藍より出でて藍より青し   作:もやしの化身

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うちまちがっていたので新しく投稿。


赤貧洗うが如し

 

 

 

病院で診察を終え、タクシーで学校にある荷物を取りに戻る。病院の医師にも散々聞かれたが三階・・から落ちたのかを何度も確認させられた。医師の眉をひそめた不思議そうな顔つきに真砂子と二人で何とも言えなくなったのは仕方のない事だ。タクシーから降りれば外はもう暗く、所長らももう帰ったかと思ったがブースに明かりがついているのを見つけた。ブースに入れば気づいていなかったのか麻衣がびっくりしたように駆け寄ってくる。

 

「原さん!!」

「安静にしてなくてもいいんですか?」

「えぇ、幸いに強い打ち身でしたから。」

 

帰ったメンバーがいたと思ったのだが、存外皆残っていたみたいで好奇の目を向けられる。

 

「その件で話がある。」

 

所長だけは表情が硬く、その一言を聞いた皆も表情が硬くなる。

 

「……はい。」

「これを見てくれ。」

 

映像を起動すれば真砂子が落ちる寸前の状態の映像だった。再生ボタンを押せば真砂子が壁に寄りかかり、外に落ちていく。それに手を伸ばす自分がいて、伸ばした手から靄が伸び、真砂子の体に纏わりつき、彼女が落ちた瞬間に霧散した映像だった。

 

「この映像の靄に加え、原さんは三階から落ちたんだ。彼女の体躯で尚且つ後ろ向きに落ちていた。武術を極めている様には見えない。それを強い打ち身程度で収める芸当を僕は知らない。」

「……達也。」

「……映像の乱れなのでは?」

「映像の乱れだと仮定するとして、原さんの様態はどう説明する。」

「……真砂子が落ちたのは資材置き場でしたから運よくクッション材になったのではないですか?」

「原さん、間違いはないですか。」

「……はい。間違いないですわ。」

「そうですか。」

「……所長。今日は帰っても?」

「……あぁ。」

「明日は何時に?」

 

集合時間を聞き、ブースを後にする。校長室から持って来た真砂子の荷物を持ち家まで歩く。

 

「達也。」

 

横を歩く真砂子が申し訳なさそうにつぶやく。

 

「大丈夫。真砂子は悪くない。俺が勝手にやったことだから。」

「ですが……。」

「所長の中できっと疑いは残ったけど、頭から否定はされなかった。霊能力者と触れ合う機会が多かったからなのかもしれないけどな。……それに俺には真砂子が居るから。」

 

恥ずかしくなって前を向けば、するりと腕を組まれて鼓動が早くなる。

 

「わたくし、達也が誰に否定されてもわたくしだけは傍にいますわ。……わたくし達也の隣を歩けて大変うれしく思いますの。」

 

少し間をおいて“助けてもらったことだけではありませんわ!!”と慌てたように言う。元気が出たようでよかった。黒田さんと言い合った後から暗い顔しか見てなかったことだしな。自分の頬が不思議と緩むのを感じ、いつの間にか自分も元気が出たようだ。

 

「こんなに自分(私)を思ってくれて、認めてくれる人と一緒にいれるというのが、ですわよ。」

「もちろん俺もだよ。」

 

同じ目線で、同じ視界で物を見てくれる人は俺にとってとても重要で、そんな人が離れて行かず隣を歩んでくれる。そのことだけで俺は幸せだ。お互いに少し気恥しくなって無言になるが、この無言は嫌いではない。

 

「良し。晩御飯なににする?」

 

マンションのエントランスにつくころには晩御飯の話で盛り上がっていたのは予想通りの展開だ。なんにしろ、今日は笑顔で終われた、とだけ言っておく。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……100%なんか隠してるな。」

 

達也と真砂子がブースを出た後しばらくして坊さんが切り出す。

 

「確かに、あれは露骨よね。」

「まぁ、青上にそういった(・・・・・・)力があったとして、隠したくなるようなことがあったってことだろ。」

「人は異端を嫌う。先天的な霊能力者は総じてそういった迫害に会うことが多い。」

 

それから所長が“今日は引いた方がいいかもしれない”と切り出すのは遅くはなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

***

 

 

 

 

今朝は昨日と違い二人分の朝食を作る。メニューも昨日の残りものだが多少アレンジをすれば一味も二味も違う。それも二人だから、と言ってしまえば元も子もないんだが。所長から言われた時間に間に合うように家を出る。真砂子も昨日とは違う柄の着物を着ている。昨日の落ち着いた色合いの着物も似合っていたが、今日の季節を表すかのような淡い色合いの着物もとても似合っている。単なる彼氏の色眼鏡かも知れないが客観的に見ても真砂子は着物が似合う。移動中にしていた他愛ない会話もそのままに、旧校舎まで付けばバンの後ろに座っている所長を覗き込んでいる麻衣を見つけた。

