ただ思うがままにー凍結ー   作:Etsuki

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いや〜、もう一つの方が全く進まない、ヤバイなぁ〜。



他人視点

逸見エリカの場合

 

私、逸見エリカは劣等感を感じている。

別に、西住流の後継者に抱いている訳ではない。他の仲間に抱いている訳でもない。あの生意気な泣き虫は別だが。

ただ、あの兄妹に対して私は強い劣等感を抱いていた。

 

昔は何も気にせず、一年に一度会える友達という関係の中で楽しく過ごせていた。あの優しい兄にも、人懐っこい妹にも劣等感なんて全く抱いていなかった。

 

劣等感を抱き始めたのは小学六年生になった頃だろうか?

西住流という頂点を知って、その前にいくつも聳え立つ壁を知った。生半可な努力で超えられない壁は、私の戦車道への印象をジワジワと変えていった。

 

その中で、殆ど知らないけど、一年に一度だけ会える戦車道をしている兄妹のことを思う事もあった。

けど、私は思い知らされた。あの兄妹との才能、天才と凡才との才能の差ってやつを。

 

人懐っこい妹は、砲撃の大会で全国1位の座を何年も独占し続けた。優しい兄は黒森峰の戦車道に入り、その整備の基礎能力を、その技術力を飽きることなく底上げしていった。あの西住流の支配下と言ってもいい黒森峰で自分を貫き通していた。

 

それを知った私は彼らとの差を見せつけられるようで、どれだけ練習に励んでも追いつけない両者の差に現実から目を逸らしたくなった。

 

小学六年生の航空祭の時もそうだ。

あの二人は時航空祭にこなかった。分かってる、彼らは多分ここに来る手段を持っていない。彼らが熊本に引っ越した事は知っている、熊本から北陸は遠いことも知っている。彼らは私みたいに裕福じゃないんだから来れない事なんて分かっている。

でもあの二人は戦車道に忙しくて、毎年会ってたはずの私を放って、自分との差を広げているんだと思うと惨めになった。

 

同じ場所に立っていると思っていた彼らは私の知らないうちに随分遠くまで進んでいる。私はただ勘違いをしていたんだと気付かされた。彼らと同じ道を、いや下手したら彼らより良い環境の中進んできたはずの道なのに、結果は天と地の差だ。

 

だから、戦車道に全力を注いだ。また、あの兄妹の隣に立てるようにと頑張った。

 

大会で結果も残した。戦車の全てを知ろうと猛練習もした。

妹も入るであろう黒森峰にも合格した。彼らの大会も、西住流の大会も、テレビの前で飽きる程見た。

 

けど、いざ彼らと会ってみれば、彼らは余りにも自然体で、まるで私のことなんて気にしていないようで、余りにも腹にきた。私は頑張っている、多くのものを我慢してここに立っている。なのに、なんでこの兄妹はそんな全てのものを得ているような顔でいられるのか分からなかった。

理不尽だとわかっているのに、余りにも腹が立ち過ぎてあの兄を睨んでしまった。

 

それに後日、あの兄はわざわざ航空祭に来れなかった事を謝りにきた。私が兄妹が来れなかった理由なんて分かっていると理解しているはずなのに、律儀にも謝りに来た。

私は知らず知らずのうちに彼を睨んでいたけど、彼は私の手を取り、これから同じチーム同士よろしく!と、能天気な声でとても嬉しそうに言い放った。

身構えてる私があまりにも馬鹿な事をしていると思わされる声で、溜息をついてしまった。知っているのに、本格的に戦車道の活動が始まれば否応なく彼らとの差を知ることになるだろう。

彼らとの差をその身をもって実感することになるだろう。

けど、何故か期待してしまった。彼らとより近い距離で戦車道をできるんじゃないかと、同じステージに立って戦車道をできるんじゃないかと。

 

それが、いけなかった。

 

