思うにアムロ・レイはすごいヤツである。
元祖ウジウジ系主人公として燦然とアニメ史に名を残していた彼だが、メンタル、モチベーション、強さなどどれをとっても彼は世間で思われている以上に主人公らしい主人公だ。
つまるところ他の主人公と比べた時、相対評価を下すなら彼はオタクっぽい少年だが絶対評価を下すならば彼は充分、主人公たる資格を持っているのである。
アニメ特集なんかで多く取り上げられる「親父にもぶたれたことないのに!」のシーンとか、よく考えると非常に妥当な物言いではないだろうか。
何の訓練もやってないのに殺し合いに駆り出されるだけでなく、肝心の上司はいまいち信用ならないなんて状況、泣き言のひとつも言いたくなるもんである。むしろあの後、あ幼馴染の女の子のために奮起するという事実をこそ見るべきである。あんなのフラウじゃなくても惚れる。
まぁつまり、何が言いたいかと言うとだ。
ごく平均的な人生を歩んできた日本人男性がいきなり機動戦士ガンダムの主人公にさせられたりするのは無茶があるということである。絶対無理である。ア・バオア・クーまで持つ気がしない。グリプス戦役とか絶対無理だし、アクシズ落下阻止なんてプレッシャー(NT的なヤツではなくストレス)に耐えられるはずもない。そもそも僕がニュータイプに覚醒する未来が見えない。
ジャブロー行く前に死にそう。
『頑張って。あなたなら出来るわ』
「気休めを言わないで下さいよ…」
そういう無茶な状況に自分は放り込まれているということである。
サイド7から出港したばかりのホワイトベースから出撃したガンダムのコックピット内。
通信越しのセイラさんの言葉に対する返しは図らずも原作のアムロと似たようなものだった。そりゃこうも言いたくなるわ。
自分がアムロ・レイであることに気が付いたのは2.3歳くらいの頃だったろうか。
父親名前はテム・レイ、母親はカナリア・レイであり、両親の顔もおおむねアニメの作画を忠実に実写化したらこんな感じだろう、というものだった。
だからもっと早く気がついてもおかしく無かったのだが、現実感が出てきたのは揺り籠から出てからだった。テレビに映る世間のニュース、家庭内で口走られる父親の仕事についての発言などから、「ああ、ここ宇宙世紀なんだな」とどうしても実感せざるを得なくなった。
ただ、それでもあくまで宇宙世紀に暮らしているという現実感が得られただけである。「すげー」くらいの気持でぼんやり過ごしていた自分が、あのガンダムのパイロットであるアムロ・レイなのだという実感を得たのはもっと後、両親が別居して父と共にサイド7に住むことになってからだった。僕は原作通り、父についていくことを決めた。
いまから思えば父についていくべきでは無かったかもしれない。
母と一緒にいれば少なくとも兵士として前線に駆り出されることは無かったはずで、せいぜいが戦地で脅えて暮らすくらいの展開になったろう。まぁカナリアの末路はアニメ作品では描かれていないので絶対安全と言うことは無いだろうが。
それでも何故父についていったかと言えば、それは結局のところテンションが上がっていたということに尽きる。前世の自分はロボットアニメファンの末席であり、モビルスーツに乗るというシュチュエーションは定番の妄想シチュエーションだった。子供の頃からガンダム漬けで、ガンプラは沢山作ったしPS2版機動戦士ガンダム二部作、連ジ、一年戦争と様々なゲームも遊んだ。
松戸のガンダムミュージアムで等身大ガンダムの上半身に感動し、富士急ハイランドの横たわる等身大ガンダムに感銘を受け、お台場に至ってはため息しか出てこなかった。そんな少年だったのである。テンションが上がらないはずがない。
だが。そんな上がり切ったテンションはやがて巨大な不安へと変わっていった。
そもそも僕はアムロ・レイとしてまっとうに活躍できるのだろうか。どっかでヘマとか起こさないと言い切れるだろうか。そもそも――――ニュータイプとやらに覚醒できるのだろうか?
