鉄塔に行かなくてはならない。カラスがおそらく近くにねぐらを構えているはずだからだ。約束と違う、と鋼田一は強硬に反対したが、カラスが持っていってしまうとは想定外にも程がある。
そんなにいうならカラスを撃破して持って帰ってきてくれと主張すると鋼田一は困ったようにほほをかいた。スタンド使いではあるが鉄塔がスタンドで他人に貸し出している今、この男はそこらへんの人と変わらない程無力なのだ。
後日と悠長なこともいってられない。僕らは鋼田一の反対を押し切って鉄塔に向かった。
鉄塔の周り一面がサボテンだらけだった。
「......サボテンは普通ここまで増えねえもんだが......まさかここで育ってるのか?」
空条さんの驚きに満ちた声がする。
「ここだけ鉢植えじゃあないんだね」
「ほんとだ、そのまま植わってる」
「あの鉢植えはこっから持って来たんすかね?」
「おそらくな」
「こうして見ると、実に壮観じゃあないか。一礁って男はサボテン愛好家なんだろう」
「電波虫の対策として育て始めたのか、元々好きだったのか......」
「それこそ本人に聞かなきゃ卵が先かニワトリが先か問題になっちまうぜ、汐華君」
「それもそうですね」
「しかし、彫刻か?岩がいっぱいあるな」
草木が岩となり自生しているのがわかる。僕はためしにゴールドエクスペリエンスを試してみたが生命に変換できないため、こんな状態でも生きているのがわかる。異様な光景だ。鉄塔以外が全て岩だらけなのだから。
「独自の生態系を築いているようですね」
鉄塔を中心に広がる岩の数々、奇形の草木。僕の説明に気味が悪いのか誰もが気分悪そうな顔をしている。
「......まさか、ここにいるのか。一礁一が」
空条さんのつぶやきに僕らはごくりと唾を飲んだ。
鉄塔の真下に簡素なプレハブ小屋があった。スーパーフライの対象として鉄塔に住み着いている住人は、その小屋をあけ、沢から引いてきた水を組み上げてはシャワーのようにしている。そして、中にある岩を丹精込めて磨き上げている。
その住人は、男とも女ともつかない姿だった。長年の固まりついて、紺とも紫とも茶ともいいようのない奇妙な色合いに変化した上着。白いパッチといたんだアンダーシャツに毛糸のところどころほつれた服を着た住人。着たグレーの服には無数の細かいしわがよっていた。それは氷河に浸食された大地の光景を思わせた。
ただ単に着こなしがひどいだけではない。そこには服飾という概念そのものを意図的に冒瀆しているような印象さえうかがえた。
いつ作られたのかは見当もつかないが、いずれにせよそれが作られたときから既に流行遅れだったのではないかとおぼしきウールの服には、防虫剤の匂いが微かに漂っていた。
いかにも着なれてない。微妙にサイズがあっていない。まるで限られた在庫品の中から、急いで間に合わせに選ばれたみたいに。
朝のゴミ出しにも恥ずかしい格好冴えないファッション。ドレスコードにズボラ。見た目に無頓着らしい。洗濯しすぎて毛糸がやせていたし、デニムも一目でデザインでなく自分で穿きつぶしたからだと分かる穴がひざに空いていた。所々が薄くなって日に透かして見ると裏からつぎを当てた針の目が見える。服装には師走も正月もない。ふだん着も余所もない。
どす黒い顔をした住人だ。どの指も硬くひび割れて、長く伸びた爪にまで黒い汚れが染みこんでいる。厳しい生活を送っている人間の手だった。
ぎょっとしてしまう。
暮らしているのではなく、ただ生きているだけ、そんなみすぼらしい女性だ。
埃をかぶった人間が、岩を磨くためだけにスーパーフライにいる。鉄塔に囚われている。世話を焼くためにあっちにこっちにとうろうろしている。人間って、こんな姿をしてまでも生きていなくてはならないのかと思えてしまう。
身なりはぼろぼろで、がっちりと固まり、異様な臭気を放っていた。おそらくシャワーはしているが、所詮生水だから清潔には程遠い。
「......」
女は無言のままこちらを見た。
「帆波奈帆子さん......」
