不幸学生 作:ヤザヤザ
お待たせしました。最終回をごゆっくり。
日が沈み辺りは暗くなる中で、ショッピングセンター――らんらんぽーとは明るい。
そのらんらんぽーとの正面口には、バスが横転して何事だと思い駆け寄る来客が集まって騒がしくなる。
その来客たちに背を向け、昴は立ち尽くしている。
「なあ、荻縄、結菜。今日は本当に見逃してくれないか?」
「断る」
「寝言は寝て言ってください」
昴の願いを断って徐々に二人は近づく。
朝日はボクシングの構えをし、結菜は指をポキポキ鳴らす。
(ヤバいぞ。この状況をどう乗り切る昴? 交渉は不可能だし、正面突破は無理だ。何かないか解決策)
必死に昴は考える。
だが、焦りなどで解決策は思い浮かない。
「昴さん。私はあなたをボコボコにします! 理由はもちろん分かりますね? カステラのプラモのために私を騙し置いていった! 覚悟の準備をして下さい。近い内に訴えます。裁判も起こします。裁判所には強制的に連れて行きます。お金の用意もして下さい! それでワックに行きます。今から殴られるのを楽しみにしておいて下さい! いいですね!」
「カステラじゃなくてガン◯ムのプラモデルだ……財布? ……!?」
瞼を大きく開き、解決策が思いつく。
(その手があったぞ。だが、結菜だけならまだしも荻縄がいる。……駄目だ。もうこれしかない方法はない)
ポケットから昴は黒い物を取り出す。それはバスジャックの男――町田麦から貰った空の財布。昴は結菜に差し出す。
「悪かったな、結菜。この俺の全財産でワックに行ってくれ」
「え?」
目を丸くして結菜は驚く。
「え、え? 本当にいいんですか? しかも全財産だなんて……怪しい」
「そうか。ならもういい」
「あ! 貰います貰います」
(チョロいな)
昴は空の財布を結菜に渡す。
「待つんだ! 石鳥さん。これは罠だ! 横花君はまた君を騙そうとしているだ」
「何ですって!?」
犬の威嚇のように結菜は鋭い目付きで昴を睨む。
(やはりこうなったか。邪魔してくると思ったよ荻縄)
昴はもう一度結菜を騙そうとしている。だが、前回とは違って今回は荻縄がいる。タケルのように黙ってくれない。だから、昴は勝負に出た。結菜を騙すという勝負に。
悲しい表情で昴はため息を吐く。
「そうだよな。騙したやつのことなんて信用しないんだろうな。……あれ? そういえば、今日はハンバーガー半額だったけ」
「半額!? ……半額って何ですか?」
結菜のバカさに昴と朝日は呆れた。
「石鳥さん……半額っていうのはもとの値段が半分の値段になることだよ。そんなことより、これは横花君の嘘だ! きっと財布の中身は空だ」
「嘘!?」
顔を伏せて昴は拳を強く握る。
「荻縄、その嘘を証明できるのか? そんなことより、もう俺を殴ってくれ! 騙した罪を受けたいんだ!」
「昴さんのこの表情はほ、本物!?」
あたふたと慌て始める結菜を、昴はチラッと見る。
(あと、ちょっとだ。よし、もう一回結菜に攻撃だ)
昴は顔を上げ言う。
「結菜! もういいから俺を殴ってくれ!」
「石鳥さん、財布を開けるんだ!」
「えっと……、その……ああああああ!」
二人の発言で頭を抱える結菜は叫び出す。
そして――
「うやああああああ!」
朝日の股間を結菜は蹴った。
「ぐわっああああああ!!」
泣きわめながら股間を押さえて倒れこみ、朝日はあちこちに転がる。
「うわっ、痛そう……」
心配そうな視線を昴は向ける。
その視線に反応したのか、朝日の股間を蹴った結菜は続いて昴に目掛けて飛ぶ。
「え? ちょっと待て、結菜!?」
「うやああああああ!!」
叫びながら結菜は昴を殴った。
「ぐおっ!?」
昴は仰向けに倒れた。
「うやああああああ!」
狼の遠吠えのように結菜は叫び、走ってどこかへ去った。
昴と朝日は気絶する。
辺りはバスの横転で騒がしさだけが響く。
★ ★ ★
「うっ、……ここは? そうだ、らんらんぽーとだ。確か俺は結菜に殴られたんだったな。くそ、本当に殴られるとは」
昴は目が覚める。
起き上がって周りを見渡と、周りには何台もの赤色灯を光らせるパトカーと警察がいた。警察は来客を離れさせていた。来客はそのまま帰っていく者もいれば、らんらんぽーとに入っていく者もいる。
「どうやらわずかの間だけ、気絶していたらしい。にしても痛いな」
昴は殴られた頬を擦る。
