ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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電波虫1

明るい横日で山肌が紫色に輝く。若葉の山腹が陽の光を受けて、野の只中に金屏風を立てたように見える。何日かつづいたやわらかな雨に夏のあいだほこりをすっかり洗い流された山肌は深く鮮やかな青みをたたえ、細長い雲が凍りつくような青い天頂にぴたりとはりついていた。空は高く、じっと見ていると目が痛くなるほどだった。

 

周囲の山を包み込むように雲が垂れ込める。山に、鳥の翼のように影を落とす雲の流れだ。全山雲にかかった山の景観は夏のさかりである。煙のような雲が山々の狭間を去来するちぎれ雲の影が山の日向を後から後から忙しげに通り過ぎるような日和だった。

 

牛が寝ているように奥深く豊かな形をしている山だ。海に向かって開いた奥深い谷の真ん中をめがけて、牛がのさばりでたような格好をしている峰がみえる。山も、川も、おぼろに霞んで、ひとつにとけ合っている風景が、夢のように美しい。影絵のように向こうの白い山はだに影が映る。

 

その中でも歩いて登れる高さの山がある。それが鉄塔の山、今回の目的地にして一礁一の別邸であり、文字通り山の上に土地を購入して建物と巨大なアンテナ、送電線を立てている家だ。無線機もいろいろなものを収集し、綺麗に展示しているという。

 

骨組みの外形が四角錐の形状となっている、最も広く使われている四角い鉄塔が目印である。他にもいろんな高さのアンテナがあり、まるで研究所のようだった。

 

「これが監視カメラに、電柵、鉄柵か」

 

「監視カメラは切ってくれているはずですね」

 

チェーンを乗り越えれば車用に整備された坂道が続いている。

 

以前、帆波夏帆の紹介で知り合ったばかりの鋼田一を名乗った男はチェーンを外してくれた。掴み処のない飄々とした態度で、一人称は「わたし」。 鋼田一豊大という名前は偽名であるとわざわざ申告してくれた。犯罪者なのかと思ったが、どうやら単なる恥ずかしがり屋らしい。

 

紛らわしいと空条さんが苦い顔をしたのはここだけの話だ。どのみち一見素顔に見える顔もマスクであり、素性の多くが謎に包まれている奇妙な人間である。岩人間に雇われているんだからまともなわけないんだろうけれども。

 

見る限り長い鉄塔生活で手のひらにあるタコが異常に発達している様々な道具代わりに使うほか、カッターなどの道具も仕込んであったりと、完全に鉄塔生活に適応させていた。

 

なんでも憶病で引っ込み思案、人付き合いが嫌いな性格らしく、昔から計画通りに事を運んだためしがない、狭い鉄塔内でもこうなのに外の世界なんか恐ろしくて、このまま一生を鉄塔の中で過ごしたかったから格好の雇い先だったという。

 

鋼田一はもう3年はこの山に住んでいると自称した。山から下りてないだけなら1ヶ月。理由は「他人が嫌になったから」らしい。

 

人間社会をトランプのババ抜きに喩えており、「ババは自分以外の誰かに持たせればいい」という持論を持っている。 どうやら対人関係で相当に嫌な思いをした過去があると思われる。

 

帆波家に雇われながら、鉄塔で暮らしていたら、スタンド使いになってしまったとのこと。吉良吉影のスタンドの矢にいられた訳では無いらしい。鉄塔自体が昔、帆波家が電気を引くために使っていたが、今は太陽光により補えるようになったから、鋼田一の所有となった経緯があるらしい。

 

鉄塔には外観はそのままにきちんと生活できるようリフォームされている。

 

「......悪いことは言わないから近づかない方がいい。今は」

 

「今は?」

 

鋼田一はうなずいた。

 

鋼田一豊大の説明によると、地上38メートルの屋上にはアースしており、雷が落ちても大丈夫。鳥を捕まえるための罠も設置してある。 物を上げ下げするリフトも設置。 ワイヤーは電線を再利用したものらしい。

 

