同時刻――。
「……そろそろ行ったよな」
正確には何体倒したのか数えていないが、途中から数えるのをやめたぐらいに『復讐の対象』を喰い尽くした後、俺は壁にもたれ掛かっていた。
ここら一帯に『プリティヴィ・マータ』はもういないだろう。
それだけの量のアラガミを喰い殺せたのは戦果として上々だろうが、代価として神機が故障してしまった。盾と銃の間の部分から黒い煙みたいなのが上がっており、一目で故障だと気付いた。
「神機がなくなると何になるんだったかな……」
アラガミ化でもするんだったかな。
自ら復讐の対象であるアラガミの仲間入りをするのは、正直に言って嫌だな。
「もっとヒバリさんとか女性陣と話しておくべきだったかな。悔いが残らないぐらいにさ」
タツミさんみたいに積極的に話し掛けたりするべきだったかなぁ。
昔からいる防衛班や偵察班の皆とは仲良くなれたと実感出来たけど、第一部隊の面子とは完全に仲良くなれたとは言えないんだよな。特に来たばかりのアリサとはまだ距離が離れたままだし。もう少し積極的に交流を測るべきだったのかも知れないな。
過去のことを悔いていると、自身に近付いてくるナニカの足音が耳に入ってくる。
聞くからに巨体な足音だろうから十中八九、アラガミだろう。
そいつは現在では一つしかない教会内部への入口に飛び移り、俺の前に姿を現した。
「ギャオォォォッ!!」
獣の雄叫び。
それを聞いた後の俺の反応は素早かった。見るからに限界を超えているであろう神機を力強く握り締め、自身の敵を睨み付けるように視界に捉える。
教会への本来の入口は瓦礫で塞がれているので、唯一脱出出来るとすればその獣が通せんぼしている窓のみ。そこからの脱出しか可能性は見込めないだろう。
(俺はこのまま死ぬ、のか……)
自身に迫りゆく“死”。
それを直に感じてしまった俺は、亡霊のように立ち上がる。どうせ死ぬにしても、このヴァジュラもどきには殺されたくない。俺の復讐したい相手とほとんど変わらない
(……死ねるわけがない。俺はまだやり残したことが大量にあるんだ)
――生き残るためにはどうすればいいか?
そんなの簡単だ。
目前に迫る“死”を殺し尽くせと言っている本能に従う。
「……死ね」
自らに訪れた二度目の絶体絶命のピンチ。それが逆に俺に力を与えた。
復讐のターゲットだけではない。アラガミ自体を根絶やしにするために、目前に迫る“敵意”を向けるアラガミを全て喰らい尽くせと。
飛び掛かってくる黒いヴァジュラを盾でガードした直後、あまりの威力と故障間際だったのがいけなかったのだろう盾がバラバラに砕かれ、辺り一帯に散らばる。
それでも俺は動揺せずに攻撃直後のヴァジュラもどきに攻撃を仕掛け続ける。たった一撃だけではない。何度も何度も、ヴァジュラもどきが倒れそうになるまでするつもりだった。
俺の剣戟はヴァジュラもどきの肉を削ぐまでにしか至らなかった。
今だに鋭利な刀身を持っていたなら一撃一撃が重く鋭かったであろうが、使用し続けて数十体ものアラガミを既に狩っているのだ。切れ味が落ちていても仕方がない。
「はぁぁーーっ!!」
切断出来ないのであれば、突貫すればいい。と脳内で浮かんだ作戦に従順に、神機で突く体勢に移行し、ヴァジュラもどきが反応出来ない速度で突いたと安心した瞬間。事件は起こった。
「えっ?」
右腕が生暖かい感触に包まれている。
普段なら有り得ない感触に動揺した一瞬をアラガミは逃さない。
俺が右腕を視界に入れた瞬間。ヴァジュラもどきは口に含んだ餌を噛み切るために歯を突き立てる。
――俺の右腕と胴体を切断するために。
◇
「がぁぁぁぁーーっ!!」
自身を蝕む激痛という名の感情が、俺を苦しめる。そして、神機ごと食われてしまったことで、俺はもう抗うことすら出来ないのだと知らしめられている。そう考えると更に俺は苦しんだ。
――右腕が、神機がない。
目の前に迫るアラガミを殺す手段が何もない。
俺は死を待つしか出来ない餌なのだという現状が、何よりも辛い。
(せっかく、こいつらに抗う力を手に入れたっていうのに……)
一歩一歩と慎重に、餌へと近付くヴァジュラもどき。
(なのに、力を得たばかりの俺から、また力を根刮ぎ奪っていきやがるのか。こいつらは……)
口を大きく開いて、俺を食らおうとしたその時――。
「ギィ、グッ、グィィアァァァァ………」
耳をつんざくような悲鳴が教会に響き渡る。
それと同時に左腕がさっきと似たような生暖かい感触に包まれたが、俺は確かに握り締めた。アラガミに対抗出来る唯一の武器を。
咄嗟に上体を逸らし、左腕だけを口の中へ突っ込み即座に神機を探し出し体内からアラガミに突き立てるなんて作戦、よく考えたと自分を褒めたい気分だ。
(……俺から力を削ぐ? 冗談じゃない)
体内に突き刺さる原因を吐き出したヴァジュラもどきの行動によって、俺の左腕と神機は無事だが、腕輪のない左腕で神機を掴んでいることが原因で、アラガミの偏食因子が俺の左腕を蝕む。
偏食因子に対抗出来るのは偏食因子と判断し作り上げた神機の性質が、今は人間の俺を苦しめるなんてな。
……アラガミ化なんて勝手にすればいい。
俺は自身に迫る“死”を全て払い除け、復讐を完遂するだけのことだ。
(俺には目標がある)
怒ったように俺へ突出してくるヴァジュラもどきを跳ぶことで回避し、垂直に剣を構え、急降下する。
(お前らアラガミを全部、駆逐してやる)
ヴァジュラもどきに決定的なダメージを与えることには成功したが、あいつはダメージがピークに達している事態に気付き、嵐のように消え去った。
それを見届けた後――。
緊張の糸が切れたように俺の体も地面に伏せる。
(……逃げた、のか)
まぁ、いい。よくわからないアラガミを撤退に追い込んだだけでも結果としてはいい感じだ。
(少し寝ようかな)
緊張の糸が切れてしまったが故に、意識が段々と遠くなっていく俺。
あわよくば救護班のメンバーが俺を助けに来てくれると嬉しいなと思いながら、俺は意識を失った。
――ミッション名『蒼穹の月』にて、第一部隊所属『鳴神ハヤト』は忽然と姿を消した。
戦闘を行ったであろう場所では、見るも無惨な光景が繰り広がっており、生きていると保証出来るものは何一つ残されていない。
その光景を目の当たりにしたリンドウ、サクヤ、ソーマの三名は、バラバラに砕かれた神機の一部、夥しい量の血が付着している地面を視界に入れてしまい心底悔しそうな表情を浮かべた。