ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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ハイウェイスター1

ブドウヶ丘中学校、および高校の美術室は、美術部の顧問を担当している先生たちの方針でだいぶん個性的な部屋となっている。中学校の副顧問にして高校の顧問でもある林倫子は、美術室をラボ(実験室)にしたいと本気で思っている教師だった。

 

ここで発想や構想を広げ、外に発信していくような場にしたい。だから、生徒たちが自発的に、「こんな表現してみたい」「この道具を使ってみたい」と思えるような工夫をしているのだ。それから、生徒たちと一緒に美術室づくりをすることも心がけていると公言してやまない。

 

たとえば、一緒に机をペンキで塗ったり、生徒作品を随所に飾ったり。美術室づくりに参加することで、生徒たちは、ここが「みんなのラボ」だということを感じることができると思うと。

 

2年に一度、美術室は新学期に机の色を塗り替えられる。「机の色が変わると、美術室の印象がガラッと変わる」と林倫子は本気で信じていた。生徒たちに何色にしたいか聞き、一緒にペンキで塗るそうだ。

 

授業内容によって美術室全体の掲示物も変えることもある。このときは、「17歳の存在証明」という、「今の自分を見つめて絵や立体であらわす」授業をしていたので、ゴッホの自画像の変遷を掲示した。

 

もちろん全て彼女が用意したものだ。またある時は天井からシェルフ(棚)が吊り下げられていることもある。フィンランドの学校を訪れたとき、こういう吊り棚を見かけていいなと思い真似したらしい。生徒作品や参考作品をディスプレイすることも多い。

 

美術室入ってすぐの棚は、生徒の目に留まりやすい場所。生徒作品や田中先生が展覧会で買った図録など、「今見てほしい資料」を置くようにしている。美術室の後ろにある実験コーナーは大きな机にさまざまな道具が置かれており、自分の机ではできないことを試す場所だ。

 

ワゴンには制作に使う用具を学年ごとにまとめている。生徒たちは自分で必要なものをワゴンから見つけて使う。

 

こうした工夫によって、生徒は多くの用具に触れ、自分で使いこなす力を身につけられるというわけだ。ちなみに使用頻度の高いはさみやのり、カッターなどはワゴンの一番上に置いている。授業前に必要な用具を取りに行くことが習慣化されているため、授業中に用具を配る時間を節約できるのだ。

 

図書コーナーには、美術関連の書籍や、授業に関連する雑誌などが置かれており、椅子に座って自由に閲覧することができる。画材はケースなどにまとめ、生徒たちの目に留まるところに置いておく。授業中、自由に取り出して使えるように。

 

後ろの壁には、実物大の「風神雷神図屛風」、マグリットの「ピレネーの城」と一緒に生徒作品が飾られている。

 

アイデアが生まれる美術室を目ざしているのだ。生徒の発想が広がるように、使ってみたくなるような素材や用具、資料を手に取りやすい場所に置いている。

 

林倫子自身、何もない真っ白な壁を眺めていると、いいアイデアが思い浮ぶので、美術室の壁は白くしている。雑然とした空間よりもシンプルで整理された場所の方が、ひらめきが生まれると信じているからだ。生徒には真っ白な壁をキャンバスに見立てて、自由に発想してほしいと思っているのだ。

 

赴任した年にちょうど校舎の改修工事があったのも渡りに船だった。美術室を一からデザインし直すことができたからだ。縦に長かった教室を、黒板を移動して横長の教室にした。生徒の顔がよく見えて、一体感をもって授業ができるようになった。

 

おかげで錯視を説明するために、マスキングテープを貼っている今はまさにその衝撃を生徒に与えることができたのだから。

 

美術部の生徒にとって、美術室は夢の国だった。先生が知識を教える普段の教室とは違って、生徒が自ら創造することが許される場所。こうした美術室のあり方は、夢の国という言葉がぴったりだと思うんだと、美大を目指して夏休み返上で林倫子に教えをこうている生徒はいう。

 

その豊かな発想に応えられる「夢の国」にするために、林倫子は時にはさまざまな用具や資料、撮影機材を自費でそろえていた。

 

