苦手な方は注意してください。
冬
私には、友達がいる。たくさんとは言えないけれど、これでも昔よりは増えた。
一人だけ。
あまり心強いとは言えないけれど、心細くはない。
そんな事を考え、部屋を見回す。
棚。ここには奈緒が持ってきた漫画と、私が持ってきた少しの短編小説が乱雑にぶちこまれている。
どれもこれもすでに奈緒と私で散々読み回したものだらけで、もう一度読む気力はない。
いつだったか奈緒に少年ジャンプを買って来ようか?と聞いたところ、
「私はそういうの読まないんだ」
と軽く断られたので、奈緒の趣味嗜好が分かるまで、提案を控えることにした。今度はこどもの頃に読み聞かせてもらった、たくさんの絵本でも持ってきてあげようかな。
奈緒はあまり、彼女の"趣味”について周りに言わないけれど、嬉しいことに私に対してはその限りではないようだった。
喜んでいいのかな。
私は今、頭痛のタネになる問題を二つ抱えていた。
部員二名、
奈緒が部長、わたしが副部長という部員からなる
"超能力研究倶楽部"は、とても深刻な資金不足なのだ。
超能力研究と名付けた理由はさておき、
資金不足とはどういうことかというと、部として認められていないことによる
優先順位の低下。この学校は文化部よりも、運動部の方がすべてにおいて優遇されやすい。
今のところ、部活動一覧の名簿には私たちの部は載っていない。
部として認めてもらえるのは、三人以上の部員が集まってから。
私たちは二人だけ。
張り紙でもして、全校生徒に周知してもらえばいいのだろう。
呼びかけでもして、部員を増やせばいいのだろう。
が、超能力と名の付く同好会に誰が入るだろうか。楽しい青春を送るための三年間を、こんな寂れた部で過ごしたくないに決まっている。
バイトをするわけにもいかない。校則で禁止されているし、私は体調の不安定さから両親にも止められている。
奈緒もバイトはしないと言っていた。具体的な理由は分からないが、彼女は私とのお茶より漫画の方が大事なので放っておく。知らない。
今私たちがすべきこと、それは三人目の才にあふれた頼もしい部員を見つけること。
夕方。
部室で時間のかかるポットを使って湯を沸かし、
加蓮にはホットミルク入りのコーヒー、自分にはいつものブラックを淹れる。
私はブラックコーヒーを飲まないと、その日一日をいまいちな気分で過ごすことになる。目覚めの一杯を放課後に飲むのは少し奇妙だけど、カフェインはしっかりと効いている。
これなら三人目の探索にも力が入るぞ。うん。
と、その前に。昨日途中まで読んだ漫画は・・・
私はいつものように棚に手を伸ばそうとしたとき、
「奈緒?今日は探しに行くんだよね?三人目。」
そう加蓮に言われて気づく。
加蓮に言われなければ、うっかり漫画の海に溺れるところだった。
「そ、そうだったな!ここに寝っ転がっててもしょうがないよな、うん!」
また、怠惰に一日を潰すところだった。
加蓮が私以外と話をしているところはあまり見かけない。
つまり、私以外の友達がいない。
加蓮はいつも雑に物事を判断して、それでいて妙なところでしっかりと指摘することがある。
助かることもあるけれど、加蓮の性格を理解していない他の子とは、よく問題を起こす。
それに加蓮は体調の急変が原因で病院での生活が多く、それが余計に友達が居ない原因を大きくしている。
ちょっとキツい性格なのは、それが原因なのかな。
私には、まだわからない。加蓮のことを、知らない。
外に出るため、私たちはとくに急ぎもせずスマホと財布、入部希望者用の用紙をもって部室のドアを開ける。
もう夕方だから、とても静かだ。
私たち二人の上履きの音の他には、運動部の元気な声が聞こえるだけ。
すごいなぁ。がんばってるなぁ。
でも、私たちにだってやることはある。ただやる気が出ないだけ。
もし本当に部員が必要なら、朝早くに登校し、張り紙をして、声をかけて、たくさんの人にこの部の現状を知ってもらえればいい話。
でも、私たちはそうしない。きっと心のどこかで、このままでもいいかな、なんていう甘い考えを持ってるんだろう。
考えてるんだろう。