「今の内に行くか」
らんらんぽーとの入り口に向かう。
そのとき、昴は何かに躓いた。
「何だ……って荻縄!?」
何かの正体は口から泡を吹いてる荻縄朝日だった。
「荻縄……すまない」
朝日を通りすぎ、昴はらんらんぽーとへ入った。
構内は広く大勢の来客がいた。
「エスカレーターは……あった」
キョロキョロと首を左右に振って昴はエスカレーターを見つける。
そのエスカレーターのところに行き乗った。
(確かプラモは三階だったな。ここまで本当に長い道のりだったな)
昴が今日のことを振り返っていると、声が聞こえた。昴の名字を言う声を。
咄嗟に昴は後ろをを振り向く。
後ろには股間を押さえ、口から泡を吐きながら走って探す朝日がいた。声の主は朝日だった。おそらく、躓いたときに目覚めたのだろう。
朝日と昴と目線が合う。
「横花ぐーん! 許ざん!」
(なんだあれキモい!? しかも、俺の名字以外何を言ってるか分からない。とりあえず、どこかに隠れなくては)
ゆっくり上るエスカレーターを他の来客の間を詫びながら走り抜ける。
二階に着くと首を左右に振って周囲を見渡す。
右側にはコーヒーのチェーン店――スターハックス、正面には大勢の来客が歩いてる通路、左側には女性用のランジェリー店。
(ど、どこに逃げる。って言ってもランジェリー店は無い。となると、チェーン店か正面の通路のどっちかだ)
「横花! 許ざん!」
朝日との距離を確かめるため、昴は下を覗く。
朝日はエスカレーターをかけ上がっていた。
(ま、まじでヤバい!? どうする? どうする……俺。……正面は駄目だ追い付かれる。となると、スターハックスだが……)
昴はスターハックスを見る。
店内は狭く丸見えだった。パソコンを使ってる客、自分好みに作ったコーヒーを飲みながら話す女子学生の客たち、身体を寄せ合うカップル客などの顔や行動などがはっきり見える。
(あそこに入っても簡単に見つかる。そうなると……、うっ、うわわわわわわ!! ランジェリー店には入りたくない。男一人がランジェリー店に入ったら心が死ぬ!)
「横花ぐーん、 逃がずが!」
朝日の怒鳴り声が近くで聞こえた。
(……入れば死ぬ、入らなきゃ死ぬ。クソ!)
朝日は二階に着いた。
首を左右に振って昴を探す。
「下着の店には絶対にいない。スタハのところにはいないようだ。そうなると、まっすぐに逃げたか!」
朝日は正面にある通路を走った。
(……あ、危なかった。あはは)
ほっとため息を昴は吐く。
周囲には色々な種類の女性用の下着が置いてあった。
昴は男のくせに女性用のランジェリーに入って隠れた。
当然、女性客からは冷たい視線を浴びた。
(早く出よう)
昴がランジェリー店から出ようとしたとき、女性店員が訪ねて来た。
「何か、お探しですか?」
「え!? あっ、いや、ちょっと彼女から……その……頼まれまして」
店員に声をかけられ昴は慌て咄嗟に嘘を言った。
「彼女に頼まれたのですか。それは凄い彼女さんですね」
「そ、そうなんです。あ、そういえば財布を忘れたんでした。そ、それでは」
昴は愛想笑いして出て行った。
「そうですか。またのご来場お待ちいたします。……二度と来るな」
店員は穏やかな笑顔をしていたが、昴がいなくなると軽蔑の眼差しを向けた。
「ああ、死にたい」
暗い表情をし顔をうつ伏せながら、ゾンビのように昴は歩く。
(そもそも何でらんらんぽーとに来たんだ? ……そうだ、ガンプラのためだったな)
今に倒れそうな状態で歩き、三階に行くエスカレーターに乗って、虚ろな表情で昴は上を向く。
(ああ、女性は悪魔だ。よくニュースで見る電車の女性専用車両。あれって、男性がほかの車両に乗車するよう、任意に協力を求めるものであって、法律で強制されているわけではない。なのに、男性が乗車すると白い目で見たり、注意したりする。それと同じようにランジェリー店に入った俺を白い目で見たり、遠回しで注意するのはおかしいだろ。いや、おかしくないか)
昴が燃え尽きているとプラモデル屋が見えてくる。
電車、車、戦闘機、黒いマスクと黒い服装と赤い光を出す剣をもったフィギュア、人型のロボットなどがたくさんガラスのケースの中に飾ってあった。
それを見た昴は涙を流す。
女性たちに傷つけられた心が少しずつ癒えていく。
「やっとだ。やっとたどり着いた。ぷ、プラモ屋に!」
