赤の他人
四月。桜が咲き乱れるころ、歯車は動き出す。
いつものように慣れた手つきでお弁当を詰め、神棚に手を合わせる。数秒間目を瞑り気合いを入れる。
「よし。行ってきます。」
***
「まーいちゃん!」
「わっ!!」
学校までの坂道で見つけた後ろ姿に駆け寄る。彼女は谷山麻衣。天涯孤独で今は一人で自活をしている。俺自身も一人暮らしをしているからよく相談を受けてるうちに仲良くなった。
「ちょっと、脅かさないでよ!」
「悪い悪い。ちょっといじりがいのあるちんちくりんの頭が見えたもんでな。」
「どういう意味よー!」
「ごめんごめん。じゃぁ俺は先に行くわ。」
怒る彼女を置いてけぼりに、走って校門へと向かう。チャイムが鳴るまで割とギリギリだがいつも通りの時間に門を抜け教室につく。しばらくするとチャイムが鳴り、息を切らしながら麻衣が入ってくる。後でいじってやろうと決心した。
授業が終わり生徒たちが各々お弁当を取り出し始める。俺も例外なく弁当を広げる。
「達也聞いてよ~。」
目の前の席の麻衣が振り返りざまに話しかけてくる。予想通り過ぎて少し笑ってしまったのは仕方ない事だと思いたい。当の本人は“なに笑ってんだ”などと顔にありありと書いたまま頬を膨らせているがそれも小動物のようで微笑ましい限りだ。
「で、どうしたんだ?遅刻少女?」
肩書に少々不満げだが、聞いてほしい方が勝ったのか自前の弁当を開きながら話を始める。話始めた内容に興味深々だったのか友達が集まってきて俺の机の上は弁当塗れだが気にしては負けだろう。些細なことだ。
学校前の道路で声をかけてから、麻衣は旧校舎の方に行ったらしい。それも昨日友達とした会談で出てきた舞台の旧校舎で興味が沸いたのだろう。外から見れば何やら玄関にカメラが置いてあり、それを触ろうとした麻衣を男性が注意をし、驚いた麻衣が転倒。下駄箱が倒れて男性は負傷。勿論カメラも破損。話の内容はそんなところだ。
「それってお前が悪いじゃん。」
呆れを含んだ顔で告げれば友達からは同意を、麻衣からは不服そうな表情が返ってきた。
「つーか、旧校舎って立ち入り禁止だったよな。いくら玄関だけったって禁止なもんは禁止だろう。」
「……だってぇ。」
「だってじゃない。」
「はーい。」
「で、その男性にはちゃんと連絡先とか聞いたのか?」
「……なんで?」
あほ面を浮かべる麻衣にため息が零れる。
「あのなぁ……。やっぱいい。旧校舎に入ってるってことは学校にもアポ取ってるってことだから先生にでも聞けば教えてくれr」
「谷山さん、いるかな?」
声のした方を見れば教室の入り口に見慣れない服を着た――校内だから制服じゃないだけで見慣れないのだが――青年がたっていた。呼ばれた当の本人は苦虫を噛み潰したかのような顔をしていたところを見るに朝の一件の関係者なのだろう。
「ちょうどいいい。麻衣、わかってるんだろう?」
「はーい。」
食べ終わった弁当をそそくさと片付け、しぶしぶ青年の方に向かっていく。肩が下がっている麻衣の後姿を見送ってから、自分も弁当の残りをかきこみ始めた。
***
「た~つ~や~、ごめん先に帰ってて。」
麻衣が帰ってきてすぐに授業が始まったこともあって一切話をしていなかったが、ホームルームが終わってすぐに後ろを向いた麻衣の口は止まらない。明らかに声色が暗いことからよくない事なのはわかるが聊か事情が分からない。
「……ってなわけでケガをしちゃって動けない男の人の代わりに助手をすることになったんだよねぇ。」
「……。帰りは何時だ?」
「え?」
「帰りが遅いなら俺も残るって言ってんの。」
「たつや~!!」
胡散臭い泣きまねで縋ってくる麻衣を押しのける。周囲からは“流石彼氏”とか“爆死しろ”とか聞こえるがそれらを一切無視する。
「ちょっと違うって!達也にはちゃんと彼女いるもんね!?」
「……はぁ。」