地上30メートル付近 にはソーラーシステム、貯水タンクを設置。これでお湯も沸かせるしテレビも見れる。ソーラーはどっかの家からかっぱらってきたらしい。 下には充電用のバッテリーを設置してあるので、曇りの日や夜でも大丈夫。 貯水タンクの上には水をろ過する装置も設置しており、近くの川からも水を汲めるので水に困ることはまずない。 この辺でウサギや魚などを干して保存食にしている。

 

地上25メートル付近 ここが生活の拠点。 上の階にリビングルーム、下の階が台所。 上の階にはテレビ、本が読めるスペースが有り、シャワー、水洗トイレも完備。 水洗トイレのウ◯コなどの汚物は下で栽培している野菜などの肥料として撒けるように設置してある。 寝るときもここだが、落ちないように体と布団を鉄柱に縛って寝る。起きたらそのまま干せる。寝る時ぐらい下に降りればいいじゃんとか言っちゃダメ。

 

下の階には薪のコンロの台所、キュウリ、ナス、トマトなどを栽培している空中野菜畑がある。 魚はリールを付けて釣り竿に改造したフライパンで、近くの川から釣る。 釣って余った魚は干すか漬け込んで魚醤を作っている。

 

この上下階には、雨の日や寒い日の対策に防水・防風シートも完備。これで3年も過ごせている事から、張り巡らせると結構温かいらしい。

 

地上0メートル には野菜や山菜、キノコを栽培している。薪もこの辺から調達する。 山菜はツユクサ、ヤマウド、ヒメジョオン、オランダガラシなど。 薬草も育てているが、もれなくウ◯コが。山菜を食べにやってくるウサギを捕まえる罠も設置してある。

 

などなど、足場が悪い事を除けば生活設備は充分。

 

そして鉄塔での生活はというと本人曰く、自給自足なので仕事をする必要が無いし、塔の中を移動するだけで運動不足にはならないらしい。

 

「住んでたなら、なんでいないんすか?」

 

「それが雇われてる契約だからなんだ。あの鉄塔はおひとり様だからな」

 

「おひとり様?」

 

「うん。だから近づくんじゃあないぞ、吉良吉影を捕まえるのがお前達の目的なんだろ?」

 

わかった、というほかない。

 

どうして電気を引くためにわざわざ鉄塔をたてたのにやめてしまったのか。鉄塔に住むためにわざわざ岩人間に雇われてるはずなのに、今こうして出ている理由が気になるが、僕たちは先をいくことにした。

 

(......琢馬が言っていた電波を食うサボテン、電波を食う虫ってのはここにかんけいがあるのか......?)

 

僕は鋼田一に発現したスタンドについて聞いてみた。

 

「大丈夫、鉄塔に入らなきゃ無害だからな」

 

スーパーフライという鉄塔と同化したスタンドには、鉄塔の内部に捕らえた人間1人を閉じ込める能力があるという。見た目はまんま送電鉄塔である。 物に取り付くスタンドなのか、それとも鉄塔がそのままスタンドなのかは不明であり、鋼田一にも制御しきれてない所謂『一人歩きしているスタンド』で、 中に一人しか居ない時に外に出ようとすると外に出た部分から体が鉄になってしまう。鉄塔が攻撃されると攻撃されたエネルギーをそのまま跳ね返し、いずれ元の攻撃してきた人の位置へ帰ってくる。

 

恐らくは台風などの自然災害も「攻撃」と見なされるものと思われる。

なお、本体が死んでもアヌビス神のように永遠にこの世に残り続けるとの事。

 

人付き合いで相当な心の傷を負っているらしいから、それが「他人を拒絶する」能力発動のきっかけになったのかもしれない。琢馬みたいなものだろうか。

 

スーパーフライに閉じ込めの効果がある以上、彼が今後生活していく上では第三者の協力が必要になってしまったわけだから、豊大としては願ったり叶ったりだろう。 他人が嫌で鉄塔生活をしていたのが、他人を拒絶する能力を得たおかげで結果的に他人との距離を縮めることができたのは、ある意味では皮肉と言える。

 

「じゃあ、誰がスーパーフライの中にいるの?君がいるってことは、誰かがスーパーフライにいるんだよね?」

 