そんな夢の国には本日珍しくもない部外者がいた。最近林倫子のデッサンなどのモデルに呼ばれている汐華初流乃だ。女性だらけの部室ではモデルを頼める男子生徒は限られている。イギリス人の血が入っている、金髪緑目というthe外国人という風貌で目鼻立ちが整った男子生徒だ。

 

しかも日本語が通じる上に甘いものを献上すればいくらでも付き合ってくれる男子生徒なんて漫画にしかいないと思っていたと彼女たちは色めきたった。

 

夏休みが終われば文化祭という文化部が一番忙しいイベントが待ち受けている。だというのに美術室の救世主たる汐華初流乃少年は二学期には転校してしまうというではないか。ならばせめてデッサンをたくさん書くしかない。そういうわけでジョルノは最近林倫子以外のモデルも請け負っている状態だった。

 

「ひとつ疑問なんですが」

 

「なに?汐華君」

 

今日も今日とて献上されたチョコレートケーキとコーヒーを本日の報酬として食べているジョルノは聞いたのだ。

 

「僕が林先生に頼まれる前にも、何人か生徒はいたわけですよね?モデルになってた人は。先輩たちはお願いしなかったんですか、モデル?これが毎回の恒例行事じゃあなさそうだ」

 

「それ聞いちゃうんだ、汐華君」

 

「気になる?なっちゃうやつ?」

 

「タブーでしたか?」

 

「そういう訳じゃあないんだけどねぇ......」

 

一様に歯切れが悪い美術部員たちにジョルノは疑問符を飛ばした。

 

「ちょーっとアタシらとは気が合わない人種っていうか......」

 

「描いてる時って案外モデルにそんな興味ないもんなのよ、私は」

 

「この学校の美術部だけかもしれないけどね、顧問の先生の影響も大きいでしょ?林先生ってダビデが初恋だけあってリアルには微塵も興味なくて美術に人生ささげるタイプの人だからほんとに気楽なのよ、創作する人間にとっては」

 

「その雰囲気をちょーっと読めてない人が多いんだよね......」

 

「林先生、モデルに微塵も興味無いもんね」

 

「正しく顔にしか興味が無いってやつ。あそこまで行くといっその事尊敬するわ」

 

うんうんと彼女たちはうなずいている。どうやら彼女たちは林先生の奇妙な性癖までは把握していない模様である。よくわからないがモデルと林先生との間にはなんらかのすれ違いがいつも生じている、としか思っていない。

 

いい指導者としか思っていないようで、彼女たちは一様に林先生派のようだ。それゆえにそのトラブルに巻き込まれがちな彼女たちは辟易しているようだった。

 

「そこに現れたのが汐華君てわけよ」

 

「毎回美術館いって一日デッサンしなくてもいいとか最高じゃない?」

 

「しかも報酬が甘いものでいいなんて健全すぎて嬉しい」

 

「あーあ、なんで行っちゃうのかなあ、汐華君。お姉さん寂しいぞ!!」

 

そういうものなのだろうか、とジョルノは思った。はあ、としかいえない。施設に戻ればこの報酬ともお別れだから余計なことをいうつもりは微塵もないのだが。

 

「おれってよ~っ、やっぱりカッコよくて......美しいよなあ~っ、ひかえめに言ってもミケランジェロの彫刻のようによぉ~ッ」

 

ジョルノは準備室にまで響いてくる大声に目を向けた。

 

「うわ......また来てるよ......」

 

「懲りないねェ、噴上裕也」

 

「林先生が呼ばないってことはインスピレーションがわかないだけだろうから大人しく待っとけばいいね」

 

「たしかにイケメン......イケメンなんだけど、今林先生が描いてる絵とは方向性が違うよね」

 

「あれは私も汐華君選ぶわ......」

 

「そうじゃなかったら選択肢に入るんだけどねェ......」

 

「なんでわかんないかな?」

 

「さあ......」

 

「誰です?」

 

「噂をすればなんとやら、ってやつね。汐華君の前によくウチに来てた噴上裕也。モデルもやってたのよ」

 