ガンダムの物語、それもアムロの人生に関して考えると、明確にこうすればハッピーエンドに向かえる!というようなものが少ない。ララァを殺さないだとか、グリプス戦役に参加してカミーユのメンタルを支えるだとか、もうちょっとクェスとハサウェイに優しくしてあげるとかそんなものである。シャア?あれはどうしようもない。
アムロ・レイはこうした細々とした人間関係に関するポカはあるものの、それを補って余りあるニュータイプとしての素質とパイロットとしての才能を持っているわけで。こうしてアムロの立場になったからと言って出来ることは限られている……どころかほとんど無いのである。
「カミーユならいざ知らず、アムロじゃ無理だろ…」
そんな風に絶望的な気持ちに襲われたのは宇宙に上がりサイド7の学校に通い始めて数か月たったころだった。アムロ・レイに出来ることが絶望的に少ない。後出しじゃんけんが今の自分の最大のイニシアチブなのだが、自分が手を出して自体が好転するポイントが恐ろしいほど無い!
ホワイトベースの窮状の半分は誰かのせいではない。ホワイトベースに雪崩れ込んだ大量の難民、補給も援軍もままならない状況での逃避行、それをパオロ艦長のような経験ある軍人が死んでしまったことで19歳の新人士官が指揮せざるを得ない状況。すべて間が悪かったと言うほかない。強いて言うなら悪のジオン星人が戦争を起こしたのがすべての元凶である。
父さんに色々吹き込むことを考えたがそんなうまく行く気がしなかった。そもそも中学生の自分の言うことを軍人の父が聞くだろうか?冨野的世界観で?絶対あり得ない。
こうして悶々とした日々を暮らしつつ、それでもなんか出来ないかと頭をひねっていたある日、逆転の一手が思い浮かんだ。原作よりもっと良い展開を作り出す方法。それはガンダムに乗ってすぐに訪れる。サイド7の被害を最小に抑えて、父をホワイトベースに合流させることである。
テム・レイについて多くの人のイメージはサイド6のジャンク屋ではしゃぎつつ謎の機械を差し出してくる酸素欠乏症にかかった姿であろう。だがあれは長い宇宙漂流の結果ああなってしまっただけで、実際はそこそこきちんとした人間である。実際、一緒に暮らしていた感じとしては100点満点の頼もしい父と言う感じでは無かったが、どうしようもない毒親と言うわけでもない。もう少し母とコミュニケーションを取ってくれれば……と思わないでもないが、仕事と家庭の比重が偏ってしまうなどということは起こりがちである。総じて、まっとうな大人と言える。アムロ・レイとして知らない部分を鑑みてもアニメでの初登場での台詞を見るに自分の息子を積極的に戦争に参加させるタイプの人間ではない。彼が生きていれば、技術的な知見でホワイトベースの状況は多少なりとも改善するかもしれないし、そもそも息子をガンダムのパイロットとしてメインに用いさせようだんてことも考えないはずだ。上官のひとりでもいればブライトさんの胃の負担も多少なりとも抑えられるはず。
父をホワイトベースに合流させることには他にもメリットがある。サイド7に穴が開いたことで連邦軍人が何人か死んでるところを見ると、あれを阻止するだけで状況はかなり改善するのではないか。ホワイトベースの人手不足が改善され、パオロ艦長が砲座に就くことも無く、何とかジャブローまで安定した航海をすることが出来るようになるかもしれない。よし、当分の目的はこれだ。これで行こう!
「……あれ、ザクの動力炉ってどっちだ?」
そう思ってたこともありました。
父が出張に出かけて帰ってくる予定日、避難命令が出て幼馴染の女の子に起こされて手作りサンドウィッチを朝食にするという最の高なイベントをこなし、そういえばフラウの両親死んじゃうじゃんということで「親父の伝手で色々聞いてるけどホワイトベースって軍艦が避難先として開放されるかもだから先に港に行ってた方がいいよ」とそれとなくアドバイスしつつ、自分は自分で原作通りの避難カプセルの周囲をウロウロしてマニュアルを回収。
ザクの襲撃による混乱の中で原作通りガンダムに乗り込んだ。
そこまでは良い。完全に予定通りである。
ガンダムが大地に立った瞬間はつい口角が上がり「うっひょー!原作通りじゃんけ!」と叫んでしまうくらいにはテンションが上がった。
とりあえずバルカンで戦うのには限界があるし先んじてビームサーベルを装備しておこう、とマニュアルを読み読み背中のラックからサーベルの柄を取り出し、両手で構えさせた瞬間、そもそも論にぶち当たったのである。
ザクってどっちが動力炉でどっちがコックピットだっけ?
