ドナテロは社王グランドホテルに向かう途中、十台くらいの車を一気に突破する車を見た。目を引くほどの全速力だ、まるきり暴れ出した象のようだった。道路はひどい埃で、前を行く自動車は黄色い土煙の中に隠れてしまって見えない。一塊の黄煙が疾走して行くようだ。
始発はもうとうに終わっている。駅舎もホームも照明がいらないくらい明るい。駅周辺の商店も、住宅も、明かりの漏れている建物は増えていき、町全体が目を覚ますのだ。林や畑は夜の闇そのものみたいに真っ暗、というか真っ黒に映っていた世界が光に追放されていく。そのなかを示す道は細く頼りなく曲がりくねり、やがて山の上まで続いていくのだ。
速いスピードで走り続ける車は、とうに町を出て、山間の地形に沿って曲がりくねる国道をどんどん進んでいく。フロントガラス越しに車内はのぞめない。暗い、先は何も見えない闇があるだけだ。そこを切り裂くように太陽の光が一定の間隔で現れては過ぎていき、林に遮られ、木漏れ日を踏んづけていく。
車が私道に入り、さらに加速する。ギアが変わっていく。車重を支えたタイヤが砂利を踏みながら進み、押しつぶされた砂利同士が擦れあい鈍い音が鳴る。やがて後輪まで車道に出るとその音は止み、真新しいアスファルトとタイヤのたてる静かな摩擦音が時速数十キロの速さでどんどんドナテロから離れていった。
「日本にも朝から物騒な運転するやつがいるんだなァ」
朝食のあとは何をしようかとドナテロは呑気に考えながら帰路に着いた。
彼が物騒と称した車がクラッチをつないで、アクセルに力を入れる。限界域までアクセルを踏み込んでいた。次々にシフトを上げていく。タイヤのまきあげる砂利がぱちぱちと乾いた音を立てた。
昼間でも鬱蒼とした樹々が左右から車道を覆って薄気味が悪い上、どんなにスピードを上げて走ったとしても、まるで懐中電灯を頼りに山道をとぼとぼと歩いているような薄暗さになる。ものともしないで車は進むのだ。
ハロゲンライトの青白い光の中だけにあった山の道である。その光の中に突っ込むようにアクセルを踏み、後輪を滑らせてカーブを曲がる。前方を照らす青白い光塊は、追っても追っても先へ逃げた。
運転に不安は感じない。かなり際どいタイミングで車線を変えるのに、まるで磁石の同極が触れ合わないような、絶対にぶつからないという安心感がある。自動車は、底力のこもった爆音をたてながら、ひた押しに登って行く。そんなに飛ばすと事故るという声は風に紛れて届かないだろう。
その音が近づいてくるにつれ、タイヤと路面の摩擦音がどんどん小さくなり、減速しているのがわかる。
ジョルノたちは身構えた。
フットブレーキを踏むたびに小型のニワトリを絞め殺しているような悲痛な音がする。前につんのめるようにして急ブレーキの音を響かせて急停止する。だんだんしずかになって、いくつかのシグナルがゆるやかに止まる。ディーゼル・エンジンが最後の一息をしぼり出すように排出してしまうと、そのあとには完全な沈黙がやってきた。
がちゃり、とドアが空いた。あと2ヶ月もすれば黒づくめの女達をみた誰もがマトリックスのポスターやワイヤーアクションを思い浮かべただろうが、ジョルノたちが真っ先に思い浮かべたのはメン・イン・ブラックだった。
「随分と早いご到着ですね」
「わかってたことだけどよ~マジではえ~なァ」
「鉄塔やアンテナに電気が通るんだ。山頂で爆発音がしたからな、トラップが発動してログハウス自体が炎上したんだろう。にも関わらず監視カメラだけが停止しているとなれば、駆けつけもする」
「あの女全員帆波奈帆子のスタンドで生み出された偽物なんだよな?本体を捕まえなくちゃあいけないな」
「とりあえず、あの人らをとめねーと俺たちが捕まっちまうけどな!」