美術部員たちは教えてくれた。噴上裕也、暴走族の高校生。どうやらブドウヶ丘高校の生徒ではないらしい。自分の容姿に絶対の自信を持つナルシストな男であり、行動基準も自身のカッコよさ・美しさを優先する傾向にあるが、時にはそれがカッコ悪い事を許さない誇り高さとして表れる事もある。

 

外見は、本人いわくミケランジェロの彫刻の以上にカッコよくて美しい容姿。彫刻に似てるジョルノと比べるとどっちがイケメンかは美術部員たちの間で意見がわかれるようだ。

 

ちら、とドア越しに見えたかぎりでは、髪型は側面と後頭部を刈り上げており、あごに「H☆S」という刺青をいれている。 学生なので常に学ランを着ているという。例に漏れずあまり学生服とは思えない改造しまくりのものを身につけているようだ。首にはSPEED★KINGと刺繍されたスカーフを巻いているのが見えた。

 

どうやらナルシストなので身だしなみに気を使っているようだ。

 

奥で林先生を非難する女性の声がする。取り巻きに「アケミ」「ヨシエ」「レイコ」という女3人をはべらせているようだ。一応ジョルノは同じ敷地内の中学生だが、完全に部外者であるはずの噴上裕也たちがよくここまで入ってこれたなとジョルノは他人事のように思う。

 

「えっ......あれ!?ここは引き止めてくれる場面じゃねーのかよ!?そうあっさり引き下がんのかよ......先生、林先生、ま、待てよ、おい!せめてもうちょっと慰めてくれよ......いくらおれだって傷つくぜェ~~っ!

立場ねーなあも~っ」

 

自分が好きな人は人一倍傷つきやすいとよくいうが、噴上裕也も例に漏れないらしい。しかし、モデルに対しては誠意として人形しか愛せないと公言しているはずの林先生の性癖は把握しているだろうに食い下がっているのがジョルノには不思議でならない。

 

アーティストのように自意識が過剰なのだろうか、だとしたらナルシシズム全開である。毎日自分の姿に見とれながら鏡のぞきこんでるのだろうか、花になってしまった美少年のように。鏡の前を通るごとに自己の影を写して見なければ気が済まないほど、瞬時も自己を忘れる事の出来ない人なのかもしれない。

 

またやってるよ、という顔で美術部員達は呆れ顔だ。

 

「まあいいや。これ食べたら今日のデッサン付き合ってね」

 

部長からの問いかけにもちろん、とジョルノは頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

いつもなら一緒に帰る取り巻きの少女達と別れを告げた噴上裕也はこの上なくイラついていた。このイライラを払拭するためにはバイクをかっ飛ばすしかないと考えて、ぶどうヶ丘高校の校門を爆音を立てながら走り出した。

 

林倫子から絵のモデルをしてくれないかと頼まれたのは彼女がまだ噴上の高校にいた頃だった。新しい学校に赴任してもモデルをしてくれと言われた時には正直舞い上がったところはあるのだ、個人的な連絡先までもらったのだから。

 

もちろん林倫子から人形しか愛せないから期待するなと散々釘をさされてこそいたのだが、今まで沢山いたモデルを引き続き出来たのは噴上のだけである。期待しない方が無理と言えた。

 

「それをあのやろォ~~~ッ!!なあにが汐華初流乃君の方がミケランジェロのダビデッぽいだァ!馬鹿にしやがってェ~~~ッ!!」

 

重ねて言うが林倫子はピグマリオンコンプレクス、人形しか性的に愛せない異常性癖がある美術教師である。だから、その言葉には単純にミケランジェロのダビデの彫刻のように石像っぽくない、という意味しかない。

 

たしかにミケランジェロのダビデが初恋だと公言こそしているが、汐華初流乃が初恋の人に似ているから今日から君来なくていいよといった訳では無い。

 

林倫子個人が汐華初流乃が人形であったなら完璧だったのにとボヤくくらいの失言をしていたとしてもだ。動かない物体だからこそ恋愛の対象であり、奇跡が起きて人間になったら理不尽な程に冷めてしまうのがかの美術部教師であると知っていたはずだ。

