副作用に副作用があるのはおかしいだろ!! 作:おびにゃんは俺の嫁
柚宇と徹ゲーをすることになったクリスマスから5日後の12月30日、特にすることが無かった俺は、新しく出来た自分の隊室でのんびりしていた。まぁのんびりと言いつつスモークの改良をしているわけだが、クリスマスにほぼ毎年のように再放送されているホームでアローンの少年が泥棒を撃退する洋画の録画を見ながらだから、充分のんびりと言えるだろう。
「雷蔵さん、これどうですか?」
横でソシャゲーのクリスマスイベの周回をしている開発室チーフエンジニアの雷蔵さんに、ノートパソコンの画面を見せる。
洋画ではちょうど泥棒たちが2階から投げられたペンキ缶が顔に直撃して倒れていた。毎年見てて思うがあの泥棒2人、トリオン体なんじゃねーのって思うほどに身体丈夫過ぎるだろ。
雷蔵さんはスマホを置いて、パソコンの画面を見る。
「うん、いいんじゃない。でもここ、このコマンドを……」
そう言って雷蔵さんは指さしたコマンドを消して、新たに少し変えたコマンドを入力した。
「っと、こうすればOKなはず」
「なるほど、ありがとうございます」
「ところでさぁ」
「はい?」
「これ何やってるの? スモークってもう完成してなかったっけ?」
「完成したのは試作用に作ったプロトタイプですよ。今は、鬼怒田さんに言われてスモークを一般隊員に使えるように通常トリガーにする作業っす」
「そゆことね。でも偉いね、こんな年末にまで作業って」
「もろブーメランですよそれ。さっきまで仕事してましたよね?」
「まぁね。他の人たちも来てるし、暇だったから」
「暇って……まぁいいか。俺も似たようなもんですから。それより聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「何?」
「スモークを銃型にもするんですけど、あれってどうやるんでしたっけ?」
「あーそれね。それならちょい貸してみ」
雷蔵さんはパソコンに慣れた手つきでプログラムを書き込み始める。あっという間に文字列が積み重なっていき、数分して雷蔵さんは手を止めた。
「ふー、こんなもんかな」
「早っ! さすがチーフ」
「まぁメテオラで同じ感じのを作ったことあるからね。そういえば銃のモデルどうすんの? やっぱり普通に
嵐山さんたちのメテオラみたいな感じってことか
「そうしようかなぁとは思ってますけど……ゾエとかのグレランとかの方がいいですかね?」
「うん、そうだね。M79とかどう?」
「……それ趣味ですよね? いや、おれもいいと思いますけど……」
「なら俺がモデリングやらなんやらやっていい?」
「いいですけど仕事は大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、今年の分はもう終わらせたから。この後の麻雀の合間にでもやるよ。夏樹君も来る? 冬島さんと東さん、諏訪と太刀川でやるけど……」
「今回は遠慮しときます。この後用事があるんで、また今度で」
「うん、わかった。じゃあそろそろ行くね。スモークの件は任せてね」
そう言うと雷蔵さんは炬燵から出て、開発室に戻っていった。
雷蔵たちボーダー年長組はまだ知らない……
雷蔵さんが部屋を出っていった後、俺は部屋の掃除をして約束した人物が来るのを待つ。
午後2時になる2分前にドアがノックされた。
「開いてるんで、どうぞ入ってください」
「おう、邪魔するぜ、夏樹」
「お久しぶりです。弓場さん」
入ってきたのはツーブロックリーゼントに鋭いメガネを掛けた、今にも不運と踊っちまいそうな弓場さんだった。
「悪りぃな、年末に呼んじまって」
「いや大丈夫ですよ。神田からも聞いてましたから」
「神田が?」
「こないだ大学の入試があったんですけど、ばったり会ったんですよ。その時に弓場さんが今度来ると思うって」
「そうか。試験だったのか。どうだった?」
「そうですね。自分も神田も悪くはないとは思います」
「そうか、そいつァいいことだ」
「そうっすね。それで、神田からは頼み事って聞いてますけど、どういったやつですか?」
「あぁそうだな、まずはおめぇーに紹介してぇやつがいる」
「はぁ…紹介ですか……」
「そうだ」
弓場さんはメガネのズレを直して、すぅーっと大きく息を吸って
「帯島ぁ!」
と名前を呼んだ……いや叫んだ。
「ッス!」
開いていた入り口から、褐色肌で黒髪ショートのボーイッシュな女の子が入ってきた。
「君は……っとまずは自己紹介だね。自分は佐藤夏樹、神田と同い年の高3だ。よろしくな」
「は、はい…知ってます……自分は……」
それだけ言うと女の子は、黙って俯いてしまった。もしかして俺、今なにかしちゃったか?