「そういやそうだなァ」

 

「だからやめとけってば、ちかづくんじゃあない。好奇心で好き勝手動くってんなら約束と違う。出てってもらうぞ」

 

「康一先輩、億泰先輩、気持ちはわかりますが余計な詮索はやめてくださいね。不法侵入で捕まるのは僕達の方なんだから」

 

「そうそう、蓮見君のモーニングコールで遅刻を免れたんだから反省したまえよ。特にそこの鉄塔ばっかみてる東方仗助」

 

「や、やだなあ~~見てただけじゃないっすか、露伴センセ」

 

僕はため息をついたまま歩き出す。60回も失敗しているという事実を考えれば、僕はより多くの警戒をしなければならないのだ。単語しか遺言を残せなかった前の僕のためにも。

 

 

 

 

 

「サボテン屋敷といった方がいいんじゃあないか?」

 

露伴先生はそうごちた。

 

「しかし、ほんとうなのか?琢馬君のスタンドは思い込ませるスタンドなんだろう?」

 

「そうですよ。本人の意志にかかわらず記録するんだ、実体験を」

 

「うーむ......じゃあこのサボテンが電波を食うサボテンになるのか?この古墳の輪郭に沿って敷き詰められてるハニワのように並ぶサボテンたちは」

 

「そうなりますね」

 

訝しげな露伴先生を知り目に、僕はサボテンを調べてみる。

 

「こいつはセレウスサボテンな」

 

「ネットで流行ってる胡散臭いサボテンか」

 

なんだろうそれと至極真っ当な反応をする康一先輩たちに僕は説明するのだ。なんの本で読んだかは思い出せないが。

 

セレウスサボテンは電磁波が吸収されてパソコンやテレビの前などに置いておくと目の疲れや頭痛に効果があると言われ売られている事がある眉唾物のサボテンだ。実際の効果は不明で、外国からこの事が伝わって売られるようになったらしい。

 

 

コンパクトな樹形が面白い柱サボテンの仲間で、トゲは柔らかく毛のようで触っても痛くない。育て方は普通のサボテンと同じだが、凍りそうな寒さに当たると葉が赤くなってしまうので、暖かい所で冬を越させた方がよい。

 

別名にセレウス・ペルヴィアヌス、セレウス・ペルービアナス。

 

「室内が向いてるのになんだって外に?」

 

「たしかにな」

 

とても日当たりを好むが真夏は日差しが強過ぎるので、木漏れ日が当たるような明るい日陰で育てるとよい。また、過湿を嫌うので戸外のものは長雨に当たらない所に置くようにする。室内では電磁波を吸収させようとパソコンやテレビなどの近くであまり明るくない所に置いている事がある。あまり暗い所に置きっぱなしではいけない。1日1回、日当りのよい窓辺などに2、3時間日光浴させて育てるとよい。

 

しかし、真夏は日差しが強すぎるのでレースカーテン越しの日光ぐらいでよい。冬の寒さには氷点下にならなければ越冬するぐらい耐寒性はある。水が多く寒さに当たると赤っぽくなるので、冬は室内の最低温度5度以上の所で管理しなければならない。

 

いつも土が湿ったような過湿だと根腐れするので注意が必要。春から秋の生育期は月に2、3回たっぷりと与え、11月から3月中旬頃までは月に1回ぐらいの水やりで、ほとんど与えない方がよい。4月から徐々に成長してきますので水やりを開始する。

 

2年に1回ぐらいは植え替えをする。鉢から抜いたら古い根などを取り除き、1週間ぐらい明るい日陰で乾かして植え付ける。行う時期は4月から5月頃が理想的。用土は多湿を嫌い根が弱いので多肉植物専用の培養土が売られているので、それを使用した方が安全。サボテンの仲間ですが鋭いトゲはなく毛のように細いので、触っても刺さる心配はない。

 

増やし方は柱に子株が沢山発生するため、子株を取って根元が完全に乾くまで日陰で数日間から1週間ぐらい乾かし、多肉植物の培養土や川砂のような水はけのよい土の上に乗せるように軽く挿す。時期は4月から5月頃が理想的。

 

