我、此処にて舞い奏でる   作:音原織那

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 お久しぶりです。就職してから、資格取得のために休みを半分返上しながら働いていたおかげで、趣味に費やせる時間が全く取れなかった音原織那です。
 先日漸く、資格が取得し終わりましたので執筆を再開いたしました。
 更新速度は相変わらず遅いままであると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
 携帯の機種変更を行ってしまったので、誤字やスペースに不具合があるかもしれません。気がつかれた方はご指摘をお願いいたします。
 楽しんでいただければ幸いです。


第十三楽章

「侵入者?」

 

「というよりも泥棒ね」

 

 そう言って、ユフィンリー先輩はお茶を一口飲んでからため息をついた。

 ユフィンリー先輩は僕達が専門過程に進級すると同時に卒業し、ツゲ神曲楽師派遣事務所という事務所を設立した。

 初めのうちは学生時に資格を取った天才という事で注目をされていたが、若さという点で安心感に欠けており、全くと言っていい程仕事の依頼がない状態であったらしい。

 そこで、ユフィンリー先輩は安心して依頼ができるだけの力量を持ったメンバーを集めてしまえばいいと考えたらしい。

 そんなメンバーを集めるにはどうすればいいかを考えた際、母校であるトルバス神曲学院において優秀な成績を修めている生徒を勧誘すればいいと考え、学院長に勧誘の許可を申請。

 結果、勧誘の許可と今期の成績優秀者のデータを報酬とした一定期間の夜間の警備を依頼されたそうだ。

 

「確かに、暴走精霊が絡んだ事件が在学中二回もあった訳だし、警備の強化も念頭に置いてるんじゃないかとは思ってたけどね?」

 

 あ、これはやばい。

 そう感じた僕とセヴニエーラは耳を塞ぐ。

 

「なんで初日から、そんなもん(侵入者)が出るのよ!?」

 

 ダンッ

 拳を叩きつけられた衝撃によって、机に乗っていた料理の皿が大きく音を立てる。

 それを見たセヴニエーラは呆れたようにため息をついた。

 

「あの腹黒がそんなマトモな仕事を依頼するわけないでしょう?」

 

 学院長が関わると大抵トラブルに巻き込まれる。

 それが僕がこの世界に来てから学んだことだ。

 故に、学院長直々の依頼というあからさまな地雷源に踏み込んだユフィンリー先輩が迂闊だったということである。

 

「……まぁ、初日からってところが予想外だったってだけよ。『相手も馬鹿ではありませんし、三日たって現れなければ別の方法に切り替えているでしょう』なんて学院長は言ってたけど……一週間も音沙汰がないのよねぇ」

 

 相手も馬鹿ではないって……、あからさまに犯人分かってるじゃないか。

 ……何を考えているんだろう、あの人は。

 

「と、いうわけで……最近変わった事はないかしら?」

 

「変わった事……」

 

「……ねぇ」

 

 無い訳ではない。むしろ、ある。

 というよりも、視界の端で奇妙な宣伝を行っている存在がそれだ。

 

『このシダラ・レイトスを超える天才であるコマロ・ダングイスになんっでも、聴きたまえ!あぁ、そこの君にはまだ名刺を渡してなかったね』

 

 コマロ・ダングイス、四楽聖と呼ばれる、ある意味で神曲楽師の頂点とも言える存在の一人であるシダラ・レイトスを上回る天才だと考えている存在だ。

 その実力は基礎課程から進級する事が二回も出来ず、今年も再入学をしている時点で御察しと言える。

 まぁ、演奏だけならプロの音楽家として食っていけるだろう。

 コマロ・ダングイスとは、そういう存在である。

 再入学当初は落ちこぼれと言われていたフォロンが契約精霊を手に入れて進級していた事にやっかみ、ちょっかいを出していたようだが、一月程前に起きた進級試験の再試験において膨大な数の精霊を呼び出したという噂(実際に呼び出したのだが、僕の時のように殆どの生徒が覚えていなかった)を聞いた為か、それも鳴りを潜めていた。

 だが、ここ二、三日の間で契約精霊が出来たらしく、以前の調子を……いや、以前よりも酷い調子で自身の契約精霊を自慢している。

 

「もしかして……あれ?」

 

「真偽はともかくとして、契約精霊ができたそうです」

 

「あれを神曲だと考える精霊がいるなんて、未だに信じられないけどね」

 

 賢者の石によって拡散される霊力は他の人間と大差がない。

 だが、込められている意志が問題だ。

 自己陶酔、自己満足、そういった自己愛にまみれた意思を込めた演奏しかダングイスは行わない。

 誰かがそれを指摘したとしても変わらず、ダングイスの演奏に込められた意思は『僕の神曲を聴け』『僕の神曲を聞けることに感謝しろ』『さぁ、僕の前にひれ伏すがいい』とでもいうような傲慢な物ばかり。

 それでいて、技巧ばかりに意識を傾けているために精霊に対して意識を向けていない。

 そんな演奏は雑食として有名なボウライにすら神曲として認識されていない。

 それ故に、セヴニエーラが毒づくのも解ってしまう。

 むしろ、そんな演奏を続けているにも関わらず、その辺を浮遊している精霊に攻撃されないのが不思議なくらいでもあるのだが……。

 

「今年も入学したってのが私には驚きよ」

 

 かつて同級生でもあったユフィンリー先輩から見れば、神曲云々よりも三回目の基礎課程入学という事の方が驚きのようだ。

 まぁ、根性がある人や神曲楽師に未練のある人でも二回目の入学で諦めるのが普通であろう。

 だが、ダングイスにはそれが当て嵌まらない。

 

「ほら、先輩。ダングイスには特技がありますから」

 

「……あぁ」

 

「あれは精霊でも真似しできる者は少ないでしょうね」

 

 コマロ・ダングイス、本人は気が付いていないが、特殊な特技を持っている。

 『都合の悪い事は忘れる』という物である。聞いただけだと誰もがやっていそうな事であると思ってしまうが、彼の場合は本当の意味で忘れてしまい、自分にとって都合のいいように記憶を改竄してしまうのである。

 今回の場合、自分の有り余る才能に嫉妬した職員の嫌がらせで進級できなかったが、寛大な心で許しやろう。という事らしい。

 ……正直、この特技だけでも芸人として食っていけそうなのは気にしてはいけない事である。




 というわけで次の章における前振りとダングイス君の説明回でした。
 個人的にダングイス君は好きなキャラです。都合の悪い事は忘れるという意味でですが。
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