ぼそりと仗助先輩が呟いたものだからようやく僕らは思い出す。黒縁メガネに黒いスーツ、黒い髪と全身黒ずくめな印象が強すぎてホームレスのような姿とは一致しなかった。
「どうしてここにいるのかしら、あなた達」
帆波奈帆子は迷惑そうな顔をしている。
「どうやって入ってきたのかしら?警報は鳴らないし、電波虫たちは反応しないし......まさか自力......いえ、協力者がいるようね。わたしが吉良吉影に協力しているように。ねえ、わたしの気が変わらないうちに帰ってちょうだいな。わたしはハジメさんのお世話をしなくちゃあいけないのよ」
帆波夏帆が休眠期の帆波志帆の世話をやくように、帆波奈帆子は一礁一の世話をやいているようだ。献身的である。なんだってスーパーフライの中にいるのかわからないが。不躾な視線に気づいたのか、彼女は薄笑いを浮かべるのだ。
「テロメアって知ってるかしら?細胞分裂を促す末端器官なのだけれど。一般的にこのテロメアが若返れば人間の寿命は伸びると言われているわ。規則的かつ健康な生活を送れば劣化は遅くなるけれど若返る方法はないと言われているわね」
帆波奈帆子曰く、サプリはまだ実現していないという。若返り成分が過剰になると害があるからだ。たしかにその成分は心臓病や認知症などの病気のリスクを低下させるが、残念ながら過剰になると特定のがんのリスクを高めてしまう。
このサプリ開発について、テロメア研究の第一人者であるブラックバーン博士は、懸念を示している。単純に外から取ればいい、そして増やせばいいというわけでもないからだ。
ブラックバーン博士が若返り成分を発見した後、もしかすると、これは何千年も人類が待ち望んでいた不老不死の薬かもしれないと、みんな騒いだ。
しかし、それを確かめるために、マウスを使って背中に人工的にたくさん作らせると、確かに皮膚は若返ったように見えるが、それと同時に、がんがたくさん出来るということがわかった。
このように人工的にテロメラーゼを無理やり多くするというのは、もろ刃の剣。悪い副作用が出る可能性が高い。
テロメラーゼがあり過ぎると、いろんな形の悪い染色体がたくさん出来ることが分かっており、それが原因になる。
「わたし達が感染したこの奇病は完全にそれを克服しているのよ。奇妙な体質にさえ目を瞑れば、今のところ240年はいきられるといわれているわ。だからよからぬ事を考える連中が後を絶たない」
泣きそうな顔で彼女はいう。
「帰ってちょうだいな、あなた達がたちいるべき場所じゃあないでしょう?放っておいて」
「そりゃ叶えてやりたいのは山々だがよー吉良吉影を捕まえりゃすぐにでも出てってやってもいいぜ、帆波さん」
「それだけは出来ないわ」
「なんだって吉良吉影に協力するんです?」
「なぜって?決まっているじゃあないの。平穏に暮らしたいと願うのは十分共感するに値するんじゃあなくて?」
帆波は狂気を孕んだ目で笑うのだ。その視線とかち合った瞬間に僕らは話し合いの余地はないと悟るのだ。
「久しぶりに肉が食べたいでしょう。ご飯の時間よ。存分に楽しみなさい」
彼女の一言により、付近の木々から不気味なカラスの鳴き声がする。電波虫はカラスまで食べてしまう可能性があるからか、サボテンの円を崩す気はないらしい。僕らは身構えた。
止まり木が見える。おそらくあれがねぐらなのだ。ぎゃあぎゃあ騒がしい鳴き声がした。さっきも聞いた、鳥の声だ。
「気をつけてください、みなさん。こいつ、若い鳥じゃあない。親鳥だ」
僕の声にうんざりした様子の声があがる。そりゃそうだ、社王町のあちこちを駆けずり回って岩になるカラスを捕獲すること5回。うんざりもする。これで終わりだと思っていたらまさかの親鳥登場である。もしかしたら、とぼんやり思っていても直視はみんな無意識のうちに避けていたのかもしれなかった。
「勘弁してくれよ、雛がいるとかいうんじゃあねえだろうなっ」
「そこまではわかりません。だがこの鳴き方は子供を守るための鳴き声だ」
「ほぼ確定じゃないかァっ!」
「まじかよー」
「やんなるね......」