「ああ、そいつは本物だ」

 

空条さんの言葉に僕らは目を見開いた。

 

何年も前から気になっていたのだが、電磁波吸収サボテンなるトンデモ植物がネットで売られている。

検索すれば80件以上も出てくるので、長年に渡って売れ続けているのかも知れない。

 

景品表示法に引っかからずにいまだに普通に売っているのだから、とスピードワゴン財団が徹底的に調べ上げてみようとしたことがあったらしい。

 

「出回ってるのは品種改良されたやつだ。テレビやパソコンの傍においてやると人体への影響を軽減できる上に発育がいい。原種は海外協力隊が電気を通す事業で設置した鉄塔付近にあったサボテンが顕著な成長を遂げていたために発見されたものだ。いわば突然変異だな。電波との因果関係はまだ証明出来ちゃいないと粗悪品が出回っ出ることもあって普及はしちゃいないようだな」

 

「本当にあるんですか、そんなサボテンが。もし悪意を持って持ち込んだら大惨事じゃあないか」

 

「だからエジプト政府は国外への持ち出しを禁止している」

 

「......エジプト?」

 

「エジプトっていいました?」

 

「ああ」

 

「いうにことかいて、DIOがいたっつーあのエジプトっすか承太郎さん」

 

「その通りだ」

 

「吉良吉影だかDIOの協力者が持ち込んだな」

 

「絶対いやだ!なにかあるって書いてあるようなものじゃあないか!」

 

「近寄りたくない。誰だってそうです。正常な感情ですよ、康一先輩。まるでなにかを遠ざけるために植えられてるじゃあないですか、室内じゃないと上手く育たないはずのサボテンが。もうこの時点でこの上なく怪しいに決まっている」

 

サボテンたちを睨みつける僕はこの土地の所有者たる一礁一たちは何に怯えているのか特定しようと躍起になっていた。所有者の鉄塔、アンテナ、そして生活スペースにまるで結界のようにおかれているサボテンたちはネズミが横切れそうな隙間すらないのだ。あやしい、あやしすぎる。なにがあるというんだ、この山に。

 

「汐華君も心当たりが無さそうだな......あいにく僕もだ。電波を食う虫だと?聞いたことも無いな」

 

「......電波を食うサボテンがあったんだ、蓮見琢馬のスタンドの記述は正しいんだろう。俺もてんで思い当たらないんだが」

 

「空条さんでさえわからないなら仕方ありませんね......なにかあるんでしょう、きっと。僕がなにもないのにメモを琢馬に託すわけがないのだから」

 

「こーいう時、頼りになるよなジョルノってさ」

 

僕は静かに口元を緩めた。

 

「ふむ......汐華くん、少しいいかい?」

 

「なんですか?」

 

「その琢馬君のスタンドが強力な切り札たり得るのはわかったんだが、メモじゃあ時間が限られてくる。どうだ?僕に君の記憶を渡すってのは」

 

「なんですって?」

 

僕がいう前に露伴先生はスタンドを発現させていた。そして僕目掛けてヘブンズ・ドアーをぶちかます。そして、先程の話題がかかれたページを破った。そして能力を解除する。

 

「ほら、補足したまえよ、君の記憶だ」

 

「......ありがとうございます。せめて説明してくださいよ」

 

「時間が無いからな」

 

「はあ」

 

僕はそのページをメモから産んだツバメに括りつけて飛ばした。

 

 

ふと。不意に何かが鼓膜を揺らした。僕は弾かれたように顔をあげる。蜂?ハエ?いや、違う。今まで聞いたことがないパターンの羽音だと僕はすぐに分った。それは強くなったり弱くなったりせず、同じ波長で一直線に響いていた。

 

辛抱強く耳の奥に気持ちを集中させていると、羽がこすれ合う時のかすれるような音も確かに聞くことができた。雨の音はそれと交わることのない、ずっと底の方で淀んでいた。今僕の中で呼吸しているのは、その羽音だけだった。その平坦で終わりのない音を、学生寮がかもし出す音楽のように聞いた。

 