エスカレーターを降りて涙を袖で拭う。
「早く行こう、早く買おう、そして早く帰よう。ガンプラはすぐそこだ」
戦争から帰ってきた夫を喜ぶ妻のように昴は喜んだ。
「女性の下着の店に入って心を傷つけられたくせに、嬉しそうだね昴。もしかしてドM?」
昴が三階に着くと、プラモ屋から少年が出て来た。
「誰だ。……な! た、タケル!」
プラモ屋から出て来たのは浅草タケルだった。
「さてバスジャックされたとき、警察を呼んだお礼を貰うとするか」
「お礼? 何のことだ」
「忘れたとは言わない。僕が呼んだ警察によって助かったんだろ。なら僕に恩返しをするのが道理じゃないか」
「ああそういうことか。タケル、お前が呼んだ警察は俺の首を絞めただけだった。だが、呼んでくれたことには感謝する。恩返しは明日にしてくれ」
「明日!?」
昴の言葉に驚き、タケルの体が怒りで震える。
「君がバスジャックに巻き込まれ、僕は二時間待った。ワックに行きたい気持ちを何とか抑えて、君を待ったんだ!」
「普通に自分で行けばよかったじゃないか」
「お金がなかったから、昴に奢ってもらおうとしたんだ」
「なら諦めよろ! 何で俺に奢らせようとしたんだ」
タケルはため息を吐いた。そしてポキポキと指を鳴らし始めて近づく。タケルからは殺気を感じた。
「明日は駄目だ。今からだ。それが嫌なら無理矢理連れて行く」
「お、落ち着けタケル。明日は絶対に――」
「無理だ。今から行く」
冷たく言ってタケルは遮った。
(どうやら切り抜けるしかないようだな。たが、タケルは結菜や荻縄と違い身体能力は異常。何やってもその身体能力のせいで失敗に終わる可能性が高い。なら!)
深呼吸をして昴は後ろに振り返り走った。前には先ほどのエスカレーター。
下りのエスカレーターに昴は乗り走る。
「逃がすか!」
タケルは高く飛び上がり昴の正面に立つ。
「昴、覚悟しろ!」
「そうくると思ったよ。タケル」
正面に立ち塞がるタケルに昴はタックルする。そして咄嗟に手すりを掴む。
「な! うわわわわわわ!」
ゴロゴロとエスカレーターから転がり落ちた。幸いにもエスカレーターには昴たち以外は誰も乗っていなかった。
すぐに走って昴は三階に戻る。
三階に戻ると大きく息を吸って吐いたりした。
「よし、今の内に!」
昴は大声で叫びプラモ店に走る。
「逃げられると思うな!」
背後からタケルの怒鳴り声が聞こえ、振り向くとそこにはタケルが飛んでいた。二階に転げ落ちたタケルは跳び跳ねて三階まで戻ってきたのだ。
空中で回転してタケルは昴の右側の腰を蹴る。
腰からは強烈な痛みとメリッと亀裂が入った音がした。
「ぐっわわわわわわ!」
左方に昴は飛ばされる。
「痛い……痛い!」
激しい痛みを感じる腰を押さえて昴はあちこちに転がる。
「これで終わりだな昴」
ゆっくりと歩いて昴に近づく。
「終わり? そうだな、終わりだな。ただし、お前がだが」
歯を噛みしめながらニヤリと笑って言った。
「何?」
そのとき、タケルの肩が掴まれる。
「ちょっと君、何してるんだい?」
「な!?」
後ろを振り向くと警備員がいた。タケルの肩を掴んでいたのは警備員だった。
「警備員さん、助けてください! カツアゲされてます」
「あ、昴!」
(身体能力で勝てないなら、身体能力を使わなければいい。これほどの騒ぎを起こせば警備員が注意してくる。そこで助けを求めればいい。そうすれば、助けてくれる)
「君、少し話があるからちょっと着いてきてもらおうか」
「……分かりました。着いていきって行くわけないだろ!」
肩を掴む手を払ってタケルは二階に飛び降りる。
「な、何だあの子は!? は、君大丈夫っていない!」
昴がいなくなっていたことに驚き、警備員は周囲を見渡す。しかし、昴の姿は無かった。
「一体どこに行ったんだ? とりあえず、あの少年を追いかけねば!」
エスカレーターで警備員は二階に降りて行った。
「ついにたどり着いた。いろんな不幸を切り抜け着いた。フ、フフフハハハ!」
昴は声を高く上げて笑った。警備員がタケルに夢中になっている間に昴はプラモ店に入って隠れていたのだ。
「お父さん。あの人何で笑ってるの?」
「優、見ちゃいけない」
父親が手で子供に目隠しして出て行った。
「……早く買って帰ろ」
こうして昴はガンプラを買うことができた。
★ ★ ★
