『鳴神ハヤト』が姿を消し、現場の状況からして戦死したと判断されてから数週間後――。
「…………」
アナグラ内部はまるで毎日が葬式と言わんばかりに暗かった。何よりも神機使い一人一人が漂わせる雰囲気が暗く、それが顕著に出ているのが現場に復帰したばかりのアリサとコウタだ。二人は新人で、その現場にいたからこそ責任を負っていた。
「……てめぇ、いつまで被害者面してやがんだよ!」
その光景を数日も見ていたシュンがアリサに向かって歩きながら、怒声を浴びせる。
いち早く異変を察知したタツミとブレンダンによって、暴力的な接触は回避されたが、今にもシュンはアリサに殴りかかりそうな雰囲気を漂わせていた。
「悲劇のお姫様面してんじゃねぇよ。いつもの高飛車な態度はどうしたよ」
「あっ……」
「お前が……お前のせいで、ハヤトが……」
何度か喧嘩になったことがあったが、シュンにとってハヤトは友人だった。
最初は新型だっていうのを知って、シュンは彼の才能に嫉妬し何度も突っかかったが、彼は何も文句は言わずただシュンに合わせるように喧嘩を行っていただけ。本当の暴力には至らなかった。だからこそ、彼らを取り巻く人間は笑い合っていた。シュンもハヤトも楽しそうに笑い合っていたのだ。
なのに……あのやり取りはもう出来ない。
自分からその楽しさを奪ったのは、新型で偉そうに振舞っていた新入り。そいつのせいで全てが無茶苦茶にされた。それがシュンの胸中をグチャグチャにした。
「シュンっ! 今、それを言っても意味がない。泣き言言ってもハヤトは戻って来ないんだよ」
「わかってる……。わかってるけどよ」
タツミの一言を受けても尚、シュンは現場にいた人間に対して非難の言葉を抑えきれない。
その場にいるタツミやブレンダン、カノンやジーナにカレンとヒバリも同じだ。けれども、タツミは防衛班のリーダーとして泣き言を言っている場合じゃないと自分を律し、ブレンダンやカレンも寂しさと悔しさを胸に留まらせ、カノンやジーナにヒバリは目尻に涙を溜めながらも今出来ることを頑張ろうとしている。
「……くっそーーーっ!!」
何よりも虚しいのは、自身が何も出来なかったこと。
許可が降りなくて、直ぐに助けに行くことが不可能だったことに対して、シュンは嘆いた。これがハヤトだったならば、命令に背いてまでも助けに行ったのだろうなと思えば思うほど、それが鋭い刃と化して無力な自分に突き刺さる。
シュンの言葉を一人、遠く離れた場所で聞いていた青年はぐっと拳を握り締め、研究所へと向かった。
「榊のおっさん。ハヤトが生きている可能性は?」
「正直に言って五十パーセントぐらいだね。神機の一部分が見つかっただけじゃ本当に戦死とは思えない。これでもし腕輪と神機が見つかってしまえば、七十パーセントに跳ね上がるけど」
「十分だ」
自分の無力さを嘆くのは、あの時に済ましたと言わんばかりに堂々と研究所を出たソーマの胸中にある思いは一つだけ。
――ハヤトは絶対に生きている。
人一倍努力家で、誰よりも成長速度が早く、たった数週間でオレらと同等の力を手にしたあいつなら絶対に生きていると考えたソーマは、早くあいつを見つけてやろうと今日もまた、アナグラを飛び出していった。
同時刻――。
ソーマと同じく動き出したひと組がいた。
「……サクヤ。俺の話を聞いてくれ。おそらくハヤトがいなくなったあのミッションでの狙いは俺を殺すことだ」
「えっ……? なんでリンドウを」
「……それはまだ言えない。けど、遠からず俺も動き出す。だから、お前は俺を信頼して欲しい。俺の身に何が起きても動揺せずに皆を纏めてくれ」
「わかったわ。まだ、何が起きてるのかきちんと把握は出来てないけど」
誰の目にも届かないぐらい遠いエリアにて、これからの予定を話すリンドウとサクヤの二名。
ハヤトは戦死したと言われているのに、死んだと言わない二人も内心では絶対に生きていると考えており、過去のことを悔やんでも仕方ないと未来を見通すことにしたのだ。
彼らが動き出す時こそが、勝負の刻――。
彼らの前に現れたアラガミがいたが、見事な連携によってロクな抵抗も出来ずに食い殺されたのは余談である。