ぷーんともずーむとも書き表せるような音だった。空の上から聞こえてくるようでもあったし、床下から響いてくるようでもあった。なにかが震えて動いている、そんな感じの音だった。

 

どこからともなく羽音が聞こえてくる。すでに通り過ぎた羽音の名残りなのか、ただの耳鳴りなのか区別がつかない。しかしそれはどんなにか細く微かでも、それることなく真直ぐ鼓膜を突き抜けてゆく。

 

「あの、なにか聞こえませんか?」

 

振り返る誰もが不思議そうな、訝しげな顔をしていると気づいた時点で、僕はその羽音が僕にだけ聞こえているのだと気づいてしまう。

 

「どうした、ジョルノ」

 

「動かないでください」

 

「は?」

 

「どうしたんだ?」

 

「ジョルノ君?」

 

「やってしまったかもしれない......いつの間にか僕はサボテンを倒してしまったようだ」

 

僕の足元にはサボテンの鉢植えが転がっている。ひっくり返って土がこぼれ、見るも無残なサボテンがある。

 

「うわあああっ!」

 

真っ先に声を上げたのは鋼田一だった。

 

「逃げろ、早く逃げるんだっ!食われるぞっ!」

 

訳の分からないまま駆け出す鋼田一にぽかんとしていると、足を止めて彼は叫んだ。

 

「電波虫、わたしはそう呼んでるんだ。文字どおり電波を食う虫だ。いつもなら電波塔や監視カメラに集ってるが、このあたりで今電波を出すのはわたし達人間なんだッッッ!!」

 

ギョッとした僕はサボテンをまた開花させようと、仗助先輩は元に戻そうとするが、鋼田一がどうでもいいから早く来るようわめきたてるので走ることにした。

 

その間も耳鳴りが止まない。羽音がうるさい。ちら、と僕は振り返った。電波塔やアンテナに閉じ込めているはずのサボテンの結界のひとつを僕は壊してしまったらしい。あれだけ細心の注意を払っていたのにどうしてだろうか。

 

考え事をしていたからか、どん、と僕は仗助先輩にぶつかってしまった。

 

「ごめんなさい、前をちゃんと見ていなかったようで」

 

「俺もわりーわりー、後ろまで考えてなかったぜ」

 

距離をとり、走る。またぶつかった。

 

「悪い、大丈夫かい?」

 

「いえ、大丈夫です。ニワカには信じられないですが、嘘を言っているようには思えません。もしかしたら虫のスタンド使いかも」

 

「カラスの次は虫?趣味が悪いな全く」

 

「うわっ、ごめんジョルノ君大丈夫?」

 

「......なんなんです、さっきから。みんなして結託してぶつかってませんか?」

 

「だからごめんて」

 

「逃げてくれ、この中だ!」

 

こっちだ、と鋼田一が山小屋の前で叫んでいる。空条さんたちが入っていく。僕も入ろうとしたのだが。

 

「ぐううっ」

 

すさまじい羽音が耳元で鳴り響く。サボテンを乗り越えて先にいけない。

 

「ジョルノ、どうした。大丈夫か?」

 

「......ダメです、耳鳴りがひどい。その先に行くには鼓膜が破れそうだ」

 

ひい、と鋼田一がひきつった顔をする。

 

「電波虫だっ!もうきてたのかっ、こないでくれ!」

 

「電波虫?」

 

僕は振り返る。目視できる距離に耳元で延々うるさい羽音がたくさん重なって聞こえる。

 

「鋼田一さん、電波虫ってのは人間のどこから侵入するんです?」

 

「耳だ、耳から入って脳にいき、脳の電波信号を食べてしまうんだ」

 

「なるほど」

 

僕はゴールド・エクスペリエンスで胸ポケットのメモをツバメに変えた。

 

「露伴先生、あとは任せました」

 

「なっ、なにいってんだよ、ジョルノ!」

 

「そうだぜ、ジョルノ!早く逃げろよ、死んじまうぞ!」

 

「もう時間がありませんッ!ヘブンズ・ドアーは死者にまでは使えないんでしょう?僕のページをよろしくお願いしますッ!」

 