このちんちくりんの所為でまた面倒な話題が増えた。今度は女子生徒からはにやにやと話題の種が増えた喜びが、男子生徒からはなんだか鋭い視線を感じるが目を合わせるとさらに厄介なことに巻き込まれる気がする。麻衣を置いてけぼりに教科書を詰めて席を立つ。
「で?どこに行けばいいわけ?」
***
旧校舎の前までくれば昼に来ていた青年がたっていた。
「僕は谷山さんだけお呼びしたはずですが。」
「助手の代わり、と聞きましたので男手も必要かと。」
「……。」
「それに
「……なるほど。それも一理ある。」
「青上達也です。どうぞよろしく。」
数秒考えた後、“所長の渋谷一也だ。”と一言だけ答えて早々に指示を飛ばし始めた。
車から機材を旧校舎の一室に運び始める。所々麻衣がこれは何?それは何?とおしゃべりを始めるたびに所長から嫉妬激励のお言葉を貰うもんだから今は黙々と運んでいる。好奇心で殺されたくはない。俺は最初から口数少なく運んでいる。災いの元をわざわざ開く麻衣は勇敢なのか、無謀なのか……。荷物の中でも比較的重いカメラやデッキを運ぶ。最初は麻衣が運ぼうとしたが朝のことを思い出し俺が運ぶと言い出した。
「あとはこのカメラを設置してこい。」
「ちょっとは休ませてよぉ。それぐらいじぶんで」
「はいはい、行きますよ麻衣ちゃん。」
カメラのコードを持った麻衣を引きずっていく。こいつはやっぱり無謀の方だったみたいだ。各教室にカメラを設置してコードをつなぐ。一通り設置して“ブース”に戻る。行く前には映っていなかった画面に映像が映っているところを見るにうまくいったみたいだ。
「今日はこれでいい。」
「じゃぁ!!」
「また明日来い。」
「え「カメラは一台いくらだったか。」……はい。」
「それと青上さん。彼女は聊か頭の中が少ないと見える。君も来てもらっても?」
「いいですよ。部活も入ってないし、バイトも今はしてないので。」
***
ものの見事に暮れた道を二人で歩く。片手には近くのコンビニで買った袋がぶら下がっている。
「ほい。」
「あ、ありがと!」
まだ熱い肉まんを渡せば満面の笑みで受け取る。今までの苛立ちようとは真逆だ。機転の利きようが彼女の美点ではあるのだが、渋谷さんの言う通り聊か“中身”が少ないのが欠点だ。肉まんをほおばりながら今日のことを考える。
「ほんっと!ムカつく!!何なのよあの偉そうな態度!!」
「実際偉いんだからしかたないだろうがよ。」
「どうしてそんなことが分かるのよ。」
「考えてみ?あの歳で“所長”を任されてて尚且つあんだけの高額な機器を運び入れてる。それに学校から依頼が来るんだからちゃんとしたとこじゃなきゃ無理だ。ってことは所長サンはお偉い方ってわけだ。」
「な、なるほど!!」
そのまま他愛もない話をして麻衣を家まで送り届ける。分かれてそのまま岐路につくが自分も近所でそこまで距離があるわけではない。家に入れば総じて簡素な部屋が現れる。部屋自体も実家があつらえたものだ。正直一人暮らしには過ぎたるものだが実家から離れることを許してくれているだけありがたいと思える。総じて、というのはところどころ女性向な小物が置かれているからだ。制服もそのままにソファに横になりスマホを開く。某緑色のアプリには一番上には“彼女”の名前が表示されている。ページを開けば簡素なメッセージと画像が一枚。彼女らしい文と女性らしい画像に頬が緩む。数行メッセージを打ち込んでからシャワーを浴びに行く。近々こちら側で仕事があるようで泊まりに来るらしい。柄になく沸き立つ心を低めのお湯で冷まして眠りにつく。明日も肉体労働なのか、はたまた機械作業なのか。個人的には肉体労働の方が楽だがあの所長サマのことだ。何かかしら無理難題が来るのではないか、と戦々恐々としながらも眠りにつく。
直接打ち込んだから くおりちぃ がたいへんなことに(笑)
3/9 改訂