してもらうことになったんだが、こいつはまだ肋骨が2〜3本折れてるらしくてな、治してやってくれねえか」

 

「えっ、肋骨だあ?!重症じゃねーか、大丈夫なのかよ!」

 

「よく見たらコルセットしてますね......空条さん、なんのつもりなんです?」

 

「吉良吉影の行方はそれだけ緊急ってことだ。それに」

 

「それに?」

 

「ここに来るのはこいつのたっての希望だ。10年振りに生き別れになった義理の兄貴に会いたいかと聞いたら即答だった」

 

その言葉に僕は目を見開いた。仗助先輩はキョトンとしている。

 

「DIOはたくさんの女を誘拐して屋敷で飼っていたんだが、生き残った母親は一人もいねえ。子供は世界に4人だけだ。4人しか生き残らなかった」

 

「えっ、じゃあまさか、こいつはジョルノの......」

 

「ハルノ?」

 

つぶやきに真っ先に反応したのはジョルノだった。ジョルノと認識している仗助と承太郎は反応が遅れる。呟いた本人はジョルノをハルノと認識出来ないのか、不審そうな目をし始めた。

 

イギリス人とアメリカ人のハーフだからか、食生活や環境の違いか、ジョルノより頭一つ大きい少年。腹違いの弟だと言われても、まずは逆じゃないのかと言われそうな組み合わせである。

 

「まじか、まじかあ!言われてみりゃ、俺や承太郎さんと同じ目の色してるし、なんとなく面影似てるぜこいつ!へー、こっちは黒髪なんだな!」

 

よかったじゃねえか、と仗助がジョルノの肩をばしばし叩く。ジョルノは迷惑そうな顔をしてやめて下さいと承太郎のところに逃げてしまった。

 

承太郎は英語で仗助と少年がジョースター一族においてどういう繋がりになるのか、そして仗助とジョルノの関係について説明する。途中で訳が分からなくなってきたのか、それはもはや赤の他人じゃねーかと少年は英語で返した。所々拾える英単語を繋ぎ合わせて、ニュアンスでなんとなく理解したジョルノは少年をみる。

 

「久しぶり?いや、初めましての方がいいかな?僕は汐華初流乃、日本に母親と送られてからだから......10年振りだね」

 

「英語が下手くそになったな、兄貴」

 

「無茶言わないでくれ、僕はずっと日本育ちなんだ。英語を話す機会は二度となかった。もう覚えてない」

 

「忘れた......忘れただって?あんだけ強烈な体験しといてか?アンタはスタンドのおかげで肉の芽なかったじゃねえか。ずいぶんと薄情なんだな、それだけこっちの生活がよかったのかよ?」

 

「残念ながらそれは違う。DIOの血の発露で50日間の高熱に襲われたのは君と同じだ。違うのはジョースターの精神の開花を恐れた手下たちにネグレクトと暴力に晒されたことだ。防衛本能が働いてなにも覚えちゃいないんだ」

 

ジョルノの発言に少年は目を丸くした。心なし声が震えている。

 

「覚えてないってまさか、オレのことも?」

 

「悪いけど......本当にすまないとは思ってるんだけど......ごめんよ」

 

「はは、まじか、まじかよ。オレはアンタが承太郎にした警告のおかげでここにいるってのに、そのお礼をしたくてここに来たってのに、赤の他人の反応しかされねえってのか!?そんなのありかよ!どこまでふざけたことしてんだ、DIOは!」

 

アメリカ人はやはり感情の起伏が激しい人種らしい。

 

ジョルノはテープレコーダーに吹き込んだ声が自分の声に聞こえないように、目の前の義弟が捉えている汐華初流乃像が、歪んで認識され都合よくつくりかえられているのではないかと無性に不安になった。

 

ドナテロ・ヴェルサスと名乗った義弟にとても慕われていることはわかったものの、自己紹介する度人前で自分について語らなくてはならない気苦労を感じる。まるで成績表を勝手に書き直しているような気分になった。

 

明確な図形を描くための、より多くの点が要求される。そうしないと、何の回答も出てこない。それはわかっていたのだが、こうもグイグイこられると面食らってしまう。

 

ドナテロ曰く、ジョルノと自分は相違点より共通点のほうが多いらしい。ジョルノの感覚からしたら、ライターと詩人のような従兄弟のまた従兄弟くらいの間柄だ。だが、ドナテロがいうには、向かいあわせの鏡のように実像と虚像くらいの差しかないらしい。ジョルノは困惑するしかない。

 

「アンタは知らないだろうけど、いつも同じ夢を見るんだ。もちろんどの夢もまるっきり同じっていうんじゃあない。細かいところはそのときどきによってひとつひとつ違う。状況も違うし、役柄も違う。でも基本的なパターンは同じなんだ。登場人物も同じだし、結末も同じだ。シリーズものの低予算映画みたいにさ。それがようやくまともな予算がついてスタッフや映画が始まったみたいに、色々思い出したんだよ、オレは。なのにそれを教えてくれた兄貴がなんにも覚えてねーってのは、あんまりじゃねえのか?」

 

泣きそうな顔でドナテロはいうのだ。

 

頭の中に残っている三つばかりの幼児の面影から、今のジョルノの印象をたぐり出そうとしてもできない。どうにもつなぎ合せようのないはめ絵のように、ぴったりしない。それは金髪と緑の目のせいだ。

 

それでも、今みたいに昔みたいな表情で笑ったりすると、だぶることがある。その分長い時間の重みを感じる。まるで旗がひらひらとはためくように、過去と未来がいれこになって、まぶしく混じりあうことがある。おそらく気持ちが湧きたっているから喜ばしい感情に違いない。

 