妹は西住流後継者の西住みほと組んで、その圧倒的な技術でその才能を黒森峰に示した。

個人的にも、砲撃の世界大会なんかに出場し世界レベルの実力を見せ付けた。

兄は中学生の範疇に収まらない整備方法を確立し、実際に実用化し、黒森峰の圧倒的な勝利への基盤を作りあげた。整備大会も国内の大会でいろんな部門を総ナメし、圧倒的実力を知らしめた。

 

それに引き換え私はスタメンには入れたものの、妹程のスコアは叩き出せない、兄程勝利に貢献できない、個人で何か突出した能力を持っている訳でもない。

 

結局、劣等感は強まるばかりだった。

 

けど、努力する事を止める事なんてできなかった。彼も彼女も、気づけば練習している。気づいたら、彼らは努力している。

周りの何倍も努力をしている。

それなのに、私が努力しないなんてできなかった。これ以上彼らとの距離が開くのがイヤだった。

 

だからある日、意を決して妹に聞いてみた。

何でそんなに努力できるのかと?

 

妹はなんでもない風にこう答えた

 

「好きだから」

「私の中で一番好きなものだから、飽き性の私が唯一続けてきたものだから。戦車に乗っている時が一番楽しい。仲間と戦車に乗っている時が一番楽しい。」

「多分兄さんもそう答える、兄さんも戦車が好きだがら努力してる、戦車が好きだから、できる事はなんでもする、日々できる事を増やしてる。私も兄も好きだから、ここまで頑張ってる」

と、なんでもない風に答えた事。

 

けど、私にはどこか衝撃的だった。

 

思えば私は戦車道を通して誰かを追いかけていたように思える。戦車道を楽しむんじゃなくて、戦車道のその先にある何かをボンヤリと求めていたように思える。

 

彼女は多分、戦車道の世界に私がいなくても、西住まほがいなくても、西住みほがいなくても、彼女の兄がいなくても、彼女は彼女のままなのだろう。あの妹は戦車道が大好きな妹のままであり続けるのだろう。

 

そう思うと、馬鹿らしくなった。

誰かに縋る戦車道が馬鹿らしくなった。

 

けど、それなら私は何を目指して戦車道をすればいいのだろう?

何をすればあの兄妹に追いつけるのだろう?

分からない、分かるはずもない。

私だけの、私にしかない、変わらないモノ。

 

それはなんなのかやっぱり分からなくて、でも西住にも、兄妹にも近づきたくて、必死に頭を捻るけど何も浮かばなくて落ち込んで。

 

私は分からないことだらけの中で、戦車道に励むしかなかった。

 

 

 

◾︎

 

 

 

整備チームの場合

 

黒森峰の整備班はここ数年で良い方向に大きく変わった。

それもこれも彼、"鉄 黒兎(くろがね くろと)"が黒森峰に編入して来たおかげだろう。

 

クロトは中学二年生の時に黒森峰に編入してきた。

戦車の整備士を小学生からしているらしい、男子の中でも変わった人だった。

 

最初は男子が戦車の整備なんてできるのか?と思っていた。

高校には男の先輩がいる事は知っているけど中学で男の子の整備士は見たことが無かったし、車両関係での男性の整備士は多いが戦車道関係での男性整備士などあまり聞いた事がなかった。

 

 しかし、実際に整備をさせてみれば私達が考えていたよりも圧倒的に巧かった。

 

 豆戦車や軽戦車の整備をほとんど一人でこなし、さらに私達の整備を覗きに来てはメモをとったり、先生と整備についてずっと話し合っていたこともあった。

 

 そんな中、整備の大会に出る子が「あーー!」っと声を上げた。

 

 なんと、彼は今までにも整備の大会での個人競技に出場しており、小学生の頃すでに全国大会の常連であり、優勝した経験すらある。中学生の時の記録も全国大会で準優勝を勝ち取っている。

 中学三年がほとんどの個人競技において全国大会での準優勝というのは予想以上に難しいことだ、彼が当時中学一年生だということ考えたなら準優勝を勝ち取る難易度は私達には考え付かない程に遠ざかる。

 戦車乗り以上に知識と経験が必要とされるのだ、到底無理な話と言えるだろう。

 