康一先輩たちはもう一度木のてっぺんを目を凝らして見つめる。もちろん僕もだ。もう嫌な予感しかしないのだ。可愛い5羽の子供たちを捕まえる人間たちへの憎悪は高まる一方なはずの親鳥だ。ただで鍵を返してくれるとはとうてい思えなかった。
逆光を利用して白いカラスは己の不利な体を隠そうとする。やはり知能は高いようだ。
サッと僕らを影が走った。影の主は億泰先輩の真上だ。逆光がまぶしいのを我慢して見上げると、はるか上の空には影の主、獰猛な目を光らせた大きなカラスが、翼を広げて舞っていた。
「白いカラスじゃあないか、珍しいな」
「絵本で昔読んだ話に出てくるやつだ」
「アルビノってやつだろ?めずらしいな」
それがスッと翼をすぼめたかと思うと、億泰先輩目掛けて、そのするどいくちばしを突き出し、急降下してきた。
「億泰先輩!」
「言われなくてもわかってるぜ!ザ・ハンドッ!!」
空間が抉り取られ、カラスがこちらに飛来する瞬間を狙って一撃を浴びせようとした。のだが。
「なんだこの大きさはッ!?」
視界が真っ白になる。カラスの大きさを認識できない僕らは一瞬混乱した。
「どわあっ!?」
「億泰ッ!だあくそっ!億泰からはなれやがれッ!!」
仗助先輩のクレイジーダイヤモンドが億泰先輩に襲いかかるカラスをぶん殴って吹き飛ばす。翼からむしり取られた羽が舞う。僕はその何枚かを拾い上げる。
「いってえええ!」
たまらず億泰先輩が左目を抑える。その指の間からダラダラと血が溢れてきた。まさにカラスの復讐である。宣戦布告といっていい。
康一先輩がエコーズで動きを止めようとするが動きが早すぎる、あるいは格闘する仗助先輩と距離が近すぎて上手くいかない。僕はゴールドエクスペリエンスを呼んだ。
カラスのくちばしは正確に億泰先輩の目を狙っていた。根拠はなかったが、僕はそれを直感していた。なぜなら高速で襲いかかってきたカラスはギラつく目をしている。それは人間の目の美味さを知ってしまった獲猛禽のそれだ。
身をかわさねば、目をピンポイントでえぐられることは確実だ。仗助先輩を支援しなくてはならない。
「そんなに欲しいならくれてやるよ!」
足元の石ころをつかみ、空に放り投げる。それが目玉に変貌した瞬間、目の色を変えたカラスが貪りにかかる。うわあ、グロだ......という声は仗助先輩だ。石が喉に出現したのかカラスは悶え苦しみ始める。すかさず康一先輩はエコーズでカラスを地面に沈めた。
「ドラララララララァッ!!」
すかさず仗助先輩がラッシュをかける。カラスは悲鳴をあげてのたうち回る。しかし、体が言うことをきいてくれない。翼が風を切る音が僕の耳に届いた。
「んなっ!?」
「消えただと?!」
「一体どこに......」
「ちい......動けないように書いてやろうと思ったのに間に合わなかったか」
クレイジーダイヤモンドが空を切る。いきなりカラスは消失してしまった。僕は仗助先輩に警戒を僕に任せるようにいう。億泰先輩の失明を早く治してもらわなければならない。
「億泰大丈夫か?」
「ありがとよ、仗助。俺としたことがうっかりしてたぜ」
「仕方ないですよ、カラスの大きさが桁外れすぎます。目測を誤るのも無理はない」
「あれ、ほんとにカラスなのか?動きが明らかにハヤブサやタカのあれなんだが」
「見た目だけならカラスですね。あいつは親鳥だからスタンドも長いこと使っているはずですから、なおのこと賢くなっているのかもしれない」
「カラスがスタンドを学習?聞いただけでゾッとするぜ......。ぜってーろくな使い方されてねーだろ......」
「1人の時に襲われなくてよかった」
「ほんとにな」
雑談など許さないとばかりにさっきのカラスが超低空飛行でかすめて通過した。
「あっぶねぇ......」
「仗助先輩が回復させたと理解したみたいですね」
「まじかよ......」
空中で翼を広げて制動をかけると、カラスは再び僕達を見下ろした。今度は仗助先輩の正面から急襲する。間一髪でかわした仗助先輩は殴りつけようとするがまた透明になってしまった。