 

しかし、噴上裕也は日頃自分の恵まれた容姿を形容するのにミケランジェロのダビデよりイケメンだと評価していたものだから、早合点してぷっつんしてしまったのだ。その時点でよく話が聞こえなくなってしまったのだ。

 

よく考えればミケランジェロのダビデとイコールの汐華初流乃より、以上であると自称する噴上裕也の方がうえだし、林倫子も否定しなかった。そこまで考えが及ばないくらいに気が動転していたともいう。

 

もし、このときどういう意味だと聞いていたのなら、林倫子はこう答えていたはずだ。

 

「何度もいうように、私が今描いているテーマと君は合わないのよ。その自体共に認める美しさに裏打ちされた自信にあふれる君の表情や仕草よりも、いつもなにか憂いや緊張を帯びていなければならないが故に表情が陰っている汐華初流乃君の方が向いているのよ」

 

と。噴上裕也なら汐華初流乃というやつはイケメンかもしれないが方向性が違うし、なんか暗いやつなんだろう、と考えて機嫌を直したかもしれない。双方の行き違いによる勘違いの連鎖だったと気づけただろうが、上手くいかなかったというわけだ。

 

そういうわけで、噴上裕也は、バイクを運転をするとき一番抱いてはいけない感情は、怒りだということも完全に失念していたのだった。

 

トツトツというバイクの単調な爆音が乾いた轟音に切り替わる。噴上裕也のバイクがは暴走族仕様である。ほとんどマフラーがついていないようなヤクザなバイクなのだ。80年台のバイクブームから現在まで続く暴走族は、かなりのカスタムパーツが流通しており、それなりの出費さえ覚悟すればイジるパーツには困らないため、購入費の段取りさえつけば意外に維持しやすい面もある。

 

そういうのが朝から晩までバタバタバタバタバタバタバタという、子供がトタン屋根を棒きれで思い切り叩いて回るようなけたたましい音を立てて走り回っているような音を出す。

 

独特の不規則な、はりつめた皮の太鼓の上に豆をばらばらと撒き落としたような排気音が響いていた。バイクが宙を飛ぶようにグイグイと加速し、猛禽類に似た鋭い叫びを残して次々と車を追い抜く。

 

地鳴りのようなバイクの音、激しい排気音が鳴り響く。走りに集中していれば色んなことを忘れられた。いつもの道、いつものカーブ、いつもの交差点だった。いつもの違いはありえない所から強烈な光が入って来たことである。

 

「───────ッ!?!」

 

クラクションは地面すれすれに響いて空へ舞い上がる。低音を下げながら歪んで伸びるクラクションが噴上裕也に届いた。

 

バイクがかすれて錆びついたような、悲鳴のような音を上げる。四肢がもげてしまうような衝撃と鋭い音があたりの空気をつんざく。地獄のような痛みの連続だった。大型トラック特有の、霧笛のような深い音がずっと響いていた。

 

大型トラックが路上をバックするときに発する短い断続的な警告音が、豚の鳴くようなホーンが響く。

 

道路の流れはまだ滞っていた。苛立ったのか、前方の車からクラクションが鳴った。遠吠えに反応する犬のように、別の車からもクラクションが発せられる。

 

逆走のトラックがつっ込んできたのだと気づいた時には、噴上裕也のバイクは空を飛んでいた。

 

倒れたバイクの車輪はゆっくりと回っていて、エンジン部から流れ出した黒いオイルが路面に伝わって下水の中に滴り落ちている。バイクのエンジン音が、拷問機械のうなりを部屋に響かせ、地面に膝が触れそうなほど、車体が傾く。

 

車が横から飛び出してくるのを噴上裕也は確認した。左手の小さな小道から、それこそ示し合わせたように、出現した。巨大猪のような顔に見えた。野蛮な図体が事故って転がっている噴上に向かってきた。悲鳴をあげる間もなかった。足を引いてから、車がスピンする。

 

