ジョルノが4部に出るようです   作:アズマケイ

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インスタント0 その4

「ドラァッ!」

 

クレイジー・ダイヤモンドが唸る。咄嗟の防御行動も、拳銃の弾より速い鉄拳の前には紙同然であった。そのパワーを突き破り、つぶてが次々と仗助に襲いかかる。

 

「ドララララララララララララララァーッ!!」

 

ラッシュを浴びせる事で、攻撃を弾こうとした仗助だったが、やはりすべてをさばききれずに、いくつかもらってしまった。

 

「ぐうっ……!」

 

鮮血が迸る。転倒せずにどうにか耐えられたのはさいわいだった。地面に転がった瞬間に首と胴体は二度と会えなくなるだろう。

 

「......?」

 

攻撃が終わると、不自然なことに仗助の周囲は静寂に包まれた。ジョルノが交戦したときの情報とたがわず、相変わらずあたりは薄暗く、そして寒い。女なのにガチガチの肉弾戦をしかけてきたために、犠牲になった山道周辺の木々が散乱している。

 

(なんだよ、なんだよ、やめてくれよなァ~~。なんで攻撃してこねえんだ......。不気味すぎるぜ、こいつはよぉ~~…………)

 

あたりを警戒しながら帆波奈帆子を探す。

 

「うをっ!?」

 

視界不良が気づくのを遅らせた。仗助は吹っ飛ばされ、木々を突き破りつつ地面に転がった。

 

「ぐッ……なかなか効いたぜ、この一撃ッ」

 

どうにか起き上がるものの、全身のダメージは限界に達しようとしている。そんな彼の前に、自信に満ちた影が立ちはだかった。だがものともせずに距離を詰めてくる仗助に、帆波はからかうような笑みを浮かべた。

 

「あら……向かってくるのね…………逃げずに私に近づいてくるのね…………」

 

「……女をぶん殴るってのは、ショージキ嫌なんだけどよォ......んな事言ってたら三途川渡っちまいそうだし......アンタを倒さなきゃあ、出られねーみてーだしィ......それに近づかなきゃあよォー……ブチのめせねーからなぁーッ!」

 

「そう。なら近づいたらいいわ。わたしもその方が楽だもの」

 

「奇遇だな、俺もだぜッ!」

 

二人がほぼ同時に、スタンドの射程距離内に入った。強大なスタンドによる空気が張り裂けんばかりのラッシュの応酬が始まった。

 

「ドララララララララララララララララララララララララララララララララァーッ!!」

 

帆波は冷え冷えとした眼差しのまま、拳が拳を捉え、一進一退の攻防が繰り広げられる。ゲゲゲッと仗助は顔がひきつるのがわかった。

 

(なあにが人間だよ、承太郎さん!生身の人間がスタンド攻撃に対応出来るとかおかしいだろォッ!?やっべえ、あまっちょろいこと考えてたらこっちがダルマにされちまうッ!)

 

永久に続くかと思われた打ち合いも、予想外に早く終わろうとしていた。仗助の息が荒い。いままでの戦いで負ったダメージが響いてきているのだ。

 

「スピードが目に見えて衰えてきているわよ、東方仗助さん。……さっきの威勢はどうしたのかしら?」

 

「くっ……」

 

クレイジー・ダイヤモンドの胸板を貫こうと、帆波一撃が繰り出されたれた。

 

「ドラァッ!」

 

帆波の拳はクレイジー・ダイヤモンドに打ち込まれた一撃に捉えられ……コンクリートのように砕け散った。

 

「ウグゥ……!」

 

バラバラに打ち砕かれ、鮮血が噴き出している右手を押さえつつ帆波はうめいた。クレイジー・ダイヤモンドはスタープラチナのガードを突破しかけた実績がある。負傷しているとはいえ、仗助が純粋なパワー比べで遅れを取るわけがなかった。再び怒涛のラッシュが帆波を襲う。

 

(……いける!)