加蓮もきっとそうだ。私より賢い加蓮が、こんな夕方から校舎を回ったってどうにもならないことぐらい気付いているだろう。
この校舎徘徊はただ、
青春が終わっていくのを座って待っていられないからしているんだ。
窓からの綺麗な夕日を見て
下校のチャイムを聞き、
何もせずに帰る あの喪失感に耐えられないから。
二人でごまかすだけの散歩。なんの意味もなかった。
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部室を出て、とりあえずは校舎を出てみようかとなって、グラウンドに直接つながっている扉から外に出る。
上履きのままだが、グラウンドを囲むように舗装された道がある。この上を歩けば汚れないだろう。
奈緒は、私たちが何のために外に出ているのかを忘れているようで、
能天気に柔らかな顔を、グラウンドで走る人達や、落ちかけている夕日に向けている。
彼女の中では今、とても穏やかな時間が流れている。そんな気がして、
話しかけるのを少しためらった。
結局耐え切れずに私は、
「これから、どこにいこうか?」
と聞くと、奈緒は少しぼーっとした顔を私に向けてから、
「とりあえず・・・グラウンド回ってみようか?」
なんて適当に決めたので、
「じゃあ、めぼしい人がいなかったら、この前言ってたお店に行こうよ」
「そうするかー」
と、自分へのご褒美を追加して小さな不満を紛らわせた。
そのあとは特に会話もなく、私たちは目標のグラウンド一周を達成し、
部室に荷物を取りに行ってから校門へ向かった。
しかし、校門まで来て奈緒が
「悪い、課題置いてきちゃったみたいだ。ここで待っててくれ、すぐ取ってくるから!」
と突然に校舎へ逆戻りしていってしまった。
私的には面白くなかったが、このあとに待つポテトセットのことと、奈緒のおいしそうにハンバーガーをほおばる顔を想像してから、まぁいっか、となった。
日はとっくに落ちて、冷たい風が刺さり始める。
奈緒、まだかなぁなんて考え始めると、校舎からこっちに歩いてくる影が見えた。
あ、奈緒!と脊髄がフライングで反応したが、よく見るとシルエットが違う。
彼女のもこもことした外観は見間違えがない。なにせ、もこもこしているんだから。
この時間に下校するのだから、おそらく運動部なのだろう。毎日運動に精を出しているやつの顔を拝んでやろうとして、こちらに歩いてくる影をちらと見る。
「えっ」
あの、渋谷凛だった。
凛。渋谷凛。
今絶賛売り出し中で、
今を生きる女子高生ならば聞いたことがあるであろう、あの渋谷凛だ。
今は確か、ニュージェネとかいうグループで活動をしているとかなんとか。
「・・・・・・」
冷静に分析している場合ではない。 これはどういうことだ。
私が過ごした二年間、私が生活した二年間、いつも校舎に居たのか。
トップアイドルで今をときめく、あの彼女が。
いや、そんなことはない。だって、およそ700日をこの学校で過ごしたのだから一度くらい廊下や下駄箱ですれ違ってもおかしくはない。
・・・それならば、転校だろうか。
彼女ほどの存在ならば、なにかしらのトラブルに巻き込まれて転校するのも珍しくないだろう。ぜんぶ推測だが。
私が邪推を続けているなんてことを彼女は当然気付かず、
自分の事をじっと見つめてくる知らない人にちらと目を向けて、すぐに元の方向へ視線を戻しそのまま歩いて行ってしまった。
渋谷凛が校門を出てしばらくして、私のイライラが頂点に達する頃、奈緒が校舎から出てくるのが見えた。
私が怒ったような表情で彼女を見つめると、すまなかったとか、奢るからだとかの言葉をあまりにも申し訳なさそうにつぶやくので、私はさっきまでつんつんと尖っていた心の棘を鎮めて、
いいよ、もう。ごはんいこ。と言った。
それから私たちはゆっくりと、すっかり暗くなった道から駅前の大通りへ向かい、ポテトセットとハンバーガーを堪能してそれぞれ帰路へついた。
私は眠りにつくベッドの中で、意識が落ちるまで渋谷凛がどんな生活を送っているのかを考え続け、
彼女が着ていたステージ衣装に思いを馳せてから静かに意識を閉じた。
次に投稿する日はまったく分かりません。好評なら早く出せるかもしれません。