我、此処にて舞い奏でる   作:音原織那

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 今回は短めです。
 うん、曲を言葉で表現するのは難しい……。



第九楽章

 それは、特別上手いと言える演奏ではなかった。

 技巧に任せた早弾きの曲でも、最近の流行に合わせた曲でもない。

 有象無象の音楽家などより上手いだろう。

 だが、人気のある音楽家のには及ばない。

 奏でられるその曲はいくつものコードとスタッカート気味に跳ねた音で小気味良いリズムを刻む。

 それに合わせて、一つ二つと光が現れ始める。

 それ等は彼が弾く曲の名前のように彼の回りを舞い、周囲の人間を楽しませる。

 

「……うそ」

 

 正直に言って予想外だった。

 ペルセルテはそう考えながら呟いた。

 通常、現代の神曲楽士は単身楽団を用いなければ神曲を奏でる事ができない。

 何故なら、昔の神曲楽士と違い、現在の神曲楽士は神曲を自力で奏でる力がないからである。

 それでも単身楽団を利用すれば神曲を奏でる事ができるのは、単身楽団の核でもある集積回路として使用している賢者の石が神曲の力を強めているからだ。

 だが、目の前で演奏している少年は単身楽団ではなく、ただのギターで神曲を演奏している。

 その光景はペルセルテにとって目指すべき場所であると同時に、決して辿り着けないと考えてしまうほどの高みにあるものだった。

 

 現代の神曲楽士が単身楽団を用いなければ神曲を奏でられないのは、文明が発達によって、精霊に対する感謝や魂の表しかたを忘れてしまったからであると専門家の間では囁かれている。

 だが、そもそも神曲において大きな割合を占めるという魂の形とはなんなのだろうか。

 それが分からないからこそ、現代の神曲楽士は単身楽団が必要なのだろう。

 では少年、ツチミカド・ソウキはそれがわかっているのだろうか?

 答えはきっと否定だろう。

 ペルセルテは神曲楽士になるために多くの事を調べていたが、知っている事は多くはない。

 世に存在する『天才』、それも単身楽団を用いないで演奏している人間は皆、特筆して神曲という謎に対する答えを持たなかったそうだ。

 それを糧にしている精霊に質問しても、彼らにとって神曲とはそういう物であり、言葉に表すならば契約時の言葉こそが最も近いと答えている。

 

「これが……神、曲」

 

 心の底から掻き乱されるような、それでいて暖かく包み込むような感覚。

 初めての感覚に戸惑いながらもペルセルテは彼の一挙一動を見逃さないように見続けていた。

 

 後にユギリ・ペルセルテは言う、『この神曲を聞いたからこそ今の私達がいる』のだと。

 

 

◇◆◇

 

 

「これが……神、曲」

 

 ユフィンリーは溜め息をつきたかった。

 隣でペルセルテが感動したかのように呟いているが、問題はそこではない。

 

 音を鳴らした瞬間に周囲の空気が変化した事を。

 

 回っている精霊達に合わせてゆっくりと床を汚している料理が宙に浮き始めている事を。

 

 精密な作業を精霊に行って貰うには神曲楽士の腕も相応でなければいけないにも関わらず、精霊雷で汚れを落としつつ持ち上げさせているという事を。

 

 彼女は気がついているだろうか。

 

 世にいる神曲楽士にそれが出来るかと聞けば首を横に振る者が大半を占めるだろう。

 にも関わらず、ソウキは鼻歌混じりにコレを実行する。

 才能があるないという話ではないのだ。

 もはや次元が違う。

 そんな物を入学前の神曲楽士の卵にすらなっていない彼女達に聞かせるのは悪影響になるのではないだろうか。

 

 ソウキの演奏を聞いて、多くの生徒が自信を失ったのを知っているが故に、ユフィンリーはペルセルテとプリネシカを心配していた。

 ソウキにとって曲の通りに娯楽を提供しているつもりなのだろう。

 下級精霊が舞い踊り、中級精霊が曲のリズムに合わせて地面に落ちた料理を片付けていく。

 今も尚、生徒の中には目を輝かせている者もいるが、絶望したかのように落ち込んでいる者もいる。

 

 楽しい筈のメロディが絶望への行進曲に思えてならない。

 ……本当に退学者が出てしまわないかが心配だ。

 そう考えながらユフィンリーは溜め息をついた。




 さて、主人公が演奏した曲は何でしょう?
 とある曲をイメージしましたが、上手く表現できるているかどうか……。

 因みに、主人公は音楽の腕が飛び抜けて上手いという訳ではないという設定となっています。
 レベルとしては、某動画サイトで曲の概要を知る事ができると判断されるくらいを想定。
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