私は早朝からある人のお見舞いに来ていた。
「金城先輩……」
私が怪我をさせてしまった人だ。
故意ではないし、不幸な事故だとは言え、私がやってしまった事だ。
それを謝らないのは違うし、人としてダメな事だ。
そう思うし、そう思いたい。
それに、どうしても思い出してしまう。
あの悪夢で見た目を。
あんな目を向けられてしまうのか考えると、いてもたってもいられなかった。
どうしても謝らないとという念に駆られ、私はここで待っていた。
「う、う〜ん」
「き、金城先輩!気が付きました!?」
「え?クロエさん?」
向こうはこちらを確認した途端ビックリした顔になる。
「え?待って今何時?え?まだ7時半じゃない!?いつからそこにいたのよ!?」
「7時から病院の先生に頼んで入らせて貰って…」
「もう、そんな事しなくてもいいのに…今日も学校あるでしょう?」
「はい、あります」
私の返答を聞いた金城さんが溜め息を吐く。
「もう、そんなに気にしなくていいんですよ。確かに、あれは最悪でしたし、痛かったですし、正直言ってまだちゃんと許せませんけど」
「うっ」
「故意でない事は分かってます、それに私はこんな事もありえると承知して戦車道をしていますから、あなたを執拗に責めるつもりはありません」
「…」
「それに、あなたがこんな朝早くから来て、そんな泣きそうな顔で私を心配してくれているというだけでなんだか怒っているのもバカらしくなりましたよ、私は後輩をこんな事で泣かせる趣味は有りませんから、それに何処にも後遺症の残るような怪我はありませんから、すぐに動けますよ」
「でも、先輩は高校でも活躍する為に追い込みの時期なのにこんな怪我をさせて…私、どう謝ったら」
「そんなに心配しなくていいわよ、3週間の遅れぐらいすぐに取り戻しますよ」
「でも…」
「あー!!もう!くよくよしない!あなたはあなたの心配だけしてればいいの!あなたは将来を期待されてるエースなんだから!」
「でもやっぱり、ウッ、グズッ…」
私はその言葉で堪えていた涙を押さえられなくなって、決壊した。
ボロボロと涙が流れてくる。
「あーもう、泣き出さないの、泣き出したいのはこっちなのになんであなたが泣き出しちゃうのよもう…」
「ごめんなさあい先輩!本当にごめんなさい!私、私、こんな事しちゃって…!」
「もう、ちょっとこっち来なさいな」
そう言って金城先輩は私を抱き寄せ、抱擁してくれる。
「ごめんなさいごめんなさい、優しくされて、涙が出てきちゃって、でも本当に酷い事したのに、悪いことしたのに…」
「そんなに重く捉えなくても良いってば、あなたの金城先輩は全然元気だった、あなたの心配なんて全然杞憂だった。それでいいでしょう?」
私はそんな言葉と金城先輩の温かさで引っ込まそうとしてる涙を止める事ができなかった。
「あーあー、もう、こんなの初めてよ、どうすればいいの?」
金城先輩は困った顔だけをしながらも、私が泣き止むまで私を抱きしめてくれていた。
◼️
クロエが帰った後、金城は病室の扉を見ながら微笑んでいた。
「だーいぶ、自信家で変な子で、もっとワガママで高飛車な子だと思っていたのにね…」
正直言って、金城の中でクロエの評価は全然高くなかった。
それは今までの生活の中でクロエが付けてきたイメージだ。
「だから、あの子がちゃんと謝まるのももっと難しい事だと思ってたんだけどなぁ〜」
金城はクロエは全く謝ってこないか、イヤイヤ謝ってくるかのどちらかだと思っていた。
だからクロエと簡単には和解できないと思っていたし、怒りをクロエにぶつける気満々だった。
グッスリ眠っているクロエを想像して腹わたが煮えくりかえる程には怒っていた。
「それが拍子抜けだわ…まさか泣いて謝ってくるなんて…」
朝早くに病室にいたことも、飼い主に捨てられて泣きそうな子猫みたいな顔をしていたのも、ちゃんと手土産を用意していたのも、みっとも泣く金城の前で泣いて謝っていたことも、全部予想外だった。
「ふふふ、あの子にもあんなところがあるのね」
けど、金城にはそれが少し面白おかしかった。
いつも、飄々としてるクロエにもあんなところがあって、あんな弱々しい姿をすることに。
「なんだか少し、得した気分ね、怪我したのに」
クロエの新しい性格を知れた事が金城には何故か嬉しかった。
あまり関わり合いも少なかったのに、金城はクロエの事を知れて良かったと思っているのだ。
それは、本当のクロエを知る、数少ない一人になれたからなのかもしれない。
「あの子も、ちゃんと謝れる子だったのね、泣いて謝るのは予想外だけど」
それまでは、微塵もちゃんと謝れる子だとは思っていなかった。
悪いイメージが全てを占めていて、こんなすぐに和解できるなんて考えてもいなかった。
もっと長期戦になると予想していた。
「あの子、ちゃんと頑張れるかな?」
金城はあれだとかなり私の事で引きづりそうだと思った。
クロエを抱きしめてあげた時、かなり震えていたから、純粋に金城はクロエが心配だった。
「まあ、あの子には頼れる仲間がいるし、大丈夫よね」
西住みほや、逸見エリカがクロエの周りにいる。
あの子たちは案外しっかりしてるから、クロエの事はどうにかしてくれるだろうと思う。
「はあ、それよりもあんな事言ったんだから早く怪我治して頑張らないとね、あの子に私は全然大丈夫だってとこ見せて、安心させてあげなくちゃね」
そう言って金城はベットの上で意気込んだ。
「頑張るぞ私ー!えいえいおー!」
金城はベットの上で手を振り上げる。
だいぶ元気が出てきたようだ。
「金城さーん、朝ごはんですよー」
「はーい、ありがとうございます」
まだベットの上にいなければいけないが、金城はスッキリした気分だった。
それに戦車道がしたいという気持ちもふつふつと湧いて来ていた。
「私の分まで、頑張りなさいよ、鉄クロエ」
そう言い、爛々と照りつける日差しに目を細めながらも、窓の外へ微笑んだのだった。
今日の空は、澄み切った青空だった。
え?ちょっと上げただけだよ?
読者置いてけぼりスタイルを忘れないでくれよん?