 その事を本人に確認した子もいたようで、本人が認めたことから彼が本当に整備士なんだという事がわかった。

 

 それから、私達と彼の間には距離ができた。なんというか、彼のことはどこか馬鹿にしていた気持ちがあったのか罪悪感が沸いてきて話しかけづらかった。彼が男子というのもそれに拍車をかけていた。

 彼もこちらとコミュニケーションを取ろうしていることが分かったのだが、どういうリアクションをすれば良いか分からず結局話す事は殆どなかった。

 

 けど、彼と同学年の子が話しかけたことで一気に変わった。

 

 彼女は元々武装車両の整備に行き詰っており、どうすればいいのか悩んでいたようで、意を決して聞きに行ったらしい。

 そしたら、意外にも丁寧に教えてくれたらしく、かなり話が弾んだらしい。武装車両の整備なんて全く分からなかったのに短時間で基本的な事は殆ど一人でできるようになってしまった程らしい。

そしたら、遠目で見ていた子達もだんだんと興味を持ち始めてクロトくんに教えて貰うように頼んで、そしたらまた違う子が聞きにきて、それが何度も続いて気付いたらクロトくんが一人で何人もの生徒を教えてて、凄いことになっていた。

その後は、興奮した皆んなが改造案まで出してきて、凄い盛り上がった。先生が来なければ明日の朝まで続いていたかもしれない。

 

それに、その後もいろいろと続いた。

高等部の祝勝会でまさか整備チーム同士で討論会になるなんて予想もしてなかったし、そのおかげで高等部とより近い距離で刺激し合えた。

高等部の技術力は凄かったし、整備の仕方も洗礼されており、マニュアル化も完璧だった。

多くの種類の戦車、または戦車以外の整備も高水準に尚且つ素早く整備を可能にする程に。

 

けど、私たちも負けていない。

クロトくんと皆んなで一から中戦車や重戦車の整備の仕方を洗いざらい見つめ直し、最良の整備を仕方を纏めて更に良いマニュアル作りに取り組んだ。

おかげで、祝勝会の前よりも格段に良いマニュアルが仕上がった。

 

三年生に上がってからも、私たちの勢いは衰えていなかった。

クロトくんを筆頭に新しい技能の習得に精をだし、高等部の祝勝会の時にもまた討論会が自然に行われたぐらいだ。

 

しかし、一番私たちを成長させたのは紛れもなくあれだろう。

【私たちの考えた最強の戦車作戦】だろう。

 

あの作戦を成功させる為に、戦術を一から学んだのだ。

 

そもそも専用機化なんて中々できるものでも無い。彼自身も構想段階ではあまり乗り気ではなかった。しかし、この案は彼を出したものだし、これが一番だろうとも言っていた。

なら、行動力が格段に付いた私たちが止まる訳もないだろう。

 

本当に各選手の特徴や癖、成長の余地を探し各チームに合った最適の整備を施す。

その為に全戦車を普段確認しないような細部まで点検したんだから。

その成果もあって、戦車道で今年も優勝する事ができた。

その経験を活かして整備大会でも優勝する事ができた。

 

なによりも、彼が入った二年間で私たちは格段に成長できた。

彼が入っていなかったらこんなに成長することは無かっただろうと容易に想像できる程に。彼は私たちに無いものをもたらしていったと思う。

彼の一言、彼のノリ、彼の悪ふざけ、彼の情熱、それらは全て私たちの範疇を超えた事を起こす。

 

彼はただ些細過ぎる起点しか作って無いと言っていたが、その起点を作れるクロトくんは凄いと思う。少なくとも、私たちを動かす事ができているんだから。

 

私たちは高校生になるが、彼は高校でも私たちの考えつかない事をやってくれるのだろう。どうなるのか、今から楽しみでならない。

戦車道をするのが、楽しみでならない。

さあ、明日はどんな魔改造をしようかな、今から楽しみでならない。

あと、クロトくん君も強制参加なんだから、勉強ぐらいキチッとしてくれよ?




多分、次は高校生編かなぁ〜、多分。

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