「あ、あれが帆波奈帆子さん......」
「どういう意識共有をしているのかはしらないが......そうか。本体同様のスペックがあるなら1人くらい本体と成り代わってやるという気概のあるやつが居ないか期待したんだがいなさそうだな」
「露伴先生のスタンドでやります?」
「再起不能になってるだろうから意味が無いがね。僕は色々と話をしてくれる口さえあればいいんだよ」
「やれやれ......まさかこの町でこれほどの死闘をする羽目になるとは来た時には夢にも思わなかったぜ。だが、これ以上はなしだ」
承太郎のつぶやきにジョルノ達は頷く。
「なあ、車に誰か乗ってねえか?」
億泰の言葉にジョルノ達は弾かれたように顔を上げて注意を向ける。軍隊の行進のように隊列を組んでこちらに向かって一矢乱れぬ動きで歩いてくる帆波奈帆子たちとの距離が縮んでくる。
「───────アイツは!」
ジョルノは目を見張った。忘れもしない、スピードワゴン財団職員に成り済まし、音石からスタンドの矢と5億円相当の金品を横取りして消息不明になっているブラックウォーターパークのスタンド使いだ。
「気をつけてください、みなさん!車の中に奴がいるッ!行方不明だったブラックウォーターパークのッ!!」
複数の球体が上空に出現した時点でジョルノはやつがなにをしようとしているのか察した。最後まで言い終える前に傍らにいたはずの承太郎の気配が消え、数十メートル先に移動している。帆波たちがなにやらかまえたので、億泰がすかさず仕掛けた。
「承太郎さんの邪魔すんじゃあねーぞッ!このダボがァッッ!!」
ザ・バンドによる空間の消失により、彼女たちとの距離が一気に縮まる。交戦するかと思われたその刹那、真っ黒な液体に満たされた黒い球体がジョルノたち、そして帆波奈帆子たちもろとも飲み込んでしまう。
ちら、と振り返った承太郎は、ただちに状況を把握して、殺意にも似た衝動を男に向ける。朝の海風のように胸を吹き抜けるそれを財布のように胸のポケットに隠しながら、切羽詰まったなにもかもが爆発的な殺意に変わるのを緩やかに自覚していた。終りなき鬼気の始まりである。
承太郎の目には明確な殺意がある。やっと正体を現しやがったな、と承太郎は口火を切る。
「どうやってアメリカギャングからスタンドを剥ぎ取ったのかは知らねーが......昏睡状態でろくに事情聴取も出来ねえんだ。てめーにそのスタンドをくれてやったやつについて、じっくり話を聞かせてもらおうじゃあねえか」
男はなにも言わない。不敵に笑うだけである。承太郎は静かに緑の瞳を細めた。
「本能で感じるほど近くにいちゃいけない人間ってのは久しぶりだ。一緒にいると、性根がべとべとにくさってしまいそうだからな。特にテメーのような、心のなかでは何時でも気紛れな殺人を考えていて、赤の他人にそれを代行させて満足する反吐が出るようなヤローはなッ!!」
承太郎の傍らにスタープラチナが出現する。
「なるほど......テメーをぶっ飛ばせば仗助達を助けられるってわけか......実に単純でわかりやすい。助かるぜ、手加減できそうもないし、ドナテロのおかげで手加減する必要もなくなったからなッ!!」
承太郎は殺意だとか憎みだとかいうものは、生活に暇があって感情を反芻する贅沢者たちの取付いている感情だと知って10年になる。忙しい人間は横着にも感情さえ一過性で、収支決算をつけて、決して掛勘定にしない。感情さえ現金キャッシュ払いだ。いつだって現実から現実へ飛び移って行くものだが、殺意だとか、憎みだとかいうものは、感情に前後の関係を考える上で大切なものだ。
今、この男は空条承太郎を怒らせた。戦う理由などそれくらいシンプルでいいのである。
(何かあるのか……?)