照明柱で少し明るい歩道を、プラモが入ったビニール袋をぶら下げ昴は歩いていた。
(やっと家の近くまで来れた。今日も危なかった。だが、こうして買って帰ることができたからよしとするか)
荻縄から追いかけられ、バスジャックに遭い、結菜に殴られ、ランジェリー店に逃げ込み心を傷つけられ、タケルに蹴られるなどの不幸を乗り越えた。結果、なんとか買うことができて家の近くまでたどり着いた。
このような不幸が起きるのが昴の日常。だから、まだ
「昴!」
「昴さん!」
後ろからタケルと結菜の怒鳴り声が聞こえた。
すぐに後ろを振り返ると、タケルと結菜が物凄い勢いで走ってくる。
「な、お前ら!」
二人は跳び跳ねて昴の腹を蹴る。
後方に飛ばされプラモの入った袋を離してしまう。
「ぐおおお……、お、お前ら何するんだ?」
二人は近づき腹を押さえる昴の前に立つ。
「『何するんだ?』 じゃないですよ! あの財布、空っぽじゃないですか!」
「昴、何て酷いことをするんだ。あの後、大量の警備員に追われる羽目になったんだぞ」
「結菜の件は本当に申し訳ない。だが、タケル。お前のは自業自得だろ。たかがハンバーガーのために俺を蹴るなんて……。ん、あれ? プラモが無い!?」
プラモが無いことに気づき、慌てて昴は探す。そして、道路に落ちてあることに気がついた。
「くそ、あんなところに――」
取りに行こうと立ち上がったとき、サイレンを鳴らすパトカーがそのプラモの入った袋を轢く。
グシャグシャと破壊される騒音がした。
「……え?」
何が起きたのか理解できず呆然と眺めてると大量のサイレンを鳴らすパトカーが潰れたプラモの入った袋をさらに轢く。
タイヤの跡で汚くなり破れた袋、米粒くらいの大きさのプラモの欠片が散らばっていた。
「パトカーがパトカーを追いかけていましたけど、何かあったんですかね?」
「追いかけられてるパトカーに乗ってたのって確か、バスジャックした男だったな」
「バスジャック? あ、そういえば、荻縄さんと一緒にらんらんぽーとに行く途中、上半身の裸の男が警察を押し出したところを見ました。多分その上半身の裸の人ですよ」
ぼんやりと見える遠くに行ってしまったパトカーを眺めて言った。
「あ……あんまりだ。こんなのあんまり――っぐふ!?」
状況を理解した昴は泣き出した。
そんな昴の上から何が落ちてきた。昴はその何かの下敷きになった。
「昴君! もう許さない!」
何かの正体は激怒した朝日だった。
「あ、荻縄さん」
昴の首を掴み上下に振る朝日の手が止まり、結菜に振り向く。
「石鳥さん、何であのとき僕の股間を蹴ったんだ!」
朝日は言った。
結菜は惚けた顔をする。
「股間? 何の話ですか? 確かに私は何かを蹴りましたが股間は蹴ってませんよ」
「はあ!」
「荻縄、結菜の記憶力は異常なんだ。見逃してあげよう。ただし、昴は見逃さないが」
朝日の肩を優しく叩き、昴を睨みつける。
「そうだな。今日のでわかったよ。石鳥さんには勉強が足りないことに。そして今は昴君を」
コクコクと腕を組んで朝日は頷き、昴を睨む。
「は、そうでした! 昴さん、よくも私を騙しましたね」
ポキポキと指を鳴らし結菜は昴を睨む。
三人の鋭い視線に感じた昴は苦笑いをして、
「ふ、ふ、不幸すぎる!!」
叫んで三人に完膚なきまで叩きのめされた。
初めましての方は初めまして、そうではない方、こんにちは。どうも、焼き肉で間違えて生肉を食べてしまい腹を壊したヤザヤザです。
このたび不幸学生を読んでいただきありがとうございます。
初めて書いた作品を最後までかけてとても嬉しいです。最終回まで約6ヶ月間の時間がかかってしまいました。
書いてる途中は三人称じゃなくて『一人称にしておけばよかったな』、『あれ、ここどう書けばいいんだ?』、『面倒くさいな』と思っていました。
正直、失踪しようかなと考えてしまったこともありました。しかし、そんなとき支えてくれたのは達成したい気持ちと昴でした。
昴は不幸体質で異常な不幸体験を過ごしてます。その不幸に遭っても挫けず切り抜ける。なら、自分も切り抜けなければと思うようになり挫けず頑張っていきました。
これからもこのサイトや他のサイトで書いていきます。きっとまた挫けてしまったりすることもあると思います。そのときは、昴や書く目的を思い出していこうと思います。
それではまた次回の作品で。