ザクのコックピットの開き方!
これには多彩なバリエーションがある。
胸部のT字に見える黒いパーツ全体が開くもの、右が開くもの左が開くものなど様々だ。
みんなはザクのバリエーションだとどれが好きかな?
僕はF2型。あの複雑でかっこいい胸のパーツいいよね……いい……
さて、そんな僕だがこの期におよんでそんな初歩的な疑問にぶち当たり、状況も状況なのでテンパっていた。
これまで予定通りだっただけになおさらである。
「えっと、右だったような……いや待て昔作ったガンプラだと左じゃなかったか?そう、結構細かいパーツで……」
そうこうしているうちにもザクはずんずんと進んでくる。
あれだろうか、今頃「へへっ、怯えてやがるぜこのMS……!」とか若本ボイスで言っているのだろうか。
どっちがジーンでどっちがデニムなのかはガンダムのコックピットからは分からないけど。
などと今現在の状況には一ミリも役に立たない記憶が想起される。
そうこうするうちにザクはマシンガンを容赦なくガンダムに連射。
ズガガガ、と容赦なく弾丸が跳ね返る衝撃、衝撃を受けたことで鳴り響く警告音、それと同時に通信機から『何をしているガンダムのパイロット!ビームサーベルを使うんだ!』と父さんの声が響いてきてなおさら焦りが増していく。
このまま好きにさせておくのは絶対不味い。
いくらトンデモ装甲もちのガンダムでもいつまでも無敵ってわけではないはず。
「くそっしょうがねぇな!」
何が悲しくてガンダムの初陣にクイズ番組みたいな状況に陥いらねばならないのだろう。
だがここが正念場だ。
ここでミスれば原作よりイージーモードに突入させる計画はすべて水泡に帰す。
腹を決めるしかない。
「僕はニュータイプ僕はニュータイプ僕はニュータイプ……よし、決まった、左だっ!」
前世のガンプラを作った時の記憶に従う!
―――後から思えば、だが。
僕はもう少し、自分のガンダム知識を整理しておくべきだったかもしれない。
僕が好きなザクは?F2型だ。
僕がよく作ったガンプラは?F2型だ。
印象に残っているのは?F2型だ。
F2型は何に登場した機体か?0083だ。
一年戦争の中でも配備されるのは後の機体。
サイド7の戦いには間違っても駆り出されない。
結果は語るまでもない。つまりほとんど原作通りになった。
一機目のザクの融合炉に誘爆してコロニーに巨大な穴が開き、テム・レイその他の連邦軍人は行方不明となった。
二機目のザクについてはコックピットをぶち抜き爆発を起こさずに撃破できた。
ファッキューマ・クベ。ファッキュー統合整備計画。
一年戦争のMSのバリエーションを増やし続けるバ○ダイに呪いあれ!
コックピットの仕様を一々変えるとかジオニックの連中は使用者のことを考えていないに違いない。そんなんだから負けるんだよジオン公国!
こうして僕のガンダムイージーモード計画は失敗に終わり、めでたく原作再現モードへと移行することとなった。
すまない父さん、すまないブライトさんの胃。というか仮にも15年一緒に過ごした父を救えなかったのは結構ダメージデカい。
原作を良い方に改変とかできるのか本当に。
ああ―――…
「……取り返しのつかないことをしちゃったな」
ちなみに元ネタ解説しておくと
タイトルは冒険王版機動戦士ガンダム、
サブタイトルはボンボン版Vガンダム
ザクのコックピットはF型はT字の右側、F2型は左側にある、と言うネタです。
MGザクF2はめちゃくちゃかっこいいのでみんなも、買おう(ダイマ)