 

「おっ、麻衣も所長に惚れたのか?」

「ちょっ、違うってば!!」

「悪いが僕は鏡を見慣れてる。」

「なっ!!」

 

ナルシストな発言にバッサリと切られた麻衣に真砂子と一緒に顔をそむけてしまう。これは笑うなという方が無理な話だ。麻衣は学習しないというか、何と云うか……。そんな話をしていれば後ろから昨日の三人が歩いて来た。三人――というか坊さんと巫女さんだけだが――は荷物が積まれ始めているバンの荷台を見て“逃げ帰るのか”と所長を煽るように非難するが、所長は違ったみたいだ。あらかじめ作ってあっただろう資料を見ると、それはこの周辺の地下水の水量調査票だった。確かに俺は水神様から教えてもらってはいたが、いざ数字になってみると驚きの数値だ。所長の予測では近いうちに倒壊するらしい。ブースに戻って撤収の準備をする。大型の機材を運び出し荷台に積む。次を、と意気込み校舎を見るとドンっと地面を下から突き上げるかの如く地面が揺れ、窓ガラスが割れる。それからすぐに窓からブース内に居たメンバーが出てくる。なぜか黒田さんまで居るがオカルト好き(だと思ってる)にはこの結末が気になったのだろう。逃げ出したメンバーに駆けよれば、黒田さんが軽くガラスで手を切ったようで巫女さんから手当てを受けている。

 

「……今のはなんだ?あれも地盤沈下の所為だってのか!?立派なポルターガイストじゃねえか!!」

「バッカバカしい!!もう少しで子供の冗談に引っかかるとこだったわ!!」

 

坊さんの一言をきっかけに巫女さんも声を荒げ始める。

 

“子供の冗談”

 

肝心の所長は自分の調査結果が外れたのを目の当たりにし、自己嫌悪に顔を歪ませていた。

 

「――ナル!手……」

 

麻衣のおかげで気づけたが所長の手は窓ガラスを割ったせいで傷がつき、見てわかるほどに血が出ていた。

 

「今は放って置いてくれた方がありがたい。自己嫌悪で吐き気がしそうだ。」

「でもっ」

「麻衣。」

「達也。」

「麻衣は真砂子と一緒に黒田さんを見てやってくれ。」

「うん……。」

「わかりましたわ。」

 

一人取り残された黒田さんに麻衣と真砂子が駆け寄っていく。軽い応急処置もしていたし、二人が居れば黒田さんも大丈夫だろう。麻衣(クッション材)が居れば真砂子も黒田さんと険悪にはならないだろうしな。麻衣達から目を離し、歩き始めている所長に目を向ける。よくも悪くもプライドの高い彼のことだ、俺が声をかけるのは間違い(失敗策)だろう。無言で所長に向かって分龍()を飛ばす。今回飛ばした龍は真砂子に向かって飛ばした龍とは違う翡翠色の龍だ。傍にいてできないんだったら離れててもできることをする。昨日正直に話せなかった自分への贖罪のつもりだろうか。それはさておき、所長のことは分龍に任せて、俺は機材の運び出しをしちゃうかね。霊の仕業にしろ、地盤沈下の所為にしろ、ここが崩れやすいのは確かなようだし。黒田さんを帰し、戻ってきた麻衣と真砂子、それとジョンが荷運びを手伝ってくれている。運んでいる最中、また巫女さんと麻衣が口論になりかけたが、麻衣も正論だったのか口論もそれだけで済んだようだ。麻衣とジョンに二階に数代だけレコーダーを設置しに行ってもらっている。

 

「松崎さん、あんまり麻衣にちょっかいかけないでください。」

「何よ。本当のことでしょ?それともボウヤも信じているの?」

「ええ、勿論。雇い主ですし。それに地下水が枯れているのは本当みたいですし。これ以上何かあれば霊ではないモノの仕業もあり得ますし。」

「それってどういうことよ。」

霊より上の存在(神々)か、はたまた下の存在()か、ってところですかね。」

 

巫女さんとの話もそこそこに坊さんの除霊が始まった。

――オン スンバ ニスンバ ウン バサラ ウン ハッタ ジャク ウン バン コク――

坊さんがマントラを唱え始めればあたりの気が清浄になっていく。

 

「ふぅ~。」

「お疲れ様です。」

「サンキュ。」

「まだいたんだな。」

「ええ。まだ運び出しが終わってませんから。」

 

それにまだレコーダーも置いておきたいし。短い会話を終え、坊さんは袈裟から着替えるために出ていく。俺も坊さんが出ていくのを追いながらレコーダーをもって歩いていく。二階、三階とレコーダーを設置しなおし会談に向かって廊下を歩く。

 

 

カタカタカタ……

 

