いつも通りに朝を迎え、家を出る。教室まで付けばいつもより早く着いた麻衣が友達に囲まれて“尋問”されているが、俺のためにも生贄になってもらおう。机まで無事にたどり着き昨日と同じく麻衣の愚痴に付き合う。今日は放課後に助手業のお手伝いだ。
「ちょっと、谷山さん?あの人霊能者なの?調査をしに来たって言ってたけど。」
彼女はたしか黒田さんで、麻衣の友達と一緒の内進組だったはずだ。一緒のクラスになったのは初めてだが、名前を覚えるのが苦手な俺ですら覚えているちょっとした有名人だ。勿論よくない意味でだが。
「ゴーストハンターだそうですよ。」
「それどう違うのよ。」
「知らなーい。」
所長サマの話で機嫌の悪い麻衣の代わりに説明する。ネットで検索すれば出てくる情報だが。
「怪奇現象とか超常現象を調査する人たちだってよ。それも坊さんとかが祓うような感じじゃなくて近代的なものを使って調査するんだって。イギリスが有名なんだってさ。W○kiしょーさい。」
「へぇ~。」
「青上さんも知り合いなら、紹介してくれない?」
「ん?なんで?」
「ほら、私にも霊能力があるじゃない?何か手伝えるかもしれないから。」
「んー。俺らは所詮は下っ端だからなぁ。あの所長サン無駄話嫌いみたいだから。」
「私の話が無駄だっていうの!?」
「いやいや、下っ端の俺らが言うんだから信ぴょう性が無いって話。俺らに頼むより直接話した方が確率が高いと思うぜ?」
「……そう。」
途中気が高ぶったりしたが最終的には不服そうに席に戻っていった。
「さすが青上君だわ。当たり障りない。」
「よっ!世渡り上手!!」
「褒めても何も出んぞ。」
「……でも彼女あんな感じなのよ。中学のころから有名だったのよ?危ないって。」
「へぇ。」
「あ、恵子も一緒の内進組だっけ。」
「そうそう。霊感があるとか言いふらして。あほくさ。」
『……霊感ねぇ。』
「よし授業始めるぞ。」
その日は当たり障りなく授業も終わり、手伝いも昨日と変わりなく終わったが、黒田さんが接触してくることはなかった。明日は土曜日だというのに手伝いで早い。まぁ、バイト代が入るってのが無いとやってられないがな。
***
目覚ましが鳴ることもなくいつも通りの時間に起床。簡単に飯を作って残りを弁当箱に詰める。今日は学校も休みのため動きやすい恰好をして旧校舎に向かう。
旧校舎まで付けば車の後ろに腰かけた所長サマが目に入る。話を聞けばいつも通りにデータを集めるらしい。聞いている途中に麻衣も合流しテープ集めに旧校舎内を回る。勿論遅れた麻衣に対してのお小言もあったが最近のセオリーと化していたので聞き流した。
「あたし遅れてないのに達也が早かったせいで怒られちゃったじゃん!」
「はいはい。所長に怒られてイライラしてるのはわかったからその落としそうなテープをしっかり持ってくれ。」
「っえ!!」
わたわたとコードを手繰っている麻衣を置いてけぼりに次のテープへ向かう。長めの廊下を曲がれば玄関付近に近づく。
「ちょっと待ってよ!ひっ!!」
後ろから走ってきた麻衣が小さい悲鳴を上げる。そのわけは玄関にいる和装の女性の所為だろう。白い肌に、肩口で切りそろえられた黒髪は良くも悪くも出来のいい日本人形を思わせる。
「初対面で悲鳴を上げられたのは初めてですわ。」
「真砂子じゃないか。ここで何を……ってのは野暮ったいな。」
「えぇ。校長さんからの依頼で調査ですわ。それに、達也には言ったはずですわ。」
「……あれはサプライズのつもりだったのか。」
「すとーぷ!すとーっぷ!!ちょっと待って!?どういうご関係でしょうか。」
麻衣を置いてけぼりにしたのが悪かったのか、後ろからどつかれる。
「そうですわ。わたくしにもご説明くださるかしら。」
「あー、悪かった。俺から説明する。まず、彼女は原真砂子。霊媒体質で調査で旧校舎に来たみたいだ。」
「えぇ。原真砂子ですわ。」
「そんで、こっちが同じクラスの谷山麻衣。真砂子には前に話をしたことがあったはずだ。今は俺と一緒に所長サマのところでアルバイト中ってわけだ。」
「谷山麻衣です。よろしくね。」
「達也さん、一つ忘れているのではなくて?」
「あーー、んで、俺の彼女さん、です。」
「あーー!!前に言ってた“俺にはもったいない彼女”って原さんだったんだね!!」
