神器作りし吸血鬼~Vampires that made God's weapons~   作:ぱる@鏡崎潤泉

7 / 7
 理性はやっかいなモノだ。
  すべての事象を自分にいいように・・・
   勘違いさせてくれるのだから


言イ訳ハ虚シク

 

「おや、おやぁ、おやぁ!?」

 お父様の死に涙を流しているとき。

 不意に後ろから素っ頓狂な猫なで声がした。

 

 振り返ればそこに居たのは元の色がわからなくなるほどの返り血を甲冑に流す男だった。唯一返り血が無いのは顔だけだった。

 いくつかの色がはいった髪の毛を片方は刈り上げ、反対側は長く伸ばしたスタイル。

「可愛い背教者さんが居たものねぇ?」

 神経を逆なでする猫なで声に臨戦態勢をとる。

 

「ねぇ、そうでしょ?あなたたちぃ」

 そうリーダー格の騎士が言うと後ろから二人の全身甲冑が出てくる。

「「・・・」」

 だが、リーダー格の問いかけには答えず二人の全身甲冑はすらりと刀を抜く。

「つれないわねぇ・・・まぁ、いいわ。それじゃあお嬢ちゃん?貴方を背教の罪で殺します。だ・か・ら・ぁ、最後に言いたいこと無いか聞くわ」

 ニタニタと楽しむようにこちらを値踏む視線を飛ばす。

 

 

 ここで、ふと私は思い出してはいけないことを思い出してしまった。

 それは万物再構築術・・・いま、絶体絶命の状況から大逆転を起こすにはこれしか無い。

 だが、私の能力範囲は二メートルである。しかし二メートル居ないにあるのはお母様とお父様くらいしか無い。

 

 お父様とお母様を道具扱いなんてできない。

 しかし、それ以外に妹たちを救いに行く方法は無い。

 

 何という二択。

 ロクデナシのメフィストフェレスですら嬉々としてはこの選択を強いることはしないだろう。

 

 だが、この場合は・・・

 

 そうぐるぐる、ぐるぐると頭の中を巡る。

 だがそれは小田原評定であり脳内会議は踊れど進まず。

 まさに堂々巡りだった。

 

「あら、貴方は何も思いつかないタイプかしらぁ?」

 そう尋ねられても私はどうとも答えられなかった。

 

「躾のなってない子ねぇッ!」

 だが答えなかったのは気にくわなかったらしい。

 私をリーダー騎士は蹴飛ばした。

 

「グッ!?」

 そう苦悶の声が口からこぼれる。

 そして、髪留めが外れ、片目を隠していた髪が両目とも隠れない状態になる。

 

 それでも私の思考は混乱したままであった。

 しかし、なぜか私の口は勝手に開いた。

「あるよ。最後の言葉」

 なぜ!?勝手に動く口から出るのは紛れもない自分の声。

 

「あらぁ、じゃあきこうかしらぁ」

 リーダー騎士はにんまりとして甘ったるい声をこぼす。

 

 あぁ、この勝手な口は何を言い出すのか・・・絶対にあの詠唱だけはッ!やめてッ!

 

「天地は主の御業、大神は世に御業を説いた。

 かの巨人(あらひと)の死は界の誕生の時なり。

 血肉は大いなる地と海を創造し。

 頭蓋は天を抱き、その空を映す。

 体毛は木々となり、骨は空穿たんとそびえ立つ針山とならん。

 其の大神の大いなる御業を此処に。

 我は主の代行者となり、世の理をここに示さん。

 散りゆく代行者共の黄昏への手向けとし、その屍の上に立ち、鉄を打つ。

 例え其れが、我が生涯灰燼に帰すものであろうとも。

 死者の屍の山の上でただ、鉄を打ち生涯を灰燼とす。

 ならば、その果ての鎚は────万物を構築する、理の鎚とならんッ!」

 

 あぁ、言ってしまった。北欧に住まう神々になぞらえしドグウェルの秘術【万物再構築術】

 

 万物を再構築すれば、元になった物は元に戻せない。

 戻せようともそれは同じようで全く別の物となる。

 たとえ何であっても戻すにかなわぬ術

 

 まさに詠唱通り万物の生涯を灰燼に帰す術。

 

 そして勿論それが発動したのは腕から二メートルの範囲に有ったお母様とお父様。

 

「いい詠唱ねぇ・・・でも、私に魔法は効かないわよぉ?この主の御業(みわざ)に守られたこの私、ペトロー二にはぁ!」

 主の御業に銀製の装備一式の騎士団・・・まさかッバチカンの枢機卿騎士共!?

 

 だがしかし、なすすべ無い私へ向かうリーダー騎士の人たちはなぜか届かなかった。

 それはなぜか・・・答えは私の手にドス黒い不可思議な形をした棒がそれを受け止めていたからである。

「あなたたち!起き上がるのを抑えてるからさっさと、さっきのように刺しなさいッ!」

 しかし、全身甲冑は動かない。いや動けない。

 

 後ろでは二人の全身甲冑を紅く光り輝く槍が貫いていた。

ケン()のちニイド(遅延)

 使い方もわからないのになぜか口が動く。

 そして、その言葉通り私の手に持つ棒は発火し剣の形をとる。

 

「ソリャッ!」

 今度は足が勝手に動いて相手の腹を蹴り上げる。

 そして力が緩んだ瞬間に抜け出す。

 

「かかってきなよ騎士様。それとも俺も聞いてやろうか辞世の句?」

「こぉんのクソ餓鬼がぁ!」

 ここまでの不覚は初めてなのか、頬を赤くし先ほどまでの優雅さも忘れて襲いかかる。

 

 しかし、身体の小ささを生かして私は相手の鎧に触れる。

「其は巨人の肉体なり、さすれば其はあるべき姿に戻れッ!」

 聞いたことも無い詠唱。しかし効果は如実に表れる。

 

 ベキィという無理矢理何かを曲げたかのような音がして鎧がばらけてどんどん形を変えて鉱石なる。

「・・・主の御業というわりに鎧は銀と鋼鉄に魔性石?どこが主の御業なんだろうな。魔性石で魔力を蓄えてるだけの術式か」

 この頃になって私は自分は思考だけで、身体が動かせないことに気がついた。

 

「おっとやっとそのことに気がついたな。まぁ、お前の今からすることはわかってるだろうな?」

 端から見れば一人でつぶやく異常者。しかしここにあるのは死体とお父様(レーヴァテイン)お母様(グングニル)

「まぁ、このまま俺のままでもいいぜ?緊急事態だしな」

 いやだ。そう私は考える。

「そうか・・・ならどうでもいいや。一応いっておくが俺を呼びたきゃ髪で右目を隠せ」

 そう言いながら私は髪留めをつかみ取って髪の毛をとめた。勿論右目を隠した状態に髪をとめている。

 

『さて、俺は内側でてめぇを見てる。特に口出しはしねぇ。だからさっさと槍を抜いて地下まで行くぞ。』

 うん。わかった。そう思いながら私は槍を抜き、地下に向けて走り出した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。