「───────ッずいぶんと買い被ってくれるじゃあないか!いいだろう、君の記憶、たしかに琢馬君に届けてやろうじゃあないかッ!!」

 

それきり僕の記憶は途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

そして僕は62回目の朝を迎えたと琢馬に教えてもらうことになる。

 

環境破壊による影響で、近年は世界中で気候変動や異常気象が続いている。たしかに去年からは堤防が決壊するくらい特に雨が多かった。一部氾濫したほどだ。

 

因果関係は不明だが、新種の昆虫が大量発生しているという。それがこの電波虫らしかった。

 

「空条さん、この虫を発表したらいいのでは?」

 

「俺の専門は海洋生物なんでな」

 

それはまさしくデストラップだった。吉良吉影のいない間は無線機のためのアンテナや電波塔が止められるため、大量発生している電波虫たちはサボテンのせいでただでさえ少ない食い扶持が減り、飢えに飢える。だがぐるりと置かれたサボテンのせいでただでさえ餓死寸前の電波虫はその先にいけない。動けない。そんな中、サボテンが倒れることで飢える寸前の電波虫が侵入者目掛けて襲いかかるトラップ。

 

それが前の僕が仗助先輩たちの前で食い尽くされたと思われるトラップの正体だった。電波虫は本来健康な人間の電気信号は強すぎるから襲うことはなく、機械にしか反応しないが飢えた虫なら人間の電気信号にだって襲いかかるというわけだ。頭の中に侵入して電気信号を食うのはいいが、人間の電気信号は強すぎて自滅し、頭の中が電波虫の死骸のせいで血管が破裂し、死ぬらしい。

 

「趣味の悪いトラップだ......まるで蠱毒じゃあないか、ゾッとする」

 

露伴先生はそうごちた。

 

「......こいつが電波虫」

 

僕は空条さんのスタープラチナが仕留めた亡骸をみる。

 

露伴先生がヘブンズ・ドアーで僕を本にしてくれたおかげで、直撃を免れ、全身が「本」になってバラバラペラペラになったおかげでダメージ無し。耳の中に電波虫がはいる悲劇は免れた。

 

「なんだって黙ってたんです、露伴先生。おかげで何が何だか」

 

「文句は琢馬君に言ってくれよ、君。他ならぬ彼の提案なんだから。どうやら吉良吉影は君の生体探知をえらく恐れているようだからとね」

 

「敵を欺くにはまず味方からってわけですか......今度は露伴先生が感染したのかと思いましたよ」

 

ギリギリでサボテンの結界の中に逃げ込めた僕はため息をついた。

 

「最初に言ってくれたら穴の中に耳を入れて対処したってのに」

 

「えっ、なにそれ気持ち悪い」

 

「まじで?入んのかよ、ジョルノ」

 

「あとでいくらでも見せてあげますよ、心配しなくても」

 

僕は肩を竦める。露伴先生がヘブンズ・ドアーの書き込んだ命令じゃなく、「本」にする事自体で僕の危機を回避してくれた機転のおかげで僕はここにいるようだった。

 

「本当に気持ち悪い虫だな、こいつ」

 

僕はサボテンの向こうで蚊柱ならぬ電波虫柱となっている気味の悪い蠢きを見つめた。得体の知れぬモノがアンテナから這い出てきた。

 

それは、細長く、ところどころ角ばった体を持ち、触覚や脚もあるキモい虫。この電子回路にも似た形状の虫は、きっと新種の昆虫だ。電子機器の集積回路の中に住み、卵もそこで産む。エサは「電磁波」で、少数なら電波塔周辺の電気をちょっと食うだけの無害な存在。

 

鋼田一曰く、体内に「電磁波」を帯びており、たくさん集まると、時に外部生物に攻撃する事もある。その時、口からゼリー状物質を吐き出すとの事。特に、心臓が弱っている生物を探知して、集まろうとする。人体は脳も心臓も筋肉も「電気信号」で動くため、人々はこの虫の影響を無意識に受けてしまうだろう。

 

「岩人間は電気信号じゃあないんだ、だから無害なんだよ。優秀な警備員なんだ」

 

