気分で書ききってしまったので、駄文かもしれません。
「ココ食堂、コダワリコック長ノオススメ日替ワリ定食、ニンキ……ニンキ?」
いや、そこで訪ねられても本当かなんて僕は知らないんだけど……。
食堂に着くと説明を始めるボウライ……いや、ギガちゃん。
このギガちゃんというのは、ペルセルテさんが食堂に着くまでの間に――
『ボウライは名前じゃないんだから名前を付けてあげなきゃ!』
といって、名付けたものだ。
由来はなんか強そうだから。
……確かに人間を人間って呼ばないようにボウライにも名前があっても良いかもしれないけれど、その名付け方は如何なものか……。
「学校の食堂にコック長がいるの?!さすが神曲学院……」
「……呼び方の問題で、どこの職場でも一番偉い人はいると思うけど」
ペルセルテさんの驚きの声に対して、プリネシカさんの呟きが聞こえる。
プリネシカさんの言葉は通常であるのならば間違ってはいないが、此処神曲学院においては間違いだ。
トルバス神曲学院は古くにあった王宮を改装して作られた学院で、それに合わせてレストランを開く事ができるレベルのコックを雇っている。
……まぁ、学院長の趣味らしいが。
「ね、ね、神曲学院の制服着た人達がたくさんいるよ」
……神曲学院だし、制服を着ていないのは精霊だけじゃなかろうか。
「神曲学院の中だし、当たり前だと思う。それよりも余所見してると……あっ」
先行しながら右へ左へ視線を動かすペルセルテさんを落ち着かせようとしたプリネシカさんは何かに気がついたかのように声をあげる。
「きゃっ?!」
「うわっ!」
次の瞬間、見覚えのある青年がペルセルテさんとぶつかった。
当たり前のようにペルセルテさんと青年は体制を崩し、尻餅をつく。
普通ならこの後はお互いに謝って終わりになった筈だ。
……青年が大量の料理を抱えていなければ、という前提が付くが。
青年が持っていたトレイの上に乗っていたジュースやドレッシングがかかったサラダは重力に従い、ペルセルテさんの上に降り注ぐ――
「ペルセ!」
プリネシカさんの言葉も虚しく、ペルセルテさんはそれらを頭の上から被ってしまう。
「ひゃぁあっ!」
どうやら、襟元からジュースに浮いていた氷が背中に入ったらしく、悲鳴をあげて床を転がるペルセルテさん。
少しして落ち着いたのか、ゆっくり顔をあげ、自身の惨状を確認して声をあげる。
「うぇ……ベタベタするぅ。最悪だぁ……」
これを聞いて漸く我に帰ったのか、青年は慌てたようにハンカチを取りだし、ペルセルテさんに近づける。
「すすす、すいません!直ぐに拭きま――」
『拭くな!』
それと同時に青年の頭にスプーンがぶつかり、一人の女生徒がゆっくりと前に出てくる。
「……フォロン、あんたは何をしようとしてたのかなぁ?」
「いっ……え……ハンカチで汚れを拭こうと……」
「えぇ、それは分かるわよ……で?ど、こ、を拭こうとしてたか言ってごらんなさい」
そこで、青年――タタラ・フォロン――は自分がハンカチをペルセルテさんの胸に伸ばそうとしていた事に気がつく。
「わっ!す、すすすみません!」
「はぁ……で、見学者なのよね?」
その様子を見て、女生徒――ツゲ・ユフィンリー――は溜め息をついて、こちらを見る。
「……はい。彼女の着替えを貸して貰えませんか?ユフィンリー先輩」
「はいはい、フォロンはコレを片付けときなさい。その後はソウキと一緒に此処で待機」
そう言って、ツゲ先輩はプリネシカさんとペルセルテさんを連れて、食堂から出ていった。
「……はぁ、またやっちゃった」
「まぁ、ペルセルテさんには改めて謝りなよ。それよりも……」
「え……?」
自身の起こした惨状を確認して溜め息をつくフォロンに、食堂の厨房を指し示す。
そもそも彼が何故多くの料理を抱えていたのかといえば、学院で唯一認められている食堂のアルバイトをしていたからだ。
アルバイトということは上司がいるということである。
僕が指し示した方向にはかなり苛立った顔をしたコック長が立っている。
「……行ってくるね」
ソレを確認したフォロンは肩を落としながら厨房へと向かう。
コック長のあの顔から、暫くは説教から帰ってくることはないだろう。
「さて……」
僕はチラリと床に散らばった料理の山を確認する。
……まずはコレをどうしたものか。
◆◇◆
ペルセルテとプリネシカの二人に学院の制服を貸し出し、食堂に戻ってきたが、料理は未だに片付いていない。
どうやらフォロンはコック長に叱られているらしく、そのまま放置されている状態のようだ。
「あら、まだ片付けてなかったの?」
「えぇ、フォロンは説教されてますので、自分が片付けようかとも考えたんですが……」
「……あぁ、調度良いから待ってたってこと?」
それを苦笑いで見つつ、二年前からの付き合いである後輩は片手にギターを用意していた。
せっかくトルバス神曲学院に着たというのに、神曲の演奏を見ることができないというのも可哀想だ……とでも考えているのだろう。
既に今日の実習の授業は終わってしまっているし、学院内では指定の場所以外で単身楽団を用いて神曲を奏でる事が禁じられている。
このままでは今回、彼女達がそれを見ることは難しい。
「あの……なんの話ですか?」
「まぁ、見てれば分かるわよ」
私達の会話を聞いて、よく理解ができなかったのだろう。
ペルセルテとプリネシカは戸惑いながらも楽器の調整を行っている後輩――ツチミカド・ソウキ――の後ろ姿を眺めている。
さて先程、トルバス神曲学院では神曲の演奏が禁じられていると言ったが、正確には実習室から単身楽団を持ち出し、演奏する事を禁じている。
これは、現在の神曲楽士のほぼ全てが単身楽団を用いなければ神曲を演奏する事ができないからである。
故に、単身楽団を持ち出して演奏する事を禁じれば基本的に問題はない。
だが、何事にも例外という物が存在する。
トルバス神曲学院は神曲を演奏する事ができる許可をもって運営しており、学院内では基本的に講師の立ち会いの下であれば神曲を奏でる事は違法ではない。
これは、言ってしまえば神曲楽士の資格を持っている学院関係者であれば、学院内では何時如何なる時でも神曲の演奏を行うことが可能である。
そして、ツチミカド・ソウキは『神曲楽士の資格を取得している学生』だ。
しかも、単身楽団を用いずに神曲を演奏する事のできる天才である。
だが、基礎課程と専門課程を合わせた四年間の内二年目で神曲楽士の資格を取得しているというのは、学院に通っている意味はあるのだろうか……昨年、学生の身でありながら資格を取得した私に言う資格はないのかもしれないが。
「まさか……ううん、でも」
「え……冗談、だよね?」
そうこう考えていた内に、ソウキの準備が整ったらしい。
それを見ていたペルセルテとプリネシカは何をするか分かったようだが、手にしているのが単身楽団でないために信じられないでいるのだろう。
そして、ソウキの腕が振りかぶられる。