我、此処にて舞い奏でる   作:音原織那

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 引っ越しの荷物が着いたものの、業者に運んでもらっていた本棚が破損していました。
 えぇ、それはもう盛大に。
 本棚の天板が半分陥没した姿なんて初めて見ました。

 その処理や、荷物の整理、就職先に提出する書類のチェック、健康診断等……漸く時間が取れましたので、投稿します。


第十一楽章

(あれだ……あの、歌だ)

 

 常人でさえ三日どころか数時間でも居れば発狂してしまうような闇の中、ワタシは目を覚ました。

 あれから幾らの時が経ったかなど、この場所では無意味。

 その闇は断絶の証であり、封印の証でもあったからだ。

 だが必然か、偶然か、そんなモノはどちらでも良い。

 今重要なのは、その闇の封印に亀裂が生じているという事だ。

 

 存在の再構築。

 朧気な意識の浮上。

 身体を構成するものがゆっくりと互いに結合し、意味を持つ。

 時間と共にそれ等は複雑化していき、その身に掛かる呪縛を押し退ける。

 

 何故、自身が今も存在しているか。

 そんな事はどうでも良い。

 今はただ――

 

(ワタシは……私はあの歌だけをずっと待っていた……)

 

 ――今はただ、あの歌の下に向かうだけ。

 

 

◇◆◇

 

 

 どうやら、プリネシカさんとペルセルテさんは制服を借りた後に返し忘れてホテルに帰ってしまったらしい。

 それだけなら明日にでも学院に来ればよかったのだが、預けていた荷物の中に財布もあったらしく、急いで取りに来たらしい。

 その後、更衣室を探して学校の中で迷子になった末に、どこからか歌が聞こえたのでそこまで来たんだとか。

 三人が夜の学院に居た理由を聴きながら、ペルセルテさん達の目的地であった更衣室に案内する。

 

「……それなら仕方ないですね。フォロンは掃除とかで遅くなったんでしょ?」

 

「あははは……」

 

 大体の見当がついていたフォロンの理由を聞いてみれば、返ってきたのは乾いた笑い。どうやら図星だったらしい。

 

「あの後、コック長に食堂の掃除をしろって言われてね」

 

「ごめんなさい……私がよそ見をしてたから」

 

「いや、お互いさまだから気にしなくても良いよ。何かにつけて僕は不器用だから……神曲も基礎課程の二年目の最後だっていうのに、まだできないしね」

 

「……え?」

 

 フォロンが掃除をする事になった理由が昼間の件にあると分かり、ペルセルテさんは謝るが、フォロンは気にしなくて良いという。

 その際に言った神曲が奏でられないという言葉にプリネシカさんは疑問の声をあげた。

 

「大丈夫です!あんなに綺麗な歌を歌えるんですから、神曲だってできるようになります!」

 

「ありがとう。うん、元気が出てきたよ」

 

「歌と言えば、僕は最後の方しか聞けなかったんだよね」

 

「そうだ。また、フォロンさんの曲を聞かせてください。ソウキさんの演奏も聞きたいです」

 

 だが二人はプリネシカさんの声に気づかなかったのか、そのまま会話を続けている。

 無視する形で話を続けるのはプリネシカさんには悪いが、フォロンにはこのままもう一度歌を歌ってもらって、自信をつけて貰いたい。

 

「いや……そ、そうだ。ソウキが先に……」

 

「悪いんだけど、昼に無許可で神曲弾いた罰として夜の見回りしてるから無理かな」

 

「……残念です。でも、プリネもフォロンさんの歌を聞きたいよね?」

 

 どうにも自信が持てないのか、フォロンは後に伸ばそうとするが、そうはいかない。

 そもそも、今僕が学校にいるのは勝手に神曲を演奏した罰であり、罰を受けている最中、緊急時でもないのに演奏するのは問題がある……という事にしておく。

 実際のところは、神曲ではない普通の演奏なら問題はない。

 

「……是非」

 

「そ、それじゃあ……」

 

 あまり強い意思表示を見せることがなさそうなプリネシカさんもペルセルテさんに賛同し、フォロンは観念したのかゆっくりと深呼吸をする。

 そして、意を決して歌おうとした時――

 

『KKKKKIIIIYYAAAAAAAAAAAAAAaaaaa!!!』

 

 ――耳をつんざく奇声が校舎に響き渡った。

 

「なに、これ?!」

 

「これって……」

 

 いきなりの事態に、ペルセルテさんとプリネシカさんは耳を塞ぎ、フォロンは何かを感じたのか、辺りを見回した。

 それと同時に覚えのある感覚が僕の身を包む。

 

「セヴニエーラ!」

 

「あの腹黒に関わると碌な事がないわね……暴走精霊よ」

 

 学院内で二度も暴走精霊との遭遇する。

 暴走精霊に遭遇すること自体が珍しいというのにも関わらず、僕はセヴニエーラの時と今回で二度も遭遇している。

 ……偶然というには難しく、何らかの形で学院長さんが関わっているというセヴニエーラの考えも可笑しくはない。

 

「やっぱりか……でも」

 

 何かが違う。

 聞こえた声には力が込められており、その力は瘴気に紅い精霊素が混じっていた。

 そこから感じられた意思は『独占』。

 セヴニエーラのように我を忘れて暴走しているようには感じない。

 

「とにかく、三人は実習室まで走って!」

 

「え、えぇ?!」

 

「暴走精霊を止めるには神曲しかない。少しでも可能性を高めるためにも、フォロンは実習室で神曲を弾く準備を!」

 

 恐らく、暴走精霊が求めているのはフォロンの神曲だろう。

 フォロンが歌を歌おうとするのを妨害するようにあげられた奇声。

 しかも、そこから感じられた意思は『独占』。

 セヴニエーラの時は契約していた相手がいなかったからこそ、僕の演奏でもなんとかなった。

 だが、今回のように何かを求めている精霊相手では意味がないだろう。

 

「ソウキさんはどうするんですか!?」

 

「なんとかならないか試しつつ、足止めする!」

 

 それを聞いた三人は走るのを躊躇っていたが、そんな余裕はない。

 暴走精霊がいると思われる方向――瘴気が感じられる方向――へと僕は走り出した。

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