「帯島ァ……ビビってんじゃねぇー! シャンとしろや!」
「は、はい!」
「だが、てめぇの気持ちはわからねぇでもねぇ。夏樹、こいつは帯島、俺の隊の
「一応ランク戦で見てはいたんでそこは知ってますよ」
「そういやそうか」
「よろしくね帯島
「え…は、はいっ!」
「流石だな」
「何がですか?」
「あの自分はよくその、お、男の人に間違われるので……」
「そうなのか? 俺からすれば女の子らしくてかわいいと思うけど……」
男子校には所謂男の娘もいるが、ああいうのも結局はガーリッシュな男だから、帯島ちゃんとは天と地ほどの差があるだろうに……
「なっ!?」
「言うじゃねぇーか」
「へ?」
なんのことだ?
「それで頼みってのは、実はコイツぁはお前に惚れてんだ。それでなんだが…「ゆ、弓場さん!」…なんだ? 帯島ぁ」
「弓場さん、少しいいですか……」
「なんだぁ?」
「ちょっとこっちに」
帯島ちゃんは弓場さんを引っ張って外に出て行ってしまった。
それにしても弓場さんもびっくりさせてくれるなぁ。惚れてるなんて、俺が誤解したらどうするつもりだったんだ。せめて憧れとか尊敬とかって言うべきだろうに……
少しして二人は戻ってきた。何を話していたのかは聞こうと思ったけど、帯島ちゃんがなんか怖くて聞けなかった。まぁさっき俺が考えていたこととあんま変わんないだろう
「あー、夏樹ィさっきの惚れたってのはだな……あ、あれだ。おめぇーの腕に惚れたってことだ。変な勘違いすんなよ」
やっぱりそうだったか……
「了解です。腕ってことは頼みって……」
「そうっす。自分を弟子にしてください!」
「俺からも頼む!」
2人は直角に頭を下げた。めっちゃ体育会系だな、おい。
「ちょっ、頭をあげてくださいよ。そこまでしなくてもいいですから。俺でよければ師匠になりますよ」
……師匠になりますって自分で言うのなんか恥ずいな。
「ありがとうございます!」
「よろしく頼む」
「はい、俺も頑張って教えますよ。早速だけど今から大丈夫か?」
「はい! 大丈夫です」
「すまねぇが俺はこの後用事がある。帯島ァ気合入れていけよ!」
「ッス!」
「よし。夏樹、あとは頼んだ」
「了解です。それじゃ弓場さん、よいお年を」
「あぁ、オメェもな」
弓場さんは部屋を去っていった。
「よし、早速始めようか!!」
「はい! お願いします!!」
「うーん、とりあえずまずは戦おうか。帯島ちゃんとは直接戦ったことないもんな」
「そうですね。わかりました」
俺は帯島ちゃんと訓練室に入って、トレーニングルームの設定をしていく。
「とりあえず10本いこうか。俺はスコーピオンとレイガストとシールドだけ使うから、帯島ちゃんは孤月でも弾でも自由に戦っていいよ。まずはどのくらいできるのか知りたいから」
「わかりました」
帯島ちゃんが孤月を抜いて戦闘態勢をとったのを確認して、俺はコンソールから模擬戦を十秒後に開始するように操作して、レイガストを構えて戦闘に頭を切り替える。
最初はこっちから攻めて、守りを見てみるか
〔 模擬戦 開始 〕
機械的なアナウンスがかかったのとほぼ同時に俺は帯島ちゃんに向かって駆け出して、右手に持ったスコーピオンで帯島ちゃんにしかける。
とりあえずは様子見程度の力で行こう。
帯島ちゃんはスコーピオンを危なげなく孤月で防ぎながらも、俺が左手に持っているレイガストをしっかり警戒をしている。
やっぱり守りは得意みたいだな。もう少し力を出そうか。
俺は一旦帯島ちゃんから距離をとる。そして右手に持っていたスコーピオンを消して、レイガストをブレードモードへと変形させる。
「ちょいレベル上げるぞ」
「ッス!」
帯島ちゃんは気合の入った返事をして、孤月を構え直した。
俺はスラスターで勢いをつけたレイガストの重い攻撃と、体の色んな場所から生やすスコーピオンで、帯島ちゃんの防御を崩しにかかる。
「くっ……ハウンド!」
最初はなんとか攻撃を躱したり逸らしていた帯島ちゃんも、次第に防御が崩れ始めてダメージを負い始める。帯島ちゃんは仕切りなおそうとハウンドで牽制しつつ距離を取る。
俺は後ろではなく、敢えて前に出ることでハウンドの誘導半径から出る。
「アステロイド」
ハウンドから逃れた俺に、帯島ちゃんはアステロイドで迎え撃つ。
「シールド」