指を指すな麻衣。やんわりと麻衣の手を下ろして真砂子を所長のところへ案内する。まだ回るところもあったので中には入らず麻衣を案内に着けて俺はテープの回収に向かう。近かったこともあり回収を終えてブースへ戻れば人数が増えていた。茶色の長髪を一本にくくった見るからにチャラい男性が滝川法生。高野山の坊さんらしい。金髪の白人さんがジョン。エクソシストでなんと話す言葉が関西言葉。これに関しては聞いた瞬間違和感ににやけてしまったもんだ。もう一人が女性で松崎綾子。巫女さんらしい。イメージ的にもっと清楚な女性かと思ったんだが女性に容姿のことを言うのはナンセンスだろう。
「……で、所長。俺は何を?」
談笑していたところで水を差すのは悪いがこれだけ霊能力者が集まっている中、
「で?真砂子的にこの旧校舎いるのか?」
「いませんわ。いてもせいぜいこの周辺を漂っている小さな浮遊霊のみで、大きなことはできませんわ。……達也にもわかっているのではなくて?」
「……まぁ一応水神さんに聞いたし、いないのは確かなんだけどな。やっぱなんか理由が必要だろ?」
「そうですわね。校長さんは旧校舎の解体をしたいようですし、下手に理由をつければ工事に支障が出ますわ。」
「多分うちの所長ならなんだかんだ色々と気づいてくれると思うし、それまではただの肉体労働者でいようかなって感じだ。」
「……そうですか。それはさておき、今日は泊まりに行ってもよろしくて?」
着物の袖で口元を隠しているが目元が笑っている。いつも片しておいてるし、連絡もくれていたからあらかた準備はしている。
「……どうせもう決まってるんだろう?荷物は?」
「とりあえずは校長室に置かせていただいていますわ。」
カメラの設置を数台終え、最後の廊下に向かう。設置は簡単に終え、軽く背伸びをすれば知らずのうちに凝り固まっていた身体が悲鳴を上げた。それからすぐにブースまで歩けば途中の玄関で祭儀の真っ最中の巫女さんと遭遇する。祝詞を紡ぐ彼女の陰に薄ら暖かい気配を感じながら能力者の片鱗を見た。傍で見ていた所長たちに合流する。頓珍漢な質問を繰り出す麻衣に呆れながらも祭儀を見守り、校長と教頭を見送る。次第に窓ガラスのあたりに靄のような霞が現れ始めた。
……まずい。
この靄が現れるときは決まって何かいいことがある時か悪いことがある時だ。経験からして嫌な予感がする。ピシッとあたりに甲高い音が響き横並びにあった窓ガラスが一斉にはじける。その破片は近くにいた校長と教頭、巫女さんに降り注いだが、額を浅く切ったぐらいで命にかかわるような大した怪我はなさそうだ。救急車を呼び、校長たちを搬送する。軽く切ったぐらいだと水神様が言っていたし命に別状はない。除霊を失敗したと巫女さんが攻められていたが黒田さんと何かあったのだろうか。
「……そういや所長。こんなところに椅子なんかあったかな。」
画面を見ればさっき設置してきた教室のカメラに椅子が映りこんでいた。確かこの時カメラの前には何もなかった気がする。カメラの映像を見返すと案の定椅子が画面外からフレームインする衝撃の映像が取れていたが、実際窓ガラスが割れたのも見てるしそんなに驚きが少なかった気がするが麻衣にとっては別だったみたいだ。その後、真砂子が黒田さんとちょっとした口論――というか一方的な感じだったが――をして気まずくなったブース内から抜け出すため、校舎を回る真砂子に一緒について来たって感じだ。
「……で、真砂子。」
「……。」
「あのいい方はよくないと思うぜ?」
「……わかってますわ。」
「わかってるんならいい。……で?今日は何食べたい?」
「達也の作るご飯は全部おいしいもの。でも和食が食べたい気分ですわ。」
ちょっと不貞腐れてむくれている彼女も可愛いがやっぱり彼女は笑顔が似合う。今日は腕を振るおう。三階の角の教室までくれば一通り教室を見て回る。他愛のない話をしながら壁や窓ガラスを触ってみる。いたってどこの物も一緒で普通だ。ふと目の端に霞が入る。
「真砂子!!」
木々が割れる音と共に聞きなれた声色で悲鳴が聞こえ、吸い込まれるかのように彼女が遠ざかっていく。見開かれた目と伸ばされた手を掴もうとするがこの場所からは遠く、手は空を切る。
「っ”銀龍”!!」
伸ばした手から銀色の龍が飛ぶ。龍は落ちていく真砂子を包むように巻き付き、地面と衝突する瞬間に霧散した。急いで階段を飛び降り、玄関に向かうのも面倒なように途中の教室の窓から出て真砂子の元に向かう。真砂子は少し怯えたように蹲っていたが少し強く打ち付けた程度で命のかかわるようなものではなさそうだ。
「真砂子!!」
「……達也。」
遅れてブースから他のメンバーが走ってくる。念のため救急車を呼んだようですぐにサイレンが近づいてくる。救急隊員に詳細を伝えて付き添いとして乗り込む。
3/9 改訂