ただ思うがままにー凍結ー   作:Etsuki

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随分と空いてすみません。


電波少女と残酷な壁

金城先輩に私のした事を許してもらえた。

そのおかげで私に押しかかっていた何かが軽くなったように思えた。

 暗い気持ちで練習をしなくても良さそうだ。

私はそう思いながら練習場に足を運んだ。

 

◼️

 

「あ、クロエさん」

 

みほが私を見つけるとこちらに駆け寄ってくる。

 

「どうしたんですか?今朝は食堂にいませんでしたけど?」

「ああ、うん、ごめん、ちょっと用事があったんだ」

「用事…」

「みほが気にする程のことじゃないから心配しなくても良いよ」

「…なら良いんですけど」

 

 なんだがみほに気をつかわせていたみたいだ。そんなに心配かけちゃったかな…

 ここは元気だというとこを見せてあげなくちゃ。

 

「みほ、私は今日も絶好調だから!ちょっと戦車貸して?的のど真ん中、ぶち抜いてあげるから!」

「いいですけど、あまり無理はしないでくださいよ、クロエさん」

「大丈夫だって」

 

 私はそういいながら戦車に乗り込んだ。

 

 戦車は都合よく的を狙える場所にある。

 この距離なら私がいつも練習しているのと同じぐらいの距離だ。

 外すことはない。

 

 私は照準機に顔を近づける。

 距離は近い。レティクルと睨めっこしなくても感で狙える。

 

 角度調整、軸も合ってる。

 

 後は引き金を引くだけ。

 

 私は深呼吸をした。

 

 なんでか分からないけど、手が震える。

 汗も酷い。

 でも私は世界を経験したんじゃないのか?

 何を今更怖気ついているんだ。

 

 もう一度息を深く吸う、吐く。

 目を見開く。

 しっかりと操縦桿を握りしめる。

 

 リラックスし方がいいんだけど、どうしても力んでしまう。

 いや、頭の中でごちゃごちゃ考えるのはやめよう。

 

 集中を高めていく。

 

 …今!

 

 引き金を引いた。

 

 ドンッ!

 

 そんな音が響いたと共に的のど真ん中が撃ち抜かれる。

 

 ふうっ…

 

 自然とそんなため息が溢れでた。

 

「どう!みほ!私は絶好調でしょ!」

 

 キューポラから体を出しみほにピースする。

 みほはちょっと困ったような顔をして答えてくれる。

 

「クロエさん、絶好調ですね!」

 

 

 ◼️

 

 

「ふーん、で、今からなんの練習?」

「実戦では滅多にありませんけど、1on1の練習です」

「タイマンか〜」

 

 車長の判断能力、各員の技術力、いろいろなものが鍛えられる練習だ。

 

「オッケ、じゃあ先準備しとくよ、早速始めるでしょ?」

「はい、すぐに練習に入ります」

「やっぱね〜」

 

 私はそう言って戦車の中に入り、砲手用のシートに滑り込む。

 次に操縦桿を握りしめた。

 手の震えは無くなっていた。

 

 

 ◼️

 

 

 覗き窓から流れる景色が見える。

 みほは風で髪が乱れるのも気にせずキューポラから上半身を出し、索敵をしている。

 

 戦車は全速力で前進している。

 

 慣れ親しんだ練習場だ。

 みほは頭の中に地形図がインプットされている、敵車両がどこにいるのか検討が付いているのだろう。

 みほの指示には迷いがない。

 

 おかげで闘いやすくて助かるが。

 

「そろそろ敵車両と遭遇する位置に入ります、こちらから先手をうちたいので、見つからないように立ち回ります。クロエさん」

「分かってる、外さないよ」

「お願いしますね」

 

 戦車が林に入り、木陰に身を潜めた。

 私は照準機に敵車両が映り込めばすぐ撃てるように引き金に指を添えた。

 

「敵車両発見しました」

 

 その声と共に覗き窓からこちらも敵車両を認識する。

 照準機からも敵車両を確認した。

 狙いを定め、引き金を引いた。

 

 ドンッ!

 

 戦車砲から放たれた砲弾は敵戦車から右にズレ、地面に着弾した。

 

「戦車後退してください。方向はバレましたが詳細位置まではバレていないはずです、もう一度相手の不意を付きます」

 

 戦車は木陰の中に身を隠し、突き進んでいく。

 

 初弾を外してしまった。

 初弾は私は結構外しやすいのだが、外した次の弾は結構当てられる。

 みほもそれを分かっており、カバーしてくれる立ち回りをしている。

 

 次は外さない。

 

 すぐに戦車が次の砲撃ポイントに到着する。

 

 狙いを定め、撃った。

 

 砲弾は次は左に逸れて外れてしまった。

 

「えっ…」

 

 それは誰の声だったのか分からない。

 けど、私はその時声がでない程に驚嘆していた。

 

 私が外してしまったことに、誰よりも私が驚いていた。

 

 なんで?的を狙った時は全然当たったのに、むしろ今日は好調と言ってもいいぐらいなのに、なんで?