ジョルノが遠くを見ようとした時殺気が走った。
「ゴールド・エクスペリエンス!」
間一髪だった。ジョルノは背後からの一撃を受け止めた。襲撃者は闇に紛れて攻撃してきたのだ。気を取られた一瞬を狙っての不意打ちである。
「無駄ァ!」
ゴールド・エクスペリエンスで受け止めた、背後から首筋を狙った敵の手刀を振り返りざまにグイッと引っ張る。バランスを崩して前方へとつんのめる襲撃者に向かって一歩踏み込み、その腹をスタンドの拳でブチ抜いた。
妙な違和感を覚えてジョルノは眉を寄せた。ゴールド・エクスペリエンスの一撃は命中したが、おかしな手ごたえにジョルノは戸惑った。そして気がつくのだ。2度目となる太陽から追放された世界にて、ジョルノと巻き込まれたはずの女ではないということに。
「な……に?......なんだこれは......」
そう、襲撃者はボクシングで使われるサンドバッグだった。そして、腹を貫通したゴールド・エクスペリエンスの腕は、腹をブチ抜いたのではなかった。サンドバッグがゴールド・エクスペリエンスの腕を腹を通して固定したのだ。
「マズイッ!抜けないッ!」
ゴールド・エクスペリエンスがサンドバッグごと振り抜き、ニ撃目の攻撃にぶち当てる。サンドバッグが物凄い音をたてて切断され、ゴールド・エクスペリエンスの首元に鋭利な刃先がチラついた。
「なるほど......スタンドで戦えないから、手段は別にあるってわけですか。ドナテロにも言うべきだな、無防備になるならスタンドより本体が強い方がいいに決まっている」
刃物があるなら分が悪い、距離を取らなければ。だがジョルノは安堵した。もし相手が実戦経験が皆無な癖に百戦錬磨の投げナイフの名手とかいう意味のわからない性能をもっていたら、いつものようにジョルノの腹にナイフの二三本はふかぶかと突き刺さっているからだ。
4大毒蛇の実験体の報復はなかなかに過激だったことを思い出す。ゴールド・エクスペリエンスですぐさま無力化できるとはいえ、仗助とは違って治療に時間がかかるジョルノは内蔵までぐちゃぐちゃにされたらさすがにキツイ。
ジョルノは前を見すえた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アアアッ!!」
ゴールド・エクスペリエンスが蹴りを放つ。連蹴りだ。飛びあがって両足でめちゃくちゃに真っ暗闇で輪郭しかわからない正体不明の相手を蹴りつけ、サンドバッグを押し付ける。強引に腕を引き抜く。そして引きぬいた勢いでそのまま後ろへ跳ね飛び、敵の射程から脱出する。
ジョルノは慎重に体勢を整え直す。出来ることなど限られている。スタンドである写真を実体化できる能力が不発になるまで完膚なきまでに本体を叩くのみだ。
ゴールド・エクスペリエンスが両の拳を構えた。
「なかなか我慢強いですね。これでもパワーはそれなりに上がったつもりなんだけどな......。いや、違うか。何か着込んでますね、あなた」
だからといってブチ抜いて穴の開いていた腹がノーダメージなわけがないが普通の攻撃は通用しないのは間違いない。なにかトリックがあるに違いない。まずはそのナイフが邪魔だ。
ゴールド・エクスペリエンスの拳が黄金色のエネルギーを宿して本体に殺到する。ジョルノが狙っているのは、その刃物を蔦に変えることだ。内側から絡めとるのだ。
「───────ッ!?」
ゴールド・エクスペリエンスの拳から破裂音がした。フィードバックはすぐにジョルノにもたらされる。放たれるはずだった生命エネルギーは奇妙にねじまげられ、まったく別のものを生み出した。頭の片隅で光源を求めているジョルノのために蛍があたりにブワッと舞い始めた。ゆっくりと太陽が追放された世界は温度がさがっていくため、ホタルはただちに死んでしまうが一瞬の煌めきが両者を照らした。ジョルノもさすがにたじろいだ。
「......そうか、アンタたち岩人間は体を硬質化出来るんだったな......」
それはナイフではなく、手刀だった。恐ろしく硬質化している、人間の手だったのだ。
「ゴールド・エクスペリエンス!」
再び拳をふるう。
ジョルノはこの状況を理解しようと必死で騒ぐ心を落ち着かせようとした。だが敵は待たない。その鋭いきっ先をジョルノ目掛けて振りかぶる。
「防御しろッ!ゴールド・エクスペリエンス!」
ひっくり返したトマト・ジュースのようにまっかな血が吹き出す。