気が動転したはブレーキを踏み込んだ。ハンドルを回す。車がそれに従い回転する。どうにか停めようと必死だった。衝突した様子はない。早く停車させないと、とそればかりが気になった。遠心力に引っ張られるように車は回転していた。壁や電柱がすぐ脇に見えたが、ぶつかりはしないと高をくくっていた。 スピンが永久につづくような気がした。

 

傍から見ていた噴上は生きた心地すらしなかった。

 

車は向かいの街路樹に左半分を乗りあげる形で激突し、弾かれた。前脚を上げた暴れ馬みたいに、ほぼ垂直に大きく跳ねあがる。

 

これで終わりかと思いきや、予期しないことが起こった。おそらく脇見運転だ。派手に事故った車に気を取られ、脚をやられた噴上裕也にその運転手は気づかなかったのだ。

 

ブレーキを踏んだが間に合わなかった。叫んだとき、噴上裕也は空を飛んだ。不幸な運転士からは人影が躍るように消えた。彼は車体の下に鈍い衝撃を感じた。  

 

運転士が車を下りたとき、外灯の光の当った三メートルばかり向うの道路の上に人間の黒い姿が横たわっているのが見えた。桑木は膝頭から力がぬけて、そこまで行くのに水の中を歩くようだった。  

 

彼は寝ている人の傍に寄って声をかけたが返事がなかった。暴走族の若者だ。抱きあげるつもりで頭に手をやると、その頭から真黒い水がこぼれた。外灯や、ほかの車のヘッドライトでそれが血だと知ったとき、桑木は自分を失い、何をしていいかわからなくなった。

 

「き、救急車、救急車っ、何番だ!?ええと、くそっ、思い出せない!」

 

運転士が110やら119やらかけまくっていると、その街路樹から誰かが覗いていた。そして街灯にきらりと矢じりが光る。スタンドの矢がこの悲惨な交通事故の現場で欲しがる人間目掛けて飛んでいく。

 

しばらくすると救急車やらパトカーやらが道いっぱいになった。数日前から迷宮入りすることになる事件や事故でてんてこ舞いな警察は、逆走してきた車の運転士が極度の栄養失調になっていると知り、2度聞くハメになるのである。

 

 

 

 

 

 

 

「仗助先輩じゃあないですか」

 

ぶどうヶ丘高校から出てきたジョルノは、下駄箱からでてきたばかりの仗助と鉢合わせした。ニコニコというよりはニヤニヤ、ソワソワといった様子で立っていたから自分を待っていたのだろうとジョルノは直ぐに気づくのだ。見つけるなり今までにないほどの親密さで近づいできたのだから。

 

「どうせあれからミキタカさん連れて、露伴先生のところに行ったんでしょう?どうでした?」

 

「聞いてくれよ、ジョルノ......ひでー目にあったんだぜ......」

 

言葉の割にずっとニヤニヤしているから、たんなるフリなのだろうと察してジョルノは先を促すのだ。

 

「やっぱりバレたんです?」

 

「いんや......」

 

仗助はなんだよノリ悪いなと、ちょっと残念そうな顔をした。ジョルノはお構い無しで相槌をうつ。無駄な世間話に興じる気は微塵もないのだという態度を示せば観念したように仗助は肩を竦めた。

 

「バレはしなかったんだけどよ、訳のわかんねえ宇宙人談義に巻き込まれたんだ」

 

タコがどうとか時間跳躍はどうとか、魔術を使う種族に滅ぼされたのに魔術を使うのはおかしいとか、科学が発達し過ぎると魔法にしか見えないとか。超能力はありなのかとか。それはもう一般人の仗助が完璧に置き去りにされるレベルのスピードで2人は話し続けたというのだ。余程気があったのか握手すらする雰囲気だったのだが、ある発言から雰囲気は一転した。

 

それはジョルノも知っているアメリカで捕獲された宇宙人を運ぶ写真の話題だ。実はエイプリルフールのネタとして掲載された記事が別の国で勘違いされたのが発端だと岸辺露伴が口にした途端、ミキタカが静かに怒り始めたらしい。

 

瞬く間に2人の雰囲気は険悪になっていったという。

 