 

「クロエ!何やってんの!?」

 

 装填者の子が私を怒鳴ってくる。

 みほは外してしまったことに執着するのではなく、次にどう動くのがベストかということに思考がシフトしていて、私のことは気にせず操縦者の子に指示を出している。

 

「次は外さないでよ?」

 

 装填者の子が弾を装填しながら言う。

 

 分かってる、次は外さない、外したくない。

 

 焦りが私の思考を支配していく。

 冷静さを奪っていく。

 

 戦車は真っ直ぐに走り出す。

 これ以上隠れながらの戦闘は無理だと判断したのだろう。

 

「クロエさん、落ち着いてください、冷静に狙えば当たりますから」

 

 みほが冷静になれと声を掛けてくる。

 

 分かってる、私が狙うんだ、冷静に撃って当たらないはずがない。

 

 思い出せ、日々の練習を、数々の的を撃ち抜いてきたことを、思い出せ。

 

 戦車が敵戦車に接近する。

 

 敵戦車が砲弾を撃ってきた。

 しかし、みほの指示と操縦者の腕のおかげで敵の砲弾を回避する。

 

 すぐに狙いを定め、引き金を引いた。

 瞬間、腕が跳ね上がった。

 

「なっ!」

 

 砲弾は狙いを外れ、地面を穿った。

 

「クロエ!何してるの!真剣にやりなさいよ!」

「やってるよ!」

 

 装填者の子がまたこちらを叱り付けてくる。

 けど、そんなの構ってられない。

 今、おかしかった。私の腕がおかしかった。

 

 私の意思に関係なく、腕が跳ね上がった。

 まるで別の生き物のように。

 腕が私とは別に意識を持っているように。

 

 それがなんなのか、一体原因はなんなのか分からないままだが、撃ち合いは続いている。終わってはくれない。

 

 みほの指示により戦車はさらに敵に接近していく。

 ど素人が撃っても当たるぐらいまで接近するつもりなのだろう。

 

 ここで、みほが私の腕に頼らない戦法を取ったことがとても腹ただしかった。

 そして、全く当てられない私自身にとんでもなく腹が立った。

 

「クソッ!」

 

 腕を鉄の壁に思いっきり叩きつけ、操縦桿を乱暴に掴む。

 もう私の腕なんて関係ないぐらいに接近するだろうから、後は引き金を引くだけだ。

 

 戦車は敵車両に接近し、攻撃を仕掛ける。

 敵の砲撃をフェイントを織り混ぜ回避し、横っ腹をとる。

 

 後は撃つだけ。

 

 戦車が敵戦車の真横を通り砲口が敵戦車の側面を捉えたと同時に、引き金を引いた。

 

 刹那、私の腕が跳ねた。

 

 さっきと同じだ。私の意思とは全く関係ない、まるで腕だけが私とは別の生物になったような感覚。

 

「なんで…!?」

 

 私の腕が跳ねたせいで狙いが逸れた。

 敵の湾曲装甲に砲弾が弾かれる。

 

「なっ!クロエあんたっ!!」

 

 装填者の驚いた声が聞こえる。

 戦車全体に動揺がはしる。

 

 そして、これを外すのはみほですら予想外だったらしい。

 みほの指示出しが遅れた。

 

 そして、相手はそんな隙を見逃してくれるほどお人好しではない。

 こちらは完全に後ろをとられ、砲塔の旋回も間に合わず、撃ち抜かれた。

 

 私たちの戦車の白旗が上がる。

 

 私は呆然と自身の腕を見た。

 

 なんで、なんで、思い通りに動いてくれないの…

 

 

 不意に、私の顔が誰かに掴まれ、横を向かされた。

 そして、頬に鋭い痛みが奔った。

 

「なにしてるのよクロエ!!そんなワザと負けるような試合をして!ふざけてるの!!」

 

 私はただ装填手の子を呆然と見ることしかできない。

 

「なんとか言いなさいよ!!」

 

 装填手の子がまた手を振り上げる。

 こちらをキツく睨むと、その手を振り下ろしてきた。

 また、私の頬に熱い痛みが奔る。

 それでも何も言えない私に、怒りが収まらないのか、装填手の子がまた手を振り上げた。

 

「やめてください!」

 

 みほが叫んだ。

 

 装填手の子はみほの方を向く。

 

「でも、みほ!こいつの操作、とんでもないものだった!いつものクロエからは考えらない程に酷かった!ふざけてるとしか思えないだろ!」

「やめてあげてください、調子が悪い日なんて誰にだってあります。今日はたまたま調子が悪かっただけですよ」

「でも!」

「事情があるんです、クロエさんにも。少なくとも、今のクロエさんを見て悪意を持ってあのようにしたと思いますか?」

 

 装填手の子がこちらを見る。

 私は何も考えられない頭でその目を見返すしかない。

 

「悪意は…ないように見える、けど…こんな状態のヤツに私は一緒の戦車に乗って欲しくない」

 

 みほは何も言えず、少し苦しそうな顔をして、次の言葉を待つ。

 

「今日はもうクロエは責めない。でも、謝りたくもない。クロエは自身の操縦ミスをまだ誰にも謝ってない、謝れるようにも見えない。こんな状態が続くんなら、他のチームに行かせて貰うから」

 

 そういうと、装填手の子はみほを押し除け戦車を出ていった。

 

 みほはただそれを見送ると、こちらの方へよってくる。

 

「クロエさん、大丈夫ですか?」

 

 そういって私の顔を除きこむ。

 

「痛くありませんか?」

 

 私のぶたれた頬を心配しているのだろう。

 けど、私はなにも答えられず塞ぎ込むしかない。

 

「すいません、答えづらいですよね」

 

 みほはそういうと操縦士の子に声を掛けて戦車を倉庫へと誘導していく。みんな、私に気を遣っているのか怒っているのか分からないが何も言わずにみほの指示に従っていた。

 

 私はただ悔しくて悔しくて、無力感の後にふつふつと湧いてきたその感情に、ただ涙を流すことしかできなかった。

 

 

 




これが読者置いてけぼりクオリティです。
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