 

背後から音がしたが振り向いても何もいない。音の種類的に足音のような床に何かを落としたかのような間もとれぬような音だった。周囲を見渡してすぐ、今度は数人分の足音が自分の周りを踏み歩く。……気持ち悪い。一瞬の出来事に一抹の薄ら寒さを感じていたら今度は前から明確な駆け足で音が近づいてくる。

 

「青上、今走りまわってたか?」

「……いえ、普通に歩いていただけから大きな音は立ってなかったと思いますけど。」

「……まじかよ。こっちは廊下を走ってるような音を聞いてんだぞ。」

 

「……青上が居ただけでさっきの音は気のせいだったみたいだ。」

「ちょ、今のが気のせいっていうの!?」

「か、風の音よ。」

「いーかげんにしなよ!!除霊に失敗したんでしょ!?さっきから言い訳ばっかり!!ナルはそんなみっともない言い訳した!?大人のくせにみっともない真似―――」

 

言い訳ばかりの二人が麻衣に責められ、麻衣のがヒートアップした瞬間周囲に大きな音が響き、頭上にあった蛍光灯が割れ、窓ガラスにひびが入る。今までのとはけた違いで、あたりにまた足音に似た音が響き、床が揺れ始める。

 

「足音がさっきより増えてはります!」

「屋内運動会かよ!!」

「早く外へ!!最悪崩れるぞ!!」

「天井に注意しろよ!」

「わ、わかりましたわ。」

「う、うん。」

 

玄関に急ぐ。玄関に走れば揺れで下駄箱がぐらつく。

 

「真砂子!!」

「嬢ちゃん!!」

 

下駄箱と下駄箱の間に薄靄が広がり、案の定ぐらついた下駄箱が倒れてくる。真砂子を引き寄せて右腕を掲げて下駄箱を受ける。いくら体重を押し当て右手で受けたといっても、下駄箱は下駄箱。昔ながらの木造りの重い下駄箱で受けきれず倒れていく。左手で抱き留めた真砂子を意識しつつ、下駄箱に押し負け体制を低くく押し縮められていく。一瞬の出来事だがこれだけできた自分をほめてやりたいぐらいだ。

 

「今起こします!!」

「ちょっと待ってろ!!」

 

先に玄関を抜けていたジョンと坊さんが先に麻衣の方を起こす。下駄箱をどかし、気を失っている麻衣に巫女さんが近寄る。震える腕に再度力を入れて踏ん張る。両側からジョンと坊さんが下駄箱をどかしてくれた。一息つき、右腕をさする。

 

「達也、腕が……。」

「大丈夫。また打ち身になるぐらいだな。」

「ですが……。」

「真砂子は大丈夫か?」

「私は大丈夫ですが……。」

「ならよかった。滝川さん、麻衣は?」

「……嬢ちゃんは」

「大丈夫よ。気絶しているだけだわ。」

「……とりあえずバンまで運びましょう。」

「青上は安静にしてろ。俺が運ぶ。」

 

麻衣を坊さんに任せてバンに向かう。バンの後ろ側を開けて麻衣を寝かせば、気を利かせて巫女さんがブランケットをかける。腕まくりをして皮膚を確認する。一瞬鱗のようなものに光が反射したがすぐに霧散した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

あれから女性陣と坊さんを車に残して俺はジョンと二人で買い出しに来ていた。流石にあれだけのことが起これば人の精神は必ず擦り切れる。暖かいものと甘いものでも食べればいくらかはましなはずだ。

 

「こんなもんですか?」

「これだけあればとりあえずは大丈夫だと思う。ジョンもわざわざありがとな。」

「いえいえ、どうせいても暇ですし、一人で買い出しってゆうんも寂しいもんじゃないですか。」

 

近くのコンビニで暖かい飲み物と甘いもの、パンとおにぎりをレジ袋二つ分買って帰る。正直所長が返ってくるまでバイトはやることもない。コンビニにしたら大きな出費ではあるが実際そこまでの痛手ではない。旧校舎傍のバンまで着いて買ってきたものを渡す。女性陣を車に座らせ、坊さんとジョンと地べたに座る。おにぎりを口にすれば案外お腹が減っていたようですぐに食べきってしまった。巫女さんに至ってはおにぎりを前に“この時間に炭水化物……”とつぶやいていたのを見るに精神疲労も何とかなったみたいだ。

 

「じゃぁ、俺明日、ってか今日ですけど学校あるんで一回帰りますね。」

「おう。嬢ちゃんは俺らが見とくから行ってこい。」

「では私も。」

 

二人で旧校舎に背を向けると、大人二人の生暖かい視線を感じる。ひそひそと二人で茶々を入れられるが、わざと見せつけるように腕を組めばダメージを受けたように静かになったので仕返しは成功といったところだろうか。

 

 

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