目に映る映像とドナテロの知っている、捜していた汐華初流乃のイメージとのずれがシンクロした瞬間、妙な爽快感がある。ものすごい速度の判断でバチっとはまる。間違いさがしの答えが見つかった瞬間みたいだと。

 

ジョルノは困ったような顔をして、とうとう泣き出してしまったドナテロを見上げる。承太郎から通訳されていたらしい仗助もつられて潤んでいるものだから、ジョルノは肩を竦めるしかない。

 

「こんなにもどかしい気持ちは初めてだ......ありがとう、ドナテロ」

 

切ないほどの緊張に何もかも忘れている自分を生まれて初めてジョルノはやりきれなくなった。それでも思い出せないのだ。ジョルノの頭にはつぶつぶのような空白が生じている。脳になんらかの病的な障害が起こっているわけではない。そういうものだと生きてきたのだ。ドリーム・シアターなどで補完したところで所詮は継ぎ接ぎの記憶でしかない。

 

きっと最初は五秒あれば思い出せたのだ。それが十秒になり三十秒になり一分になった。まるで夕暮の影のようにそれはどんどん長くなり、そしてやがては夕闇の中に吸いこまれてしまった。どんなに意識を集中しても擦りガラスを通したように曖昧な輪郭しか浮かんでこない。まるで遠くでゆらめく蜃気楼のようにつかみ所がないのだ。

 

思い出は、もう夢よりも淡い過去の水沫の中に消えている。遠い日の夢のように印象が淡くなる。確実に記憶の棚に入っていてその棚がどこにあるのか分かっている。しかし引き出しが引っかかって開かない。出てきそうで出てこないもどかしさに頭の中身を引っかき回したくなる。

 

ジョルノにとって時間薬は劇薬と同じだった。時間は記憶の中でからまりあい、もつれた糸のようになって、まっすぐな軸が失われ、前後左右が乱れていった。位置が入れ替わった。思い出せるはずのことがなぜか思い出せなくなり、急速にその実体を失っていった。

 

年号をプリントされた白いカードが、強風の中で四方八方にばらばら散っていく光景が目に浮かぶ。それを一枚でも多く拾い集めようとしても、風が強すぎて、失われていくカードの数も多すぎた。年号が次々に吹き飛ばされて、系統が失われ、知識が消滅し、思考の階段が足元で崩れ落ちていったのだ。

 

ドナテロ・ヴェルサスと目の前の義弟はいった。

 

反芻していくうちにその名前にはっきり聞き覚えがある気がしてきた。しかし記憶はなぜかひどく漠然としてとりとめがなかった。ジョルノが手で探りとれるのは、事実らしきもののいくつかのあやふやな断片だけだった。

 

その詳細を思い出すことができない。ものごとの前後が入り乱れている。無理に思い出そうとすると、身体全体を強くねじられるような感覚があった。まるで上半身と下半身がそれぞれ逆の方向に曲げられているみたいだ。

 

頭の芯が鈍くうずき、まわりの空気が急速に希薄になっていった。水の中にいる時のように音がくぐもった。それほどまでに汐華初流乃にとって、エジプトと日本での幼少期の記憶は落差がありすぎたのだ、絶望的なまでに。忘れなければ死んでしまうと本能が結論づけるレベルで。

 

理由も経緯も思い出せないし、かつて見た光景の断片と、考えていたことのその内容も全部忘れてしまったが、輪郭というか抜け殻のようなものは残っている。

 

ジョルノは思うのだ。

 

もはや忘れたことすら気づいていない記憶がたくさんあるに違いないと。忘れてはいないのだが、もう死ぬまで思い出さないかもしれない記憶もあって、考えようによったら忘れるよりもその方が残酷だ。

 

だから口を開く。

 

「僕は思うんだ。それほどまでに必死で君たちとの記憶を頭の中に閉じ込めようとしていたんだ、あの時の僕は。それすら忘れてしまったら、いよいよ心が死んでしまうから。人は何かを覚えるために忘れる。忘却は前進のためにある。僕にとっては生き抜くために必要だったんだ」

 

ジョルノはもう一度考えてみた。今度はほんの少しではあるけれど、ドナテロ・ヴェルサスという腹違いの弟がいた記憶の片隅に何かがひっかかっているのが感じられた。

 

「多分その方が楽だからさ」

 

すべてが見覚えのある風景だった。もう会うこともないと思っていた義弟と、この懐かしい風景の中を一緒に生きていたことが不思議だった。かつてが水彩絵の具のように滑らかに混じり合っていった。

 

「そのうち思い出すと思うから、それまで介護よろしく」

 

「まだ14だろ。もうボケたのかよ、兄貴」

 

ジョルノは笑った。

 

さて、記憶とはあやふやなものだ。脳の中にノートブックがあり、中を覗いてみると、思い出すべきことが日本語で丁寧に描かれている。大事なところにはマーカーまで引かれている。そんなことは決してない。記憶というのはしょせんは脳の中のシナプスの伝達活動によって生じるものだ。シナプスの電位変化が記憶となる。

 

何年経っても同じ形状で残っている保証はどこにもない。それこそ記憶とは、思い出そうとしている今この瞬間の自分によって新たに創り出された、記憶と思われるものにすぎない。創造物だ。まさに、歴史が、権力者によって捏造された共通認識であるのと似ている。記憶は生のまま氷温保存されるわけではない。

 

だから、いくらでも上書き保存が可能なのだ。今のドナテロ・ヴェルサスがジョルノにとっての「いつかのだれか」に似ている気がしたとしても、それは嘘をついていることにはならないのである。

 

「ところで、ドニーって呼んでなかった?」

 

「覚えてんじゃねーかッ!」

 

 

 

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