 

仗助の心にかすかな希望が湧いてきた。仗助は死力を振り絞って、最後のラッシュを叩き込むべく踏み込んだ。帆波は力をふりしぼり、渾身の蹴りを放つ。吹き飛ばされた仗助は瀕死の重傷を負いつつも、なんとか意識だけは保っていた。全身がボロボロになりつつも、なおも向かって突進しようとする。

 

あわれな女に引導を渡すべく、クレイジー・ダイヤモンドが吠えた。

 

「ドララララララララララララララララララララララララララララララララララララララッッッ!!!!」

 

帆波は吹き飛んで木にぶち当たり、ズルズルと崩れ落ちた。

 

「ハアー、ハアー……手間、かけさせやがって……動けはしねーだろうが、死にもしねーハズだぜ……」

 

毒づく仗助に、帆波は失笑した。

 

「優しいのね、あなた」

 

「何も死ぬこたあねー......そー思っただけだよ。深い理由なんか……ねーよ。あんたの話を聞いて、そう思ったんだよ」

 

仗助はいうのだ。

 

「あんたは確かに、悪の側に立ってたかもしんねー。でもあんたには譲れない意地があった。あんたの中で、その病気をどんだけ治したいのかこの戦いでよく分かった……俺だって、そんな立場におかれたら......あれぐらい必死になった事もあるしよ……」

 

クレイジーダイヤモンドで治そうと近づいた仗助に、帆波奈帆子の向ける眼差しは冷たい。

 

「クソッ……ハァ………ハァ……。

ここまでのようね……」

 

息を荒げて、帆波はぼやく。直撃して、骨のいくつかが折れた。既に歩く事すら困難な状態だった。 かろうじて動く手でボロボロのスーツを探り、写真を手にする。手には拳銃が出現した。

 

「おい、おいおいおい、アンタ何するつもりだよッ!」

 

「こうするのよ……ッ!」

 

「冗談だろ?まさか......まだ……やる気かよ?」

 

「別に……。この銃であなたを殺そうと思っていないわよ。 殺すのはわたし。わたし自身……」

 

「はああ~ッ?何だって? それはつまり、自殺ってことかよッ?」

 

「ええ、そうよその通りよ。 もうあなたを殺せない。その体力すら残ってない……。 でもね?わたしはいつだって全てを自分の力だけでこなして来た。誰の力も受けず。それは死ぬ間際だってそう。私は揺るがないッ! 私は最期までやり遂げるッ!」

 

それ故に彼女は死を選ぶ。自ら笑顔で、自分自身に引き金を引く。仗助はやめろと叫んだ。クレイジーダイヤモンドで銃を弾き飛ばそうとした。だが硬質化した手が銃と一体化して離れない。そしてわざと岩にならない顔面目掛けて彼女の拳銃は目から脳天を貫き、そのまま絶命した。

 

仗助は呆然と前を見つめていた。

 

くらやみの世界は、容赦なく仗助の体温を奪っていた。やべーな、こっから出る方法探さなきゃ、と頭は思うが体はピクリとも動かない。仗助は満身創痍だった。骨は至るところ折れているし、血が流れ出ていた。足の先から頭のてっぺんどころか心臓までつめたい。はやくジョルノに直してもらわないといけない。とびきり痛いだろうが。

 

それ以上に仗助は精神的に限界だった。相手の体から血がとびちる嫌な音とかを目の当たりにしてもなお仗助はこの最悪の結末を否定していたが、帆波奈帆子の死体をぼんやりと見つめているうちに全てを受け入れた。

 

受け入れると同時、その場に倒れてしまった。

 

そして黒い空を見て、どのくらいの時間が経ったのだろう。仗助は一度、ふう、と息を吐いてみた。冷たい息は白く凍り、宙に溶けていく。体は芯から冷え、もはや感覚もない。ちょっと横を向くと肌が引きつり、声を出せば肺いっぱいに冷気が満ちた。

 

「……帆波さぁん......」

 

相手は応えない。うつろな瞳は凍りついて、どの空間をさえも見ていない。死が隣にある恐怖と、何ともいえぬ悲しみは、それを体験した人間にしかわからない。これから先一生埋めることのできない距離が死体と東方仗助の間に横たわっていた。

 

「偽物だからってよォ......なにもしぬこたねーだろ......ッ!」

 

理解される必要などないと帆波という女は思っているに違いない。コピー元とすん分たがわぬ人間だというのだから。それを寂しいと思うのは仗助の勝手だが、その勝手を聞き入れてくれる人間はもうどこにもいない。死人に口ナシどころかとうとう無になった。

 

仗助は一度、弱弱しく咳き込んだ。血の混じった唾きが闇に消える。

 

物言わぬ亡骸はゆっくりと風化していく。仗助を感傷にすら浸らせてはくれなかった。‬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックウォーターパークの世界から開放されたとき、1番の瀕死状態はジョルノだった。スタンドパワーが露骨に響いた形である。朦朧とする意識の中でパーツを組み上げ、まだ浮かない顔をしている仗助のクレイジーダイヤモンドで治療してもらった。真っ先に回復したジョルノは、仗助の治療に取り掛かるのである。

 

「麻酔はいります?」

 