「だあああっめんどくせえなちょこまかとッ!どっかの剣みてーな能力しやがってぇ!!」
続いて横殴りに飛来する。僕達はジグザグに駆け出した。カラスは攻撃の手を休めない。走って逃げる僕達に息もつかせず何度も何度も襲いかかってくる。
転がり、飛びさすり、身をかがめ、なんとかかわしてはいるが、ギリギリ危機一髪の連続だ。
「このカラスただもんじゃねーぞ!こっちの動きを見切り出してる! このままじゃあジリ便だ!」
仗助先輩の叫びに僕達は血相を変えた。こんなわけのわからない所でカラスについばまれて死ぬなんて願い下げだ。
「ゴールド・エクスペリエンスッ......生まれろ、新しい生命ッ!!」
僕は叫んだ。
「今回は昼だからな、お前の天敵を呼んでやろうじゃあないか」
僕はハヤブサを作り出し、カラスにけしかける。カラスの威嚇などものともせず、ハヤブサはカラスに襲いかかる。
「なっ!?」
僕は目を見開いた。そこには真っ黒になったカラスがいたからだ。
「色が変わった!」
「なんだなんだ、まだなんかあんのかよ?」
「気をつけて、みんな。なにかくるよ!」
「カラスのクセにいくつもスタンドがつかえるなんて卑怯じゃあないのか?」
「んなこといってもよー、しかたねえんじゃねえのか?」
カラスの鳴き声は変わらない。たださっきのように執拗に目を攻撃してくるパターンから変わったのは、新たなる攻撃手段が確立しているからに違いない。真っ黒になったカラスの挙動を逐一追いながら、僕らは距離をとっていくのだ。
カラスの標的はまず僕が作り上げたハヤブサに向いたようである。するどい爪やくちばしを避けながら、威嚇を繰り返すカラス。ハヤブサが全てを無視して強引に襲いかかろうとした刹那、なにかがカラスから発射された。
ハヤブサの断末魔が響き渡った。
「なんだっ?!」
カラスにも全く同じダメージが反射される。みるみるうちにハヤブサもカラスも片方の翼が溶けていくのがわかる。いや溶けているというよりは壊死しているといった方がいいのかもしれない。どす黒いそれが翼に侵食しているのだ。ハヤブサは重力に逆らいきれず落下する。カラスは辛うじて耐える。耐性があるらしい。
「......これは......」
僕は目を見開いた。
「......腐ってる。壊死どころの話じゃあない。完全に腐っているじゃあないか」
露伴先生たちはギョッとした。黒いカラスが殺意を漲らせながら滑空している。僕達は発射される溶解液の雨から逃げ回るハメになった。
僕達はまた襲いかかってくるであろうこの非常事態に立ち向かうべく、上空に向かって身構えた。溶解液はいつぞやのネズミのひではない。草木はもちろん地面までジュッという嫌な音を立てて石ころや地面が溶け、穴が開く。岩と化している草木まで、被害がではじめているではないか。さすがに主人に歯向かう気は無いようで、サボテンや鉄塔には近づきもしない。
視線の先では、カラスが悠然と旋回をつづけている。獲物をどうやって仕留めるか思案をめぐらす冷静なハンターを気取っているようにも見える。しとめ方は何通りでもあるだろうが、獲物の最終的な運命は死、あるのみだ。考えがまとまったのか、カラスは旋回をやめ、その体が一旦空に沈んだかと思うと次の瞬間、ペ一気に急上昇した。小さな黒い点になるまで舞い上がり、視界から消えてしまった。
「どうしたんだ?興味をなくしたのか?」
「今のうちに逃げようぜ、康一」
「そうだな、それがいいだろう。酸性雨じゃあさすがに対応しきれない」
「......」
いささか調子のよい期待を込めて呟く億泰先輩たちの代わりに僕は警戒を続ける。
「これも届けるんだろ?」
「なにワクワクしながら言ってるんだ、露伴先生......倒しきれてないのに......まあいいか」
「だろう!」
ヘブンズ・ドアーが僕に向かって突撃してくる。今日だけで何回するつもりなんだろうか、この人。栄養失調が疑われるくらい体重を減らされたらシャレにならないのだが。しばらくして、僕は目を覚まし、ツバメに新たなる情報を託して飛ばした。
