GOD EATER ―深紅の復讐者―   作:片桐 奏斗

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第8話 不安の種

 

 

「おっ、やっと来たな。ハヤト!」

 

 

 序盤はツバキさんによる説教だけに済んでいたのだが、その全貌がリンドウさんとアリサ以外の第一部隊に知れ渡り、サクヤさんにも叱られた。

 ソーマは俺と同じような日常を送っているくせにお叱りを受ける事がないのに、俺は何故か怒られる。今までは敬意を持って「さん」付けで呼んでいたけれども、二人に怒られている俺と類似している生活を送っているもう一人の問題児には何一つとして言われていない。それがとても腹立たしくて、呼び捨てで呼ぶようにした。

 子供っぽい。と言われればそれだけだが、行動が制限される俺の身にもなって欲しい。

 

 そんな風に生活を改めるように注意を受けた後日。

 新人教育の名実を得ているリンドウさんと新人のアリサを除いた第一部隊はエントランスロビーに集まっていた。

 

「あれ、リンドウさんとアリサは?」

「二人は別メニューよ」

「そう。んで、残るオレらでヴァジュラってやつの討伐だ」

 

 ヴァジュラか――。

 言っちゃいけないかも知れないけれども、そいつの禁忌種との戦いを先日行ったばかりだからな。むしろ、圧倒してしまう可能性すらあるな。

 

「まぁ、オレらなら楽勝っしょ! な、ハヤト!」

「あ、あぁ、そうだな」

「こら、慢心するのはダメよ」

「……そういう奴から死んでいくからな。この糞ったれな世界では」

 

 ムードメーカーではあるが、基本的に楽観的な思考回路を持つコウタ。彼の発言には周りの人を元気付ける力がある。自然と明るくなる。天性のムードメーカーとは彼の事を言うのだろう。そんな彼の言葉を聞いて、サクヤさんは昨日の俺にやった注意のように厳しい言葉を発し、ソーマも俺達を仲間と認識してるのだろう先輩らしい台詞を言っていた。

 

 だが、何故だろう。

 今回のミッションはコウタが言うように楽勝な気がしてならない。サクヤさんやソーマも先輩として調子に乗る後輩を叱っているように見えるが、本心では少し気楽と感じているはず。

 彼女達が俺一人でヴァジュラの禁忌種であるプリティヴィ・マータと戦い喰い殺したのは認知しており、実力があるとわかっている。

 コウタがまだ新人の枠組みに入る奴だったとしても、熟練者は三人いる。

 決して慢心ではない。けれども、安心感はある。

 俺が例え敵の攻撃に直撃しても、サクヤさんのフォローやソーマが庇ってくれると信じてるから。だからこそ、俺は安心だと思える。

 

 

 

(なのにだ……。どうして、こんなにも胸騒ぎがする) 

 

 

 

 俺の疲れは説教に始まり半日を休息に当てた事により完全になくなっている。

 心配の種は俺自身ではなくて、他の人にあるのか?

 他に心配な奴は第一部隊には誰一人としていない。むしろ、何日間も連続でミッションに行き、ある程度の疲れを残していたのは俺ぐらいなんじゃないだろうか。そんなにも、昨日はミッションに出掛ける人は少なかった。

 第一部隊に所属していてミッションに行った人なんて、俺と、数時間前にアナグラを出発していたリンドウさんぐらいしかいない。

 ――昨日。俺と同じように一人で何処かへ行くリンドウさんの姿を見かけたんだよな。おそらくそれが何だったのか俺にはわかる。俺らにはなくて、リンドウさんにはあるもの。彼は『第一部隊』であり『隊長』である以上、何らかの仕事を与えられているのだろう。それも、かなり上の人の命令で。

 

 

(もしかして、俺はそれが引っ掛かってるのか?)

 

 

 リンドウさんの疲れはほとんど残っていないはずなんだ。帰りが遅かった俺よりも早くにアナグラへと帰還し、充分に休息を行っているはずだ。

 

「……大丈夫、だよな」

 

 不意に呟いた言葉は誰の耳にも届かず、俺の心を揺さぶっただけに終わり虚空へと消えた。

 

 

 

(もう、俺は何も失いたくない。俺の手の届く範囲では誰も死なせないんだ)

 

 

 

 一抹の不安を抱えたまま俺らは出撃する。

 任務自体は簡単で、達成することが確定しているような勝ち戦に出向くために。

 行きのヘリの中で俺らは短く雑な会議ではあったが作戦を練っていた。いくら俺らが強かろうと慢心は死を呼ぶ。万全の状態で挑めるようにな。

 作戦会議を行ったとはいえ、俺らが決めたのは立ち回りに関してだけだ。残りは第一部隊の全員の脳裏に刻み込まれているであろう作戦パターンの最終確認だけだ。普段から素っ気ないソーマも『エリック』を目前で失ったあの惨劇を繰り返したくはないのだろう第一部隊の隊員を守りながら作戦を遂行するために作戦と号令パターンはすべて覚えてくれた。

 

 

「……実際のところ、あれだよな。不謹慎かも知れないけど、リンドウさんよりハヤトの方が隊長っぽいよな」

「こら、コウタ。リンドウはリンドウなりに頑張ってるでしょ。まぁ、指示とか作戦を立てる最中の姿を見ればその意見は尤もだけど」

 

 リンドウさんと初任務へ行く時に言われた言葉は今でも心に残ってる。

 あの人は新人と一緒に行った場合、同じことを言うからな。「命令は三つだ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ」ってな。最初に言われた時は唖然としていたが、今だったら三つって数字はどこからきたんですか四つじゃないですか。とツッコミを入れられる気がする。

 

「……こいつはリンドウを含め多くの連中が認めてるからな。直に隊長に成れるだろ」

「あ、そこは俺も認めてるとは言わないんだな。ソーマ」

 

 気になった点を指摘するとソーマは柄にもねぇこと言っちまったな。と俯いて会話に参加する気を失っていた。

 俺は第一部隊の人達を始め、色々な人から認められているのか。それは普通に嬉しいかな。実績を認められ、実力を褒められるのは素直に嬉しい。

 

「……さて、と」

 

 嬉しいけども、いつまでも嬉しさに囚われていてはいけない。

 

「そろそろ行きますか。虎狩りに」

 

 

 リンドウさんとアリサを除く第一部隊のメンバーは各々の神機を手に取り、目的地へ足を踏み出す準備をする。

 サクヤさんとコウタの遠距離専門の神機使いは『オラクル』を回復するアイテムの個数を確認したりしていた。最悪、錠剤が切れても俺が持って来た奴を渡すだけなんだけどね。

 

 

 

 ――出来れば、俺の杞憂であってくれますように。と願いを込め、俺らは今、任務の達成すべく大地に足をつける。

 

 

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