アステロイドをシールドで防ぎながら帯島ちゃんに追いつき、スラスターを吹かしてレイガストで回転しながら斬り込む。そしてその時背中にスコーピオンを生やしておく。
帯島ちゃんは迫りくるレイガストを防ごうと弧月を振るう。帯島ちゃんは迫りくるレイガストをなんとか防ぐが、勢いを殺しきれず体勢を乱す。
「しまっ……!」
体勢が崩れた帯島ちゃんに俺の背中から生えたスコーピオンの斬撃が入った。
〔 トリオン供給機関破損
戦闘が終わったことで帯島ちゃんのトリオン体が修復される。
「一旦お疲れ。やっぱりムービーで知ってたけど守りうまいね」
「ありがとうございます」
「じゃあもう一戦行こうか」
「ッス」
俺は再度コンソールから模擬戦を開始させる。
〔 模擬戦 開始 〕
今度は帯島ちゃんの一挙手一投足に注意を払って、帯島ちゃんが動くのを待つ。
「ハウンド」
帯島ちゃんが動いた。ハウンドを撃ちながら、孤月を右手に構えてこちらに向かってくる。
俺はスコーピオンを一旦仕舞って、レイガストとシールドでハウンドを防ぐ。さらにレイガストで、帯島ちゃんの弧月を逸らすようにして防ぐ。そして弧月を振り切った帯島ちゃんに、再び出したスコーピオンで反撃する。
帯島ちゃんは、スコーピオンの素早い連撃を、弧月で上手いこと捌いて斬り返してくる。
「アステロイド」
帯島ちゃんはさっきみたいに俺に反撃されないように、今度はアステロイドやハウンドを使った多角的な攻撃を仕掛けてくる。
俺はその攻撃を避けたりレイガストで防いだりで捌いて、隙を見てスコーピオンで反撃を加えて少しずつ帯島ちゃんにダメージを与えていく。それによって帯島ちゃんの顔に焦りが浮かんで、弧月を握る腕に余計な力が入っているのか鋭さが失われて、ハウンドやアステロイドの狙いも正確さが失われる。
「っ……」
焦った帯島ちゃんはなんとか立て直そうと弧月を横に大きく振りかぶってくる。
「スラスター」
俺はスラスターで後ろに下がり帯島ちゃんの斬撃を躱す。帯島ちゃんとの間に中途半端な距離が空いた。
次の行動を迷ったのか、帯島ちゃんの動きが止まる。その隙に俺はスコーピオンを投げて、帯島ちゃんに駆け寄る。
「……っ!」
目の前に迫るスコーピオンを驚きながらも、体を仰け反らせてなんとか躱した帯島ちゃんにレイガストで斬りかかる。さらに追い打ちにモールクローで帯島ちゃんの背後からも仕掛ける。
帯島ちゃんはレイガストは避けれたが、後ろのスコーピオンに気づけずにそのまま供給機関を貫かれた。
〔 トリオン供給機関破損
模擬戦が終了したことで、帯島ちゃんのトリオン体が修復される。
「お疲れさん」
「はい」
「じゃあ少し休憩したら早速反省会しようか」
「ッス!」
俺は帯島ちゃんとトレーニングルームから出て、先に帯島ちゃんにソファに座ってもらっておいてスポドリを冷蔵庫から出して、コップに注いで持っていく。
「はい。スポドリだけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
麦茶の入ったコップを帯島ちゃんに渡して、俺も帯島ちゃんの正面に座ってスポドリを口にする。
目の前の帯島ちゃんも喉が乾いていたのか、ストローを口にしてスポドリを飲んでいる。その仕草が可愛らしくて、心が癒されていく気がする。
帯島ちゃんに癒されたことだし
「よし、始めるか」
「ッス、お願いします」
さっきの模擬線の記録をソファ横の備え付きのモニターに映して、反省会を始めた。
「提案なんだけどさ」
「はい」
「ハウンドをバイパーにしてみない?」
「バイパーですか?」
帯島ちゃんは俺の意図が分からなかったのか「なぜ?」って顔をする。
「うん、帯島ちゃんは戦ってる時、変に焦ることもないし戦闘スタイルを見てもバイパーが使えるなら使った方がいいと思うよ」
「あの、でもバイパーって弾道を設定しないと、ですよね」
「うん、そうだよ」
「ならハウンドの方がいいんじゃ……」
「うーん、とりあえず説明するよりやってみせた方が分かりやすいか……良し! ちょっとトレーニングルーム行こうか」
「わかりました」
俺たちは再びトレーニングルームに入った。
トレーニングルームに入った俺はコンソールを操作して、あるソフトを起動する。するとスナイパーがよく練習で使う人形が出てきた。
「さて帯島ちゃん、あの人形は近づいてくる攻撃に対してシールドを張るようになってる」