しばらくの間、何もなくなった空を見上げていたが、気を取り直して周囲をもっと調べてみることにした。とにかく、母屋の鍵が必要だ。取り返すのが先なのだからカラスばかりに気を取られているわけにもいかない。
その時、僕は自分の足元がチカッと揺らいだような気がした。じっと足元を見てみる。自分の影のまわりにボンヤリとした薄い影が広がっている。影というか、光の乱反射のようだ。まるで氷を透かした光の影のような。
僕が身をかがめてもっと良く調べようと口に出そうとしたときである。
露伴先生の叫び声がした。僕らのら頭上に何か気配を感じるのとほぼ同時だった。
「危ないッ!汐華君ッ!」
突き飛ばされていなかったら、今度は巨大な溶解液の塊に潰されていただろう。
「何だ、いったいッ!」
「また来るぞ、今度は真横だ!」
「えッ!」
「また色が変わりやがった!今度は赤色だとッ?!」
宙に跳ねた僕らの体の下を猛スピードで溶解液の塊が突っ切った。着地した僕は、すかさず真正面に敵と向かい合う。
「ジョースターさんが言ってた鳥のスタンド使いみたいな戦い方をするな......やっかいな」
「えっ、マジ?」
「ジョースターさんが言ってました。やつは氷を操ってたらしいが」
「ディオの協力者が余計なことを教えた気がしてならないね」
地上スレスレの超低空飛行で、さきほどの黒からまた赤色に変化したカラスが迫っていた。獰猛に光る照準は仗助先輩に定められている。
「ただのカラスのクセに緻密な作戦で人を襲う......でも軌道までは変えられないみたいだね!エコーズACT3!3FREEZE!」
康一先輩の声と共に溶解液の塊の落下速度が劇的に加速した。地響きを立ててて着地した溶解液は自分の質量と重力、そして溶かしていく性質により沈んでいく。
スタンドにはスタンド。窮地を脱した僕らは安堵の吐息をつく間も惜しく、次なる攻撃にそなえた。カラスはふわりと舞いあがると、それきり近づいてこない。
「僕のACT3の能力見て警戒しているのか......。ああやって、空からスタンドの射程距離を見極めるつもりなのか?」
つくづくあなどれないカラスだ。鳥とは思えないほどの周到さを持った相手のこと、 これ以後、むこうからACT3の射程5m内に都合良く入ってくれることは期待しないほうが良さそうだ。何か別の手を考えなくてはならない。
カラスが高度を上げ出した。大きく弧を描いて、ゆっくりと僕らの届かない高さまで昇ってゆく。その姿は、憎らしいほどに落ち着き払って見える。今度は上にばかり注意を払わず、油断なく周囲にも気を配る。
僕は気づいた。今度のチラつきはひとつだけではない。
足元だけではない。自分のまわりに広がる白い地面、そのあちこちにキラキラと輝く影が次々と現れている。
「露伴先生の予感が当たってしまったみたいだ。急ぎましょう、強酸性雨なんて冗談じゃあない」
「うわあああああああああッ!」
「きやがった!」
「ぎゃあー!」
一瞬、空が溶解液で埋め尽くされている錯覚をする。それほどに大量の塊が、地上目指して落下してくるところだった。
「うわああ何だこの鳥ィーッ!?手加減なしかあああぁぁぁッ!」
「クックレイジーな野郎だッ!ヤベエェェェェーッ!」
情けも容赦もなく、溶解液の大墜落が始まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~ッ!」
次々と地表に衝突する溶解液の塊をこれ以上ない集中力を発揮して的確に避けていく。恐ろしい音と地響きを立てて降り落ちた塊によって、 周りは見る間に埋め尽くされた。
「ゴールド・エクスペリエンスッ」
「助かったぜ、ジョルノ!」
「ありがとう!」
すぐに見るも無残な形になってしまうが、足場を作るのは充分だ。触れたら溶けてしまうからキリがないが逃げるならことたりる。みんなが逃げたことをかくにんして、僕も逃げた。安全な空間に逃げ込みながら、立ち止まるところは立ち止まって落ちてくる塊をやりすごす。
「ど~ってことなかったぜ、見たかコンチクショー」
ぜいぜいいいながら億泰先輩が笑う。残段数がないようだ。落ちてくるのは最後のひとつである。
