我、此処にて舞い奏でる   作:音原織那

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 アンケートの結果、「このままポリフォニカシリーズのストーリーを進めた後にレイヴンズのストーリーに移行する」ということに決定いたしました。
 これからも、よろしくお願いいたします。


第六楽章

 暴走精霊の事件から少し経ち、入学式のシーズンとなった。

 この季節になると縁側でグデンと横になっていそうな兄の事を思い出す。

 今頃、彼は何をしているだろうか?

 時期としては既に中学生になっている筈だ。

 恐らく本家の女の子と楽しく過ごしているのだろう。

 あの二人はいつも一緒だった。

 ……僕なんかが入り込む余地すらないほどに。

 

「…………はぁ」

 

 こんな事を考えてしまうのも、現在の状況のせいだろう。

 

『――は我々の善き隣人であり、そうあろうとしています。ですが、彼等は一個人である事を忘れてはいけません――』

 

 遠くから聞こえる声を聞き流しながら、ため息をつく。

 それもこれも、今自分が着ている服にある。

 

 赤いチェックのネクタイ。

 

 黒いズボン。

 

 肩の部分だけが黒に染められた白のブレザー。

 

 ……トルバス神曲学院の制服である。

 学院長さんとの約束の期限まではあと二年程あった。

 だが、そうも言っていられない状況になってしまった。

 それもこれも――

 

「ちょっと、話を聞かなくていいの?」

 

 美しい銀色の毛並みに銀灰色の縞模様を持った猫が訝しげに話しかけてくる。

 ――コイツのせいだ……。

 セヴニエーラ・バス・ヘリオラル、暴走精霊の事件の時に暴走していた精霊で、事件が終わってからは毎日のように精霊契約を求めてきた。

 そもそも、暴走精霊になったのだって人間に騙され、精霊文字――人間が精霊の行動に強制することが出来る文字で、コレで書かれた内容に意思ある精霊は逆らうことが出来ない。文の意味よりも文字の形の方が重要で、少しでも文字が欠ければ効力を失ってしまう――……それも接触禁止、行動禁止といった文字で固められた箱に閉じ込められ、神曲も得られずに文字との矛盾によって力を削り続けられていたからだというのだ。

 契約を結んでいなかったからこそ神曲への依存性が低く、解決をする事ができたわけだ。

 普通なら人間不振に陥っていてもおかしくないというのに、再び人間に関わろうという気になるのは凄い話である。

 そんな話を小耳に挟んだ学院長さんにこう言われてしまったのだ。

 

『精霊、それも上級精霊に精霊契約を求められているのならば、もはや誤魔化す事はできません』

 

 学院内を自由に歩き回り、授業を見学していた僕は教職員や学生の間から学院長がスカウトしてきた人材のように見られていたそうだ。

 ……まぁ、完全に間違いではないのだが。

 それ故に、上級精霊に精霊契約を求められてしまえばその話をデマだと言うこともできず、来学期で13歳……トルバス神曲学院の入学の最低年齢になる。

 入学しなければ確実に問題になる。

 要するに、面倒だから入学しろという話だった。

 

「いいんだよ……セヴニエーラと契約した時に言われたことと同じなんだから」

 

 ゆっくりと学ぶ事ができなくなった元凶に敬語なんか使う気はない……。

 上級精霊だろうがなんだろうが一つの生命体であるのは変わらない、特別な存在として考えすぎるなと学院長さんも言っていたし。

 というか、今言っている事がそれだ。

 

「そう……まぁ、あの腹黒の話なんて聞く価値もないわね」

 

 そう言うとセヴニエーラは左の列をチラリと見てから物質化を解いた。

 ……そっちの方が失礼だと思う。

 

「なぁ、今のってお前の契約精霊なのか?」

 

「はへ?」

 

「「ぷっ」」

 

 急に声を掛けられ、変な返事を返してしまった……。

 それを聞いた両脇にたっていた青年達が軽く笑う。

 自分が悪かったと言っても、笑われるのは流石に良い気分ではない。

 

「あー……すまんな」

 

「あぁっ……ゴメン!」

 

「……はぁ、いいですよ」

 

 彼等が悪かったというわけではないし、謝ってもらえただけ十分というものだろう。

 そう考えたのがわかったのか、先程声をかけてきた茶髪の青年がニヤリと笑う。

 悪戯好きそうな笑みを浮かべているが、かなり整った容姿をしているために悪い印象は感じなかった。

 

「サイキ・レンバルトだ。同期なんだから敬語はいらないぜ?」

 