「ぜってー嫌だぜ!重ちーから聞いてるんだからなッ!毒蛇なんてゴメンだ」

 

ジョルノは肩を竦めた。

 

「そんなに口が回るなら大丈夫そうですね」

 

聴診器の先を睨みつけている医者のように眉間に深い皺が寄り始める。その皺は刻々と深くなっていく。

 

「あ、そんなにやべーの?」

 

「よく喋れますね、きみ」

 

「いだだだだだだっ!」

 

患者をただの実験材料として扱うような浅はかな医者のような顔をして、ジョルノは無遠慮に仗助の往診をする。自己申告は早々に意味が無いと判断したのか聞く素振りすらない。

 

ジョルノは仗助を必要以上に喜ばせることを決して言わない。後のショックを小さくするためにも、期待を抱かせない。たんたんと行うのだ。クレイジーダイヤモンドと違うのは、治すのではなく、埋めるのだ。だから骨が折れたらそのパーツを作って埋め直す。埋めるために除去作業が必要になる。もちろん麻酔はなしで外科手術しているようなものである。想像を絶する痛みが仗助に襲いかかるのだ。ほかの人たちはクレイジーダイヤモンドかゴールドエクスペリエンスかの2択だが、仗助は初めからゴールドエクスペリエンスしかないのだ。理不尽だが仕方ない。

 

ジョルノがいいかげんだったら骨や臓器が異常をきたして急死したにちがいない。あるいは生命エネルギーにより不思議臓器が何故か稼働することになる。

 

「よかったですね、臓器にダメージはあるが損傷はない」

 

「あんまよくねーけど」

 

ジョルノは骨の下のあたりに手刀のような形に揃えた指先をぐいっとめり込ませる。

 

「いてえって!わざとするな!」

 

手袋すらしない手術に康一たちは直視できないのか痛い痛い痛いと見て見ぬふりをしている。ジョルノは表情ひとつかえない。

 

ジョルノ曰く本当に助けたかったらシンクロしたり、共鳴したりしてはいけないらしい。強烈にただただ同調を求めてくる相手に波長を合わせないようにしないと手元が狂うと。仗助には腹ぺこのときに目の前にごちそうがあっても気にしないようにする、それと同じくらい難しい。 向こうは命がけで望んでいるのだから。エネルギーのすべてをその一時しのぎに注いでくるのだ。そんな性質がクレイジーダイヤモンドを産んだ。

 

仗助とジョルノはスタンスは違えども自分が何をしたいのかを忘れないようにするという共通点がある。その基本に常に意識を合わせる。適当にでも何でも、合わせる。とりこまれないようにする。 自分が手伝おうとしているもののほうに協力体制がないことに時々ものすごく疲れるが、ジョルノは顔に出ないし、仗助は出る。それだけの違いだ。

 

ジョルノは仗助の体に真一文字に分厚い筋肉を引き裂いていった。粉砕している骨や折れている骨を一本一本除去して取り出し、すべてゴールドエクスペリエンスで作り替えては埋め直し、すっかり埋め直してしまう。グロ画像である。直視なんか出来るわけがない。

 

後は糸を使わない縫合をするだけだった。ゴールドエクスペリエンスによる生命エネルギーで満たされた箇所は、自然治癒力を高めるために過剰に投与されている。

 

「ジョルノさ、医者になれよ。名医になれるぜ。特に外科のさ。すげーよな、細けー」

 

「君のスタンドみたいに万能じゃあないだけですよ。無理やり治療の真似ごとをしているだけです。僕のスタンドじゃあ、移植手術が基本ですからね。それにほかの人間に見られでもしたが最後、ブラックジャックになるしかありませんね」

 

「いーじゃん、ブラックジャック。めっちゃ治療費稼げるし。スピードワゴン財団から勧誘来てんだろ?」

 

「誰から聞いたんですか、まったく......。どのみち学校に行かなくてはならないんだから、僕はまだ働く気はありませんよ」

 

はい、おしまいです、とジョルノは立ち上がった。すると露伴の焦った声が聞こえてくるではないか。

 

「吉良吉影の姿があるッ!いそげ、急ぐんだッ!承太郎さんはまだ帰ってこないのか!」

 

「マジかよォ、俺たちまだ治してもらってねーのに!」

 

「万全なのは俺とジョルノだけかよ......いつもより随分早いご帰宅だな、吉良吉影!」

 

「なんて運がいい......偽物連行してる時に帰ってくるなんて」

 

「お、怖気付いたのかよ、ジョルノ」

 

「まさか。ただ空条さんがいないから手間がかかると思っただけですよ」

 

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