「......頭じゃあ......ないだと......?なんだって......腕を潰したんです......?」
「もって数分でしょう?」
初めてオンナは口を開いた。
「あなたが一番厄介なのよ、汐華初流乃君。吉良くんにはあなたの生体探知からして、1番厄介だと言われているから。悪く思わないでね、優秀すぎるのよ、あなたの索敵能力はね。吉良くんの私物すら優秀な探偵になるんですもの。だから、潰すなら念入りにね」
「無駄ァ!」
女が鉄拳を発動する暇もなく、ゴールド・エクスペリエンスの右足が女の左脇腹に突き刺さる。ジョルノの情け容赦のない一面が、その蹴りの重みに如実に現れていた。
「ぐうッ!かハッ!」
ゴールド・エクスペリエンスの全体重を乗せた前蹴りを喰らい、真っ黒な山道に蹴り飛ばされた。女の口から吐き出された生暖かい鮮血が霧のように漂う。その軌跡を視線で追ったジョルノは、感情を発露させない無表情さで冷たく言い放った。
「今の蹴りで肋骨二本折れただろう……」
ジョルノは倒れている女へ歩み寄る。
「それがどうしたっていうのよ」
帆波奈帆子は脇腹を押さえ、内臓から吐き出された血を吐き捨てて、冷たい瞳の色を湛えて迫るジョルノを睨みつけた。眼光は鋭さを全く失わず、闇に閉ざされた世界においても凛として輝いていた。
「口から血を吐いたってことは、かなりダメージを受けたはずだ。肺に肋骨が刺さってるかも知れないな」
帆波は右手に重量を感じていた。薄闇の下、冷徹な表情で迫る少年の影。そのすぐ後ろに、ただ立っている人影。一瞬の猶予もないことは帆波自身が知っていた。だからこそ素早く行動しなくてはならない。
闇を割くように女の右腕がジョルノを目掛けてしなった。右手の確かな重量は、手斧に変質し、がジョルノを脳天から真っ二つにしようと暴威を振るう。
「グッ......」
「これでスタンドは使えないわね」
「そんなことをしても……」
ジョルノは眉一つ動かさずに女の攻撃に対処した。ゴールド・エクスペリエンスはジョルノから数メートルはなれた位置から出現し、無造作に蹴りを放つ。その腕を埃でも払うように簡単に打ち払う。
「無駄ァ!」
音高く弾かれ、見当違いの方向へと吹き飛んだそれだったが、無理やり軌道を変えて殴り掛かる。
「チッ……!」
軌跡を追うこともせず、ジョルノは舌打ちすると使い物にならない手をそのままにかわす。
帆波は長身を床に翻した。ジョルノの脇に飛び込み、柔道の受身の要領で一転する。その身のこなしの流れるような素早さは、脇腹に負った怪我を感じさせない。ジョルノは無言でゴールド・エクスペリエンスを発動させる。ゴールド・エクスペリエンスの右拳が暗闇に潜んだ標的を的確に殴り抜く。
「捕まえたわよ」
暗闇に慣れたジョルノの瞳は大きく見開かれ、ゴールド・エクスペリエンスの動きすら停止する。驚愕の深さが冷静なジョルノの顔にさえ浮かんでいた。
「殴ったのは……僕ッ!?」
ゴールド・エクスペリエンスが殴っていたのは帆波奈帆子ではなくジョルノだった。生命エネルギーによりぶん殴られ、のたうち回っている。ジョルノが凍りついた一瞬を帆波は見逃さなかった。今まで隠し続けていたスタンドを発動させる。
「娘と仲良くしてくれてありがとう、感謝するわ」
「......仗助先輩の時と同じ手ですか......」
監視カメラの映像を撮影したらしい。
「でもね、無断で娘の家に上がり込むのはどうかと思うのよ」
「帆波夏帆からの誘いでも?」
「普通は遠慮するわね」
「もう1人の僕に何をしたんです?」
「無機物に意志を与えることはできないのよ。操作はあくまで私」
「なるほど、フィードバックは互いにないらしい」
「そうね」
ジリジリと二人の距離は詰まり、空気すらもジリジリと音を立てるような緊張が走った。その緊張で帯電したような空気が二人の瞳を照らすのか、互いの動きを手に取るように察知していた。
どちらが先に動いたのか。それは分からない。偽物の腕とジョルノの脚が素早く動いた。ほぼ同時の相打ちだ。全身に何箇所ものダメージを負ったが、それを予見していたジョルノはすぐにゴールド・エクスペリエンスで部品を作ってそれを治療する。時間はかかるが止血くらいならすぐ終わる。痛みを堪え、そのまま偽物にラッシュを浴びせる。
「気分がいいもんじゃあないな、自分で自分を傷つけるってのは......だが、成長しない僕に負けるほど僕は弱くはない」