「なるほど、なるほど、よくわかったぞ、東方仗助。君がこいつを僕のところに連れてきた訳が。今まさに僕が抱いているこの感情の鬱憤を晴らすためにまんまと僕は乗せられたってわけだな。それは少しばかり気に食わないが、今回ばかりはお前の気持ちがよくわかる。この嘘つきやろうの鼻をあかしてやろうってわけだな、いいだろう。この岸辺露伴が直々にその正体を暴いてやろうじゃあないかッ!!」

 

なにが逆鱗に触れたのかはよくわからないが、そう宣言して岸辺露伴はヘブンズ・ドアーを発動した。

 

「そこまではよかったんだよ、そこまでは。使った途端に露伴先生が倒れやがってさァ......ひでー目にあったぜ......賭けが有耶無耶になっちまうしよ......」

 

「倒れただって?ミキタカさんの頭の中を見ただけで?」

 

驚くジョルノに仗助はいうのだ。笑いをこらえているせいで、声は震えている。

 

「そうそう、なんか読めねえとかなんとか言い出したと思ったら、いきなり発狂したように叫び出してびっくりしたぜ」

 

盛大にため息をついた仗助は首をすくめるのだ。

 

「ミキタカの設定はたしかに充実してるけどよォ......それだけ練り込まれてるからって想像力だけで怖がってちゃ世話ないよなァ......」

 

読むだけで思い込んでしまい、時には死に至らしめることがある本。どこかで聞いたことがある話である。

 

「ええと......つまり、チンチロリンを挑む前に話が脱線しちゃったってことですか?」

 

「そーいうことだ。スタンド使いだってバレてはねーぜ、使わないよう言ったしさァ......」

 

「露伴先生は大丈夫だったんです?」

 

「おう、クレイジーダイヤモンドを使うまでもなく、しばらくしたら目を覚ましたぜ。すげえインスピレーションが湧いたとかなんとかで追い出されちまったけどよ」

 

「そうですか......無事ならいいんですけど。でも、それまずいんじゃあないですか?頭の中を読まれたなら、意味が無いんじゃ?」

 

「俺も咄嗟に気づいて止めさせようとしたらああなっちまってよ、めんどくせえ。ミキタカの頭ん中はこの世界には存在しない言葉で埋め尽くされてたらしいぜ」

 

「エスペラント語でも使ってあったのかな」

 

「さあ?でもまあ、紹介料はきっちり預かってきてやったからさ!ほら」

 

どういう意味での紹介料なのかはわからないが仗助はちゃんともらってきたらしい。仗助から封筒を受け取ったジョルノはホッチキスなどがそのままなのを確認したものの、クレイジーダイヤモンドの使い手は微塵も信用ならないという顔をして封をあけた。

 

「仗助先輩」

 

「ん?」

 

「ピンハネしましたね、あんた」

 

「はあ~?何言ってんだよ、ジョルノ。さすがにんなことしねえってば」

 

「そんなこといったって誤魔化されないですよ、新札の連番が飛んでるじゃあないか。いくらクレイジーダイヤモンドで直したって、お札の数は直せないだろ」

 

「ゲゲッ......マジかよ、銀行から下ろしてきたばっかだったのか!テキトーに抜いたのモロバレじゃねーか......!」

 

「仗助先輩?」

 

「ま、まあまあ落ち着けって、ジョルノ。チンチロリンまだ出来るんだからよォ、ちゃあーんと返してやるから待ってくれ!」

 

「信じられない!昨日の今日なのにもう使っちゃったんですか!?」

 

「仕方ねーだろ!お袋に秘密の口座バレて通帳取り上げられちまうし、テストの成績悪くなったのはサボってるからだって先生ネットワークからバレて小遣いカットされちまうし、マジでカツカツなんだってば!」

 

「だからって苦学生からピンハネするとか何処の鬼悪魔畜生ですか、あんた」

「だからごめんって言ってるだろ~!頼むから露伴先生にチクらないでくれよ!な?な?」

 

ジョルノは呆れた様子で歩き出してしまう。仗助は慌てて追いかけ始めたのだった。

 

 

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