 その言葉に続いたのか、もう一人の黒髪の青年も口を開く。

 

「あ、タタラ・フォロンです。僕も敬語はいらない、かな?」

 

 そう言って苦笑するその姿は、カッコいいプレイボーイといった印象のサイキさんに比べて、苦労人の優男といった印象を受ける。

 

「ツチミカド・ソウキです。サイキさん、タタラさん、よろしくお願いします」

 

「いや、固いって。名前で良いぜ?」

 

「うん、僕も名前で良いよ?」

 

「……はぁ。よろしく、レンバルト、フォロン」

 

 ……予想以上に強引な同期生だったようだ。

 まぁ、対等に話せる同期がいるのは気楽でいい。

 この出会いに感謝しよう。

 ……ところで、この世界では何に感謝をすれば良いんだろうか?

 

 

◇◆◇

 

 

 入学式から暫くたったが、フォロンとレンバルトは見ていて飽きない。

 特にフォロンは予想の斜め上を行っていると言って良かった。

 この学校に入る前提として楽器の練習は皆していたらしく、初回の授業では楽器の演奏に蹴躓く人間は居なかった。

 楽器の演奏には。

 ピアノを演奏しようと歩けば、楽譜を落とす。

 慌てて楽譜を取ろうとしゃがめば、他の人間が持っていた楽器ケースに頭をぶつける……等。

 とにかく、演奏を始める前段階でのトラブルが起きる。

 また、フォロンは孤児院の出身らしく、学院で唯一認められている食堂のアルバイトをして学費と生活費の一部を稼いでいるが、皿を落とすのは序の口。

 料理を客にぶつけそうになるわ、聞き間違えて注文した物とは違う商品を大量に持ってきたり。

 一時間の間に何も起こらない事などあまりない。

 そんな状態が続いたために、タタラ・フォロンはかなりのどじっ子であると同学年の人間に認識されている。

 

 だが、僕の中でのその認識は単身楽団を使用した初回の実技授業で覆された。

 それは、実技を担当しているミカザキ講師が見本として一度演奏した後に起こった。

 それぞれが一人づつ演奏していき、フォロンの番になる。

 何時ものように展開でもたついて時間を掛けてしまっていたが、その演奏は想像の埒外であった。

 彼は見本として演奏したミカザキ講師の演奏を殆ど再現していた。

 発せられる霊力も、曲に込められた想い、演奏に関しては拙い部分もあったが。

 だが、それは神曲足りえない。

 当たり前だ。

 自分の意思(ココロ)を込めているわけではなく、ただただ感じた感覚のみで再現していただけなのだから。

 彼がその事に気付けば、どんな神曲であっても奏でる事が出来るのではないだろうか?

 その事に気がついたのは、演奏をしていたミカザキ講師と聞いた直後から何かを考え込んでいるレンバルトだけだろう。

 その後に演奏をしたレンバルトは感覚的に神曲を理解しているのか、ボウライを一柱だが呼び出す事に成功していた。

 

 だが、一番最後に演奏した僕は散々とも言える内容だった。

 まず、単身楽団を使用した演奏は初めてだったが、展開をした瞬間に異変は起きた。

 単身楽団は霊力の拡散を誘発する効果があるのか、霊力を認識している僕には効果が高すぎたのである。

 簡単に言ってしまえば、音を一つ鳴らしただけで精霊素が集まり、一節を演奏した直後には実習室が精霊で埋まってしまったのである。

 

 当然、それだけの精霊が一つの場所に集まれば、人間の体にも影響を与えてしまう。

 僕を除いた全ての人間が意識を失い、僕も三十秒にも満たない間に拡散した霊力だけで限界に達してしまい、気を失った。

 その後、異変に気がついた学院長さんが全員を保健室に運び、事実を隠蔽した。

 

 曰く、ガス漏れが原因で全員が気を失った。

 

 もちろん僕はそれが間違っている事を理解しているが、あまりにも多くの精霊を見てしまった他の人間は脳がオーバーヒートを起こしたようで、僕が演奏する少し前からの記憶を失っていたらしい。

 それを聞いた学院長さんはこれ幸いと気を失った原因をガス漏れにしてしまい、実習室の一つを一時的に閉鎖する事で解決した。

 その後に単身楽団を使用しないで演奏する事を義務付けられてしまったが。

 

 ……正直、あれをもう一度使いたいと僕は思えない。




 次回からポリフォニカの本編ストーリーに入ります。
 毎回、時間が飛び飛びになっていますが……それは仕様です。
 というか、本編が始まるまでは事件とかも無いので話が続かないと思っています。
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