「さっきのお返しだ!エコーズ、ACT2ッ!!」
ぼよよよおおん、という擬音が地面に貼り付けられる。まるでトランポリンのようだった。自分の質量の分だけ沈みこんだ塊はその分反発して勢いよく発射される。
「いけえええッ!」
特大の溶解液の塊は再び空を舞う。勢いに耐えきれず空中で崩壊し、たくさんの塊となる。それは無秩序に降り注いだ。僕達にも降り注ぐが、それはカラスの方が被弾の危険性が跳ね上がる。体に接触する度にカラスの悲鳴にも似た鳴き声があがり、とけかけの羽が落ちてくる。僕は追撃をすべくその羽根をハヤブサに変えてやった。
「しつけえなあ!」
「まだヤル気なのか......しぶといな」
「くっそー、カラスのくせに!」
満身創痍ながら生きながらえたカラスがまた色を変える。ハヤブサたちが殺されていく。白いカラスは足場がズタズタで逃げる場所が少なくなってきたことを察知したらしい。億泰先輩が舌打ちをする。僕はまた透明になる瞬間から軌道を読むべく目を凝らしたのだが。
「また逃げた!」
「今度はなんだァ?」
「なにか様子がおかしいですね......今まで木に逃げたことは無かっ......んん?」
僕達は目を見張った。カラスのねぐらがぐらついているのだ。みしみしみしという音を立ててその木は途中からポッキリと折れてしまったではないか。折れた木が鉄塔目掛けて落ちていく。ばきい、という音がした。ぶつかったのと同じくらいの強さで反対側に弾き飛ばされていく。これがスーパーフライの威力なのか、恐ろしいことだ。
カラスは悲鳴をあげている。
「空条さん!?」
見晴らしが良くなった鉄塔の向かい側にはカラスの巣と思われる塊を持った空条さんがいるではないか。人質を取られたと悟ったらしいカラスが白に戻り大人しくなる。僕達はそちらに向かう。露伴先生にカラスを大人しくさせてもらうためだ。空条さんの手には鍵がしっかりと握られていた。
ログハウスに入り、僕達はアンテナや鉄塔のスイッチをいれた。電波虫が一斉に舞い上がる。おぞましい数だ。
「......スイッチを入れてしまったのね」
帆波奈帆子は笑うのだ。僕らはギョッとした。本体はあの鉄塔の中だというのに、声がするのだ。この無数の無線を並べたコレクションや無線を使うための機材の部屋から。
「ダメじゃあないの......スイッチを入れてしまったら」
まるでミュージカルの主演女優のように歌うのだ。
「まだ早いわ。だから」
はらり、と彼女の声が落ちてくる。そこには、一礁一と出会う前に海外派遣協力隊として戦地の復興に尽力していた頃の、いつかの帆波奈帆子がいた。傍らには70円くらいで売っているくせに撤去に膨大な費用がかかる不発弾や地雷。僕らの目の前で彼女とわざと爆発させるための機械が不発弾や地雷の上を歩く音がした。
僕はゴールド・エクスペリエンスを起動しようとしたが遅かった。空条さんが時間を止めて窓の外に投げ捨てようとしたが、数が多すぎた。億泰先輩がザ・ハンドで爆発前に削り切ろうとしたが距離がありすぎた。康一先輩が全てを吹き飛ばして距離を取ろうとしたが間に合わなかった。
仗助先輩はなんとかダメージを軽減させようとテーブルを手にしたが甚大な被害がでた。露伴先生が爆弾に爆破しないと記述するには時間が足りず、ひとつどでかいのが爆発して他のやつは吹き飛ばすとかくにもタイムロスがあった。
僕らの視界は爆発により埋め尽くされてしまったのである。
スタンド マグヌムオプス
本体 奇病に感染したカラスの親鳥
破壊力:B
スピード:B
射程距離:D
持続力:C
精密動作性:E
成長性:C
白色→透明になる。黒色→なんでも溶かす液体を発射する。赤色→液体を固体化する。色が変わる事にスタンドの内容が変わるカラス。子供たちをジョルノたちに倒されたことで一度ターゲットと定めた者をターミネーターのようにどこまでも執拗に猛追するようになった。自分がどれだけ負傷しても決して攻撃をやめない意志の強さがある。空条承太郎に巣の雛を人質にとられて敗北。