「......こうして見ると、サメやエイの頭部にあるロレンチーニ器官に似ているな」

 

「なんすかそれ」

 

「その器官は感覚器が無数にある。ゼリー状の物質が詰まった小さな筒状の器官で、これによってごくごく僅かな電磁波をも敏感に感知できると知られているんだ。そのロレンチーニ器官そのものが独立して進化し、1個の生物になったような存在かもしれないな」

 

「なんだって海じゃなくて陸なんです?」

 

「あのサボテンが天敵な虫なんだろうさ。いや、あの虫から生き残るためにサボテンが進化したのかもしれないな」

 

「なんつーはた迷惑な......」

 

「海中ではなく空気中で、しかも相当広い範囲の電磁波を感じ取っているなんて、すごい進化の仕方ですね」

 

「しかもこいつらは本来獲物をジワジワ弱らせ、頃合いを見て、体内に侵入する性質がありそうだ。恐らく、彼の体内に入った虫達は、残された彼の微弱な生命電気を喜んで喰らい尽くす」

 

「だが飢えすぎてそれどころじゃあない」

 

「そっかあ......虫に善悪なんて関係ないしね」

 

「つまり、電波塔やアンテナを起動させれば問題ないわけだ」

 

「目指すべき場所が見つかりましたね、生活スペースだ」

 

 

 

 

 

 

ただ山を歩いただけだった。次第に足が重くなり、なのに心はほぐれていく。大勢で歩いていながら、五感は一人、空に向かっていた。不思議な感覚に惑った。だが確かに感じた。子供の頃からずっと消えることなく心に掛かっていた鬱屈の霧が、ふっと晴れる一瞬があったのだ。無心。それこそが霧を晴らす瞬間なのだと気づいていた。

 

風に揺られる。さっきまで頰に心地好かったその風が、悪魔の使いのように感じられる。

 

ようやく山頂に着いた。視界が拓け、僕は声を上げた。 草の緑に覆われた、天然の大広間がそこにはあった。

 

そこには人間の生活が感じられるログハウスが建っていた。丸太または角材を構造材として水平方向に井桁のように重ねて積み上げ、交差部にはノッチを使い組み上げた家屋である。

 

 

ログハウスは湿度の調整がとても優れており、また木の断熱性の高さから夏は涼しくて冬は温かいということが挙げられる。また、コンクリートなどに比べて感触が良く、木の温もりを感じることができるなどの特徴もある。ログハウスによく使われる樹種としては、ベイスギ、ベイマツ、トウヒ、フィンランドパインなどが代表的である。

 

一礁一は電工の知識と経験により少年期からの趣味だったトランシーバーを楽しむためだけに山を買い、ログハウスをたて、たくさんの鉄塔やアンテナをたてたのだ。傍から見れば老後を見すえた気の長い趣味を持っている充実した男といえるが、殺人鬼をかくまっているとなれば途端に恐ろしいものとなる。

 

ログがそのまま見える状態にしてあったり、ログとログの間に漆喰を塗り込んであったり、ログの手前に板材をはってあったりと几帳面な仕事がうかがえる。

 

岩人間となってからは生活の拠点を大人の秘密基地たるここで過ごしているというのだから、車庫やポストなんかが普通においてあった。

 

「サボテンがあたりを埋めつくしていなかったら、いい雰囲気なんだけどなあ......」

 

「雑誌の表紙にありそうですよね」

 

「アウトドア系の雑誌な」

 

「キャンプグッズが通販で買えるやつだろ、見たことあるぜ」

 

僕はため息をついた。

 

「鋼田一さん、中には入れますか?」

 

「もちろん。鉄塔に入れない時はわたしはここに住んでるからな」

 

「なるほど」

 

鍵を取り出した鋼田一はにこりと笑った。

 

カラスの鳴き声がした。とっさに僕達は顔を上げる。

 

「うわっ!」

 

「あ!」

 

「ああーっ!」

 

「かぎが!」

 

空条さんのスタンドが発現した時には遅かった。あっという間に鉄塔目掛けてカラスが飛び立ってしまう。

 

「いかなきゃあいけないみたいですね」

 

僕はため息をついた。

 

 

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