偽物は膝を突いてその場に崩れ落ちた。全身を包み込むように悪寒が走り、ガクガクと膝が震えて力が入らない。視界は狭窄してまぶたの裏で火花が散る。額には脂汗が滴り落ち、背中には冷や汗が流れる。
「頭痛がする……吐き気もだッ!なにをさせたんだッ!?」
帆波奈帆子の意思がジョルノの声帯でしゃべる。
「あいにく僕のスタンドはタイマンはるスタンドじゃあないんだ。搦手がいる。いつだってな」
偽物は目を見開いた。
「電波虫ってのは、頭に入ると体が言うこときかなくなるのは身をもって体験したが、僕が作ったらどうなるのか、試させてもらった」
偽物とはいえ、普段のジョルノなら避けることも可能だったかも知れないが、今のジョルノは本物と絶望的なまでに経験値が足りなかった。具体的には電波虫に対する経験値が。動揺し、本体も、そしてスタンドさえも普段のキレを失い、精彩を欠く。
「クッ……」
偽物は鈍くなった身体を懸命に動かして立ち上がる。フラフラとしながらも瞳には未だ闘志が燃えている。しかし、その先には帆波奈帆子がいる。
「ゴールド・エクスペリエンスッ!」
偽物が精神力だけでスタンドを発動させた。朦朧とした意識ではスタンドも普段の能力を発揮しきれていない。スピードも遅い拳の乱打がとぶ。拳の乱打を帆波の鉄拳が簡単に弾き返すが、その隙にジョルノは懐に飛び込んだ。
「近づくんじゃないわよ、クソガキが!」
ジョルノは弾き飛ばされた。
帆波の右足が素早く偽物の左足に蹴り下ろされた。その容赦のない蹴りは偽物の足の甲の骨を粉砕するだけの力が込められていた。身体の動きが鈍くなった偽物では、それを避けることはできなかった。ひっくり返り、地に伏せる。
帆波はそれだけでは終わらない。更なるエゲツナイ攻撃が繰り出された。膝蹴りがジョルノにヒットする。男にしか分からない苦しみを受けたジョルノは悶絶した。
ジョルノが急所蹴りを受けて全身の力を脱力させた一瞬をつき、帆波がジョルノを組み敷く。引きずり倒した。うつ伏せに倒したジョルノの脚を固め、後少しでも持ち上げれば折れるところまで捻り上げている。
「ゴールド……」
「そんな鈍くなったスタンドで何をしようっていうの?両手はもうないじゃあないの」
ジョルノがゴールド・エクスペリエンスを出した瞬間、帆波の背後からまがまがしい色をしたスタンドが羽交い絞めにした。スタンドも、そして本体さえも押さえつけられ、ジョルノは最早抵抗することができない。
「一応聞くけれど、降伏する気は?」
「僕を......馬鹿にするな......」
ジョルノの脚の骨は音高く折られた。
「もう一度聞くわ、リタイアする気は?」
「無駄なことを......何度も聞くなッ......」
ジョルノの脚はもぎ取られた。
「勘違い......してるのは......アンタの方だ、帆波奈帆子ッ......」
「なんですって?」
人間の力で腕をもぎ取ることなどできるはずもない。もはや目の前の女は人間ではないのだ。引きちぎってしまったジョルノの片足を捨てて、威圧的に問いかけてくる。ジョルノの意思は揺るがない。
「......たしかに......今......僕はヤバイ。この上なく、やばい。......だが......僕は、この瞬間を、待っていたんだッ......!!」
ジョルノは組み敷かれたまま、たんたんと言葉をつむぐ。
「強がりもたいがいね、流石はDIOの息子ってところかしら」
ジョルノは一笑した。
「......僕が、DIOから継いだものは......僕の明日のために......使うべきものだ......誰のためでもない......僕自身の......これからのためにッ!!ゴールド・エクスペリエンスッ!!!」
帆波がもぎ取ったジョルノの脚が樹木に変化し、帆波の体を一閃した。皮膚がさけ、肉や骨がくだけ、えぐられ、養分となる嫌な音が響き、少しの間を置いて鮮血が迸る。血は、その赤さを更に増していた。ぐしゃり、といやな音がした。口から、目から、耳から、枝が生え、幹となり、内側から破壊されていく。
「消化器官は全て繋がってるんだ。人間と同じ構造をしてる自分を恨むんだな」
帆波はうめき声を上げてジョルノを睨みつけた。その鋭い視線を受けてジョルノは応じる。人間と同じことを恨むわけないじゃあないのよ、と言っている気がした。帆波はそのまま絶命する。ジョルノは息を吐いた。
「まずいな......意識が遠くなってきたぞ......」
見上げても見えるのは、満天の星空だけである。