起動したのは俺と宇佐美合作の訓練用ソフトだ。玲や虎太朗がよく使うもので、簡単に言えばただ的の人形に弾を当てるだけ。ただし的は攻撃に反応してシールドを張ったり、動いて避けたり出来るってものだ。
今の設定した難易度では的はただ弾に反応してシールドを張るだけで、動きはしない。でも難易度次第では的の人形自体が動くし、反撃してくるようになる。さらには一体だけじゃなくて同時に何体も出せるから、難易度はかなり自由が利く。
因みに宇佐美との合作は色々あり、玲の訓練で使うシューター用のやつだったり、そういえばやしゃまるの一体もそういえば俺が作ったんだっけか……今思うと謎テンションで作ったもんだな。真っ赤なカラーリングに
っと、そんなことより帯島ちゃんに説明しないと
「まずいつも帯島ちゃんがする様にハウンドを撃ってみよう」
俺はコンソールをいじって、ハウンドがセットされた
「と、まぁこんな風にハウンド単体だと割と簡単に避けられる。今のは探知誘導だったけど、もしこれが視線誘導でも帯島ちゃんが戦うであろうB級上位陣の人たちは、帯島ちゃんの視線から弾道を予測して簡単に防ぐだろうね」
ただハウンドを撃てば勝てるのは、C級、良くてもB級下位ぐらいまでだろう。
「まっ確かにハウンドと弧月での戦い方は帯島ちゃんに合ってる。帯島ちゃんがそうやって敵を抑えて、そこを弓場さんが仕留める。シンプルだけど強力だ。でもそれってなんで機能してたかわかる?」
「神田先輩が他の敵を抑えていたからです」
「そう、その通り」
神田のやつはそういうのが結構うまかったからな。
「でも神田は受験で今いない。ならせっかくの機会だし帯島ちゃんも一人で点を獲る力を上げた方が良い。で、そこで出てくるのがバイパーな訳だ。とりあえず見ていてくれ」
今度はコンソールをいじらず、自分のトリガーからバイパーのキューブを出す。バイパーの弾道をリアタイで設定するのではなく、あらかじめよく使うものとして設定してある弾道で、的に向けて撃つ。バイパーは的に向かって真っすぐ飛んでいき、的が弾に反応して張ったシールドに当たる直前にシールドを避けるように曲がって、的に命中した。
「こんな感じでシールドを躱せるわけだ」
「あの……今のは弾道をリアルタイムで設定したんですか?」
「いや、違うよ。あらかじめ設定していた弾道だよ。弓場さんとやってることは同じさ」
「そうだったんですか」
「俺と出水と玲がリアルタイムで弾道を設定することが多いからか誤解されてることが多いけど、
なんだかんだで事前に設定してる弾道で済ませられることが多いからな
「じゃあ私は弓場さんがするような崩しをするということですか?」
「そうだね。まぁ崩しと言うより、相手の余裕を奪うイメージかな」
「余裕ですか?」
「うん。さっきも言ったけど今の帯島ちゃんのハウンドは、はっきり言えば大した脅威にはならない。こと上位陣においてはね。探知誘導は単純な軌道だし、視線誘導でも帯島ちゃんの目を見れば大体の弾道は分かるから、どっちも飛んでくる弾を見ないでも防げるだろうね。それじゃ相手の余裕を奪えはしない。でもバイパーなら設定次第で弾道を複雑に出来るし、より多角的に攻撃することだって出来る。相手もバイパーの弾道を防ぐまで気にしないといけなくなるだろう」
「なるほど……」
「それに今言ったことだけじゃない。例えばアステロイドに見せかけて実はバイパーでしたとか、その逆のバイパーかと思わせてアステロイドだったとかすれば、相手に考える時間が出来る」
「でも弾速とかでバレるんじゃ…」
「それはさっき教えた射程を短くして弾速を上げるようにすれば分からなくすることも出来る」
「なるほど……でも私にできますか?」
「最初の内はきついだろうね。でも状況に応じた弾道の選択や、弾の威力、弾速、射程の調節を、呼吸するかのように出来れば今より格段にパワーアップ出来るよ。そのための練習なら俺でよければいくらでも付き合うし。どう? やってみるか?」
「はい! やってみます!!」
うん、良い返事だ。
「じゃあ早速トリガーセット変えてみようか」
「ッス!」
この次から原作に合流する予定です。
アンケートなんですが、やっぱり自分で考えて決めようと思うので消させてもらいました。ご協力してくださった方、申し訳ありません。
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